ケロイド   作:石花漱一

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十九、大阪杯⑧

 マテリアルが、トイレから帰って来ると田上たちは出発した。タキオンは、先にパドックの方で客に手を振らないといけないので、途中で分かれていった。さすがの田上たちもわざわざタキオンがファンサービスをしているところをじろじろと見に行くわけにもいかないので、客席最前列のトレーナー用としてテントの張ってある席へと向かった。その途中で、心配したマテリアルが田上にこう聞いた。

「顔色が優れないようですが、本当に大丈夫ですか?控室の方で休んでいても構いませんよ」

 それに田上は、唸るように「大丈夫」と返した。あまり大丈夫な様相でないのは、マテリアルにも分かっていたが、こうも有無を言わさない調子で「大丈夫」と繰り返されるとマテリアルも他に言う事がなくなった。ただ、心配そうにそのやる気のない肩を見つめるだけだった。

 タキオンの方は、パドックに行く前に体重の測定と蹄鉄の検査を受けると、パドックに行く枠順に則る列に並んだ。もうすでに何かと因縁のあるソラが来ていた。タキオンは、ソラの一つ内側を走る番号である八枠十五番に位置していたのでその前にひょいっと割って入った。すると、ソラはにこりと笑いながらタキオンが入るスペースを大きくするために後ろに下がった。この時は、タキオンも「ありがとう」と言ってそのスペースを受け入れたのだが、黙って並んでいると妙にソラのにこりと笑った顔が気になった。バカにしているというわけではなかったが、何か含みのありそうな顔だった。それが気になって、どう考えても自分じゃ答えは出なさそうだと区切りがつくと、タキオンは振り返って聞いた。

「君、私の事嫌いなのかい?」

 しかし、ソラの返答を聞く間もなく、係り員から「入って」と指示があった。それでも、タキオンは返答を求めるようにソラの方を見ていたが、ソラの方と言ったら不思議そうに微笑むことしかしなかったので諦めて素直にパドックの中へと入って行った。

 パドックの中に入ると、様々な歓声が聞こえた。「タキオーン」と叫ぶ男の人の声があれば、「ソラー、こっち見てー」と女の人が黄色い声を上げているのもあった。それに、団扇なんかを用意して文字を書いているものもあった。まだ、ウイニングライブではないのだが、お祭り騒ぎのようなものだ。元々は、パドックも戦前にあった賭け事の判断の一つに使われていたものだ。それが、いつの間にか戦後のごたごたで賭け事だけが消えて、今ではファンの楽しみごとの一つになった。

 タキオンたちは、パドックを二三周した後順々に地下バ道を通ってコースの方へと歩いた。地鳴りのようなざわめきが聞こえた。これを聞くと、タキオンの胸はわくわくとときめき出した。少し口角が上がった。心地良いくらいのうるささが、タキオンの心臓を一歩一歩鼓動を速めさせる。陽の光の下へとタキオンは出て行った。もう、先頭の子らはウォーミングアップに勤しんでいる。タキオンは、わくわくしながら自分が出て行く番を待った。すぐにそれは来た。その途端に、タキオンは駆け出した。軽い芝の上、青い空の下、楽しそうに栗毛の少女が走っていた。

 

 田上は、タキオンが蹄鉄の検査をだらだらと受けている頃、トレーナー席に座っていた。トレーナー席の中でも最前列だ。田上は、一番後ろに座りたかったのだが、マテリアルが何も言わずに最前列へと座ったので仕方なくその横へと座った。マテリアルに後ろに座ろうと提案することは今の田上にはできなかった。人混みのごみごみとしたうるささに下の瞼が引きつって、心臓が握り潰されそうな感覚がする。そして、何より頭が痛い。田上は、ここから一刻も早く離れたくて、それを願って頭の痛みと自分を引き離そうとしていた。この頭痛は、自分のものではなく遥か遠くにいる別の誰かの物。別に田上が意識して思っていたわけではないが、無意識のうちにそう思うと昇天しそうな心地があった。

 そのうちにタキオンがレース前のウォーミングアップのために出てきた。自分たちの前を走っていく数々のウマ娘たちの足音が、ざわめきに紛れて微かに聞こえるが、田上は顔を上げてそれを見る気にはなれなかった。ようやく顔を上げた時は、マテリアルが「ほら、タキオンさんが来ましたよ」と言っている時だった。ここで、顔を上げなければマテリアルから酷い仕打ちを受けると思った。この田上が思っている酷い仕打ちとは、単なる「やっぱり控室でタキオンさんを待ちましょう」という声かけくらいなものだったが、これをされると田上には酷く追いつめられる自信があった。

 田上は、重い重い首を最大限に頭痛を感じながら上げた。上げると、芝の真ん中を楽しそうに通過していくタキオンの姿が見えた。こちらには見向きもしない。そして、スタンドの前をタキオンが通ったので、わぁ!!と歓声が上がった。楽しそうなタキオンを見ると、惨めな事この上なく、大きな歓声を聞くと意識が飛んで行きそうになった。隣にいたマテリアルもタキオンの方を目で追っていき、田上の事は見なかった。その方が有難いには有難かったが、段々と苦しくなっていく胸を田上は止められることはできなかった。タキオンの後にソラが芝の上を走って言ったから、隣に座っていた国近が「ソラー!」と叫ぶのが聞こえた。どうにもうるさい。耳を塞ぎたかったが、肝心の手が重くて重くて上げられなかった。体の重さにこのまま地面に沈み込んでしまうのではないかと思った。体に力が入らない。このまま座っている椅子から前の方に倒れこんでしまいそうだったが、どうにかそれは今の所堪えている。

 着々と時間は過ぎていった。田上の頭の中には、ぽわぽわとどことなく浮かぶ、タキオンとの日々の練習を思い出し応援する自分がいたが、苛立つような嘘臭さがあった。

 ゲートが用意され、その後ろの方にウマ娘たちが集まっていった。皆、円を描いてぐるぐると回っている。ひりひりとぽかぽかとする空気間の中、ウマ娘たちは出走の時刻を待った。

 

 ここでまたタキオンとソラは、近くを回っていた。この回っている時間は、出走するウマ娘が少し話をする時間にもなっている。タキオンとしては、この時間は集中をするためにあまり話すことはなかったのだが、これが相手の作戦なのかどうなのか、ソラの方から話しかけてきた。

「タキオンさん」

 ソラがそう呼びかけると、今まで集中していたタキオンが目だけを上げてソラを見た。今も微笑んでいたが、なんだか挑発しているような笑みでもあった。それに少しタキオンは苛ついたが、「何だい?」と一言返した。すると、ソラが言った。

「私、あなたをどうしても倒して一着にならないといけないんです」

 そう言うと、その場にいたウマ娘全員がソラの方を見たが、構わずに続けた。

「私のトレーナーが言ったんです。田上って奴はすげぇ、と。最初に担当したウマ娘に二つもGⅠを取らせやがった、と。あんなに事も無げな表情してアグネスさんと接しているんだからやべぇ、と。そして、次に言いました。頼むソラ。あいつの顔面に一発御見舞いしてやってくれ、と。あの適当に表情作っている奴の顔に、心底楽しそうな笑みを作らせてやってくれ、と。私にはどうにも分かりませんでした。菊花賞勝利後のお二人のインタビューなんかは、とても楽しそうに見えました。けれど、恵さんは言うんです。奴は、どうにも嘘臭ぇ。一回本気の喧嘩をしてみたい、と。お二方は、地方からやってきたっていう事で特別な仲の良さもあるようです。…そう仰いました。それに限らず、私にも調子に乗っているあなたを撃ち落としてみたいという気持ちはありますが、今日は別です。恵さんの夢を背負ってきました。あなたに負けるつもりはありません」

 ソラがそう宣戦布告をすると、場の空気に苛立ちが燃えた。誰もが一着を狙っている中で、個人に向けて言ったのだ。恨みを買っても当然であった。最早、案ずるのは一着ではなく自身への敵意であろう。複数のウマ娘から敵意を向けられ囲まれたら、それだけでも勝機は遠のく。今この場で言ったのは、勝てるという自信に満ちているからなのだろうか。そこらへんは分からなかったが、一層ひりついた空気になりながらウマ娘たちは回っていった。そして、宣戦布告を受けた当の本人はと言うと、何にも言い返さずにただ不思議そうな顔をしてソラの方を見つめ返しただけであった。これが、他のウマ娘たちにはもどかしく腹が立ったが、こちらもそんな空気には構わず、また集中を高めようとしだした。ソラは、それ以上は話しかけてこなかった。

 それから少し経つと、出走前のファンファーレが鳴り出した。田上は、これに頭が締め付けられて涙が出そうになったが、タキオンの方は、集中が完全に冴え渡り、一秒一秒を長く身近に感じ始めた。そのファンファーレが鳴り止むと、順番にゲートへと入って行く。タキオンは十五番、ソラは十六番だ。実況が話しているのが聞こえた。

『一番人気と二番人気は奇しくもそろった赤と蒼』

 これは、ソラの勝負服とタキオンの勝負服の事である。タキオンの勝負服は、勿論の事炎の色合いであるが、ソラの勝負服は、その目と同じ空色の勝負服だった。そして、偶然にもタキオンと同じようなドレスを身に纏っている。こちらは、服が揺れる度に空色の迷彩に隠れてしまいそうであった。国近はこれに「すげぇ」と評した。

 そして、朗々とアナウンサーは続ける。

『今年の大阪杯は、桜の下に蒼炎が舞い踊るのか、はたまた前年の覇者、青髪の武者ストーリーテラーが勝鬨を上げるのか。さぁ、桜の下で笑うのは誰だ?大阪杯…』

 その後は、もうタキオンには聞こえていなかった。ゲートが開き導かれるように外へと飛び出していった。芝を踏み、芝を踏み、横を見て位置取りを確認する。三番手にタキオンは着きたかった。これも田上と話し合った事だ。それぞれのウマ娘のレースを確認して、どこらでスパートをかけるか、それを考えると順当にこの位置に収まった。タキオンの最も得意な先行策だ。しかし、先行策を取りたいウマ娘はたくさんいる。当然、そこらの奪い合いになった。外枠であるタキオンは、そこに割り込んでいかないといけない。先頭の方では、二人がが争っていた。同じ一着をキープしつつ逃げ切りたいウマ娘なのだろう。タキオンは、その二人の少し後ろにつければよかったので、不利はありつつも外に膨らんで三、四番目あたりタキオンは並んだ。そして、一先ず位置取り争いは終わった。スタート直後の坂を上って行くと初めのコーナーになる。そこをぐるぐると回る。タキオンの後ろには、固まって多くのウマ娘が控えていた。これは油断できない。タキオンは、この一団よりも常に一歩前に居たかった。今では、それはキープできているが、二バ身三バ身空けた後にソラが付け狙ってきているのは感じた。ソラは、元々は先行策のウマ娘だったが、差しに変えた途端に伸び始めてきた。その代表が、前走の中山記念である。あの伸びには、タキオンも少々驚いたが、田上は「心配することはない」と言っていた。「タキオンの末脚も肝を潰すくらいに速い」だそうだ。これを真剣な目で言っているのだから、彼は生粋のトレーナーであることが分かる。――あんなに悩む必要はないのに。そう思ったのは、丁度半分に来たあたりのゴールとは反対側の直線だった。一瞬の気の緩みがあったからなのだろうか。ここで、タキオンは内側にいたウマ娘の存在を知っていたにもかかわらず驚き、よろめいた。よろめくと、少しの間歩調が乱れた。そのせいで何人かに追い越されて、ソラと同じ位置まで来た。よろめいたにしては立て直しは早かった。精々三四人である。この三四人が少々面倒臭いのだが、タキオンはとりあえずその位置に甘んじた。そして、丁度その時、トレーナー席の方では田上が倒れた。

 

 田上は、ウマ娘たちのウォーミングアップが終わる頃には、なんとか顔を上げ続けることができていた。ただ、ファンファーレのうるさいラッパの音が聞こえ、それに合わせた手拍子の音が聞こえると、どうしようもなくなって涙が出そうになった。この時ばかりは最前列が嬉しかった。ここであれば、誰も自分が涙を堪えている顔であるとバレない。その横の奴らにもばれないため、田上は指を組んだ腕を膝につけて上半身の支えにし、前のめりになりながら出走を待った。実況が聞こえる。アナウンサーが『スタートしました』と言っている。田上も自分の手に双眼鏡は持っていたが、それを覗いてみる気にはなれず、目線すらも動かしていなかった。ただ、タキオンが視界に入ってくるのを待つだけだった。右の方から、観客がわぁぁ!!と声を上げるのが聞こえた。それと共に田上の視界にウマ娘たちが走ってきた。だが、田上はタキオンをその中に探そうともしなかった。チラと真っ赤な服が見えたような気がしたが、敢えてそれに焦点を当てる事はしなかった。ウマ娘の群れが、コーナーを曲がって小さくなっていった。そこで少しタキオンが心配になったが、今の田上の頭を占めているのは観衆のうるささだけだった。最早、小蠅の様にうるさく耳に付き纏うまでの様になり、ぼんやりとした頭で田上は芝を眺めていたが、その時に、不意にぱっと前が暗くなって何も分からなくなった。

 再び目を開けると、両脇にいた国近とマテリアルが慌てた様子で自分の顔を覗き込んでいて、なぜか自分の体が地面に横たわっていた。マテリアルが「大丈夫ですか!?」と問いかけてくる。国近が「やっぱりお前体調悪いじゃねぇか!」と少し怒っている口調だがこちらも心配している顔である。田上には何が起こったのか分からない。何をしていたのかも分からない。キョロキョロと辺りを見渡して自分がいる場所を確認する。トレーナー席である。そして、再びマテリアルが慌てだした。実況で『アグネスタキオン、躓いたか?』と言っていたからだ。双眼鏡を取り出して見てみると、マテリアルからはタキオンが一瞬前に居た位置よりも後ろに下がっているのが見えた。そして、困惑したようにもう一度田上の方を見た。――こんな偶然あるのだろうか、と考えたからだ。しかし、そうも言ってられず、国近が「俺が救護室に運ぼうか?」と言ってきたのでマテリアルがそれに対して言った。

「いえ、私が運びます。…田上さん、頭はそんなに打ってませんよね?こめかみから血が出てますけど。…ただの眩暈ですよね?何か痛いところとかは?」

「……頭がぼーっとする」

「なら、多分ただの眩暈です。救護室に運ぶのでじっとしててください」

 そう言うとマテリアルは、田上の体を持ち上げて両腕に抱えた。お姫様抱っこだ。なんだか、気恥ずかしくもあったが、田上は聞いた。

「タキオンは?」

「タキオンさんは私が見るのであなたは黙っててください。今まで我慢してたんでしょう?」

 有無を言わさない態度だったので、田上は黙って大人しく運ばれた。

 

 タキオンは、第三コーナーを曲がり最終コーナーへと差し掛かった。各ウマ娘が一斉に位置取りを変え始める。タキオンも動き出した。狙いは一着だが、少し下がってしまった為に前を塞いでいる輩がいる。だから、タキオンは後方を確認しつつ、外の方へと膨らんで前へと飛び出した。遮る者はもういない。スパートをかけると黒髪と青髪の子を一気に追い越した。――勝てる。タキオンは、そこで確信した。一馬身二馬身と先頭を引き剥がして行った。かに思えたが、不意にタキオンの視界の端に青がしがみ付いてきた。その瞬間にぞっとした。ソラだ。ソラが追いかけてきた。スパートをかけてゴール前の坂を駆け上がっていくタキオンを、ソラは猛烈に追いかけてきた。あまりの速さにタキオンは驚いたが、だからと言って簡単に一着を譲るつもりは毛頭ない。タキオンもそれに合わせて怒涛の捲りを見せた。前に抜けているのは、最早この二人である。観衆が予想した青と赤の狂宴が始まった。二人とも前を譲らない渾身の鍔迫り合いである。ソラは、もうタキオンの横についている。ゴール板まであと少しだ。タキオンは、ぎりぎりで譲らない。譲らない。ソラは、必死に追いかけるがこれ以上は伸びなかった。タキオンは、アタマ差でゴール板を突っ切った。

 大歓声が上がった。物凄いレースが見られた。観衆は大満足である。タキオンコールも上がっている。しかし、タキオンは疲れ切ってしまって、それに答える事もできずにゴールの後の芝をとぼとぼと歩いて呼吸を落ち着かせた。隣を通り過ぎていく誰かが、悔しそうに声を上げるのが聞こえた。タキオンは、それにも顔を上げず、今の瞬間を思い出した。苦しかった。もうダメかと思った。勝てたのが幸運以外の何物でもないように思えた。そう思いながら少し呼吸を整えると、トレーナー席の方へと向かった。自分のトレーナーに勝利を祝ってもらおうと思ったのだ。だが、トレーナー席の方を見ると誰も居なかった。おかしいぞと思いながら、タキオンが近づいて行くと悔しそうなソラと一緒にいる国近からこんなことを言われた。

「田上が倒れて、マテリアルさんが救護室に連れて行った」

 その直後にマテリアルが息を切らして帰ってきた。建物から廊下を全力疾走してきたようである。そして、タキオンを見ると言った。

「タキオンさん良かった。…GⅠ三勝目ですね!本当に強いじゃないですか!」

「……トレーナー君はどこだい?」

 タキオンの勝利を祝わない悲しげな雰囲気を察すると、顔を輝かせていたマテリアルもその表情を曇らせて言った。

「トレーナーさんは、倒れたので救護室に居ます。今日の調子が悪そうでしたから、レース中にそれが出たんでしょう」

「そうか…」

 タキオンは、震えた泣きそうな声でそう返事をした。しかし、この後はウィナーズサークルで表彰式やら写真撮影にでないといけない義務がある。

「じゃあ、大丈夫そうなんだね?」とタキオンが聞いてマテリアルが「はい」と頷くと、タキオンはとぼとぼとウィナーズサークルの方へと歩いて行った。小さい囲いの中でタキオンは少し客の方に手を振ると、壁になっているカメラマンの方を向いた。この光景には、もう慣れた。最初は誰かに写真を撮られるのを待つ時間が嫌で嫌で仕方がなかったが、田上がどうしてもと言うから渋々じっとして待っていた。十何秒くらい写真を撮り続けた後、写真撮影は終わった。次は表彰式だ。タキオンは、レース後に渡された大きな大阪杯優勝レイを羽織ったままそれに出た。これが通例だそうだ。タキオンには、これを羽織る意味がよく分からなかったが、どうでも良い事なのでわざわざそれに文句をつける事はしなかった。タキオンは、見たことのあるような無いようなおじさんの横に立って自分が表彰されるのを待った。聞くと、この人は理事長だそうだ。こんな禿げ頭があの自由な校風を売り文句にした学園を作っていると思うと、なんだか可笑しかったが、そのおかげで自分が好き勝手やれたとなるとタキオンは考えを改め、その禿げ頭に感謝をした。タキオンの名が呼ばれ、タキオンは一歩前へと進んだ。その時に、皐月賞、菊花賞で田上がしていたように理事長に頭を下げて出た。理事長は、タキオンと目が合うと優しそうに微笑んで、軽く頭を下げ返した。そして、タキオンは表彰台に立ち、トロフィーと賞状を受け取った。そして、それをまた前にいるカメラマンに見せびらかした。カメラが、パシャパシャと鳴った。その音を聞いてタキオンの頭にはやっと誇らしさが出てきたが、同時に早く田上の下に行きたいという願いももどかしい程に強くなった。まだ、色々あった。少し喋って何かあり、優しい禿げ頭も小突きたくなるようになって、そして、勝利者インタビューがあって、それからやっとタキオンは解放された。隣には、田上の代理としてマテリアルがいたから、さっとトロフィーと賞状をそっちの方に放るとタキオンは一目散に救護室へと駆け出した。

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