龍門から出て、荒野を渡ること十日目。
「こっから楽になるわよ。もうすぐリターニアの移動都市だ。」
「そっからヴィクトリアを経由すれば直ぐにイェラグに着くわ。」
リターニア移動都市検問での待ち時間に女性のトランスポーターがロープと話していた。
「はへー。お姉さんは良くカランド貿易と仕事するの?」
感心そうな顔をしたロープが尋ねる。
「いや〜、報酬が良いからね。両手で数えるくらいは経験してるよ。」
「しかも、カランド貿易の社長っていい顔してるし。眼福眼福!」
手でお金の形を作ったり、指で顔を指したりしながらフェリーンの女性は答える。
しばらくすると問題なく検問を進み、移動都市へと入る。
「ここで各自次の出発まで自由行動。宿舎は○○区域の■■■だ。」
休息と補給を兼ねた自由時間が与えられる。用事のない人は大抵宿舎で休みとベテラントランスポーターのお姉さんが言ってた。
「ほれ。」
シルバーアッシュが小さな財布を渡してくる。
「好きに使え。」
「わーい。ありがとパパ〜!」
「……。」
「無視ですかいな。まあ、ありがと。」
「一応、夜までには宿舎に戻れ。」
「あーい。」
自由を与えられるとは思っていなかったロープだったが、貰えるものは貰うことにした。
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見渡す限り羊のようなツノを生やしたカプリーニと呼ばれる種族が街を歩いていた。リターニアはレンガ作りの古風な雰囲気を都市だった。しかし、聞いた話だとアーツの研究が進んでいて、技術は発展してるだとか。
財布の中身を数えるロープ。
「一、ニ……十か。」
万札が10枚きっちりと入っていた。
小遣いにしてはなかなかに多い。流石金持ちと感嘆する元泥棒現奴隷のコータスだった。
「えっと、アウトドアのお店はっと。ここか。」
店に入り真っ先に登山用品のコーナー、少女の名前を冠した縄を探す。
進歩している都市に見合った品揃えと品質に目を光らせるコータス。
ジャズっぽい音楽を聴きながら、鉤縄を物色する。
龍門で使っていたのは一本数千程度の安物で、当人も消耗品くらいの扱いをしていた。
会計を済ませ、財布に残った7万と少しの使い道を考えながら縄を弄る。
「丁度いい裏路地とか無いかな〜。」
適当に道をほっつき歩いていると。
「離せ!こっちにくるな。」
「世間知らずのガキが、いくら叫んでも無駄だ!」
体感壁を三枚挟んだくらいの距離から聞こえてくる声。
「ふーん、ちょっと面白そうだし。見てみるか。」
街灯やフェンス、壁などに縄を引っ掛け三次元的に移動する。
「よいしょお!僕の腕は鈍ってはなさそうだね。」
生きるために得た技術は十日のブランクを無視して働く。
通常なら数十分はかかる複雑な道を数分で進む兎。
「オラ!」
殴りつけられる身なりの良い少年。
「お、お前……僕の父さんが、ガフ!?」
腹に蹴りを受けた少年は言葉を言い切る前にうずくまる。
「クソガキが!よくもこき使ってくれたな。」
従者風の服装の男が少年を足蹴にしながら吐き捨てる。
「へへ、もうすぐでお前の買い手が来る。」
「いい金なるよなぁ、貴族さまは。」
道具の試しもできたし、面倒事は無視しようかと迷うロープ。
「そこのコータス、僕を助けてくれえ!なんでもする!助けて!」
塀の上から眺めていると、羊角の少年が此方に向かって何か叫び始める。
釣られて、人身売買の男もこっちを見た。
……不覚。気配の管理の腕が下がったかも?
まあ、たまには一善を行うのも良いだろう。
というか、厄介ごとに巻き込まれるなら、お礼貰えそうな貴族助けた方が良いよね。
空中へ身を投げ出し、従者の男目掛けて縄を飛ばす。
「っ痛!?」
肩に鉤爪が命中、そのまま引き上げる。
反動で、前進をして、丁度いいとこで男を離す。
着地と同時に男はバランスを崩して倒れる。
「はいそこの僕くん、捕まって。早くぅ、置いてくよ〜」
「あっはい。」
腰に手を回した少年を確認してから助走をつけ、再び宙へと舞う。
「約束と違うぞ!おい、ガキは何処だ!」
「コータスの女が、「ふざけんな!」
揉めている声をバックに屋根を伝って逃げるロープだった。
「ふふ〜ん、なんでもするって言ったよねぇ。」
かなり離れた人気のない路地で少年に話かけるロープ。
「ああ、うん。そう言ったけど……。」
はっきりとしない口調で少年が肯定する。
「なら誠意を見せてもらわないとね、へへ。」
今朝のトランスポーターのように指で金の形を作る。
「今は……これしかないけど。」
おずおずと財布を差し出してくる。
手に取り中の万札を一枚抜いた後
「はい、返す。ついでにお家まで送ってあげるよ。親切でしょ。」
カツアゲをした後とは思えない図々しさだった。
「あっ僕の家は△△「分かんないから大体の方向を教えてくれれば一っ飛びだよ」
そう言うと少年に背中を叩くのを見せる。
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「善行をした後のスイーツは堪らないね。」
その晩、カツアゲした金で食べるケーキは実に美味だったと。武勇伝を宿舎で語るロープだった。