「ゴーゴート! アマルルガに『つるのムチ』だ!」
「エビワラー! 『グロウパンチ』で合わせてっ!」
(……! なら『かたくなる』で——)
「乱入はノーサンキューよ! 『バリアー』で受け止めて!」
四本足で駆け寄ってきたゴーゴートが首周りに生やした葉っぱの中から
「「耐えられた……!?」」
同時に弱点を突くチャンスを窺っていた対面の二人にとって、初めてのダメージとはいえ耐えられたことは想定外だった。
(さぁ! お得意のやつぶちかましちゃって!)
(そのパス、受け取ったけん!)
「『ねんりき』でエビワラーを飛ばすと!」
「やられたっ……! 後はあなたに任せるしか……!?」
「なんだと!?」
カウンターの要領で攻撃後の隙を突き、ドクケイルが放ったサイコパワーがエビワラーを脇から捉える。すると吹っ飛ばされたエビワラーが右側にいたゴーゴートと衝突した。蔓を振り下ろしたばかりだったゴーゴートはそのままバランスを崩して横に倒れてしまう。
「『はかいこうせん』でフィナーレよ!」
「しまった……!」
そしてアマルルガの口から強烈な光線が放たれると、『フリーズスキン』により弱点を突く氷わざとなってゴーゴートを捉えたのだった。
「あの連携攻撃をよう防いだね!」
「ああ、それね〜。そこまでの戦いでそれぞれ草と格闘タイプなのは分かったじゃん?」
「うん」
「でもアンタのドクケイルは両方に滅法強いからさ」
「ギュギュギュッ!」
「それでアタシのマルマルが狙われてないのは怪しいし、どこかで大きいの来ると思ってたのよ」
「そっか! だからケーちゃんより下り目に構えとったんやね!」
(一応大弱点を突けるエビワラーは警戒しとったんやけど、ミユはもっと広く見てたんやね……勉強になったと)
(まあノーダメージでこれたのは他にもヒメノがエビワラーをマークしつつ、ゴーゴートを遠距離技の『どくばり』で牽制してくれてたからなんだけどさ。ホント。間合いの取り方が参考になるわよね)
こうして二人はキワナオに向かうチャレンジャーと競い合って船旅を過ごしていた。そしてそんな時間もフェリーの停泊と共に終わりを迎え、二人は意気揚々と島に降り立つ。
「わー! 綺麗な海やねえ」
「そうね! ポケモンも過ごしやすそう。風も気持ちいいー!」
折角なので近くの砂浜に足を運んだ二人は透き通った海や生息しているポケモンを少しだけ眺めると、ジムへと歩を進めていった。
「でかっ!」
「これがキワナオジムに繋がる門なんや!」
赤く染められた四本の柱により聳え立つ門が二人を出迎えた。二重の屋根にそれぞれ敷き詰められた瓦がこれから向かうジムの隙の無さを表しているかのようだった。覚悟を決めて二人ともその奥へと進んでいく。そして、二人を出迎えたのは異国情緒溢れるお城だった。
「着いたわね!」
「うん! ほわぁ……素敵なところやけん。こういうところで暮らしてみたか〜」
「いいじゃない。本当の意味でお姫様になれるわよ」
「も、もう。からかわんといて」
入り口には『ご自由に』と書かれた看板が立てられていた。二人は城内を色々と見て回ると、やがて謁見の間と称される部屋へと辿り着く。そして道なりに続く赤いカーペットの先には玉座が置かれていた。
「ほう? お主らが次なるチャレンジャーか」
そこには手の凝った衣装に身を包んだ褐色の女の子が座っていた。
「あっ! 初めまして!」
「こんにちはー。ようやく人に会えたわ。ジムリーダーってどこにいるのか知らない?」
「察しの悪いやつよのう……。
「「ええっ!?」」
「で、でも……私達とおんなじか、少し下やよね?」
「チャレンジャーの年齢規定は旅の安全を考慮してのもの。ジムリーダーには年齢制限など存在せぬわ」
「言われてみたら、ジムトレーナーとおんなじことなのかも?」
「そうは言っても……ジムリーダーって、負担が大きいでしょ? 大丈夫なの?」
「ふっ。国の重責を背負う儂には祭り事の一環など軽いものよ」
「えっ? ってことは……」
「お姫様やなくて……お、王女様!?」
「ふむ……やはりキューシューの認知度はまだ低いのか。交通の便も悪いからの。エアポートの件の優先度を上げておかねばな」
キワナオ島は正確にはキューシューではなく、キオレという名の王国である。つまり……
「本物のお城……ってこと!?」
「見せ物だとでも思うておったか? まあ一般公開するケースは珍しいじゃろうからの」
「さすがに予想外やったと……。どうして王女様がジムリーダーをやることになったん?」
「リジャで良いぞ。なーに。儂らは中継貿易によって栄えておってな」
「何それ?」
「輸出国と輸入国の間に中継国を挟む貿易やね」
「そうじゃ。そこにジムフェスの参加要請が来ての。人の通りが良くなれば物もまた同じというのは商売の常識よ。受けぬ道理など存在しなかろうて」
「うーん……ちゃっかりしてるわね」
「それもまた国のためじゃ。それに国内外問わず色んな者と戦えるなど楽しみで仕方ないわ。さて、面倒じゃが業務連絡じゃ。手短に済ませるぞ」
リジャは管理委員会が発行した巻物を広げ、まるで賞でも授与するかのように二人に話し始めた。
「伝えるべき事項は……と。主軸タイプは水。形式はスタジアムでのダブルバトル。使用ポケモンは互いに四体までじゃ。質問はあるか?」
(げっ! アタシこれで四連続で弱点のジムなんだけど……)
「スタジアムの場所が分からなか……。タウンマップやとジムの近くって出とるのに、見当たらんばい」
「ああ。どこを探しても見つからんじゃろうて。この先の庭にあるのじゃから」
「に、庭っ!?」
「スタジアムバトルがキューシューで流行った話はすぐに流れてきての。これは面白いと庭に作らせたそうじゃ。それもあってジムフェスの打診が来たようじゃな」
「ほえ〜……スケールが大きかね」
「後は……そうそう。こなしてもらうジムチャレンジじゃが、ここではジムトレーナーを雇っておらんでな。代わりに、と言ってはなんじゃが……」
(一体何やらされるんだろ……。とんでもないことをやらされそうな予感がするわ!)
「キワナオ島で心
「「……えっ」」
「どうも急いで挑みたがるチャレンジャーが多くてな。先月来たお主らと同い年の男の子など、それはもうすごいものじゃった」
(絶対マシュ君のことやけん……)
「折角来たんじゃ。
「「喜んでっ!!」」
好奇心旺盛な年頃の二人。本音を言えば先程も海を見るだけでは物足りなかった。そしてジムチャレンジを優先しないと、という思いから抑え込まれた気持ちがリジャの提案により爆発したのであった。
「ヒメノー! 早く早くー!」
「う、うん! 今行くんよ!」
(お腹周りは……うん、平気っ。キヤミザでトレーニングしといて良かったばい!)
ジムチャレンジという建前を手にした二人は颯爽とジムを後にすると、早速水着に着替えて砂浜を駆けていた。
「捕まえたーっ!」
「ひゃっ! うー……相変わらず速か」
「まあねー! 準備運動終わったところでビーチバレーよ! てやっ!」
「グッさん! 『しっぺがえし』で弾き返して!」
「ぎゃー! そんなのアリ!?」
「ビーチバレーと言ったら二人で一チームやもん。ねー、グッさん」
「キュキュケケッ」
「そっちがその気なら! ギラギラ、ぶち上げていくわよ!」
「ギイッ」
追いかけっこの後はビーチバレーと来て汗もかいてきたところで、いよいよ二人は泳ぎ出した。しばらくして二人は一度水分補給でもしようかと砂浜へと戻ってくる。
「あれ? エンねえ、どうしたん?」
手持ちのポケモンを自由に遊ばせていたところ、ベトベターと一緒に遊んでいたエンニュートがパラソルの下で体育座りしてしまっていた。
「べたっ」
「海? 水がかかっちゃった?」
「キュ……。キュキュキュー……」
「あー、もしかして塩水だからじゃない?」
「あっ、そっか! 『しおみず』かぁ……気付かんでごめんね」
「キュキュッ」
「砂浜で遊ぶから大丈夫? うーん。じゃあ落ち込んどったのは……」
(そういえば前にジム挑む時もこんな感じやった気がすると)
「そっか。海を見て、水タイプのジムに挑む自信が無くなっちゃったんやね」
「キュ〜……」
「どうするのヒメノ? 相性も悪いけど……それでもイオタオの時みたいにあえて出すの?」
「エンねえのおかげで『どく』の弱点をカバー出来たと。誰か一人で完結しちゃうんやなくて、みんなの歯車を噛み合わせたら、胸を張って強みって言えるものが生まれるんやって思えたけん。やから今回のジム戦はエンねえの弱点をどれだけみんなでカバー出来るか……挑戦する絶好の機会なんよ」
「キュッ?」
「うん。今回はエンねえはお休みして、みんなの応援をしてくれると嬉しか」
「キュキュキュキュー!」
「うわっ。いきなり元気になったわね」
「ふふっ。良かったと」
一悶着も収まって、二人はまた海で遊んでいた。すると来訪者が砂浜に降り立った。
「お楽しみのようじゃのう」
「リジャちゃん! いつのまにおったと?」
「ヒメノ……いくらなんでもちゃん付けはまずいでしょ」
「構わんよ。
「そっか」
「して先程公務を片付けて駆け付けたんじゃ。二人に少しばかりアトラクションでも楽しんでもらうかと思うての」
「アトラクション? えー! なんやろ?」
「なーに。儂は海上のライド資格を持っておるでな」
「ええーっ! すごっ! ライド資格って取るのちょームズいんでしょ!?」
「さあのう? こやつと一緒に遊んでおったら出来るようになっておったよ」
「トゥートゥー」
リジャはルアーボールから大きなヒレを持つポケモンを繰り出し、黒い輪っかの模様がある背中を撫でた。
「ええっ!? 遊びで?」
「遊びとは幼心から来る興味そのものよ。難易度など考える余地などなかったのじゃ」
「遊びかあ……。今日みたいにあたし達もよく遊んどったよね。ベトくんとヨーギラスで何度も戦ったと」
「懐かしいなー。負けるのが悔しくてね。負けた方がリベンジするから結局何回もやっちゃって」
「そういうものじゃよ。人の心には無限の可能性が潜んでおるのじゃ。しかし……いつからかの。無限など幻想に感じ、自分のおおよその限界を推測してしまう。そのような者を幾度となく見てきた……」
「アンタ……何歳よ?」
「くっくっく。実は化けた
「ええっ!? そ、そうなん?」
「冗談じゃよ。儂もの……昔は理解も出来なかったが、今ではそのような感覚も分からんではない。無限は目標とするにはあまりに朧げで不安なのじゃ。だから一度の敗北でジムフェスから手を引いてしまう者もおる」
「言われてみればクオカフの時にはチャレンジャー沢山おったのに、あんまり見なくなったかも……」
「リジャ……もしかしてそのためにこんなジムチャレンジを?」
「キワナオ島を楽しんで欲しいという気持ちに偽りはないがの。チャレンジ期間のことなど忘れて、一度童心に帰ってもらいたかったのじゃ。義務感に駆られた者と戦うより儂も楽しめるでの」
「確かに……。ジムに勝たなきゃ、強くならなきゃってことばっかり考えてて、ゆとりがなかったかも」
「うう……船に乗ってた時も景色もほとんど見んで、バトルから少しでも学んでってことばかり考えとったけん」
「貪欲自体が悪いことではないがの。しかし難しく考えても、いきなり出来ることが増えるわけじゃなかろうて。儂らは一人じゃないんじゃ。共に遊べばどこかに活路は転がっておろう。のう?」
「トゥートゥー!」
(そういえばここまでずっとジム戦と特訓の繰り返しやったけん……。こうして遊ぶ時間なんて無かったと)
ヒメノは周りを見渡した。気兼ねなく楽しむポケモン達の姿はかつてベトベターと過ごした日々を思い起こさせる。それは当たり前のように存在していて、そして当たり前のように無くなっていたものだった。
(学ぼう、って思わなくても。一緒に過ごしてる時間が色んなことを教えてくれてたんや……)
「さーて、長々と話に付き合わせたの。波に乗るとしようぞ」
「「うんっ!」」
こうしてヒメノとミユはポケモン達と一緒にくたくたになるまで遊び尽くしたのだった。
キワナオ島
キオレ王国の中心と言える島であり、キューシューとは所属する国自体が異なっている。キューシュー文化の影響を受け、スタジアムバトルが取り入れられた。
友好を深める意味合いでジムフェスティバルの参加を打診され、これを快諾。元々国が主体となってスタジアムバトルを催すほどに祭り事を好む民族性も参加を後押しした。
このような経緯からキューシューに属しないが、キューシュー地方の一つとして数えられている。