ウマ娘はトレーナーと恋愛してるらしいのでチートオリ主の出番はない 作:ちゃ
カフェを出てから、少し。
プラネタリウムのチケットを提供してくれた、アドマイヤベガは、意外と今までやっていなかった連絡先の交換をした後、先に寮へと戻っていった。
あとは俺も帰るだけ──なのだが、サクラチヨノオーは、どうやらもう少し、放課後の散歩を、続けたそうな様子だ。
厳しい門限がある寮生と、いつでも外を行き来できる俺とでは、放課後の大切さの感覚が、大きく異なるのだろう。
ここは付き合ってあげたほうが良さそうだ、と考え、はちみーなる謎のドリンクを買いつつ、俺たちは適当に街を回っていた。
「サクラ」
「んー?」
「明日の大相撲、楽しみだね」
「ッ!」
サクラチヨノオーは、確か相撲が好きだった気がする。
ということで、話題の提供という意味で口にしたのだが、予想以上にがっつり反応してくれた。
どうやらチョイスは間違っていなかったようだ。
「う、うん! 私は、広間でみんなと観るんだけど……」
「夕方だから、一緒には観られないね」
「……アルファちゃんも、寮生だったらよかったのに」
気持ちは嬉しいが、さすがに事情を知らない少女たちと、一つ屋根の下というのは、いささか厳しいものがある。
体の隅々まで、ウマ娘として改造されているならともかく、俺の性別は変わらず男子なのだ。
特に風呂とかヤバい。大浴場とか絶対入れん。
「寮に来るのがダメなら……お、お泊り、とか、できないかなぁ……」
「えっ?」
サクラが手元ではちみーをクルクル回しながら、そんなことを呟いた。
「あっ! いや、えと……」
「サクラがウチに来る、ってことかな」
「ちょ、ちょっと待って! そのっ、本気にしないで。ほんと、言ってみただけだから──」
「いいよ」
「ヴぇっ!?」
まぁ、女装のクオリティは日に日に上がってるし、同じ部屋で夜を明かす程度なら、バレないよう工夫して過ごすのも、そこまで大変というわけではない。
それに秋川さんは、仕事であっちこっち飛び回る都合上、家に帰ってこない日も多いのだ。
誰かと一緒に夕飯を囲めるなら、こちらとしても結構嬉しい。
「いつにする?」
「待っ、えぅ……い、いいの?」
「こっちは問題ないよ。サクラは、外泊許可とか貰わないといけないだろうけど」
「そうだね、うん、外泊許可。うん、もらう……帰ったら、すぐ申請出す……許可……」
少しだけ俯いて、尻尾を回しながらブツブツ呟き始めた、サクラチヨノオー。
そのまま、前方の電柱に気づかず、ゴツンと頭をぶつけて『いだっ』と反応したところで、ようやく彼女は頭の中で整理がついたようで、にへらとだらしない笑顔を、こちらへ向けてくれた。
この態度はなんなんだろう。
外泊許可を貰うのって、そんなに大変なのだろうか。
「……サクラ、顔赤いけど、大丈夫?」
「んうぇ……っ!?」
バタバタと手鏡で、自分を確認しだす少女。何だか忙しない。
女友達とのお泊りって、女子からすると、そんなに緊張するものなのか。
むしろ緊張したいのは、全然普通にこっちの方なのだが。
友達と寝泊まりなど、男子としかやってこなかった、バキバキ童貞のバキ童からすれば、女子が自宅へ訪れるなんて、この上ないビッグイベントだ。緊張しないほうがおかしい。
今の立場はともかく、中身は普通に男子高校生なのだ。
お泊りを許諾した身ではあるが、あんまりそっちばっか狼狽するのもやめてほしい。こっちのほうが何倍もドキドキしてるので。
「あのっ、あの、日程あとで連絡するね。今日はもう帰るから……」
「分かった。じゃあ、また明日」
「うん、またね!」
終始慌てふためいていたサクラが、ようやくその場を去っていった。
ウマ娘たちとは、一定以上距離を取って接すると決めていたわけだが、こういう自宅へ招くといった行為は、果たしてセーフなのだろうか。
これは、そこら辺の塩梅を学ぶための、実験の意味も兼ねている。
もちろん合理的に考えれば、リスクの高い行動をするべきではないのだが、日々の楽しみが少なすぎるが故に、少々の刺激を求めてしまった。ヤバいかもしれない。
もし彼女との夜で、あまりにも正体バレがギリギリになってしまうようであれば、誰かと一緒に夜を明かすのは、今後は控えることにしよう。
……
…………
二人のウマ娘と別れ、さぁいよいよ帰るぞ、といった帰路の道中。
俺の視界に、目を引く光景が、映り込んできた。
「ボクの風船……うぅ~……」
「だ、大丈夫だよっ。ライスが取ってあげるから、ね?」
とある公園。
そこには幼い少年と、見覚えのあるウマ娘──ライスシャワーがいた。
かなり高い位置にある街灯に、風船が引っかかってしまっているようだ。
制服姿なのと、傍らにある買い物袋を見るに、恐らくライスシャワーは、買い出し中に通りかかっただけなのだろうが、風船を手放してしまったあの子供を、放っておけなかったのだろう。
「ぬわあああぁぁぁ……」
変わった泣き方する子供だな。
「んしょっ、んしょっ!」
ぴょんぴょこ跳びながら、街灯に手を伸ばすライスシャワーだが、彼女の身長では届きそうにない。
ウマ娘ほどの身体能力があれば、不可能ではない距離だが、彼女たちは上に跳ぼうとする運動をあまりしないため、通常の跳躍力に関して言えば普通の人間とあまり変わらない。
「……へへ。お姉ちゃん、がんばれー」
おいおい、あのガキ、下からライスシャワーのスカートの中、覗こうとしてねぇか。
彼女も彼女で、風船を取るのに必死過ぎて、気がついてないし。
──しょうがない。ここは俺の出番のようだ。
風船を囮にして、女子高生のパンツを観察しようとする、あのマセガキの強かさには、少々舌を巻いたものの、あれ以上いくとウマ娘のコンプライアンス的にアウトだ。
残念ながら、ライスシャワーの絶対領域のその先に、行かせるわけにはいかない。
悪いな、クソガキ。お前にゃまだ、このステージは早すぎるよ。
「こんにちは、ライスシャワー」
「ふぇっ? ……あ、こ、こんにちは……」
初めまして、と言ったほうが正しかったかもしれない。
俺が一方的にライスシャワーを知っているだけで、彼女と俺は初対面なのだ。
「あとは、ちょっと私に任せてほしい」
「え。で、でも……」
「大丈夫。すぐに済むから」
そう言って、まず俺はエロガキのほうへ向かった。
「少年」
「な、なんだよぅ」
「少し、目をつぶっててくれるかな。お姉さんがあの風船、魔法で取ってあげるから」
「えぇー?」
魔法なんてあるわけないでしょ、と言いつつ、素直に目を閉じる少年。かわいいやつだ。
その隙に、俺は某配管工ばりのスーパー跳躍をして、街灯に引っかかっている風船をゲットした。
学園生活では、これっぽっちも使い道のないチート身体能力だが、こういう時に限っては役に立つのだ。
一応、ビルの四階くらいまでなら、軽い跳躍でも届くので、手放しちゃった風船取りは俺に任せてほしい。
「はい、もういいよ」
「うん。……わっ、えっ。……ど、どうやって取ったの?」
「魔法だよ。……それとね、少年」
こっそり、ライスシャワーに聞こえないよう、マセガキの耳元で警告しておく。
「──女の子のスカートの中、覗こうとしちゃダメだぞ」
ASMRもかくやというほどの、静かな声でそう囁くと、少年は『ひゃわっ』という声をあげ、顔を赤くしてその場を去っていった。
俺の使っている変声機は、結構かわいい声を出せるので、今の囁きでアイツの性癖も破壊できたことだろう。ふふ、マセガキ退治完了。めでたしめでたし。
「……す、凄い、ジャンプ力……」
「あっ」
しまった。
うっかりしていた。
ライスシャワーにも、目を閉じておくよう、先に伝えておくのを忘れていた。
超人的な跳躍を見せてしまったわけだが、ウマ娘の身体能力があれば可能ということで、何とか誤魔化せないだろうか。
「めっちゃ縄跳びしてるから。めっちゃ」
「そ、そうなの……?」
苦しい。頼むから納得してほしい。
「その脚力……羨ましい、な」
困ったことを言う。
これは人体実験で得た
というか、こんな脚力なくても、ライスシャワーは十二分に強いウマ娘のはずだ。
実力的に言えば、上から数えたほうが早いくらいだろうに。今はまだ開花してないのだろうか。
「ど、どうやったら、そんな脚の力を得られるの……?」
「……な、縄跳び」
「なわとび」
「そう、縄跳び。信じられないなら、今度一緒にやろう」
「ッ! う、うん……っ!」
──といった、よく分からない約束の取り付けなんかもありつつ、異様にイベントが多かった放課後を終えて。
数十分後、ようやく俺は、帰るべき自宅の玄関をくぐることが、できたのであった。
ちなみに、保冷剤と一緒に入れてたアイスは溶けた。かなしい。