もう一つのSAO ─ただの生まれ変わりだと思ったら、実はSAOの世界でした─   作:雷訓

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十七話 結局私は不甲斐なかっただけ

「あ、起きたわね? 良かったぁ……」

 

「おう、今回のベストアシストが目覚めたようだな!」

 

 私が意識を取り戻すと、目の前にはアスナの安堵する顔が見えた。

 どうやらそれなりの時間意識を失っていたようね。

 何故って、アスナだけじゃなくエギルやキバオウまで私を気遣っている様子が伺えたんだもの。

 いまだボス戦をやっている状況で、このシチュエーションは流石に考えにくいってだけなんだけどね。

 

「あ、ごめん。私、気を失っていた?それで、ディアベルさんは? ボスは?」

 

「呆れた、自分の事より真っ先に他人の事だなんて。もうちょっと後先考えなさいよ……」

 

「あはは……」

 

 当り前よ、その為に飛び出して行ったんだから。

 これがただのゲームだったらボスのパターンの再考察だって面白がるだけなんだけど、既に事情が違いすぎるものね。

 アスナの呆れ顔に苦笑で返していると、その後ろから青髪のイケメンがやってきた。

 

「我が命の恩人リサ、改めてお礼を言わせて下さい」

 

 ディアベルが私の側に来て気障っぽくお礼を言う。ちょっと気恥ずかしい言い方だけど、生きていてくれて私も嬉しいわ。それに私だけじゃなくて、スイッチで跳ね除けたキリトや、その後アスナやエギルたちが反撃して倒したって事は想像に難くないと思っているわ。

 

「いえ、私はその後気絶してたでしょ? ならこれは皆の勝利よ。でもお礼は受け取っておきます」

 

 そう言ってディアベルのお礼を受け取り、自分のHPを確認すると……四分の一減っているわね。直接武器ダメージを負ったわけじゃないのに、こんなに削られるなんて結構怖いわね。

 そう考えながら、回復ポーションでHPを全開させたところで私は違和感に気づき、それを口にした。

 

「あれ、そう言えばキリトはどこに?」

 

 そう言って改めて周囲を見渡しても、キリトはどこにもいない。まさかさっきのボス戦で?

 

「あんなベータテスターなんぞ、どこへでも野垂れ死んでまでばええんや!」

 

 そんな私の考えとは真逆の結果を、怪しい関西弁が否定した。

 確かこの人はキバオウだっけ? 私は遅刻していなかったけど、ボス戦の会議の時に色々吠えていたって聞いたけど、私が気を失っていた間に何かやらかした言い方よね。

 

「アスナ、何があったのか聞いてもいい?」

 

「えぇ、それが……」

 

 

 

 アスナが言うには、私がボスの一撃を体を張ってパリィした後、想定通りキリトがスイッチで押し戻してくれた。ここまでは私は覚えているわ。

 その後はキリトやアスナ、そしてタンク役を買って出てくれたエギルに一命を取り留めたディアベルが本隊を再編成してくれたおかげで、無事にボスは討伐された。

 けれど、問題はこの後。キバオウがキリトに発した一言から騒動が勃発したと言う。

 

 

「おまん、ディアベルはんが攻撃される直前に何叫んどん?」

 

 無事にボスを倒してキリトが私の様子を見に行こうとした時、背後からキリトを呼び止めたのはキバオウだった。

 

「え? いや、武器がタルワールじゃないから……」

 

「あ“ん? 貴様それだけの注意力と情報を持っているにも関わらず、直前まで何も言わないっちゅーのはどう言うことや⁉︎ そのせいでディアベルはんは死にそうになったんやぞ? そうなれば、討伐隊は壊滅したかも知れへんのやぞ⁉︎」

 

 どうやらキバオウはそれだけの注意力がありながらディアベルを危険に晒しただけでなく、他の仲間にも被害が及んだかもしれないと言いたい様だった。

 

「お、おい何言ってるんだ。彼らのおかげで皆が助かっているんだぞ!」

 

「あんたは黙っといてんか!」

 

 エギルが制止するのも聞かずに、キリトを罵り続ける。

 けど、キリトもキバオウの言動に理不尽を感じたのか、ため息を漏らしたあと低く声を漏らした。

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

「な、何やと?」

 

「自分の実力のなさを棚に上げて言うことが、それとは情けない。そんなに言うなら、自身でディアベルの様に指揮をとってみるといい。今の自分がどれだけ馬鹿な事を言っているのかわかるはずだ」

 

「貴様、言うに事欠いて!」

 

「確かに俺はベータテスターだ。ボスの武器が違っていたのも、第十層で野太刀を使う敵がいたから気づいただけだ」

 

「なら、何でそれを早よ言わんのや!」

 

「……これ以上は不毛だな」

 

 キリトはそれだけ言うと、もう一度ため息を吐いてそのまま第二層へアクティベートしに行ってしまったらしい。

 

 

 

 これが気を失っている間の流れらしいけど……。

 私の心情からすれば、「こいつ何言ってるんだ?」って言うのが一番ね。

 キリトも同じような心情なんだろうけれど、彼はそれを甘んじて受けたんだろうか? けれど、あのキバオウの様子からすると、私の知っている展開とほぼ同じことになったと思って間違いないわね。

 

「それでキリトがいなかったのね」

 

「えぇ、止められなくてごめんね」

 

「何でアスナが謝るのよ。何も悪くないじゃない?」

 

 やってしまった。

 これ程悔しいことはないわね。せっかくディアベルを救っても結局同じ展開じゃまるっきり意味ないじゃない。

 って言うか、その間にディアベルはいったい何していたというのよ?

 

「ディアベルさん、今回のボス攻略で指揮をとっていた貴方はいったいこの状況をどう見ていたのですか?」

 

 私は、思わず考えていたことを整理もせずに口に出してしまう。それほど私自身もムカついていたってことよ。

 

「あぁ、この事態を招いたのは俺自身の不甲斐なさが原因だ。あれだけ豪語しておきながら、皆の足を引っ張ってしまった。もちろんキリト君の失態じゃないとは思っているが、もう少しやりようがあったのではないかと考えてもいる……」

 

 下らない。全くの詭弁ね。前言撤回、こいつは良い人なんかじゃない。自分の事しか考えない、利己欲の塊だ。

 その証拠に今の言葉も、我が身可愛さにキリトに罪を擦り付けようとしているだけよ。

 そっちがその気なら私にも考えがあるわ。

 

「ここにいる人全員攻略本を読んだのですよね?」

 

「あぁ、その最後に注意書きも書いてあったよ」

 

 私が反論してやりたいとキバオウだけじゃなくここの全員にの問いただすと、それを察したディアベルが代弁する様に答えた。

 ちなみに攻略本の最後の一文にはこう書いてあるわ。

 『この攻略本はベータ版を元に書き起こされており、あくまで参考程度に留めておくようにしておくこと。』

 ちなみにこれは、アルゴさんと私で考えた一文よ。さすがに被害を最小限に食い止めようと攻略本を最速で出すには、ベータテストの情報に頼らざるを得なかったって言うのが大きかったわ。

 それでも、現状との差異を埋めるのに私が色々と駆けずり回って得た情報だけでも、少しずつ違っていたわ。

 けれどボスとなると、一人でどうにか出来るものじゃないわ。これはその為の一文なのよ。

 

「貴方たち、最低ですね。そんなくだらない理由でキリトを責めたのですか?」

 

 思わず私は、キバオウに口汚い言葉を放ってしまった。

 だって、言っている事は完全にいちゃもんだから。取り巻きの排除を任せている私らに、死にかけたのはお前らのせいだなんて言われてそうですかだなんて納得できるわけがないじゃない。

 

「く、くだらないだと? お前だってあいつにすり寄っていたんだろ? おいしい狩り場を自分たちだけで持っていきやがって、俺たちの苦労をわかってねぇからそんな事言えるんだ!」

 

 キバオウの取り巻きっぽいのが鼻息荒く私に迫ってくる。

 って言うか、論点が微妙にずれているのが気になるけど、要は単純に私らが気に入らないだけって事かしら? どうせ私に言ったこともキリトに浴びせたんだろうって事は容易に想像がつくわね。

 そして、恐らくキリトはそれらの罵声を甘んじ受けたでしょう。自分一人が罪を被れば、他の人たちが纏まると思って何も言わずに進むでしょう。

 でも私は許さない。ディアベルの命は助かった。なら本来はこんな事を言われる筋合いなんてない。

 それを治めるべきディアベルを見るとバツが悪そうにキバオウを宥めようとする。自分の犯した過ちを隠しつつおいしいポジションだけを維持しようとするなんて。

 それだけの理由でこっちに標的を持っていくなら、私にも考えがあるわ。

 

「ほんっとくだらないですね。自分たち本隊組が気づかなかったと言うだけの理由で、取り巻きを排除していた私たちを責めるのはおかしな話じゃないですか? さっきも言ったように攻略本の一文があり、なおかつ一番近くで見ていたあなた方が気づくべき事案です。それに、攻略本にはボスの攻略法も書いてありましたよね?」

 

「あ、あぁそうだけど、それが何だ?」

 

 私とアルゴの攻略本には各イベントの内容の他に、そこに出てくる敵の攻略法まで記載されているわ。

 当然それには、ベータ版での各階層のボスの攻略法までも載っているわ。

 

「攻略本には最後のHPバーが一本になった時、ボスのモーションが変化すると書いてあり、最後は全員で囲んで倒せと書いてありました。なのになぜディアベルさんは一人で前に出たんでしょうね……?」

 

「……どう言うことや?」

 

「……何が言いたい?」

 

 一瞬の静けさの後に別々の意図での意見が返ってくる。

 どうやらキバオウや取り巻きたちは、純粋に何も知らないようね。

 それに反してディアベルは私の言いたいことを何となく察しているけど、聞くまで確信が持てないようね。ならこれでどうかしら。

 

「あら、ディアベルさん。まだしらを切るのなら、もう一言言いましょうか。私もベータテスターだって事ですよ」

 

「「⁉︎」」

 

 うーん、面白いほどわかりやすいリアクションありがとうございます、ってところかな。

 冷や汗ダラダラなディアベルは放っておいて、新たな敵を見つけたって顔をしているキバオウたちの方が先よね。

 

「おう、そのベータテスターがディアベルはんを何で目の敵にするんや? 我々の旗印になってくれる人やで?」

 

 うーん、まだディアベルが良い人だって信じているのね。まぁ外面は良い人だし騙されるのもしょうがないけど、良い加減目を覚まして欲しいから言っちゃおうかしら。

 

「まだわからないのなら言いましょう。ボス戦には最後の一撃を与えた人にだけ貰える『ラストアタックボーナス』ってのがあります。ね、ディアベルさん? ボスがタルワールを持っていたなら貴方の思い通りに事が運んだのでしょうけど、結局その確認を怠って今回の事故が起こった」

 

「そ、それってつまり……」

 

「そう、ディアベルさんはそれを狙っていたベータテスターで、今回のその情報だけを信じた自業自得って事です。『ラストアタックボーナス』と言う餌に釣られすぎですね」

 

「「……」」

 

 主のいないボス部屋が静寂に包まれる。

 それはそうだろう、彼を旗印として信じた彼がさっきまで罵っていたベータテスターのうちの一人だったんだから。

 

「そ、そんなん嘘や! 自分がベータテスターやからって、ディアベルはんを巻き込むなや!」

 

「信じたくないって言うなら私は無理にとは言いません。けど、自分たちの自業自得にキリトを貶めた事は許しませんから」

 

 キリトは自分にヘイトを向かせる事で、他のプレイヤーの分裂を防ごうって腹づもりだろうけど、結局のところディアベルが暴走しなきゃ済んだ話よね。

 

「そもそもそれ自体、ベータテスターどうのこうのは関係ない話です。それらは私らが抽選で当選した運だけの話ですので。むしろディアベルさんが暴走したせいで、私らにまで矛先が向いたのですから余計なとばっちりもいい所ですよ。だからこの先の話し合いは、彼と着けてください」

 

 それだけを言うと私は、アスナとエギルの下に向かう。

 黙って聞いていてくれた二人は、何故だかすごく申し訳ない顔をしているわ。むしろ二人はキリトを庇ってくれた方なのにね。

 

「アスナごめんね、こんな事になって。エギルさんも止めてくれたのに……」

 

「うぅん、わざわざリサががんばったのに、あんな言い方する方がおかしいのよ!」

 

「そうだな、穏便に済ませられた筈なんだが。力およばずに申し訳ない」

 

「でも私もやり返しちゃったし、あまり性格が良くないかもね」

 

「何言ってるの、その位でちょうど良かったのよ」

 

「まぁ思うところが無いわけじゃないが、擁護は難しいな。だからあまり気にするな」

 

 私が頭を下げると、二人は私をフォローするように慰めてくれた。二人は本当に良い人ね。

 対照的にその背後では、私がどうにでもなれと言わんばかりに放置してきた為にすごく不穏な空気になっているわ。

 性格が悪いと思うけど、正直ざまぁとしか思わないわね。少しは溜飲が下がったってものよ。

 

「それで、お嬢さん方二人はこれからどうするんだい?」

 

「そうね、私は一旦戻るわ。リサはどうするの?」

 

 少しスッキリした私に対してアスナはいまだに怒っているけど、エギルの声で気持ちを切り替えるように私に聞いてきた。

 そうね、一旦このまま戻っても良いかなと思ったけど、キリトの方も気になるわね。

 

「ごめんね。私はこのまま第二層に行くわ」

 

「そっか、残念だけどここで解散ね。大変だったけど、リサと一緒のパーティーになれて良かったわ」

 

「私もよ、けど永遠のお別れじゃないから。近いうちにまた会うわよ」

 

「あ、確かにそうね」

 

 そうやって笑い合いながら別れて、私は第二層への階段を駆け上がった。

 ぶっちゃけキリトには悪いとは思うけど、私の苦労を無にするあいつらには苦労してもらう事にしたわ。

 私もキリトも頑張ったんだから、悪になんてさせない。キリトには笑顔でいてほしいから!




お気にりや感想などいただけたら嬉しく思います。

主人公紗奈の武器

  • 執筆者の思い描いたように書く
  • 思い切って変更もありかと
  • 別にどうでもいい
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