オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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話が進まないって?

ブリジットの可愛さに免じて許して、この話も、ブリジットも、重要なことだから


所詮は同じ人なのだ

 

 

 

 ひとまず、用件は済んだ。

 

 

 

 『蒼の薔薇』との挨拶も滞りなく終わった彼女は、さっそく『エ・ランテル』へと向かうことにした。

 

 いや、向かうというよりは、出戻るといった方が言葉としては正しいのかもしれないが……まあいい、細かい事だ。

 

 『蒼の薔薇』より、途中まで同行しよう(つまり、馬車を用意するという意味)かという提案をされたが、彼女は丁重にお断りした。

 

 理由は、そう大したものではない。

 

 

「……そう? 遠慮しなくていいわよ。勘違いした馬鹿な役人って、紹介状(ソレ)が有っても偽物だと決めつけるやつ、本当に居るから」

「気持ちはありがたいが、君たちでは駄目だ」

「……何故だ?」

 

 

 イビルアイより問われた彼女は、ふむ……と思考を巡らせた後で、二つあると答え、話すことにした。

 

 

 ──一つは、『蒼の薔薇』が相応の理由なく王都を離れられる状況ではないということから。

 

 

 なにせ、主犯格とされている悪魔『ヤルダバオト』の討伐が成されたとはいえ、少なくない……いや、負傷者死者行方不明者合わせて、数千人近い被害者が出た。

 

 

 当然ながら、無事だった者たちも平気なわけがない。

 

 

 夜が来るたびに怯えて閉じこもり、居なくなった友人や愛する者を想って涙を流す者たちが大勢いる。中には、悲観のあまり自ら命を絶った者すら居る。

 

 

 そんな状況で、だ。

 

 

 王国内における最高戦力の一角である『蒼の薔薇』が、王都を離れる。パニックまではいかなくとも、相当数の者たちが不安に動揺し、混乱を招くのは想像するまでもない。

 

 

 有事の有無が、問題なのではない。いざという時に戦える存在が同じ街に居る、その事実が大事なのだ。

 

 おそらく、『蒼の薔薇』たちも察してはいる。それでも同行を提案したのは、単に恩返しの意味合いが強い。

 

 

 しかし、彼女にとって、それは無用の話である。

 

 

 だって、彼女にとってはもう相談に乗って貰えただけで、十分なのだから。むしろ、そこまでされると申し訳なさを覚えるぐらいだ。

 

 なので、もう少し国民の感情が落ち着くまでは、王都を離れるわけにはいかないだろうと思ったからこそ断ったと、彼女は告げた。

 

 

「あとは、単純に貴女たちが弱いからだ。これから私が戦おうとする相手と遭遇した際、貴女たちでは非常に危険だ」

「おいおい、たしかにヤルダバオトとかいう化け物にはやられたけど、こう見えて俺たちはアダマンタイト級冒険者だぞ」

 

 

 少々、プライドを傷つけてしまったのは明白だ。イビルアイを除き、誰もが機嫌を悪くする。

 

 まあ、当然だ。才能だけで最高級に辿り着けるほど、アダマンタイトの名は軽くはない。相応の矜持というモノを持っている。

 

 いくら、恩人相手……イビルアイより事前に話を通されているので、その発言をしたのが『調停者ゾーイ』だと分かっていても、だ。

 

 やはり、思う所はある。少しばかり顔をしかめたガガーランに、彼女は……言葉を選ばず、ハッキリと簡潔に相手の強さを述べた。

 

 

「では、貴女たちは難度300前後の相手とまともに戦えるか?」

「……は?」

「難度300前後だ。それが複数体襲ってきたとして、貴女たちは対処出来るのか……それが知りたい」

「……そうか、ヤルダバオトはそれに近しかったのか。なるほど、勝てないわけだ」

 

 

 呆然と目を瞬かせる『蒼の薔薇』……その中で、イビルアイだけが自嘲気味に溜息を零していた。

 

 なので、頷いてやれば、イビルアイが仮面越しにも苦笑いをしているのが彼女には分かった。

 

 

 ──難度。

 

 

 それは、この世界における強さの指標みたいなものであり、モンスターの強さを表す目安として使われている単位である。

 

 ゲームのように、厳密に定められているわけではない。見た目の印象、実際に応対した者の証言、他にも様々な行動を調べたうえで算定される。

 

 なので、この世界の難度というのはそこまで正確ではない。あくまでも指標でしかなく、おおよそ難度○○なんて言い方も珍しくはない。

 

 しかし、判断材料となっているのは間違いない。

 

 そして、それはユグドラシルにおける『レベル』という概念で、ある程度置き換える事が出来る……と、実は彼女は思っていた。

 

 これまで冒険者として受けて来た依頼にて、色々なモンスターと戦ってきた、経験則……みたいなモノから算出した目安だ。

 

 

 ……おそらく、おおよそ3倍の違いがあるだろうと、そのように彼女は判断している。

 

 

 つまり、ユグドラシルにおけるレベル1が、この世界においては難度3。ユグドラシルにてレベル20のモンスターであれば、この世界では難度60……といった感じだ。

 

 

「ちなみに、私に勝とうと思うのであれば……たぶん、難度600の相手を倒せるぐらいじゃないと、無理だな」

 

「マジで? ちょっと何を言っているか分からない」

「強過ぎ笑えない、もう少し人間に分かる言葉でヨロ」

「……今更だけど、もっと丁重な話し方をした方が良いかしら?」

「せんでいい。当人から、畏まった話し方は嫌だと言われたのだ。普段通りにすればいいんだ」

「あ~……想像出来ねえけど、行くだけ足手まといになるのは分かった。すまないね、気を遣わせてしまって」

 

 

 にわかに、騒ぎ出す『蒼の薔薇』。

 

 ティアとティナは驚いているのか驚いていないのか、何時ものちょっとふざけた言い回しに対して、ラキュースが言葉通り緊張し始めている。

 

 その背中を軽く叩いて宥めるイビルアイに、彼女に向かって軽く頭を下げるガガーラン。

 

 本当に、態度一つとってもバラバラだというのに……不思議と息が合っている『蒼の薔薇』を見やった彼女は、最後に挨拶をしてから出発しようと──。

 

 

「──ああ、間に合った。まだ居ました」

 

 

 したのだが、その前に、誰かが入って来た。ノックもせずに入って来た辺り、よほど急いできたのだろう。

 

 

(……お姫様みたいな子だな)

 

 

 そちらに視線を向けた彼女は、反射的にそう思った。

 

 というのも、部屋に入って来たその人物は……一言でいえば、この世界に来て1,2を争うぐらいの美貌を持つ女性であったからだ。

 

 腰の先まで伸びた長い金髪は、室内であるというのに光り輝いて見える。蒼天を想わせる瞳を印象付ける薄く白い肌、なのに、全身から淡く活力が滲み出ている。

 

 まるで……黄金や宝石が人の形を取ったかのような、『美』というモノをギュッと凝縮したかのような女性であった。

 

 

「ら、ラナー!? どうして此処に!?」

 

 

 これには、ラキュースのみならず、『蒼の薔薇』全員が驚いた。

 

 何故なら、ラナーとラキュースが呼んだこの女性は、だ。

 

 民からは『黄金』と称され、その美しさは如何なる画家にも肖像画は描けないと言われた、『リ・エスティーゼ王国』の第三王女。

 

 

 ──名を、『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』。

 

 

 正真正銘の正統なる血を引いた王女であり、本来であればこんな場所(こんな場所と称するのは、高級宿ではあるけれども)にはおいそれと姿を見せてはならない人物である。

 

 ……ちなみに、ラキュースとは友人関係である。

 

 

「どうして、じゃないわよ。それを言うなら、この人が居るってことをどうして私に連絡しなかったの?」

 

 

 ……で、話を戻そう。押し掛けてきた王女の登場に、彼女を除いた誰もが動揺を露わにしている。

 

 当の王女……ラナーは、その美しさを存分に活用した可愛らしさを前面に押し出しながら、『わたくし、怒っておりますよ』と言わんばかりに声が低くなっていた。

 

 

「え、いや、だって会ったのは今日だから、連絡する暇が……」

「んも~、ラキュースのところに見知らぬ人が来たら、すぐさま使いを出せって宿の人に話を通しておいて正解だったわね」

「使いって、ラナー……貴女、何時の間にそんなことを……」

「この前、イビルアイさんが、皆様方に『調停者ゾーイ』について説明していた時に、ですわ」

 

 

 その言葉に、ちらり、と。

 

 ラキュース達の視線が、部屋の入口……そこで息切れしている女中(60代の女性)の姿を見て、気の毒そうに一様に苦笑した。

 

 それから、ふと、ティアとティナが部屋の窓から下を見やる。

 

 そこには、グッタリと座席にて力尽きている御者と、同じく舌を出して喘いでいる馬の姿があり、周囲には人だかりが出来ていた。

 

 

「ラナー王女先回りし過ぎ、可愛いから許す」

「お転婆すぎて王様の心労で寿命が危ない」

 

 

 いや、その反応も如何なものか……そんなツッコミを二人に入れる者は、この場には居なかった。

 

 

「なあ、ガガーラン。姫様はどうしてこういう時には行動が早いんだ?」

「そりゃあ、リーダーの友人だからだろ。アレだ、類友ってやつだ」

「………………そうか」

 

 

 言い返せず納得してしまうイビルアイに、ガガーランは堪えきれず笑う。こちらもこちらで、中々失礼な会話である。

 

 

「──貴女様が、『調停者ゾーイ』様でございますね?」

 

 

 そして、そんな『蒼の薔薇』の反応を他所に、我が道を行くと言わんばかりにラナーが一歩前に出て……彼女の傍まで来た。

 

 

 とりあえず……どのように応対すれば良いのだろうか? 

 

 

 視線で『蒼の薔薇』に助けを求めれば、「畏まる必要はない」と口を揃えられた。なので、彼女は言われるがまま、手を差し出した。

 

 

「まあ、握手をしてくださるのですね!」

 

 

 嬉しそうに、ラナーは手を握り返す。

 

 小さく、か弱く、見た目相応の華奢な腕だ。

 

 

 この手を握るためなら、大金を支払っても良いという者が居るぐらいに人気があるらしい……と。

 

 

「──では、行きましょう」

「え?」

 

 

 突然過ぎて呆気に取られる彼女の手が、ギュッと握り締められた。ニッコリと笑うラナーの表情とは、裏腹に。

 

 

「さあ、お父様も、是非とも貴女とお話したいと話しておりましたから……あ、そうそう、『蒼の薔薇』の皆様方も御一緒に、だそうですよ」

「……え?」

 

 

 その言葉に……誰もが、二の句を告げられなかったのは、当然だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ──とにかく、話は馬車の中で。

 

 

 そう促された彼女は、あんまりにも手を引っ張られるので……仕方がなく、ラナーが乗って来た馬車へと乗り込んだ。

 

 ついでに、『蒼の薔薇』も一緒に。

 

 女中は、迷惑を掛けた宿に説明し、後で追い掛けてくるらしい近衛が来るまで宿に待機する、とのこと。

 

 

 ……まあ、『蒼の薔薇』も城へ呼ばれているのだから、行けるなら一緒の方が効率的ではある。

 

 

 そこに、王族と一緒の馬車に乗る不敬だとか、身分違いによる諸々のアレとか、精神的負担を考慮しない……という大前提をクリアすればの話だが……今更だろう。

 

 普通の馬車なら人数オーバーで無理だったが、幸い(?)にも、ラナーが乗って来たのは大人数が乗れる特注品。

 

 非常に嫌そうにしていた『蒼の薔薇』も、断り切れず……結果、ラナー一行を乗せた馬車は、行きの時とは真逆に、緩やかに王城へと走り出したのであった。

 

 ……で、そんな感じで、半ば無理やり馬車へと引っ張り込まれた彼女はというと、だ。

 

 

(……初めて馬車に乗るが、こんな感じなのか。出来るなら、もっと気楽な時に乗りたいものだ)

 

 

 はっきり言って、あまり良い気分ではなかった。

 

 

 ……彼女としては、別にお礼などしてもらいたいとは思っていなかったのだ。

 

 

 そもそも、王都を襲ったヤルダバオトを倒したのは、成り行きという名の偶然の結果である。

 

 王都の人達を助けたいから戦ったと言われたら、それは違うよというのが彼女の言い分である。ていうか、あの時は状況次第によっては見捨てる事も決断していた。

 

 ありがとうと正式にお礼を言われるのは、正直ちょっと居心地が悪いなあ……というのが、彼女の正直な気持ちであった。

 

 だから、ラナーの申し出は気持ちだけ受け取って、さっさと『エ・ランテル』へ向かおう……と、思っていたのだが。

 

 

「……あ~、その、ゾーイさん。部外者の私が言うのもなんだけど、今回は我慢した方が良いかもしれませんよ」

 

 

 何故か、ラキュースから承諾を促された。

 

 最初は、もう馬車に乗ったのだから諦めろと言われたのかと思った。

 

 ついでに、友人としてラナーのアシストに回ったのかとも……一瞬ばかり彼女はそう思ったが、詳しく話を聞けば……そうではなかった。

 

 

 ──要点だけを述べるのであれば、厄介な人物がゾーイを探していて、先に見つかると面倒になる、とのことだ。

 

 

 というのも、だ。

 

 その、『厄介な人物』というのは他でもない。ラナーの実兄であり、この国の第一王位継承者のバルブロ王子である。

 

 

 正式な名は、『バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ』

 

 

 性格は……ラキュースやラナーではなく、(この場を代表した)イビルアイの説明曰く、お世辞にも良いとはいえない、らしい。

 

 

 平民の事など歯牙(しが)にもかけず、己の名誉や利益の為なら平気で使い潰し、権力の行使すらやってのける。

 

 王族として取り繕うだけの知性はあるが、権威と威厳を保つ為に基本的に上から物を言う。反対意見には耳を貸さず、邪魔となれば如何な理屈を用いて牢屋に送る。

 

 

 なので、国民からの人気はかなり低く、第三王女の足元にも及ばないとされている。実際、バルブロ王子が城下町に姿を見せても、人だかりができる事は皆無らしい。

 

 

 ただ、体格は良く、剣の腕は歴代王族の中でも1,2を争う実力ではあるらしい。でも、あくまでも王族の中では、の話。

 

 『蒼の薔薇』に限らず、名の知られた戦士には足元にも及ばない。頭脳においても、第二王子のザナックたちには及ばず、最低限の腹芸しか出来ない。

 

 つまり、総合的に見れば、だ。

 

 

「知恵ではラナー王女に及ばず、武勇においても井の中の蛙に過ぎず、人望ではランポッサ国王に遠く及ばない……まあ、そんな御人だ」

 

 

 と、いうのが、イビルアイが下したバルブロ王子の総評であった。

 

 ちなみに、本人が聞けば不敬罪で一発投獄確定の無礼な発言ではあるが、この場に居る誰もが否定せず、表情を変えなかった。

 

 どうやら……口には出さなくとも、各々似たような評価を下しているようだ。

 

 故に、イビルアイからの説明を己の頭の中でゆっくりと整理した彼女は……一つ、頷くと。

 

 

「なるほど、生まれに恵まれた、自分が優秀だと思っている凡人か」

 

 

 そう、彼女なりにバルブロ王子の評価を下した。

 

 

「ぶふっ……っ! えほん! えへん! ぞ、ゾーイさん、もう少し言葉を選んでいただければ……」

 

 

 途端、『蒼の薔薇』は一斉に咽た。というか、ガガーランとティア&ティナは普通に爆笑していた。

 

 笑っていないのは、ラナーと仮面で表情が……あ、よく見ればイビルアイは肩が震えているので、笑っているようだ。

 

 

 とはいえ、それはそれ、これはこれ。

 

 

 ラナーに次いで身分の高いラキュースが、代表する形でいちおうの苦言を呈した……が、その頬はヒクヒクと痙攣(けいれん)していた。

 

 

「……分かった、気を付けよう」

 

 

 まあ、話を聞く限り、他人から向けられる悪評を権力と暴力で黙らせるタイプっぽいので、それで納得する事にした。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………? なんだ?」

 

 

 で、特にする事もないので、ぼんやりと虚空を眺めていると……だ。

 

 ふと、ラナーより向けられる視線に、彼女も見やる。

 

 視線が合ったラナーは、何かを考え込むかのようにしばし何度か瞬きした後……おもむろに、唇を開いた。

 

 

「あの、ゾーイ様。貴女様は、『六大神』が残した書物に記された『調停者ゾーイ』様、でよろしいのですよね?」

「その書物を読んだ事が無いので断言する事は出来ないが、他に調停者の名を持つ者が居なければ、私がそうなるだろう」

「では……聞いてもよろしいでしょうか?」

「私で答えられることならば」

 

 

 率直に告げれば、「ありがとうございます、それでは……」ラナーは軽く頭を下げて、緩やかに顔を上げると。

 

 

「ゾーイ様がこの世界に顕現なさったということは、この王国に未曽有の危機が起ころうとしている……と、思って良いのですか?」

 

 

 そう、単刀直入に尋ねてきた。

 

 

 

 ……その瞬間、車内の空気が止まった。

 

 

 

 直前まで笑っていたティア&ティナもピタリと笑うのを止め、ガガーランも真顔になる。イビルアイはグッと背筋を伸ばし、ラキュースは……大きく目を開いて、ラナーを見つめていた。

 

 その、静まり返った空間で……彼女は、黙ってラナーを見つめる。ラナーも、黙って彼女を見つめる。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………ふむ。

 

 

 しばらく、ラナー王女の蒼い瞳を見つめていた彼女は……欠片も視線を逸らさないのを見て、一つ頷くと。

 

 

「この世界の均衡が崩れる可能性が生まれた時、私は顕現する。王国に危機が生じたから、現れたわけではない」

 

 

 そう、はっきりと告げた。

 

 

「……では、この国は今後……仮に、バルブロ兄様が国王となれば、ゾーイ様は静観なさるおつもりですか?」

 

 

 すると、続けてそんな質問をされたので。

 

 

「国が滅びるのは、国王が道を誤り、国民がそれを正さなかったからだ。人々の為に動くことはあるし、助けたいという気持ちはある、だが、それだけだ」

 

 

 思っている事、パッと脳裏に浮かんだ事を、そのまま告げた。

 

 

「……王国が倒れてしまえば、大勢の者たちが路頭に迷います」

「それ自体は世界の均衡とは何ら関係ない。自ら終わろうとする者たちは、その時点で既に均衡の外側に居る」

 

 

 ──そもそも、だ。

 

 

「それは、貴方達が自らの意思で立ち上がり、自ら正さなければ意味がない。少なくとも、今はまだ、それが出来る位置に居る」

「私たちが……」

「それに、数多に存在する生命の一つが自死しようとしていることを憐れむことはあっても、助けようとは思わない」

「……そう言われてしまいますと、何だか情けなくなってしまいますわね」

「そもそも、この国は世界の均衡に影響を与えるほどではない。少なくとも、今は……だから私は動かないだろう」

 

 

 ──だが、しかし。

 

 

 その言葉と共に、彼女は……ラナーの額を指差す。フワッと目を見開くラナーを前に、彼女は……言葉を濁さず、はっきり告げた。

 

 

「その時は、蒼天の映し鏡たる我が剣が、貴女の命を断ち切るだろう」

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………その瞬間、誰もが完全に言葉を失くしていた。

 

 

 問答を見ていた『蒼の薔薇』もそうだが、質問したラナーも。

 

 いや、それでも王女としての矜持がそうさせるのか……ふう、と僅かに息を吐いたラナーは……静かに、彼女を見つめた。

 

 

「私が、ですか?」

 

 

 ──どくり、と。

 

 

 一拍遅れて感じ取った鼓動に、ラナーは堪らず己の胸を押さえる。頬を伝う冷や汗をそのままに……いや、違う。

 

 ぎゅう、と。

 

 隣に座ったラキュースが、残った片手に手を重ねた。ハッと、そちらを見やったラナーは……しばしの間、呆然と目を瞬かせた後。

 

 

「……ありがとう、ラキュース」

 

 

 ラキュースより向けられる微笑みを前に、緩やかに強張っていた肩の力を抜いたラナーは……改めて、彼女(ゾーイ)を見やった。

 

 

「私が……均衡を崩す、と?」

「そうだ、貴女が、均衡を崩す可能性を孕んでいる」

「私の存在が、ゾーイ様の仰る世界の均衡を乱す……1人では、訓練された兵士1人にも勝てない私が?」

 

 

 問われた彼女は、「あくまでも、可能性の段階だ」そう補足する。

 

 

「世界の危機は、いつも人知れず起こり、人知れず解決されている。それは誰かの手によって、あるいは自然消滅する形で……貴女のソレもまた、どちらかはまだ分からない」

「……ゾーイ様にも?」

「そうだ、危機というのは大抵、小さな波紋から始まる。時にはそれが、巨大な災禍へと成長する事もある。貴女は、そういう存在だ」

「……では、私はどうすれば?」

「貴女1人では駄目だな。国王が変わらなければ、いずれはそうなるだろう。そして、貴女が今のままで居続けるのであれば、いずれ……」

 

 

 ……彼女のその言葉に、ラナーは……いや、『蒼の薔薇』も、それ以上口を挟む事が出来ず……馬車は、緩やかに王城の敷地内へと進んで行った。

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして静かになった、馬車の中で。

 

 

「ねえ、ラキュース」

「なに?」

「死ぬのって、怖くて辛いのね。みんな、怖いのね」

「……いきなりなに?」

「気にしなくていいわ。ただ、私も馬鹿の1人だったのかな……って、そう思っただけだから」

「……そう?」

 

 

 いきなり変な事を呟くラナーに、ラキュースのみならず、『蒼の薔薇』の面々は……意味が分からず、互いに顔を見合わせ……首を傾げたのであった。

 

 




個人的に、ラナーって頭があまりに良すぎた結果、人間を同族と思えなくなった人間って感じなのかな~と思ったり
他の人が一か月掛けて学ぶことを、ラナーは半日で習得しちゃう。幼いころからそんな感じだから、『こいつら本当に同じ人間?』っていう幼い疑問が年を重ねるにつれて『馬鹿なうえに学習能力もないこんなバカなやつらの為に王族として生きなければならないの?』って歪み続けて
しかも、一から十まで優しく説明したのに、そのうちの一すら通じないどころか『あなたは天然(つまり、ちょっとおバカ)だからw』みたいな事言われ続けたら、そりゃあ誰だって歪むし、下々が死んでもどうでもよくなるよなあ……って

そう考えると、クライムってラナーにとってはアニマルセラピーみたいな存在だから、そりゃあ執着するよなあ……って
馬鹿だけど、ラナーは本当に凄い、ラナーお守りします、ラナーなら解決しますって感じで全肯定ワンコやれば、そりゃあ溺愛するようになるよなあ……って
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