魔女教元徳司祭   作:萎える伸える

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話が、一ミリも、進まなかっタ。助けテ。三千


『その女』

◆◇◆

 

「怒らせてしまいましたの…」

 

 誰もいない貧民街の端っこで、一人体育座りで落ち込む女がいた。

 

「わたくしは…」

 

 女には目的があった、――妹を助けるという目的が。

 

 それは彼女の根幹。彼女は妹を助けるために存在している。まだ生きている。妹を守る姉であることが彼女のすべて。

 

 何故そうなったかは、いずれ分かるだろう。

 

 

 彼女は今、フェルトを妹として可愛がっていた。

 

 フェルトのいじらしくて素直じゃなくて、しかしとても強かに生きている姿に心を打たれたからだ。そして、なにより可愛い。

 

 彼女はあの小さな体を目一杯に使って主張している、叫んでいる、アタシはここにいる、と。それは誰に対するものなのか。自分か、ロム爺か、はたまた自分を置いて行った家族か、あるいはこの国か。

 

 その生き様の美しさたるや光るだけの宝石とは比べるべくもないだろう。

 

 そんな強い彼女でも『愛』に飢えている。『家族』に飢えている。『血の繋がり』に飢えている。それは叶わない事だから。それは不可能なことだから。

 

「それでもあの子がわたくしに心を許してくれないのはきっと、一度裏切られたから、なのでしょうね」

 

 数か月も一緒に過ごしていればだいたいのことはわかるものだ。妹のことをよく見ている姉であれば猶更。

 

 彼女は人間不信ではないが、家族というものに不信感がある。彼女は裏切られること、騙されることを極度に恐れている。

 

 それはきっと生まれてすぐに親に捨てられ、それでも自分を強くもって生きてきたのに、また裏切られたから。

 

 ベネットはフェルトが誰にどう裏切られたか知らないし興味もない。大事なのは次であり今、彼女がどうフェルトを愛するか。信頼を得るか。

 

 天才お姉ちゃんという肩書をもってしても妹のことを完全に理解することなど難しいし、きっと出来ない。

 

 彼女はきっと一人でも生きていけるし、姉の庇護を必要としてもいない。

 

 でも、そんなことは関係ないのだ。ベネットは彼女を守りたいと、そう思ったのだから。一人でも生きられるからと、二人で生きてはいけないなんてこと、あるはずがないのだから。

 

 だから。

 

「当たって砕けろ、ですわ」

 

 彼女が愛されることを嫌がっても、彼女を抱きしめよう。彼女が踏み込まれることを煙たがっても、彼女と手を繋ごう。彼女が例え、わたくしのことを嫌いになっても、わたくしは彼女の姉でいよう。

 

「善は急げ、ですわね」

 

 お姉ちゃんは貧民蔵へと歩を進めた。

 

◆◇◆

 

 

 ドゴガガアァァァァァアン、雷の如き轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 時の流れが遅くなる。

 

 コンマ数秒の時間なのに、突然異世界転移モノの特典を得たかのように、男――ナツキスバルはその光景を見ていた。

 

 ゆっくりゆっくりと世界が動いている。

 

 刹那の時間、極限までの集中で世界をゆっくりに知覚するスバルは見た。

 

 

 窓を突き破って入ってきた黒い影。

 

 影は一直線に、その場に佇んでいた狂人へと進み、突き刺さるは拳。

 

 ゆっくりゆっくりと見える世界。

 

 緩慢と進む世界で早すぎる動きに紫紺に輝く瞳が線を描き、弧を為し、紡がれるは紫線。

 

 ゆっくりと、その黒拳が狂人へと突き刺さり顎が、ズレた。

 

 しかし勢いは衰えず、その勢いのままに女の美貌は、美しかった顔は見るも無残な、醜悪なものへと変形し、そのまま、頭を起点として吹き飛ばされ、武器や盗品の置いてあった棚へと突き刺さった。

 

 

 静寂。

 

 時間が正常へと戻り始める。

 

 そこに佇んでいるのは一人の女。

 

 片腕にフェルトを抱きかかえ、もう片方の腕は空へと突き出されている、その拳からは現実か幻か、いったいどれだけの威力で放たれたのか、白煙が昇っていた。

 

 時間は正常に戻ったのに。

 

 誰も動くことが出来ない。

 

 フェルトを助けた女――ベネットも、助けられたフェルトも、腕をなくしとてもつもない苦痛を感じているはずのロム爺も、そして開けっ放しにしていた目が染みて閉じている俺も。

 

 誰も動かず、声を発さず、まるで時が止まっているかのような状況で。

 

 

「――ちょっと、これ」

 

 聞こえてくる凛とした鈴の音のような声。

 

「何がどうなってるの?」

 

 時は動きだした。

 

 動き出したが、事態は混乱を極めていた。

 

◆◇◆

 

「え、えっと…」

 

 流石に状況を理解できないようで、銀髪の少女は狼狽えていた。可愛い。

 

 しかし今はそれより。

 

「――ベネット、なのか?」

 

 フェルトを両腕で抱きしめて離さないベネットにスバルは声をかけた。

 

「…よかったですわ」

 

 しかし彼女に声は届いていないようで。

 

「ほんとうに、よかったですわ」

 

 どうにも水を差せる雰囲気ではない。誰かどうにかしてくれないだろうか。

 

 

 

「―――はっなっせー--っ!!」

 

「ふぎゃっ」

 

「窒息するだろうが!その胸についてる脂肪をちょっとは頭に入れとけ!」

 

 フェルトが暴れ、ベネットは地面に倒れる。

 

 どうやら大きめの胸で呼吸を圧迫してしまったようだ。

 

「ご、ごめんなさいですわ…」

 

 しゅんとするベネット。

 

「本当だよ、反省しろ。――でも、ありがとな」

 

 ツンデレか。

 

「もーうほんっとに可愛い!」

 

「うがー!」

 

 再びたわわに実ったソレに抱きしめられるフェルト。永久機関だろうか。

 

 さきほどまでのシリアスはどこへやら二人の世界が始まっている。

 

 ここは俺も偽サテラと二人だけの世界を…。

 

 

「これ小娘、そういうのは後にしろ」

 

「まぁ、スリムになりましたわね似合ってますわ」

 

「お主の感性狂っておるぞ、はよう治しておくれ」

 

「仕方ありませんわね。――『痛いの痛いの飛んでいけ』」

 

「相変わらず詠唱が適当だの」

 

「こっちの方が効果が高いんですのよ。怪我人は黙って痛いの痛いの飛んでいけされてればいいのですわ」

 

 あいつ一体なにもんだよ、と心の中で一人ごちるスバル。

 

 さきほどの異常な威力のパンチもまだ脳内で処理できていないのに。意味の分からない詠唱?で回復魔法まで使い始めた。

 

「ベネット、さん、めちゃくちゃ強んだな」

 

「あら、あなたもいましたのね」

 

「忘れられてるぅ!?別れてから数分も経ってないよね!?」

 

「冗談ですわ。ちゃんと覚えてますわよ天才ですもの。………………せびれ、さん?」

 

「全然覚えてないね!?五十音で一段ずつズラすなんて器用だな!?」

 

「天才ですもの」

 

「えっへん、じゃないからね!?褒めてないからね!?ってそうじゃなくてだな……はぁ天才ってのも疑わしくなるぜ。そんなんだと」

 

「天才は興味のないことは覚えないものですわ。逆説的に私は天才なのですわ」

 

「正しいようで正しくない、それただ物事に興味が――」

 

「いつまでふざけた会話続けとるんじゃい!そこな女子が困っとるじゃろうが!」

 

 そう言われた皆が彼女を見る。

 

「あっ、えっ?え、えっと、その…」

 

 可愛い。

 

「そ、そこまでよ!悪党!」

 

 やっぱりかわいい。

 

「誰ですの、このとっても可愛い子抱きしめたいですわ」

 

「同感」

 

「私の徽章を返してちょうだい」

 

 徽章?首を傾げるベネット。

 

「げっ」

 

 声をあげたのはフェルト。

 

「あっ、あなた!」

 

 ベネットに隠れて見えなかったか彼女はフェルトに今気づいたようだ。

 

 それらを見てベネットは考える。

 

「…この子がなにかしましたの?」

 

「私の徽章を持って行っちゃったのよ」

 

 盗まれたと持ってかれたではだいぶ違うと思うが。

 

「…フェルト」

 

「うぐっ」

 

 柔らかかった胸が突然固くなったかのように苦痛の声を上げるフェルト。

 

「わかったわかったよ返すって!――兄ちゃんもそれでいいんだろ?!」

 

 蚊帳の外にいたら急に巻き込まれた。

 

「お?おう」

 

「?あなたたち仲間なんじゃないの?」

 

「え、えっとだな、これには海より高くて山より――」

 

 

 二度。二の句は告げられない。

 

 

「ッ!危ないッ!」

 

 見えるのは倒れる銀髪と突き出された手、否、吹き飛んだ腕。

 

「――あなた、強いのね」

 

 まるで何事もなかったかのように舞い戻る狂人。

 

「腸を切り開けないのは残念だけど、仕事だから、――さよなら」

 

 

 

 

 

 首が、跳んだ。

 

 

◆◇◆

 




どうしヨ。ラインハルト呼ばなきゃいかなイ。エミリアをスバルが助けないといけなイ。あとは自由、ト。

会話量

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  • 適度に。
  • 少なめがいい…
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