魔女教元徳司祭   作:萎える伸える

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四千二百。三千字以上書くと脳が震えル。頑張っタ。でもなんにも進んでなイ。ナゼ。


『一緒』

◆◇◆

 

 散乱する肉体。切り離された腕、頭部。そんな凄惨な現場で行われるは死闘。

 

 庇われた少女も、助けれらた少女も、見ている事しかできなかった男も、反応できなかった男も、死んだ女――ベネットに意識を囚われて戦いに集中することが出来ない。

 

「このっ!」

 

「これでも食らえ!」

 

「おんどりゃあ!」

 

「ふぅん!」

 

 誰もが怒りのままに、血に染まる女を狙う。氷柱、風刃、椅子、こん棒、ありとあるゆるものが彼女に飛ぶ。

 

「――ああ、心地いい殺気」

 

 しかし彼女は意に介さない。それどころかトリップしている。お腹を裂けなかったことなど、もはや気にならないと言わんばかりに死闘を楽しんでいる。

 

 避ける。避ける。避ける。切る。

 

 まず狙うのはやはり前衛の男、巨人族の老人。しかしそれは避けられる。初見で目の慣れていない不意打ちの戦闘ゆえ先ほどは不覚を取ったが、老人――クロムウェルは強い。年老いているがその巨躯は、その種族は強大な力を秘めている。目さえ慣れてしまえば不覚は取らない。

 

 だが、こちらの攻撃も当たらない。動きが見切られているのはこちらも同じこと。

 

「――少し分が悪いかしら」

 

 膠着。しかし時間が経てば経つほど不利になるのは黒女。女の目的は徽章。本来戦う必要はない。しかし彼女には矜持がある。狙った獲物は逃がさない。どこまでも食らいついてその腸を切り裂く。それが彼女の信念。彼女のやり方。

 

 彼女は行動を起こす。

 

「――ごめんなさいね」

 

 彼女が手を出そうとしたのは、――転がっている女の死体。彼女はソレに向かってナイフを投げる。

 

 当然、そんな冒涜をさせるわけにはいかない。

 

「ロム爺!」

 

「む!」

 

 名を呼ばれ、ロム爺は今度こそ反応し、その手に持つこん棒でナイフを防ぐ。ロム爺は数秒、戦闘不能を余儀なくされた。

 

 黒女はその隙を見逃さない。前衛のいなくなった銀髪の少女を狙う。

 

「えいっ!」

 

 ハーフエルフは氷の盾を生成するが。

 

「――愚策ね。自分より疾い相手に視界を塞ぐなんて」

 

 小さなミス。戦闘経験の少なさゆえの失策。黒い影が盾の下を搔い潜って高速で迫る。

 

 少女に狂刃が振るわれる。

 

「さっせっるっかー-ッ!!」

 

「だ、ダメ!」

 

 それをさせまいと少女を庇うは最弱の男。物を投げる以外の攻撃手段を持たず、役に立たない男――ナツキ・スバルにできるのは自分の身を盾にするぐらいしかない。

 

 もうすでに一人の少女が死んでしまった。もう誰も死なせたくない。さきほどは動けなかったけど、今度こそ。死ぬ気で狂刃の前に出る。まったくの無策ではない。その手には脚の折れたテーブル、それを盾にする。

 

「――じゃあ、あなたから」

 

 しかしそれではあまりに心もとない。机は簡単に切り割かれた。次に服が裂けた。次は皮。その先にあるのは筋肉、そして腸。

 

 が、そこで刃が止まる。

 

 黒女の足が凍らされ、それ以上身体が進まなかった。

 

「ダメッ!!」

 

 それをしたのは銀少女。少女だって無策じゃなかった。ちゃんと罠を用意していたのだ。さきほど、不覚をとって彼女に庇われた。知らない女の人が、自身を庇って死んでしまった。もうそんな光景を見たくない。自分なんかを庇って誰かが死ぬなんて耐えられない。

 

 動けない女に向かって、鋭い氷棘が飛ぶ。

 

 それは必中。狂人に避ける術はない。ないはずなのに。黒女は体を翻し、それを避ける。その足からは血が滴っている。そして、よくみればその足がすぐさま再生している。

 

「…再生能力持ち、か」

 

 スバルはそう分析する。

 

「ちょっとあなた!なんて無茶するの!危ないでしょ!?」

 

 横から飛んでくる美少女の罵倒。

 

「ごめん。君が危ないと思って」

 

「私なんかより自分の心配をして。あなた戦う力ないんでしょ?」

 

 その通りだ。しかし。

 

「それと、戦わないことは違う、だろ?」

 

「―――」

 

 それは勇気か、蛮勇か。まだ判断はつかないだろう。

 

「良い反応ね。面倒だわ」

 

 足の調子を確認して女は告げる。

 

「…その戦闘能力に再生能力って、ちょっとチートがすぎるんじゃないか…?」

 

 その声に、その態度に、思わずスバルは悪態をつく。 

 

「ちーと、が何かはわからないけれど、これは私の意思とは無関係だから。私に言われても困ってしまうわ」

 

「ああそーですか」

 

「冷たいわね。――ゾクゾクしちゃう」

 

 早くお腹を開いてあげたくなる、そう言わんばかりの視線。獲物を見る目つき。それは殺意か。それは享楽か。どちらにしろこちらが得られるのは恐怖のみ。

 

 スバルは思考する。周囲を見渡し考える。

 

 今、戦えるのは氷の魔法を使う彼女とこん棒を使うロム爺、彼女の死体を集めて離しているフェルト、そして肉壁しかできない俺。

 

 パックはもう顕現できず、フェルトもおよそ彼女の死に動揺してまともに動くことが出来ない。さきほどまで怒りに任せて斬りつけていたがそれも危なっかしくて仕方がない。ロム爺がそれを庇っているがそれもいつまでもつかわからない。

 

 さきほどまでほんわかと過ごしていた彼女――ベネットの凄惨な死は確かに辛い、しかしここで諦めるわけにはいかない。彼女には悪いが、スバルだって死にたくはない。死に戻りが次も発動するとは限らないし、まだ偽サテラが、あの子が死んでいない。スバルは無敵でも最強でもない、役立たずどころか足手まといだ。今、彼にできるのは、今、彼が動けるのは偏に彼女を助けたいという強い想いがあるからだ。それ以外を気にする余裕はない。

 

 それでも、今生きているフェルト、ロム爺、偽サテラ、みんな生き残りたい。死なせたくない。

 

 だから。

 

「…フェルト」

 

 サテラとロム爺が戦う中、目から血を流し光を写さないベネットの頭部を抱えて泣いているフェルトに声をかける。

 

「―――」

 

 フェルトは反応しない。聞こえてはいるはずだが、きっと彼女は今絶望してしまっている。家族を、家族になれたはずの彼女を失ってしまったから。希望を失ってしまったから。

 

 スバルにはわかる。その絶望が、自分には何もできなかったという無力感が、助けられるだけだった情けなさが、その辛さが。

 

 だから。だけど。

 

「――フェルト。聞いてくれ」

 

「―――」

 

「――お前は逃げろ」

 

「ッ!」

 

 苦汁を噛み締めるフェルト。酷な事を言っているのは分かっている。

 

「――今ならいけるはずだ。俺も手伝う」

 

「ッ!アタシは姉ちゃんの仇を取るんだッ!!逃げて堪るかッ!」

 

 瞳孔は開き、涙は滴る。彼女の感情に反応してか、彼女の周囲には乱風が舞う。歯を食いしばり、苦しんでいるのが分かる。その瞳に写っているのは漆黒の怒り。殺意。

 

 自分の言葉が彼女を怒らせるのは分かっていた。しかしまずは答えてくれなければ始まらない。故にスバルは彼女をわざと怒らせた。

 

「…姉ちゃんを置いてなんかいけない…」

 

 彼女に哀しみよりも怒りで奮起してもらわなければいけない。

 

 彼女にしかできないことがあるのだから。

 

「――ああ。そうだよな。だから、――助けを呼んできてくれ」

 

 あの腸狂いの女を殺すため。仇を取る為。現状を打破する為。

 

「結局逃げろってことじゃねぇか。そんなのただの言い訳だ」

 

「言い訳じゃない。必要な事なんだ。現状あの女を倒すすべはない。あの女の再生能力がどこまで機能するのかわからない以上、あの女を殺すのは難しい。だから必要なのは戦力。二人は戦っていて動けない。俺じゃあ鈍くさくてこの小屋から抜け出せない」

 

――でも、お前なら、天井を指さしてスバルは言う。

 

 お前なら、その身軽さで穴の開いた屋根から抜け出せるはずだ、と。

 

 それは始め、ベネットが突き破って入ってきた穴。扉の前に陣取るあの女から逃げられる唯一の場所。

 

「お前にしかできないんだ。お前だけが仇を取れるんだ。―――だから頼む」

 

 自分だけにできること、それは希望。それは責任。それは己を奮い立たせる勇気。スバルが死に戻りという自分にしかない力でサテラを救いたいと死の恐怖から立ち上がったように。

 

 フェルトにも、その悲しみから立ち上がってほしいと、俺なんかにもできるんだからお前にもできるはずだと、そう信じているのだ。

 

 フェルトはその目を見て。

 

「――わかった。やってやるよ」

 

 フェルトは決断した。

 

「――だから、姉ちゃんのことは頼む」

 

 フェルトは立ち上がった。その瞳は赤。宿すのは憤怒。

 

「ああ、任された」

 

 戦いはここからだ。フェルトが助けを呼ぶまで耐え抜く。手始めは。

 

 

 

 

 

「―――俺の名はナツキスバル!無知蒙昧にして、天下不滅の風来坊!」

 

 名乗りを上げる。道化のようにポーズをとって。

 

「お前みたいな性悪女怖くもなんともねぇ!逃げられると思うなよ」

 

 足が震えながらの無様な名乗り。女を指さしながら。

 

 狂女が見ている。嘘か誠か、十中八九嘘だが、この場にいる以上なにかあると思うのが普通。本人は弱くとも魔法具かなにかあるかもしれないのだから。

 

 あの子が見ている。格好悪いところは見せられない。

 

「――お前を倒す男の名前だ!よく覚えておけ!」

 

 沈黙。静寂。閑静。

 

 動けない四人。

 

 黒女がナイフを握り直しはったりかと動き出そうとしたとき。

 

 ドカン、という音。頭上を通り過ぎる小さな影。

 

「――バーカ!!」

 

 風を纏い、空気抵抗を無くし、一瞬にして穴へと近づく。

 

「あなた!――ッ!」

 

 当然声を出せば瞬時に反応し、黒女は上を向きナイフを投げようとする。空中では身動きが取れない。彼女は避けられない。

 

 しかしそこへ飛んでくる、木片。

 

 投げたのは当然。

 

「引っかかったな!」

 

 その隙にフェルトは悠々と外へ出る。

 

「ッ!」

 

 黒女は慌てて追おうとするが。

 

 その穴は瞬時に氷で塞がれる。

 

「いかせない!」

 

「このッ!――やってくれたわね」

 

 そして再び戦いが始まる。女の敗因は二つ。フェルトは立ち上がれないと見くびったこと。スバルが何もできないと侮ったこと。

 

「フェルトが助けを呼びに行った。逃げた方が良いんじゃないか?」

 

 集中を乱そうと煽るスバル。

 

 実際、助けを呼ばれればもう仕事は失敗だ。

 

 しかし。

 

「――あら、私を逃がしはしないのでしょう?いいわ、全員今すぐ腸を切り割いてあげる」

 

 怒りか。それとも冷静か。真剣に狂気に女は刃を構え言い放つ。

 

「私は『腸狩り』エルザ・グランヒルテ。全員腸を晒しなさい!」

 

 もう油断も手加減も様子見もない。彼女は本気だ。

 

 サテラも気合を入れ直し氷柱を構える。ロム爺も守るべき少女が安全になったため本気を出せる。

 

 スバルもまた気合を入れる。

 

「早く戻ってきてくれよ…フェルト」

 

 生き残る戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピク

 

 

 

 

 

 

 部屋の片隅、カウンターの影で、指が動いた。

 

◆◇◆

 




戦闘シーン?むずすぎませン?

会話量

  • たくさん!
  • 適度に。
  • 少なめがいい…
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