破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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オリ要素有り


ちょっとオバロ二次界隈元気すぎない?
とんでもねえ時代に生まれちまったもんだぜ…
でも良質なオバロ二次は読んでてこっちもモチベーションが上がるんだよなあ




5 破滅フラグしかない国で戦ってしまった…

 

 

嘗てビーストマンに奪われ、支配されていた竜王国領の3つの都市。

人類救済を掲げるスレイン法国からの助力もあり、なんとか蛮族を押し返す事に成功したが依然として状況は悪く、数でも質でも劣る竜王国は苦戦を強いられていた。

そんな中、事態を重く見たスレイン法国は殲滅戦に特化した特殊部隊、陽光聖典の出撃を決断する。

それと同時に本人の強い要望で本来なら出張ることの無いはずの漆黒聖典から一名、追加で竜王国入りが決定した。

 

その者は蛮族ひしめく戦場にたった1人で飛び込んで千を超えるビーストマンを狩り尽くし、戦線を立て直して都市1つを取り戻すまで戦い続けた。

赤銀に染まった野に散らばる獣達の残骸のなか、銀の髪と黄金の瞳を持つ彼女はその身の丈程の戦斧を片手で握り締め、優雅に高笑う。

 

まさに一騎当千、女神と見まごうようなその美しい容姿も相まって、共に戦った兵士たちは後に揃って彼女をこう呼んだ。

 

 

 

《銀の戦女神》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶええっくしょおおおいッ!!!ですわ。」

 

「締まりませんなぁ。」

 

「誰かが私の噂でもしているんでしょう、番外ちゃんとか。」

 

「噂される相手が物騒過ぎやしませぬか…?」

 

「悪い子じゃありませんのよ?

この前ルビクキューでマウント取ったらマジで殺しに来ましたけど。」

 

「えぇ……

ッ!議事堂前の壁が切り刻まれていたのはそれが原因ですか!あの後修復作業が大変だったんですよ、土の聖典とも協力して!」

 

「それはそれはご苦労さまですわ!

つーかルビクキューくらい30秒以内に六面揃えとか余裕じゃありません?4×4マスとかそれ以上になると流石に私でも全面揃えるのに1分以上かかりますわね。」

 

「自分にあの玩具は難し過ぎます。過去に一面たりとも揃えた試しがありませんぞ…」

 

「えーほんとにござるか〜?」

 

 

 

後方には竜王国兵士たちが固めたファランクス陣、陽光聖典は既に天使を召喚し待機させている。そんな中暇そうにしていた《獄界絶凍》ことレイラが話した残念な会話は幸運にもニグンとイアンに聞かれただけだった。

 

ドラウディロンから攻撃許可が降り、クレマンティーヌが森の側面に辿り着いたと使い魔を通して合図が飛んできたので、レイラは手にもつ《属性付与(エンチャント)》が付与され青みがかったハルバードの柄を放るように地面に突き刺す。

それだけで蜘蛛の巣状に地面が抉れ凍り付き、急に気温が下がって周囲に(もや)が立ち込め始めた。

彼女が《獄界絶凍》と呼ばれる所以、異能力で強化された絶対零度で全てを凍り付かせるレイラの力を知るニグンはそれだけで身震いするに容易い。

逆にイアンは神の使いとまで呼ばれる漆黒聖典の一員がどんな戦いをするのか、純粋な興味に心を踊らせていた。

 

 

「では、予定通り誘き出して参ります。

殆ど私が殺してしまうかと思いますが、陣が崩れぬよう兵士たちを護って差しあげなさいな。」

 

「承知しております、《獄界絶凍》殿もご武運を。」

 

「ふふふっ、この程度の戦いに運など不要ですわ。

私が真に恐れるのは来るべき『破滅フラグ』のみ、それ以外は全て些事ですもの。」

 

「「?」」

 

「おっと失礼、お喋りが過ぎましたわね。

では…

魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)》、《吹雪き渡る氷の大地(ブリザック・アイスバーン)》ッ!!」

 

思いっきり踏みつけたレイラの足先から放射状にどこまでも伸びる氷の大地、地形のみを凍らす氷結魔法が森の入口まで一直線に伸びていく。

 

《滑走》

 

逆脚を軸にし踏み出したレイラはスケートのように氷面を滑り、猛スピードで森の中へと飛び込んで行った。

 

 

 

 

突然木々が凍り付いた事に驚愕する見張りのビーストマン達はコレが「敵襲」であると素早く気づき、うち一体が伝令のため森の奥へ消えていく。

それを見送ってからさあ警戒するぞと思ったその刹那、1番手前に居た獣の顔面に淑女のおみ足が突き刺さった。

 

「マイクチェックの時間ですのよォラァッ!」

 

蹴り飛ばしたビーストマンの頭部は既に無く、首の先から大量の血を撒き散らしながら地面をバウンドして見えなくなった。呆気に取られた一匹のビーストマンにレイラが取り出した腰の短杖らしきものの筒先が向けられる。

途端、ビーストマンの土手っ腹に氷柱が突き刺さった。いつの間にか腹に穴が空いた彼は悲鳴を上げる間もなく絶命した。

 

「第4位階は問題なくイケますわね、だったら次は…」

 

少し思案したレイラは別のビーストマンへ筒先を向け、引き金を引く。

ひゅうっと一瞬冷たい風が疾り、今度は巨大な氷塊と共に氷漬けになるビーストマン。

 

「あらぁ《嘆きの氷柩(グリーフ・フロストコフィン)》も無詠唱で撃てますわ!素晴らしいですわね!

この調子だと第7位階までなら反動無しで放てそう…いや、“核”の強度に若干不安が残りますから長時間の戦闘なら第6位階までに抑えた方が安牌かしら。この様子だと《撃杖》も杖にカテゴライズされているようですからこの世界の法則には反していませんし、あとは全体の耐久性と射撃時のブレ、私の異能力が上手く噛み合うか試さないと…」

 

凄い早口で呟いて顔を上げればゾロゾロと“実験体”が集まってくる。両手に持つ《撃杖》と呼んだマジックアイテムを手持ち無沙汰にくるくると回しながら、レイラはマッドな笑みを浮かべるのだった。

それから暫く、不運なビーストマン達は的と化してレイラに討伐され続けた。

 

レイラの使う魔法の根本は『凍結』、この世界に古くから存在する地水火風の四元素、その内のひとつであり、自然現象そのものだ。

彼女が氷魔法を放てば放つ程周囲に影響力は増していき、より強力かつ広範囲に渡って彼女の世界は象られる。耐性を持つ彼女以外の生命はたちまちその活動を止め、物言わぬ氷像と成り果てる。決して生者を寄せ付けぬ凍獄の女王、レイラが《獄界絶凍》と呼ばれる由縁であった。

ある者は腹に幾つも氷柱を刺され、またある者は未来へ冷凍保存。レイラの放つ冷気の影響で加速度的に周囲は凍結していき、遠くにいたはずのビーストマンまで数秒で物言わぬ氷像と成り果てていく。最後に残ったのは静寂と、白銀に凍った木々と草の中に立つ漆黒のドレスを着た淑女のみ。

 

「あらヤダ〜私とした事が、少し興奮し過ぎてしまいましたわ。お許しあそばせ。」

 

白々しいお辞儀をし、前菜を平らげたレイラは更に森の奥へと突き進む。道中で出会ったビーストマンを適度に処理していくと、伝令を聞きつけ応援にやってきたらしきビーストマンが飢えた本性丸出して追いかけてくるではないか。

 

「んー物足りませんわねぇ…もう少し荒らしてやりましょうか。」

 

くるりと踵を返し、別の道を疾走していくレイラを血眼になって追いかけるビーストマンの群れ。中には木の枝を伝って移動出来る器用な者もいる、故に森林でビーストマンと相対するのは愚策の極みでありましてや生き残るなど至難の業だ。

相手が神人(レイラ)でなければの話だが。

 

まるで後ろに目でもついているかのようにレイラはビーストマンの追撃をひょいひょいと避けて適度に他の個体を的にしながら走り続ける、しかも速度が全く落ちていない。先頭のビーストマンが追いつけそうで追いつけないギリギリの速度を維持しつつ森の中をがむしゃらに走り回り、後ろに沢山付いてきて(トレインして)いるのを確認したレイラは満足し、元来た入口に向かって木々を縫うように進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

開けた視界の先には横一列に並んだ鉄盾の壁と五体の天使達、そして先程取り逃した人間の女。

散々焦らされた挙句に目にした人間(エサ)の大群に獣の群れは唸り声を上げて歓喜した。

食事がここにあるぞ、と仲間たちへ告げる遠吠えだ。最近は森の中に潜んでいてロクにちゃんとした食事をとっていなかった。運動能力が高い代償に沢山食べねば生きていけない彼等にとって食料は死活問題、ならば突然現れたご馳走の山に我慢出来るはずも無い。

次々森から飛び出してくるビーストマン。

 

 

“保存食”にと取り置きしていた、あの都市から連れて来た人間もこれが終わったら全部食らってしまおう。若い衆がアレを欲しそうにしていたから横取りされる前に平らげなければ。そう安直に考える先頭を走っていた成体のビーストマンが最期に見たものは、銀の淑女が振り下ろす凶刃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあメインディッシュですわ!

高らかに吼えなさい、人類の生は此処に有ると!

弱肉強食は食物連鎖の宿命なれど、我々はただ座して食われるだけの肉袋に非ず。

全霊を賭して抗うのです。貴方達にその意志と覚悟が有るのなら…嘗て人を救った我が神のように、この私が背中を押して差し上げますわッ!!」

 

ファランクスの向こうから聞こえる怒号のような咆哮に満足したレイラは手始めに先頭を走るビーストマンの首をハルバードで刎ね、いつもの高笑いと共に彼女の背を大量の矢と投げ槍が飛んでいく。

 

ビーストマンの身体は強靭だ、鉄の投げ槍程度が数本刺さったところで戦闘に支障など出ない。

この投げ槍が“ただの”投げ槍だった場合の話だが。

 

「《魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)》、《魔法効果時間延長(エクステンドマジック)》!

範囲属性付与(エリアエンチャント)凍結の魔霧(リフリジェーション・フォグ)》!!」

 

第6位階に属する範囲魔法、中を通過した飛翔物に凍結効果を付与する薄紫の霧。レイラの頭上に薄く広く展開されたそれは上空を行く鉄の槍を絶死の極槍へと変貌させた。

 

淡い紫色に輝く槍は雨のようにビーストマン達へと降り注ぎ、掠った部分から加速度的に凍りついていく。外れた槍も《吹雪く氷の大地》で凍らされた地面と接触した途端に生まれた氷片が爆風と共に弾け飛び、彼等の肉を抉った。

 

脚に礫をもろに受け、悲鳴を上げて転倒するビーストマンにレイラは容赦なく刃を振り下ろしていく。

華奢な身体つきとは裏腹にレイラは片手でハルバードを軽々と振り回し、嵐のように戦場を駆け抜けた。

 

「天使達よ、蛮族共を蹴散らせ!」

 

回り込もうにも召喚されている天使達が立ち塞がり、慣れない凍った地面で足下もおぼつかないビーストマンは得意の運動能力を活かせない。

天使の持つ剣に次々と串刺しにされていく同志を見ながら、自分達は罠に嵌められたのだと気付いたのは哀れにも氷像と化した後か、首が胴から切り離される寸前であった。

 

「“みんなで倒した”感を演出するのがプロの技ですのよ。こういう時属性付与できる魔法って便利ですわー…

さぁさぁ野郎ども、二投目のご用意は宜しくて!?」

 

レイラの問いに兵士達は割れんばかりの咆哮で応える。士気も上々。

間もなくして、2度目の雨が更にビーストマンの命を削り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイラ達が前線で大乱闘を繰り広げるなか、クレマンティーヌとセラブレイト率いる『クリスタル・ティア』は森の中をひた走る。

ビーストマンの前線拠点、当然()()も用意されているはず。それを奪還するのが彼等の使命。

 

「…ん、ホイっと!」

 

レイラの陽動作戦により大半のビーストマンは森から出ていった。先行するクレマンティーヌが残りの彷徨いている見張りを見つけ次第不意打ちで始末してくれるおかげで進行速度は随分と速い。

間もなくして木で組まれた掘っ建て小屋のような簡素な建物を発見、即座にクレマンティーヌが外のクリアリングを行う。何度か獣の短い悲鳴が耳に届くがビーストマンが騒ぎ出す気配は無い。彼女は順調に暗殺を進めているらしい。

最後とばかりにさっきまで目の前を歩いていた虎柄のビーストマンが喉元を真っ赤に染め、声を上げる間もなく事切れた。

 

「お見事です、《疾風走破》殿。

貴女が居てくれて助かりました。我々だけでは救出はおろか森に近寄る事すら難しい。」

 

「ねーちゃんのお願いだからね。これくらいどってことないよー。

今んとこコイツ以外にビーストマンの気配は感じないけど、血の匂いで近くの奴が来ちゃうかもだから手早く済ませちゃってね。」

 

 

へらへら笑うクレマンティーヌ。愛用のスティレットは血にまみれ、手持ち無沙汰に指先でくるくると回っている。正直、彼女からすればこの程度は物足りないくらいなのでもっと沢山寄ってきてくれないかなーとか不謹慎な事を考えていた。

レイラと共に過ごし、穏やかな性格に成長した彼女であったが根っこのところの残虐性は失われていないらしい。

 

掘っ建て小屋の扉を蹴りあけ、クリスタル・ティアが突入して少し、中からゾロゾロと汚れた布切れを被っただけの女や子供が出てくる。意外なのは身体は綺麗なままであった事だろうか。

 

「女と子供ばかり…」

 

「食べやすいんだろうねー、“保存食”だもん。」

 

「言ってる場合ですか!

おい、お前たち四方を固めろ。早急に森から脱出して捕虜の安全を確保するぞ!」

 

セラブレイトの号令とともに男たちが動き出す。

救い出したのは30人ほど、それを囲うようにクリスタル・ティアとクレマンティーヌで纏まりながら来た道を急ぎ足で戻り始めた。

 

「あっ…うぅぅ…ッ」

 

「何も言わなくていい、今は皆で此処から脱出しなければ…

神官!彼女達に《獅子の如き心(ライオンズ・ハート)》を頼む。」

 

「了解しました。」

 

一緒に連れてこられた者が日に日に居なくなり、いつ食われるか分からない死の恐怖に怯えながら毎日を過ごさなければならないのは大人であろうと精神が衰弱してしまう。子供なら尚更だ。

きっと僅かな感情の揺らぎで簡単に発狂してしまうだろう。逃走中に捕虜が暴れだしても困るので、セラブレイトは神官の女性に精神力強化の魔法を付与するよう命じる。

 

(本当に、今までが何だったのかと思う程作戦がスムーズに進むな…

スレイン法国最強部隊《漆黒聖典》、1人居てくれるだけでこれ程心強い事は無い。正に人類の護り手と言ったところか。)

 

噂に聞く法国最強の戦闘部隊。

数年前、まだビーストマンの侵攻で都市を奪われる前の話、セラブレイトが駆け出し冒険者だった頃よく「法国の凄腕暗殺部隊」やら「表に出せないような後ろ暗い任務ばかりこなす暗部」と酒場の噂話になっていた。

しかし噂は噂、こうして実際に会ってみると《獄界絶凍》と《疾風走破》の2人はとても“人間くさい”。もちろんいい意味でだ。

これまで救援に来てくれていた部隊《陽光聖典》の面々はどこか事務的な雰囲気が滲み出ており、ろくすっぽ会話もせぬまま仕事だけをこなす部隊だった。

しかし高飛車お嬢様の《獄界絶凍》は最初の派遣任務の時からずっと竜王国の為に親身になり、作戦の立案や実働で共に戦ってくれている。一応は特殊部隊なので戦闘以外で目立つ様なことはしないが、いい所の領主らしく、自身の領地から食料や衣類品を頻繁に運び込んで取り戻した都市に配給しているのだとドラウディロンは嬉しそうに話していた。配給する量も都市内の国民全てを養えるようなものではないし、疲弊していく竜王国には返せるものもない。

なのに彼女は匿名(バレバレだが)で週に1度は馬車5台分もの食料、衣類、果ては武器までも寄越してくれる。それは前線で戦う者達の貴重な補給源となっていた。

 

『元老院のクソジジイ共はまっっったく頼りになりませんので領主である私の独断で少ないですが運ばせて頂きましたわ。これからも定期的に持ってくる予定ですのでどうぞよろしく。

諦めたらそこで試合終了ですのよ!』

 

馬車の荷台に仁王立ちし、お馴染みの高笑いと共に颯爽と去っていく彼女の背中に当時の受け取り担当者は涙を流して祈りを捧げたという。

 

(まさに救世主といったところ、か。

ビーストマンに国を狙われ、余裕を失っている我々に対してなんと寛大な事か。)

 

奪われた都市を取り戻し、生き残った民が帰ってくるのはたいへん喜ばしい事だ。

だが一旦萎縮してしまった経済活動を元に戻すまでには長い時間がかかる、セラブレイトのような冒険者であればまだ日々の食い扶持くらいは稼げるが、鍬を振るう程度の力しかない一般の国民には切り詰めた生活を強いらなければならない。

国が負った傷口は深く広く、完治するまでには多大な時間を要するが、それでも生きろと彼女は言っているのだ。

 

「…ッ!皆止まって、姿勢低く!」

 

クレマンティーヌの強い小声に一同がビクリと反応し立ち止まる、どうやら捕虜の見張りを任された若いビーストマンが周囲を哨戒しているらしい。

 

「ちっ、一丁前に交代制で勤務してんのかよ。

あーちょっと待っててね、OHANASIしてくるから。」

 

絶対肉体言語だ…とクリスタル・ティアの面々は苦笑してクレマンティーヌを見送った。

彼女はセラブレイトも認める強者、ここまで我々を導いてくれたのならきっと先刻のように問題なく仕留めて終わる筈だ。

時間にすれば5分と掛からず、返り血で塗れたクレマンティーヌが急ぎ足で戻ってくる。そして屈託のない笑顔でこう言ったのだ。

 

「ごっめーん、暗殺失敗して一匹逃がしちゃった★」

 

「「「オイイイイイイイイッ!?!?」」」

 

人質総出でツッコミを決めた直後、ビーストマンの遠吠えが森に響く。これはセラブレイトにも聞き覚えがある、仲間に位置を知らせる為の遠吠えだ。即ち、自分達が拠点に侵入したのが露見した証拠。

 

「不味いみんな走れ!

森の出口まで遠くない、一気に抜けるぞ!先頭は俺が、残りは左右を固めろ、お互いに死角をカバーし合うのを忘れるな!

クレマンティーヌ殿はさっさと殿を務めやがれお願いします!!」

 

「だからゴメンって言ってんじゃーん!」

 

走りながら半笑いで謝罪するクレマンティーヌ。

こいつワザとじゃねえだろうな…

 

「走れ走れ!追い付かれるぞォ!」

 

捕虜達を連れながらの撤退では決して速度は出ない、木の上からの奇襲に十分注意しつつ森を抜ける。

森の外へ捕虜を全員逃がし、1箇所に集めてクリスタル・ティアの面々で囲った。奥からは獲物を奪われ怒り狂ったビーストマンの唸り声が次々と聞こえてくる。

 

「平地に出ました、これで私も存分に剣を振るえます。

共に戦って頂けますか、《疾風走破》殿。」

 

「おっけーおっけー、任しといて。

獣如きに遅れを取るようじゃねーちゃんの隣になんて居られないし。全部ぶっ殺…あっ駄目駄目、やっちまおうかな!」

 

「…?『ぶっ殺す』ではダメなのですか?」

 

「あのねーセラっち。私は法国最強の戦闘集団の1人なんだよ?そこら辺の仲良し冒険者やチンピラワーカーとは違うの。『ぶっ殺す』だなんて大口叩いて互いを慰め合ってる連中とは訳が違うんだから。“そう”心の中で思ったなら、その時はもう相手を殺っちまった後、スデに行動は終わってんの。

だから『ぶっ殺す』はもう使わない。

淑女はスマートに仕事をするんだってねーちゃんが言ってたから。」

 

「は、はぁ…」

 

「『ぶっ殺した』なら使ってもいいんだってさ。さあ、来るよー。」

 

「ッ!!」

 

茂みからビーストマンが飛び出してくる、その数50匹ほど、ここを抜かれたら人質を助けた意味が無い。

何がなんでも護り通す、そう強く心に誓いセラブレイトは剣の柄を強く握り締めた。

 

「(そして絶対に陛下に褒めて貰うのだ…ッ!!)」

 

「(なんでセラっち鼻血出てんだろ…走ってる時どっかぶつけたのかな。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜ッ…大★勝★利!!ですわ!」

 

都市内が大歓声で埋まり、被害を出すこと無く生き残った竜王国の兵士達は互いに肩を抱き合って健闘を讃え、自分達が生きている事を喜んでいます。

森にあった拠点は完全に制圧完了、生き残りのビーストマンは敗走、2つ目の都市まで邪魔するものは何もなくなりました。これで準備が整えば都市奪還へ踏み出せますわ。

森の拠点に居た捕虜達も全員保護したとクレマンティーヌから報告があり、今は陽光聖典の皆様が天使達を使って残党狩りをしています。ニグン様にはクレマンティーヌから回収した使い魔を持たせておきましたので、何かあったら知らせてくれるでしょう。報・連・相は大事だとアインズ様が身をもって教えてくれていますからね。

私も《撃杖》の試験運用を一通り終えたので大満足です。この都市を満足街(サティスファクションタウン)に改名したいくらいですわ!ハーモニカ用意しなきゃ!

 

「本当にありがとう《獄界絶凍》どの、《疾風走破》どの!

兵の損害もなく、捕虜が全員助かったのは2人のおかげじゃ。女王として何か褒美を与えたいところだが…生憎貧しい我等から渡せるものはなにもない…すまんの。」

 

スレイン法国(わたくしたち)は既に多額のお布施を頂いていますもの、ドラちゃんが気にする事はありませんわ。

今はただ、皆で勝ち得た勝利の余韻に浸っていれば良いのです。」

 

おーほっほっほっほ!!

 

メイドの子達が去年の誕生日に贈ってくれた手製の扇子で仰ぎながら優雅にお嬢様ムーブをかましておきます。この笑い方結構練習したんですのよ?

 

「クレマンティーヌは別の任務があるので明日法国へ戻りますが、私は帝国に用事がありますのでもう少し滞在します。陽光聖典は人数を10人に増やして引き継ぎ警戒にあたってもらう予定ですので宜しく頼みますわね。」

 

「うむ、心強いな。

ともかくご苦労じゃった、宿は良い部屋を取っておいたから2人ともせめて戦闘の疲れを癒していってくれ。」

 

そう言ってドラちゃんは宰相殿と王城へ帰っていきました。

 

「やっと終わったね〜、2つ目の都市までもう目と鼻の先じゃん。」

 

「奪還より先に経済インフラの復興の方が急務ですわ。

人ばかり多くても食料や生活必需品の供給ラインが確立していなければ民を養うことはできません、しかし今この時も確実に都市の人間は餌にされている…バランスを取るのが難しい問題です。まあその辺はドラちゃんが上手く調整してくれるでしょう、伊達に長いこと女王やってる訳じゃありませんでしょうし。」

 

あのナリで周辺諸国じゃ1番長く国王やってますもんね、宰相殿も切れ者ですし、彼女がいる限り竜王国は大丈夫でしょう。壊れかけの国を救う為に頑張る健気な幼女(見た目だけ)陛下、実に健気ではありませんか。

そんな彼女に私の中のステイ〇ムが叫ぶのですわ、「馬鹿には友達(ダチ)が必要だ」と。

 

…ビーストマンとの戦争が終わった後、寄付を止めた竜王国をスレイン法国がどうするかは考えたくもありませんが。それまでに上層部を一掃する必要がありますわよねぇ…やっぱ殺すか、老害院。番外ちゃんも呼んで派手なパーティーに致しましょう。

 

「こっわ!

どしたのねーちゃん、目が据わってるんだけど!?」

 

「……ハッ!?いけませんわ私ったらはしたない、おほほほ。」

 

おっといけないいけない、頭の中で物騒なプランニングは止めにしましょう。今日はもう仕事あがりですしドラちゃんが用意してくれた宿に戻って食事でも…

 

「あれ?ねーちゃん、兄貴の使い魔来てるよ。」

 

ほらそこ、とクレマンティーヌが指し示す先には小鳥に似た生物がパタパタと浮いていました。

この子は優秀なビーストテイマーであるクアイエッセ様から借り(ぶんどっ)た使い魔ですわ。小鳥なのに広範囲まで届く《伝言》の魔法を覚えた珍しい種なんですって。

 

「ニグン様かしら。はいもしもし?

こちら如何なる宝石よりも気高く美しく、そして誉れ高く輝き続ける永遠の令嬢、レイラですわよ。」

 

「えっその前口上要る?」

 

要る(迫真)

 

『《獄界絶凍》殿、イアンです!

残党狩り中に接敵致しました!部隊員の2名負傷、ニグン殿も苦戦しております!至急応援をお願いいたします!』

 

「はァ!?2名負傷って…ビーストマン程度に手こずる貴方達じゃないでしょう!都市から来た新手に囲まれましたの!?」

 

『いえ!相手は人間です!

敵は王国のアダマンタイト冒険者チーム《蒼の薔薇》!!』

 

「ふぁーーー!?!?」

 

思わず街のど真ん中で間抜けな声を上げてしまいました。蒼の薔薇!?蒼の薔薇ナンデ!?





オリ魔法解説

吹雪き渡る氷の大地(ブリザック・アイスバーン)
第5位階魔法
一定範囲の地面を凍らせ地面を歩く相手の行動を阻害する、これ単体では大した事はない魔法。ただし凍った地面に氷属性の攻撃が接触するとそれに反応して様々な追加効果が付与される。物理攻撃なら水晶の散弾(シャード・バックショット)と同等の威力をもつ氷片が着弾地点から四散し、魔法攻撃なら周囲の氷原が相手の脚を凍り付かせ移動を阻害する。振りほどくには炎攻撃で相殺するか一定以上の筋力が必要。
不意打ちのトラップ代わりとしてユグドラシルでは初心者、中堅のから幅広いプレイヤーから使われていた。
レイラが使うと異能力によって超強化されている為凍結範囲はクソ広いわ凍った地面は摩擦係数ゼロでまともに歩けないわで相手はとてもつらい。もちろん使用者にも氷原の移動阻害は有効なのだが…彼女は人並外れた体幹でスケートみたいに自由に滑りトリプルどころかクアトロアクセルも余裕でこなす。



嘆きの氷柩(グリーフ・フロストコフィン)
第6位階魔法
薄紫色の巨大な氷塊に相手を閉じ込め拘束する、ダメージは発生しないが代わりに拘束力が強く、自力で脱出するには相応の筋力値が必要。更に氷の中に閉じ込められている間は氷属性への魔力抵抗値が下がり続けるので脱出できても次の攻撃に警戒が必要。異世界基準だと拘束が溶けてもしばらくの間は冷え症が100倍悪化したみたいな症状になるので気を付けよう。


範囲属性付与(エリアエンチャント)凍結の魔霧(リフリジェーション・フォグ)
第5位階
エンチャンターの行使できる属性付与魔法のひとつ。一定範囲内を通過した飛び道具に氷属性を付与することが出来る、前述した《吹雪き渡る氷の大地(ブリザック・アイスバーン)》と併用することで無属性武器でも属性ダメージが期待でき、矢でも槍でも複数用意すれば広範囲を殲滅するのに便利、かつ消費魔力も安上がりなのでユグドラシルでは『原霧(ハラキリ)コンボ』としてエンチャンターの間で親しまれ、魔力節約術のひとつとして広く知られていた。
『序盤は下手な氷魔法撃つよりハラキリしたほうが強い』
wikiにもそう書いてある。


《撃杖》について
ルーン技術を応用し、ドワーフの製鉄技術とエルフの細工、霜の竜の素材を素にこしらえたマジックアイテム。
武器カテゴリーとしては短杖、無詠唱で魔法を放つ為に作られた。
〝核〟であるルーンの刻まれた宝石を起点にし、魔法名を発音する代わりに指で引鉄を引くことで魔法を発動させる事が出来る。威力そのものは据え置きだがこと異世界において無詠唱で魔法を発動させるのは「相手に魔法の発動を察知させることなく攻撃ができる手段」なので対人、対モンスター戦において大きなアドバンテージになるだろう。ユグドラシルだったら魔法無詠唱化(サイレントマジック)で一発なのだが。
外見はまんま拳銃、ある程度小回りが効いて取り回しやすく、手に馴染む形を追求した結果この形に落ち着いた。拳銃型の他にも命中精度を上げたライフル型の撃杖が試作されており、さらに要望を受けて特定の魔法詠唱者専用の撃杖もオーダーメイドで開発中。
宝石を使うというコストパフォーマンスの面、またルーンの専門的な知識と精密作業、上質な素材を要求される都合上今のところ量産は難しい。
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