もう一つのSAO ─ただの生まれ変わりだと思ったら、実はSAOの世界でした─   作:雷訓

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七話

 六年生。

 最上級学年であり、小学生最後の一年である。この一年は誰もが漠然と捉えているが、イベントは目白押しである。

 いつものテストや行事に加え、修学旅行に卒業制作に卒業作文とやる事が勝手に増えてゆく。そして私たち生徒は、それらを重ねて自分たちが卒業生である事を実感してゆくのである。

 そんな中、結局最後の年もキリトと一緒のクラスになれなかったと、かなりがっかりしている私に変化が起きていた。

 

「男子たち目つきが嫌らしいんだけど! 先生に言い付けるわよ⁉︎」

 

「わ、悪かったけど、そう言われてもよ?」

 

 クラスの男子が私の胸をチラチラ見てくるのを仲のいい女子が庇ってくれる。

 そう、その変化っていうのが、私の身体が成長期にかけて、今までの苦労が目に見え始めてきたのよ!

 身長に関しては若干低めだけど、まだこれから伸びるから乞うご期待って感じね。だけど、それに反して胸の方は結構主張してきているわ。ぶっちゃけ現段階で前世の私を越えているのは確かね。薄いことをステータスにして、自分に言い聞かせていた頃とはおさらばよ!

 実際、去年からスポーツブラはしていたんだけど、六年生に上がってからまた更に成長したもんだから、いよいよ普通のブラが必要になってくる感じね。

 

「さ、紗奈ちゃん、ちょっといいかな?」

 

「何、どうしたの?」

 

「えっと、ここじゃ恥ずかしいから……」

 

「そっか、じゃあ移動しようか」

 

 一部始終を見ていた女の子が、恥ずかしそうに相談があると話しかけてくる。ははぁーん、なるほどね。最近は隠れて私に接触してくる女の子がちらほら出始めている。

 いやはや、私もリア充になったものね。まぁそれもこれも、朝と帰り以外はキリトに絡んでないからって言うのも大きいわね。低学年の頃は同じクラスだっから、何をするにしてもキリトとワンセットだったから。

 逆に今の方がキリトとの距離感もメリハリがついていい感じなのかしら? 直葉とも関係は良好だし。ならこのまま現状維持で様子見ね。

 

 

 

 何て言ってた私がおバカだったわ。

 大きな、凄く大きな見落としてしていたわ。それは何かって、キリトを追いかけてSAOを始めるのにナーヴギアが無い事には始まらないって事を失念していたわ。

 確かあれってSAOが出る一年位前よね? って事はあと一年ちょっと? で、価格がおよそ十万弱……で、ソフトがおよそ四万だったかしら?

 とてもじゃないけど、クリスマスや誕生日でお願いできる様な値段じゃないわね。普段からゲームを家でやらないから、こんなの急におねだりも出来ないわ。真面目すぎたのが裏目に出るなんてことがあるだなんて。

 確かに両親はお願いとかあれば遠慮なく言えと言ったけど、あんな高いゲーム機が欲しいだなんて言えないわね。普段が良い子ちゃんで通っているだけにこんなのお願いしたら卒倒しそうだわ。

 かと言って小学六年生があと一年で十数万円を稼ぐ方法なんて…………。

 項垂れながら前世から随分と小さくなってしまった手と、逆にまだ成長途中の胸が私の瞳に映り込んだ瞬間に閃いた。

 

「ある……これならイケるかも」

 

 

 

 

 

 一ヶ月後、いつものように学校へ行き、習い事の空手に行って宿題をする。いつもならここから寝るまでの時間は、読書やらストレッチやらで自由に過ごしていたんだけど、最近はそうもいかなくなっている。

 

「これを貼り付けて……送信っと。あ、昨日のやつ返信来てたのね。……ん、気に入ってもらって良かったわ」

 

 宿題を終えてから、ノートパソコンを開けて作業を開始する。それを送信して相手に気に入ってもらえてたら報酬をもらう。これを週に何度か繰り返している。

 時々いやらしい指定があったり大幅な修正があったりしているけど、相手からはおおむね好評を貰っていて早い段階で懇意にさせて貰っているわ。そのせいか、画面越しに増えていく数字を見ると思わず顔が綻んじゃうわね。

 

 

 

 

 

 

「で、紗奈、これは何? お母さんに教えてくれるかしら?」

 

「は、はい……」

 

 で、そんな順調な滑り出しと思えた私だけど、油断したわね。

 何の変哲もない無い平日、今日も頑張ろうと張り切って帰ると、私の部屋にあるはずのノートパソコンがリビングに下ろされてその前にお母さんが座っていた。

 あの顔は笑顔が張り付いているけど、明らかに怒っているわね。過去に数回その姿を見ているけど、あれは有無を言わせないって感じね。

 ちなみにその数回は私じゃなくて、スーツのポケットからお店のお姉さんの名刺が出てきたお父さんの事よ。愛されてるわねお父さん。じゃなくて、今は私の事よ。

 

「私は紗奈にパソコンを買ってあげた覚えはないわね」

 

「はい、お年玉と貯めたお小遣いでネット通販で買いました」

 

 ここまでは良い、確かに大きな買い物を勝手にしたのは申し訳ないけど、今時の家庭なら子供がパソコンを持っているくらいはそんなに不思議な事じゃないはず。

 

「で、買ったパソコンで何をしているの?」

 

「普通にネットを繋いで遊んだり、調べ物をしたりとか……」

 

 けれど、問題はここから。流石にこの先を知られるわけには……そんな事になったら……。

 

「本当に? なら今ここで見せてもらって良いかしら?」

 

「え、いやあのぉ……」

 

 やっぱ厳しいわねぇ……そう来るわよねぇ。

 

「まさかいやらしい事に使ってるんじゃないわよね?」

 

「…………」

 

「電源を入れて中身を見せてくれる?」

 

 もうダメね。私に向けられたノートパソコンを開き電源を入れてお母さんに見せる。

 受け取ったお母さんは、フォルダーやメールの受信箱を開いて一つ一つ確認してゆくが、眉間を寄せて難しい顔になったり、目を丸くして驚いたりと忙しそうだった。

 多分自分の思っていた内容と違っていたんだろと思う。それでも、メールの内容に思う所があったのか、気を取り直して私の方へ向き直った。

 

「紗奈これはどういう事か説明してもらえる?」

 

「えっと、欲しいものがあって。それでお金が必要で、私が出来そうなのがこれかなと思ってパソコンを買って始めました」

 

「欲しいものって?」

 

「まだ出てないけど、来年発売されるナーヴギアって言うゲーム機。結構高くって、本体が多分だけど十万位するかも……」

 

「それだけなら、紗奈のお年玉で買えたんじゃないの?」

 

 うん、お母さんの言いたい事はわかるわ。けどそれじゃダメなのよね。今までの分、貯めに貯めた額だと恐らく再来年に出る『SAO』のソフトに手が届かなくなるかも知れない。それに、一応そこが人生の終着点ってな訳でもないから、今後のことも思ってって言うわけなんだけど……まぁそれでバレてちゃ意味ないんだけどね。

 

「いえ、そこで使い切るより、先行投資の意味も含めてパソコンを買って手に職を就けてもう一度貯める予定です」

 

「あのね…………だからって、どこの世界の小学生が在宅プログラマーで仕事しているって言うのよ⁉︎⁉︎⁉︎ ……しかも先行投資って何? どこでそう言うの覚えてきたのよ……」

 

 お母さんが頭を抱えてしまった。そりゃぁ、前世からの経験を活かして何て言えるはずもないしね。適当に誤魔化しておくとして、問題はここからよね。

 

「それは、以前から興味があって色々勉強しました。今では幾つか案件を貰っています。ですので、お母さんたちの手を煩わせる事もないので、このまま許して頂けると嬉しいのですが……何でしたら、いくらばか生活費も入れますので……」

 

「そう言う事じゃないのよ‼︎‼︎‼︎」

 

 なんて言ったら泣かれてしまって、その夜に緊急家族会議になってしまいました。

 

 

 

「紗奈、私はね別に貴女のやる事に反対はしないわ。でもね、もっともっと子供らしい事や、女の子らしい趣味を持って欲しかったわ。お料理を手伝ってくれるから、そう言う教室だって良かった」

 

 その夜、お父さんとも交えて真っ赤に目を腫らしたお母さんが今日の事を淡々と語った。帰ってきた時、お父さんが泣いているお母さんを見てそれはもう取り乱していたわ。ただそれでも、パソコンの内容を見て驚きはしたけど、即座に否定まではしなかったのがお父さんの凄いところね。

 

「そうだな。ただ、数年前に母さんも言ってたと思うけど、お父さんたちは曲がった事じゃなければ、特には反対派しない。確かに紗奈が高額なゲーム機を欲しがるのは驚いたけど、それでも子供がゲーム機を欲しがるのは珍しい事じゃない。紗奈はそれに関してお父さんやお母さんに申し訳ないと思ってこう言う方法を思いついたんだね」

 

 お父さんは私の目を見て優しく語ってくれた。私の行動を聞いた時も、ただお年玉を消費してゲーム機を買おうと考えた事じゃなく、自分の技能を活かしてその目標に最短で辿り着くかを筋道を立てた事を評価してくれた。

 

「でもね、その計画の穴を突っつくなら、まずお父さんやお母さんに相談して欲しかったな。『多分ダメだろう』なんて考えずに、怖がらずに話してごらん。そうすれば、お父さんたちは可愛い紗奈の為なら一緒に考えるし協力をするよ」

 

 そう言われた時、目から熱いものが込み上げた。

 翠さんに同年代の様だと言われ、調子に乗っていたのかも知れない。結局は自分で勝手に考えて突っ走っていただけのただの子供だ。さっきだってお母さんに聞かれた時も、自分のやり方に間違いはないと思いお母さんの気持ちも考えず、自分からお金まで出すなんて言ってしまった。

 

「ごめんなさい、お母さん……お母さんの気持ちも考えず、酷い事を言ってしまいました」

 

 二年生の時あれほど相談して欲しいの言われたのに、私は何も学んでいなかった。勉強やスポーツができたって誰かの相談に乗ってあげれたって、親を泣かせてしまえば何も意味がないじゃないの。

 

「ごめんなさい、お父さん。お父さんがせっかく相談して欲しいと言われたのに、その思いを無碍にしてしまいました……」

 

 涙が止まらない。心は大人なのに、今のお母さんの涙を流させたのが自分である事の情けなさ、申し訳なさで胸が締め付けられて押し潰されそうだった。

 もう諦めようか、キリトたちの事も成り行きに任せて普通に暮らそうかと頭の中で過ぎった時、私の頭を優しく撫で抱き寄せてくれる人がいた。

 

「お母さん……?」

 

 それがお母さんだと言うことがわかるのに数秒も要らなかった。何故って、それがお母さんってものだからとしか言いようがないと思う。

 

「紗奈、貴女は好きなようにして良いのよ。前にも言った通り、悪いことじゃなければ私は特に否定はしないわ。ただ、ちゃんとやろうとしてくれる事を教えてちょうだい。それさえわかれば、何も言わないわ」

 

「お父さんも、お母さんの意見の通りだ。聞いた限りだと、凄い事をしている様だね。どんなことかわからないけど、応援しているよ」

 

「お父さん……お母さん……ありがとうございます……」

 

 そう言ってお母さんを抱きしめると、もう一度頭を優しく撫でてくれた。その掌の心地よさを感じながら、私はもう一度決意を新たにした。

主人公紗奈の武器

  • 執筆者の思い描いたように書く
  • 思い切って変更もありかと
  • 別にどうでもいい
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