破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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※この物語はフィクションです
作中で登場する魔法用語、及びそれっぽい理論は当作品オリジナルの設定であり、本家オーバーロードの魔法概念とは一切関係ありません





7 破滅フラグを乗り越えた国に遊びに来てしまった…

 

 

 

 

 

 

あぜ道をゆっくりと進む2頭の馬に引かれる荷馬車、その中すっぽりとローブを被った人影が二人、積荷に腰掛けていた。

 

女性らしきその人影は膝のトランクを机代わりにし、揺れる荷馬車の中で本を読みふけっている。

 

「お嬢さんがた、もうすぐ帝都前の関所だよ。身分証の用意しときな。」

 

手綱を握る初老の商人に外から声をかけられ、眼鏡をずりあげながら彼女は本に栞を挟み、トランクへしまいこんだ。隣の女は反応する仕草もなく、フードの上からでも分かるほどこっくりこっくりと頭を揺らしている。

 

「zzz…」

 

「ほら起きて、そろそろ到着しますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都アーウィンタール前関所には日も高くないうちに荷馬車の行列が出来ていた。

帝都では今、帝国史始まって以来の好景気を迎えている。新皇帝ジルクニフの行った数々の経済政策、無能な貴族達の粛清で国内の灰汁が抜け、無闇な搾取も今では殆ど行われる事はない。

頑張った者が頑張っただけ報われる、平民にとって夢のような国策に景気は好調し、中でも国の中心部である帝都においては好景気の影響を直に受けているため、目ざとい商人たちはこぞって帝都を目指すのだ。この行列もその影響である。

 

ゆえに関所の衛兵たちは朝から大忙しだ、入国審査は国防の要でもある。忙しいからといって手を抜く事は決してない。

今日も門前には10人がかりの警備体制を敷き任務に当たっていた。

 

「ふむ、通ってよし。

…次の者、馬車を降りて身分証を提示し、帝都に赴いた目的を言え。」

 

「はいはい、私めは竜王国から参りました。

荷馬車にゃ塩と香辛料、それから衣類を積んでまさァ。目的はまぁ商いと…送り迎えを兼ねてますが。」

 

「同乗者が居ると言うことか。

中の者、顔を出し入国目的を言え。身分を証明できる物の提示もだ。」

 

「は〜いただいま〜。」

 

他の者達が荷馬車の中身の検閲を進めるなか、衛兵の呼び掛けに呼応し、フードの女性が顔を出す。

女だてらに高い背丈に大人しめの服装で深い蒼色の長髪、そしてその整った顔を邪魔するように鼻にかかる瓶底メガネが印象的な女だ。

 

「此方の馬車に相乗りさせて頂いております。

()()()と申します、スレイン法国より参りました。」

 

「そうか、隣の娘。お前もか?」

 

「……ぁぃ」

 

「こら()()()、ちゃんとご挨拶なさい。」

 

レインと一緒に顔を出した幼顔の娘、長く()()三つ編みを二股にした女が気だるそうに返事を返す。

 

「すみませんこの子ったら寝起きで」

 

「構わん構わん、竜王国からの道中だ。

女の身なら疲れもするさ。それで、お二人さんの渡航目的は?」

 

「私はまだ取り立てではありますが法国魔法局教授を名乗らせて頂いております。ケレスは優秀な助手でして、此度の訪問に同席させる運びとなりました。

帝都には魔法の教育機関や魔術図書館があると耳にしたもので、その見学に。」

 

「魔法学院の事か?

その為にわざわざ法国からはるばる来るとは物好きなお嬢さんだな。」

 

「ええ!

法国は信仰系魔法の歴史と英智こそ人類一と自負しておりますがその実、魔力系と精神系には疎く資料もまだまだ少ないのです。なので三重魔法詠唱者(トライアッド)と名高いフールーダ・パラダイン様の運営する魔法学院を見学し、少しでも知識を深めたい。

それ故に遠路はるばる来てしまいました。」

 

「なるほどねぇ…」

 

熱心に語るレインにふむ…と思考する衛兵隊長の男、御歳40にもなる彼はもう25年近くこの関所で働いてきたベテランだ。

彼程になると帝国に害なそうとする者は例え取り繕っていても表情や態度、仕草の違和感で善人か悪人か判別できる。

 

見たところ魔法学者と名乗った目の前の女性、レインとケレスからは帝国に害なそうという意思は感じられない。態度や言動から、彼女達からは魔法を探究したいという純粋な熱意が感じ取れた。

話して少し、積荷を調べていた衛兵から『異常なし』との報が届く。

 

「よし、通って良いぞ。

ようこそ帝都アーウィンタールへ、商いも魔法探究も良いが気張り過ぎは程々にな。」

 

「へいどうも、お気遣いありがとうごぜえます。」

 

「ありがとうございます、衛兵の皆様もお仕事頑張ってくださいね。」

 

そうお辞儀する彼女の乗る荷馬車を手を振って見送る。

神経をすり減らす入国審査、お世辞にも良いとはいえない仕事環境、同僚はむさ苦しい男たち、そんな中で例えお世辞でも美女からかけられる労いの言葉は衛兵達の心に染み渡る。美女は心のオアシスだ。

 

「なあ今の学者さん、美人だったな!?」

 

「俺は隣のお嬢さんが好みだ。

童顔に似合わんくらい胸があったろ、俺は見逃さねえぞ。」

 

「眼鏡が邪魔だ、勿体ない。」

 

「は?あの眼鏡があるからこそ美女が引き立つんだろうが。」

 

「…は?」

 

「あ…?」

 

「「戦争しかねえな…」」

 

「下らん事言ってないでさっさと仕事に戻れ馬鹿共!」

 

若い衆が色めきたつのを一蹴し、衛兵たちは再び通常業務に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごきげんよう皆様!私ですわ!

 

という訳でやって来ました帝国首都アーウィンタール!多くの露店と人で賑わう活気溢れる城下町、街の中心に聳え立つ皇帝の居城、The・王道異世界ファンタジーの街ってカンジです。清廉な雰囲気の神都とはまた違った趣があって大変よろしいかと。

 

「ふあ〜…ねむ…」

 

「馬車でずっと寝てたでしょう貴女、ホラ自分で歩きなさいな。」

 

気だるそうに進むケレスちゃん、いつもは自分に《飛行》掛け続けてるから歩き慣れてなくてヨタヨタ歩く彼女の背中を押しながら私、『レイン』は進みます。

 

ええ、勿論偽名でしてよ。

我々はスレイン法国特殊部隊。普段はスレイン法国民、とりわけ私は領主として日々執務をこなす身ではありますが、有事の際には他国に潜入し情報を掠め取る工作員を任されたりしますの。

こんなふうに名前と、魔法で外見を変えて別人に扮しながら他所の国へ溶け込みます。今回は特別な異能力を持つフールーダ様が居る帝国への侵入なのでマジックアイテムで魔力量すら誤魔化す念の押しようですわ。

 

 

まあ、今日の帝国訪問は完っっ全に私事なのですが!

 

 

領主として名前を出し活動する時以外は基本こっちの偽名で通しています。そっちの方が好きに動けますし、領主として外出するより肩肘張らなくて気が楽ですもの。

それに幾つもの顔を使い分けるとか特殊部隊感出ててカッコイイじゃないですか。

 

本日私が扮するのはスレイン法国で魔法学者を務める若き秀才。

名前は〝レイン・エルリク・ホーエンウッド〟、専攻は魔力系魔法と地質魔法学。習得位階は第6位階。

努力家で物腰柔らかな法国魔法研究館(国営)の教授です、ちゃんと戸籍や身分証とかもきっちり作ってますの。

実際法国魔法局の局長とは馴染みの間柄ですし完全に嘘ってワケじゃ無いのですが、まあいつだって華麗な私の別側面…クラスがランサーからキャスターに変わったようなもんですわね。水着じゃなくても誤差よ誤差。

 

霊基が変わっても私は限定星5、Cv沢〇みゆ〇でしてよ!(あくまで本人の妄想です)

 

 

 

「知ってる、こういうの『ショッケンランヨー』って言うんでしょ〜。」

 

 

はいケレスちゃん煩い、煩いですわー!

 

 

 

昨日竜王国でビーストマン達を蹴散らして、蒼の薔薇との密会を終えた後、今朝がた念押しとばかりに前線基地になっていた森を威嚇も兼ねて全部氷漬けにしておきましたので暫くは奴らの侵攻が過激化する事は無いでしょう。ドラちゃん白目剥いてましたが、寝不足かな?

 

そして法国へ戻るクレマンティーヌと交代で合流したのがこの子、第11席次《無限魔力》ちゃん。本人たっての要望で帝都訪問に同行したいそうです、漆黒聖典って休み少ないのでたまの旅行はワクワクしますわね!

 

潜入時の偽名は〝ケレシア・リーズ・マスターグ〟、愛称はケレスちゃん。教授であるレインの助手を務め、第4位階までの魔法を修める優秀な魔法詠唱者…という設定です。

『他人の魔力量と習得位階が目視で判別できる』という厄介な異能力を持つフールーダ様を誤魔化す為に事前にわざわざ番外ちゃんにお菓子と等価交換で神都の宝物殿から隠蔽のマジックアイテム持ってきてもらいましたので私達の本当の実力が晒される事はないハズですわ。

 

……私もそうですが《無限魔力》ちゃんもその名に恥じぬ魔力量ですからね、万が一観られてしまった場合あの魔法狂いがどんな反応するか想像したくありませんもの。

 

 

 

「レインちゃん、潜入任務向いてるよねえ。

普段のインパクト凄すぎて絶対バレないもん。」

 

「そうかしら?普段もスルシャーナ様の使徒に相応しい謙虚で清楚な振る舞いを欠かさないよう心掛けてはいるんですけれど。」

 

「(謙虚…?どこが?)

いつもなら5分おきに高笑いしてるじゃん。」

 

「そんな頻度でしてましたっけ!?」

 

 

 

会話しながら街を散策中、手近な宿を見つけチェックイン。

『歌う林檎亭』ですか、歴史ある見た目ながら小綺麗な店内、そしてなかなかナイスなネーミングセンスですわね。

 

今回は4泊5日の帝都観光を予定しています、奴隷市場や闘技場なんかは興味無いのでもっぱら魔法学院と魔法図書館の見学ですわね。それと適当なワーカーを雇って試作マジックアイテムの運用試験を考えてますの。

それ以外にも野暮用はありますがそれはおいおい。

 

「必要なものはトランクに纏めてますし、早速見学に向かうとしますか。先ずは一般公開されている魔法図書館から行きますわよ!」

 

「お〜。」

 

 

 

 

久しぶりの休暇に友人と小旅行、テンション上げ上げで参りますわ〜〜!!

 

 

 

 

 

 

 

~レイン滞在より1日経過~

 

 

 

バハルス帝国

帝都アーウィンタール

王城執務室

 

 

一国の統治者が執務を行うには些か質素に見えるこの一室、その奥にある巨大な執務机の上に山盛りに積まれた書類の束に囲まれる人影がある。

その中で黙々と執務をこなす金髪の男こそ、今代のバハルス帝国を治める皇帝。ジルクニフ・ファーロード・エル=ニクスその人であった。

ほぼ日課と化したこの執務量も慣れたもの、黙々と作業を進め山を片付けて行く。

時折傍らに侍る副官のロウネより渡された資料を読みふけり、疲れたようにため息を吐く姿も見受けられた。

 

「やはりカッツェ平原のアンデッド共は増え続ける一方か。」

 

「はい、観測部隊の報告通りなら例年の2倍近い数が平原より溢れております。場合によっては軍の投入も必要になるかと。」

 

「原因が分からねば根絶もできん、アンデッド退治の費用も馬鹿にならんからな。ワーカー共が定期的に狩っているというのにそれでも間に合わんとは…

いつまでも手をこまねいている訳にもいかんか、魔法詠唱者を中心とした討伐部隊を編成する。

火球(ファイヤーボール)》の絨毯爆撃で焼き払ってやれ。」

 

「汚物は消毒、という訳ですか。

承知致しました、編成についてはフールーダ様にお伝えしておきます。」

 

「そういえばじいはどうした、今朝から姿が見えないが。」

 

「さあ、私にも分かりかねます。

バジウッド、貴方は?」

 

そうロウネが問う視線の先には皇帝を守るため護衛として室内に侍る鎧姿の武骨な男。

名をバジウッド・ペシュメル、『雷光』の2つ名を持つ帝国が誇る懐刀『四騎士』に数えられる程の実力者である。

 

「ん?フールーダの爺さんなあ…

今朝方すれ違いましたぜ、噴水広場にできた氷のオブジェを見に行くんだとか。」

 

一国の皇帝に対して無礼かとも思える態度だがジルクニフは気にしていない、寧ろ実力が伴っているなら彼は相手の人格面に関しては寛容だ。執務室の壁にもたれながら話すバジウッドに耳を傾けた。

 

「氷のオブジェだと?」

 

「陛下、こちらの書類です。

帝都に設置された中で最も大きな噴水が何者かによって凍結させられていた事が今朝、衛兵の報告により判明致しました。」

 

ロウネより渡されたよると早朝勤務の衛兵が城下をパトロールしていたところ、発見したらしい。

彫刻家による美麗な細工などが施してあるハズの大噴水は氷塊と共に見事に凍りつき、周囲の気温が3℃は下がっているのだとか。

 

「あれは魔法技師による循環式構造ですので周囲に凍結による断水等の被害はありません。オブジェ自体も近隣からの不満はなく、寧ろ最近は蒸し暑い日が続いているため涼が取れると好評でした。

ですが問題は人的被害が出てしまった事ですね…」

 

人的被害、と聞いてジルクニフの顔が険しくなる。が対するロウネはなんとも微妙な表情を浮かべていた。

 

「どうしたロウネ、帝国民に被害が出たのだろう。何人だ?」

 

「い、一名です。」

 

「…は?」

 

「名はエルヤー・ウズルス。帝国ワーカー『天武』のリーダーでございます…

その彼の他パーティーとして登録されていた3名のエルフは現在行方不明となっており、現場には奴隷3人分の買取代金が借用書と共に同封されておりました。エルヤーの血判付きで…」

 

「なんて???????」

 

エルヤーとは帝国に所属するワーカー。ワーカーとは正規の冒険者とは違い協会に正式登録されておらず、非正規で冒険者稼業を営む者達の総称である。協会の仲介を通さず雇い主と直接契約する事で受け取る賃金こそ多いが、汚い仕事などを任せられる事もある。なんにしても実力が必要な職業だ。

当然、人の生き死にも激しい。そんな中で市井に名が知れ渡るほど活躍できるのはひと握りのワーカーグループしかいない。

『天武』もそのひとつ、剣士エルヤー・ウズルスはその才能でもって名を挙げた、巷では色々と有名なワーカーだった。

 

「あのエルヤーが負けたのか。

奴は人格面こそ問題はあれど帝国では中々の強者だったのだろう、バジウッド?」

 

「ええまあ、そりゃ間違いねえです陛下。

それが物の見事にぶん殴られたのか顔面腫れぼって、噴水と一緒に氷漬けにされちまったのをウチの部下が見つけたそうで。

俺も現場に行っては見たが…思った以上にズタボロで、あんまりに滑稽だったもんで笑っちまいましたよ。」

 

「あのエルヤーですからね、我々が発見するまで誰も通報していなかったのがその証左でしょう。」

 

エルヤー・ウズルスは帝国民でありながらその実、法国出身者である。洗礼名を捨て、何故帝国へ渡ってきたのかは不明だが名を上げた彼の言動には問題があり過ぎだ。

曰く「子供をそのまま大人にしたような性格」のエルヤー。自己愛強くナルシストなのはまだマシとして、白昼堂々自らのパーティーメンバーである奴隷のエルフ達を嬲り、痛ぶり、時には辱める。それも街の中でやるものだから見ている側は如何に相手が奴隷であったとしても気分が悪い。しかし彼はなまじ実力者な為意見することも出来ず見て見ぬふりを繰り返していた。

 

「書き置きも残されており『今まで奴隷を虐めてごめんなさい、書類と代金を置いておくので契約解除の手続きをお願いします。神に誓い、今までの醜態を猛省し懺悔致します。』との事です。」

 

「絶対本人が書いた文じゃないだろそれ。」

 

「ええ、ですが書類と代金は正規のものでしたので市場に連絡しこちらで手続きを済ませておきました。血判もありましたので彼の奴隷は正式に自由の身になりましたよ。」

 

しれっと言うロウネに思わず吹き出し爆笑するバジウッド。ジルクニフも呆れ顔だか部下の勝手を咎めるまではしなかった。彼も行き過ぎた素行のエルヤーに思うところあったのかもしれない。

しかしジルクニフの思考はエルヤーではなく別のところにあるようだ。

 

「帝国でも指折りの実力者を殴って気絶させ、更に魔法で拘束できる程の猛者が帝都に居るということか?」

 

「でしょうなあ。部下の聞き込みだと、昨日の夕暮れ頃に噴水前でエルヤーと言い争う2人組の女性が居たと聞いてますぜ。」

 

「ということは女二人でエルヤーを下したということか!?気になるな、彼女等の仔細は追えるかロウネ。」

 

「可能です、帝都への来訪履歴を当たってみましょう。エルヤーと何かしら因縁のある相手で、彼は法国出身者、それもふまえ昨日以前に帝都に訪れた法国からの入国者を洗い出してみます。」

 

「ああ、頼む。」

 

「探し出して弁償させますかい?皇帝陛下は随分と噴水にご執心なようで。」

 

「違うぞバジウッド、私は…いや、待て。

バジウッド、今すぐじいを探して連れ戻してこい。部下達を何人か連れても構わん。」

 

「そいつぁどうして、そんな急ぐ事ですかい?」

 

「じいが勝手に行動する時は決まって魔法関係だ。大方今回も凍った噴水が気になったんだろう。ならきっとその女たちに辿り着く。

エルヤーを拘束できる程の魔法を持つ二人組にいきなり接触させてみろ、最悪例の魔法狂いが再発するかもしれん。」

 

バハルス帝国宮廷魔導師、フールーダ・パラダイン。魔導によって人の寿命を超越し英雄を超えた『逸脱者』となった生ける伝説、今では『三重魔法詠唱者(トライアッド)』の名を(ほしいまま)にする大魔法使いだ。皇帝であるジルクニフとは帝位に就く前から教育者として彼に侍り、時折助言する程の信頼のおける間柄。

 

そんなフールーダであったが、少々行き過ぎた魔道への探究心が溢れ出てしまう事が度々ある(限りなくマイルドな解釈)。

それはジルクニフも知るところであり、何度かそんな場面に出くわしたフールーダの姿を見たからこそ、他国の人間にそんな醜態を晒させる訳にはいかないと配慮した。

 

急げ!と急かされバジウッドは執務室から追い出される。

 

まだ確定という訳では無いが、エルヤーを破るほどの魔法詠唱者なら場合によっては囲い込むのもいいかもしれない。法国出身らしいので宗教的なトラブルは起きるかもしれないが、弁償にしろ勧誘にしろ先ずは2人組の詳しい特定を急ぐべきだ。

色々な打算を頭の中で巡らしながら、ジルクニフは再び書類の山に目を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都内

 

帝国魔法図書館

 

国内最大級の規模を誇る魔法図書館、魔法学院の卒業生達が残した論文を初めとする魔法論文の数々が所狭しと並び、帝国魔法省御用達の魔術書、資料が集うこの大図書館。一般公開されているので身分証があれば他国の人間でも入館する事ができるのです。

 

表向きは帝国の魔法に対する習熟度調査、本音はただ私が気になっただけですの!気になり過ぎて昨日は昼食以外は閉館時間までずっと図書館に2人で篭ってました。

ちゃんと後でレポートに纏めて元老院に提出してやりますので問題ナッシングでしてよ。

正しい情報をなるたけ詳しく伝える事によって上層部の暴走を抑えるのです、王国にも今度何かしらのアプローチを掛けて仔細を報告しないと…このままいくと戦士長殺害ルートまっしぐらですからね。蒼の薔薇にああ言った手前、できる限り手助けはしてあげませんと。

 

 

私とケレスちゃんは昨日に引き続き、気になった魔導書を片っ端から漁ったり法国の魔法論文と比べては意見を交わしあっています。

 

「ケレス、こっちの論文どう思います?

私的には三節の定義が気になりますね。」

 

「……それ、仮説と結論が結びついてない。

多分根本の魔法論理が法国の定義と違うんでしょ、アタシが見た中で近いのはこれと…これ。」

 

「ふむ…なるほどこれなら筋は通ってます。流石元首席。

国ごとに根底の定義が違っているのは頂けませんね。かと言って統一しようにも宗教が絡んできますから易々と変わる事などできないでしょうし。貴女なら丁度いい落とし所が探れるのでは?」

 

「変に持ち上げるの止めてよ、座学はともかく実技じゃレインちゃんに勝てる奴なんて居なかったじゃない。

卒業課題も、あんなのお貴族様と元老院の好き嫌いで点数付けられるんだから。ずっと私が負けてたよ。」

 

「卑屈ですねぇ、学生時代は自信満々で毎日私に勝負を挑みに来ていたというのに。そんなに番外ちゃんにコテンパンにされたの引き摺ってるんですか?」

 

「ゲッ!?その名前は出しちゃ()ぁ…」

 

 

実は学生時代、私とケレスちゃん(偽名)って同期なんですよね。

法国が主導する魔法教育機関、貴族平民関係なく入学できたので。前世の学校と違って同じ学年に幅広い年齢の人がいましたから同い歳って訳じゃ無いんですけど。

 

「学生時代、懐かしいですね。同窓会とか企画したいんですけど皆集まってくれるかしら。会場は私の実家で。」

 

「レインちゃんの領地はエルフやドワーフが暮らしてるから来ない奴は来ないでしょ。在学中も差別意識強い同期は結構居たし。昨日も会ったじゃん、エルヤーとか。」

 

「まったくあのおバカさんは…卒業してもまっっっったく変わってませんでしたね。いつものノリで氷漬けにしてしまいました。」

 

卒業してからしばらくして、法国から飛び出して行ったと人づてに聞いたのでもう会うこともないだろうと思ってたんですが。

会っちゃったんですよねえ、昨日の帰り道で。

エルヤー・ウズルス、あの人は魔法剣士専攻だったので学部は別だったんですが、学生時代からエルフに対する偏見が激しく、在学中に何度も言い争いになりました。

私のメイドを貶した時は思わず手が出てしまい校庭に1週間ほど氷像になってもらいましたっけ。ざまあねえですわ!

因みに今回のオシオキは5日ほどで溶けるよう調整してあります、暫く氷の中で反省なさいな。

 

「でも大丈夫なの?あのエルフ達勝手に《転移》で飛ばしちゃって。」

 

「奴隷契約の方は血判とお金を用意すれば誰かが察してくれるでしょうし、問題ないかと。

今頃ベルが介抱しているでしょう、どちらを選ぶかはあの子達次第です。」

 

あの馬鹿ったれは性懲りも無く奴隷のエルフを買い込んで手篭めにしてました。

ええ、おかげで即プッツンきましたわ。

エルヤーを成敗したあとわけも分からず怯えるエルフっ娘達には『転移』で私の領地へ飛んでもらって、そこで今後の人生を選んでもらう事にしました。

私の屋敷でメイドとして契約分の借金が返済できるまで働くか、全てを捨ててエルフの国まで帰るのか。

 

前者ならちゃんとした雇用契約書を仕立てて、奴隷契約時の売買金を私の屋敷で使用人として働いてもらい返済させます、勤務時間は朝8時から夕方5時まで、うち昼休憩1.5時間、残業なしで社宅完備のホワイト企業ですので労働初心者の貴女も安心!

同僚のエルフも居ますので職場環境は決して悪くないはず、定期的にアンケ取って雇用満足度調査してますから!

 

そして後者を選ぶなら、私が借金を全額返済したうえでこっそり耳も再生させ、エルフの国へ帰ってもらいます。

帰ってもらうと言っても我が国とエルフ国は絶賛戦争中ですので近くの森まで送る程度ですが。どっちにしろ奴隷エルフは自由になるし、そこからは彼女達の器量次第ですわ。

そもそも私、奴隷制度反対なんですよね。前世二十一世紀の日本人ですし、価値観が違い過ぎますの。

エルフ国との開戦後に法国が報復措置の一環として始めたお排泄物(クソ)事業のひとつで、亜人軽視のお排泄物(クソ)議員共が好きな様に考えたおかげで出来上がったキング・オブ・お排泄物。

…って私何回クソクソ言ってんですかはしたない、これも全部法国が悪い!

今では当たり前のようにみんながエルフ奴隷を認知してますけどとんでもない。可能なら今すぐ帝国と法国の奴隷市場を物理的に粉砕して関係者を全員縛り上げ、一人一人十字架に張り付けにして喉が潰れるまで神の前で懺悔させてやりたいくらいです。その為に魔法をアレンジして十字架型の氷塊を生成できるようになったくらいですし。

この際だから技名も改変してやろうかしら、《十字型殲滅冰槍(クロイツヴェルニクトランツェ)》とかならアインズ様も気に入りそうですわね。

 

(レイラちゃんの顔こっわぁ…)

 

ケレスちゃん!?そんな顔して怯えないでくださいませんこと!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼、お嬢さんがた。

少しよろしいですかな?」

 

ふと、スネイ○先生に激似の声で呼ばれたような気がしたので顔を上げるとそこには品のある白髪のご老人の姿がありました。

あら、ダンブル〇ア先生?此処はホグ○ーツだったかしら。

 

つかこの面、見た事ありますわね。

 

もしかして、イベントじゃな?(名推理)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国四騎士が一人、『雷光』バジウッド。

裏路地生活から成り上がり、今や四騎士筆頭とも噂される彼は現在皇帝命令により護衛の任を解かれ、宮廷魔導師の捜索に駆り出されていた。

部下も5人ほど動員し、市街地を初め彼の向かいそうな場所を虱潰しに探してはいるが成果はなく、辟易としていた所に漸く部下から吉報が舞い込む。

 

「まぁそりゃそうだよな、魔法詠唱者サマなら此処に来るわ。失念してたぜ。」

 

部下とともに受け付けに顔を通し、目撃情報があった場所に向かうとそこには人集りが。皆魔法学院の制服を着用しているので学生なのだろうが、誰も彼もがメモを取りながら人混みの中心に耳を傾けている明らかに異様な光景。

 

「おーう悪ぃな、帝国騎士のお通りだ。

道を開けろよー。」

 

バジウッドが人混みを掻き分け進むと案の定、そこには見慣れた宮廷魔導師の姿が。周りの目も気にせずになにやら2人組の女性と熱心に話し込んでいる。

話し掛けようとしたのだが…

 

「なるほどのぉ…つまり法国の魔法理論の根底には四属性に加え光と闇の二属性、つまり6つの属性によって基礎が象られていると。

ならば先程聞いた位階魔法より古に存在する魔法とはルーン技術に通ずるものがあると!?」

 

「ええ、扱える者はひと握りの竜種と文献に綴られていますが数多の命を代償にし放つ極大魔法の存在は法国内でも既に証明されています。

故に既存の属性魔法は体内に有する魔力を6つの『色』に変換し体外に放出する、人体とは例えるならば魔力の変換装置だと私は考えています。」

 

「ほぉ!そういう捉え方もあるのだな…!

そうか!それが先程レイン殿の仰っていた無詠唱魔法の定義に繋がるわけじゃな?

なるほどなるほど。帝国の者では思い付かぬ独自の視座、若い身でありながらそれ程の知識をお持ちとは…いやはや感服致しましたぞ!」

 

「フールーダ様こそ!

魔法の最大化技術と術式の最適化において右に出る者はいないではありませんか!特にこちらの論文に記載されている簡易魔法陣、お独りで構成を練られたのでしょう?一節簡略化するのに2年掛かると言われている魔法術式を僅か5ヶ月で4節も短くできるだなんて…私の知る限り法国にもこれ程の才ある術者はいらっしゃいません。

陳腐な褒め言葉ですが、流石は逸脱者と呼ばれしフールーダ翁にあらせられます。」

 

「いやなんの、探究心こそ儂の原動力なれどそれを支える弟子たちの働きあってこその成果。

それより先程話に出てきた《撃杖》なるマジックアイテムについて詳細を聞かせて欲しいのだが!法国の魔術の真髄を是非この目で見てみたい!」

 

「勿論です!

どこか魔法を放てるような広いスペースがあれば良いのですが…」

 

「それなら問題ない!おおぃアルシェ、アルシェよ!学院の第二校庭を空けよと教頭へ通達せい!

これは学院長命令である、急げ!」

 

「は、はいフールーダ様、直ぐに!」

 

「あー…ちょっと宜しいですかい。フールーダ様。」

 

 

おずおずとバジウッドは話し掛ける。

ヒートアップした2人の会話は広い図書館内に響き渡り、なおも魔法談義を聞きたがる生徒達が集まってきている、野次馬が集まっていたのはこのせいか。ほっといたらこの2人無限に会話が続きそうだ。レインと呼ばれた女性の隣では彼女の補佐らしき白髪女性が鼻ちょうちん作って眠っているのが見えた、多分ヒートアップする2人の話に興味なくなって寝てしまったのだろう。「俺だってもう帰って寝たいわ」とバジウッドは心の中で悪態を吐いた。

 

「ぬ?なんじゃバジウッド、話の最中に。

邪魔するでない!」

 

「いや皇帝陛下からアンタを捕まえとけって仰せだったんですが…ちょーっと遅かったみてえですな。」

 

「陛下が儂を?

そうだお前にも紹介してやらねばな、こちら法国より来訪されたホーエンウッド女教授。この若さで第6位階を修める才女であるぞ。助手のマスターグ女史も優秀な魔力詠唱者じゃ。

女性の身ながら魔導を極めんとするその心意気には儂と通ずる所がある!素晴らしい!」

 

第6位階、という事は相当な魔法詠唱者であるという事は魔法に疎いバジウッドにも理解できる。

そしてこの短期間であのフールーダと意気投合するという事はこの瓶底メガネの彼女も同類なんだろうな、とバジウッドは頭ではなく魂で理解した。

 

 

「ご紹介に与りました、レイン・エルリク・ホーエンウッドと申します。

こちらは助手のケレスで…あらもう、起きなさいケレス。」

 

「ぁー…話終わったぁ?」

 

「貴女ずっと寝てたんですか!?せっかくフールーダ様から貴重なお話を聞かせて頂いたというのに…後でレポートを書かせますからね!」

 

「うげぇっ、嫌だぁ…」

 

「申し訳ありませんフールーダ様、この子ったらいつもこんな調子で…実力はあるんですけれど。」

 

「ホホ、良い良い。

考える事は頭を使うのじゃ、貴女が目を掛ける程の才女であれば相応にな。

違う見方で物を見ることが如何に困難で脳を酷使するか儂も身をもって知っておるとも。

休む事もまた、魔導の探求に他ならぬよ。」

 

 

 

バジウッドの捜索も虚しく、フールーダは法国の魔法学者と接触してしまったようだ。

やたら興奮した老人からまくし立てられ、結局バジウッドも法国産の新しいマジックアイテムとやらを見学する為に学院へと赴く事になった。

 

(面倒な事に巻き込まれちまったなぁ…)

 

辟易とするバジウッド。

法国は敵対こそしていないがレイン女教授は他国の、それも第6位階が使えるとなればフールーダ級の重要人物だ。そんな彼女を帝国の重鎮が前準備もなく連れ回しているとなるとジルクニフからなんと言われるか…

 

(つーか大概レインっつー女教授も自由だよなあ…)

 

道中、「レポートやだぁ…やだよぅ…」と文句を垂れながら教授の私物らしきトランクケースを抱えレインに襟首を掴まれる助手を見て謎のシンパシーを感じざるを得ない。あの子もきっと師匠に振り回されてるんだろうなあ、可哀想に。

 

余談であるが図書館から学院に赴く最中、移動する2人を追い掛けるように集まった学生の波が蠢いてさながら民族大移動の様だったと受付の者は後に語る。

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

ところ変わって、此処は帝国魔法学院

 

 

 

案内されたのはサッカーコート2面分ほどの面積をもつ学院内の校庭、普段ならば実技の授業で《火球》などの攻撃魔法を練習する場だ。近場に燃え移るものもない。

そんな中、レインはトランクケースを助手から受け取ると金具のロックを外し、中からパーツを取り出していく。

小さい部品から大きい部品まで、中には明らかにケースに入らないであろう長さの鉄の筒が出てきた時はギャラリーからどよめきが上がったが「企業秘密です」とレインは笑顔で黙秘を貫いた。

 

「さて、それでは組み立てがてらこのマジックアイテムについて軽くご説明致します。

先程もお話したように私の専攻は魔法地質学、大まかに言うと魔力の根本たる『地脈』を捜査、追求する学問です。

普段我々が行使している魔法、その発動過程を研究し根源を探る…そんな感じですね。」

 

慣れた手つきで次々とパーツ同士を組み合わせながらも決して解説をやめないレイン。その仕草に多くの学生が魅入ってしまう。

彼女曰く魔力には『内魔力』と『外魔力』なる2パターンの概念が存在し、内魔力は体内で生成される魔力、外魔力は大地に根ざす自然の力の事を指すらしい。

この世界の人々は属性魔法を発動する際、『地脈』という大地より湧き上がるエネルギーの根源から外魔力を下賜され、それを肉体を通して内魔力と混ぜ合わせることにより初めて攻撃魔法は成立するのだとか。

 

「『名は体を表す』と法国では古くから伝えられており魔法発動に必要な文言、魔法名はいわば存在証明なのです。武技においても技名を宣言する事で初めて発動が可能になりますよね?原理はそれと同じです。」

 

ここまで話を聞いてもちんぷんかんぷんだったバジウッドは自分の身近なものに置き換えられやっと腑に落ちたのか、「なるほどねえ」と相槌を打った。

 

「ならばその逆、宣言しなければ魔法は発動しないのか?

例えばフールーダ様、貴方は《火球》を発動しようとしています。なら先ず何を行いますか?」

 

「ふむ…初めに魔力を込め詠唱し、名を宣言する、と言いたい所じゃが…恥ずかしながらあまり深く考えた事がない。」

 

「高位の術者なら尚更でしょうね。魔法は魔力を込め名を宣言する事で発動できて当たり前、その思考と動作は魔法に慣れれば慣れるほど洗練され、頭と身体に染み付いていきますから。

魔力を込め、内魔力と外魔力が体内で混ざり合い、指先から放出される直前の状態まで準備を整え名を呼ぶ事で初めて魔法はこの世界に発現し、現象として成立するのです。

魔法名の宣言は論文で言うところの『結論』であり、魔法が発動したという『証明』、魔法という現象が辿り着くべき『帰結』でした。故に多くの魔法論者は無詠唱魔法に否定的で、この工程を省略するのは不可能だと判断しています。」

 

ですが…と組み上がったマジックアイテムを机に乗せ、レインは続けた。

 

「省略ではなく『変換』。

魔法発動の宣言を別の工程に置き換えれば、結果として無詠唱で魔法は発動するのではないか?

そう考えた我々が作り上げたマジックアイテム、それが《撃杖》なのです!」

 

ばばーん!とすしざ〇まいポーズの彼女のもとには鉄と木で象られた細長く黒い物。

名を呼ぶのではなくトリガーを引くという行為に置き換える事で擬似的に無詠唱魔法を行使する、それが《撃杖》の真価である。

 

「ほぉ…ほぉほお〜ッ!

見た目は随分と地味だが…このルーンの刻まれた赤い石はいったい?」

 

「それこそドワーフ達のもつルーン技術の結晶、私達は『ルーン石』と呼んでいます。

詠唱を変換する際、この石に込められたルーンがそれぞれの属性に対応し発動工程を詠唱の代わりに『トリガーを引く』という動作に変換できるのです!」

 

そう語るレインが懐から転がしたのは6つの色に別れたルーン石、どれも撃杖にセットされているものと大きさが同じにカットされており文字はそれぞれ違うがルーンが刻まれている。

 

「赤は火、青は水と氷、緑は風と雷、黄色は土、白と紫は聖属性と死霊属性なのですがこの2つはまだ不安定で実用化にまでは至っていません。私の不徳の致すところです…」

 

申し訳無さそうにする彼女だがとんでもない、どれも帝国にはない魔法技術を駆使した逸品だ。

フールーダは興奮のあまり鼻息荒く「さ、触らせてくれ!」とルーン石を取り上げて、うっとりとその輝きに浸っている。

フールーダのお目付け役として隣で説明を聞いていたバジウッドも何の気なしに一番近くにあった緑色のルーン石を摘んでみる。透き通るように綺麗な翠色、中心にはどうやったのか石の中にルーン文字が刻まれていおり、バジウッド程の力自慢ならちょっと力を入れただけで潰れてしまいそうだ。

今にも手に持つルーン石を舐め回しそうなほど興奮した様子のフールーダに対して、魔法について門外漢のバジウッドはこの石ころの重要性にイマイチピンとこないようだ。

 

「ルーン石ねえ…これって何から出来てんだ?

見た感じ随分綺麗だが…」

 

「宝石ですね。」

 

「…えっ」

 

静まり返る一同、フールーダだけは我関せずと食い入るように赤のルーン石を眺めているが。

 

「ルーン石はその性質上、魔力伝導率の高い物質が好ましいのです。

よって外魔力をより通しやすく、より純度の高い天然鉱石が必要になりまして…結果大量の宝石を一旦熱で溶解させて再結晶化、そこにルーンを刻みコーティングする事でルーン石として構築しています。

これもドワーフのもつ製鉄技術の応用です。」

 

地脈より滲みだした魔力の結晶が宝石であると古の文献に語られていますので。因みにバジウッド様の持っている緑のルーン石はエメラルド、ヒスイ、マラカイトの融合石ですね。と笑顔で説明するレインにバジウッドは引き攣った笑みを浮かべて摘んでいたルーン石をゆっくりと机に戻した。それはもう丁寧に。

 

「?宝石としての価値は失われていますよ?」

 

「そういう話じゃねえんだわ!?」

 

「…さて、それでは実際に撃杖を撃ってみましょうか!ケレス、準備して。」

 

「あーい。」

 

撃杖を手渡されたケレスはフールーダから取り上げた赤いルーン石を撃杖後部に嵌め込み、飛び出した金属製の取っ手部分を目いっぱい引き引き金に指をかけた。射撃目標は50メートルほど先に設置されている鉄鎧を装備した案山子だ、予めフールーダの高弟達が設置したものらしい。

 

「射撃時に反動がありますので《飛行》と併用する際は重心制御に注意が必要になります。

魔力を充填、撃ちたい魔法を思い浮かべながら標的に照準を合わせて引き金を引けば…」

 

片膝を着き射撃体勢に入ったケレスが案山子に向けて引き金を引く。

ハンマーがルーン石を叩くのを合図に小さな円筒型の魔法陣が銃身を包むように展開され、筒先から赤い光が走ったかと思うと前方の案山子から炎が上がった。

本当に詠唱していない。小声で喋った訳でもなく、本当に無詠唱で魔法行使した。これは魔法詠唱者からすれば革命モノの衝撃だろう。

中心から円球状に広がった《火球》は間もなく鎧ごと案山子を燃やし尽くし、焼け残りの火が消えた頃合いで、真っ先に声を上げたのは案の定…

 

 

「すっ素晴らしいいいいいいいッ!!!」

 

 

この魔法キチ、ぶれない。

 

「儂にも貸してくれ、是非とも撃杖を撃ってみたい!頼む!」

 

「ええ、是非お試し下さい!

高弟の皆様も宜しければどうぞ。試作品は三本予備がありますし、詳しい取り扱いをご説明致しますね。」

 

レインの言葉を皮切りにどっと人が押し寄せる。常に新しい物に飢えている学生達の好奇心も我慢の限界だったようだ。

彼女から撃杖の取り扱いについて簡単な解説を受け、早速試し撃ちを試みる学生達を眺めながら、「若いってすげえなあ…」と若者の熱意に若干引き気味のバジウッド(おじさん)なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃああああっはっはっはっはぁ!!!

素晴らしい!本当に無詠唱で魔法が発動できとる!最大化すら無詠唱で掛けられるとは恐れ入るぞォ!」

 

「し、師よ落ち着いて下さい!

レイン教授のご説明によると発射時の衝撃は腰にクるそうです、連発は御身に響きます!」

 

「年寄り扱いするでないわ!

まだまだ試し足りん、この魔力尽きるまで(ゴグギッ)ほ''ァ''ッ''!?!?!?」

 

 

(((い、今フールーダ様の腰から凄い音が…!)))

 

 

バジウッドは無言で天を仰いだ










バジ「…つーワケでフールーダ様は暫く絶対安静だそうです」

ジル「えぇ…」



帝国編はもうちょっとだけ続くんじゃ


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