もう一つのSAO ─ただの生まれ変わりだと思ったら、実はSAOの世界でした─ 作:雷訓
更に、嫌な表現や文章が続きます。そう言うのが嫌な方は、この話しは読み飛ばしたほうが良いと思われます。
この話し抜きでも物語は成立しますが、フィクションだと言うことを踏まえて割り切って読んでもらえれば嬉しく思います。
四年生
小学校生活も折り返しに入ると、生徒たちも子供ながらに自分がクラスのどの辺りのポジションなのかと言うことを理解し始める時期だ。
それは頭の中でと言うより、何方かと言えば潜在的にと言う感じだろう。だからなのか、この年頃の子供には悪意を悪意としてぶつける事に躊躇と言うものが無いのである。
「直葉ちゃんの元気がない?」
「うん……最近学校から帰ってもあまり元気がないし、聞いても答えてくれなくて」
そう話し始めたのはキリトだった。
新しく進級したものの、今年もキリトとクラスが違っていた。けれど、お互いにクラブは入らないので、下校のタイミングは同じね。唯一今年から違うのは、四年生からは授業が一時間増えた事ね。その為に三年生の直葉とは下校のタイミングが合わなくなってきた事だ。だから私が直葉と一緒に帰れるのは、週に一、二回あるかどうかと言う事くらいだ。
「でも、朝一緒に登校するときは元気よね?」
「そうなんだよ。けど、帰ってきたら元気がないから学校で何かあるんだと思うけど、答えてくれなくて。だから紗奈ちゃんから何かあるのか聞いてくれないかな」
そう言う事ならお安い御用だわ。直葉は私にとってもかわいい妹だし、困っているなら力になるわ。
そう言うわけで、放課後に桐谷家にお邪魔することになった。最近は私もキリトたちも習い事のせいで遊ぶ回数が減ってしまったけど、それでもお邪魔する度に気軽に挨拶ができる間柄には変わりはなかった。
キリトのお母さんに軽く挨拶をして上がらせてもらうと、今回はキリトに遠慮してもらい、私一人で直葉の部屋の前まで通させてもらった。
「ヤッホー。直葉ちゃん、遊びにきたよ! 部屋に入らせてもらっていいかな?」
「あ、紗奈お姉ちゃん? 待って、直ぐ開けるから!」
ノックをして努めて明るく呼びかけると、扉の向こうからは意外にも明るい返事が返ってきた。
そして部屋に入れてもらってから直ぐ気づいたのが、体のあちこちに擦り傷が見てわかった。けど今はまだその事に触れないように努めて雑談に興じる事にした。剣道のこと勉強のこと、そして最近はどんなことに興味を持っているかなど、女の子同士いろんな事に花を咲かせた。
けど学校生活のことになった瞬間、その笑顔が一気に曇ってしまった。
「学校で何かあったの? お姉ちゃんに聞かせてくれる? 安心して、お姉ちゃんは紗奈ちゃんの味方だから」
「本当?」
「本当よ、ゆっくりでいいから聞かせてくれる?」
それから直葉はゆっくりとだけど一つ一つ丁寧に話してくれたわ。
その内容は、クラスの男子三人から嫌がらせを受けていると言うこと。その理由は単純で、直葉が剣道をやっているって言うだけのものだった。初めは剣道をやっている奴は乱暴者など、口だけの悪口で直葉も無視をしていたんだけど。それが気に食わないのか、エスカレートして掃除中に箒を持ち出して避けて見せろとばかりに直葉に振り回してきたそうだ。どうやら直葉の擦り傷はその時に付いたものだったらしいわね。
「何それ許せない! その事は先生に言ったの?」
「うん、先生はわかったって言ったんだけど」
「全然止まないってことね?」
「グスッ……お姉ちゃん、私もう剣道やだよ……虐められるなら辞めたいよ……」
遂には私の胸で泣き出してしまった。なんて事、あの元気で明るい直葉がここまで追い詰められていたなんて。その男子たちもだけれど、先生は何しているの? これは調べる必要があるわね。
「直葉ちゃん、私が助けてあげる。私は笑っている直葉ちゃんも、剣道をやっている直葉ちゃんも好きよ。だからもう少しだけ我慢して。そしたらまた剣道を楽しくやることが出来るから」
「本当?」
「えぇ、本当よ。だからもう少しがんばろうか」
「……うん!」
そう言った直葉の目には涙がなかった。本当に強い子なんだ。なら私はお姉ちゃんとしてやれる事は全力でやるわ。
それからは準備に時間を追われたわ。まずはキリトと直葉のお母さんに現状を伝え、協力の要請と用意して貰いたいものを頼む。この時、キリトのお母さんには心底驚かれ、親なのに知らなかった事を恥じていたけど、そんなのは後でいいのよ。今は素早く動くことが先決よ。
「おはよう直葉ちゃん。これはお守りよ、今週は学校にいる時は、これをポケットに入れておいてね。そしたら来週にはきっと解決するから」
その翌週、直葉と一緒に登校する時に私はある物を渡し、肌身離さず持ち歩くようにお願いした。これは今すぐ直葉を守るものではないけど、後々になって効いてくるものだから、今は我慢してほしいわね。
「うん、紗奈お姉ちゃんの事、信じてる」
そう言って私の方をみる紗奈ちゃんは、昨日のような悲しい顔は微塵も見せなかった。逆に信じきっているような真っ直ぐな瞳に、若干重たさを感じなくもないけど、気のせいよね?
「「失礼します。桐ヶ谷直葉ちゃんの担任の先生いますか?」」
さて、次は学校ね。昼休憩、私とキリトは職員室に乗り込み直葉の担任に直訴に行った。直訴の内容? もちろん直葉へのいじめに対する現状の打開よ。
「直葉ちゃんの担任ですね? 先生は直葉ちゃんからいじめの報告を聞いているのにも関わらず、虐めている生徒へ注意もしないどころか、直葉ちゃんを保護しようともしないのは何故ですか?」
「あなた達誰? 直葉ちゃんから聞いているわ。でも大人には大人の事情ってものがあるのよ。一々口を挟まないでちょうだい」
「大人の事情? それは虐められている自分のクラスの生徒を後回しにしてでも優先される事ですか? それともそれが先生の教育方針ですか?」
「う、うるさいわね! 誰もやらないとは言ってないでしょ? 大人の事情に首を突っ込まないでちょうだい! 話は終わりよ、出て行きなさい!」
私の質問に眉を寄せると、大きな声で私たちを怒り出した。幸か不幸か、職員室には誰もいない。それをいい事に、直葉の担任は私たち二人の腕を引っ張り職員室から追い出してしまった。
「ふぅ、こんなもんね」
「紗奈ちゃん、これでいいのか?」
「えぇ、いいのよ。これで前提条件と言質はとったわ」
「何をするんだ?」
「いい、和人君。問題の根が深い時はね、事を大きくしちゃえばいいのよ!」
そう言って週末の金曜日、決戦の日がやってきた。
放課後、学校の応接室にて直葉の学年主任を呼び出してもらう事にした。それをするのは、もちろんキリトたちの母親の翠さん。そして翠さんの横に直葉、キリト、私の他にもう一人男性がいる。実は全く知らない人なのよね、どうやら翠さんが呼んだらしいのだけれど、まぁ私たちの不利になる様な人じゃなければいいわ。
「こんにちは。本日はお時間を作っていただきありとうございます。私たちがここに来たのは他でもありません。うちの娘をいじめた上に怪我を負わせた子と担任の対応についての事です」
翠さんは挨拶もそこそこにいきなり本題をぶつけてきた。まぁお茶会ってわけでもないからね、語気が強いところを見ると相当溜まっているのがよくわかるわ。私だってその現場を見れば止めに入るところだけど、既に担任が放置している時点でそのレベルじゃないのよね。
「いじめ、ですか。私は学年主任をしていますが、そのような報告は上がってきていません。ですが、放置するわけにもいきませんので、詳しく教えていただけませんでしょうか?」
学年主任は目を細めて前のめりになり詳しく話を聞こうとする。どうやらこの人は真面目で信用できそうね。
「なるほど、そう言う事ですか。直葉ちゃん気付いてあげれなくてごめんね。今から担任と生徒を呼び出すけど、どうする? 隣の部屋で待っててもいいのよ?」
一通り事情を話すと、件の担任と生徒を呼び出してもらえる事になった。そうなると、いじめを受けた直葉は直接対面する事になるからと学年主任は気を利かせて別室での待機を提案してくれたわ。こう言うのを教師の鏡っていうのかしらね。
「ううん、私はお母さんたちと一緒にいます」
「わかったわ、もし辛くなったらいつでも言ってね」
学年主任はそう言って席を立った。どうやら担任を呼びに行ったようね。私はキリトと直葉に視線を向けるが、二人とも緊張してそれどころじゃないようね。無理もないわね、こんな事初めてだし、本来はない方がいいことなんだから。
「直葉、本当に大丈夫? 本当に無理しなくていいのよ?」
学年主任を見送った翠さんが同じように気を遣う。一時の強がりで心の傷を更に深めるわけにはいかないけど、直葉は私の視線に気付きそしてキリトの方にも向き直って笑ってくれた。
「大丈夫、お兄ちゃんと紗奈お姉ちゃんもいるから」
「そう……和人に紗奈ちゃん、ありがとう。これからもよろしくね」
そう言って翠さんも私たちに向き直って言ってくれる。直葉がそう言うなら尊重しよう。何かあれば私たちが守ればいいんだから。
そんな風に話しながら出されたお茶で喉を潤していると、応接室の扉が開いた。「お待たせしました」と言って戻ってきた学年主任に続いて入ってきたのは、直葉の担任だった。
「さて芦屋先生、この件の実確認をしたいのでお話を聞かせてくれる?」
「え、私そんな相談された覚えありませんよ? 私のクラスは皆仲良しですし、校外で起きた事の責任までは私じゃ取れませんよ」
直葉の担任、芦屋という名前の先生は学年主任からことの経緯を問われると、とんでもない事を言い出した。
何と、自分は知らぬ存ぜぬと言い出した。この人顔は整っているのに、腹の中はどす黒く自分の事しか考えていない人のようね。
「直葉ちゃんのお母さん、子供達の言い分だけ聞いて一方的にこちらに詰め寄ってくるなんて酷くありません? それにこんなに雁首揃えて来るようなことじゃないでしょう? 高々子供同士の喧嘩なんて放っておけばそのうち収まりますよ。それに私もそんなに暇じゃ無いんですよ。こんなくだらない事で呼ばないでくれますかぁ?」
「芦屋先生!」
「このっ……!」
とんでも無い物言いに全員が呆気に取られていると、水を得た魚のように更に言葉を続けてきた。これで教員免許持っているなんて、どんだけ猫を被って取ったのよ。
隣で座っている直葉が涙目になってきたので、流石にこれは無いと思い私たちのカードを切ろうと立ちあがろうとした時、私の肩に手が乗った。
それは今の今まで黙っていた男の人の手だった。
「芦屋先生と言いましたか。貴女は先ほどから聞いていれば自分の事ばかりですね。『自分が大事』という部分は否定しませんが、そんなに自分が大事であれば、もっと教員の責務を全うされてはいかがでしょうか?」
「な、何よアンタ……関係ない人はすっこんでなさいよ……」
男の人は努めて冷静かつ冷ややかに視線を向けて言葉を放つ。向けられてもいない私自身が背筋に冷や汗をかくのだから、向けられた本人はきっとそれどころじゃないでしょうね。
それが証拠に、さっきまでの饒舌な言葉がすっかり形を潜めていた。
「申し遅れました。私は桐ケ谷直葉の叔父になります、増田敬一郎と言うものです」
そしてそれを見計らったように、自己紹介をしてそのまま何かを両手で手渡した。あれは……名刺ね。
「はぁ、それで叔父さんがここに何のよ……う。って……あんた、いえ、貴方は……あ、いえ、こ、これは違うと言いますか……生徒達への連絡が不十分になったと言いますか、ですから私は悪くないんですよ。そ、そう言うことなんですよ……」
え、なに、この反応。直葉の叔父である増田さんの名刺を見た瞬間、芦屋先生の態度が一変した。しどろもどろになりながらも何とか言い繕おうとしている芦屋先生。余りの身振り手振りのせいで名刺が手から離れ私の目の前に来たものだから、思わずも拾って見た見た瞬間、体が硬直した。
名刺には当然増田さんの名前が書いてあるが、その上には彼の肩書きであろう役職がこう書いてあった、『〇〇県教育委員会事務局長』と。
「話の一部始終は、保護者及び被害者やその親族達から全て聞いています。生徒からの訴えを蔑ろにし、直面した問題に真摯に向き合わないのは担任としてではなく教職員としてどうなのかと思うのですが。いえ、これはもはや人としてどうなのかと言う問題にもなりかねませんね」
わぉ、滅茶苦茶真正面からぶった斬るわねこの人。相手が怯んだ隙にここぞとばかりに反撃に出るなんて恐ろしく容赦がないわ。まぁここで畳み掛けて相手が折れてくれれば何て思っていたんだけど、相手は相手で何かに必死なんだろうね、折れそうになるところを踏ん張って言い返してきた。
「な、何よ、教育委員会の偉い人だからってそんなに言う必要あるの⁉︎ 黙って聞いていれば訴えとか蔑ろとかさ、さっきも言ったけど私のところに相談なんて来た覚えなんて一つもないって言ってるじゃない? それだってそっちの証言だけでしょ⁉︎ 残念ね、そんなの証拠にもなりはしないわ。わかったら土下座でもして、とっとと帰りなさい!」
いやこの先生凄いわ、ぶっちゃけ自分の方が不利なのになお噛み付くなんて私には到底できないわね。
「芦屋先生、でしたか。ここにいる全ての人が貴女に濡れ衣を着せようと画策をしているとでもお思いですか? 残念ですが、私も保護者もそして生徒達も貴女のような腐った根性は持っていないのですよ」
「あんた、いくら偉い人でもいい方ってものがあるんじゃないの? いい加減名誉毀損で訴えるわよ?」
もはや煽り合戦ね。あっちが煽れば、こっちも煽り返す。けれど、叫んでいるのは芦屋先生だけで、こっち側の増田さんは煽り返しつつも至って冷静にな様子。初めからほぼ空気なキリトや直葉も、このやり取りでどちらが優勢なのか感じ取ったんだろう、二人とも私の方を見てちょっとだけ口角が上がっていた。
それを見た私も少しだけ安心したけど、隣にいる増田さんの一言で気を引き締めなおした。
「そうですか、貴女は教員の責務を全うしないだけでは飽き足らず、真面目に学校生活を送ろうとしている生徒やその保護者を侮辱するその物言いは教鞭を振るうに値しません」
「だったら何なのよ、証拠もなしに私を罰しようなんてしたら、それこそ職権濫用で訴えてやるから」
「はぁ証拠、ですか。そんなに欲しければお見せしましょう。桐ヶ谷さん、あれを出してください」
「はい」
いい加減疲れたと言わんばかりに増田さんはため息をつくと、打ち合わせたかの様に翠さんに指示を出す。翠さんが出したのは三つのICレコーダーだ。初めは訝しげに見ていた芦屋先生だけど、これが何なのか分かった瞬間みるみるうちに顔が青ざめていった。
「その顔色が変わっていく様子だけで、これが何なのかお察しいただけた様で何よりです。で、改めてここで再生してもいいですが、再び子供達に聞かせるのは酷でしょうから、改めて別室でお話を聞かせてもらうとしましょう。さて次からは校長先生も交えてとなりますが、よろしいですね?」
「…………はい……」
机の上に並べられた三つのICレコーダーは、それぞれ直葉とキリト、そして私が持っていたものだ。一つは直葉が常に持ち歩いており、直接被害を受けた時や自分で先生に言いに行ったりした時の音声が入っている。残りの二つは、私たちが先生に相談しに行った時のやり取りや、別々に行動した時に直葉の虐めに遭遇した時に庇った時のやり取りも記録されている。
そして私たち子供は応接室から追い出され、一部始終を聞いていた別の先生に促され帰宅の途に着くことになった。部屋から出る時に見た芦屋先生の最後の顔は、やばいと思ったのか観念したのかはわからないけど、冷や汗をかいて真っ青な顔で俯いていた。まぁ自業自得ね、じっくり反省するといいわ。
「お兄ちゃん、紗奈お姉ちゃん、今日はありがとう!」
「いいわ、これで直葉ちゃんが元気に剣道できるならね。って私はあまり役になってないかな。お礼ならお母さんと叔父さんに言うといいわ」
「そんなことないよ。私、紗奈お姉ちゃんに相談してなかったら、今でも虐められていたかもしれないんだもん! だから、ありがとうだよ!」
「そうだな……紗奈ちゃん、俺からもお礼を言わせてくれ。ありがとう」
そう言って、直葉とキリトは満面の笑顔で私にお礼を言ってきた。
直葉に相談された時、私は自身の愚かさを呪ったわ。それは、今だに私が『SAO』の小説やアニメでの追体験しながら自分も混ざっているという夢物語の様な感じだったからだ。けれど、直葉の涙を見た瞬間それは違うと思い知らされたわ。彼ら彼女らは今この瞬間を生きている。前世から数えれば翠さんより年上なはずなのに、こんな事にも思い至れないとか自分が情けなさすぎるわね。
「よし! じゃあ来週からまたよろしくね!」
私は自分の両頬を叩くと、振り返って二人に手を振って別れた。
そして翌週、案の定と言うのか直葉の担任の芦屋先生は来ず、学年主任が代行を務めているわ。
後から聞いた話によると、私たちが応接室から出た後、ICレコーダーの音声を再生しながら事実確認を行って現在は自宅待機だそうだ。恐らくクビにはならないだろうけど、教育委員会の方で預かって再教育を受けさせられるそうだ。学校教育の組織図がどうなっているのかわからないけど、直葉の前に姿を現さなければ何でもいいわ。
直葉を虐めていた男子たちも学校を挟んだ保護者間のやり取りで謝罪が行われ、この一件は静かに収束していった。
それから数週間後…………キリトが剣道をやめていた。
嘘でしょ……?
主人公紗奈の武器
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執筆者の思い描いたように書く
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思い切って変更もありかと
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別にどうでもいい