今回、だいぶ変デス。五千。
◆◇◆
「『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」
「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」
その言葉が最後。
次の瞬間には終わりが齎された。
光り輝く剣聖の剣、轟くは龍の咆哮。その一撃は龍すら屠る至高の剣技。狂った殺人鬼が相手ではあまりに役不足、故に彼女には受け止めきれないあり余る衝撃波が周囲を崩壊させる。
砂煙が舞い外野からは結果を覗き見ることはできない。
煙が晴れて見えるのはただ一人の男。絶対強者。国士無双。
彼は無手。彼ほどの剣士であれば剣は選ばなければならない。盗品蔵にあった最低限の手入れしかされていないなまくらでは彼の剣技に耐えられない。否、それどころか無手の方が強い。それなのに彼がそのなまくらを使ったのは手加減する為、殺さぬ為、自らに枷を付けたのだ。
量産型のなまくら、それが相手に相応しいと世界が判断し彼に渡したのだ。『腸狩り』はその程度の相手であると。それは事実。事実のはずだった。
肉片も残らず消滅したエルザ。それも当然だと納得できるだけの威力だった。
故に戦いは終わったと判断し皆が油断していた。
今盗品蔵にいるのは五人。
『剣聖』ラインハルト、偽サテラ、どうやら『剣聖』を警戒しているロム爺、少女の前で手を合わせているフェルト、そして俺。
「こいつらのこと、見逃してやってくれないか?こいつらがいなきゃ俺たち無事じゃすまなかったんだ」
「私からもお願い」
「悪いがそれは騎士としてできない。できないが、今日の僕は非番でね」
一件落着、そういう雰囲気だった。
「ところで、彼女は…」
ラインハルトが気にしているのは倒れ伏している少女。首から先を布で覆われている。
「…あの人は、私を庇って…」
顔を悲しげにゆがめてそう言ったのはエミリア。
それに対し謝罪するラインハルト。
「…そうですか。私が遅れたばかりに、申し訳ございません。」
「…ううん、あなたのせいじゃない。これは私の、せい」
私の責任、そう言うエミリア。
彼女に悲しい顔をしてほしくないスバルだが、こればっかりはどうしようもない。自分には助けられるかもしれない力がある。だが、彼女とは一度会っただけ。悲しむエミリアとフェルト、ロム爺を見て、スバルは迷いに迷っていた。
もう一度戻れる可能性、自殺ではいけないかもしれない、次もまた生き残れるとは限らない。
それでも、自分にしかできないことが、あるのだ。フェルトに決断を強いておいて自分が日和るなんて、そんな格好悪いことできるはずもない。
死にたくない。怖い。嫌だ。胸中に溢れるこの感情に従うべきか、楽な方へ流れるべきか、それとも。
きっとこれは正解のない決断。それでもスバルは選んだ、なぁなぁにするのではなく、決断した。
「…やってやる」
小さく、しかし芯のある声で、宣言した。
それはきっと、無力で、非力で、脆弱な彼にしかできない、勇気ある決断。
勇気とは、弱者に寄り添うもの。弱者にのみ手にすることが出来るもの。
だから。
この誰もが油断していた空間で、唯一動けた。
ドゴォン。
その音と共に瓦礫が吹き飛び、飛び出してくる女。迫り来る凶刃。狙われているのは彼女。
「狙いは、腹ぁぁァア!」
狙いは解っている、しかし彼には盾にできるものがない。
否、盾とは己の身体。彼女を守る盾に己がなるのだ。
例え繰り返すことになろうとも、彼女を助けないという選択肢はない。
死を目前とした刹那の思考。
―――今度は、全員救って見せるッ!
「――ダメッッ!!」
どうして、なんで、また庇われる、自分を庇って誰かが死ぬ。
その事実に、学ばない自分に、何もできない自分に、涙を流す少女。
「――いい勇気ですわ」
声が聞こえた。
次の瞬間には襟を引っ張られる感覚。
『腸狩り』の一振りが空を切る。
そうして影が自分を通り過ぎ、全身をあらわにする。
高価そうな服を血で濡らした黒髪の少女。構えるのは拳。刃を振り切り一瞬の隙が出来ているエルザに一撃をかます。
彼女の拳はエルザの顔面にクリーンヒットし、そのまま地面へと叩きつける。
衝撃、地が割れ、女の顔が破壊される。正直に言ってグロい。
「ふぅ、スッキリしましたわ!」
そう言って彼女――ベネットは、死んだはずの彼女は、まるで何もなかったかの如くこちらに振り返り微笑んだ。
しかし。
「――そう。あなた、――同類ね?」
顔の潰れたエルザはしかし何事もなかったかの如くその場から飛び去る。
奇しくも髪と目の色が同じ二人、そして謎の再生能力。これでまったく繋がりがなかったのだとしたらかなりの運命のいたずらだ。
「あなたと一緒にされるなんてごめんですわ」
平然と会話するベネット。
誰もがついてゆけない、確実に死んでいたはずの少女の帰還に、喜ぶよりも先に困惑が来てしまう。
そして改めて見てわかる彼女とエルザの類似点。敵なはずはないし実際に今助けて貰ったばかりだが、動けない。不理解が思考を停止させる。
それはきっと誰もがそう。
思考の止まった世界で、二人は会話する。
「同類のお腹は割いたことなかったわね」
「だから同類なんかじゃありませんわ。一緒にしないでくださいまし」
「つれないわね。名前を聞いても?」
「わたくしの名はベネット、――冥途の土産に覚えておくとよいですわ」
ラインハルトの一撃でも死ななかった『腸狩り』を仕留める手段でもあるのか。ベネットは言い放つ。
二人だけ時間経過の違う世界で過ごしているのかと錯覚するほど流暢に会話を続けていたエルザは、その言葉に初めて言いよどんだ。
「…ベネット?」
そう疑問の言を発して、まじまじと少女の顔を見た。
呼ばれたベネットもなぜか、動きを止めた。
ここにきての静寂。
「―――。今日は退くとするわ。何故だか傷の治りも遅いし」
そして突然撤退するという。訳が分からない。何がどうなっているのか。
女はそのまま夜の闇に姿を消した。
誰もそれを追うことはない。
ベネットは頭を押さえ、その場に留まっている。ラインハルトは追うことも出来たが、しかし死んでいたはずの少女の方を未だ警戒している。もし彼女が敵になった場合、エミリアの身が危ないからだ。騎士として危険人物を前に彼らを放って彼女を追うことはできない。
その意思を示すように、ラインハルトは少女に問う。
「…君は、いったい何者だ?」
「…私は…お姉ちゃん、みんなの、お姉ちゃんですの」
うわ言か、意識の混濁でもあるのか。
自らを皆の姉であると告げる少女。
「…私が、助けないと。私は、みんなの、お姉ちゃんなんだか、らっ…」
その言葉を最後に彼女は倒れた。もう訳が分からない。
とんでもない威力のパンチを繰り出し、治療魔法を使い、死んでいたはずなのに生き返って、かと思えば要領を得ない言葉を呟いて倒れた。意味が分からないし、怪しすぎる。
だが、おそらく彼女は敵ではない。
それをラインハルトも理解したのだろう。警戒を解いた。
◆◇◆
「スバル、大丈夫かい?」
「無茶しないでって言ったでしょッ!!なんで私なんかを助けようとするのよ。また、また私のせいで、人が死んじゃうじゃないかって…わたし…」
本気で涙を流す彼女に流石に罪悪感を感じるスバル。
「…ごめん。体が勝手に動いちゃったとしか言いようがない、かな。でも多分、何度繰り返しても、俺は君を庇うと思う。そういう性分なんだって、納得してくれると助かる」
「…そんなの、お人好し過ぎるわよ」
君が言うか。
「君にだけは言われたくないかな」
「む、わたしそんなにお人好しじゃないわ。見ず知らずの人の為に命を張るなんて、そんなの、そんなことわたしにはできない…」
「いーや、違うね。俺は弱いから、体張るぐらいでしか人を助けられないけど、君は違うだろ。すげー魔法で、俺たちを守ってくれたじゃねぇか。俺は見ず知らずの他人だったし、フェルトもロム爺も君の徽章を盗んだ悪者だってのに、助けてくれたろ?それってすっげーお人好しだぜ。悪者まで守っちゃうなんて俺にはできない事だ。本当にすげーと思う」
「…ばか。」
「今の超可愛い。もっかい言ってくんない?」
「ふふ、嫌です。――ありがとう。私を助けてくれて」
「――どう、いたしまして。どういたしましてついでに、御礼なんか期待させてもらってもよろしいですか?」
「ええ、何でも言って。私すごーく感謝してるもの」
「何でもだなんて、きょうび言っちゃいけない言葉だぜ。でもじゃあお言葉に甘えて」
「俺の名はナツキスバル。それで、君の名前を教えて欲しい」
「――変な人。エミリア、ただのエミリアよ」
助けてくれてありがとう、スバル、そう言ってまたお礼を言ってくれる、己の名を呼んでくれる。それは命を張った対価には安いだろうか。割に合わないだろうか。否、その言葉こそ今スバルが一番言って欲しかった言葉。一番望んでいた言葉。故にナツキスバルは報われた。
何が何だかわからないが、ベネットも生きていた。死に戻る必要はなくなった。あとは、寝るところと働くところと色々探さないといけない。あれ、もしかしてこれからが本番?恥を忍んでエミリアに頼るしかないだろうか。このままでは野垂れ死ぬ気がする。
「――ちょっと!急にどうしたのよ!」
突然、あの子の声が聞こえた。徽章の返還をしていたはずだが。
「離せよッ!」
「これは、こんなことが…」
見えるのはフェルトの腕を掴むラインハルト、止めるエミリア、抵抗するフェルト、そしてその手に光る徽章。
「この子の身柄はこちらで預かります」
「『剣聖』とやら、それはどういう了見じゃ。勝手が過ぎるのではないか?」
静かに怒りを見せるのはロム爺。当然だろう。孫娘のような、いや孫娘が連れて行かれそうになっているのだから。
ロム爺は静かにぼろぼろのこん棒を構える。
「――申し訳ありませんが、まだ説明することはできません。受け入れてください」
心ここにあらずと言った風に抵抗するフェルトを気絶させたラインハルト。
「わしの孫娘をどうするつもりじゃッ!!」
それを見て怒りのままに、その巨躯を活かしてクロムウェルは武器を振るう。それは大質量を高速でぶつけるシンプルにして最強の一撃。
が、その程度の最強は『剣聖』には届かない。
「おいおい…」
そう溢すのはスバル。何も見えなかった。武器を振りかざした瞬間、ロム爺は動きを停止してその場に崩れ落ちた。
突然始まった。剣呑な空気。動けない。ラインハルトの放つ荘厳な気配が、そのオーラが抵抗を禁じさせる。
しかし、
「ラインハルト、説明して」
彼に空気中のマナを持っていかれ魔法を使えないエミリアだが、力がなくたってこの状況は無視できないのだろう。説明を強く要求する。
「申し訳ありませんが、これは極秘事項故御身にも説明することは叶いません」
「あなたねッそんなの納得できるわけないじゃないッ」
「申し訳ありません。私はこれを報告しなければなりませんので」
そう言ってエミリアしら無視して飛び去ろうとするラインハルト。
混乱がスバルの脳を埋め尽くす。スバルの身体はもう限界だ。もう一つ何かあれば気を失ってしまいそうなほどに、この濃い一日に脳も肉体も酷使してしまったのだから。
フェルトが誘拐されるところを見ているしかない。
三度、少女は立ち上がる。
「非才なる我が身にて大望を抱くは愚かの証明、被災なる我が身にて希望を求めるは勇気の証。己が不才を顧みず堕落するは当然の宿命、己が負債を払わずして望みを叶えるは咎人の定め。其に背くは愛に報いる為、脆弱にして惰弱、情弱にして柔弱な我が身を御赦し下さい」
その衝撃を最後に、スバルは困憊し意識をやった。
「無才の戒権、経典漆桶・黒棺」
その言葉と共に、ラインハルトを襲うのは超重力の檻。己から妹を奪わんとする簒奪者を逃がさぬ為の牢獄。否、これはその不届き者を死ぬまで逃がさない漆黒の棺桶。
これは魔法でも物理でもなく戒権。世界の理。唯一ラインハルトに通用する攻撃。
飛び去ろうとしたラインハルトを包む黒い重力場。
しかしどうやらその腕に抱かれているフェルトにはその負荷がかかっていないようだ。
そんな不可思議な光景を見ているしかないのはエミリア。
「私の妹を、――返せッ!」
意識があるのか。壮絶な自我を込めて言い放つベネット。
その手は尋常じゃない程に痙攣している。それは戒権の副作用などではない。
それが並の『剣聖』であったなら、ともすれば可能だったかもしれない。
それがラインハルトでなければ、もしかしたら取り返せたかもしれない。
だが、彼は『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアである。
たかが重力では、彼の歩みは止められない。
彼が地面を踏みしめれば衝撃波が伝い、戒権を使用していたベネットを吹き飛ばす。重力場は簡単に解かれた。
「これは僕の不徳。君の妹を連れていくことをどうか許して欲しい。悪いようにはしないと、この剣に誓おう」
「信じられるわけない、でしょうが。この、くそ野郎、が…ッ」
「それなら仕方がない。君の誹りを甘んじて受け入れよう」
その言葉と共にベネットは三度、気を失う。
無念。絶望。失念。
また、彼女は妹を救えなかった。
◆◇◆
なんか色々と変ですガ、まァそういうものだと思ってくださイ。人数が多いと書きにくいのデス。みんな気絶してばっかリ。
ラインハルトおかしくないっテ?まァ、子女誘拐してますからネ。実際。
黒棺に関してはごめんなさい。ブリーチ読んでないデス。色々考えていたらいい感じの技名がこれしかなかったので使わせてもらいましタ。
会話量
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たくさん!
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適度に。
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少なめがいい…