もう一つのSAO ─ただの生まれ変わりだと思ったら、実はSAOの世界でした─   作:雷訓

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十二話 スタートダッシュ

「では、諸君らの健闘を祈る……」

 

 そう言ってGM……茅場明彦は自分を天上人であるかの様に広場から見下ろしながら消えていった。

 

「これが茅場明彦……」

 

 圧倒的な存在とはこう言う事を言うのかしら……。

 画面越では伝わらない生の緊張感が、仮想現実という事を忘れさせるくらいに肌にピリピリと伝わってくる。事前にわかっていた情報だと言うのに、直接本人から突き付けられるとクるものがあるわね。

 

「よし!」

 

 けれど、それもこれもわかっていたことよ。

 私は余韻を振り払うためにパンッと両頬を叩いて気合いを入れると、フィールドに出てメニューを開いた。良かった、苦労して獲得した装備や経験値、そして駆けずり回って得たマッピングデータはそのまま残されているわね。これで全てリセットされていたら、『SAO』中を駆け巡ってでも茅場明彦をぶん殴っていたわ。

 

「スタートダッシュは上々ね……じゃあ行くわよ」

 

 本当ならここでキリトと合流して一緒になりたいところだけど、その欲望をグッと堪える。

 そう、これは遊びじゃないのよ。今までのように観て読んで楽しむだけの娯楽じゃないんだから。なら、私のできる事は何かと聞かれたら、迷わずこう答えよう。『人助け』だと。

 とは言え、捉えられた一万人をどうこう出来るはずもないから、間接的に助ける事になるでしょうね。その為にはまずは情報収集よ。

 

 そうして始まりの街から伸びる街道を、キリトの向かう方向とは『真反対』の方向へ走り出す。

 キリトがクラインと別れて走っていった方向は間違っていない、正しい選択ね。始まりの街で最初にクエストを受けて、次に向かう村へ行くのに通じる道だからよ。例えキリト自身が低レベルでも、クライン位の初心者を引っ張っていくのは問題ないわ。

 それに対して私の走っている街道は、初心者を終えた人が通る街道だ。要するにチュートリアルのクエストを終わらせ、ある程度慣れてきた頃合いになってから進む道なのよね。

 私の推察だけれど、開始から一ヶ月で二千人もの死者が出たのって、RPGと言うものが何たるかを知らない人が慣れないうちに出歩いたのと、極端に慣れた人が舐めて好き勝手した人が、結果的にレベルと実力に見合わないところに迷い込んで死んでしまったのではないかと。

 

 

 

 

 

「やっぱり出たわね……」

 

 私は街道を進み、始まりの街が見えなくなるのと入れ替わる様に木々が増え丘の見える風景に変わる。

 その丘を迂回する様に曲がりくねった道を進むと、木の影から二体のモンスターが現れた……リトルネペントだ。人とさほど大きさが変わらないのに、自立して地面をウネウネと移動する姿は、見る人によっては生理的嫌悪が強いわね。そして、少なくとも私もこれを可愛いとは思えないわ。

 などと、くだらない感想を考えている間に、ペネントが自信が生やす蔦を鞭の様にしならせて攻撃してくる。

 

「はっ!」

 

 蔦の攻撃を難なく躱して懐に飛び込むと、そのままアニールダガーを真上に斬り上げてまず一体。その直後にもう一体が蔦を頭上から振り下ろすのを真横に転がりながら回避し、もう一体のペネントに突き刺して終了した。

 

「さすがはアニールダガーね、頼りにしてるわよ」

 

 これから暫くお世話になる相棒に挨拶をして鞘に戻す。使い勝手は上々ね。

 キリトも言ってたけど、剣一本でどこまででも行ける気にさせてくれるゲームはそうはお目にかかれないわ。発売前に行列ができるのも無理ないわね。

 こう言うのって、社会的、人間的に抑圧された人ほど夢中になれるって辺りは、昔からのネットゲームと本質は変わらなそうよね。

 

「さて……」

 

 独り言ちながら次の村へ向かう。日はだいぶ西へ傾いており、地平線の向こう(この場合、階層の縁かしら?)へ隠れる前に木々に遮られ街道へ影を伸ばしていた。

 

「やっぱ時間かかるわね……」

 

 本来、次の村へ向かうには始まりの街を午前中に出発すると、数時間を要するくらいの距離なのだ。それを茅場明彦の演説を聞いてからなんて無謀な事をすればこうなるのは必然よね。

 けれど、こっち側に来るにはアニールダガーを先に取る必要あったし、その他防具も揃えてからじゃないと流石の私も死にたくはないわ。

 初期装備でこっち側の敵はどう考えても自殺行為だけど……これを街で言ったところで素直に聞いてくれるかどうか。

 

「やっと着いた……」

 

 そうして夜も吹け切った頃、ようやく次の村に到着した。とは言え、これでもかなり急いだ方ね。何しろ途中で街道をショートカットする為に、大きく迂回している街道を外れ、森の中を突っ切ったのよ。

 その夜の森といえば、夜行性の魔物があちらこちらからポップしてくるから大変。それをスピードに多めに振ったステータスで、ある程度振り切ってここまで来たってわけ……正直疲れたわ。

 とりあえず、宿に入って今日はもう休むわ。

 

 翌朝、陽が完全に昇りきっていない早朝に目が覚める。

 見慣れない天井と安っぽい木のベッド。その割に寝心地はそこそこ、無駄にそう思わせるような感触があるのは、無駄なリソースと言えるのか。昨日食べた晩御飯も味があり食感もあった。

 茅場明彦のこだわりが細部まで行き渡っていると言う事を見せつけられる二日目の朝、私は身支度をして早々に村のクエストや周辺のモンスターの変化などを調べると、苦労してここまで来た村を離れて再び始まりの街まで戻って行った。

 

「歴史が変わっていなければ、このデスゲームに参加しているはず……」

 

 この悪夢の一ヶ月を阻止させるには、あの人の協力が必要なのよ。

主人公紗奈の武器

  • 執筆者の思い描いたように書く
  • 思い切って変更もありかと
  • 別にどうでもいい
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