もう一つのSAO ─ただの生まれ変わりだと思ったら、実はSAOの世界でした─ 作:雷訓
まずったわね……
独りごちながら、私は必死に敵の攻撃を捌いて退路を探す。
場所は五階層の迷宮区。ここは四階層まで順当に強さが上がって行くのとは違い、もうワンランク上なのは判っていたわ。だから私自身も十分にレベルも装備も整えて挑んだんだけど、現状はこの有様よ。
「くっ!」
目の前のゴーレムが質量のある腕を振り上げると、私目がけて振り下ろす。たったそれだけの行動なのに、まるで壁が迫って来るような圧迫感を受ける。
喰らえばひとたまりも無いけれど、まだまだ速度は私の方が上だ。
そして、ゴーレムの腕を避けたのを見たアストラル系のモンスターが、集団で襲いかかってくる。
「はぁぁぁ!」
これは予想できたことだから、何も驚く事はないわ。
私もモンスターに向かいながらソードスキルを使って、一体一体確実に仕留める。
「!?」
が、不意に背後で嫌な予感がして急いで身を低くすると、頭上を何かが通過した。
「さっきから誰!?」
私がさっきから追い込まれている原因はこれ。
マッピング目的で迷宮区を探索している最中に、誰かがモンスターを引き連れてきて、私になすりつけていったわけ。いわゆるトレインPKってやつね。
しかも、擦り付けた張本人は姿を現さずに物陰から物を投擲してミスを誘おうとしている。
モンスターの攻撃を避けつつ正体不明のプレイヤーを気にかけるのは至難の業。
さらに都合の悪いことに、時間帯は真夜中。仮想世界なのに、ご丁寧にプレイヤーの皆さんは宿で就寝中。
つまりは、助けは絶望的ってわけ。
今は積み上げたレベルのお陰で何とか捌けているけど、それでも度々邪魔されたり追加のモンスターを再び擦り付けられたりするから、HPは少しずつ削られて追い込まれつつあるわ。
モンスターの合間を縫い、何とか隙を見つけてストレージからポーションを取り出す。私の場合、スピードをメインにして、残りをストレングスとデックスに振っちゃってるから、HPが絶望的に低くて、更に防御が防具頼みになるくらい紙なのよね。
即ち、掠めてもそれなりに削られるわけ。
だから、半分削られた今の場合、すぐさま回復させないとまともに喰らったら全消失するかもしれないわ。
何とか躱しながらポーションの蓋を開けて回復しようとした矢先に、視界の隅から何かが飛んでくるのを確認して反応する!
(甘い!)
確認できないプレイヤーが私を追い込もうとしているから、このタイミングで邪魔してこようとしているのはわかっていたわ。
けれど、精神的にも余裕をもって反応したつもりだったけど、相手は私より一枚上手だったわ。
「しまった!」
気づいたときにはもう遅かった。
躱したことで回復できると言う気の緩みで、もう一方からの妨害に全く気が付かず、プレイヤーからの投石によってポーションを破壊されてしまった。
「きゃあぁぁ!」
更に妨害によってポーションを失った動揺からか、モンスターの攻撃を喰らってしまって壁際まで追い込まれてしまった。
幸い喰らったのは攻撃力がそんなに高くないアストラル系のモンスターのため、紙一重でHPの全損は免れたわ。
しかし、最短の出口までは遠く、多勢に無勢。正体不明のプレイヤーは少なくとも二人以上と判明。更に今の攻撃で私のHPはレッドゾーン。
これは、いよいよ覚悟を決めなきゃいけない時かしら……。
けど、ちょっと悔しいなぁ。せっかくSAOの世界に来てキリトと幼馴染で一緒に冒険できると思ってたのに、こんなよくわからない奴らに嵌められて終わるなんて。終わるなんて、終わるなんて、終わるなんて終わるなんて。
「終わってたまるかぁぁぁぁ!!!」
気が付けば叫びながら敵に突っ込んでいた。このまま嬲られて死ぬくらいなら、モンスターや私に邪魔をしてくる奴らに、一太刀でもでも浴びるくらいしてやるとなりふり構わずに覚悟を決めた時、何かが起きた。
いくら私自身のスピードが早くても、モンスターの速さが変わる訳じゃない。
なのに目に映る周囲の景色は歪み、モンスターの動きが遅く感じるのだ。比較的避けるのが容易なゴーレムでも、数が多ければ脅威になりかねない。けれど、それら一体一体の動きがまるでスローモーションの様に緩慢に映った私は、攻撃の間を縫うように避けることが出来てしまった。
(今のは!? いや、まずは目の前のことを!)
突然の出来事に頭が混乱しそうになるけど、避けた先で別のモンスターが攻撃体制に入るのを見て考え直す。
考えるのは後にし、次々と攻撃を躱して目の前のモンスターを再び排除してしがら何とか危機を脱しようとするが、不意に視界がいきなり真横になった。
「あれ……?」
自分が倒れたのは、わかったわ。
けれど、攻撃をされた形跡はない。証拠に、HPのバーに残りわずかながらも赤いゲージが残っているのも見えるわ。
視線は動かせるのに、体は思うように動かせないのは何で? 動くとしたら、指先が微かに反応するだけ。
「う、動いて……動け動け動け……」
何で動かないの? 急に動けるようになった理由もわからないけど、倒れた理由もさっぱりわからないわ。
倒れて動けない私の視界には、モンスターの群れはゆっくりと歩み寄ってくる姿が死へのカウントダウンのように映っていた。
ギリギリながらも何とか掴んだチャンスだったけど、無駄になっちゃったか。
そう思った瞬間、私の心の中の希望という文字に亀裂が入るのがはっきりとわかった。モンスターに追い込まれても謎のユーザーに邪魔されても、決して諦めなかったのは自分の体が動いていて、まだどこかに一縷の望みがあると思ったから。
けれど現実は、いやこの仮想の中の私も現実と同じように体が動かなくなってしまった。それは、このダンジョンの中では確実に死を意味しているわ。
「早かったなぁ……」
何かを悟ってしまった私が思わず呟いた言葉だ。指先が動くなら、最後のメッセージだけでも送れるかな?
そう思って指を懸命に動かそうとするけど、望んでいたメニュー画面は出てこない。
「ダメかぁ……」
お父さんとお母さんには申し訳ないことをしたわ。アルゴにこの最後のデータを渡してあげたかったな。アスナともう一度冒険をしてみたかったわね。
そして……
「かずとぉぉぉぉ……」
意中の人の名前を呟いた私の目には、いつの間にか大粒の涙が溢れていた。
中学になって和人やクラスメイトと別々になっちゃったけど、豆に返事を返してくれるのは彼だけだった。それだけ彼の交友関係が狭いって言うのもあるけど、別れ際のキスが効いてると思っているわ。
そしてこの仮想現実で久しぶりに会った和人は、小説に出てきた彼そのままだった。仮想ライバルのアスナにアドバンテージを取ってここからと言うのに、下手打っちゃった。
これから一緒に冒険して、ボス攻略して、お買い物して、デートして、いつかいつか告白もして、一緒に家を買って、それも現実で叶えて……。
「ごめんねぇぇぇ……」
そうして薄れ行く視界に青色の粒子見えた瞬間、私は意識を手放した。
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主人公紗奈の武器
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執筆者の思い描いたように書く
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思い切って変更もありかと
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別にどうでもいい