シブヤ、ビビットストリートにて。
「話題のパンケーキを出すお店が、この先にあるらしくてね。」
「急に“付き合ってくれ”って、そういう事だったんだね。」
ほんのつい最近、絵名はSNSでパンケーキを出すお店の情報を掴んでいた。ビジュアルは派手では無いものの、写真で見てわかる美味しさや、実際にうまい等といったコメントが多く寄せられており、これは行くしかないと思い、瑞希を誘った。
「しかし、すごい行列ね。」
絵名の言う通り、店の前には若い女性が大勢列を作っていた。それ程良いお店なのだろう。
瑞希とたわいもない会話をしていると、行列の先頭にまで来れたようだ。店の名前は…『WEEKEND GARAGE』絵名と瑞希が店のドアを開けた瞬間、その店の空気が変わった。
「いらっしゃいま…」
応対してくれた優男風のウエイター。そのウエイターの正体は、絵名のよく知ってる人物だった。
「あ、彰人!!?」
「絵名!!?」
まさかここで、弟の彰人とバッタリ出会うと思わなかった絵名。
「え、弟くん!?」
「暁山まで…一体どうなってんだ…」
弟の彰人とは、何かと衝突が絶えない。周りからは仲良いと思われることもあるようだが、少なくとも絵名は心を許していない。好きなスイーツの話題だと話が合うのは嬉しいが…。
「で、なんであんたがここで店員やってる訳?」
「ただのヘルプみてえなモンだよ…」
混乱真っ最中状態の彰人だが、二人を冷静に席に案内して、お冷を出す。
「でも弟くんのバイト先ってココじゃなかったよね?」
「それには色々訳があってだな…また日を改めて説明するからな。」
「オッケー!とりあえず、パンケーキ2つ欲しいな。」
瑞希がそう注文すると、彰人はテキパキと伝票にメモし、厨房に伝達する。あれほどの行列だ。苦労しているだろう。
「ねえねえ絵名、弟くんのウエイター姿イカしてない?」
「そう?」
「そうだよ!似合ってるし!」
確かに似合ってるかも…と一瞬思う絵名。しかし、それを認めるのがなんか癪だと思った。
「全っ然似合ってない」
そうこうしている内にパンケーキがふたつ運ばれてきた。
「ほい、お待ちどおさま。」
「なかなか美味しそうね。」
「味はオレが保証してやるよ。」
彰人はそう言うとさっさと厨房に戻っていってしまった。
絵名と瑞希はパンケーキをスマホで撮る。瑞希は食べた記録を残す為に撮るのだが、絵名は映えの為に角度や構図のために妥協を許さない。
「美味し〜〜っ♡絵名もはやく食べようよ!」
「もうちょっと待ってて!」
一足先にパンケーキを口に運ぶ瑞希。撮影に満足した絵名も続けて食べる。
「あっ、本当だ!すごく美味しい…」
クチコミに偽りなしのかなりの高クオリティのパンケーキだ。並ぶ価値はこれだけで十分だった。
「それにしても…」
パンケーキを食べる絵名。接客したり配膳する彰人を様子を伺う。彰人は多忙ながらもテキパキと動けており、莫大な量の客の注文を裁き、会計も済ませている。周りの客も満足気だ。
猫被りモードの彰人を見るのは良い気分にならないが、あそこまで丁寧に動ける彰人の事は素直に認めたかった。
(やるじゃん、彰人…。)
彰人や絵名に悟られぬように心の中で呟く絵名。犬猿の仲の彰人に遭遇したはずだったが、とてもいい気分だった。
「ごちそうさま、彰人。」
「おう。」
「すっごく美味しかったよー!弟くん!」
「ありがとな。調理担当のやつに伝えとくよ。」
そんな感じのやり取りをして会話をして、店を出る絵名と瑞希。
「さて、早速だけどSNSにアップしようかな?今日の撮影には自信あるのよ!」
「早速だね!どうやって投稿するの?」
「どうやってって…“話題のパンケーキ美味しかった”って投稿するつもりだけど…」
「“ウエイターの男の子かっこよかった”って投稿した方がきっとバズると思うよ〜?」
ニヤニヤした表情の瑞希。
「は!?絶対に嫌!!」
「えー…絶対にバズると思うのに…」
「仮にバズるとしても私は嫌!」
「ふーん、じゃあボクが投稿しちゃおっかなー!」
「それは別に、好きにしたらいいんじゃない。」
その日の夜、瑞希はSNSに美味しそうなパンケーキとイケメンウエイターの情報を投稿した。
その結果、その投稿がバズりにバズり、翌日は更に大勢のお客がWEEKEND GARAGEに流れ込むことになり、彰人を始めスタッフ全員がてんやわんやになるのだが…それはまた、別のお話である。