破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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イ カ し て ま し た

遅れてすんません




9 破滅フラグしかないワーカーチームと仕事してしまった… 下

 

 

 

 

…目を覚ますとそこは知らない屋敷の庭園だった。

 

一緒に来た二人もキョロキョロと周りを見回しながら、戸惑いながらも杖は手放さないところを見るとワーカーの端くれらしく警戒は怠っていないようだ。

 

あの軽薄な男に買われてから数年、私達は玩具のように扱われた。蹴られ殴られ、最初の頃はあの短小なモノで無理矢理抱かれる度、夜な夜な3人で肩を寄せあって声を殺して泣いていた。戦争奴隷として売りに出された絶望と恐怖で心がぐちゃぐちゃになって、お互いの傷を舐めあっていないと壊れてしまいそうで…

でも後になって気付くんだ、壊れてしまった方がよっぽど幸せだったって。

今となってはもう抱かれることに何の抵抗心も抱かない。行為が終わるのをただ無心で待ち、エルヤーが癇癪を起こさないのを祈るだけ。3人の中で私が一番抱かれた回数が多かったから、それなりに気に入っていたんだろうか。反吐が出る。

神官の職を修めていたのをこれほど後悔したこともなかった、回復魔法なんて覚えていなければこうなる事もなかったのかなって。

 

「綺麗なところ…」

 

思わず声に出してしまった。

《転移》で飛ばされた先は綺麗に手入れの行き届いた庭園だった。何処の国かは分からない、どうすればいいかも分からないまま、私はあの人から渡された書状を握り締める。

 

『今から貴女達を転送します。

向こうでメイドでも使用人でも誰でもいいから見つけて〝これ〟を渡して、そうすれば後の段取りはやってくれる。

…ごめんなさい、国の勝手で貴女達エルフをこんな目に合わせてしまって。私が謝ったところでなんの慰めにもならないけれど、せめて手の届く範囲で出来ることをしたいの。

きっと貴女達にとっても悪い話ではない筈だから…』

 

なんで彼女はあんな悲しそうな顔で赤の他人だった私たちに謝ったんだろう、〝悪い話じゃない〟と言ったのはどういう事だろう、雌の身体以外なんの価値もない奴隷の私にそんな事を言ったってどうしようもないのに。

色んな疑問が今も頭の中をぐるぐると回ってる。

 

「もし、貴女達。」

 

突然呼び掛けられ反射で顔を上げた。

綺麗なメイドさんだった、新雪のように真っ白な白髪をシニヨンで纏めていて、落ち着いて凛とした佇まい。髪の隙間から見える長耳で彼女の種族が私達と同じエルフなのだと悟る。

 

「此処は私有地ですよ。部外者は立ち入り禁止、早々に立ち去りなさい。

警告は一度しか行いません。」

 

「ひっ!?す、すみません…」

 

しまった、いつもの癖で思わず謝ってしまった。

怯える私達に最初は冷たい視線を向けていた彼女だったけど、私の握っている書状に目をつけて寄越すよう促された。

暫くそれを読み、見比べるように私達と視線を行ったり来たりさせながら彼女は立ち上がり、私たちに手を伸ばす。

 

「成程、お嬢様のお客様でしたか。

此処に飛ばされたという事は《転移》ですね?先程の無礼をお許しください。

さ、此方へどうぞ。

旦那様にお目通りする前にお召し物を準備致しますのでその間に皆様には治療と、身体を綺麗にして頂きます。」

 

多分《伝言》の魔法を使っているんだろう、屋敷の中から次々と同じメイド服を着込んだ使用人の人達がぞろぞろとやって来て、私達を介抱してくれた。

驚いたのはそのメイド達が皆エルフだった点だ。

もしかして本当にエルフの国に…ッ!?ということは身体を綺麗にするって…

 

「その顔は何か勘違いしていらっしゃいますね?

ご安心下さい、此処はあのクソッタレなエルフ国ではありませんし、貴女の想像しているような事は決して起きませんよ。」

 

困ったように笑うメイドさんが気まずくて思わず目を逸らしてしまった。じゃあなんなんだ、本当に分からない。

 

「ようこそローグレンツへ、貴女達を歓迎致します。」

 

戸惑いながらも私は彼女の手を取った。

つまらない奴隷人生だったけど、この手を取れば何かが変わる、そんな予感がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッツェ平原。霧立ち込める幽原の墓所のド真ん中にて現在私と相棒は絶賛孤立中、途中までは順調にフォーサイトの皆様といたんですけれど…

 

突然の《土流》、分断される私達、何も起こらないはずがなく…というやつですわ。

 

完っ全に嵌められましたわね!

 

ええそれはもう物の見事に!

 

まあ分断されたのも丁度良かったです、()()になる場合隠密かつ迅速に片付けないといけないので目撃者が居ると困るんですよ。

他の聖典なら任務後に事故を装ってこっそり始末しちゃったりするんですが勿論私はそんな事致しませんよ?でも今回の分断はちょっとラッキーって思ってます。

 

 

フォーサイトにははぐらかして説明しましたが下手人はエルダーリッチなんかではありません、間違いなく人間の術者でしょう。《最大化(マキシマイズ)》と《範囲拡大化(ワイデン)》を付与されて巨大化した《土流》なんてエルダーリッチ如きが打てて堪りますか。連中、できて《火球》が限界ですからね。もしかするとナイトリッチかそれ以上のアンデッドが産まれた可能性も有るのですが()()()が「NO」と言ってますので、その線は無し。

ただの勘と侮るなかれ、ことアンデッドと悪魔に関して私の勘はよく当たりますのよ?なにせ半分はお母様の血が混じっているのですから。

 

「《無限魔力》ちゃん、敵反応は?」

 

「今やってる…

あー、コレ〝当たり〟だね。

骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)紅骸骨戦士(レッドスケルトン・ウォリアー)骸骨騎兵(スケルトン・ライダー)食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)崩壊した死体(コラプトデッド)ほか多数。

何これ、アンデッドの博覧会かよ…数は500を超えてる。」

 

 

 

「霧の中で相当溜め込んでいたんですかねえ。

何年もコソコソとアンデッドを集めて何をする気かは知りませんけど…」

 

死した人間の魂は肉体から離れ、浄土へ旅立つ。現実に遺された身体は本来なら弔われ、灰にするなりして無くしてしまうのが最善手。ですが蘇生魔法の存在するこの世界には復活の手段として遺体は残す習慣があります。まあレベルが低かったり損傷が激しいと復活できず結局灰になる訳ですが、大体の場合は土葬で弔うのです。

それに地域によっては死体処理も大雑把で、特に毎年王国と帝国が戦争して死者を出してるこの平原はアンデッドの温床ですの。

 

それにつけ込んでアンデッドを増やし、(いたずら)に死者を愚弄する不届き者は…

 

本気(マジ)赦せませんわよねぇ…」

 

「ッ…許さないのは分かったから、どーすんの?」

 

ンなもん決まってますわ

 

「派手にブチ壊すに決まってるでしょうが。」

 

トランクケースからぬるりと取り出した、丸太ほどある大きな長方形の箱のような撃杖。9つの発射口の並んだそれを《無限魔力》ちゃんに放り投げると、危なげながら彼女は受け取りました。

 

「使う魔法は《焼夷(ナパーム)》でお願いします、貴女なら無限に撃てるでしょう?連続発動する度に一々喋るのも面倒ですものね。」

 

「そりゃま、そうね。

……待って、これ担いで撃たせるつもり?」

 

「ルーンで軽くしてるので見た目ほど重くありませんよ?

使い方もいつもの撃杖と変わりません。ただレバーを戻す必要が無いのと、リミッターを外してあるのでトリガーを引いてる間は無制限に魔法が飛び出す仕様になってます。普通の術者なら秒で魔力が枯渇して死にますが、貴女なら平気でしょう?」

 

「ホントだ重くない…

なるほど、アタシ専用になるわけだ。」

 

その名の通り、条件さえ整えば無限に魔法を発動できる彼女ならこのじゃじゃ馬も使いこなせる事でしょう。

小物は焼き払って貰うとして、私は大物を仕留めないといけませんからね。

 

「さあ、急ぎで片付けますわよ。さっさとフォーサイトの方々と合流しなくては。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつも通り優雅に華麗にスマートに、人類を救うとしましょうか。ちょっと力加減にが生じるかもですが。

決して旅行を邪魔されたから怒ってる訳ではありませんよ。ええ、決っっっしてせっかくの休日を台無しにされて怒ってるんじゃありませんから!」

 

「ぶちぶちにキレ散らかしてんじゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は優秀な魔法詠唱者だった。

魔法学院をその年主席で卒業したし、勤め先でも成績優秀。そしてその敬虔な信仰心から何れ神官長の座に就くのも時間の問題だともされていた。

美しい妻と最愛の子をもうけ、全てが順風満帆に見えたのだ。

 

傍から見れば

 

その男は物心着いた時から人を人として見れなくなっていた。

原因は分からない。家庭環境のせいではなく、育ちが悪い訳でもなくて、何一つ不自由の無い生活だった筈なのに。

彼は(はな)から壊れていたのだ。

自分を育てる親を血と糞尿の詰まった肉袋としか認識していなかった、隣に侍る妻とよく泣く我が子は蠢くナニカにしか見れなかった。

 

それでも必死に取り繕って、『普通』を生きた。

 

が、ある時彼は天啓を得る。

友人に連れられ訪れた怪しい集会で、一冊の本を渡された。出版元の名は『ズーラーノーン』。

まだその頃は弱小カルトサークル程度だったその組織に彼は感銘を受け、入信する事に。

 

集会の度、盟主を名乗る顔も見えないボロボロのフードの男から囁かれる。

 

ありのままの自分でいいのだと

 

殻を破り、自分を解放しろと

 

周りに合わせる必要などないと

 

その言葉に導かれるまま、最終的に彼は〝弾けた〟

 

 

張り詰めた糸が千切れるように、あるいは膨らみきった風船が針一本で弾けるように。思うまま全てを出し切った。

土の聖典に所属していた彼は腕力こそ無いが地属性魔法の腕前はピカイチだ、そして誰にも言えないが死霊魔術にも適性があった。

極めつけはその異能力、『アンデッドを服従させる』というシンプルかつ単純なその力も真価を発揮し始める。

あるとき彼は唐突に、妻と子供を殺しアンデッドに変えた。そうする事で初めて2人を愛する事が出来た自分に気付く。

 

愛のカタチに生きている必要など無い、寧ろ死んだ後ならいっそう深い愛を味わえる。

世界が違えばその性癖はこう呼ばれていた事だろう。

 

死体性愛者(ネクロフィリア)

 

「死にこそ真実の愛は宿る」そう信じて疑わない彼は『盟主』に導かれるまま両親を(あい)し、同僚を(あい)し、果ては見ず知らずの者にまで独りよがりな()を振り撒いたのだ。

国を追われ、ズーラーノーンに身を置くようになってからもブレーキの壊れた彼は愛を施し続ける。

 

しかし我等を追う者達も一筋縄ではいかない、法国の度重なる捜索により危機を察知したズーラーノーンは表舞台から姿を消した。盟主はお隠れになり他の高弟達も世界中に散らばって各々身を隠す事となる、今は雌伏の時だ。

そして自分も。

あと数ヶ月、死体蔓延るカッツェ平原で身を隠し、帝国を覆い尽くせるほどの戦力を蓄える事ができたなら『盟主』にこの国を捧げよう。

 

 

最近起きているワーカーチーム失踪事件の真相、それは彼が原因だ。

より強いアンデッドを生み出すにはより強い個体が必要だった、なので定期的にカッツェ平原にアンデッド狩りにやってくるワーカーを狙い影から襲う。

アンデッド蔓延るこの地は自分にとって庭のようなもの、まだ最深部まで到達した事は無いがそれもより強力なアンデッドを作り出し従えさせれば踏破も夢ではない。

そう本気で考えて、いつものように迷い込んだ哀れな羊を迎えてやろうと探知魔法を掛けながらお得意の土魔法で分断させ、集めたアンデッド達をけしかけて各個撃破を狙おうと準備を整えていたところ。

 

 

 

唐突に天に向かって巨大な火柱がぶち上がった

 

 

 

ぽかん、と意識が抜け落ちそうになるのを後からやってきた猛烈な熱と風によって現実に引き戻される。

それだけではない、息つく暇もなく大量の火柱がカッツェ平原の静寂をかき消すようにそれはもうどっかんどっかん上がりまくっていた。それが《焼夷》の魔法だと理解するまで数秒要したが自分の知っている《焼夷》はこんなに連発できるものではない。しかもこれは神に近い存在しか唱える事を赦されぬ第7位階の魔法、自分も齧った程度の知識しかないがそんじょそこらのワーカー達が放つものとはワケが違った。

 

なんて考えている間に今まで集めに集めたアンデッド達は《焼夷》の文字通り絨毯爆撃に見舞われ火だるまになっていき、既にその数を半分にまで減らしている。まさに理不尽なまでの暴力、ふと彼の頭に追っ手の可能性が頭をよぎる。

嘗て所属した組織の内部にて、神の意向に逆らう裏切り者を始末する特殊部隊の存在を。

もしそれが自分へ差し向けられているとしたら…?

 

 

明らかな異変を察知した彼は急いで(きびす)を返し隠れ家へ戻ろうと試みた。

 

 

「何処へ行こうというのかね。」

 

 

その恐ろしくも美しい声音に思わず脚が止まる。

振り向けば瓶底メガネが印象的な青髪の女が一人、自分の目の前に腕を組み仁王立ちしていた。

アンデッド蔓延るこの地において場違いなほど軽装備、明らかなイレギュラー、一瞬で彼はこの女が追っ手なのだと悟る。

変な喋り方だな、とは思ったが言葉には出さなかった。

 

「オホンッ…ごきげんよう、良い天気ですね。

墓場のクソみたいな空気吸ってるせいで気分は最悪ですけど。」

 

「法国の手の者か…」

 

「あら、自覚がありましたの?

そうそう追っ手ですよ追っ手、一応聞きますけど貴方こんな所で何をしているのかしら?

ゾンビ使って酪農でも始めるおつもり?」

 

「ハッ!お前には分からんだろう、この行為の崇高さが。」

 

「ええまあ、理解したくはありませんわね。

こんな薄汚い場所に引きこもってやる事なんてたかが知れてますもの。

なので、全部踏み潰しに来ました。

ねぇ、ズーラノーン幹部…法国の裏切り者さん?」

 

「…殺れッ!!」

 

にやにやと笑う女、塞がれた退路は言外に「お前を逃がす気はないぞ」と語っているようなもの。

もはや問答など意味を成さない、命令を下した瞬間背後から巨大な拳がレインを横殴りにした。

血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)、全身筋繊維むき出しの筋肉の塊が彼女の脇腹を殴りつける。

この不意打ちで何人ものワーカーを葬ってきた、無防備なまま受ければ人の骨など簡単に砕き割れる一撃が女へ直撃、巻き上がる戦塵に勝利を確信し、彼女の死体をどんなアンデッドに変えてやろうかとフードの下で下卑た笑みを浮かべる男だったが、生憎と今回は相手が悪い。

 

「…お行儀が悪くってよ?」

 

血肉の大男の振り抜いた拳、指一本一本が大人の拳ほどもある幅のそれを片手で鷲掴みにして止めている。大男も剥き出しの筋肉がプルプルと震え、脚がめり込むほど力を入れているというのに。

 

「ばっ…馬鹿な!?」

 

「嫌ですわ品のない。」

 

大男(ハルク)の拳をそのまま地面に押し付ける、衝撃でクレーターができた。驚愕する男をよそに腕に引っ張られて下がった頭を淑女の右脚が蹴り飛ばす。顔面にクリーンヒットした脚、縦に割られそうなほどの衝撃で吹き飛ばされた大男は何度も地面を砕きながら転がって動かなくなった。当然、首から上は消し飛んだ。ハルクからデュラハンにジョブチェンジかな?

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)死の騎士(デスナイト)!あの女を殺せ!」

 

次々に現れるアンデッドモンスター。

どちらもこの世界においては伝説に語られる程の高位アンデッドだ、そんな存在を彼が従えられるのはひとえに異能力の賜物である。そしてカッツェ平原はどういう訳か高位のアンデッドが産まれやすい。それも彼の力に拍車を掛けていた。

 

雄叫びを上げる死の騎士、それに続いて奇声を発しながらいち早く此方へ飛び掛かろうとした切り裂きジャックが空中で突如動きを止める。本人も気付かぬうちに腹を貫いた《氷葬騎士槍(フリーズ・ランス)》、レイラの異能力によって超絶強化され弾丸の如く飛び出したそれは瞬く間に死体を凍らせ爆散させる。既にレイラは撃杖を抜いていたのだ。

 

「すっトロいですわねぇ、その距離で剣が銃に勝てると思いまして?」

 

続けて突進してくる死の騎士から振り下ろされるフランベルジェを紙一重で躱し、ステップを踏みながら巨体の足下で踊るようにレイラはそのまま両手の撃杖を向け発動、《氷片散弾(アイシー・バックショット)》がタワーシールドに直撃する。強力なノックバック効果と多段ヒットで堪らず仰け反る死の騎士に追い打ちとばかりに何発も散弾を叩き込んだ。

起き上がる巨体に続けざま発砲、ノックバックで倒れ込み、起き上がるとまた発砲、ハメ技でタワーシールドは氷片によって無惨にも穴だらけになり、フランベルジェでも受けきれなくなった死の騎士は遂に自身の《根性》効果が発動したところで地に伏せ、なんの感慨もなくその頭を踏み潰され消滅した。

あっけ無さすぎる、男も拍子抜けしてしまうほどにあっさりと三体の伝説級アンデッドは葬り去られてしまった。

 

「やっぱゾンビにはショットガンって相場が決まってますのよね、前世おバイオ嗜んだ私に隙はなかった。」

 

「ばッ馬鹿なァ!高位アンデッドが三体だぞ!

国すら相手取れる戦力がどうしてこんな…」

 

「どうしてって…私が国より強いからに決まってるでしょうが。」

 

「ッッ!!おのれエエエッ!!」

 

地面が盛り上がる。地が揺れ、割れた大地から巨大な骨の竜が遂に姿を現した。

これこそ彼の切り札、魔法攻撃の殆どを無効にするその巨躯はどんな障害をも蹂躙することができる。更に手ずから地属性魔法のサポートによって物理耐性を持つ土の鎧を着込んだ骨の竜はさながら要塞のよう。

 

「本当は帝国を潰す時の為に取っておきたかったが仕方ない、さあ骨の竜よ!存分に暴れ回るがいい!」

 

「……」

 

「ハハハハッ!

恐怖で声も出ないか!」

 

「なにこれ、くっだらねえですわ。」

 

「…なに?」

 

「正体不明って言うから〝青褪めた乗り手(ペイルライダー)〟クラスを覚悟していたのに骨の竜に毛が生えた程度だなんて…もしかして《占星千里》ちゃんの予言ってコイツの事でしたの?魔法で強化されてるから正体不明って…

なーんか拍子抜けですわねえ。」

 

「こんな小物に私の休日が…」と頭を抱えながら残念そうに唸るレインにふつふつと怒りが込み上げてくる。

自分が長年かけて従えたアンデッド達、都市すら滅ぼすそれらを片手間に滅した挙句自ら強化した骨の竜を「拍子抜け」呼ばわりだと?

 

「巫山戯やがって…ならそのまま踏み潰されて死ぬがいいッ!!」

 

雄叫びと共に骨の竜が全身を軋ませ、その脚を振り上げる。

 

「あら、もう来ましたの?」

 

突如として飛来した幾つもの赤い光が吸い込まれるように骨の竜へと踊り掛かり、大量の魔法陣と共に大爆発と火柱がその身に降りかかった。

耐性を越え弱点である火属性攻撃をもろに浴び、声帯など無いはずの骨の竜から苦悶の雄叫びがこだまする。

巨体がぐらりと傾いて横倒しになるのを眺めながら、空より降りてくる影が一つ。

 

「思ったより時間掛かりませんでしたね。」

 

「雑魚ばっかだったから。」

 

《無限魔力》の異名を持つ彼女の異能力は『反復(リピート)』、一部の攻撃魔法を除き自身が放つ2発目以降の同名魔法の消費魔力を無くす。という破格の能力だ。

代わりに発動する度詠唱が必要になる訳だが、その面倒をカバーするのが肩に担ぐ身の丈程もある大型の撃杖。

これにより彼女は無詠唱で文字通り〝無限〟に魔法を発動できる。固定砲台と化したその制圧力はご覧の通り、目算500を超えるアンデッドを一人で撃滅して余りあるほどだ。

 

「あれ、まだ仕留めきれてない。もしかして強化掛かってた?」

 

肩に担いだ撃杖を起き上がろうとする骨の竜へ向け、トリガーを引く。

カチン、と軽い音がして9つの発射口から一斉に赤い閃光が灯り、慄く男の頭の上を通り抜けそれら全てが骨の竜へと殺到する。爆音と共に再び炎に包まれた骨の竜は今度こそ斃された。

 

「あら〜汚ねえ花火〜。」

「馬鹿な…骨の竜は魔法を無効化する…筈なのに…」

 

「え?確かに骨の竜は魔法を無効化出来ますけど、第6位階までですよ?知りませんでしたの?

で、今この子が放ったのは第7位階、お分かり?」

 

「は、ハハハハ…」

 

掠れた笑い声を上げるしかない男。

長年集めたアンデッド達をあっという間に殲滅されて、差し向けられた刺客は第7位階を容易に連発する女ども、これじゃどっちが化け物か分からないじゃないか。

人の範疇を超えたこの所業、噂に聞く『漆黒』の仕業に他ならないと彼は察した。

神の血を引く神人、圧倒的な戦力差、奴らは法国を脱した自分を確実に始末しに来ている。

本来ならばここで観念するところだが、どうにも彼は往生際が悪いらしい。

歯を食いしばり立ち上がる、全ては歪んだ目標の為、盟主とズーラーノーンの為と!

 

「まだだッ!まだだァ!

《魔法最大化》!《魔法範囲拡大》!

グランドヴ「漆黒聖典パアァンチッ!!」ボォエアッ!?」

 

最早いつ殴られたかも分からない、気付いたら彼は頬骨を砕かれながら宙を舞い、骨の竜が残した残骸に叩き付けられて意識を刈り取られた。続けてバランスを失った骨の残骸が彼の上へと降り注ぎ、埋もれた彼の姿を拝むことはもう叶わない。

何年も掛けて準備した計画も、長年集めたアンデッド達も一瞬にして泡沫に消えた。

 

 

「これぞクレマンティーヌ流、『スっと行ってドスッ』でしてよ。

戦士職も齧ってない魔法詠唱者が敵を前にして何を悠長に詠唱してるんですか。

功夫(クンフー)が足りませんのよ、功夫が!」

 

「(ドスっていうかドゴォって感じだったな…)

何よ漆黒聖典パンチって、ダッサ…」

 

「こまけえこたあいいんですのよ!

ふっ…また人類の危機を救ってしまいましたわね。

ところでどうでした?貴女専用の撃杖は。

名付けるならそう…《天災撃杖(ディザスター・ショットワンド)》!貴女の異能力によって無限に降り注ぐ殲滅魔法の雨あられ、正に天災と言っても差し支えありませんわ!」

 

「〝天災(ディザスター)〟ねぇ…確かに一々詠唱しないくていいのは助かるけど本当に貰ってもいいの?代金くらい払うよ。」

 

天災撃杖は特別製でレイラの持つ2丁と同じオーダーメイド、世界にふたつと無い代物だ。9つ分の発射口がある分使うルーン石数も多く内蔵された魔力回路の密度も濃い、更に物が大きいため作業工程も複雑。材料費、人件費を鑑みれば屋敷一つに匹敵してもおかしくはない。いや、これからの価値を考えるとそれ以上かもしれない。

そう遠慮する《無限魔力》にレイラは微笑む。

 

「いいんですよ、私と貴女の仲でしょう?

法国の安寧の為、ひいては人類の未来の為、特に漆黒聖典の皆様には強くなっていただかないと困りますもの。」

 

「あっそ、全部〝ハメツフラグ〟回避のためって事ね。」

 

《無限魔力》は肩を竦める。

長年学友としてレイラと共に過ごすなか、ふと彼女の口から零れた〝ハメツフラグ〟という言葉。

意味はよく分からないが、自らが知る中では人類最強に近いレイラが本気で恐れ、忌避しているのであれば大体どんなものか想像はつく。

 

(《占星千里》ちゃんでも読み解けない程遠い未来に訪れる人類の危機…ってとこなんだろうけど、本人は頑なに教えてくれないしなあ。)

 

遠い未来に訪れる危機なんて荒唐無稽な話、普通ならバカにされるか笑われるかの2択だが、レイラがそんな冗談を言わない性格なのは長い付き合いで既に知っているし、撃杖の開発や冒険者の生存率の底上げなどと言い出して人類規模で発展を促しているのも危機感の表れだろう。

 

(あんま一人で抱え込まないでよ、親友。)

 

「なにか?」

 

「…べっつにぃ。」

 

「??さあ、野暮用も済んだ事ですしフォーサイトの皆さんと合流しましょうか。ちゃんと苦戦した体を演出しながら向かいましょうね。」

 

自身の撃杖をホルスターに収め、天災撃杖をケースに押し込むと服に泥とホコリを少々付け唐突に《無限魔力》もといケレスを小脇に抱え込えるレイラ。

 

「えっ、何…」

 

「《飛行》は危ないと言った手前飛んでいく訳にもいきませんし、途中でアンデッドに出くわしても面倒ですので。

一気に駆け抜けますわよ!

《能力上昇》、《流水加速》、《雷鳴疾駆》、オマケに《千陣踏破》!!」

 

轟ッ!とレイラの周りに旋風が舞い踊り、足下に雷光が溜り初めて…

 

「レイラ、いっきま〜す!」

 

「まって何その武技、後半2つ初めて聞いtああああああああぁぁぁ!?!?

 

地面を抉り砕いてなお余る程の圧力で飛び出したレイラは霧を掻き分け一直線に、悲鳴がドップラー効果を起こすほどの速度で周囲のアンデッド達も反応出来きぬまま、霧の平原を駆け抜けて行った。

ちなみに抱えられていた《無限魔力》は出走5秒程で過度のGに耐えきれず気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

息があがる、元々もやしっ子で体力なんてなかったから。ワーカーになって多少は体力が付いたけどそんなの慰めにもならないくらいの消耗だ。

でも脚は止められないから必死に息を吸って、みんなに追いすがる。

 

「来るよ!脚が速い…多分腐乱犬(ゾンビドッグ)が5匹!」

 

「よっしゃ、ロバー!」

 

「了解、《地裂震》!」

 

ロバーデイクの攻撃で足下を揺らされ体勢の崩れた腐乱犬にイミーナの放った弓が突き刺さる。例の如く感電して動かなくなったのを見届ける暇もなく、フォーサイトは霧の平原を駆け抜けていた。

 

「これで襲撃何回目だまったく!多過ぎだろアイツら!」

 

「文句言ってる暇あったら走りなさい!

私は気配感知のせいで今だって背中がゾワゾワして堪んないのよ!後ろに100は居ると思いなさい!」

 

思わず私もゾッとした。

100匹のアンデッドに追い掛けられている現状は絶望の一言に尽きる、幸い足の速さは私たちの方が勝っているから四足歩行アンデッド以外が追いすがって来ることはないけれど、スタミナが尽きる前に平原を抜けられるかが勝負だ。

 

「ロバーデイク、大丈夫?

魔法を使い過ぎてる、これ以上は走れなくなっちゃう。」

 

「ハハハ…アルシェの目は誤魔化せませんか。

新しい武具を借り受けて調子に乗っていたのかも知れません、ペース配分を間違えましたね。」

 

気丈に振る舞う彼だけど心做しか顔色が悪いし、〝眼〟で見てもかなりの魔力を損耗している状態だ。

普段よりできることの幅が広がったぶん魔力を消耗するペースも変わってくる、回復役のロバーデイクが魔力系による牽制もこなすようになれるなら、その分の魔力も余計に使わなければいけないから。

このアイテム群を運用するならそのあたりも考えて戦術を組まないと…もし無事に帰ることができたら教授に報告ね。

 

「ロバー、大丈夫か?少しペース落とした方が…」

 

「いえ、大丈夫です。もうすぐ平原ですしこのまま…ッッ!?」

 

何かを感じ取ったロバーデイクがヘッケランを庇うように躍り出て、構えた盾に巨大な何かが直撃した。

ここからでも聞こえるほど大きな、何かが折れる音、一拍遅れて真横に飛んでいくロバーデイク。

 

………え?

 

「ロバーデイクッ!!」

 

いち早く意識を取り戻したイミーナが張り裂けんばかり叫ぶ。

 

巨大な黒い壁、そう見まごうほどの巨体。

ソレを目にした途端、全身から血の気が引いていくのがわかる。

生者全てを忌み嫌うかのような咆哮に思わず脚が竦んだ。どうして、タイミングが悪過ぎる。なんでこいつが今ここで…

 

「デスナイト…?なんでここに…」

 

冷静に考えれば分かる。此処は高レベルのアンデッド蔓延るカッツェ平原、ことアンデッドに関しては何が起こるか分からない。

その昔、師であるフールーダ様が捕え何処かに連れて行ったそれ。私はその時同伴していなかったけど、当時の高弟数十人を犠牲にして漸く捕らえることに成功した正真正銘の化け物。

単騎で国すら滅ぼす伝説のアンデッドを前に、たった4人のフォーサイトが出くわしてしまった。

 

「っアルシェ!ロバーの所へ!イミーナ牽制頼む!」

 

「わ、分かった!」

 

言われるままロバーデイクの下へ飛んでいく。

酷い有様だった、顔面は赤を通り越して青く腫れぼって、盾を構えた両腕はありえない方向に折れ曲がり、地面を転がったから擦り傷も多数みえる。明らかな重傷者だ。

 

「ロバーデイク!ロバーデイクしっかり!

ポーションを…」

 

携帯していたポーションを使っても治りが遅い、それほどに彼の身体は限界を迎えているんだろう。

ボロボロのロバーデイクをなんとか介抱しながらヘッケラン達に助けを求めようとしたけど駄目だった。二人とも死の騎士の相手で手一杯…どころじゃない、今にも殺されそうなほど苦戦している。今でもこうして生きていられるのは2人のチームワークが抜群なのと、ヒットアンドアウェイで上手く注意を逸らしながら極力近距離戦を避けているからだろう。でもそれも時間稼ぎにしかならないはずだ。

 

「ア…ルシェ…」

 

「ッ!?気が付いたの?しっかりしてロバーデイク、諦めちゃダメ!」

 

「はやく…逃げて下さい…

血の匂いに釣られて腐乱犬が寄ってきます…貴女だけでも脱出を…」

 

「そんな事できない、必ず連れて帰るから!」

 

それ以上言葉を発せなかった。霧の向こう、四方八方から聞こえてくる獣の唸り声が私の思考を掻き乱す。

どうすればいい?姿が見えなきゃ《多対標的(マス・ターゲティング)》で狙えない、残りの魔力も心許ないけど…腐乱犬から彼を助けるにはこうするしか…ッ!

 

「《魔法最大化》、《魔法持続時間延長化》《永続光(コンティニュアル・ライト))》!」

 

私が使える強化を全掛けした《永続光》、撃杖ではなく普通の杖でそれを真上に打ち上げた。

飛び上がった光の球は20メートル程上空で眩しい光を放ち、薄暗く霧に紛れていた平原を照らし出す。

 

「ッ見えた!」

 

すかさず撃杖に手を掛け《多対標的》で敵を補足し《雷撃》の引き金を引いた。発射口から飛び散った雷の束が腐乱犬に飛来し、悲鳴をあげながら腐った犬畜生共は黒焦げになった。でも…

 

「魔力…限界かも…」

 

《多対標的》で枝分かれした《雷撃》にほとんどの魔力をもっていかれ、私も魔力が底を着きそうだ。ふらつき思わず膝を着く、限界を迎えた《永続光》の効果が切れ、再び薄暗がりの平原が戻るなか聞こえたイミーナの悲鳴で無理矢理意識を覚醒させた。

 

顔を上げるとヘッケランの左腕が切り飛ばされている光景が目に映る。

胸にブロードソードの突き刺さったデスナイトが振り抜いたフランベルジェの風圧で吹き飛ぶヘッケランをイミーナが追いかけて泣きついた。

 

絶対絶命、そんな言葉が脳裏を過ぎる。

 

メンバー2人が重傷者、相手は伝説級のアンデッド。背後には追っ手が多数で、オマケに私の魔力も尽きている。笑っちゃうくらい絶望的なこの状況。

 

わたし、死ぬのかな

 

くそったれな家の借金の為に

 

あの子たちを残したまま?

 

そんな事できない

 

死んでたまるか

 

思考を放棄してしまいそうになるのを必死に押し殺して、考える。

 

ヘッケランが刺し違える覚悟で刺した両刃剣は深々とデスナイトの胸に突き立っており、自力で抜くのに手間取っているようだ。

柄に輝く白い石が目に入った時、咄嗟に私の脳裏にさっき話した教授の言葉が過ぎった。

 

『自爆はロマン』

 

いや違うそうじゃない!もっと前!

 

『特に柄のルーン石はあまり強い衝撃を与えないようお願いします、爆発しますので。』

 

『人の半身くらい消し飛ぶんじゃないですかね。』

 

 

 

「イミーナッ!!」

 

「なっ…何よ!?」

 

「今すぐデスナイトに刺さってる剣の柄を撃ち抜いて!」

 

「は!?何言ってんの!?」

 

「早く!このままだとみんな死ぬ!」

 

「…っ《精密狙撃》、《武具破壊》!

せあああああああっ!」

 

怒りの一撃。

限界まで引き絞られ、狙い済まされた一矢がイミーナから放たれ、吸い込まれるようにデスナイトに刺さった両刃剣の柄へと叩き込まれた。

ここからでも聞こえるほど大きな音を立て、ルーン石はその3分の1ほどが欠けているのが見える。

 

次の瞬間、デスナイトを丸ごと覆い尽くすほどの大きく眩い光とともに石が弾け、爆発音と共に聖属性の魔力爆発が周囲に炸裂した。

衝撃波が大気を揺らし、吹っ飛ばされた取り巻きのアンデッド達も地面に落ちる前に光に当てられ灰になる、余程強い加護が込められているのか、周囲の霧も一時的に散って周りが随分と明るくなった。

 

「すっご、あんな爆発食らったら流石にデスナイトも…ッ!?」

 

「うそ…」

 

生きていた、デスナイトは生きていた。

盾を持つ手は弾け飛び、上半身を失ってもまだその動きは完全に止まっていない。兜と一緒に半分ほどになった頭蓋骨はまだ此方を睨みつけている。フランベルジェを引き摺りながらヨタヨタと向かってくる。

 

「このッ…イミーナ、矢は…」

 

「ッダメ!今のが最後の1本よ!」

 

イミーナの矢筒にはもう残りがない、ロバーデイクは瀕死で動かせず片腕を失ったヘッケランは生きてはいるけど今すぐ治療が必要。

 

 

吹けば飛ぶような私たちの命運ももう尽きようと…

 

 

 

「《魔法最大化》、《翠龍晶飛沫(エメラルドスプラッシュ・ドラグーン)》ッ!!」

 

 

突然現れた巨大な緑色の龍の首がデスナイトを呑み込んで、上空に吹き飛ばす。

舞い上がったデスナイトは今度こそ空中でバラバラに弾け、散らばった骨が辺りに散らばる様子をイミーナと私はぽかんと眺めながら、馴染みのある声に安堵を浮かべた。

 

 

 

 

 

今の魔法、私の眼だと第7位階って見えたんだけど…考えるのやーめた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ございませんでした!」

 

 

遥か遠い世界には『土下座』という名の文化がある。

座礼の最敬礼に属し、かの国においては最大限の謝罪を意を表す仕草だ。

本来なら土の上で行われなければならないが、此処は板場である、それでも精一杯の謝罪を込めてレインは目の前のワーカー達に土下座を敢行している。

 

あの後、間一髪間に合ったレインが放った《翠龍晶飛沫》でデスナイトは斃れ、二人はフォーサイトと無事合流。

レイン達は〝野暮用〟のあと来た道を急いで戻ろうとし、平原を走り回っていたところアルシェによって打ち上げられた《永続光》の光を見つけすっ飛んできた訳だ。(迷って武技使いながら平原中を爆走していた事は流石に話していないが)

ちなみに小脇に抱えられていたケレスは顔を青くして気を失っており、目が覚めたと同時に女の子が出しちゃいけない虹色のなにかを盛大に吐い(ゲロッ)た。高速で走り回るレイラに抱えられ脳みそシェイクされていたのだから仕方ない、宿に戻った今でも気分が優れないからと同席はせず現在は部屋で療養中。

 

「頭を上げてくれよ先生。

ホラ、こういう事故もさ、ワーカーやってりゃよくある事なんだから。」

 

「そういう訳にはいきません!

だってヘッケラン様…腕が!頭も!」

 

「頭は残ってるが!?」

 

手持ちのスクロールに込められていた《治癒》でロバーデイクは治療できた。そしてヘッケランも傷を癒された訳だが、残念な事にデスナイトのフランベルジェで斬り飛ばされた左腕は拾う暇もなく、回収しようと動いた時には既に腐乱犬の餌になっていたのだ。

この世界ではポーションによる治癒手段がある為、切断程度なら繋ぎ直す事が出来るのだが、そもそも食われて無くなってしまえば戻しようがない。ユグドラシル産のポーションであればもしかするかもしれないが、今は詮無きこと。

 

「こちらこそ不甲斐ない所を見せてしまいました。

本来なら回復は私の仕事、きちんとペース配分を考えていればパーティーの瓦解は防げていたかもしれないのに…新しい装備に浮かれていました。」

 

「そうね、私達も油断してたのかも。

強い装備でやれることの選択肢が増え過ぎてて対応しきれなかった。」

 

イミーナの言葉にレインは唸る。

新しい技術でワーカー達の利便性が上がるのはいい、しかしその広すぎる利便性故に使用者が対応しきれない、人間が道具に振り回されているのだ。

使用者しだいとも言えるが、いきなり強くて便利な武器を手に入れ増長しそのまま命を落とすなんて結末も十分有り得る話。実際フォーサイトもレインが到着していなければ後続のアンデッド達に追い付かれそのままゾンビの仲間入り、なんて結末になりかねない事態に陥っていたし。

 

「だから先生は悪くねえよ、俺達は内容に納得してこの依頼を受けたんだ。

傷を負ったら俺達の責任なのさ、それ以上は野暮ってもんだぜ。」

 

「うぅ…」

 

「利き腕じゃないだけラッキーさ、まあ双剣使いから片手剣にジョブチェンジしなきゃならんかもだがね。」

 

「ッでしたら是非私に義手を造らせてください!

腕によりを掛けて最高の品を提供致します、勿論お代は頂きませんので!」

 

グイグイくるレインにヘッケランは渋々承諾する事にした、恐らく彼女の性格上どこかしらで落とし所を見つけないと延々に謝罪されそうだ。

そんな中、イミーナの横に座るアルシェがバツの悪そうな表情でおずおずとレインに言う。

 

「…すみません教授、ルーン石を暴走させたのは私の判断です。何年かかっても弁償しますのでどうか…」

 

彼女の口から出たのは謝罪の言葉。

あの時、咄嗟に言ってしまったがルーン石は原料に宝石を使用している。1つ制作する為のコストが半端ではないのだ。

しかしレインは朗らかな笑顔を浮かべ、問題ないとアルシェの肩を優しく叩く。

 

「大丈夫、万物は皆いつか壊れるものですから。

弁償なんて気にしないで下さい、むしろ自爆させてあのデスナイトに致命傷を与えたのは大きな成果です。それだけ威力が高ければわざと自爆させて周囲を攻撃させる投擲武器としての可能性も見い出せましたし。」

 

宝石使った一回限りの投擲爆弾とかどんだけ高級品だ。アルシェは許され安堵する反面、「この人の金銭感覚大丈夫かな」と黙々と構想を練り始めたレインを憂う。

 

 

こうしてカッツェ平原での一連の実験は終了した。

使われたマジックアイテム達はレインに回収され、自室でケレスと共にメンテナンスと調整が行われる。

依頼後、レインから渡された報酬は最初に提示された額を大幅に越える金額だった。「色を付けてくれると嬉しい」と冗談半分だったヘッケランは与えられた額に思わず2度見し口をパクパクとさせていたが。彼女曰く「命を賭けた仕事にはそれに見合った報酬が必要です、皆さんの実力だからこそデータも集まったのだから。次があればまた依頼させて頂きますね。」との事で、フォーサイトとの継続的な雇用契約を結びたいそうな。

アルシェにしてみればこれ程嬉しいことはない、使用人達への給金に割いてもまだ余りある報酬に思わず家で小躍りしたほどだ。

 

 

 

そして翌日、レイン滞在最終日を迎えたこの日

 

 

 

 

「レイン・エルリク・ホーエンウッド様ですね?

ジルクニフ皇帝陛下の遣いで参りました、陛下は貴方との謁見を望んでおられます。どうぞこちらへ。

お連れ様もどうぞ、ご案内致します。」

 

 

宿を引き払い、店主に礼を言ってからケレスと共に歌う林檎亭の扉を出た直後のこと、道のど真ん中に停められた豪華な馬車と黒づくめの騎士たちに囲まれ、ジト目で見つめてくるケレスの隣りで思わずレインは呟いた。

 

 

 

 

 

「もしかして(わたくし)、何かやっちゃいました?」






氷葬騎士槍(フリーズ・ランス)
原作だと鉄の槍に氷属性を付与するだけだがレイラがやると氷の槍に氷属性を付与して飛ばす射撃武器になる。貫通力が高く遠くまで一直線に飛ぶため扱いはライフル弾に近い。当たると異能力で強化された氷属性が襲いかかりHPを削り切られると敵は凍ったあと塵になって消える、殺意が高い。


氷片散弾(アイシー・バックショット)
15〜30ほどの氷片が勢いよく放射状に飛ぶ魔法、飛距離は短いが強いノックバック性能を持ち上手くダウンを取ればハメ技も出来たりする。が、初期ユグドラシルではPVP戦にてこの魔法を使った悪質な戦法が問題視されナーフ対象になった罪深い魔法。


翠龍晶飛沫(エメラルドスプラッシュ・ドラグーン)
第7位階
雷属性の《連鎖する雷龍(チェインドラゴン・ライトニング)》と肩を並べる水属性の高位魔法、巨大な翡翠の水龍が敵を呑み込み、内部の結晶でズタズタに引き裂く。吹っ飛ばす力が強い為重い敵を相手にする際使用する事で意図的に位置を移動させ罠等に誘い込むなど誘導手段としても優秀な魔法。
多分開発者は《白いおもいで》作った奴と同じ人。



オリ武技
《雷鳴疾駆》
文字通り稲妻の如く走る、直線は速いがカーブは苦手

《千陣踏破》
走ってる間のスタミナが長持ちする、モン○ン言うと〝ランナー〟



《無限魔力》の異能力について
反復(リピート)
ほぼ全ての魔法を2発目以降魔力消費無しで撃つことが出来る超希少タレント。
但し《飛行》などの継続的に魔力を消費する魔法には使えない、また同名魔法連発中に別の魔法を挟んでしまうと再び発動する時に魔力を消費する。
つまり
《火球》《火球(消費なし)》《雷撃》《火球(消費あり)》
となる
この力で在学中調子に乗っていたら神官長に目を付けられ、漆黒聖典に入隊。無事番外席次に〝分からせ〟を受けた。






アニメの無限魔力ちゃん可愛すぎへん?ダウナースキーの男爵は一瞬で虜になりましたよォ…でもどうせ死ぬんやろなあ原作だと。
作者は聖王国編のあまりの惨さに読むのを辞めた弱者だから当然映画も観る気はZERO、なんで金払って大画面で推しが殺される所見なきゃならんのだ。
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