ケロイド   作:石花漱一

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三十三、三回目の選抜レース⑤

 タキオンが二時間目の休みにまた戻ってきた。エスは来ない。田上は、また同じようにしてもたれかかってくるタキオンの重さを、少し重く感じていた。どうやらタキオンにもそれは伝わっていたようで、少しするとタキオンが田上の耳元でこう言った。

「私のさっきの言葉は悪かったかい?」

「…全然」

「……私の事を嫌いになった?」

「…そんな事はない」

「…悪いことしただろ?」

「…全然大丈夫」

「…強がるなよ。…私には分かる…」

「…仕方のない事だった」

「…そう。…間違ってあの子が君に惚れると困る」

「…俺に惚れる奴なんてそうそういないよ…」

「私が惚れた。…という事は、他の人でもそうなることはある…」

「…もう少し柔らかい言い方はなかったのか?」

「……誤解されると困る。…伝えるべきところは、はっきりと伝えなければいけない…」

「…俺の仕事がなくなるよ…」

「…私としては万歳だ…」

「…そのために?」

「そうじゃない。……ごめん。…許してくれ…。…悪かった…」

「…最初からお前を責めてなんていない。…ただ、…お前ももうちょっと安心していいよ。…そういう事忘れて、ここに居ていいよ…」

「…優しいね…」

「…」

「…他の女にこういう事するなよ…?」

「しないよ」

「…私には付き合ってない頃からしてた…。君は常に私に対して優しかった」

「…もし俺に惚れる人がいるとしても、俺はお前が好きなんだから絶対に振る…」

「…好き…」

「……この返答でも、他の子を牽制したくなるか?」

「……君と私の恋路だもの…。…誰かに介入されると困る…」

「……エスさんとの折り合いはつかなさそうか?」

「……トレーニングの時は目を瞑る。…でも、それ以外はダメだ。…ここだけは譲れない」

「…俺もプライベートで、お前以外と遊ぼうなんてことは思わないよ…」

「…うん」

「……でも、…お前は、…トレーニングの時でも睨みを利かせるんじゃないか?」

「……ん?」

「……例えば、俺とエスさんが喋ってる時でも駄目なんだろ?」

「……」

「…」

「…私以外と仲良くしてほしくない…」

「…仕事の関係だよ」

「…君はそういう人間じゃない。仕事の為に仲良くなろうとする…」

「………そういう仕事だからな…」

「…もっと淡白にやってる人も居る…」

「…どうせなら楽しい方が良くないか?」

「……私が居るんだから、どうせ上手く行きっこない」

「……大丈夫。…案外、タキオンでも折り合いの良い人が見つかるかもしれない…」

「…楽観主義…」

「言う程じゃないよ…」と田上は微かな笑みを浮かべながら言った。

 話はそれ以降続かずに、休み時間が終わっていった。それからの休み時間もなあなあに終っていった。タキオンは、田上に力なくもたれかかっていたし、田上は、休み時間中ずっとそれを抱いていた。時には話をしたりもしたが、エスの処遇について明確な答えが出るはずもなく、田上が諦めてからは、特に、エスの事が話題に上る事はなかった。

 

 放課後になって、田上とタキオンはトレーニングに赴いた。タキオンは今日は休みだ。だから、制服のままに田上の隣を歩いてトレーニング場に行った。田上とタキオンが着いたすぐ後にリリックが来て、次いで軽装のマテリアルが現れた。ただ、エスは来なかった。そこで田上は――やっぱり、駄目だったのかな、と悲観的になったが、いつまでもエスの事を待っているわけにもいかないので、皆はトレーニングを始めることにした。

 タキオンは、田上に「エスさんが来たら連れてきてくれないか?」と言われたので、道際の土手に座って一人で待っていた。タキオンも、田上にそう頼まれたら断る術を持っていなかったので、じっとエスの事を待つ他なかった。

 その数分後にエスは道の向こうからやって来た。体操服姿の女の子がきょろきょろとしながらトレーニング場を見回しているので、タキオンはエスだと思って、「おい、君」と覇気のない声で呼んだ。すると、エスはすぐにタキオンの方を向いて、「あ、タキオンさん」と言った。この声の調子では、あの休み時間の事は根に持ってはいなさそうだった。

 タキオンは、この子に何て言ってやろうと迷った挙句、トレーニング場の方を指差すと「あそこに圭一君が居る」と言った。エスは、暫く首を伸ばしたり縮めたりしてトレーニング場の方を探していたが、やがて、「ああ、あそこですね」と言った。そして、次の自分の行動に迷った。果たしてこのままタキオンを置いて行っても良いのか、それとも、ここでタキオンと一緒にトレーニングを見学すればいいのか。そうして迷っていると、タキオンもそれに気が付いて「圭一君が来てくれだって」と付け加えた。

 エスは、あんまり機嫌のよくなさそうなタキオンを訝しげに見つめながらも、その脇にある階段を使って、下に降りて行こうとした。その途中で、タキオンがまた声をかけてきた。

「ちょっと待ってくれ」

「…はい」

 そして、タキオンが手招きをしたので、エスはタキオンと同じくらいの高さまで階段を戻って、そして、目線が合うように少し屈んだ。タキオンは、エスの事をチラリと見やりながら言った。

「朝の事は怒っているかい?」

「朝の事?」

 どうやら本当に根に持っていなさそうである。タキオンは、またもやこの後に何を言ってやろうか迷ったが、迷いつつもこう言った。

「圭一君は私の彼氏って事だ」

「…ああ、全然大丈夫ですよ。私も、人の彼氏を奪う程飢えてはいませんし、まぁ、…トレーナーと付き合うってのもあんまりよく分かっていません」

「……まぁ、怒ってないならいいが、私にも謝る義務がある。すまなかった。…圭一君があの言葉を気にしていてね…。…まぁ、あの人も結果を残したいようだから、あんまり邪険に扱わないようにしてやってくれないか?……チームに入ってくれるのなら御の字だ」   

「へぇ……。…まぁ、まだどうするか悩み中です。あんまり期待しないでおいてください」

「彼にもそう言っておくよ」

 そう言うと話は終わり、エスは階段を下りて田上の方に小走りで行った。タキオンも土手に座りながらそれを見ていると、あの場に自分も立たなければいけないような気がしてきたから、よっこらしょと立ち上がると、のろのろと田上の方に歩いて行った。

 

 タキオンは、マテリアルとエスの横に並んで、遠くを走っているリリックをじっと見つめながら突っ立っている田上の横につくと、その腕にそっと自分の腕を絡ませた。すると、田上も横のタキオンに気が付いて「ああ、なんだ。タキオンか」と言った。タキオンは何も答えずに、ただ絡ませている彼の腕と触れている彼の体を感じて、田上が自分の彼氏だという事を改めて嬉しく思った。一生このままだと良いな、と思った。

 二人は特に会話を挟まずにこっちに走ってきては、向こうの方に行き、走ってきては向こうに行くリリックを見つめた。それから、休憩が挟まってリリックが戻ってきた。戻ってくると、リリックは、知らない女の人が一人増えている事に気が付いて、戸惑うように田上の顔を見たから、田上はこう言った。

「ああ、リリーさん、紹介するよ。スカウトしたんだけどまだ悩んでいるそうで、とりあえず見学に来てくれたエスさん」

 そして、エスの方を向くと、また田上は言った。

「エスさんも、こっちはリリーさん。名前は、ファーストリリックさんだけど、…渾名で呼んでるね」

 最後はリリックの方に顔を向けて言われたので、リリックはタオルで顔の側面の汗を拭きながらコクコクと頷いた。そして、エスの方がリリックの方を向くと言った。

「へー、良い渾名ですね」

「…はい、全然良いと思います」とリリックは多少慌てながらそう頷いた。

「……リリーさんに質問とかしても良いですか?」とエスは田上の方を見ながら言った。田上は、「リリーさんが落ち着くまでとりあえず待つのと、リリーさんが良いんだったら」と答えた。それで、リリックは皆に見つめられながらも平静を取り戻しつつ、「ちょっと…少し待っていただけたら」と頷いて、自分の汗を拭いていた。

 田上は、皆がリリックが落ち着くのを待っている間に、タキオンの方に話しかけた。

「お前、リリーさんのトレーニング見てて何か思う事はなかったか?」

「…良い子だったね」

「…良い子には間違いない。…そうじゃなくて…、なにか…他には?」

「…他?…一生懸命だなぁ、と思ったよ」

「…羨ましい?」

 田上は優しく聞いた。

「羨ましい?」とタキオンは繰り返した。「……羨ましくはないが…、まぁ、…羨ましいのかもしれないね…」

「…そんなお前も好きだよ」

「…どうしたんだい急に?」とタキオンは、喜びを抑えられない微笑みを浮かべながらも、怪訝な顔をして聞いた。

「…ちょっと最近お前を追い詰めすぎたと思って…。…ごめんな…」

「…謝るな。…私はそれを望んでるんだ」

「…追い詰められるのを?」

「違う。……君が私で試行錯誤してくれるのを。それで私が苦しむんだったら、私はそれが本望だ」

「でも、やっぱりお前が苦しむのは嫌だよ」

「……苦しませてやってくれ。私はそれが良いんだ」

「…?」

 田上は疑問を持った目つきでタキオンを見つめたが、タキオンも何も答える気もなく彼氏の目を見つめ返し続けた。だから、田上がこう口を開いた。

「苦しみたいのか?」

「…そうじゃない。…君なんてあんまり私の事を見てくれないもんだから…」

「……」

「……ここで謝られても困る。…出来れば私に君の思いの丈をぶつけてほしいから、こうして試行錯誤してほしいんだよ。これで委縮してほしくない」

「……お前は、…これを聞かれるのも嫌かもしれないけど、…俺と…付き合ってて楽しいんだよな?」

「楽しい事に間違いは無い。君と居る事に喜びもある。確実にそれは間違いようがない。アパートなんてほとんど同居の様なもんだから楽しみで楽しみで仕方がない」

「…いや、分かってた…。嫌なこと聞いたな…」

「何でも聞いてくれ。何でも試してくれ。私は、君の事好きなんだから…」

「分かってる。…分かってる。…やなこと聞いた…」

「………私も…少し自分を縛っている節があるかもしれない」

「うん」と田上は真剣な顔で、話を切り出したタキオンの事を見つめながら頷いた。

「……君との生活を営む上で我慢は必要だろ?」

「…あんまり我慢してもらっても…」

「まぁ、話は最後までだ。……ただ、…少し思うんだよ…」

「うん」

「……君との生活で縛られるのも心地いいかもしれないって」

「うん」

「……だから、あんまり気にしないでくれ」

「……そんな事言う人だったか?」

「…以前はそうじゃなかったかもしれないね」

 田上は少しばかり難しそうに眉を寄せながら、タキオンの顔を見つめていたが、やがて、手や足や胸や体中のどこそこに、今にも爆発しそうなむずむずとする感覚が訪れてどうしようもなくなった。それで、手を握ったり開いたりして発散させながらタキオンに言った。

「また、ゴールデンウィークの時みたいな二人きりで安心してゴロゴロできる場所に行きたい」

「私もだよ…」

「…お前は良い奴だよ。良い人だよ。…だから、ぎゅっと抱き締めてやりたくなる」

「君にしては珍しい殺し文句だね…」

「俺の思ってる事だよ。お前をたくさん労ってあげたい。頑張ってる分たくさんたくさん労ってあげたい」

「引っ越した暁にはそうできる機会が訪れるね…」

「…本当に辛かったら俺に言え。いつでも俺を頼ってくれ。俺はお前の味方でありたい」

「分かってるよ」

 田上とタキオンの会話はそうやって終わっていった。

 

 エスとリリックは、田上とタキオンが話している裏の方で話していた。エスは、リリックに「トレーニングは楽しい?」と聞いていた。リリックは、大分落ち着いた呼吸の中で「はい」とコクコクと頷きながら返事をした。

「なんかタキオンさんが…、田上トレーナーと付き合ってるから…こう…そこら辺の関係でぎくしゃくなるかもしれないって聞いたんだけど、その辺はリリーさんから見てどう?」

「んー…、私は大丈夫ですね。…今の所は、…私、マテリアルさんに主に指導を受けているからそうかもしれませんが」

「へぇ、マテリアルさん…」

 エスはそう言いながらマテリアルの顔を見た。実の所、エスはまだマテリアルの名前を知らなかったのである。だから、この美人な補佐の人がマテリアルさんと言うのだろうか?と思ってマテリアルの顔を見た。そして、マテリアルもその事にすぐに気が付いて自分を指差すと言った。

「はい!私がマテリアルです!そう言えば、私だけ紹介されていませんでしたね。田上トレーナーのおバカが忘れてましたね」

「…え、…マテリアルさんは補佐ですよね?」

「…ええ」

「…トレーナーの悪口を言ってもいいんですか?」

「田上トレーナーはそんな些細な事なんて気にしませんもん。 まぁ、言ってもおバカくらいですよ。本気で悪口言っちゃいけませんけど、軽口くらいなら存分に叩いてやってください。子供の冗談に本気で怒るような人じゃないですよ」

「うん。そのくらいのほうが良いです」

 それから、また話を質問の方に戻すと、エスは二人にこう聞いた。

「マテリアルさんから主に指導を受けているってどういうことですか?」

「…まぁ、二人ぐらいなら、本来は田上トレーナー一人でも指導できるんですがね?私がこのチームに転がり込んできたので、一人請け負わせてもらってるって感じです。多分、…リリーちゃん、田上トレーナーから直接指導を受けたいとかある?」

「んー、…まぁ、別に良いです」

「うん。…なら、…エスさんがもし入ってくるのだとしたら、…タキオンさんとの折り合い次第で、私が指導するか、田上トレーナーが直接指導するか変わると思います」

「……やっぱり田上トレーナーって凄い人なんですか?」

「…まぁ、…まぁ、ですよ。まぁ、タキオンさんが凄すぎて田上トレーナーもすごいように見えます。…いや、まぁ、タキオンさんを指導しただけでも凄いとは思いますね。…それに、指導方針もそれほど悪い物じゃないと思いますし、タキオンさんにGⅠ三勝もさせてるんですから凄いもんです。…それに、まぁ、ああ見えて温厚な部類でもありますから、人当たりは良いとは思いますよ」

「そうですか…。…えー、このチーム楽しそうですねぇ」

「入りたいなら入っても良いですよ」

 マテリアルが微笑みながら言った。

「えー、マテリアルさんもお綺麗だし、タキオンさんも悪い人ではなさそうだし…」

「へー、タキオンさんは平気そうなんですか?」

「まぁ、…さっき、ここに来る途中で、タキオンさんに、この田上トレーナーたちが居る場所を教えてもらったんですけど、話してみた感じは良さそうでしたね。朝は、少し機嫌が悪そうでしたけど、…まぁ、なんか…田上トレーナーも優しそうだし、マテリアルさんも優しそうなので、私には合っているのかな?って」

 エスがそう言うと、マテリアルは少し黙った後にこう言った。

「あんまり脅すつもりはありませんけどね。…想像以上にあの二人は厄介だったりしますよ」

「田上トレーナーとタキオンさんですか?」

「タキオンさんもまぁ、田上トレーナーの為に、エスさんに人当たりを良くしようとしたのかもしれませんが、まぁ、中々の…田上トレーナーにベタ惚れですね。最近はしてませんけど、前は結構色んな所でキスをしてました。トレーナー室なんて私しかいないので、ホント毎秒キスしてましたよ。冗談じゃありませんよ?本当にキス魔でしたから」

「…えー…、今もなんですか?」

「いや、なんかここ最近は落ち着きましたけどね。…まぁ、それでもエスさんが入ってきたときもそうだったみたいに、結構いちゃついたりしてます。あの二人の傍に居ればしょっちゅう好き好き言い合っているのが聞こえますよ。耳を澄ましてごらんなさい。今も多分、そんな事を言いますよ」

 それで、三人揃って、二人で向かい合って話している田上とタキオンの話に耳を傾けていると、タキオンの「私は、君の事が好きなんだから」が聞こえた。これにはエスも堪らず吹き出してしまったが、田上とタキオンは構わずに二人で話し続けていた。

 エスは、一生懸命クスクス笑いながらこう言った。

「ふふふふふ。本当に言ってましたね」

「そうなんですよ。こんな風にトレーナー室に居るだけで聞こえてくると、うんざりしてくることもありますよ」

「ふーん。…まぁ、…どうでしょうね?私は、タキオンさんみたいな距離をトレーナーに求めていないので、まぁ、そんな具合でいい感じはありますね」

「エスさんが良いんならそれで良いんです」

 マテリアルは微笑みながらそう言った。もうすでにエスはこのチームに打ち解けていたも同然のようだった。マテリアルとリリックと今こうして笑い合っているし、タキオンからは入ってほしいと頼まれた。いやはや、本当にこのチームは良いかもしれないと思い始めていたエスだった。

 

 田上とタキオンの話も終わり、他の三人の話も終わると、リリックはまたトレーニングに戻っていった。エスは、その様子を見ながら、同じようにして走る自分の姿を重ねた。すると、――走りたいなぁ、という気持ちになって少しそわそわした。タキオンは、特にそんな気も起こさずに、ずっと田上の横で腕を絡ませて、時折その田上と会話をしていた。走っている時より、こうしている方が楽しそうではあった。

 そうしてトレーニングは終わっていった。リリックは終わりの挨拶をして帰り、マテリアルも帰ろうとしたが、そこでエスが「少し走っても良いですか」と田上に言った。田上は、当然、これからタキオンといつものベンチに向かおうかと準備していたから、急にそんな事を言われると戸惑ってタキオンの方を見た。

 田上は、エスが走るのを自分が見ていた方が良いのかと思い、そして、その為にタキオンが二人きりの時間を奪われるのを嫌になるんじゃないかと思った。エスは、特に理由もなく、田上がトレーナーとして、自分の事を見ていてくれるのではないかと思って、そう言った。二人共そういう雰囲気だったが、問うように見つめられたタキオンは戸惑いながら「一人で走るんだろ?」と聞いた。そこで、エスも田上も初めてその考えに至った。それで、田上がエスに「どうします?」と問うと、エスは自分の本来の目的が見失われたような気がして、がっかりしつつも「一人ででも構わないです」と言った。

 これで、田上はここに居る理由はないのだから、タキオンも、当然、田上は二人でいつものベンチに行ってくれるものだと思っていたのだが、田上が「どうしようか?」というような目付きでタキオンを見てきたから、少しむっとした。だから、タキオンは少し圧をかけるような調子で「どうするんだい?」と聞いた。エスは、まだ走りには行かず、目の前の二人の会話を見つめていた。

 田上は少しの間タキオンの顔を見つめた後、「少しだけ良い?」と聞いた。

「少しってどのくらい?」

「…あんまり状況は変わらないよ。二人で土手でエスさんのを見ておくだけ」

「……何分?」

 タキオンがそう聞くと、田上はエスの方を向いて聞いた。

「何分くらい走りたい?」

「…そんなに長くはないと思います。…まぁ、…少し走れば満足すると思います」

「じゃあ、」と田上はタキオンの顔を見ながら言った。

「じゃあ、俺たちも土手の方に座って見てていいかな?」

「……少しだけだよ?」

 タキオンは渋々ではあるが認めた。そして、二人は土手の方に行き、マテリアルはそのまま帰り、エスはトレーニング場をぐるぐると走り出した。向こう側からこちら側に走ってくると、偶に手を振ってきた。田上はエスに手を振り返しこそしなかったが、タキオンはエスに手を振られるだけでも嫌そうな顔をした。そして、やがて田上の横に寝っ転がると、その体に自分の体を擦り寄せながらこう言った。

「私の事好きだろ?…」

「…ん?好きだよ?嫌いなわけないだろ?」

「……エス君は少々君に馴れ馴れしすぎやしないかい?……私が牽制をかけた意味がなくなったような気がする…」

「…お前がエスさんに頼んだんだろ?」

 タキオンとエスの土手での話は、トレーニングの最中にエスから田上に話された。

「……頼んだには頼んだが…、…もしエス君がチームに入ってくるとなるとどうするんだい?リリー君の時の様にマテリアル君に譲らないのかい?」

「……できるだけ、…マテリアルさんに負担をかけすぎるのも悪いから、俺が指導したいと思っているんだけどな…」

「……じゃあ、休憩の時に君にハグはできないのかい?」

「…できない事はないよ。そりゃあ、色々話したりするけど、エスさんだっていつまでも俺と話してたいわけじゃないだろうから、普通にハグできる瞬間はあると思うよ」

「……君って人に懐かれやすい性格してるんだろうね…。雰囲気こそ少し近寄り難いかもしれないが、話してみれば人当たりは良いからな…」

「…そうかな」

「…そう。……私だけを見てくれないかなぁ…」

「今も見てるよ」

 田上は、体を田上の方に向けて、寝転がっているタキオンの顔に掛かっている髪の毛をそっと掬いながらそう言った。タキオンは、自分の彼氏の指先の温かみに、少しの嬉しさを覚えながら、笑みを浮かべて言った。

「…もっと見て。…こう言っても、君に社会生活があるのは分かっているけどね…」

「……タキオンにも社会生活があるよ。その内、ひょっとした拍子にタキオンに男友達ができて、俺の方が嫉妬し始めるかもしれない」

「…嫉妬か…。良い案だね…。…そうしたら君も私の事だけを見続けてくれるかもしれない」

「……その為に浮気とか本当にやめてくれよ?」

「それはしない。…でも、…君からももっと…我武者羅に私の事を求めてほしいもんだね…」

「我武者羅に?」

「…そう。君の心は私の方に向いていないじゃないか…」

「……そう感じてるの?」

「…半分は冗談だ。私の事を想ってくれているのは十分に伝わっているけど、…私はそれだけじゃ足りないんだ…。私が君を愛するのと同じくらい、君も私の事を考えて、愛して、好きって言ってくれ…」

「……好きだよ」

「……君もトレセンの職員だし、私もまだ高校を卒業してない身だから、君も私と一定の距離を置かないといけないのは分かるけどね…」

「……でも、…一線は必要だ…」

「…私が卒業して、果たしてそれを取り除けるかな…」

「取り除くよ」

「…そうしてくれるとありがたい」

 タキオンはそう言ってから、体を動かして、仰向けになると、ふぅーーと長いため息を吐いた。トレーニングが楽しそうでないと言っても、アスリートらしい肺活量をふんだんに使った長い長いため息だった。これは、タキオンがわざわざ肺一杯に空気を溜めて、田上に見せびらかすように長く長くやったようだった。田上はそんなタキオンの事を微笑みながら見つめて、「相変わらず凄いな」と言った。タキオンは、少し得意げになりながらも、すぐに、それはうっすらと表情の中へ消えて行って、代わりにこう言った。

「…ここで、あの時の様に君に無理矢理キスしたら、…君は怒るだろうか?」

「……怒るかもね…」

「試してみたい気持ちがある」

「…どうせ怒らないよ…」

「……そうだろうねぇ…。……君を散々振り回した女をまだ愛してくれているんだもの」

「……」

「…本当にキスしてみてもいいかい?…あの頃から一か月経ったかな?」

「…どうかな…」

「…私たちがあの頃から一歩や二歩進んだか試してみるかい?」

「……試したきゃいいよ」

 タキオンは、暫く、寝転がったまま、顔を少し浮かせて田上の顔を見つめていたが、やがて、力なく頭を草地の上に置くと、諦めたように言った。

「…やっぱりいいよ。……今、起き上がろうにも力が入らない。…鬱だ。…君に介護してもらわなきゃ生活ができない」

「……二人共、…心に思う所があるっていうのが苦しい所だよな…」

「…ん?」

「…俺は、お前に酷い言葉を浴びせたり、はね退けようとしたり…。逆に、お前は俺の首を締めようとしたもんな…」

「あんまり思い出させないでくれ…。…考えるだけでも辛い」

「幾ら簡単な恋?…恋愛じゃないと言っても、ここまで難しくなくても良かったと思うのにな…」

「…神様も意地悪だ。居るんなら、叩いたり蹴ったりしてやりたいよ。なぜ、もっと簡単にしなかった…」

「……でも、…まぁ、そのおかげで、今こうして、二人でトレーニング場の片隅でゆっくりと喋っている状況があると思うと、中々今の状況も捨てられないな…」

「……やっぱりキスしてもいいかな?」

「…やりたきゃお好きなように」

「……やっぱりやめた。…君も嫌がるだろうし、まだあんまり起き上がる気力もないよ…」

「…偶には、また違った環境で話すのも良いな…。ここ最近、あのベンチも飽きてる感じなかったか?」

「私はまだあそこに行ってもいいよ?」

「…俺も別に全然二人で居れるからいいけど、…少しマンネリ気味じゃなかった?」

「…まぁ、…あそこに行っても君とずっと話してるか、黙って抱き合ってるか、キスしてるか、風景を見ておくしかなかったからね…」

「そう。ここは、人の声がするから少し…この…流動的?な感じがあって良い。…言いたい事伝わった?」

「うん。十分に伝わった。…あれだろ?人の声が毎回同じ物じゃないから変化があって楽しいって言いたいんだろ?」

「そう。…まぁ、でも、ここもずっとずっと居たらその内マンネリ気味になってくるんだろうけどね」

「…アパートもマンネリになるかな?」とタキオンが空を見ながら静かに言った。

「まぁ、するだろうけど、言ってしまえばこれからあそこが俺たちの拠点になるわけだから。今まではあの貧相なベンチが俺たちの拠点だったけど。…だから、色んな事をしよう?あの部屋を拠点にして、散歩したり、買い物行ったり、映画館に行ったり、冬になれば鍋ができる」

「…気が早いね…」

 タキオンが、少し口角を上げながらそう言った。

「気が早いんだったらお前も負けてないだろ?…なら、夏合宿に行く前には二人で、家で何か作ろう。…何があるかな?…夏の料理と言ったら…」

「冷やし中華かな?」

「冷やし中華ぁ?…冬の鍋に匹敵する夏の料理だよ?…冷やし中華じゃ少し力不足なんじゃないか?」

「うーん…、やっぱり、暑い夏に熱いインスタントラーメンを啜るのがいいんじゃないか?夏に静岡の方に帰省に行った時なんかに、こう…部屋の明かりも点けずに外から差してくる明るい陽の光を頼りにずるずるとラーメンを啜っている音とテレビの音、蝉の声、通りを行く車の音が聞こえてきたら、私は少し趣を感じてたね」

「…分からなくもないけど、…こう…いや、普通に二人でインスタントラーメンを食べる機会はあると思う。あると思うからこそ、ない夏の料理を何かよっこらせとやってみたくないか?」

「……夏野菜を使ったものなんかよりかは、そっちのほうが良いんじゃないか?…夏の料理と言ったら夏野菜を使うだろ?…まぁ、夏と言ったら冷やし中華が良いとこだよ。私には、ハムを多めで入れてくれると助かる」

「んーー、…そのくらいしかないのかなぁ?」

「そんなもんだよ」

 タキオンがそう言ってからも暫く田上は、何かあると思ってうーんうーんと悩んでいたが、やがて、「あ!」と言ってタキオンの方を見た。

「バーベキューだ!」

「バーベキュー?家で?」

「いや、家はいいや。バーベキューしよう。夏と言ったらこれだ。それで、バーベキューが終わったら、手持ち花火で遊べる。遊べる公園で、二人でバーベキューする?バーベキューだったら他にも人が居たほうが楽しいかな?」

「…どうだろうね…」

「…カフェさんの所と一緒にやっても良いかもしれないね」

「カフェはいいよ。多分、私に対して殺気立ってるよ。私を倒そうと躍起になってるんだから」

「そうかな?」

「そうだよ。根に持ってるんだから。少なくとも、私に勝たないと収まらないよ」

「いや、…でも、…いや、宝塚記念はお前が勝つか…」

「ん?」

「いや、…いや?いつにやるのが正解だ?宝塚記念の後かなぁって思ってたけど、バーベキューだったら、むしろ夏合宿の時の方がやりやすいような気がする」

「…確か、あそこの近くの海岸は花火やったり、バーベキューしてる人たちがいたね」

「あの中にトレセン学園の職員が混ざってやってたりするのもあるし、生徒の方もそれ相応のイベント事に対して申請すればちゃんと行ける」

「……あっちに行った時には、夏祭りの花火の音が聞こえてたなぁ…」

「夏祭りも二人で行くか?」

「……去年は、甘い物でも食べに行こうかと思って、思ったっきり行かずじまいになってしまっていたからね…」

「まだ、足が治ってない頃だったもんな…」

「あの頃は…、どうだったかな…。夏祭りの前後だったかな?……いや、…確か夏祭りの直前に私の脳みそに考えが降ってきたからそれをまとめ上げていたんだった。だから、夏祭りには行き損ねてたんだ」

「そうか…。そんな話だったな…。俺に少しくらいは話してくれても良かったんじゃないか?」

「……だから、菊花賞の直後に話した」

「…菊花賞以前に…」

「…菊花賞以前は少し面倒だったもの。特に、私は君に弱い。無論、話してしまえば君は私の支えになってくれただろうがね…」

「…今年は夏祭りに行けるな…」

「……どうかな…。今はもう何もかもやる気が起きない…。私にキスして超高速のプリンセスを目覚めさせてくれ…」

 タキオンはそう言って、一通り困っている田上の顔を見つめると、自分の左手を上げて、少し微笑みながら言った。

「そう言うと君は困るだろうから、手で許しておこう。さあ」

 手ならいいか、と田上は、タキオンの左手を取るとその手の甲に軽く唇を触れさせた。タキオンは、田上の唇が手に触れる感覚を味わいながら、嬉しそうに少しだけ口角を上げた。田上は、タキオンの手をそっと放すとこう言った。

「超高速のプリンセスは目覚めたか?」

「…いや、…あと五六回はしてくれないと目覚めないかもしれない…」

「五六回?」

「…もっとして…」

 タキオンは、そう言うとまた少し左手を上にあげて、田上に差し出した。田上はこれにまた困った顔を見せたが、仕方なく二回目はやってあげた。そして、その後にタキオンの顔を見ながらこう言った。

「指の一本くらいを食べてあげたほうが良いかな?」

「…そうだね。…薬指だけはやめておいてくれ。指輪を嵌める用の指がなくなる…」

「お前も十分気が早い」と言いながら田上は微笑んだ。

「…あと五回…」

「…本気で言ってるの?」

「…私はいつだって本気さ…。ほら」

 田上は「しょうがないなぁ」と言いながら、渋々あと五回のキスをタキオンの手の甲にしてあげた。その初めの方に適当に五回済ませようとしたら、タキオンが「少なくとも、一回につき五秒はしてくれ」と言ったから、田上は元気のないタキオンの為にも、恥ずかしがりながらも言うとおりにしてやった。

 そして、これをやったところでタキオンの元気がこれまでより百倍になるというわけでもない。タキオンは、キスをした後でも力無く草地の上に寝転がっていた。田上は、キスをした後に少しの沈黙が流れたので、そのままなんとなくトレーニング場の方を見やった。丁度エスがこちら側に来ていて、あちらの方に去って行くところだった。黒く長い髪をなびかせて、楽しそうに走っている。それに、田上は菊花賞以前のタキオンを重ねた。すると、唐突にタキオンが「圭一君」と呼んだ。田上が黙って振り返ると、空を見つめたままタキオンが「私だけを見てくれ…」と言った。田上は、タキオンの言葉に微笑むと、その顔に手を伸ばして頬を触りながら「お前だけを見てるよ」と言った。タキオンはその後に田上の顔を見て、目を細めながら少し口角を上げ、こう言った。

「……女たらしめ…」

 

 それから、二三分経った後に、エスは田上とタキオンが居る土手の方に、ニコニコ笑いながら駆け上ってきた。タキオンは、その拍子に自分でも起き上がるつもりもなく起き上がってしまった。だから、エスが田上たちの下を去って行くと、またそこに寝転がった。

 エスは、ニコニコしながら「走るのってやっぱり楽しいです!」と言い、その後に「トレーニングは私の趣味も尊重してくれますよね?」と再度確認してきた。田上はそれにしっかりと「うん」と頷くと、エスはこう言った。

「じゃあ、決めました!私、チームトゥルースに入りたいと思います!これから、あのトレーナー室には出入りしていいんですよね?」

「ん?うん。全然、入るのを決めたんだったら構わないよ」

「じゃあ、決めました!チームトゥルースです。……チーム名の由来って何ですか?…真実?」

「んー…、まぁ、結構適当に決めたものなんだけど、…それ程深い意味もないかな…。それぞれにとって真実が何であるかが分かればいい、みたいな…」

「ああ、私そういうの好きです。文学的な感じですよね」

「うん。…うん、そんな感じだね。文学好きなの?」

「んーー、…実は私、小説書きたいんです!」

「へぇ?」

「だから、あのトレーナー室で小説書いてても良いですよね?教室だと少しうるさかったりもするので…」

「ああ、全然良いよ。…マテリアルさんとタキオンと俺くらいかな?居るのは」

「はい。…まぁ、…いいですね。…手続きとかあるんですか?」

「ああ、今日はまだ何も用意してないから、明日またトレーナー室に来てくれれば。色んな書類とか、あと保護者の印鑑だったりも必要だから。…保護者さんの方があれであれば、また直接面談とかもできるけど?」

「んーー、まぁ、…折角決まったことを邪魔されるのも嫌なので、面談とかは良いです」

「電話でも大丈夫だよ?」

「いや、邪魔されるのが嫌なので。…それじゃあ、…今日は帰っても良いという事ですか?」

「そうだね。明日…、いつくらいに来る?小説書きたいって言ってたけど、ちょっと話もしないといけないよ」

「えー…、まぁ、仕方がないか…。…また一時間目の休みに来たいと思います」

「一回の休み時間だとちょっと急がないといけないかもしれないから、昼休みに来てもいいけど…」

「うーん…、じゃあ、昼休みに。…一時間目にも小説書きに行ってもいいですよね?」

「うん。…はい。じゃあ、それでいいかな?」

「はい」

「はい。じゃあ、お疲れ様。帰ってもいいよ」

「はい。お疲れさまでした。ありがとうございましたー」

 そう言って、エスは寮の方へと帰って行った。タキオンはその後すぐにバタッと後ろの方に倒れて空を見上げた。田上はそんなタキオンを目で追いながら振り返ると、その顔を微笑みながら見つめた。タキオンは、田上の視線に気が付いていながらも、暫く空を見つめ続けた。それから、目だけを動かすと田上の方を見て「なんだい?」と聞いた。

「…ベンチには行かないの?」

「……疲れた…。連れてって…。キスして…」

「…どっち?」

「……どっちも」

「連れてくって言っても、ここ坂だからちょっと上の方までお前の足で立ってくれよ」

「……キスも…」

「手の甲に?」

「違う。…唇に。今ここで」

「今は無理だよ」

「今じゃないとヤダ」

 これをタキオンが本気の顔で言ってきているので田上は困った。困ったけれども、今更人前で大っぴらにキスするのも嫌だったので「ベンチに行ったらするよ」と言った。

 タキオンは首を横に振って「ヤダ。今が良い」と言った。少々泣きそうな調子だった。これには尚困ったが田上も本当に嫌だったので、仕様が無く立ち上がるとタキオンの上に覆い被さった。これはキスをするためではない。ベンチの方へと運ぶためだ。

 あんまり動く気の無いタキオンを最大限動かさないように、田上が気を遣って、その上に覆いかぶさり、田上に抱き着きやすくさせる方法だ。それで、タキオンが抱き着けば田上は頑張って起き上がり、ベンチの方へとよっこらよっこら運ぶつもりだったのだが、タキオンは何を勘違いしたのか目を瞑ってキスを待つ格好となった。

 田上は――悪いなぁ、と思いつつ、目を瞑ったタキオンの顔に向かって「違う。抱っこしに来ただけ」と言った。タキオンはそれでも少しの間目を瞑っていたが、やがて、田上がキスをしてくれないと分かると泣きそうな面をして「嫌だよ」と言った。田上も増々罪悪感が募ったが、それでもこの場でキスをする気もなく「とりあえず、俺の首に抱き着いて。いつもみたいにぎゅっと。大丈夫だから。ずっと一緒に居るから」とタキオンに言った。

 タキオンは泣きそうながらも、田上がどうにもキスをしてくれなさそうな雰囲気なので、仕方なく悲しげな顔をしながら、田上のの首に抱き着いた。田上はそれから、土手の上で体を起こそうとしたが、これがタキオンの体が思ったよりも重たかった。首からその先が全く上がらない。――これは不味い、と田上は焦った。折角タキオンが折れて抱き着いてくれたのに、またその手を煩わすことになる。どうにか起き上がりたかったが、うんうんと唸ったところでタキオンが重すぎてどうにもならない。田上は遂に音を上げて「タキオン、ごめん。ちょ、ちょっと手を放してくれ。やっぱり無理だった」と言った。

 しかし、タキオンはそれに「嫌だ」と返して、より一層強く田上の首に抱き着いた。田上の体力もこれ以上は持ちそうにない。起き上がれないのだから諦めるしかないが、このままでは田上はもろにタキオンの上に体重を落とすことになる。だから、田上は横の方に転がって、せめてタキオンの上に密着するルートを回避したかったのだが、タキオンが絶対に放そうとしないし、そのまま田上の下に居続けようとするので、遂に田上はまた諦めてタキオンの上に落ちる事となった。そして、その後に「手を放してくれー」と頼み込んだのだが、当然簡単に手を放してくれるようなタキオンではなかった。「嫌だ」と言うと、そのまま田上を捕まえ続けていたので、田上も諦めてタキオンの成すがままになった。

 もうそろそろ日も落ちようという頃だった。空が初夏の夕焼けに包まれようとしていた。

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