破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった… 作:ハンバーグ男爵
オラッ!投稿!
※9/9
水霞(すいか)様よりまたまた素晴らしいイラストを頂いたので掲載させていただきます。
変装レイラ
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水着差分(存在しない記憶)
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水着レイラ(存在しない記憶)
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こんな作品を愛してくれて…あ''り''が''と''う''ッッ!
『ごきげんよう皆様がた!
私、今年の学年代表を務めさせて頂きますレイラ・ドゥレム・ブラッドレイと申しますわ。
本日はお日柄も良く、入学式にもってこいの日和ですわね!新入生代表として大変嬉しく思…え?なんですの学園長…ちゃんと原稿読め?嫌ですが!
私、この学校でやりたい事がありますの!それはですねえ…あっちょっ…教頭先生?マイクを取り上げようとなさらないで!
新入生代表の挨拶を任されたのは私ですのよ!
なあなあで誤魔化さないでマイク返しなさい、誤魔化すのは貴方の薄毛だけで十分ですわ!
あぶなっ!!杖抜きましたわね!?やったろうじゃねーですかァ!!』
何やってんだこいつ
というのが彼女への第一印象だった。
代表挨拶で意味不明なマニフェストをぶち上げて、教頭(第5位階習得済み)と壇上でドンパチ繰り広げ、最終的に彼のカツラを剥ぎ取り勝利宣言を新入生代表の挨拶とした異例の入校式は今も脳裏に焼き付いてる。
上級生からやっかみを受けながらも挑まれる決闘は全戦全勝、教授でさえ思いつかない様な魔法の論文を在学中に何枚も書き上げるその偉業の数々は私達が卒業した後でも学園に語り継がれてる。
辺境出身の異端児、レイラ・ドゥレム・ブラッドレイ
〝血濡れ〟の娘、亜人殺しの野蛮人なんて揶揄されていたあの子とつるむようになったのは何時からだっただろう。
周りが凡人ばかりでウンザリしていた私に刺激をくれたのはレイラちゃんだった。
奇抜な言動でみんなを引きずり回して場を掻き回す癖に、最後は必ず大団円と高笑いできちんとまとめてしまう。そんな彼女に私は無意識の内に惹かれてた。
私も昔はちょっと…ホントにちょっとだけ調子に乗ってた時期があった。名前も思い出したくないアイツにコテンパンに叩きのめされるまで気付かなかったけど、思い返せばレイラちゃんはいつも調子に乗る私を窘めてくれていたっけ。
いや、それ以上にレイラちゃんがぶっ飛んでて周りからは『やべえ二人組』って認識されてたんだけど…
若気の至りよ、若気の至り…フフ…
それから何の因果か、法国最大の秘密組織で私とレイラちゃんは再会できた。
レイモンのおっさんはあの子の素行を見て脇腹を抑えながら唸っていたけど、彼女の入隊については正直納得しかない。
レイラちゃんに相応しい職場は漆黒聖典くらいしかないだろう。
………
「今日のプレゼンはバッチリでしたわね!
これで帝国もよりルーン魔法の重要性に着目してくれることでしょう、フールーダ様とのパイプもできた事ですし万々歳ですわ。」
「じゃあ明日は予定通りカッツェ平原の調査?」
「ええ、相手が正体不明のアンデッドとなればフールーダ様でも手こずるでしょうし、私たちの出番です。」
あの後散々撃杖を撃ちまくって腰をいわしたフールーダと別れて私達は宿まで戻り、夕食を終えて今は一息吐いている。彼は明日も魔法談議をしたいそうだがあの様子じゃ無理でしょ。
私が帝国に訪れた本当の目的、それは《占星千里》の予言で見えた人類に仇なす未来の阻止。
本当はこんな仕事、陽光か火滅辺りがやってくれれば良いんだけど、エルフ国との戦争の兼ね合いで人が足りないので仕方ない。
やり方は私に一任すると言われたので好きにやらせてもらうつもり。
内容は単純、『カッツェ平野に現れる大規模アンデッド群の討滅』だ。
スレイン法国はこんな風に秘密裏に部隊を派遣して誰にも悟られないように人類の繁栄を手助けしている。今回もそう、カッツェ平原から現れるアンデッドは強力だ。帝国の軍隊だけだと退けられはしても大きな被害が出るかもしれない。けれど法国と帝国は国交はあるものの友好国でもないので表立って救援になんて向かえない、向こうからしても恩を売りに来たと思われるから。野心の強い今代の皇帝なら尚更に。
だから一般人になりすました私達が影からサポートしてやって危機を乗り越える。
まあレイラちゃんの方は本当に帝都観光が目的で来たみたいだけどこの際なので手伝ってもらうことにした。あの子の性格上断る事なんてないだろうし、私も楽できるから。
「それに、ねえ?
貴女専用の撃杖も試験運用に丁度いい事ですしぃ。
うっふふふ…明日を楽しみにしてなさいな。盛大な花火が上がりますわよ!」
にたあっと笑うレイラちゃん。
《無限魔力》の異名を持つ私専用の撃杖ねえ…一体どんな代物なんだろ。
そもそも《撃杖》の構想を聞いた時は半信半疑で正気かコイツって思ったけどまさか本当に完成させるとは…これ業界がひっくり返るレベルのマジックアイテムだよ?
無詠唱魔法なんて一昔前までは鼻で笑われる夢物語だったってのに、レイラちゃんは何の気なしにやってのけちゃうんだから…
「ワーカーは誰を雇うつもり?
事前の打ち合わせじゃ『ヘビーマッシャー』か『竜狩り』のおじいちゃん達が候補なんだっけ。」
「そう思ってたんですが、先程ロビーに降りた時にフールーダ様の高弟の方にお会いしまして。
彼女の推薦もあって『フォーサイト』に発注しています、返答は明日の朝までお預けですわ。」
フォーサイト…たしか4人組のワーカーでバランスも取れてて実力もそこそこ、
レイラちゃん曰く大人数で向かっても目立つので少数精鋭で平原に向かいたいそうだ、そっちのが動きやすいのは一理ある。
「アンデッド群はどのくらいの規模なのか不明なのがネックですわねぇ、《
「気になって出発前に《占星千里》ちゃんに直接聞いたんだけどサッパリよ、あの子が言うに霧の中に蠢く無数のアンデッドの群れが見えたんだって。
カッツェ平原なら自然発生の説もあるけど私が思うに原因は多分、最近活発化してる『ズーラーノーン』の仕業なんじゃないかな。」
『ズーラーノーン』、アンデッドを使い騒動を起こす傍迷惑な秘密結社。
下部組織なんかも枝分かれしてて、スレイン法国の諜報能力を持ってしても未だにトップの「盟主」とやらは見つかっていない。ウワサじゃそいつの高弟の一人に法国を脱走した元神官が在籍してるんだとか、とにかく面倒な連中だ。
つっても危険な組織なのは間違いないので聖典出動案件、普段は火滅か陽光が対処する。
法国的にはアンデッド使役は完全にクロなので見つけ次第裁判無しの即死刑が決まってる、選べるのは処刑法くらいよね。
カッツェ平原なら自然発生のふりして割と誤魔化せたりしちゃうからなあ、可能性としては十分だ。
「ま、どちらにせよ全部片付けてしまえば問題ありませんわね!」
うん、この子はブレないなあ
◆
「嫌よ私は、絶対受けないから。」
「まあそー言うなって、な?」
帝都某所、レイラ達も泊まっている宿屋『歌う林檎亭』。
かつて林檎の木から作った楽器を奏でる吟遊詩人達が集まった事が名の由来となったらしい、それなりに年季の入った宿だ。
そんな宿屋の1階に設けられた酒場、その一角である4人組が円卓の上に置かれた依頼書を囲みながら唸っていた。
「報酬は良いんですよね、報酬は。」
そのガタイに似合わぬ優しい瞳と物腰柔らかな態度が目立つ大男、ロバーデイクに合わせるようにリーダーのヘッケランは頷く。
「それなんだよ!
最近闘技場の報酬シケてるだろ?宿の支払いも危ねえしここらで儲けが必要なんだよ、分かってくれイミーナよぅ。」
「嫌よ!だって依頼主は
絶対ロクでもない裏が有るに決まってるわ!」
猛反対するイミーナの両耳は人より尖っており、
ご存知かもしれないが帝国は奴隷制度を良しとする国家だ。
そして市場で主に売買されるのはエルフ、しかもスレイン法国から輸入されるエルフが大部分を占めていた。なので同族のイミーナにとっては喜ばしいことではない。それに拍車をかけるようにスレイン出身のエルヤーが同職に居た。
彼の素行は皆の知るところ、奴隷のエルフをゴミのように扱い、往来で暴力を振るうその姿を何度見かけた事か。
それがトドメとなったのか、〝スレイン法国〟という単語に極端な嫌悪感を示すイミーナをなんとか説得しようとリーダーは口を回しているわけだ。
「ごめんなさい、良かれと思って私がこの依頼を持ってきたから…」
そんな中ひとりしゅんとする金髪の少女、彼女の名はアルシェ。
とある事情でワーカーをやっている彼女は第3位階までを習得した凄腕の魔法詠唱者である、昼は魔法学院の生徒として活動し、夜はワーカーとして二足のわらじを履いていた。
(学業の合間にワーカーするだなんておかしな事を言った私を受け入れてくれた人達にせめて羽振りの良い依頼を受けて欲しかっただけなのに…どうしてこんな事になっちゃうの?)
アルシェ・イーブ・リイル・フルト、それが彼女の本名だ。名から分かる通り貴族の娘である。
鮮血帝ジルクニフの行った無能貴族の大粛清、その煽りを受けたのが彼女の家だった。
地位はなくなり財産は没収された、残るものも少なくなったフルト家当主はまだ貴族という地位に固執して散財を続けている。膨れ上がっていく借金を見かねたアルシェは学業の合間にワーカーとしての活動を始め、報酬を借金返済にあてているのだ。
しかし父親の浪費癖は留まることを知らず、2重生活で心身共に疲弊しきっていた。
このままでは身体を壊してしまうと、彼女は泣く泣く学生としての立場を捨て活動をワーカー一本に絞ろうと考えている。
そんな彼女が残り少ない学生生活を送る中、師であるフールーダと共に出会ったのが法国からやってきたというレインであった。
フールーダの高弟の一人、という立場で顔と名前を覚えられていたアルシェは偶然歌う林檎亭でレインと遭遇し、彼女がマジックアイテムの稼働実験の為に雇えるワーカーチームを探していると聞く。
依頼料も破格の待遇だったので自身が世話になっているフォーサイトを推薦し、真っ先に依頼書を貰ったのだ。
「謝る必要はありませんよアルシェ。
元はと言えば貴女がフールーダ翁の高弟だからこそ受けられた依頼です、そうでなければこのような高待遇の依頼など我々は知りもしなかった。」
自分のせいでメンバー内の不和を招いてしまったと後悔するアルシェにロバーデイクは優しく諭す。
しかしイミーナは一向に納得する気配がない、ため息を吐くヘッケランは彼女を安心させるため、アルシェに援護を求めた。
「そうだアルシェ!依頼主の学者さんと会ったんだよな?
だったら人柄とか教えてくれよ、流石に文面だけ見て納得しろは無理があるからな。」
「分かった、えっと…
女の人、外見は青い髪で瓶底メガネ、白髪の助手を連れてた。
お師匠様と魔法談義で盛り上がれるくらい魔法に詳しい、知識も相当なものだと思う。」
「ほう、それはすごい。聡明な方なのですね。」
「マジックアイテムも開発してるって言ってた。
実際に使わせてもらったし、性能も抜群。明日の依頼もそのアイテム達の使用実験なんだと思う。」
「そのアイテムとやらの詳しい情報は?」
「依頼を了承してくれたら説明するって言われた、一応国の守秘義務があるからって。」
「フールーダ翁と渡り合える才女であるなら背後に法国がいてもおかしくはありませんね。
貴女の〝眼〟にはどう映りましたか?」
「魔力量はフールーダ様より少し下で、本人は第6位階の魔法が詠唱出来ると言ってた。」
「だ、第6位階!?それはそれは…」
あのフールーダですら至るまでにその身で寿命を伸ばしに伸ばし、長きに渡り生きてきたうえで習得した魔法を若い身でありながら既に会得しているという事実にロバーデイクは驚愕を隠せない。
「彼女の異能力が影響しているって言ってたけど詳しい事は分からない。」
「そんでよ、アルシェから見てどう思ったんだ?魔法云々じゃなくてさ。」
「…優しそうな人だった、お師匠様みたいに一旦熱が入ると止まらなくなるみたいだけど。
それと説明も上手で、法国では教授をしているんだって。
人当たりも良いし、正直同じ法国出身でもエルヤーとは全然違う。」
「ぬぅ…」
アルシェの言葉に嘘はない。
押し黙るイミーナ、その姿を見かねたのか今度はロバーデイクから更に援護射撃が入る。
「そう言えば、帝都中央の噴水広場が氷漬けになったのを知っていますか?」
「ああ知ってる知ってる、ぶん殴られたエルヤーが見事に冷凍保存されてる奴な。
誰がやったか知らねえがオツな事してくれるぜ。」
〝氷漬けのエルヤー事件〟は瞬く間に市井に広まり、1日と経たずワーカー達の間では今や知らぬ者は居ないほどの知名度を誇る。その情けない姿をひと目見ようと帝都中から人がやって来て新たな観光名所と呼ばれるほどだ。
正直凍る前より人気なんじゃね?と皮肉ったのは誰だったか。実際その通りなのだから困る。
「その事件が発覚したのは今朝がただったのですが、前日の夕暮れ時に噴水前でエルヤーと言い争いをする女性二人組が目撃されたようなんです。」
「つまりエルヤーを凍らせたのも教授達だと?」
「ええ、だと私は考えています。
目撃者から話を聞くとどうやらエルヤーが連れていた奴隷が原因で言い争いになり事に至ったと。
その後エルフ達の奴隷契約書に人数分の金銭を支払い、置いておいたそうです。わざわざエルヤーの血判までとって。
この状況、2人がエルフ達を解放したのだと判断できませんか?
確かにエルヤーは酷い奴ですが、同郷出身だからと言って全員彼と同じとは限りませんよイミーナ。」
さすがはチーム内で一番弁の立つロバーデイク、割と言ってることは正論なのでイミーナも「ぐぬぬ…」と唸りお口がミッ○ィーみたいになっている。
「…スレインの学者サマがすげえ奴って事は分かった、とりあえず明日直接会ってみて判断するしかねえよ。
な、イミーナ?会ってみるだけだから。」
それにせっかくアルシェが持って来た美味しい仕事だ、フイにするのも勿体ねえしな。
と落とし所を決め、話を切り上げるように酒を注文し始めたヘッケラン。イミーナはまだ納得はしていないようだが思うところあるのだろうかさっきよりは大人しくなったようだ。残った時間にエルヤーへの愚痴を酒の肴にしながらフォーサイトの夜は更けていく。
「そういやカッツェ平原って言えばよ、最近行方不明者が多発してるらしいな。大方大穴狙いの馬鹿共が無茶したんだろうがさ。」
「アンデッドを駆除し申請すれば帝国も報奨金を出してくれますからね。
欲を搔いて平原深くにまで潜り、後戻り出来なくなってしまいそのまま…というのはよくある話ですし。我々も気を引き締めなければ。」
◆
レイラ滞在3日目、朝
『歌う林檎亭』
朝、といってももうそろそろ太陽は真上に差し掛かり、昼飯が近いと胃袋が鳴りだす時間帯。
日中は酒場ではなくカフェとして営業している一階広間の隅で、昨日と同じ席に座り依頼人と対峙するフォーサイトの面々が居た。
アルシェの情報通り青い髪に取ってつけたような瓶底メガネ、小綺麗な身なりと装いから深い教養を感じさせる。
「初めまして、フォーサイトの皆様。
スレイン法国より参りました、レイン・エルリク・ホーエンウッドです。
来て頂けたということは依頼の件は受けて頂けるという事で宜しいですね?」
レインの後ろには助手のケレスが、向かい合うヘッケランの後ろにはアルシェ、イミーナ、ロバーデイクが控えている。
「ちょいと待ってくれや、先生。
俺たちも受けたいのは山々だか依頼内容が不明瞭過ぎてな、アイテムの実験以外何にも分からねえんじゃどうしても不安になっちまう。
こちとらパーティの命背負ってるんだ、報酬が美味しいのは良いが詳しい話を聞いてから判断したい。」
少し高圧的に、そう問う。
この手の羽振りの良い依頼には大抵裏がある、昨日イミーナが喚いていたように。金も欲しいが最優先すべきは仲間の命だ、慎重になるに越したことはない。
頭のお堅いスレイン法国のお偉いさんなら少しでも機嫌を損なえば憤慨してこの話はご破算になる筈だ、そうなりゃ「残念だった」で済む。とヘッケランの僅かばかりの打算であった。
しかしレインはにこやかな笑顔を崩さない。
「それもそうですね、命を掛けて頂くのに些か礼儀を欠いておりました。申し訳ございません。
今回貴方がたに使っていただきたいのはこちらのマジックアイテムです。」
と、魔法のトランクケースから出てきた物が机の上に並べられていく。
「…なにそれ、弓?」
「こっちはメイスのような…他にも色々ある。」
「これらは現在開発中のマジックアイテムでして、フォーサイトの皆様には稼働実験をお手伝いしてもらいたいのです。」
場所はカッツェ平原、アンデット蔓延るかの地なら実験の的は沢山居るからと彼女は語る。
「何故それをわざわざ帝国のワーカーにやらせる必要が?大事な実験なら国内で済ませちまえば良いだろう。」
「このアイテム群を販売するに当たって想定する客層は冒険者、もしくはワーカーだからです。
命の危険と隣合わせの冒険者達の生存率を僅かでも上げるため、私は法国でマジックアイテムの研究をしています。
昨日アルシェさんにもお見せした《撃杖》もその一つですね。
なるべく実戦に近い形でデータが欲しかったので、帝国ワーカーの皆様にご協力を仰ぐ形となりました。」
実際のところ、ワーカーとしての質は各国と見比べても帝国が随一だろう。汚い仕事も行うのにあのジルクニフから見逃されている理由は一重に彼等の仕事のレベルが高いからだ。必要悪としての側面もある。
仕事人としての力量を認められているからこそレインは帝国のワーカーに接触した。
「うーん…
どうだお前ら、この依頼。」
正直なところ、この女に裏は無さそうだとヘッケランは判断したが最終確認の意味も込めてメンバーに参加の是非を問う。
「私は大丈夫、撃杖ももっと撃ってみたいし…」
この依頼を持ってきたアルシェは勿論肯定派。
「我々の実力を鑑みて依頼してくれたのならば、それに応えるしかありませんね。」
ロバーデイクもそれに首肯する。
最後まで反対していたイミーナは…
「ねえセンセ、ひとつ聞かせて。」
「はい?」
「私は半森妖精よ。」
ここで大胆なカミングアウトだ。スレイン法国はエルフを奴隷にまで貶める人間至上主義国家、普通なら何かしら嫌な顔のひとつでもされる所だが。
「ええ、見れば分かります。」
レインの笑顔は全く動じなかった。
それが気に食わないのかイミーナは更にまくしたてる。
「ッ人間至上主義の法国サマがエルフ風情に金払ってまで実験頼む必要があるのかって言ってんの。」
「???
必要ならエルフだろうとドワーフだろうと雇いますが…
ああ、そういう事ですか。
イミーナさんは法国にどんな宗教があるかご存知ですか?」
「そりゃアレでしょ、六大神だかなんだか…」
「はい、その通りです。
ですが六大神信仰にも分派が別れておりまして、国民の大多数は人間至上主義のアーラ教徒なのですが私はスルシャーナ教を信仰させていただいております。」
スルシャーナ教。
命あるものに安らぎを与え、同時に久遠の絶望を与えるとされる六大神が一柱の名を冠した分派である。
他の神達と違い異形であったかの神は人類以外にも寛容で、そんな彼の意を継ぐ信徒たちは『志を同じくするならば亜人種、異形種とも分け隔てなく接し、救いの手を伸ばすべきである』という思想が強い。
本国でもスルシャーナ教徒達はエルフ奴隷の売買について反対運動を行っており、戦争の早期終結を願っていた。勿論その旗頭となっているのはあのなんちゃってお嬢様である。
「なんと、法国にはそのような教えのある分派が存在していたのですね。」
「アーラ教に比べると圧倒的に信者が少ないので他国にあまり知られていないのも無理はありません、法国は秘密主義ですし。
私の故郷の領主様が熱心なスルシャーナ教徒でして、奴隷として売買されていたエルフ達をお金で解放して領地に住まわせたり、領内では賃金を払って正式に従業員として雇い入れたりしているんです。私も幼少の頃に遊んでもらったりしていました、なので偏見とかはあまり…」
他にもドワーフや霜の竜の皆様も同じ領内に暮らしていますよ。と笑顔を示すレインにイミーナは顔を顰めたが、やがて諦めたように息を吐く。
「はぁ〜…分かった、分かったわよ。変に考えてた私が馬鹿みたいじゃない。
ヘッケランの好きにしたら?
ただし!アンタの報酬の一割は私に寄越しなさい。」
「なにィ!?そりゃないぜイミーナよう!」
夫婦漫才を始めた2人を置いといて、代わりにロバーデイクが話を進めその日の午後から出発というという話で纏まった。
◆
『もう止めてよお父さん!
ウチにそんな高価なものを買うお金なんてないでしょ、何処から借金してきたの!?』
『ええい煩いぞアルシェ!
これはあの憎き鮮血帝に我がフルト家が屈していない姿を見せつけるための必要経費だ!
そもそもあやつが粛清など起こさなければこんな事にはならなかった…悪いのは全部あの男なのだ!』
『何言ってるの…?命が助かっただけでも良かったじゃない。
この家の家賃だってカツカツだし、魔法学院の学費も今月分まだ払えてないんだよ?ジャイムス達のお給料もまだなのに…』
『家賃やお前の養育費は兎も角、執事共の給料など後回しでいいだろう。
栄光あるフルト家で働かせてやってるだけ有難いと思え、平民共め。』
『…ッ!!なんて事言うの!
もう知らない!ジャイムス達のお給料は私が何とかする!お父さんはもう要らない買い物を止めてよ、このままじゃ本当に一文無しになっちゃうんだから!』
『待てアルシェ、何処へ行く!』
本当に本当に、嫌になる。
私の家は貴族の家系、
新皇帝ジルクニフの行った貴族の大粛清、「無能な者から切り捨てる」を地で行く彼の政策の煽りを真っ先に受けたのがフルト家だ。
たとえ貴族だろうと能力のない人間は容易にその地位を剥奪され、身を落とす。実力主義の彼に着いて来れない者は容赦なく置いていかれた。
彼の政策が正解だったのは今の帝国の様子を見れば明らかだろう、『膿』が切除され市場に正しくお金が回るようになり、歴代最高と言っていいほど今の帝国は繁栄期を迎えている。
それに取り残された哀れな没落貴族が私の父だ。母も父の横暴を
プライドばかり無駄に高く、働いてもいないくせに大口を叩いて高価な壺や食器を買い漁り必死に虚栄を張り続ける父の姿に私は呆れ、自分の力で生きていくことを決めた。
それに私には双子の妹がいる、その子達をあのまま親の下に居させたらどんな未来が待っているか分からない。
幸いな事に私には魔法詠唱者としての才能があった。仕事を探していた折に、丁度魔力系魔法詠唱者を探していたヘッケラン達と出会ったのは正に運命だと思う。
ワーカーは命の危険が付き纏う職業だけど背に腹はかえられないし、それにもうすぐ学院には別れを告げてワーカー一筋になれる。
そんなとき、フォーサイトの集まりでやってきた『歌う林檎亭』のロビーであの人と会って言葉を交わせたのは本当にラッキーだった。
「カッツェ平原で試作マジックアイテム群の調査」という内容の仕事、提示された報酬の額、喉から手が出るほどお金の欲しかった私はつい身内のワーカーチームにその依頼を融通してもらうよう頼み込んだ。
今回の依頼は破格の高待遇だ、この稼ぎがあれば延滞していたジャイムス達使用人の給料も賄えるし、それを払ってもまだ貯金する余裕が生まれる。
この依頼を足がかりにお金を貯めていつか妹達を…クーデとウレイを連れて家を出よう、2人には私のような苦労をして欲しくはないから…
依頼主であるレインさんとその助手のケレスさんを加え、ワーカーチーム『フォーサイト』はカッツェ平原の入口までやってきた。
道中の馬車で借り受けたマジックアイテムの詳しい取扱い法を聞いたのだけど、どれもルーン技術を利用していて帝国産のアイテムでは足下にも及ばない高性能武器。
《撃杖》もそうだけどこの人の頭の中は一体どうなってるんだろう…ちょっと怖くなってきた。
「さて、それではお願いしますね。
私とケレスはデータ取りに専念致しますので最低限のカバーだけ行います。
馴染みの武器とは少し異なりますが皆様の連携なら問題、ありませんよね?」
「嫌味な言い方してくれるじゃないセンセ。」
「このような武具を渡された手前、活躍しない訳にはいきません。」
挑発的に笑うイミーナといつもとは違い好戦的なロバーデイクの2人が持つのは彼女から手渡された武具。
イミーナの持つ弓は普段使う木製のものとは違い鉄製のもの、引き絞る糸にも魔法が掛けてあるらしくより頑丈かつ柔軟な作りで矢の威力を底上げする仕様になっているらしい。その分引き絞るのに力が必要になるのだとか。
そしてロバーデイクにはその身ほどもある高さのタワーシールドとメイス。タワーシールドには重さを無くすルーン魔法が掛けられているから取り回しも利くし、メイスには内部に黄のルーン石が内蔵されていて魔力に反応して《
昨日今日とルーン技術について触れて分かったこと。
ルーン石は撃杖による『変換』、魔力の通り道になる他にも「石に対応した属性の魔法を記憶させる」機能と「それぞれの
ロバーデイクの持つメイスのように、内蔵されたルーン石に魔法を覚え込ませて魔力を流すだけで人の代わりに石が魔法を発動するから、これによって本来信仰系魔法しか使えない彼でも間接的に《地裂震》が使用可能になる。口頭による魔法名の発音が必要だそうだけど。
魔力の蓄積は文字通りルーン石の中にそれぞれの
古くからあるが今では位階魔法の発達によって廃れ、帝国の誰もが見向きもしなかったルーン、法国の学者様が見つけ出したその本領は帝国魔法学院に衝撃を与えた。一部の気の早い学生達は既に過去の文献を漁りまくって図書館にあるルーン関係の書物は空っぽになっているらしい。お師匠様も痛む腰を引き摺りながら図書館に向かおうとして四騎士の方々が必死に引き止めているのを遠巻きに見た。
私も、もうすぐ居なくなるとはいえ無限の可能性を秘めたルーンの力にいち魔法学生として興味が絶えない。
それにルーン石に込められた魔力って
師と同じ、魔力の〝質〟を見る私の異能力だからこそ分かる微妙な差異に違和感を覚えた。
「きょーじゅ、前方30メートル先。
スケルトン5、
探知魔法を使って周囲を探る助手のケレスさんの報告で思考は中断し私達は臨戦態勢に入る。無言でレイン教授とヘッケランが頷きあって、イミーナの肩に手をかけた。
「そんじゃ始めますかね。
イミーナ、頼む!」
「りょー…かいッ!!」
矢を番え、キリキリと張り詰める音の後にイミーナから発せられた矢の軌跡には青白い電光が走っていた。熟練の
撃った本人すら唖然とするなか、教授は凄く嬉しそうにニコニコしている。
「…わーお。」
「うんうん、理論通りです!
イミーナさん、矢を放った感想は如何ですか?」
「威力は申し分無し、でもその分張りが堅くて力が要るわね。連射するとなるとキツいかも。
それと今の青白い光は?雷属性を帯びてたよね。」
「それは弓柄部分に嵌め込まれているルーン石に込められた魔力が発せられる矢に属性を付与しているからです。エンチャントの魔法だと思って下さい。
石の魔力が尽きるまで付与は続きますので、理論上50発は撃てるはずですわ!」
教授はすごく嬉しそう……ですわ?
「ん゙…オホン。それではイミーナさん、少々弓を拝借……
これでよし、先程より弦が引きやすいはずです。
あ、アルシェさんは禿鷲の処理をお願いしますね。ケレス、彼女のサポートと記録をお願い。」
「あーい。」
「了解。」
私が持つのはもちろん撃杖だ、事前にレイン教授から渡された4色のルーン石のうち翠色(雷属性)をセットして射撃体勢を取る。ちゃんと片膝を着いて、反動を流せるように。師の犠牲と教訓を無駄にしてはいけない(戒め)
骨の禿鷲に照準を合わせ、引き金を引く。
放った《
続けざまにルーン石を叩くハンマーとレバーを引いて戻し、2匹目へ。
悲鳴を上げる暇もなく2匹目も炭に変わった。
さらにもう一度引き戻し照準、最後の一匹を堕とした。
…なんだろ、この動作凄く楽しい。
しっくりくるっていうか、馴染むっていうか…私でも魔法を無詠唱で撃てて高揚しているのかも。
「ヒュウ、鴨撃ちたァこの事だな。やるじゃねえのアルシェ。」
「なんか凄くサマになってたわね。」
パチパチと拍手するヘッケランとイミーナ、ロバーデイクも「普段よりイキイキとしていましたよ」って言われた。なんかちょっと恥ずかしい…
「ちょっと見せてね…
石の魔力純度は良好、ハンマーによるインパクト時の損傷もなし。耐久値に若干不安が残るけど、それ以外は概ね理論通りに発動してるよ。」
「なら撃杖の方は耐久テストだけですね、アルシェさんにはこのままバンバン撃ちまくって貰いましょう。
魔力管理は怠らないようお気を付けて。」
「分かりました、レイン教授。」
そう、撃杖は無詠唱で魔法を発動出来てしまうから魔力管理には十分注意が必要だ。
夢中になって撃ちまくった挙句魔力切れで動けなくなりましたじゃ笑い話にもならない、実際昨日も試し撃ちに熱中してた高弟の何人かは気付かないうちに魔力が尽きて動けなくなっていたし。
次にレイン教授はヘッケランとロバーデイクに指示を出し、近接戦闘にて彼等に渡した武器の性能を測るようだ。
ロバーデイクの突き立てたメイスから放たれる《地裂震》が地面を隆起させゾンビ達を分断し、半分をヘッケランが、もう半分をイミーナが処理していく。
ヘッケランに渡されたのは双剣でイミーナのように武器に属性が付与されるタイプのもの、それぞれに火属性と聖属性のルーン石が嵌め込まれていているらしい。どちらもゾンビやスケルトンの弱点なのでまるでバターを切るかのように刃が通る。
「んー…確かに威力は申し分ねえが、取り回しがなあ。
この出っ張ってるのが気になっちまう、ルーン石ってのも剥き出しで危ねぇんじゃねえの?」
「う…それはそうなのですが。
剣は幾らか小型化出来てもルーン石を現状それ以上小さくできないので、細剣や双剣でも必然的にそれなりの大きさになってしまうんですよね。
もっと術式を圧縮してコンパクトに収め、小型化させるのが今後の課題になりそう…
ヘッケラン様、今度は此方の
「はいよっと。
で、コイツにゃ何の属性が付与されてんの?」
「聖属性ですね。
ですがまだ術式の構築が不安定で未完成な部分が多いのでお気をつけて、特に柄のルーン石にはあまり強い衝撃を与えないようお願い致します。爆発しますので。」
「ぶっっ!?ば、爆発!?!?」
「因みに爆発すると…」
「ルーン石の中に蓄えられていたエネルギーが暴走して、衝撃波と一緒に辺り一面吹き飛ばします。何度か実験もしましたので高確率でそうなるかと。
人の半身くらい消し飛ぶんじゃないんですかね。」
「ヒェッ…」
「か、かなり危険なのですね。ルーン石というものは…」
「ええ、ですが得られる力は絶大です。ルーン石はエネルギーを溜め込む炉心の役割も果たしていますから。
それに爆発に関してはもう
かの六代神様の一柱も言っておられました、『自爆はロマン』と。」
「「「物騒!?」」」
「やっぱり法国って頭おかしいんじゃない(真顔)」
そんな会話を繰り返しながら私達は武器のデータを取りつつ、私達は平原の奥へと進んでいく。
かなり進んだ所で武装の点検も兼ねて小休止を挟む事になり、朽ちた建物の跡地らしき場所で休憩する事になった。
「きょーじゅ、撃杖の発射記録とルーン石内浸透魔力の毎分ごとに統計まとめた奴。はい。」
「ありがとうケレス。
うんうん、ここまで実戦的なデータが取れたのは初めて、大きな進歩ですよこれは!フォーサイトの皆様にも感謝しなければ!」
「そりゃ良かった、できりゃあその感謝は形で表してくれると嬉しいね。」
「もちろん、報酬には色を付けさせて貰いますね。」
カッツェ平原は昔からアンデッドモンスターが出没する危険地帯だ。弱いものはゾンビやスケルトンから、強いと
そんな場所が帝国領と隣り合わせにあるという事で、安心できない皇帝は軍を動員して警備を固め備えは万全、その口減らしに私達ワーカーにも国からの討伐依頼が入ったりする。
沢山のワーカーが何度も潜っているのだから当然ルートは開拓されており、出現率の低いエリアなんかも判明済みだ。霧が掛かってて視界は悪いけど深く潜り過ぎない限り迷うことはないだろう。
と、思っていたんだけど…
「ッ!?」
「な、何よコレ!」
「地面が…ッ」
地震、ロバーデイクの《地裂震》よりもっと大きな揺れだ!
まるで波みたいに…地面が蠢いているの!?
グラグラと立っていられないほど大きな揺れに思わず尻餅を着く私達。
するとモコリと大地が盛り上がり、フォーサイトと教授達が分断されてしまった。
明らかに不自然な地面の動き、狙い済ましたかのような地震の発生に嫌な予感のした私は思わずヘッケランに叫ぶ。
「リーダー!魔法で攻撃されてる!」
「分かってる!イミーナ、索敵は?!」
「……ッ駄目!少なくとも術者は私のスキルで発見できる距離に居ない!」
「3人とも此方へ、守ります!《地裂震》!」
ロバーデイクのメイスが光ると私たちを取り囲むように大地が壁のようにせり上がり、揺れから守ってくれている。
「レイン教授の教えが役に立って良かった。
予め自由度の高い魔法を込めて貰っていたようです。大地の魔法、イメージ次第でこのような事もできるのですね。中々に心強い。」
「ッ教授とケレスさんは!?」
『は〜いこっちです〜!』
顔を上げると、頭の中に直接声がこだまする。
3人とも同時に顔を上げたからどうやら《伝達》の魔法を発動させたらしい。
彼女曰く《
『もしかしてこの土流を起こしたエルダーリッチを筆頭にアンデッドが集結しているのかも知れません。十分注意して下さい。』
だとするとこれは計画された襲撃…!?
私達は分断され追い込まれている事になる、アンデッド同士が自分から徒党を組むなんて話は聞いたことが無いけど、奴らは群れで増えれば増えるほどより高位のアンデッドが産まれやすい。犯人のエルダーリッチはそれを見越して…
「ッマズイわねこれは…」
それに索敵担当のイミーナから聞くにどうやらこの騒ぎで周囲のアンデッドが集まってきてるのだそう。ぐずぐずしてはいられない。
「数がヤバすぎ、30…50…もっと増えてる!今すぐ移動しないと囲まれるわ!」
「オイオイマジかよ、楽な依頼のはずだったのによ!」
『こうなったら実験も何もありません、皆さんは急いで来た道を戻って下さい!
私達は別のルートで合流しますから!』
「クライアント放って帰れるかっての!」
『大丈夫、私達の心配は要りません!
自衛手段くらい嗜んでますから…皆様こそ、戻ったら緊急時の武器の使用感についてみっちりと聞かせて頂きますからね!』
「ンな時までアンタは…ああもう分かったよ!
フォーサイト!大急ぎで来た道戻るぞ!イミーナ先鋒、左右はロバーとアルシェで頼む、殿は俺が引き受けた!」
「「了解!」」
「リーダー!?本当に2人を置き去りにするの!?」
「大丈夫だアルシェ、先生は第6位階の魔法詠唱者なんだろ?こんな所でくたばるタマじゃねえさ。それに…これは俺の勘だが、やべえのはむしろ俺たちの方だろ。悠長に待って合流出来そうにねえんだよ。
先生よォ、貰った武器使い潰すつもりでヤるからな!文句は無しで頼むわ、死ぬんじゃねえぞ!」
『ええ、行って!』
隔たれた壁を背にしてフォーサイトは走り出す、非力な私はリーダーの決定に着いて行くしかない。せめて二人の無事を祈りながら。
二人とも、どうか無事でいて…!
前後半に分けるので続きは2、3日後に投稿する予定