破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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作者クソにわかだから世界線の話とかよぅわからんのじゃ






6 破滅フラグは立たなさそうな冒険者グループと接触してしまった…

 

この世界には『冒険者』という職業(ジョブ)がある。

未知のダンジョンでお宝を探したり、誰も辿り着けない様な秘境を踏破する類の“いかにも”な仕事。憧れる者も多く、仲間を集い田舎から飛び出す若者もしばしば現れる程の人気職だ。現実はもっと酷いものだが。

 

“彼女”もそんな冒険者に憧れて女の身、ひいては貴族の身でありながらも一念発起し、数名の仲間と共に冒険者チームを立ち上げた。

 

当然ながら初めのうちは新人いびりややっかみも受けた。荒くれ者の集まりである冒険者である以上避けて通れない道だ、男尊女卑のご時世なので当然のように身体を求められることだってあった。

しかし彼女は、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラはそんな不条理を覆し、冒険者チーム《蒼の薔薇》はその実力で見事のし上がり今では王国最強の冒険者の証であるアダマンタイト級の称号も得ている。

 

そんな彼女達とニグン率いるビーストマン掃討部隊が出会ってしまったのは全くの偶然だった。

片や《蒼の薔薇》は竜王国付近でこなさなければならない大きな依頼があった。

片やニグンはビーストマン掃討の為、少し足を伸ばして探索する必要があった。

 

「その背に庇うビーストマンの幼体を渡せ《蒼薔薇》。

それは我々が処分する。」

 

「お断りよ《陽光聖典》。

この子はまだ子供じゃない。」

 

偶然か、運命か、因縁ある二組は竜王国領郊外で鉢合ってしまった。

初めにビーストマンの子供を見つけたのは蒼の薔薇の一人、ガガーランだった。

姉御肌で面倒見のいい彼女はたまたま茂みの奥で酷く怯えた様子のその子を発見。ビーストマンという種族がどういうものか知ってはいるし、チーム内でも反対の意見があったが子供を見捨てる道理は無いとリーダーであるラキュースの鶴の一声で保護する運びとなった。

そこに偶然現れたのはレイラより掃討任務を仰せつかったニグン率いる《陽光聖典》。

元々この2組は嘗て似たような場面で相対した事がある、その時ニグンはラキュースによって頬に傷を負わされ、それ以降彼は「人類救済を邪魔する愚か者」と蒼の薔薇を忌み嫌っていた。

蒼の薔薇もまた、人類を守る為他の一切を排除しようとするスレイン法国の考えに納得する事は決してない。

まさに水と油、そんな2組が再び鉢合わせてしまったのだ。一触即発、戦闘に発展するまでにそう時間は掛からなかった。

 

「《陽光聖典》よ、人類救済を邪魔立てする不信神者は駆逐せねばならん。天使を召喚せよ…!」

 

『はっ!』

 

「イビルアイ、その子をお願い!ティアとティナは側面からね。ガガーラン、やるわよ!」

 

「おうともさリーダー!ンな胸糞悪い連中にガキは渡しゃしねーよ!」

 

「だから言ったろう、助けると面倒な事になると…」

 

「鬼リーダー、甘い。」

 

「それを結局許しちゃうイビルアイもいい加減甘い。」

 

 

夕暮れ時に始まった激戦。天使相手に屈強な女戦士であるガガーランとラキュースは善戦するが、ニグンの異能力で強化された《監視の権天使(プリンシパティ・オブザベイション)》の防御を突破できず膠着状態に陥ってしまう。一度は陽光聖典優勢に思われたが、ビーストマンを始末しようとする焦りが隙を産み、背後に回り込んだ忍者の双子の奇襲を受け部下二人が戦闘不能となった。

鉄壁を誇る天使の陣が崩され、これを危機と判断したニグンは後で叱責されるであろう覚悟で持たされた使い魔を使いイアンに《伝言》を繋ぐよう指示する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なァーにをやってるのですか陽光聖典は。」

 

ラキュースの一撃が《監視の権天使》の防御を崩し、スイッチで入れ替わったガガーランの戦鎚が天使に振り下ろされた時、突如として空から割り込んできた六角の氷柱がニグンとガガーランの間に音を立てて落下した。

鼻先三寸の距離に落ちた氷柱に息を呑み、ひんやりとした風がニグンの頬を撫でる。湧き上がってくるのは安堵と、僅かばかりの恐怖心。

 

(ちゃんと狙って外して下さったのだ…よな?)

 

この女ならうっかり…なんて一瞬考えてしまった

 

 

その上、冷めぐ氷柱のてっぺんに立つ。

靡く白銀の髪、煌めく黄金の瞳、戦場に似合わぬ漆黒のドレスを身に纏う秘密の令嬢。

 

そう…

 

「他部署の危機に(わたくし)、馳せ参じましたわ!」

 

おーっほっほっほっほ!!!!

 

開幕高笑いを響かせながら、レイラは戦闘の間に割って入った。蒼の薔薇、突然の事に毒気を抜かれて総ポカンである。

対する陽光聖典の面々は安堵の溜息を漏らす。

 

「ご、《獄界絶凍》殿、申し訳御座いません!

此度は御身の手を煩わせる様な失態を…」

 

「他人行儀なのは結構でしてよニグン様。

まァ間が悪かったというか、不運(ハードラック)(ダンス)っちまったって事でここはひとつ。」

 

「は、はぁ…」

 

すぐさま礼を取り、頭を下げるニグンにひらひらと手を振るマイペースなレイラ。

対して攻撃をキャンセルされ、大きく距離を取りラキュースの下まで戻るガガーランの表情は優れない。

 

「ガガーラン、どうしたの?顔色悪いみたいだけど。」

 

「リーダー、あの女はやべえ。さっきの天使なんて比じゃねーぞ。

戦士の勘だけどよぉ、双子忍者に気配も察せられず割って入ってきたんだ…分かんだろ?」

 

「ッッ!!敵はそれほどの相手という訳ね…」

 

 

警戒する2人を他所に、レイラは愛想の良い笑顔で蒼の薔薇の面々と向き合った。

 

「先程は部下が失礼を致しました。

元はと言えば私がビーストマン掃討の任を彼等に与えたのです。責任は私にあります。

貴女方に危害を加えるつもりは一切ありませんので、そこの所ご理解下さいまし。

貴方達は先に都市まで戻っていなさい。此処に居られると話が拗れますわ。」

 

「なっ…ですが…」

 

「負傷者2名、早急に治して貰わないと。明日の任務に差し障っては困りますもの。我々の任務は竜王国の救済、これを忘れないように。

さ、早く。蒼の薔薇の方々には私からご説明致しますわ。」

 

「クッ!申し訳…御座いません…ッ」

 

ニグンは心底恨めしそうにラキュースを睨みつけると、イアン達を連れて足早に去っていく。

陽光聖典を見送って、にっこりと笑ったままのレイラはちらりとイビルアイの後ろに隠れるビーストマンの子供に視線を向けた。

 

「さて…そちらのビーストマン、それが今回の戦いの元凶ですわね?」

 

「……この子をどうする気かしら。」

 

「決まっているじゃないですか。」

 

 

ひゅうっとラキュースの横を冷たい風が抜けていった。

 

「ぎィっ!?」

 

蒼の薔薇は油断なんて微塵もしていなかった、にもかかわらず。

いつの間にか、イビルアイに守られていたハズのビーストマンの子供の腹に氷柱が突き刺さり、大量の血を流しながら苦しみ悶えている。

1番に驚いたのは守っていたはずのイビルアイだ。

 

「なっ!?お前、今何を…」

 

「?害獣を駆除しただけですが?

ああ、当たり所が悪いですね。一撃で死んでませんわ。」

 

「違う!今《穿つ氷柱(ピアーシング・アイシクル)》をどうやって放った!?」

 

「どうって…“こう”ですわよ。」

 

《撃杖》の照準が向き、引き金が引かれる。再び冷たい風が彼女達の間を通り抜け、今度は喉元に氷柱を受けたビーストマンは悶絶しながら今度こそ息絶えた。

その光景にイビルアイは驚愕し、ラキュースは起こったことを一足遅れて理解したのかレイラを睨み付ける。

 

「なんて事をッ…」

 

「なんて事、ですか。

それは私があの幼体を殺した事ですか?

仕方がないでしょう、貴女達を傷付けずに駆除するにはこうするしか手段がなかったんですから。」

 

「駆除…だとォ!?

なんであのガキを殺す必要があった?

まだ子供じゃねえか!」

 

「まだ、という事はいつか大人になるのでしょう?

彼等にとって人間(われわれ)は食事です。幼いのなんのでどう取り繕ったっていずれ人類に牙を向きますわ。なので早めに芽を摘んでおきましたの、私何か間違ったこと言ってまして?

これは食物連鎖、人間と亜人の戦争です。

人を喰らおうとするのならば、あちらにも殺さ(くわ)れる覚悟があるのでは?

ああっ!まさか貴女達、アレが“子供”で“可哀想だから”なんて理由で庇ってたんですの?それは申し訳ない事をしました。」

 

「…どういう事よッ!」

 

「説明をしていませんでしたわね。

ビーストマンは幼体だろうと人を食べますわよ?」

 

「なっ…」

 

「しかも肉の柔らかい女や子供を好んで食べます。

そうして人の味を知り、自分達より弱く狩りやすい“餌”だと認識するのです。その癖子供の頃から自分より強い存在には媚を売って、身を守って貰うんですもの。賢しいですわよねぇ。

王国は平和な国ですから、ビーストマンがどんな種族か知らないのも無理はありませんわ。」

 

涼やかな表情のまま、うんうんと納得したようにレイラが頷く。

あのビーストマンは初めから、ガガーランが見つけた時からずっと猫を被っていた。

彼等は本能で自分達より強い存在が理解できるらしい、弱い自分を演出し、危険を回避する為にあの中でいちばん強い存在だったイビルアイの後ろに隠れ、ずっと身を潜めていた。

 

あわよくば、“おこぼれ”にありつけるかもしれないから。

 

「“ソレ”は決して人間には心を開かない、だって肉が動いているようにしか見えないのだから。そして万が一、逃がしていたら遠くない未来でまた竜王国民が食われます。

貴女、自分が逃がしたビーストマンに家族を食われた民の前に立てますか?」

 

「そ、それは…」

 

「ほぉんと、生き汚いといいますか、往生際が悪いといいますか…その辺は人間種と変わらないのですわよね。

私の言い分、分かって頂けました?」

 

答えを求めてもラキュースは俯いたまま答えない。

 

「まあそんな訳で、食物連鎖の勝者としてそれを駆除した訳なのですわ。

そんな事くらい、そこのおチビさんは分かっているハズですけどね。教えて貰わなかったんですの?

ねぇ、亡国のお姫様?」

 

『ッッッ!!』

 

“亡国のお姫様”、その言葉にイビルアイの雰囲気がハッキリ変わるのが分かった。

人ならざる身から放たれる濃密な殺気、それと同じく彼女を除く蒼の薔薇の面々も驚愕と共に明らかに険しい表情をしている。

だがそんなもの、空気の読めない(レイラ)の前ではなんの意味も成さない。

 

「分からないとでも思いましたの?

200年の時を生きる『国堕とし』の吸血鬼、お初にお目にかかりますわね。まさか蒼の薔薇に紛れ込んでいるなんて思いませんでしたけど。

イビルアイ、いえ…」

 

 

キーノ・ファスリス・インベルン

 

 

言い終わらないうちにイビルアイがレイラの首を握り潰そうと爆速で飛び掛る。その指が首筋に届くその刹那、ゴリッとイビルアイの顬に硬いナニかが突きつけられた。

 

「チィッッッ!?」

 

悪寒を感じたイビルアイは手を伸ばすのを中断し、大きく身を翻す。その直後、レイラの《撃杖》から発射された氷柱が彼女の頬を掠めた。

2度3度地面を跳ね、《飛行》で飛び上がりイビルアイはレイラを見下ろした。

 

「あらあらあらァ?手癖の悪いアンデッドですわねえ、英雄としての礼儀とか無いのかしら?」

 

「私の正体を知っているという事は貴様、《漆黒聖典》だな…何が狙いだ!」

 

「狙いも何も、本当に偶々だったんですよ?

さっきも言ったでしょう、『不運と踊っちまった』と。今日は偶々私が竜王国に派遣される日で、偶々陽光聖典が私に助けを求めた…

けどまあ…国から抹殺指定されている吸血鬼ですし、今のは正当防衛って事で。」

 

「巫山戯た事を…!!

魔法二重化(ツインマジック)》、《水晶散弾(シャード・バックショット)》!」

 

イビルアイの両手から放たれる水晶の欠片が散弾のように降り注ぐなか、レイラはまるでダンスを踊るようにステップを踏んで水晶の雨をかいくぐる。時折鼻歌を歌いながら。

 

「ちぃっ!」

 

「ちょっとイビルアイ!いきなりなんなのよ!?」

 

「コイツはスレイン法国の《漆黒聖典》…特殊部隊だ。しかも私が誰なのか分かった上で近付いてきた!生かしておく訳にはいかない!」

 

「いやーん物騒ですわ〜!」

 

「黙れ!」

 

ヘラヘラ笑いながら散弾を避け続けるレイラと激昂し更に激しい攻撃を加えるイビルアイ。

問答の末、突発的に始まった2人の戦いにラキュースは付いていけず、しどろもどろになってしまっている。

 

「鬼リーダー、《漆黒聖典》はスレイン法国の隠し球。神の血を引くと言われる戦闘集団。」

 

「あの美人さんはその一員。

イビルアイはあの国から指名手配を掛けられてる。捕まったら不味い、助ける?」

 

「助けるに決まってんだろ!おチビちゃんを連れていかれて堪るかよ!」

 

「あっ…ちょっとガガーラン!」

 

「イビルアイの“秘密”は絶対に外に漏らしちゃダメ。

リグリッドとそう約束した。」

 

「そうだけど…

仕方ないわ。ティア、ティナは援護!」

 

「「了解、鬼リーダー。」」

 

リーダーは渋々といった感じだが、結果的に蒼の薔薇全員がレイラの敵に回ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ど う し て こ う な っ た

 

あれー?私陽光聖典と蒼の薔薇を仲裁しようとして割って入ったハズなのになーぜブチ切れイビルアイたんとお話(物理)する羽目になってんですのー?

いやたしかに私のなんちゃってお嬢様口調ってシリアスなシーンでは高圧的だし、つい原作知識使ってイビルアイの本名呼んじゃったのは悪いと思ってますけれど、そんなに地雷でしたぁ?レイラ分かんなぁーい。

なーんてフザけてる場合じゃありませんわね!

イビルアイたん、マジ殺しに来てるじゃねーですの!《水晶散弾》2重で降らす辺り明確な殺意を感じますわ!

でもレベル差あるから殆ど止まって見えますし、余裕で回避可能なんですわよね。

 

原作では珍しく主人公と出会っても生き残る蒼の薔薇、本格的に活躍するのは八本指編からですけれど、まさかこんな所で出会うとは。

法国的には「人類救済の為に役に立ちそうな駒」程度の評価ですが、下手に殺してしまうと王国編で八本指が原作以上に鬼畜難易度になっちまいますわ。

なので私としては事を穏便に済ませたいワケなのですが、彼女達はそうでもないご様子。

 

「うらああああッ!」

 

《水晶の散弾》の雨を避けきった直後、筋肉担当ガガーランが戦鎚を振り回して来たのでひょいひょいっと避けて手加減しながらハルバードの柄で鎧越しに腹をどついてやると、うめき声を上げながら後ろに飛んでいきました。

 

「うっぐ…!!やっぱ重てえ…」

 

「《水晶騎士槍(クリスタルランス)》!」

 

今度は水晶の槍ですか、ならば私も…

 

()()()、打ち払いなさい。」

 

振ったハルバードから《水晶騎士槍》そっくりの氷の槍が斬撃のように飛び出して互いに衝突し、《水晶騎士槍》が粉々に砕け散ります。

 

漆黒聖典のメンバーには戦力強化の為プレイヤーの装備、俗に言う『ユグドラシル産のマジックアイテム』を身に付けることを許されています。しかしこの世界の人間は特例を除き適性が無いとユグドラシルアイテムは使えません。そんな中、私が漆黒聖典に入った時適性有りと判断され寄与されたのがこの《魔剣ジゼル》ですわ。レアリティは『伝説級』だと思います。こっそり《記録書》の鑑定機能で調べましたの。レイモン様の話では六大神様もお使いになっていたとか。

魔剣シリーズは嘗て、かの十三英雄の1人が4本持っていて、今は世界の何処かに散らばってるそうなのですが、私のジゼルはその中に含まれていません。

魔剣ジゼルは姿(かたち)無き刃、こうして別の武器に纏わせることによって真価を発揮する氷の武具ですの。今は我が領内の工廠にて作成した特別硬いこのハルバードに取り憑いています。どんだけ力任せに振り回しても壊れる気配が全くないので高レベルの私でも安心!流石ドワーフ産ですわね!

因みに本体は私の首に掛かってるストールです。魔剣なのに装飾品なんですよねコレ、さっきみたいに空気中の水分を極低温で瞬時に凍らせて斬撃の代わりに氷の槍として形を変え飛ばしたり、氷柱の剣山を地面から生やしたり、魔法とは別手段で冷気をコントロールすることができますわ。使い勝手が良くて、ロッ〇マンエ〇ゼのバリアブルソードって感じです。

これが私の主力、魔剣ジゼルと私の持つ異能力、それから尖った魔法構成との相乗効果で、驚異的な制圧力を発揮できますの。私が《獄界絶凍》と名付けられる一端ですわ。あとガチ戦闘の時は〝神槍〟の方も所持を許可されてるんですけど、それが認可されるのはエルフ国との戦争に決着付ける時くらいじゃないかしら。

 

 

 

 

 

「《水晶騎士槍》が!?くそ…っ!」

 

ジゼルで生み出した槍はそのままの勢いでイビルアイまで突き進み、驚いた彼女は辛うじて躱したみたいです。空飛ばれるって面倒ですわね。

 

「「スキあり」」

 

「ありませんわよそんなもの。」

 

おっとここで双子ニンジャのエントリーです。

良いですよねニンジャ!特殊なスキルを持つ職業で、たしかアインズ様のギルドにも忍者の職業持ちがいたんでしたっけ。

飛んでくるクナイやらスリケンを躱し、まとわりついてくる彼女達の動きは流石ニンジャカラテと言うべきか、捕らえどころがありません。

でしたら範囲攻撃ですわ。

 

「ふんっ!!」

 

「ッ!!地面から…」

 

「氷!?」

 

ハルバードの柄を突き刺し魔剣ジゼルの能力発動、私を中心に広がる氷の槍が凍った地面から次々と生え、堪らず双子は飛び上がり空中に投げ出されました。コノトキヲマッテイタンダー!

突き刺さったままのハルバードを手放したら両手に二丁の《撃杖》を素早く抜き放ち、それぞれ双子に照準を合わせます。

魔法は…《四角の流体牢獄(ジェイル・オブ・ハイドロキューブ)》くらいで宜しいかしら。

 

「なっ!?」「あっ…!」

 

《魔法二重化》で撃杖からそれぞれに放たれた無詠唱版《四角の流体牢獄》。

流動する水の塊が相手を包み行動を封じる第五位階魔法、捕らえた相手はそのまま窒息させることも出来ますわ。そして私の魔剣の力が加われば…

 

「こおりなさい。」

 

「「ッ……」」

 

双子を捕らえていた水の牢獄があっという間に凍り付き、ニンジャの氷漬けキューブの出来上がり。見た目はアレですが、命に別状はないので問題ありませんわよ。

ゴトゴトっと地面に落ちる凍った双子を見て、ラキュースさん凄い慌ててます。

 

「ティア!ティナ!?

くっ…貴女の目的は何なの!」

 

「いや既に目的は果たしてますし、私もう帰ってお肌のケアして寝たいんですけれど。貴女の所の吸血鬼ちゃんが帰してくれませんのよ。」

 

「白々しい…スレイン法国は私に指名手配を掛けているだろう。

私が十三英雄の一人だと知った上で、その中の人間種以外を殺そうとしているんだからな。」

 

ああ、それですか。昔話の十三英雄は多種族からなるパーティーで当時蔓延っていた魔神を全て討ち滅ぼしたと言われています。それが気に入らないスレイン法国は“人間種のみが成し遂げた偉業”にする為に過去を捏造してみたり、当時の十三英雄の生き残り、人間より寿命が長い種族の者達を抹殺しようと指名手配していたワケですわ。

時効なしの200年指名手配とか確実に殺す気満々じゃねーですか。こンのお排泄物国家は200年も昔から腐ってたんですわね…

 

「やっぱ法国ってクソですわ…」

 

「えっ…」

 

あっやば、近くにいたからラキュースさんには今の聞こえちゃいました?

 

「おっと失礼。

たしかに私は《漆黒聖典》のメンバーですが、もう今日のお仕事は終わりましたの。残業なんて真っ平御免ですわ。

なのでさっさと終わらせますわよ、ジゼル!」

 

ばあんっと弾かれるように地面に刺さっていたハルバードが跳ね、私の手に戻ってきました。この子、知性ある(インテリジェンス)アイテムらしく、呼ぶと勝手に憑依している武器ごと飛んで来るのです。便利ですわよね。

ユグドラシル産アイテムなのに知性を持っているとか、フレーバーテキストにそう書いてあったのが異世界に来たことで具現化したのでしょうか?

 

「かっ…カッコイイ…!」

 

なんかラキュースさんの目が異様にキラキラしてるんですけど、どうしたんでしょう…?

あ、そうか彼女はアレでしたね。魔剣キリネイラムの持ち主でちょっと残念な子でしたわ。

 

「《砂の領域・対個(サンドフィールド・ワン)》!」

 

私の足下がズブズブと沈み始めました、相手を拘束する魔法ですか!鬱陶しいですわねえ!

 

「こっちこそ、終わらせてやる…!

魔法最強化(マキシマイズマジック)》、《龍雷(ドラゴンライトニング)》!」

 

雷鳴とともに現れた雷の龍が空を覆い、今にも私に襲い掛かりそう。

私もう帰りたいのですけどイビルアイは全く話を聞こうとしませんし、残った蒼の薔薇の面々も双子をやられたのにまだ戦意があるご様子。これ以上不毛な争いを続けて何になるってんですの!(初手地雷を踏んで戦闘に発展した元凶)

あっそーだ。派手な技で向こうの戦意を挫けばいいのですわ、私ったら天才ですわね!

ならば早速…!

 

 

 

 

「《白いおもいで(ホワイト・アルバム)》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ」

 

ラキュースは吐く息が白くなるのも気付かず、思わず声を漏らした。

イビルアイの放った《龍雷》、先程まで天を覆っていた雷の龍が漆黒聖典とおぼしき女の持つハルバードから放たれた波動を浴びた途端一瞬にして白く染まり、完全にその動きを止めていた。

《白いおもいで》、本来人の身では絶対に到達することのできない神智。対魔法、対空特化、『この魔法以下のあらゆる位階魔法と物理攻撃を凍結させ無効化する』第9位階、氷属性の無効化魔法。

そんな事はラキュースはおろかイビルアイすら知らない。

 

間もなくして凍った龍が重力に従って地面に落下し、バラバラに砕け散って消えていく。

 

驚愕するイビルアイにレイラは堂々と言い放つ。

 

 

「まだやりますの?吸血鬼のお姫様。」

 

「ッ!!」

 

その黄金の瞳と目が合った瞬間、さっきまでの怒りは何処かへ消え去り、代わりにひゅうっとイビルアイの喉奥に冷たいものが落ちていく。

相手は自分より格上だと気付く、それは明確な“恐怖”だった。

自分は200余年を生きる吸血鬼。在りし日には彼等と共に幾重もの戦場を駆け抜けて、それなりの修羅場も潜ったつもりだった。そんな彼女が久しぶりに感じた間近に迫る死の恐怖、アンデッド故に本来殺し得ない筈の自分を殺す力を彼女は持っている、今の一瞬でそう確信した。

《飛行》も凍結で無効化されたのか、危なっかしく地面に着地するイビルアイの表情は明らかに怯えている。

 

(今…何をされた?魔法が凍結…無効化か?

どちらにせよこの女は私より強い!

どうする?漆黒聖典なら確実に私を狙う、どうにか時間を稼いで4人だけでも逃がさないと…)

 

「……そこまでにして下さい、漆黒聖典のお方。」

 

「あっ…おいラキュース!」

 

イビルアイを庇うように前に立つのはラキュースだった。彼女は文句を言おうとするイビルアイを震える手で抑え、レイラの前に立ちはだかる。

 

「私達の無知で貴女にご迷惑をお掛けしたことは謝罪します。

ですがイビルアイは私達蒼の薔薇の大切な一員ですので、どうか見逃して頂けないでしょうか。」

 

冷や汗を垂らし、喉から絞り出すそれは命乞いにも似た譲歩の言葉。

 

「…」

 

「お願いします、どうか…」

 

夕暮れ時とはいえ天候は晴れ、この辺りは温暖な気候の筈だというのに周囲には霜が降りて吐く息は白く、ラキュースの声は震えている。

1歩、また1歩と何も言わないレイラがラキュースに歩み寄っていく。そしてふうっとひとつ、ため息を吐いた。

 

「…私の管轄ではありませんが、六色聖典は王国に関してある任務を委ねられてますの。

“ライラの粉末に関する調査命令”

心当たり、あるんじゃなくて?」

 

「そ、それは…」

 

「貴女、たしか貴族ですものねえ?

アレがなんなのか知ってますわよね?」

 

「…あの黒粉は、麻薬よ。

『八本指』という犯罪組織が取り扱っているわ、王都近くの領内で頻繁に取引されていて王族も頭を抱えている。まだ私達が把握しているのは八本指が関わっている事くらいなの。

私の友人は王国貴族もこの件の片棒を担いでいるのではないかと睨んでいるわ。」

 

ラキュース達の住むリ・エスティーゼ王国。

豊かな土壌と広い国土を持ち、亜人の生息域からも離れているため古くから繁栄を続けている大国だ。

しかしその平和ゆえ政治の中枢を担う一部の貴族の間では腐敗が横行し、国民に重い重税を強いていたり、犯罪に与する者も現れる始末。

調査結果を受けたスレイン法国中央部は王国を隣のバハルス帝国に併呑させる計画を密かに進めているという。

 

「正直な話、今の王国は人類にとって厄の塊でしかありません。

肥沃な土地で生まれた悪性腫瘍、何時切り捨てられてもおかしくない、もし切り捨てられたなら…八本指ごとリ・エスティーゼ王国は地図から消える事になるでしょう。

私の国なら容易くやってみせるでしょうね。」

 

そんな筈がない、などとは言いきれない。

何せスレイン法国は人類を500年間守護してきた周辺最強国、秘匿義務がある為保有する戦力が不明なのだ。少なくとも王国など比較にもならないだろう。レイラのような実力者が自分達の知らない強力な魔法を持って攻めてきたら、ただでさえ魔法を軽視し足下が脆い王国などひとたまりもなく瓦解する事だろう。腐った貴族を間近で見てきたラキュースなら否応にも理解せざるを得ない。

 

「ですがね、私は常々思うのですよ。

何も国ごと消さずとも腐った部分のみを切除できれば事は綺麗に収まるのではないか、と。

貴女、膝を擦り剥いてばい菌が怖いからって足ごと切断したりします?」

 

可笑しそうに問うレイラにラキュースはぶんぶんと首を振り、否定の意を示す。

 

「なので個人的には八本指ら及びその他の“悪性腫瘍”を切除する為に都合の良い仲間が欲しい訳なのですが…

何処かにいい方はいらっしゃいませんかねぇ…」

 

「なっ…!?」

 

「はあ〜何処かに立場に囚われず王国の内情に詳しい、且つ誠実で裏切らない案内役はいないでしょうか。

私これでも法国上層部に顔は利きますので、頭の固いお爺様がたの説得くらいやってあげますのに。

あー困った困ったー。」

 

にやにやと笑うレイラのわざとらしい溜息でラキュースは理解した。

この女は自分に王国の内通者になれと言っているのだ、この場でイビルアイを見逃し王国の根治に協力する代わりに情報を売れと。

 

「別に良いんですのよ?

私が何もしなくても法国は八本指を消す為に動き出しますし。方法はどんなものか知りませんけど『八本指が消え、ライラの粉末が人類に害を与えなくなった』結果を残せば良いのですから。

ですがその過程でどれ程王国民の命が消えるか勘定に入っていないだけ、所詮は対岸の火事ですものねぇ。」

 

「ラキュース、此奴の口車に乗るな!漆黒聖典の人間なんだぞ!?」

 

因縁もあり、当然イビルアイは反対の意を示す。

悩んでいると、いつの間にか武器を下ろし考え込んでいるガガーランと目が合った。

 

「…オレは賛成だぜリーダー。

黒粉にゃ皆困ってんだ、それだけ強え後ろ盾が付いてくれるってんならウチらもやりやすい。」

 

「ガガーランお前!」

 

「真面目な話だおチビちゃん。

お前さんの因縁やらなんやらは抜きにして、八本指潰すっていう目的が一緒なら手ェ組むべきさね。奴さんの話を聞く限りじゃ、結果が同じでも犠牲は少ない方がいいだろ。」

 

ガガーランの言う事は至極正しい。それを理解はしていても、イビルアイはどうしてもスレイン法国の人間が気に食わないでいる。

 

「一応、ティアやティナにも意見を聞きたいのだけど…」

 

凍ってるのよね、と思ったラキュースが見つめる先には双子を閉じ込めた氷のキューブが2つ鎮座している。それを察したのか、レイラが指を鳴らすと即座に氷が解凍され、同時に操作を失った大量の水がばしゃんと音を立てて弾け、水の牢獄から解き放たれ水浸しになったティアとティナが()せながら立ち上がっていた。

 

「「げほっげほげほっ!」」

 

「咳のタイミングまで同じですのね、さすが双子。」

 

「2人とも大丈夫!?」

 

「…ッ大丈夫、凍ってても話は全部聞こえた。私は賛成。鬼リーダーと彼女の利害は一致してる。」

 

「私も賛成。目的が一緒ならお互い利用し合うべき。

でも身体は大丈夫じゃないから漆黒聖典のお姉さん介抱して、主にベッドの上で。」

 

「残念ながら私既に婚約者がおりますので。」

 

人妻!?余計に燃える…!」

 

「無敵ですか貴女。」

 

大丈夫そうだった。1人は頭が大丈夫じゃ無いかもしれないがいつもの事なので放っておくことにする。忍者はNTRもイけるらしい。

 

「さて、これで3対1ですが…どうします?」

 

「ぐぬぬぬぬぬ…!!」

 

どんどん外堀を埋められて呻く事しかできないイビルアイ。ラキュースはまた暫く考え込み、再びレイラへ言い放つ。

 

 

「……分かったわ。

それがイビルアイを見逃す条件だと言うのなら、私がお引き受けします。

ただし、私たちが教えるのは八本指に関する情報だけ。奴らを討滅したらこの関係は強制的に解消させてもらう。良いわね?」

「ええ、ええ!構いませんわ!

吸血鬼のお嬢さんもそれで構いませんわね?」

 

「ぐうぅぅぅッ……

分かった…リーダーの判断なら…私から言う事は何も無い。お前を信用した訳じゃないからな!そこを勘違いするな!」

 

大人気なくレイラを指さし叫ぶイビルアイはその幼い姿相応の子供だった。何百年生きようと根っこは変わらないらしい。

レイラは満足そうに頷いた。

 

「よろしい。

それではそろそろ私も失礼致します…あ、そうだ。くれぐれもこの事は誰にも喋らないように。

八本指は耳聰い、法国が加担していると悟れば直ぐに頭を引っ込めてしまうでしょう。ですので私と貴女達の関係は誰にも…例え親しい間柄の貴族、王族相手でも私達の関係は他言無用でお願いしますわ。

きっとその方が三女のお姫様も動き易いかと思いますので。」

 

「……ッ!何故ラナーの名が…」

 

「法国の情報収集能力を舐めないで下さる?

昔から王国はマークされてますの、貴女のお友達が裏で色々と手を尽くしている事などお見通しですわ。

冒険にかまけるのも結構ですが、自分達の国が他国から見てどれ程の惨状なのか少しは貴族として危機感を抱いた方がよろしくてよ?」

 

「そんな事、言われなくても分かっているわ!」

 

思わずムキになって反応してしまった後ハッと口をつぐみ、それ以上喋らなくなってしまったラキュースに微笑むと、「時が来れば此方から報を入れますので、それまでは精々王都の平和を守ってやって下さいな。」と伝えてレイラは《飛行》で都市方面へ飛び去っていった。

彼女の姿が見えなくなった後、期を見計らってイビルアイは考え込むラキュースへ声を掛ける。

 

「ラキュース、今更だが本当に漆黒聖典と手を組んで大丈夫なのか?

相手はスレイン法国だぞ?一体裏で何を考えているのか…」

 

「良いのイビルアイ、もう決めた事だから。

確かに彼女の言っていることには一理あるわ。

このまま行けばラナーの予見した通り確実に王国は滅ぶ、麻薬と貴族の横暴で大量の犠牲者を出しながら惨めな最期を迎えるでしょう。

一人の王国貴族として、アインドラの娘としてそんな事は容認できません。

打てる手は打っておかないと、肝心な時に手遅れにならないようにね。」

 

八本指だけではない、きな臭い反王派閥の貴族達や素行の悪い第一王子、国の抱える厄介事は少なくない。

出奔した身ではあるが誇り高き貴族の一員として、そして王国の行く末を憂う友人の為に自分も出来る事をしようと覚悟を決めた。

 

「…そうか、ならもういい。」

 

そう締めくくりイビルアイは空を見上げながらさっきまでの出来事を思い出す。

 

(手も足も出ない、とはこの事を言うのだろうな…情けない。

そうだ、あの女についてツアーとリグリッドに報告しておかなければ。十中八九神の血を引く神人だろうが…警戒はしておいてもらおう。)

 

 

 

まだやりますの?吸血鬼のお姫様

 

『まだやるの?吸血鬼のお嬢ちゃん。』

 

 

 

(…なんで今更アイツの事を思い出すんだ…もう居ない奴の事なんて。)

 

ふと思い出したのは似たような台詞。

当時、仲間と共に旅をした先で縁を結んだ者の一人。若く(今も外見は変わらないが)調子に乗っていた自分をコテンパンに叩きのめした少女だった。お転婆でお調子者で、そのくせ力はとんでもなくて、厄介な性格を〝白銀〟からは呆れられ、よくリグリッドにゲンコツを食らっていたなと、今となっては懐かしい思い出だ。途中まで一緒に旅をしていたが、「真実の愛を探す為に旅に出る」と言ってパーティーから飛び出したっきり会っていない。それでも当時のリーダーはそれが彼女らしいからと笑って見送った。

 

 

 

()()()…」

 

 

 

ぽつんと呟いた一言は、夕暮れの空へ溶けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んっふぁ〜つかれたも〜ん…

 

蒼の薔薇(重要な原作キャラ)との会話は神経使いますわ…さりげなく漆黒聖典の王国介入フラグも立てられましたし、良しとしましょう。

にしてもラキュース、想像以上に良い子でしたわね。加減したとはいえLv差の大きい私が殺気を向けてもイビルアイを庇えるほどの精神力、流石アダマンタイト級の冒険者といったところでしょうか。これで友達に恵まれていればねえ…

 

リ・エスティーゼ王国で最も警戒すべきは王族3兄妹の末妹、ラナーでしょうか。

『黄金』と称される美貌と卓越した知略もさることながら、その素顔はあのデミウルゴスをもってして「精神の異形種」と言わしめるほどでしたっけ?一見人当たりの良く純粋無垢なお姫様を演じてますけど、中身は真っ黒。護衛のクライム君の為ならメイドも謀殺するし悪魔と手を組むのも躊躇わない壊れた性格。ラキュース達の事も内心では「使える駒」扱いでしたし、王国筆頭でヤベー女ですわ。あんな邪悪なプリンセス・シャー〇ット、接触なんてお断りです。革命待ったナシ。

 

彼女の対処法はとにかく近寄らずこちらの情報を与えない事でしょう。あの天才は後にナザリックと接触しますし、どうせなら王国滅ぼそうとしてますし、厄の塊ですわ。

 

あーでもラキュースって嘘下手だから早速バレそうですね、万が一接触してしまうようなら私の領地に隠遁してもらうよう交渉してみましょうか。あのわんちゃんを護衛という形で連れてくれば納得して頂けるでしょう。

 

「ぬあああんもう疲れましたわ〜今日は何もしたくありません〜。」

 

ベッドの上にだらしなく寝転がって意味もなくゴロゴロ、自堕落最高ですわね!

 

「お風呂上がったよ〜…って、何してんのさ。」

 

ダラダラしている所を義妹に見つかってしまいましたわ〜これでは姉の威厳が〜。

 

「今日の疲れを全身で表現していますのよ。」

 

「何故表現する必要が…?

蒼の薔薇と会ったんでしょ、何かあったの?」

 

「貴女も知っているでしょう、『ライラの黒粉』。

アレについて色々と尋ねましたの、今後も彼女達にはちょっかい掛ける必要がありますわね。」

 

事の顛末をクレマンティーヌに説明してあげます。さすがにイビルアイの正体については黙っておいてあげましょうか。

 

「…なるほど〜『八本指』ねえ。

レイモンのおっさんには?私、明日戻るし伝えとこうか?」

 

「いえ、キチンと書類を仕立てて私から報告しておきますわ。

変な解釈されて中央政府が本格的に王国潰しに動き出しても困りますし。ラキュースとの約束ですものね。」

 

「りょうかーい。

明日、ねーちゃんは陽光聖典と交代で帝国に遊びに行くんだっけ。お土産よろしくぅ〜。」

 

「ええ、ええ。面白そうなマジックアイテムがあったら買ってきてあげましょう。」

 

そう、明日は私お休みを頂いておりますの!

明日から4日ほど帝国に小旅行に赴きます。

普段は領地経営と漆黒聖典のお仕事の板挟みで羽を伸ばせる機会なんて殆どないので休日を満喫させて頂きますわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下、本日の詳しい戦報が出来上がっておりますのでご確認を。」

 

「うむ。」

 

「陛下、西の防衛拠点から装備の更新依頼が届いております。」

 

「うむ、西側は本当によく頑張ってくれておるからな。一刻も早く新しい装備を届けてやらねば。」

 

此処は竜王国王城執務室、目覚しい活躍で兵士達と共に見事ビーストマンを撃退したレイラ達を激励し、見送ったドラウディロンは宰相と共に帰路に就いていた。

身体は幼くとも女王の身である、帰れば大量の書類と格闘する仕事が待っている。

ただ、彼女はいつもより少しだけ上機嫌だった。

 

「ご機嫌ですな陛下。」

 

「むっふー、分かるか?

都市防衛の為、後顧の憂いを断てたのだ。これで一先ずは連中が殺到してくるという事もできまい。」

 

「スレイン法国様々ですな。」

 

「当たり前じゃ!高い寄付金を入れておるのだからな!」

 

苦境に立たされていた竜王国はスレイン法国の介入により、当初よりも少しだけ余裕ができた。

相変わらず残りの二都市はビーストマンに占拠されている為一刻も早く取り返す必要があるが、都市の修繕や経済の復興に回す時間を得られたことは大きい。

それもひとえに、たった一人の淑女がもたらした成果である。

 

「彼女にはもう少し留まって貰わねば…」

 

「やっとマトモに話のできるスレイン法国の関係者ですからな、いっそこのまま竜王国民になって頂きたいものです。」

 

宰相が皮肉って笑う。

スレイン法国から派遣された《獄界絶凍》と名乗った女性。高飛車となんかよく分からないテンションで周囲を困惑させる彼女に当初はドラウディロンも「あれだけ金払ってよく分からん派遣が1人とか舐めとんのか!」と思わず叫びそうになったものだが、いざ戦闘となるとその下馬評は悉く覆された。

 

一度槍を振るえば獣達はたちまち凍り付き、放つ魔法で大地は白く染まる。寒さに慣れていないビーストマンは本来のポテンシャルを発揮出来ず、あえなく彼女の振るうハルバードの錆となった。

獅子奮迅の活躍に加え、兵士達を鼓舞し引っ張るカリスマ、何より竜王国に親身になり“共に戦ってくれている”。それだけでどれほど兵士達の支えになるか。

他の陽光聖典などならこうはいかない、彼等はあくまで仕事で此処へやって来ている。なので会話も必要最低限で愛想も無いのだ。

 

「竜王国民にかあ…いいなあ…そしたらあのロリコンに頼りきりにならなくて済む…

案外誘ったらサクッと承諾してくれんかの〜。」

 

「冗談です。

あの若さであれ程の強さ、恐らく彼女はスレイン法国でも指折りの実力者なのでしょう。引き抜きなど黙っておりますまい。

心配せずとも、法国が竜王国を切り捨てても彼女は我々を見捨てはしないでしょう。《獄界絶凍》殿は情に厚い御方だ、それは陛下が一番ご存知なのでは?」

 

「そうじゃな、アレで急に裏切られたりしたら人間不信になりそうじゃ。」

 

半ば呆れ気味に笑うドラウディロン。

思い出すのは今まで共に戦ってくれた彼女の姿。

フレンドリーなんだか厚かましいだけなのかドラウディロンにもイマイチ納得がいかないが、兎に角色んな姿だ。

 

『初めまして竜王国の皆様、スレイン法国から派遣されて参りました。気軽に《獄界絶凍》とお呼び下さいませ!おーっほっほっほっほ!』

 

『はァ!?なんッッですのこの寄付金の額!!

滅び掛けの国からこんな搾り取ってブァッカじゃァねえんですのあンのお排泄物国家が!ちょっと中央政府に文句入れてきますわ!』

 

『ドラちゃん、取り敢えず前線のビーストマンは氷漬けにしておきましたわ!これで本隊が敵拠点を叩けますわよ!

え?凍らせた敵の数?そうですねえ…途中から面倒臭くなって数えるの止めましたけど大体700匹くらいかしら?どうしました急に白目剥いて。』

 

『腹が減っては戦ができぬ!

というわけで実家からどデカい鉄鍋を作って持って来ましたのでこれから中央広場で“ドキっ!?竜王国民だらけの大・炊き出し会“を行いますわよ!材料?費用?知らんなそんな事は。全てスポンサーであるこの私にお任せなさい!』

 

 

…思わず吹き出してしまった。

彼女が行うこと全てが無茶苦茶だ、だが最後には必ず良い方へ事が運んでいく。それは国民の雰囲気であったり兵士の士気であったりと様々だった。

この数ヶ月で彼女がもたらしたものはあまりにも大きく、世話になりっぱなしである。中には彼女が熱心に信仰しているというスレイン法国の宗教に入信しようと考える国民まで現れるほどだ。

 

「寄付金、本当にちょっとだけ安くなったんじゃよな…」

 

「良い事ではないですか。」

 

「いや酒の愚痴でぽろっと言っちゃったのが本当に安くなるとは思わなんだよ…これで『紅蓮』をフルメンバーで雇える余裕が生まれたし、より防衛も堅固になる事じゃろて。

まさかお堅いスレイン法国からあれほど愉快な御仁が生まれるとはの。」

 

「つきましては陛下にも今以上に彼女から気に入られるよう務めて頂かなくては。

陛下の幼児形態に国の全てが掛かっておりますぞ。今に始まった話ではございませんが。」

 

「ぐっ…し、仕方ないなあ…

セラブレイトが今以上に気持ち悪くなるのは嫌だが、背に腹はかえられぬ…」

 

ま、《獄界絶凍》殿は陛下の真の御姿を知ったうえでこの国に親身になってくれているので、幼女形態で無駄に演技する必要など無いのですけれど。

と宰相は喉まで言葉が出かかって、静かに飲み込んだ。そっちの方が国民(と一部のロリコン実力者)の印象も良いし。

 

「それに…彼女の前で言うてしもうた。

『国民全てを救ってみせる』と。

ひとでなしの儂が吐いた妄言なのにな…あの娘は笑っていたよ、屈託のない笑顔で。」

 

それはレイラが派遣されてから数日経った頃、ご機嫌取りも兼ねて彼女のもとへ酒瓶を片手に訪れた時の話だった。

日頃の疲れもあったのだろう、その時は国を救ってくれた英雄相手に愚痴を零してしまうくらいには酔っ払ってしまっていた。

そんな中、つい言ってしまったのだ。

 

『ビーストマンを全て国から追い出して国民全員を救ってみせる』

 

と。

失われた都市は3つ、度重なる襲撃で兵も疲弊し、税を治める国民は食われ居なくなるので経済も悪化する。更に身体能力で優位に立つビーストマンは数の不利などものともせず津波のように押し寄せる始末。

正に生きた災害、そんな事を誰かが言っていた。そんな絶望的な状況の中、ドラウディロンは王として国を回し、維持しなければならない。

 

『ドラちゃんはトロッコ問題ってご存知かしら?』

 

『トロッコ…?鉱物の運搬に使うアレか?』

 

『ええ、ええ。

暴走するトロッコの線路の先は二股に別れていて、片方には自分に親しい間柄の人間が1人、もう片方には見ず知らずの他人が数十人居ます。そして貴女の手元にはトロッコの進路を操作するレバーがあって、選択する事が出来ますわ。

大切な人を助ける為に多くの他人を見殺しにするか、多くの他人を助けるために少数を切り捨てるのか。一種の心理テストです。

ドラちゃんならどうします?』

 

『ふむ…難しいな。

少を捨て、大を生かすのが王として正しい判断じゃろう。しかし…』

 

儂はできるなら全員助けたい。

民に優先順位などなく、大切な人も知らない他人も皆等しく守るべき命である。ドラウディロンはそう考えていた。

しかし現実は非情である、何度救おうと手を伸ばしてみても、指の隙間から零れ落ちる砂粒のように日々命は消えていく。ビーストマンの侵攻を受けている今では『全てを救ってみせる』など所詮は夢物語でしかないのだから。

そんなことは理解している、寂しそうに俯く彼女をレイラはそっと抱きしめ、微笑んでみせた。

 

『やはりドラちゃんは“善き王”ですわね。

ごめんなさい、意地悪な質問でしたわ。どちらを救っても、貴女は後悔するでしょう。誰かを救うという事は誰かを救わない事だと、昔偉い人が言ってました。

ただし、それはなんの力もない一般人が選択(レバー)迫られた(握らされた)場合の話です。』

 

『……?それはどういう…』

 

『私、強いんですの。

少なくとも母国で一二を争えるほどには。

ビーストマンなどより余程速く動けますし、魔法も誰より使えます。お望みとあらば一瞬で都市ごと永久凍土に沈めて差し上げますわ。そんな私が貴女の治める国に救援として派遣されましたのよ?

なら私を使えば良いでしょう。万人を救えと、国を助けろと命令なさい。』

 

『!』

 

『この国に来てからというもの、皆様なんだかよそよそしい対応ばかりで正直嫌になってました。私が法国から嫌々徴兵されたとでも思ってましたの?

私は、助けを求めた貴女の為にこの国へやって来たのです。今の私は女王陛下の願いを叶える無敵の盾であり最強の矛。

あの問題でどちらかを捨てる、などという考えこそ今は捨ててしまいなさい。私という“反則”がいるのなら、「トロッコを破壊しろ」くらい言ってみなさいな!』

 

『…頼って…よいのか?

この国は死に体じゃ、まして貴女は他国の将。あまり迷惑を掛ければそれこそ法国で面倒な事に…』

 

『あ''あ''あ''もうしゃらくさいですわね!

黒き竜の末裔、ドラウディロン・オーリウクルス!』

 

『ひゃッ…ひゃいィッッ!?』

 

『私は!スレイン法国最強の特殊部隊《漆黒聖典》が1人、第13席次《獄界絶凍》にして栄光あるローグレンツ領主レイラ・ドゥレム・ブラッドレイ!

国を憂い、助けを求め手を伸ばす貴女に願いに応え参上致しましたわ!

さあ命令を寄越しなさい!「竜王国を救え」と!民を救い、獣共を排除し、取り零す事無く全てを救ってみせろと!

叶えて差し上げます。だって私、最優にして最強の令嬢ですから!』

 

 

 

 

たかが国一つ救えないで人類が救えますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本当の英雄というのはあんな子の事を言うんじゃろな。」

 

書類作業をいったん止め、インクの減らないペン型のマジックアイテムを手元でくるくると回しながら女王はぼやく。

 

その夜、演技も捨ててドラウディロンはレイラに思いの丈を全て話し、彼女もそれを全て受け止めた。後日始まった都市奪還作戦でレイラは万を超えるビーストマンをたった一人で皆殺しにし、都市を統率していた部族のリーダーから一騎打ちを挑まれこれを承諾。両兵の見守る中素手でリーダーを殴殺した後、勝利を収めた。

統率者を失ったビーストマンの集団は呆気なく瓦解し、我先にと逃げ出していくのを見送って空っぽになった都市へ部隊を突入。往生際の悪い一部の敗残兵を掃討しつつのべ25000人余りの生き残りを救出する事に成功した。

満面の笑みで帰還し、勝利のVサインをかますレイラに堪らずドラウディロンは王としての恥も外聞も捨ててその胸に飛び込んだ。

その感動的な光景に〝てえてえ〟と国民達の心はひとつになった。

 

「元々あの都市で暮らしていた人口は5万人ほど、我々が都市を奪われてから取り戻すまでの期間に人口の半分が奴らの腹の中です。被害の1番小さい都市でこの有様ですからな、残る2つ目、3つ目の都市はどんな惨状になっているか…

痛ましい限りです。」

 

「一刻も早く…と言いたいところじゃが、経済状況も芳しくない。

作物を耕す者も皆食われてしまっておるし、立ち直るまでにどれだけ時間が必要になるのか…問題は山積みじゃ。

じゃが、最後まで付き合ってもらうぞ宰相。」

 

「無論です、おつきあいしますとも。」

 

ニヒルに笑う宰相にうむっ、と返し書類に向き直る。

少し前までのドラウディロンには見いだせなかった〝希望〟、たった一人の英雄によって齎された僅かな光を頼りに、彼女はまた暗闇を歩き続ける。

しかし不思議と、これまでよりも孤独を感じる事はなかった。

 

 




オリ設定解説


魔剣ジゼル
ランク 〝伝説級〟
魔剣と名が付いているが頭用の装飾品
見た目は銀に近い白色をした上質なシルクに似た素材で作られたストール。
武器に永続的な氷属性を付与する効果を持ち、プログラムを設定する事によりで様々な形に刃を変化させることができるというアイテムだった。どちらかと言うと刃の造形の設定はゴーレムを作る感覚に近い。
異世界においては持ち手のイメージ次第で形が変化し、周囲の水分を凍らせて剣山を生やすのは勿論、ラキュースの浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)に似た氷刃を生み出す事もできる。数を増やせば増やすだけ魔力は消費するが。
異世界へ渡り、ユグドラシルの頃より自由度が上がったアイテムの一つで元の持ち主である六大神の一柱も愛用していたのだとか。



四角の流体牢獄(ジェイル・オブ・ハイドロキューブ)
第6位階
水属性の捕縛魔法、発生が速いが拘束時間は短め。捕らえている間は雷属性のダメージが二倍になるのでコンボ技として重宝する、また捕らえた後に氷属性攻撃を当てることで凍りつき、拘束時間を更に伸ばせる。
異能力の都合上、レイラが覚えた氷魔法以外で使える数少ない魔法の一つ。



白いおもいで(ホワイト・アルバム)
第9位階
超低温で周りを凍らせ一定範囲内の物理攻撃や飛び道具、果ては発動された魔法まで無効化する魔法。
超低温は『静止』の世界、動ける物質は何も無くなる、魔法ですらその動きを止め静止する。この魔法が完璧なのはそこなのだ。暴走する機関車だろうと荒巻く海だろうと止められる、その気になれば。
なお第10位階魔法及び超位魔法は止められない模様。
ユグドラシルにおいてこの魔法を行使するマジックキャスターは必ずキレ気味に喋らなければならないジンクスが存在するのだとか。
結論、やはり荒木先生は偉大。


※ラキュースの《浮遊する剣群》をレイラが静かに泣く(ジェントリー・ウィープス)で反射させ跳ね返すというネタを考えたが尺の都合上カットしたよ、レイラのレベル差で反射したらラキュースがバラバラになっちゃうからね!
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