ウマ娘はトレーナーと恋愛してるらしいのでチートオリ主の出番はない 作:ちゃ
事件から解放され、無気力に毎日を過ごしていると、あの研究所の件を嗅ぎまわっている、怪しげなジャーナリストに声をかけられた。
どこから情報を仕入れたのかは不明だが、その男は、とにかく『一人でも実際に改造された人間がいるなら、そいつを調査してほしい』と必死だった。
確かに美味いネタなのだろう。
ウマ娘を目の敵にしている連中が、どんな研究をしていたのか──紙面を飾るには十分すぎるインパクトだ。
男から提示された報奨金の値段は、一介の学生に過ぎない自分からすれば、目が眩むような金額だったため、調査の協力は二つ返事で了承してしまった。
そして、自分でも驚くほど、すんなりと対象の人物を釣ることができた。
相当心が弱っていたのか、それともオレ自身が、彼の求める理解者像に合致しすぎていたのか──ともかく情報を引き出す場を設けることができた。
あとは飯を食いながら、さりげなく、彼の話を引き抜きまくってやればいい。
如月或葉の情報を、あのジャーナリストに手渡して、さっさと逃げれば、大金を抱えてしばらくは安泰な生活を続けられる。
──そう考えて、いたのだが。
『それで、脚の強化が特にヤバかったんだ。なんかバカ太い針を脹脛にブッ刺されてさ──』
流石に、オレでも違和感を覚えてしまった。
如月或葉──コイツ、あまりにも
それとなく普通の会話を心がけてはいたものの、いつの間にかこっちが聞いていないことまで、ペラペラと喋ってしまっている。
オレは、そこに意図を感じないほど、自分の話術に自信を持てるような性格ではなかった。
『ん、どした?
肩が、跳ねた。
たまにスマホを弄るフリをして、こっそりメモを取っていたのだが、彼はどう考えてもそれを見越したうえで、そのセリフをぶつけてきたのだ。
表情が、そう物語っていた。
余裕が、垣間見えた。
警戒心の薄いその姿は、逆に油断させることで対象をおびき寄せるような、形容しがたい威圧感を放っていた。
──マズい。
会話の内容から思い出したが、こいつの後ろにいるのは、中央トレセン学園を仕切る理事長と、一部とはいえ国の中枢で動いている政府の人間たちだ。
たった一人の、しょうもないジャーナリストと手を組んだだけの自分が、まともに相手取っていい存在ではなかったのだ。
これは、きっと警告なのだろう。
『……? 何だよ急に黙り込んで。グリーンピース食えないのか? 俺が食べてやろっか』
『……悪かった。オレの、負けだ』
『へへっ、なんだよ。ダメなら最初からそう言えって』
嬉しそうにオレのグリーンピースを頬張る彼の姿は、一見無邪気に見えるが、その奥には思慮深い男の意志が秘められている。
お手上げだった。
勝てないことが──いや、逃げる事すらままならないと悟ったその瞬間に、オレの戦いは終了のゴングを鳴らしてしまっていた。
『ふう。……ん、そろそろ帰っか』
おとなしく首を差し出す気持ちで、降参の意を示すと、彼は皿の上の食べ物を全て平らげて、席を立った。
これからどんな目に逢わされるのか、いくつも最悪の想定をしながら、ビクビク怯えたまま付いていくと、彼は突然QRコードが表示されたスマホの画面を、俺に見せてきた。
『ほら、連絡先の交換しとこ。そういえばまだ聞いてなかったからさ』
──想定外だった。
どこかへ強制労働行きになるか、口封じのために連行されるか、ともかく予想の中に、オレの安全という項目は、一切含まれていなかったのだ。
だというのに、彼は。
『……? ど、どうした?』
『いいのか。オレと、交換なんかして』
『えっ。……いや、だって、もう友達でしょ。連絡取れないと困るし……』
彼のそんなセリフを耳にした、その瞬間に、オレの中で如月或葉という人間対しての評価が、一変した。
如月にとって、相手が敵かどうかなど、些細な問題でしかないのだ。
どんな人物と相対しても──それこそ自分の情報を暴こうとする、不埒な輩が相手だろうと、こうして味方に引き込もうとしてしまう。
あまつさえ、オレを友人、などと。
言葉そのままの意味でないことは、十分理解している。
しかしそれでも、間違いなく彼は、よりにもよって敵対していたオレに、慈悲を与えてくれたのだ。
真の意味で敗北した……というより、きっとオレは、最初から負けていたのだろう。
チョロそうに見えたのは、ただの作戦に過ぎず、全てを察した上で、オレを試した。
『……そうだな、交換しよう』
一言で表すのならば、それは感服に他ならない。
事件に巻き込まれただけなのにも関わらず、それで得る事となった自らの立場を、存分に利用する、その豪胆さ。
正体を見破ったとしても、すぐに判断を下すのではなく、相手の出方を伺い、それを察せる相手であれば他の道を用意する、その思慮深さ。
彼の持つそのカリスマ性に負けた自分には、もはや取引を持ち掛けてきたジャーナリストの事など、心底どうでもよくなっていた。
『蓮斗、今度の日曜日辺りにでも、遊ぼうな!』
『……あぁ。うまいパスタ屋に連れてってやるよ』
そんな会話を思い出しつつ、オレは服の中に仕込んでいた盗聴器からカードを抜き取り、粉々に踏み砕いてから、帰路に就くのであった。
要約:男友達のフリしてたスパイが勘違いで勝手に負けて味方になった。
ライスシャワーは次回になります