ベトくんといっしょに   作:ゾネサー

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来週も更新あるよ〜。


青空すら見えぬ海の下でも

 キワナオ島を訪れてから三週間が経った。ヒメノは今回から特訓に費やすばかりではなく遊ぶ時間を設けるようにしたため、いつもよりジムチャレンジが遅めになっていた。

 

「コンディションはどう?」

 

「みんな良い感じやけん!」

 

「なら勝ってきなさいよ! アタシも続いてみせるから!」

 

「うん!」

 

「良い返事ね! ……アタシさ。フェロさんと戦ってから、弱点の対策のことでずっと頭いっぱいだったんだよね」

 

「五つもあると気にすること多くて大変やよね……。今回もそうやし」

 

「でもさ。無防備なのはダメだけど、意識しすぎってのもダメだって今回ので分かったんだ。だからまずアンタとリジャのバトルを楽しむ! だってこれはジムフェスティバル! お祭りなんだから!」

 

「そうやね! 楽しまなきゃ損やけん! あたしも目一杯遊んでくると!」

 

 ミユと話し終えたヒメノは控え室を飛び出し、コートヘと躍り出た。対面からもリジャが不適な笑みを湛えて歩いてきている。

 

「良い顔つきじゃのう」

 

「ありがと! リジャちゃんもやね!」

 

「ジムフェスが無ければお主とこうしてバトルを交わす機会も無かったじゃろうて。これまで色々な者が訪れ、多様なバトルを儂に見せてくれた。今度は何を見せてくれるか……」

 

 そして二人はトレーナーボックスに入り、対峙した。お互い顔を見合わせると、自然と快活な笑みが浮かび上がっていく。

 

「ワクワクするではないか! 今は一国の君主としてではなく……ジムリーダーのリジャとして! このバトル、誰よりも楽しませてもらおう!」

 

「あたしも譲らんばい!」

 

「良かろう! では……始めようか。宴の時間じゃ!」

 

 湧き上がる気持ちが抑えられなくなった瞬間、ボールがコートに放られた。

 

「べたっ!」

 

「ピュルルッ!」

 

「たーん!」

 

「ポウ!」

 

 ヒメノ陣営はベトベターとハリーセンが適度な距離を保って降り立つ。対するリジャ陣営は前に二つ後ろに六つの足を持つオクタンと、大小異なる発光器官を頭より垂らした魚類系ポケモンのランターンが、隣り合って現れた。

 

「リセっち! まずは『どくびし』を降らせるけん!」

 

「ならばオクタンよ。こちらは雨を降らせようぞ」

 

(『あまごい』……! それにあれは……)

 

「『しめったいわ』やね……!」

 

「そうじゃ。このバトルが終わるまで、雨が止むとは思わぬことじゃな」

 

 ハリーセンが全身の毒針をばら撒くと同時に、オクタンは水色の鉱石を掲げながら雨雲を呼び起こした。漂う暗雲は厚く、その上にある空の青さを一切感じさせない。

 

(いきなりチャンスやけん……!)

 

「ベトくん! オクタンに『かみなり』をおっちゃかして!」

 

(良いわよヒメノ! 大技の『かみなり』が弱点に命中すれば一発で持ってけるわ!)

 

「ランターンよ。代わりに受け止め、反撃に移るのじゃ」

 

「……! 近付いて『アクアテール』で叩き付けると!」

 

 ランターンがジャンプするのを見てヒメノはハリーセンを接近させた。宙に浮いて回避の出来ぬ体勢と後方に撒かれた『どくびし』から、『かみなり』に抵抗があっても分断させられると見ての指示だった。

 

(青いのう……!)

 

 雨をも纏って大きな渦と化したハリーセンの尻尾を見てもリジャに焦りは見られなかった。

 

「吸収された!?」

 

(ランターンは特性『ちくでん』により電気わざを受け付けんよ。じゃが……そちらはそうではなかろう?)

 

「ピュルッ!?」

 

「リセっち!?」

 

 天より下された(いかづち)は二体のポケモンへと墜落した。しかし電気を蓄えた者、電気が迸った者。両者の違いは対照的だった。

 

「『かみなり』が……? あっ! 既にランターンは反撃しとったと!?」

 

「その通り。水に属するポケモンを友とするなら、今後は雨雲に気を付けてあげることじゃな」

 

 頭上より不意に落とされたもう一つの『かみなり』に捉えられたハリーセンは尻尾で叩き付けるどころか、その身を地面に叩き付けてしまう。

 

(気が逸ったと……! 雨を降らせたのはリジャちゃんの方なんや! 水わざ以外も警戒せんとあかんかった……!)

 

「後悔先に立たずよ。ならばいっそのこと後回しにすると良いぞ」

 

「えっ?」

 

「オクタンよ。ベトベターを水色に染めよ」

 

「……! り、リセっち戻って……! おいでケーちゃん!」

 

 理解と後悔が判断の遅れを生み、ベトベターは『みずびたし』になってしまう。ヒメノは必死に頭を切り替えると、戦闘不能になったハリーセンの代わりにドクケイルを送り出し……

 

「『ふきとばす』と!」

 

「……!」

 

 間髪入れずに指示を送った。般若の如き形相のドクケイルの羽ばたきが突風を生み出し、向かい合う両者を襲う。

 

「ポウ!?」

 

(そう来るか……! やってくれるのう。じゃが!)

 

「ベトベターに種子弾丸を浴びせてやるのじゃ!」

 

(オクタンが吹き飛ばされなか!?)

 

 突風に巻き込まれたランターンが強制的にルアーボールまで戻されたのに対し、オクタンは特性『きゅうばん』を遺憾無く発揮して踏みとどまっていた。そして安定した土台から『タネマシンガン』が放たれる。

 

(まずいわよ! 『みずびたし』になったベトベターは最早水タイプなのよ! 草わざなんて食らったら……!)

 

「……『ヘドロこうげき』やけん!」

 

「むっ!」

 

 自身から切り離すようにしてベトベターが投じたヘドロが種を次々と撃ち落としていくと、そのままオクタンへと着弾した。

 

「打ち消したか……! やってくれるのう」

 

(驚きながらも反応するとはの……。それでこそ楽しめるというもんじゃ)

 

「ゆくのじゃ! ナマズン!」

 

「ボーウッ!」

 

 ランターンの代わりに立派な髭を蓄えた魚類系ポケモンのナマズンが降り立つ。すると『どくびし』が浮かび上がって襲い掛かった。

 

(よっし! 『まきびし』と違ってダメージは無いけど、その代わり『どく』を仕込んだ……!)

 

(ここで落ち着かせちゃダメやけん! ランターンがいないうちに……!)

 

「もう一度オクタンに『かみなり』をおっちゃかすと!」

 

「代わりに受け、一斉射撃じゃ! 標的はドクケイル!」

 

「……! ケーちゃん戻って!」

 

「ほう……?」

 

 『どくびし』が口火を切るかのように急激に場が動き出した。ベトベターが再び雨雲より放った『かみなり』は跳ねたナマズンが受け、交差するように『みずでっぽう』と『オクタンほう』が放たれた。雨により威力の増した砲撃をドクケイルの代わりに出たポケモンが受け止める。

 

「ドクロッグ……! それがお主の本命か!」

 

 キヤミザ・マシカゴジムでの経験が糧となり、グレッグルは進化を遂げていた。一回り体が大きくなり、喉元に出来た真っ赤な毒袋には強力な毒液が練り込まれている。そして自信に満ち溢れた表情で砲撃を受け切っていた。

 

(『かんそうはだ』か。水ジムには天敵と言えるじゃろうて。しかし不利を覆してこそのジムリーダーよ!)

 

(また『かみなり』が効いとらん……。ランターンと理由は同じやろか? ……! 『どく』が治っとる……!?)

 

 確かに『どくびし』により紫に染まっていたナマズンの額にあるWが、ほんの少しの時間経過で黄色に戻っていることにヒメノは目を丸くする。

 

「ドクロッグを捕らえよ!」

 

「『ビルドアップ』で受け止めるけん!」

 

 そのナマズンが『すなじごく』を放つと、ドクロッグは筋肉を増強させて受け止めた。

 

「キュキュケケッ……!?」

 

「グッさん……!」

 

 踏ん張っていたドクロッグだったが耐えきれずに地面から足が離れ、砂の渦に飲み込まれてしまう。

 

(『どく』を回復する手段は持ち物か特性かわざ辺り。『みずでっぽう』で回復はせんし、持ち物はもう使っとる。つまり特性……)

 

 ヒメノは渦でダメージを負いながらも『かんそうはだ』を生かして耐えようとしているドクロッグから、特性『うるおいボディ』により同様に雨を受けて『どく』から立ち直ったナマズンに視線を移す。

 

(ということは『かみなり』を受けられたのは地面タイプやったから! 今グッさんが崩されたのも、同タイプの地面わざで弱点を突かれたんや!)

 

「ベトくん! ナマズンに近付いて!」

 

(……! 同じ過ちを繰り返すというのか!)

 

「オクタンよ! 今なら打ち消せはせん!」

 

「たー……んっ!」

 

 ナマズンに向かって一直線に接近するベトベターに『タネマシンガン』が浴びせられる。ダメージに顔を顰めるベトベターだったが、足を止めるつもりは毛頭なかった。

 

「電気を纏い迎え撃て!」

 

 そこにナマズンが『スパーク』により身体中に電気を帯びて突撃してくる。

 

(ヒメノが悉く封じられてる電気わざ……! 水の弱点は電気と草しかないのにっ! ……? ……まさか!?)

 

 この状況で上げられたヒメノの口角を見て、既視感を覚えたミユはハッとした表情を浮かべた。

 

「『ギガドレイン』で全て吸い取ると!」

 

「なんじゃと!?」

 

「べっ……たあ!」

 

 そして二体は衝突し、ベトベターは電気を浴びせられながらも腕をパイプのようにしてナマズンのエネルギーを吸収していった。

 

「草タイプのわざとは……儂としたことが。すまぬのナマズン。儂の青さでお主の大弱点を晒してしもうた」

 

 毒々しいベトベターからは想像しづらいわざに、ジムリーダーであるリジャも驚きを禁じ得なかった。水・地面の双方の弱点を突ける有利が遺憾無く発揮され、もはやナマズンに起き上がる力は残っていなかった。

 

(今ので体力を奪い去ったのは分かる……されど、ベトベターは弱点となった草と電気を受けたのじゃぞ? だというのに、まるで始まったばかりのように生き生きとしておるではないか。何故じゃ……? ……!)

 

 余力が無いどころか倒れてもおかしくはないダメージを負ったベトベターが万全と言ってもいいほど回復していることに違和感を覚えたリジャは、吸収が行われた時にベトベターの腕で淡い緑色の光を発していた物の正体に気が付いた。

 

「そうか! 『おおきなねっこ』か……!」

 

「その通りやけん! いつもより多めに回復したと!」

 

「やってくれるのう……。本命はこちらだったというわけじゃな」

 

「ううん……それも違うんよ。どっちかだけなんてことはなか。あたしにとっては全員が本命やけん!」

 

(そうであるならばハリーセンがすぐに倒されておるが……いや、そうか)

 

 ナマズンの代わって降り立ったランターンに毒針の雨が降り注いだ。

 

(ランターンの『かみなり』はベトくんのより威力があった……水・電気のはずやけん。今度こそ『どく』が効いとると!)

 

(尚も共に戦っておるわけか……)

 

「儂らも負けるわけにはいかんのう。ベトベターに種子弾丸をお見舞いするのじゃ!」

 

「ベトくん、グッさんを救出すると!」

 

「ならば鉄槌を下そうぞ!」

 

 追ってくる『タネマシンガン』を数発食らいながらも、ベトベターはドクロッグが伸ばした手を掴み取った。しかし繋いだ手を切り裂くように『かみなり』が落とされた。

 

「なあっ!?」

 

 しかし地面わざの『すなじごく』を傘にすることで『かみなり』から身を守ることに成功していた。

 

「オクタン目掛けてグッさんを投げて!」

 

「べたっ!」

 

「キュキュケケッ!」

 

 さらに渦の回転を利用して勢いよくドクロッグが放たれた。最後まで追い続けていた『タネマシンガン』を受けながらも、ドクロッグがとうとうオクタンの懐へと入り込む。

 

「『リベンジ』やけん!」

 

「……! しまった……!」

 

 そして茶色く染められた拳が受けた分を倍返しするように力強く叩き込まれた。

 

(ベトベターが離れたことで接近戦の警戒を解いてしもうた……! そんな手があったのじゃな……)

 

「よく頑張ってくれた。後は任せるのじゃ」

 

 『タネマシンガン』を放ちながらで防御も出来ないまま一撃を食らったオクタンはノックアウトされていた。オクタンを戻し、リジャは最後のルアーボールに手を掛ける。

 

「ゆけ! マンタイン!」

 

「トゥートゥー!」

 

 マンタインが大きなヒレを靡かせながら舞い降りた。地面に身体をつけることなく、凧のように飛んでいる。

 

(『どくびし』が反応しなか……。飛行タイプもあるとね!)

 

「ドクロッグを払うのじゃ!」

 

(さっきの攻撃でグッさんはまだ敵陣におる……! 避けきれんばい!)

 

「『ビルドアップ』で受け止めて、『しっぺがえし』で反撃やけん!」

 

 マンタインはすかさずドクロッグを『つばさでうつ』ことで叩き飛ばそうとする。対してドクロッグは筋肉を増強して耐え凌ぎ、踏みとどまろうとしていた。

 

「ケッ!?」

 

「えっ! 速か!?」

 

 しかし『ビルドアップ』が為されるより速く、ヒレがドクロッグにヒットしていた。踏ん張ることができずドクロッグは飛ばされた衝撃をモロに受けてしまう。

 

「弱点に同タイプの飛行わざ……! ……やられたと。お疲れグッさん!」

 

(エンねえより速かったと……! 速攻には気を付けんといかんね……!)

 

 マンタインは特性『すいすい』によって雨が降る環境下ですばやさを倍加させることが出来る。この特性を遺憾無く発揮した速攻に、ヒメノはしてやられたという表情を浮かべていた。

 

「ケーちゃんお願いね!」

 

 しかし下を向くことはせず、前を見つめながら再びドクケイルを送り出す。

 

(接近戦に持ち込むのは警戒されてるじゃろうな。ならば……)

 

(虫タイプのケーちゃんがさっきの飛行わざを食らったらおしまいやけん……)

 

「ケーちゃん! 『ちょうのまい』を見せてあげるんよ!」

 

(よし! とくこう・とくぼう・すばやさが纏めて上げられるわ! マンタインにだって易々と遅れは取らなくなる!)

 

 ドクケイルが華麗に舞い、段々と動きにキレを増していった。

 

「ランターンよ。再びベトベターを狙うのじゃ」

 

「上から来るよ! ……『どろばくだん』やけん!」

 

「今じゃ! 撃ち抜くがよい!」

 

「うっ……ベトくん、耐えて……!」

 

 頭上から落とされた『かみなり』に対しベトベターは抽出した泥の塊をぶつけることで、防御に成功する。しかし横からの攻撃には対応できず、マンタインの『シグナルビーム』に捉えられてしまう。

 

(このままじゃ厳しか。出来ればマンタインに大弱点の電気わざを浴びせるのが一番やけん! ばってんランターンがいる以上は出来なか。やったら……!)

 

「ランターンに『ギガドレイン』ばい!」

 

「させぬわ! マンタイン、代わりに受け止めるのじゃ! ランターンは三度(みたび)ベトベターを!」

 

「やらせなか! ケーちゃん、ベトくんの上まで飛んでランターンに『ベノムショック』!」

 

(……! 二撃目はさすがのマンタインでも間に合わん……!)

 

 ランターンの前にマンタイン、ベトベターの上にドクケイルと互いに弱点を補い合うような陣形となった。『ギガドレイン』、『かみなり』は双方の思い通りに受け止められる。しかし斜め上から放たれた毒液はマンタインの頭上を越え、『かみなり』を放ったばかりのランターンへと直撃した。

 

「たんっ!?」

 

「ランターン!? ……アナフィラキシーショックの類いか……!」

 

 『どく』状態だったランターンに反応して威力が倍加し、まさに蝶のように舞い蜂のように刺す動きで仕留められる。

 

(やった! これでヒメノの数的有利!)

 

「やり返すのじゃ!」

 

「べたっ!?」

 

「えっ!? ベトくん!?」

 

 しかし喜びも束の間、マンタインから発された虹色のエネルギーが目にも止まらぬ速さでベトベターを捉えた。

 

「み、『ミラーコート』……!」

 

 とくしゅわざの『ギガドレイン』で受けたダメージを倍返しされたベトベターはこれまでの蓄積もあって耐えることができず、倒れてしまった。

 

「やるのう……!」

 

「リジャちゃんこそ……!」

 

(これで条件は同じ……。でも相性的にはドクケイル不利だし、折角ランターン倒したのに『かみなり』を持ってたベトベターがやられちゃったのはやばいわよ……!)

 

 四対四で始められたダブルバトルも両者一匹を残すのみとなった。雨が降りしきる中、静寂が破られる。

 

「ケーちゃん、こっちに寄って!」

 

(飛行わざを警戒して距離を取ったか。あるいは誘っておるのか? じゃが忘れてはおるまいな。ここが水タイプのジムであることを!)

 

「波の音を響かせよ!」

 

 リジャはカウンターを警戒して接近を選ばず、水をリング状にして放たせた。雨により威力が増した『みずのはどう』は円柱となって襲い掛かる。

 

(『ちょうのまい』を挟んだ分、まだ……耐えてくれる! 『りんぷん』で『こんらん』もせん! やから!)

 

「今やけん! 『ふきとばし』て!」

 

「なぬ……?」

 

 ドクケイルはその身で水を受け止めながら嵐と見紛う光景を描き出した。吹き荒れる風にマンタインはドクケイルが向いている角度に飛ばされていく。

 

「トゥ!?」

 

「……なっ! 『どくびし』じゃと!?」

 

 最早交代がなく意識の外にあった『どくびし』がばら撒かれた箇所にマンタインはその身を飛ばされ、突き刺さってしまった。

 

(やられた! すぐには動けん……! じゃが毒性があるのは先端じゃ。ならば次の一撃は耐えられようぞ……!)

 

(同じ手は使えなか! ここに勝負をかけると!)

 

「『エレキネット』で仕留めるけん……!」

 

「……!? 耐えて移し返すのじゃ……!」

 

 ドクケイルが吐き出した糸がマンタインを捕まえた。帯びた電気が雨で濡れた身体に伝わっていく。

 

「ト……ゥ……」

 

 歯を食いしばり『ミラーコート』で跳ね返そうとしたマンタインだったが、とうとう力尽きてヒレを地面につけた。

 

「ああっ! マンタイン!」

 

「……マンタイン戦闘不能! よってチャレンジャーヒメノの勝利とする!」

 

「や、やった……! やったよケーちゃん!」

 

「ギュッギュッ」

 

「うん。最後リセっちも力を貸してくれたねっ」

 

 最後の戦いはヒメノ達に軍配が上がり、飛び込んでくるドクケイルをヒメノは思い切り抱きしめたのだった。

 

「あー! もー! 負けたぁ……」

 

「えっ?」

 

「……! こ、こほん。今のは見なかったことにしてくれ」

 

 思わず後ろ手をついてへたり込むリジャだったが公衆の面前であることを思い出すと、わざとらしく咳き込んでから立ち上がり、『どくびし』を抜いてマンタインをボールの中で休ませた。

 

「お主の本命は一人で戦うことで生まれるものでは無かったのじゃな」

 

「うん! リジャちゃんもみんなと息ぴったりで凄かったと……!」

 

(それでも……最後の最後、儂は一人で戦ってしもうた。たとえ周りが何も見えない深海でも、隣にいてくれるのにのう。まったく……良くないクセじゃ)

 

「ありがとう。さぁ、勝者の証じゃ。アビスバッジを受け取るが良い」

 

「わぁ……! 暗い海に一筋の光が……綺麗やね!」

 

 青いイメージとは程遠い闇のような海に白色の光が差し込んだアビスバッジが手渡された。そして雨上がりの虹が彩る中、両者の握手でジムチャレンジは終わりを告げたのだった。

 

 そして一週間後。ヒメノとミユはフェリーに乗っていた。

 

「あ、危なかったあああ……! ギリギリ勝てたぁ……」

 

「ふふっ、もう一ヶ月ゆっくりしていっても良かったかも?」

 

「勘弁してよー。イオタオの時みたいになる気はないけど、もう十分ゆっくりしたし! それに……ヒメノも待ちきれないでしょ?」

 

「うん。いよいよ……恩返し、やね」

 

 マシカゴでフェリーを乗り換え、二人はキナサガタウンに向かう。目的地までの時間は沢山あるが、ヒメノにはすぐ近くまで迫っているように感じられていた——。




リジャ

キオレ王国の現女王。幼くして帝王学を修め、スタジアムで開催されていたどのような勝負事でも連戦連勝だったことから神童と謳われている。
しかしその聡明さから特別な立場故の接待であることにすぐに気付いてしまう。両親が遺してくれたスタジアムを退屈な場所と思ってしまう自分が嫌になっており、涙を誤魔化すためによく海で泳いでいたところ、今の仲間と出会った。ポケモン達と遊ぶ時間が彼女にとっての唯一の支えとなり、遊んでいるうちに色々な技術が身に付いていった。
そうして強くなった彼女の名声を聞きつけ、打診されたジムフェスティバルは彼女にとって希望であった。他国の一大行事であるジムフェスティバルに手加減を挟む余地は無く、今日も彼女はジムリーダーのリジャとして大好きなスタジアムで目一杯楽しんでいる。
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