ウマ娘はトレーナーと恋愛してるらしいのでチートオリ主の出番はない   作:ちゃ

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アルファ:3

 

 

 

 放課後。

 学園の誰との約束もなく、また秋川さんも外泊で、ちょうど一人きりになる事となったその日に、最も大切な用事が存在した。

 何を隠そう、定期健康診断だ。

 普通の人間ではなく、また普通のウマ娘でもない、改造痕まみれの肉体を持つ俺は、おいそれと病院へ赴くことができない。

 そのため、唯一事情を共有している、政府の人間が斡旋してくれた、口の堅い担当医のもとへ行き、身体の不調がないかどうかのチェックを、定期的に行わなければならないのだ。

 

「血液検査の結果出るまで、院内で適当に待っててね」

 

 そう言われて部屋を出ると、タイミング良くお腹の虫がグゥと鳴いた。時間帯で言うと、夕飯には少し早い。

 俺が今いる場所は、学園から電車で三十分程の距離にある大きな病院だ。

 女装もしておらず、厚めのニット帽と、ダボついたズボンで、ウマ娘だと分かるような部分を隠して外出している。

 ついでに、変装のつもりで伊達メガネもかけているが、これはいらなかったかもしれない。こんな学園から離れた病院で、男の格好をしているにも関わらず、学園の女子生徒と俺を、顔を見ただけで結びつけられるような人物はいないだろう。

 さて、とりあえず腹減ったけど、これからどうするかな──などと考えながら廊下をほっつき歩いていた、その時だった。

 

「なぁ、ちょっといいか」

 

 唐突に、背中へ声を掛けられた。

 

「……?」

 

 何だと思って振り返ると、そこには俺と同年代程度の背丈の、見慣れない金髪の男子が立っていた。

 目鼻立ちがキリッとしていて、個人的な感想になるが、ちょっとイケメンな気がする。秋川さんによると、俺は童顔らしいので、少し羨ましい。

 ──あぁ、いや、そうではなくて。

 

 彼のことは知っている。

 というか、いま思い出した。

 急に声をかけられて、驚いてしまったが、よく観察すれば、既視感が脳内に浮かんで出てくる顔だ。

 

 三ヶ月前、あの違法な研究を続けていた悪の組織に、被検体候補として囚われていた人々は、組織が壊滅したことで残らず解放された。

 その、モルモットから解放された人たちのリストを、特別に見せてもらったことがある。

 閲覧が許されたのは、俺があの中で唯一、実際に薬品投与と人体改造を施された被検体であり、何より秋川理事長の監視下に置かれている人間だったから、というのが大きな理由だろう。

 流石に名前は伏せてあり、顔写真だけだったが、確かその中に彼もいた。

 

「さっき冴島先生の部屋から出てきたよな。もしかして、事件の関係者か?」

「……人違いです」

「えっ。……あ、ちょっと、待ってくれよ!」

 

 彼がなぜ、この時間帯の、この場所にいるのか。

 何が目的で、探るような事をしているのか。

 ──割と結構どうでもいいのだが、科学者たちの研究成果の結晶である俺と一緒にいたら、事件に巻き込まれた記憶を思い出して、忘れていたはずの傷がぶり返してしまうかもしれない。

 俺と違って幽閉されていただけだったようだが、あんなの牢屋に閉じ込められるだけで軽くトラウマものだ。忘れたままの方がいいに決まっている。

 なので、逃げることにした。

 

「待ってくれってば、話があるんだ!」

「病院で大声出しちゃダメですよ」

「あっ、ぇっ……ごめん」

「謝らなくていいんで、付いてこないでください」

 

 言いながら早歩きで逃げても、変わらず追い続けてくる少年。こまった。

 

「た、頼むよ。……その、アンタなんだろ? 研究所の情報を外に持ち出して、アイツらが捕まるきっかけを作ってくれたっていう、唯一人体実験を受けた被検者って……」

 

 その言葉を聞いて、思わず足を止めてしまった。

 不思議なほどに、俺の情報がバレている。なんでだ。

 

「……どうして?」

「オレも一応囚われてたから、半年間は一応の定期検診があって、そのついでにな。そんなかで、みんなが纏まって検査を受ける日に、アンタだけがいなかった」

 

 まるで探偵みたいな推理と、地道な張り込み方だ。ますます、そうする理由が見当たらない。

 

「そのニット帽の中、ウマ娘みたいな耳あるんだろ」

「な、無いよ」

「……ズボンの裾から、尻尾の先がちょっと出てるぞ」

「うそっ、ヤバ」

 

 慌てて足元を確認した瞬間、あっ、と気がついた。

 別に、足元の裾からは、もふもふな先っぽは出ていない。

 やられた。

 今の反応は、尻尾を隠しているような人間でなければ、見せるはずのない態度だ。

 

 ──これは、マズい。

 まさか先に学園内ではなく、外で正体がバレるだなんて。

 人体実験された事実自体は、関係者なら知っていてもおかしくないが、まさか疑似ウマ化してることまで看破されるとは、微塵も考えてはいなかった。

 ……どうしよう。口封じに、ウチまで無理やり連れ込んだりとか、した方がいいのだろうか。

 

「落ち着いてくれ。……オレは単に、アンタに礼がしたかったんだ」

 

 お礼、とは。

 

「アンタが研究所を逃げ出してくれなきゃ、オレらは囚われたままだった。もしかすれば、死んだ方がマシだと思えるくらい、ヤバめの実験をさせられてた可能性だってある」

 

 だから、と一拍置いて、彼は続ける。

 いつの間にか、その少年は、あと一歩で俺に触れられるほど、すぐ近くまで詰め寄ってきていた。

 

「……とりあえず、飯でも食わないか。奢るからさ」

 

 そう言われて、ほんの少し、口をつぐんで逡巡したのだけど。

 ──割とすんなり、いつの間にか俺の口から、了承の返事が飛び出していた。

 

「……まあ、血液検査が終わってから、なら」

 

 

 

 

 結論から先に言うと、友達ができた。

 

 自分でも驚くほどチョロい──というか、同じ話題を持ってる同年代の男子が、ここまで話をしやすい相手だという事を、俺はすっかり忘れてしまっていたらしい。

 正体がバレて焦ったのも最初だけであり、以降は事情を把握してくれている相手として、何でもかんでも話せてしまった。あまりにも話しやす過ぎたし、多分いろいろ喋りすぎてしまっていた。

 

 この行為があまりにも軽率なものである事は、さすがに自覚しているのだが、それを加味しても、数少ない理解者として彼と交流できた後の、自分自身の精神状態の安寧は、とても大きなものだったのだ。

 学園の少女たちや、秋川さんや、身体を診てくれている先生とも異なる、とても身近に感じる同性の友人の存在は、本当に、この上なく嬉しくて。

 彼と話していて、久方ぶりに、心から油断した、だらしない笑い声をあげてしまった。

 

 もちろん、彼──藍原蓮斗が、とても気さくな相手だったから、ここまで心を開くことができた、というのもあるが。

 一言で例えられるほど、絵に描いたような"良いやつ"だった。

 たまに発言が尖ってたり、スマホのホーム画面をちょっとえっちなキャラの画像に設定しているのに後から気づいて慌てたりと、変な隙もあって面白いやつだ。

 話していくうちに、割と趣向が似通っていて、親近感が湧いてきたと思った頃には、既に連絡先の交換もしていた。

 まぁ、あの探偵染みた最初の話しかけ方は、ちょっとどうかと思うが。

 

 秋川さんには『一言相談してほしかった』とやんわり怒られてしまったので、流石に次もこういう事があったら、その時はちゃんと警戒しようと思っている。想像以上に軽率な行動だったため、本当に反省しなければならない。

 

 ──と、先日はなんやかんやあって。

 結局、今度彼と一緒に会う約束を取り付けつつ、それを楽しみに思いながら、俺は今日もライスシャワーと縄跳びをしていた。

 あと、何故かアドマイヤベガと、サクラチヨノオーも、近くで縄跳びをしている。いつからここは縄跳び部になったのだろうか。

 

「にへへ……」

「……先生、もしかして何か、良いことでもあったの?」

「うぇっ──ブッ!」

 

 すっかり自分の世界に入り込んでいたのか、ライスシャワーに横から声をかけられたことに驚き、縄跳びで足がもつれ、すっ転んでしまった。あまりにもダサい。

 

「いてて……な、何で分かったの、シャワー」

「ずっとニコニコしながら、かれこれ十五分くらい、ずっと縄跳びしてたから……」

 

 マジ。十五分も跳び続けてたの、俺。

 この身体になってから、日頃からあまり肉体的な疲れを感じなくなってしまっているので、まったく気がつかなかった。

 

「……えと、実はかなり楽しみな約束があって。それで気が緩んでたのかも」

 

 あまり細かい予定は決めてないが、お昼だけは美味しい人気店へ赴くことになってるのだ。激うまパスタ、楽しみです。

 

「ふふっ」

「えへへ……」

 

 横を見ると、縄跳びをしたまま、ベガがそこはかとなくドヤ顔をしてていて、サクラはにへらとだらしない笑みを浮かべていた。どうしたんだろう。二重跳びできて喜んでんのかな。

 

「あぁ、それはそうと、シャワー」

「なぁに、先生?」

 

 こてん、と不思議そうに首をかしげるライスシャワー。いちいち所作がかわいいの、どうにかならんのか。危うく好きになるぞ、気をつけてね。

 

「ここのところ、ずっとこうして縄跳びをさせてしまっているけど……どう? 何というか、成果は出てるかな」

 

 ここに関しては、欠片も自信がなかった。

 レースを頑張る彼女たちの、貴重な時間をただの縄跳びで浪費させるのは、あまりにも心苦しい。

 そもそも、咄嗟の対応策で縄跳びと口走っていただけなので、本来このトレーニングには意味などないのだ。

 これ、なんて言って終わらせればいいのだろうか。

 

「う、うんっ、出てるよ、成果……!」

 

 マジ? トレーニング効果もそうだが、そもそもまだ数日しかやってないぞ。

 

「この前、トレーナーさんにね、踏み込みが浅かった部分が改善されてるって、褒められたのっ」

「踏み込み……」

「それから、それからっ、スタミナもついたって……! 思い返してみると、確かに前より長い距離が走れるようになってるかも……」

「す、スタミナ……」

 

 ウマ娘の吸収率というものを侮っていた。

 こんな、大して効果のなさそうな、ちょっと楽しいだけのトレーニングを数日行っただけで、ここまで成長するだなんて、結果を聞いた今でも信じられない。

 というか、ライスシャワーの成長率がバグってるだけ説もある。進化のスピードが速すぎないか? サイヤ人かよ。

 

「それもこれも、ぜんぶ先生のおかげだよ……?」

「……そ、そっか」

「ありがとうございますッ!」

「どういたしまして……?」

 

 完全にただ偶然ライスシャワーが、スーパー最強すごすご成長率激高ウマ娘だっただけなのだが──まぁ、いいか。

 本人がこのトレーニングを快く思ってくれていて、実際数値にも良い方向で影響が出ているなら、わざわざ必死になって否定する必要もないだろう。

 

 それから少し経って。

 アドマイヤベガは、いつも絡みがちなテイエムオペラオーたちの方へ合流し、サクラチヨノオーも似たような理由で『明日も来る! 明日も来るからッ!!』と何回も強調しつつ、縄跳び部から去っていった。何しに来たんだろう、あの人たち。

 

「……あ、あの、先生」

「うん?」

「ほんとに、ありがとう。ライスのワガママを聞いてくれて……こうして、トレーニングも、ずっと付き合ってくれてる……感謝しても、したりない」

 

 モジモジしながら、それでも素直に感謝を述べるライスシャワーを前にして、俺は胸が熱くなった。

 かわいいうえに、殊勝で優しい良い子だなんて、完璧生物が過ぎる。

 この立場じゃなかったら、危うく告白してフラれてるところだった。ギリギリだったぜ。

 

「こっちこそありがとう、シャワー」

「ぇ、え? ライス、お礼を言われるようなことなんて、何も……」

「そんな事ないよ。このトレーニング、パッと見は地味だし、いつでも辞めていいのに、こうして根気強く付き合ってくれてるし……何より、シャワーと一緒にやる練習、けっこう楽しいんだ。だから、ありがとね」

「……っ!」

 

 この時間が楽しかったのは本当のことだ。

 来月のレースは、ほぼすべての生徒が半強制的に参加することになっており、モブウマ娘として負けるのにちょうどいいレースを、わざわざ出走選手の名簿を調べ尽くしてから選出したりと、ネガティブな思考で頑張らないといけない用事のせいで、あまり晴れやかな心ではなかったのだ。

 そこに、友人として俺を誘ってくれた、ベガとサクラの二人や、遊ぶ約束を組んでくれた蓮斗──そして放課後はこうしてずっと一緒にいてくれるライスシャワーの存在が加わって、この世界へ訪れてから初めてと言っていいくらい、俺はここ数日間が心底楽しかった。

 

 だから、そのお礼だ。

 物理的に失った青春を、彼女たちは再び俺に齎してくれた。

 

「……~~っ! あ、あの先生っ、ちょっと外を走らない……?」

「うん、いいよ」

「い、いこっ」

 

 シャワーが顔を赤くしながら、先導するように、校庭の外へ向かって走りだした。

 気持ちは分かる。

 言った後に気づいたが、俺も結構恥ずかしいことを口にしていた。

 それはもう、当然のように照れてしまう。こっちも少し顔が熱いくらいだ。

 よく考えると、元いた世界では、友達に真正面から『お前と一緒にいると楽しいよ』だなんて、歯の浮くようなセリフは言わなかったのに、今回はなんともすんなり出てきてしまった。ライスシャワーの純真さにあてられてしまったのだろうか。

 

「──うわっ、雨?」

 

 学園出てほんの数分、まるで狙い澄ませたかのように、突然の通り雨に遭った。大粒がかなりの勢いで降り注いできている。

 

「ふえぇっ……!」

「シャワー、そこのバス停で、止むまで雨宿りしよう」

「えっ。う、うんっ」

 

 まったく、良い気分だったのに、災難だ。

 早く止んでくれればいいのだが。

 

 





ライスシャワー:透けてない

アルファ:透けてる
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