ベトくんといっしょに   作:ゾネサー

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明鏡止水の心

「ま、まさかツラレさんがジムリーダーなん?」

 

「フェス本戦への参加資格を持つのはチャレンジャーのみ。ジムリーダーにその権利は無い……少し考えれば分かることだと思うけど?」

 

「そ、そやね」

 

(相変わらず厳しかね)

 

 初めて会った時と変わりなくバッサリとした物言いで告げるツラレに、ヒメノはさすがに気後れしていた。

 

「目に映るものだけを盲信しては、事実を歪めるわ。まさしく見落としね」

 

「あっ! 後ろにも人がおったん?」

 

 ツラレが立ち上がると、すぐ後ろにも座禅を組んでいた者がいた。ツラレと違いヒメノより小さな身体をしていたが、その背筋はピンと張っていた。

 

「おや……もしかしてお嬢ちゃんが、ヒメノちゃんかい?」

 

「そやよ! どうして知っとるん?」

 

「それはねえ——」

 

「——貴女、エキシビションマッチに選ばれた自覚が無いの? 関係者の中ではちょっとした有名人よ」

 

「えっ。そ、そうなん? あの試合は目の前のことで精一杯で、他の人の視線とか考えとる余裕が無かったけん……」

 

「なら、自覚を持つことね。選ばれることを望んでも、選ばれなかった人だっているんだから」

 

「そっか……分かったと!」

 

(やれやれ。照れ隠しかい? 可愛いところがあるじゃないか)

 

 立ち上がってからすぐさまヒメノと至近距離まで近付いて注意するツラレにもう一人の女性が苦笑を浮かべると、おもむろに立ち上がって歩み寄っていった。

 

「こんにちは。あたしがジムリーダーのマナツだよ」

 

「初めまして! ヒメノ……って名前はもう知っとるんやっけ。よろしくお願いすると! 今日は街に着いたから挨拶に来たけん!」

 

「歩いてきて疲れただろうにすぐに挨拶に来てくれるとはねえ。あたしゃ嬉しいよ」

 

御師(おんし)。甘やかしすぎです。都合を考えずにいきなり挑戦する者が礼儀知らずなんです」

 

「否定はせんよ。けど、礼儀を弁えてることを褒めるのも大事なことさ」

 

「そう……でしょうか」

 

「御師? ……そっか、二人は師弟関係なんやね!」

 

「と言っても御師には多くの弟子がいるわ。私にとっての師匠はマナツ御師だけだけど」

 

「そ、そんなに凄い人なんや。ツラレさんがそこまで言うなら、かなり強いんやね」

 

「ほほほ。あたし自身はそうでもないさ。バトルの技量であればツラレの方が随分上じゃろうて」

 

「ご謙遜を」

 

「なら何故そんなに弟子を抱えてるのか。理由が気になるかい?」

 

「すっごく気になると!」

 

「待って下さい。聞けば教えてくれる、そんな精神を抱けば将来困ります。大人も本質は同じですが、この年頃は特に根付くと離れません。……ヒメノ。まずは考えてみなさい」

 

「う、うーん……そやねえ」

 

「正解を当てろとまでは言わないわ。大事なのは予測することよ」

 

(なんだか……子供に言い聞かせとるみたいやけん。ちょっと照れくさか)

 

 年齢としては自分の母親に近いこともあって、ヒメノはむず痒さを覚えながら、言われた通りに考えてみた。

 

「そういえば……ジムの入り口に鳥居があったんよ。これだけビルが立ち並んどるところに、いきなり出てきたからビックリしたけん」

 

「それで?」

 

「それとさっき座禅をしとったよね? あれってお坊さんがやっとるイメージがあるんよ。内装はそんな感じせんけど、もしかしたらここは神社なんやないかな? やから精神修行をつけてくれるお師匠さんってことかなーと思ったんよ」

 

(……なるほどねえ。ツラレが面白いと思うわけだよ)

 

「……悪くない答えね。ご褒美に教えてあげる。私が御師と呼んでいるのは尊敬の念の意味もあるけど、もう一つあるの。社寺に所属して参拝客や信者……まあここに来るのはチャレンジャーだけど、それらの世話をする神職のことを御師(おんし)、または御師(おし)って言うのよ」

 

「ほえー……知らんかった。勉強になると」

 

「このジムではジムトレーナーが居ない代わりに、チャレンジャーが希望すれば、精神修行をつけていてね。特にクオカフはジムチャレンジの拠点になりやすいから、毎年修行をしにくる子もいるんだよ。ツラレもそうだね」

 

「初心忘るべからず……。例え技量が上がろうとも、それを受け止める心が器たり得なければ、全ては(こぼ)れ落ちて水の泡ですから」

 

「で、でもジムトレーナーはジムリーダーの負担を減らすためにあるけん。やのにそれじゃあむしろ負担が増えてしまうんやない?」

 

「まだまだ若い子には負けないよ。それにあたしゃねえ……ジムチャレンジは老若男女問わず、学びの場だと思ってるんだよ。幾つになっても教わることがあるし、逆に年端も行かぬ子が教えることもある。勿論その逆もね」

 

「まさしく人生一生勉強ですね」

 

「でもね。バトルというのはどうしても興奮して、勝敗に拘りたくなるだろう」

 

「うん。やっぱりやるからには勝ちたいけん!」

 

「だからこそ明鏡止水の心で挑んでほしいの。勝ちを目指して、同時に折角の教えからも目を背けないように。その助けになれるんだったら、あたしゃ一肌も二肌も脱ぐよ。ふぇふぇふぇ」

 

「それってなんかすっごく良かね!」

 

(こういう人やから、自然と弟子になりたいって人が増えていくんかな)

 

「あたしも修行つけて欲しか!」

 

「そう来ると思ったわ。折角だし私が面倒を見てあげる」

 

「ほえっ!? ツラレさんが?」

 

「嫌なの?」

 

「と、とんでもなか! お願いしちゃうけん」

 

「修行をする前に貴女のことを深く知る必要があるわ。明日の正午、スタジアムに来なさい」

 

「……! わ、分かったと。バトルするんやね。……じゃあまた明日! 失礼するとー!」

 

 こうした流れもあってヒメノが精神修行をしてみることに決めたのも束の間。ツラレからバトルの申し入れを受けたヒメノは少し考えてから、急いでジムを後にしていた。

 

「明日と言わず今日することも出来る。ジム戦じゃないから、スタジアムに限定する必要も無い。ツラレらしい問いかけねえ」

 

「……答えは分かりきっていますよ。私があの子を初めて見たのは、フェリーの上でしたから」

 

 そして天高く輝いていた日が地平線に寄り掛かった頃。ヒメノはクラサラマウンテンのふもとから山頂を見上げていた。

 

(ミユは今頃どうしとるかなあ)

 

 そうしていると汗が目に入り、思わず目が瞑られる。山頂とは違ってふもとは気温が高く、ヒメノは気付いたら汗だくだった。

 

(……帰ったら温泉一直線やけん)

 

「みんなー! そろそろ周りが見えんくなるから、今日はここで終いやけん! ちゃんと水分摂るんよ」

 

 動き回っていた手持ちの三匹はもっと暑いだろうと、ヒメノは街で購入しておいた『おいしいみず』を取り出して分けようとする。

 

「けむけむっ!」

 

「そやね。ケーちゃんにはオレンジュースやけん!」

 

「ルー? ピュルピュル!」

 

「こーら。リセっちはこの前飲んだでしょ。今回はケーちゃんの番やけん」

 

「けーむけむ!」

 

「……! ピュルルッ!」

 

「……! けむけむっ!」

 

「もー! また喧嘩してー。ケーちゃんもリセっちを挑発するなら、オレンジュースはお預けやよ」

 

「む〜」

 

「よいしょっと……はい! ちょっとずつやけど、指示に合わせられるようになってきたけんね。まだ息が合わんことばかりやけど、頑張っていこ?」

 

「けむ〜」

 

「リセっちもお疲れさん! ワンリキー相手によう頑張ったね。明日の攻撃役、よろしくね!」

 

「ピュルッ!」

 

「ベトくん。熱かったと思うけど、ようやってくれたよ! リセっちのサポートは任せたけん! あ! 勿論あたしも精一杯サポートすると!」

 

「べたっ!」

 

 やがて日が沈み、そして昇る。開かれたドームから太陽が顔を覗かせる中、ヒメノもスタジアムに顔を出していた。するとスタンドがかなり埋まっていることに驚いていた。

 

(ストリートバトルより観られてる感じが強か……)

 

 スタジアムバトルに慣れていないヒメノはそのことにやりづらさを覚えていた。

 

「……身体が固いわね」

 

「あの……この人達は?」

 

「チャレンジャーよ。昨日は全員スタジアムにいたの。スタジアムやダブルに慣れるための自由練習でね。今日も名目は同じだけど」

 

「うう……そうやったんや」

 

「これからスタジアムで戦うなら慣れるしかないわ。……それにエキシビジョンマッチの比じゃないでしょ」

 

「あの時は本当に無我夢中やったから……」

 

「へえ。私はドルガみたいに夢中にならないのね」

 

「そ、そういうわけやなかけど……」

 

「冗談よ。半分はね」

 

(どこまでが冗談か分からなか……)

 

「それに嫌でも集中することになるわ。そうでなければ、貴女に待っているのは情けない敗北よ」

 

(……それが嫌なら集中しろ、ってことやね。よーし……!)

 

 深呼吸を挟んだヒメノは最後に頬を両手で思い切り叩いた。それがスイッチのように気を引き締めたヒメノは、今度はそれぞれの手でモンスターボールとルアーボールを掴む。

 

「情けのある敗北を受け入れる覚悟は出来たかしら?」

 

「やる前から負けることは考えんよ!」

 

「上等ね。さぁ……始めるわよ」

 

 リボンで結ばれたサイドテールをかきあげたツラレは静かに空色の眼を見開く。そして両者のボールが宙に放られた。

 

「お願いっ! ベトくん、リセっち!」

 

「行きなさい。オニゴーリ、ユキメノコ」

 

 コートに現れ出でたのはベトベター、ハリーセン。彼らと対峙するのは白い装甲で本体の黒き顔面を守っているオニゴーリ。そしてオニゴーリと同じく二本のツノを生やし骸骨状の装甲を纏いながらも、頭から白い振袖のような腕を垂らした人型のユキメノコだった。

 

(先んずればバトルを制す……)

 

(先手必勝やけん!)

 

「『しんぴのまもり』を展開なさい」

 

「『どくガス』で仕掛けるんよ! ……えっ!?」

 

 バトル開始早々に出された指示は僅かながらツラレの方が早かった。直後にベトベターが放った毒ガスはユキメノコが作り出した半球状のヴェールに入ると、無色になってしまう。

 

(解毒されとる? 状態異常対策……! これじゃあ『どくばり』や『どくのトゲ』でも……)

 

 張られたヴェールは未だ消滅することなくオニゴーリとユキメノコを囲っており、ヒメノは出鼻をくじかれていた。

 

(毒タイプのポケモン相手に『どく』を警戒しないわけないじゃない。こんなことで驚いていたら、この先持たないわよ)

 

「お返しよ。『こなゆき』!」

 

「……!」

 

 ユキメノコが『しんぴのまもり』を張り終えても毒ガスは完全には晴れておらず、お互い正確な位置を把握しかねる中、ユキメノコが腕を振ると相手コート全体を覆うような粉雪が襲い掛かった。

 

(攻撃がよく見えん……。やけどツラレさんが氷タイプの使い手なのはジムフェスで分かってたけん。簡単にはやらせんよ!)

 

「ベトくんは『どろかけ』。リセっちは『ころがる』の準備!」

 

「……!」

 

「……今っ!」

 

 毒ガスの隙間から攻撃が来るタイミングを必死に読んだヒメノは指示を送った。すると氷に対して弱点を突く地面・岩わざの双方が放たれ、粉雪は霧散していく。

 

(へえ。打ち消しを覚えたのね。でも、甘い)

 

「『みずのはどう』よ」

 

(ここでオニゴーリを……! あっ!?)

 

 連続して行動してきたユキメノコに意識が向いていたヒメノはオニゴーリに対する警戒がやや欠けていた。すると輪状の水により泥は撃ち落とされ、さらに『ころがる』で突っ込んでいったハリーセンが弾き返されてしまう。

 

「わざわざ使用するわざとタイミングまで教えてくれるんだもの。当然の結果よ」

 

「そんな……」

 

 打ち消しの確実性を増すために事前にポケモンに攻撃わざの予告を行なっていたのが仇となり、また粉雪の霧散がスパンコールのように輝いて正確な位置まで知らせてしまった。ヒメノはツラレが自分と違って予告無く、しかも同時に二つのわざを消滅させたことに唖然としてしまう。

 

(……そこまでは考えが及ばんかった。ツラレさんがオニゴーリを待機させてたのは、そんな意図があったんや)

 

「……『きしかいせい』で反撃して!」

 

 心の整理がついてはいなかったが、毒ガスも晴れて無防備を晒すわけにもいかないと、ヒメノはとにかく動きながら考えることを選ぶ。

 

「ユキメノコ。オニゴーリの前に出ながら『おにび』よ」

 

(ユキメノコを盾に? でも『きしかいせい』は格闘わざ。氷の弱点を突けるけん! 同時に『あわ』は撃てんから、『おにび』は受けるしかなか!)

 

 横に並んでいた両者の位置関係が変わり、縦列へと変わっていた。当然ハリーセンは前方にいるユキメノコに向かって、尻尾でアッパーを仕掛ける。対してユキメノコはおどろおどろしい紫色の火の玉を手のひらに浮かべて突き出した。

 

「ピュルッ!?」

 

「えっ!?」

 

 その火の玉はハリーセンに接触したが、ユキメノコの身体をハリーセンは通り抜けてしまった。

 

「ユキメノコは氷タイプであると同時に。氷のように冷たい存在なのよ」

 

「あっ……ゴーストタイプ……!」

 

 霊体に格闘わざは通用せず。空を切ったアッパーは自ずとハリーセンの体勢を崩し、着地を失敗させてしまう。

 

「『フリーズドライ』よ」

 

(やられた……。打ち消しも間に合わん! ばってん氷タイプのわざなら——)

 

「昨日も言ったわよね。目に映るものだけを盲信すれば……事実を歪めると」

 

「えっ?」

 

「ルルルルッ!?」

 

「リセっち!?」

 

 ハリーセンはオニゴーリによって急激に冷やされ、そして体内の水分を一気に放出させられてしまった。萎んだ風船のようになって歪に転がるハリーセンはヒメノに『フリーズドライ』への危機感を抱かせるには十分過ぎた。

 

(水タイプに有効な氷タイプのわざ……!? あのわざをもう一度食らったら終わりやけん。……!)

 

「『やけど』……! さっきの『おにび』で……」

 

 畳み掛けるようにハリーセンは『やけど』の状態異常を負っていた。時間と共に削られていく体力の他に、もう一つの症状がハリーセンを襲う。

 

(これじゃあ力は出ん……。全開のこうげきは無理やね。せっかくの『きしかいせい』も一発逆転には程遠か。……いや、違うね。そうなるように封じられた!)

 

 『きしかいせい』は追い込まれれば追い込まれるほどその真価を発揮することが出来る。ヒメノは『フリーズドライ』でその状態に追い込む前に、ツラレが先手を打っていたことに気付き、その氷のように冷静な判断に冷や汗をかいていた。

 

「その弱り目に『たたりめ』よ」

 

「ヒュゥ……オオン……!」

 

「『どくばり』を撃って下がって!」

 

(……! あの体勢から躱すのね)

 

 ユキメノコから倒れていたハリーセンに容赦なく暗黒に染まった光線が放たれたが、反撃で細針を数発的中させながら、ハリーセン自身は噴射の反動により間一髪のところで回避に成功する。

 

(『たたりめ』は状態異常を負っている相手には倍の威力を発揮する……。オニゴーリの『フリーズドライ』を過剰に警戒していれば、今のでチェックメイトだったわ)

 

 その回避からヒメノがまだ平静を保っており、直線的なハリーセンへの集中攻撃に固執するのはむしろ危険とツラレは判断した。

 

(ここはベトベターに狙いを定めて、隙が出来た方を先に倒す)

 

「『おにび』、『のしかかる』でベトベターを狙いなさい!」

 

(今のでリセっちはカバー出来ん……!)

 

 ハリーセンは攻撃役、ベトベターはサポート役と決めて動いていたヒメノだったが、それ故に後手に回っている現状を嫌でも感じていた。それでも状況を打破すべく、相手の連携攻撃から目を逸らさず活路を探し出す。

 

「左に動いて『たくわえる』で受け止めて!」

 

「……!」

 

 真っ直ぐ向かっていたオニゴーリがベトベターに合わせて軌道を変えていくと、その軌道は斜めからベトベターを狙うユキメノコの射線上だった。『しんぴのまもり』により『おにび』はこの世から消え失せてしまう。

 

(『ちいさくなる』に依存したままやったら、『ふみつけ』と同じ要領で大ダメージやった……!)

 

 そして空気中の水分を蓄えてヘドロの密度を上げたベトベターはオニゴーリの『のしかかり』を受け止めていた。

 

(……『まひ』も入らないか……)

 

 押し潰すような『のしかかり』は長時間の正座に近い痺れを誘発させることがある。『おにび』も踏まえれば状態異常を避けられないと踏み、『たたりめ』での追撃を考えていたツラレはここまでハイスピードで行っていた判断が僅かに遅れてしまう。

 

(……決めたと。オニゴーリを先に倒すけん!)

 

「『やきつくす』んよ!」

 

「……!? 『みずのはどう』!」

 

(……ダメね。間に合わない……!)

 

「ユキメノコだけでも躱して!」

 

 ベトベターの口から放たれた火炎に反応してとっさに『みずのはどう』を指示したツラレだったが、距離の近さも相まって間に合わず。ユキメノコはある程度の余裕を持って回避したものの、オニゴーリは直撃してしまう。

 

「ピギュルゥ……!」

 

(やられたわ……。イバンのみごと燃やされるとはね。ベトベターに炎わざのイメージを抱けなかった私の責任。これじゃあ人のことは言えないわね)

 

(本当はリセっちとの役割をチェンジしての切り札として使う予定やったけど……出し惜しみはしてられなか)

 

 立ち上がったものの『やけど』により刻一刻と体力が削られていくハリーセンを横目で見ながら、ヒメノは立てていたプランを崩して新たな突破法を今ここで築き上げる必要性を感じていた。

 

(……長期戦は望むところ。ならここは強行突破じゃなく、揺さぶりをかけるのがベスト)

 

「オニゴーリ。下がってハリーセンに『フリーズドライ』よ」

 

「なら…………『きしかいせい』!」

 

 氷の弱点を突く炎わざの存在を知ったツラレはベトベターから距離を取らせると、遠距離戦を仕掛けた。それに対しヒメノは攻撃の指示を少し待ってからハリーセンに打ち消しを狙わせる。

 

(よし! 今の『きしかいせい』の威力ならタイミングは多少大雑把でもいけるね!)

 

 予告無しでの打ち消しは練習しておらず、出たとこ勝負ではあったが、急速冷凍が始まるタイミングに合わせて撃たれたアッパーが氷を打ち砕くことに成功していた。

 

(なら二の矢を放つまでよ)

 

「『こなゆき』!」

 

「ベトくん前に! 『たくわえる』で受け止めて!」

 

(『こなゆき』は同時攻撃が可能。それを縦列編成で一匹で受けたわね。私の真似をとっさにしたのなら、悪くない機転よ)

 

 前から襲い来る雪の嵐もぼうぎょと同時にとくぼうも上がる『たくわえる』を挟んでベトベターが全て受け止めていた。

 

(けれどこの間にも『やけど』は侵食しているわ。『しんぴのまもり』があるこちらの利が、目に見える形で顕れているわね)

 

(どうにかしてオニゴーリに接近戦をさせんと……)

 

「……『どくガス』でリセっちを包んで!」

 

「なんですって? ……! きのみジュースを持たせていたのね……!」

 

 姿を隠す行動と、『やけど』による消耗の不一致を感じたツラレは毒ガスで包まれる前にハリーセンを注視し、きのみジュースの存在に気が付いていた。

 

(悠々と回復させてしまえば、長期戦にも対応させてしまうわ。……それなら私が取るべきプランは、回復前の短期決着!)

 

「オニゴーリ。突っ込みなさい!」

 

(来てくれた!)

 

「『どろかけ』で迎え撃つと!」

 

(これで『あくしゅう』で怯むか、泥で命中が乱れれば、『きしかいせい』を叩き込む絶好のチャンスやけん!)

 

 通り道を冷気で彩りながら猛スピードでオニゴーリが突っ込んでいく。それに対してハリーセンは毒ガスの中にいながらも回復行動を取らずにベトベターのすぐ後ろで構えていた。そして毒ガスを背にベトベターが抽出した泥を放つと、被弾したオニゴーリをヘドロのキツイ匂いが襲う。

 

(やったと!? ……!)

 

(ドルガの時の反省は生かしてるみたいね。けどオニゴーリの『せいしんりょく』なら怯まないわ)

 

 その匂いに対してオニゴーリは涙目になりながらも持ち前の精神力で持ち堪え、スピードを落とすことも無かった。

 

(……怯まなくとも泥で視界は狭まっとる。なら!)

 

「ベトくんも『どくガス』の中に!」

 

(これでどの攻撃でも当てるのは簡単じゃなかよ!)

 

 怯みが無いと見るやヒメノはベトベターも闇の世界へと飛び込ませた。中にいる二匹からも外は見えなかったが、攻撃を外した隙を突いて飛び出す準備は出来ていた。

 

「私が何故ユキメノコではなく、オニゴーリに突っ込ませたか……その答えを教えてあげるわ。さぁ、フィニッシュよ! 『じばく』!」

 

「えっ!? 自爆? ……しまったと……!」

 

 その言葉の意味するところにヒメノは気付いたが、今更遅いということも同時に理解させられていた。オニゴーリの身体が点滅し始め、段々と点滅のペースが早くなっていく。その軌道は彼らからは逸れていたが、直後に起こされた『じばく』はガスを巻き込んで『だいばくはつ』していた。その結果コート全体へと広がるほどの衝撃がベトベターとハリーセンに襲い掛かる。

 

「あたしの『どくガス』を利用してどう足掻いても躱せん攻撃を……」

 

(『どくガス』で姿を隠しとっても、安全やなかとね……)

 

「で、でも! あれだけの爆発、ユキメノコだって……! ……あっ!」

 

「オニゴーリ、ベトベター、ハリーセン戦闘不能! 勝者、ツラレ!」

 

「ゴーストタイプのユキメノコにノーマルわざの『じばく』は効かない……まだまだね」

 

「うう……そやったと」

 

「御師の言った言葉は覚えてるわよね。貴女は私の映し鏡のように、同じことをする姿を想像出来るかしら?」

 

(ベトくんやリセっちを『じばく』で犠牲にして勝つ姿……?)

 

「……出来なか」

 

「そう……相手から学び取るというのは存外難しいのよ。貴女には貴女なりの、私には私なりの矜持がある。それは簡単に折れてもいけないけど、ただ変えずにいるだけでは、伸び(しろ)を失うだけ……」

 

 自らを起爆させた代償でもはや起き上がる力も残されていないオニゴーリを抱え上げたツラレは頬を二、三回撫でると、ボールの中へと戻した。そして指を差して、ヒメノの目を拍手が響くスタンドへと向ける。

 

「あの子らの中には必ず私達から学び取った人がいる。見る、という行為はただ目に映るだけじゃない。自分の心に反映させているの」

 

「負けたあたしのも……?」

 

「当然。貴女にも勝機へと費やしたアイディアがあった。それが分からないようでは……本当に見ていたとは言えないわ」

 

(このバトルはあたしのことを知るためのものやって言っとった。ツラレさんは……見とったんやね。あたし自身も見えてへんところまで……)

 

「……ねぇ。ヒメノ。私はね、強いわ」

 

「ほえっ? う、うん」

 

「けれど、バトルは一人では出来ない。戦ってくれるポケモン、相手として向かってくるトレーナー……その関わりの蓄積が私の強さ。だから私だけで築き上げたとは思わない。まさしくそれは、自惚れだから」

 

「あ……」

 

「まずは自分自身の強さとは何なのか。それを見直すわよ。そうでなければ……相手の強さが見えるわけも無いのだから」

 

「……そう、やね。……よろしくお願いします!」

 

 ヒメノは彼女の眼が自分と同じような緑を含みながらも、透き通った青が両立されているように感じられていた。そんなツラレを見上げたヒメノは力強い眼差しから目を逸らさず、修行を熱望するのだった——。




スタジアムバトル

多くの観客を内包するスタンドが設けられており、行事に用いられる側面が強い。選手のための控え室やコート上の激しいバトルを映し出すモニターなど施設が充実しており、維持費用を賄うため観戦料が設けられている。そのため客足の伸びはそのまま注目度の高さを示している。
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