もう一つのSAO ─ただの生まれ変わりだと思ったら、実はSAOの世界でした─ 作:雷訓
「あいつがビーターの……」
「ソロでモンスターの集団に突っ込んで行くほど強いらしいぞ?」
「いやそれってもう狂人じゃね?」
「ぐぎぎぎ……」
「まぁまぁ、皆遠巻きに見てるだけだから気にしないようにね? ね?」
食堂の隅で小さくなりなって耳障りな話し声に歯軋りをしながらシチューを啜るのは……もちろん私ね。
アルゴの絶妙なヘイト管理に発狂した私は、その後もう一度フィールドボスに挑みHPバーを一人で五割を削る奮闘を見せて五階層へ戻ってきた。で、その矢先にこの仕打ちよ。
今まで殆ど人のいない時間帯に食堂や街に出入りしてたから、あまり人目につかなかったのよね。それが久しぶりにキリト達と合流して明るい時間帯に来た途端にこれよ。
「まぁ気にするなよ、人の噂も何とやらって言うしさ」
「キリトあなたね……」
「それとも狂人だから『バーサーカー』って二つ名はどうよ?」
「何でよ!?」
「ちょっとキリト君! リサも気にしちゃダメよ? 貴女が優しい人だって私も知っているからね」
凄い他人事じゃない。本来ならビーターの肩書はキリトに付くはずだったのに、何で私が……。
この名付けが微妙におかしな方向から来たわりに、やっぱりビーターって名前は何かしらの力が働いているのかどうなのか。
煽ってくるキリト、ムキになる私、宥めるアスナと食堂の一角が混沌としてきた時に私たちのテーブルに数人の男が現れた。
「おうビーター……」
「誰がビーターよ! 私が望んで貰った肩書じゃないわよ!」
その真ん中にいる男が私に話しかけてきた。って言うか、煽りに来た? 開口一番でそれって何?
陰でこそこそ言われるのも腹立つけど、正面切って言われるのもそれはそれでムカつくわね。
「そら、あんさんがあないな事すれば誰だってそう言う発想になるわな。ましてやデスゲームになってしまたんや、いくら攻略本があったからって抜きん出た事されたら皆怪しむもんやろう?」
「キ、キバオウさん……」
「で、貴方は何しに来たんですか?」
あぁどこかで見たと思ったら、第一層で見た怪しい関西弁の。
それで、こいつ一体何しに私の前に現れたのかしら? ただ喧嘩を売りに来ただけ? 今ちょっと虫の居所が悪いから買うわよ?
私が睨みながら返すものだから不味いと思った取り巻きがキバオウを抑えてると、意外なセリフが出てきた。
「せやかて、第一層でおまんに皆が助けられたのは事実や。せやから一言言わせてもらいに来た。あの時はえらいすまんかった。せやから、これに懲りずにまた一緒に力を合わせて欲しいんや。随分ムシのいいこと言っているのは理解しとる。だから取り敢えず、考えるだけでもしといてんか?」
喧嘩を売りに来ただけかと思って身構えていたら、まさかの謝罪だった。
別に私自身恨まれる事をしたわけじゃないんだけど、私やキリトに理不尽なことを言っておいてなぁなぁで済ますのもどうかと思って、ボス攻略からは足が遠のいていたのも事実ね。
で、キバオウが真摯に謝罪してくれるのはいいけど、それより気になった事があった。
「ねぇキリト、貴方は謝罪はしてもらったの?」
「まぁ一応第二層のボス攻略前にな。正直あの時は話にならないと思って先に行っちゃったし、俺もあまり気にはしてなかったからな」
あの時私は気を失っていて代わりにキリトが矢面に立ってたわけなんだけど、それでも私より結構前に謝罪は貰ってたんだ。
キバオウも私がキリトたちと合流を果たしたって情報が入ったから目の前にいると思うんだけど……まぁ気になってた事を聞けたし、あまり目くじらを立ててもね。
「そうね、その謝罪を受け取る代わりに今後そう言う批判を向けるのは無しにして。あっても貴方が抑えなさい」
「ぐっ……わかった。何かあったらワイに言え。初めは後手に回るかもしれへんが、どうにかしたるわ!」
うん、落とし所としてはこんな所ね。正直なところ、この間襲われたのはキバオウが追い詰めたと言うより、そのきっかけを私が作った方が大きいかも知れないしね。
それでもディアベルの一件はデスゲームになった性質上、一人のわがままで全滅の可能性だってあったんだから、私やキバオウがそこまで批難される謂れはないと思う。
「そう言ってくれて嬉しいわ。これからは同じ上を目指す仲間として頑張っていきましょ」
「お、おう。まぁ仲良くしといたるわ……」
和解の証として握手を求めた私の手を、キバオウは赤くなってそっぽを向きながら握り返してくれた。意外と可愛いところあるのね。
「うん、よろしくね!」
「「……」」
とまぁキバオウと和解してそれからは怪しい人に襲われる事もなく、今は第五層のボス部屋を見つけるべくダンジョンに潜っているわけだけど、どうもキリトの調子が良くない。
剣の振りはどことなくぎこちないし、速度も出ていない。ソードスキルも出すタイミングが微妙にずれていて、ダメージがあまり乗ってないのよね。
その事に気づいたアスナと私は顔を見合わせると、ちょうどよく見つけた途中のセーフティーエリアに入って休憩を提案した。
「ねぇキリト君、さっきから様子がおかしいけど、何か心配事があるの?」
「!?」
三人とも腰を下ろしてアイテム整理をしている最中、アスナがタイミングを見計らってキリトに切り出した。私もいつ切り出そうか迷っていたけど、こう言う時のアスナの決断の早さは見習いたいわね。
そしてキリトもどうやら思うところがあったのか、体をびくりと震わせて整理している手が止まり、アスナと私の方に向き直ると思い詰めた顔をして突然叫び出した。
「二人ともどうもすみませんでした!」
「え……?」
「ど、どうしたのキリト!?」
両手と両膝を地面に着き、更に額まで地面に打ちつけるのではないかと思うほどの謝罪。すなわち土下座。見事と言うしか無いほどの綺麗な土下座だわ。
ダンジョンに入ってから、いやその前の食堂から出てから何やら思い詰めていた様子だったのは、全てはこの土下座に集約されていたのかと思うほどね。
アスナも私も呆気に取られて次の言葉が出ずに困っていたけど、キリトはそのまま自分から話し始めた。
「本当はもっと早く謝るつもりだったんだけど、タイミングを見計らっているうちに……そしたらあのキバオウに先を越されて……」
「先を越されたって、何を?」
「いや、謝罪をね」
「えっと、何の謝罪?」
「第一層で勝手に先に行った事のだよ。アスナにはあの場を投げっぱなしで先に行っちゃったし、あの時もっと俺がキバオウに言っていれば、リサに余計なヘイトが向かずにすんだんじゃないかって……その後でアスナと再び合流したんだけど何も言ってこないし。けど、リサには全く会えないからやっぱり嫌われたのかと。そうしているうちに、リサが狙われているってアルゴから聞いて、いてもたってもいられなくて駆けつけたら間一髪だったんだ……」
なるほど、でもキリトは自分にヘイトが向くように色々言ってくれたった聞いてたんだけどね。それを私がディアベルに色々突っかかったから、拗れただけよね。
でもキリトがそれをずっと抱えたまま悩んでいたって言うなら、やる事は一つね。
「アスナ……」
「リサ……」
アスナと私はお互いの顔を見合ってお互いの意思を確認するように笑うと、一緒に前に出た。
「キリト君、私たちはあぶれ組で組んだだけの臨時パーティーよ? それにあんな面倒臭い奴らに絡まれたら逃げ出したくなるのもしょうがないわ。けど、女の子を放って行くのはちょっといただけないわね」
「す、すみません」
「罰として第五層のミルクチーズケーキで許します」
「わ、わかった」
「で、聞かなくてもわかるけど、リサは?」
したり顔でアスナが聞いてくるけど、そんなのはわかりきっている。キリトが語り始めた時から、私の答えは変わっていないわ。
「意地悪な事を聞かないで。どちらかと言えば、私がキリトに謝らなきゃいけないんだから」
「え?」
「キリトはキバオウにわざと自分に悪意を向けるように言ったのよね? それなのに知らなかったとは言え、私が全部ダメにしちゃったんだから、全部おあいこよ。だから自分を責めないで?」
「リサ……」
俯きながら「ありがとう……」と小さく呟いていた。それは涙が混じるような声だったけど、そこは察する。代わりに、目の前で膝をついて優しく頭を抱えて撫でる事にした。キリトもされるがままだから、これでいいのよね?
だけどアスナの方を見ると、何か釈然としないような表情だけどどうしたんだろう? 嫉妬とは違うしようだし、よくわからない表情ね。
けれど、これでキリトが存分に力を発揮してくれるなら、私としては問題ないわ。
あとは第五層のボス部屋を見つけるだけね。
主人公紗奈の武器
-
執筆者の思い描いたように書く
-
思い切って変更もありかと
-
別にどうでもいい