ベトくんといっしょに   作:ゾネサー

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その徒道を選んだのは

(帰ってきたけん……すごい久しぶりな気がすると。不思議やね……)

 

 二人を乗せたフェリーがキナサガタウンへと到着した。過ごした年月に比べればそこまで離れていた訳ではないものの、ヒメノは目に映る故郷の景色から懐かしさを覚えていた。

 

「いい? 勝ってくるのよ!」

 

「うん……! そのために帰ってきたんやもん! ミユも勝つんやよ!」

 

「や、やってやるわよ! なんとか! 残りのジムバッジを集めて……また会おうじゃないの! マトクモシティで!」

 

「約束やけん!」

 

 二人は背を向け、目的地へと進んでいく。進む方向は違えど、いつかまた道は交差すると信じていた。そのためには道を塞ぐ壁を越えなくてはならない。それぞれの方法で。

 

(……? クオカフの巫女さん?)

 

(マシュと同じくらいのジムチャレンジャー。まだ残ってくれているのね。……!)

 

 そしてまた別の道が交差しようとしていた。ガサタウンから歩いてキナサガタウンへと辿り着いたツラレはとてつもない声援と熱量で囲まれているストリートに足を運んだ。

 

「……お帰り。お姫ちゃん」

 

「ただいまやけん!」

 

「兄として掛けたい言葉はもっとあるんだが……。ま、今はこれでいいよな。……チャレンジャーヒメノ」

 

「……!」

 

「キナサガジム、ジムリーダーヒコトとして……二度目の挑戦を受け付ける! ルールの指定権はチャレンジャーにあるぜ。さぁ、どうする?」

 

「勝負形式は……」

 

(決まっとる……。あの時全てをぶつけてくれた兄さんに……今のあたしの全てをぶつけるんや!)

 

「五対五のシングルバトルやけん!」

 

「……! 良いぜ。望むところだ!」

 

 手持ちが五匹のヒメノにとってはまさしく総力戦。その返答にヒコトも口角を大きく上げていた。周りの観客も呼応するように盛り上がっていたが、少しして静まり返る。

 

(空気が張り詰めた……。二人とも怖いくらいに真剣な雰囲気ね)

 

「初っ端は頼んだぜ。ロゼッタ!」

 

「エンねえ! 気合い入れていくよ!」

 

 静寂が開始の合図となり、互いのポケモンがフィールドに投げ込まれた。白薔薇の頭部をしていて葉っぱのマントを羽織っているロズレイドが優雅に舞い降りる。対してエンニュートは挑戦的な眼差しを向けつつも、負けじと妖艶な笑みを湛えて降り立った。

 

「まずは『まきびし』だ!」

 

 ロズレイドが両腕にある花束の中から大量の棘を放出していく。

 

(初めてバトルを教えてくれたのは兄さんやった。それに前は兄さんのような戦いを目指していたと。やからあたしと兄さんの戦いは似とるのかもしれん。ばってん……!)

 

「『どくガス』やけん!」

 

「……!」

 

(以前のヒメノからも勝ちへの意欲というのは感じられた。けれど今のヒメノからはそれ以上に……強い意思を感じるわ)

 

 ヒメノの翠色の眼が力強く開かれると、指示が送られた。エンニュートが吐き出した毒ガスがロズレイドを包み込む。

 

「『ふしょく』か……!」

 

(さすが毒ジムのジムリーダーやけん……あれだけ調べて出てきたことを、知っとるんやね)

 

「戻れ!」

 

「……!」

 

(気付かれた……!?)

 

 毒ガスで視界を覆っている隙にヒメノはジェスチャーで『ほのおのムチ』を仕掛けさせていた。しかし晴れるより早くロズレイドが戻され、次なるポケモンが出てきた。

 

「任せたぜヒッド!」

 

「ケケケ〜!」

 

 毒ガスが晴れていく隙間を縫うように振り下ろされた炎の尻尾を受け止めたのはドヒドイデ。持ち上げられた触手からは紫色の本体が垣間見えている。

 

(エンニュートは炎タイプだからな……。草タイプのロゼッタにはそう来るよな。……! ぼうぎょを下げられたか……)

 

(兄さんは交代の見切りが良か……あそこがあたしには手が届かん部分やった。やからこそ、五対五で挑んだんやけん……!)

 

「戻って!」

 

「『アクアブレイク』でやり返すんだ! ……!」

 

 攻撃後の隙を狙ってドヒドイデがそのまま触手に水を宿して振り下ろしてきた。しかしキワナオでの経験からとっさにドクロッグに受けさせることに成功する。

 

(『かんそうはだ』か……)

 

 同時に『まきびし』に襲い掛かられるものの、水を吸収することでダメージを相殺させ、わざの終わりと同時に前が向かれた。

 

「『しっぺがえし』を打って!」

 

「『トーチカ』で防ぐんだ!」

 

 ドクロッグが右拳を黒く染めて裏拳で放つと、ドヒドイデは紫色の防壁で防ごうとした。

 

「『フェイント』に切り替えると!」

 

「……!」

 

 しかし右拳は止められて左拳がストレートで放たれた。これが出現した防壁の横を抜け、見事ドヒドイデにヒットする。

 

「ケエ!?」

 

(今までのお姫ちゃんとは違うか。覚悟はしていたんだけどな……!)

 

(このまま行けるところまで!)

 

「さらに『ずつき』やけん!」

 

「キュキュケケッ!」

 

 体勢が崩れて防壁も消えたところで追撃のヘッドバットが放たれた。しかし指示とほぼ同時に交代が行われていた。

 

「バッキー! 代わりに受けてくれ!」

 

「ポォン!」

 

 正面から叩き込まれた頭を受け止めたのは四本の青い翼を持つクロバット。衝撃から後退こそするものの、持ち前の『せいしんりょく』で怯むことなくドクロッグを鋭い眼光で捉えた。

 

(バッキーにはベトくんの『あくしゅう』も効かんかったもんね……)

 

「『エアカッター』で反撃だ!」

 

 翼が振られると風を切るような衝撃波が放たれる。精度はそこまで高くないものの、四つの衝撃波はおおよその位置には飛んでいた。

 

(グッさんにはキワナオでも飛行わざで倒れさせちゃったと。ここで引いてのカウンターやなく……前に!)

 

「……『かみなりパンチ』!」

 

「……! そう来るのか……!」

 

 引きつけてタイミングを合わせ電気を纏った拳が放たれると、正面に来た衝撃波を打ち消した。一つは外れ、残り二つは足を掠っていったが、ドクロッグは構わずクロバットへと突撃していく。

 

(接近戦には少し距離が開き過ぎているわ……躱される)

 

「『かげぶんしん』だ!」

 

(あの時と同じ轍は踏まんよ!)

 

「地面を叩くと!」

 

「なに!?」

 

 拳が叩き付けたのは分身ではなく地面だった。すると『ほうでん』され、電気が拡散されていく。

 

「ポォ……!?」

 

「バッキー!?」

 

 電気に触れた分身が次々と消えていくと程なくして本体が捉えられ、羽ばたきが弱くなっていき、やがて止まった翼が地面につけられた。

 

(まさかバッキーを最初にやられるとはな……。弱点を突かれたとは言え……いや。弱点を突き抜いてきたから、か)

 

(ヒメノのスタイルは後の先だったはず……。私と別れてから何があったのかしら)

 

(先制……できた! 嬉しか……! でも……まだ始まったばかりやけん! 集中するんや……最後まで!)

 

(兄としては嬉しい気持ちもある……が。このままやられるのは悔しいよな。お前達も!)

 

「……ロゼッタ! 頼むぜ!」

 

「キュルレッ……!」

 

(草・毒のロズレイドでは格闘・毒のドクロッグには大きな有利は無さそうだけど、少なくとも『かみなりパンチ』は軽減される。ヒメノには交代という選択肢もあるけれど……)

 

 ヒメノが一瞬『まきびし』に目をやる。そしてすぐに切り替えて前が向かれた。

 

(エンねえが『どく』にしてくれたんや。このまま倒せるは……えっ!?)

 

 しかし前を向いた先に現れたロズレイドは先程確かに紫に染まっていたのにも関わらず、美しい白を湛えていた。

 

(ナマズンの時みたいな特性……?)

 

(『しぜんかいふく』よヒメノ。ボールの中で休ませている間に状態異常を治されたの)

 

(『どく』に頼れないのは痛か……それでもここは!)

 

「『ずつき』で仕掛けると!」

 

「『やどりぎのたね』を仕掛けろ!」

 

「……! これは……」

 

 フェロとの戦いでも使われたわざにヒメノの目が見開かれた。着弾した種から伸びるツルに絡まれながらも、ドクロッグは頭を相手に打ち付けた。

 

(兄さんは我慢比べに出たんや……!)

 

「足を止めたらアカンよ! 『ずつき』の連打やけん!」

 

(本当ならここに『どく』もプレゼントしたいが……!)

 

「腕を交差させてガードだ!」

 

 ツルから吸われたエネルギーがロズレイドにもたらされる中、ドクロッグは頭を打ち続けた。時々怯ませてガードを緩ませつつ、放たれ続けた『ずつき』の蓄積で、ロズレイドも既に優雅さはなくフラフラとしている。

 

「この『ずつき』で押し切るけん!」

 

(悪いなお姫ちゃん……俺達は我慢比べに出たわけじゃないんだ)

 

「今だ! 『ねむる』!」

 

「えっ!?」

 

 するとロズレイドは安らかに寝息を立て始めた。ガードも解かれて『ずつき』をモロに食らうものの、睡眠により一度体力を全回復することで受けてしまう。

 

「ケッ……」

 

「グッさん……!」

 

 対してドクロッグは気力で持っていた脚も限界を迎え、エネルギーを吸い取られてダウンしてしまった。

 

「……お疲れ様! 良いファイトやったよ!」

 

「ロゼッタもお疲れのようだ。ボールの中で休んでもらうとするよ」

 

「……!?」

 

(もしロゼッタが『どく』だけやなく、他の状態異常も治せるんやとしたら……『ねむり』も……!)

 

(……やられたわね。『まきびし』により耐久戦へと持ち込むよう心理的に誘導されたんだわ)

 

 思わず息を呑んだヒメノはゆっくりと息を吐き出し、改めて兄のことを見つめる。

 

(あたしだけやない。兄さんだって強くなっとるんやけん。勝たなきゃいけんのは過去の兄さんやなく……今!)

 

 越えるべき壁もまた日に日に高くなっていたのだと思い知らされ、ヒメノは気合いを入れ直した。

 

「いくよ! ケーちゃん!」

 

「ヒッド! カムバックだ!」

 

 そして同時にポケモンがフィールドに送られる。出てきたドクケイルは『まきびし』の洗礼を浴びながらも、ヒメノに呼応するように気合いの入った眼差しをドヒドイデにぶつけていた。

 

「……!? 回復しとる……?」

 

(『さいせいりょく』ね……。『しぜんかいふく』と同様にボールの中で休む間に回復したのよ。まだ全快ではないみたいだけど……)

 

「『ひやみず』をかけてやれ!」

 

「『ちょうのまい』で身体を温めると!」

 

 睨まれていると感じたのかドヒドイデは視線を妨げるように冷水を放出した。津波のように襲い掛かる水を躱すことは出来なかったものの、ダメージを軽減しつつキレのある動きで俊敏さを増していく。

 

(『ひやみず』でこうげきを下げたが……『ちょうのまい』ってことはとくしゅ主体になるはず。分が悪いな……なら)

 

(兄さんがどう来るか全てを読むのは難しか。なら、どう来てもええように動くんや!)

 

「『エレキネット』を浴びせると!」

 

「冷やかしもすんだところで退散だ! 出番だぜ、クー!」

 

「ギエッ!」

 

 代わりに出てきたドラミドロが電気を帯びた網状の糸を受け止めると、付随するドラゴンタイプによりダメージを抑えていた。

 

「糸を絡ませたか……!」

 

 しかし抑えられたのは身体もだった。茶色と紫により構成された細長い身体をしている魚類系ポケモンのドラミドロだが、左手と胴体が糸により絡んでしまい動きを制限されてしまう。

 

(ケーちゃんは『ちょうのまい』ですばやさも上がっとる! 差を生かして攻められたら嫌なはずやけん!)

 

「『サイケこうせん』やけん!」

 

「クー、悪い! 突っ切って『ドラゴンテール』だ!」

 

 ドクケイルが前方にサイコパワーを集約させた球体を作り出すと、そこからピンク色の光線を放った。ドラミドロは正面から光線を受けながらも接近し、尻尾でドクケイルを弾き飛ばす。

 

「ギュギュッ!?」

 

「ケーちゃん!?」

 

 ドクケイルはそのままネットボールに無理やり押し込まれてしまい、ヒメノは交代を強いられてしまう。

 

(折角の『ちょうのまい』もリセットされてしまったわね)

 

(『ふきとばし』の要領で……! なら!)

 

「エンねえ! お願いっ!」

 

 これによりエンニュートにも『まきびし』が襲い掛かる。しかし弱点のエスパーわざを食らったドラミドロも呼吸が乱れていた。

 

(まだ『エレキネット』での減速は残っとるけん! エンねえならこのまま押し切れる!)

 

(交代は……しても『ふしょく』で負担を掛けられるし、ロゼッタも炎が弱点だから悪手だ!)

 

「クー! 頼むぜ。フルパワーで『りゅうせいぐん』だ!」

 

「……! 動き回って躱しながら『りゅうのはどう』!」

 

 先んじて仕掛けたのはドラミドロだった。頭上に黒雲を発生させると、その中から大量の小型隕石を発射する。エンニュートは降り注ぐ『りゅうせいぐん』を見切って回避しながら、余裕のあるタイミングを掴み、口から螺旋状の衝撃波を放った。

 

「『りゅうせいぐん』同士をぶつけるんだ!」

 

「えっ? ……あっ!? 危なか! 左に跳んで!」

 

「キュキュ……ッ!」

 

 すると隕石同士が衝突し軌道が変わった。逸れた確信を持って『りゅうのはどう』を放っていたエンニュートは反応が遅れ、一つだけ小型隕石を足にもらってしまう。

 

「ギエ〜……」

 

「お疲れクー! 今のは大きかったぜ!」

 

 すばやさで大きく劣っていたドラミドロは弱点となるドラゴンわざを避けることは出来ず、倒れていた。対してエンニュートは倒れずに踏ん張ってはいた……が。

 

「大丈夫!?」

 

「キュ……」

 

(たった……たった一つ当たっただけやのに、あんな深いダメージを受けるなんて……!)

 

(……なるほどね。『てきおうりょく』……。同タイプでの威力上昇が通常より大きくなる特性。それが大技の『りゅうせいぐん』と合わさって……)

 

「さぁ、任せたぜ! ヒッド!」

 

 泣きっ面に蜂と言うべきか、そこにドヒドイデが『さいせいりょく』により万全の状態で仕留めにきた。

 

(代えたら『まきびし』が耐えられん……。……!)

 

「キュ……!」

 

「……!」

 

 対面に現れた水タイプに本当に涙目になってしまうエンニュートだったが、キワナオで皆が水タイプ相手に奮闘していた姿を思い起こすと、意を決した様子でヒメノを強く見つめていた。

 

(エンねえ……! うん。分かったと!)

 

「『ひやみず』で倒すんだ!」

 

「『どくガス』やけん……!」

 

「……!?」

 

 足をやられて動けないところに容赦なく冷水が浴びせられ、エンニュートは倒れてしまう。しかし吐き出した毒ガスに包まれ、ドヒドイデは『どく』を負っていた。

 

「エンねえ、ありがとう……! 絶対に繋いでみせるよ!」

 

(ヒメノが……)

 

(分かったみたいね。そう……これは犠牲じゃないのよ)

 

「リセっち! 一緒に頑張ると!」

 

「ピュルルッ!」

 

 そしてハリーセンが奮起した様子で降り立ち、ドヒドイデと対峙した。

 

(どちらも毒・水タイプ……。攻撃的な立ち回りの難しさがあるわね。となれば『どく』を負っているドヒドイデの方が不利になるという考えね)

 

(ロゼッタに代えるか? けど有利な攻撃技が無いからな……。『まきびし』と『どく』を同条件と見るなら……)

 

 『まきびし』が浮かび上がる僅かな間に考えを纏めたヒコトはドヒドイデに指示を送った。

 

「『アクアブレイク』だ!」

 

「受け止めて『こうそくいどう』やけん!」

 

 『まきびし』と並行しての攻撃に回避は難しいと判断したヒメノは振り下ろされた触手を受け止めさせ、その後『こうそくいどう』で距離を取らせた。

 

(片やすばやさの利を取り。片や『アクアブレイク』でぼうぎょを下げに来た……。どちらも前進を選んだわね。こうなると……)

 

「『とげキャノン』を撃ち続けろ……!」

 

「『どくばりセンボン』撃ち尽くすんよ……!」

 

 そして距離が開いた瞬間、両者は鋭利なトゲや針を無数に撃ち出した。トゲが次々と触手に生えて発射され、針が次々と身体に生えて射出されていく。

 

「ケエエエエッ……!」

 

「ピュルルルッ……!」

 

(『どくばりセンボン』……聞かない技ね。けれど『どくばり』の発展技であることは明らか。毒タイプでもあるドヒドイデには半減されてしまうわ)

 

 両者共に鋭利な攻撃を受けながらも一歩も引かずに撃ち合いが続けられた。それが終わったのは、一方のポケモンが力尽きた時だった。

 

「ケエッ……」

 

「ヒッド……!?」

 

 最後まで撃ち続けられたのはハリーセンの方だった。ドヒドイデが倒れるのを見届け、ようやく絶え絶えな息を少しでも整えようとしている。

 

「リセっち、よう頑張ったと……!」

 

(『どくばりセンボン』は『どく』状態の相手には威力が倍になるけん……。助かったよ、エンねえ!)

 

 『どく』を負わされたドヒドイデには『どくばりセンボン』の威力が倍加されていた。一見半減されるため同条件のようだが、ノーマルわざの『とげキャノン』と違って毒わざの『どくばりセンボン』には同タイプによる威力上昇があった。その僅かな差が勝敗を分けたのだった。

 

「またまた頼んだぜ。ロゼッタ!」

 

(やっぱり『ねむり』が解けとる……)

 

 ドヒドイデに代わって三度(みたび)現れたのはロズレイド。安らかな寝息はどこへやら、ぱっちりなお目目でハリーセンを捉えている。

 

(ハリーセンもあと一押しなんだ。ここは一撃受けようと回復手段があるロゼッタで決めればイーブンに持ち込める!)

 

「『どくづき』で倒すんだ!」

 

 一発はもらう覚悟でロズレイドは自ら接近戦を仕掛けにいった。花束の中から毒が染み込んだ棘が大量に付いているイバラの鞭を取り出し、叩き込む。そんな最中、ヒメノはハリーセンから向けられた視線に頷いていた。

 

「『だいばくはつ』!」

 

「なんだって!?」

 

 ふてぶてしく笑ったハリーセンは鞭が届くより早く、含んだ起爆剤で腹を膨れさせて爆発していた。二匹を包み込んだ爆風がやがて晴れていく。そこには戦闘不能になって倒れ込む二匹の姿があった。

 

「リセっち、ありがとう……!」

 

「くっ……悪いロゼッタ。後は任せてくれ」

 

(元々ドクロッグの『ずつき』が一回分残ってたんだ……。あの大技を至近距離で食らったら、耐えられないよな……)

 

(これでロズレイドの『やどりぎのたね』が後続に残らなくなったわ。一つ一つを取ってみれば本当に小さな差……それを積み上げたことで、ここまで大きな差にしてしまうなんてね)

 

「……はははっ」

 

「兄さん?」

 

「いや……ついな。お姫ちゃんとこんなバトルが出来る日を俺は待ち望んでたんだ。楽しくてしょうがなくてな」

 

「あたしも楽しか……! 兄さんのように戦おうって思ったままやったら、絶対にこんな日は来んかった。あの日、兄さんが送り出してくれたから……」

 

「違うよ。俺は最後に背中を押しただけ。お姫ちゃん自身が選んだんだ。変わることをな」

 

「兄さん……」

 

「……さて、と。そんなヒメノに最後の試練だ。悪いが俺も勝ちを譲る気はさらさら無くてな。欲しかったら奪ってみな!」

 

「望むところやけん!」

 

(……私もマシュとこんなバトルをする日が来るのかしら)

 

 クロバット、ドラミドロ、ドヒドイデ、ロズレイドと四匹のポケモンが戦闘不能となり、ヒコトは最後のポケモンに望みを託し、ボールを放った。

 

「コッパ! ここから巻き返すぞ!」

 

「ポーリリンッ!」

 

「ケーちゃん! もうひと踏ん張りお願いっ!」

 

「ギュッギュッ!」

 

 ドクケイルと向かい合って現れたのは同様に毒・虫タイプであるモルフォン。頭から三又に分かれた紫色の角を伸ばしており、薄紫色の大きな羽を羽ばたかせている。

 

「「『サイケこうせん』!」」

 

 『まきびし』に襲われている隙を逃さずモルフォンがピンク色の光線を放つと、ドクケイルも同様の光線を放ち、中央でわざが接触して爆風を巻き起こした。

 

「……!」

 

「『きゅうけつ』だ!」

 

 『サイケこうせん』と同時に前方に進んでいたモルフォンは爆風を突っ切って接近していた。伸ばされた口針は的確にドクケイルを捉えている。

 

(虫タイプのわざ! ケーちゃんならまだ耐えられる……!)

 

「『エレキネット』で捕らえると!」

 

 ドクケイルが放った糸に絡まれながらも口針が突き刺され、エネルギーが吸い取られていった。

 

「ギュギュ……ッ……!」

 

「ケーちゃん……!?」

 

 するとドクケイルの羽ばたきが止まり、ふらりふらりと舞い落ちていく。対してモルフォンはやや鈍くなった羽ばたきが、吸収したエネルギーによって少し戻っていた。

 

(相性の半減が無かったと……! コッパの特性……!?)

 

(こうかがいまひとつのとき、威力を倍加させる『いろめがね』……。さすがジムリーダーね。『どく』が効かない相手と戦う術を持ち合わせているわ)

 

「ケーちゃんお疲れっ! ……行くよ! ベトくん!」

 

 これによりヒメノもドクロッグ、エンニュート、ハリーセン、ドクケイルと四匹のポケモンを倒されてしまった。最後に残ったベトベターのモンスターボールを手に取ったヒメノの脳裏に、以前ここでベトベターといっしょにジムトレーナーとして戦っていた記憶が浮かび上がった。そしてその時との違いが今の光景となって映し出されると、ボールが投げ込まれた。

 

「べたぁ!」

 

(ベトくんか……。容赦はしないぜ!)

 

 ヒコトもベトベターとは付き合いが長く、ヒメノや自分のポケモンと同様に家族として接する仲だった。しかしそれでも『まきびし』が襲い掛かるタイミングと合わせて攻撃が行われた。

 

「『アシッドボム』を落とすんだ!」

 

(多分これも半減はせん……。やけどここは後手に回るとこじゃなか!)

 

「『どろばくだん』をおっちゃかすと!」

 

 モルフォンは強い酸性を含んだ球状の毒を吐き出し、ベトベターはヘドロから抽出した泥の塊を放り、撃ち合いの形になってそれぞれが食らった。

 

(泥で視界を覆ってきたか……だが!)

 

(やっぱり半減せん……! しかもとくぼうをがくっと下げられたと。ってことは……来る!)

 

「『サイケこうせん』だ!」

 

(少し左に逸れたけん!)

 

「右に跳んで屈んで!」

 

 迫り来るピンク色の光線を潜り抜けるようにしてベトベターは躱しきった。

 

(だがその体勢で追撃を躱せるかな!)

 

「さらに『サイケこうせん』だ!」

 

「『かなしばり』で封じると!」

 

「……!」

 

 ベトベターが念じるとオーラに纏われたモルフォンはサイコパワーを放出できなくなり、光線は放たれずに終わった。

 

(『エレキネット』ですばやさを下げたことで間に合ったわね)

 

「なら『エアスラッシュ』で切り裂け!」

 

「左に動いてジャンプ!」

 

 モルフォンが両羽を鋭く振り下ろすと、作り出された二つの空気の刃がベトベターを襲った。先に届く右側の刃を横に動いて躱したベトベターは低空で飛ばされたもう一方の刃を跳んで回避する。

 

(やっぱり詰めてきとる……!)

 

「『きゅうけつ』で吸い取るんだ!」

 

「『とける』でいなすんよ!」

 

(……! 読まれていたか!?)

 

 それは逃げ場のない空中に誘導する仕掛けだった。伸ばされた口針が突き刺さり、エネルギーを吸い取っていく。しかしベトベターが溶けたことでヘドロが混じり、その分吸収したエネルギーは減っていた。

 

(ベトくん。ここまで色んなことがあったね……)

 

「あたし達の思い! この一撃に乗せるよ……!」

 

「……!? こ、これは……!」

 

 その時だった。ベトベターのヘドロの体積が増していき、顔つきも精悍(せいかん)なものへと変わっていった。

 

「ベトベトンに進化した……!?」

 

(ベトくん……!)

 

「……行くけん! 『おんがえし』っ!」

 

「べっ……たああ!」

 

 ベトベトンの大きな手が振られると、針を抜け切れていないモルフォンに直撃し、はたかれた。

 

「リリンッ……」

 

「コッパ……! …………」

 

(あんな一撃をもらっちまったらな……)

 

 少しの間動きが止まっていたヒコトだったが、その足がトレーナーボックスから踏み出された。

 

「ベトくん! よう頑張ったと〜!」

 

 そして喜びを分かち合うようにベトベトンに飛びつき、頭を撫でているヒメノの姿を見て穏やかな笑みを溢したのだった。

 

(……良いものを見せてもらったわ。また貴女と戦いたくなった)

 

「ヒメノ、強くなったな……」

 

「兄さん……」

 

「勝者に涙は似合わないぜ? ほら、デトックスバッジだ」

 

「……うんっ!」

 

 対してヒメノは思わず嬉し涙が溢れていた。拭って立ち上がると、フィールド中央まで歩いてバッジを受け取る。見守っていた観客の拍手にちょっと照れたような、それでいて満面の笑みを浮かべたのだった。

 

「お祝いだ! これも持っていってくれ」

 

「えっ!? このボールって、兄さんがジムリーダーに就任した時に貰った記念品じゃ……」

 

 ヒコトが続けて取り出したのは白を基調としたプレミアボールだった。

 

「自分じゃ勿体無くて使えなかったんだ。お姫ちゃんが使ってくれると俺も嬉しいよ」

 

「分かったと。大切に使うんよ!」

 

「これでジムバッジは七つ……。残すはマトクモジムだな。あそこのジム戦でのスタジアムルールは六対六のフルバトルなんだ」

 

「えっ! そうやったんや……。それじゃあすぐに向かっても挑戦出来なかね」

 

「そうだな……。……今のお姫ちゃん達なら、あそこに行っても平気だろう」

 

「……! そうやね! 行ってみる!」

 

 ヒコトは寂しさと嬉しさが混じった複雑な表情を浮かべると、最後は思いっきり笑顔を浮かべて拳を突き出した。

 

「ヒメノ。お前ならこのまま行けるよ。頑張ってこい!」

 

「うんっ!」

 

 そしてヒメノも拳を突き出し、ぶつけ合った。こうしてキナサガタウンでのジムチャレンジは幕を下ろしたのだった。




ヒコト

ヒメノの初めての仲間がベトベターということもあり、毒タイプのジムリーダーである自分への憧れが日に日に強まっていくことを懸念していた。
ある日ガサより来訪したミユと初めて出会ったヒメノがストリートバトルで遊ぶ姿を見て、ベトベターといっしょに遊ぶことが彼女のスタイルを築き上げていることに気付き、ジムトレーナーを勧める。
目論見通り少しずつ彼女らしい戦いが出来るようになったのだが、本人に自覚は無く、ジムチャレンジ可能年齢になっても一番の憧れであるヒコトのもとから離れることは無かった。
彼女自身が変化を求めない限りは現状が続くと考え、ドルガにエキシビションマッチの選出候補に入れてくれないかと打診した。
実際に選出したドルガの胸中を把握はしていないが、自分と似たような思いを抱いている感覚を覚えており、またどういった理由であれ感謝している。
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