オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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(裏話):虚構の骸骨

 

 

 

 

 ──カルネ村へと向かう際に、『鈴木悟』はまず、誰を連れて行くかを考えた。

 

 

 

 まず、マーレは確定だ。

 

 

 カルマ値云々は正直覚えていないので定かではないが、作物などの食糧生産を行うためには絶対に外せないNPCである。

 

 実際、誇張抜きでマーレは外せなかった。

 

 何故なら、ナザリックにおいて、マーレと同等のドルイドの職業レベルを習得しているNPCが居なかったのだ。

 

 

 いちおう、探せば他にも居た。

 

 

 軽く聞き取り調査(もちろん、ユリ同伴である)を行った際、『そういったスキルや魔法を取得しております』との返事をしたNPCたちの能力を、調べてみた。

 

 

 そうして、判明した。

 

 

 ドルイドの職業レベルを習得しているNPCは他にもいた。だが、能力の差があまりに有り過ぎた。マーレの、足元にすら及ばなかったのだ。

 

 そのNPCが半日かけて行う作業を、マーレは10分程で終わらせてしまうのだ。しかも、そのNPCよりも丁寧かつ綺麗に、全てを終わらせてしまう。

 

 しかも、MPの総量までもが違い過ぎる。他のNPCなら一定時間ごとに休憩して回復させる必要がある作業も、マーレならばほぼ回復せずに行う事が可能である。

 

 

 そのうえ、他のNPCたちと同様に行った、食物の栽培実験。

 

 これも、マーレが育てた方が圧倒的に速く実を付け、かつ、試食させた全員が満場一致で『マーレの方が美味しい』と絶賛したのだ。

 

 さすがに、だ。

 

 

 レベル100という万が一を考えた場合の懸念事項はある。

 

 だが、ここまで能力の差が出てしまえば、個人の恐怖でどうこう考えるのは愚策だと『鈴木悟』は思った。

 

 

 続いて……『ユリ・アルファ』と『シズ・デルタ』もまた、考えるまでもなく確定である。

 

 

 この2人に関してはカルマ値も高く、基本が善性である。

 

 もちろん、ナザリック(または、モモンガ)に対する絶対的な忠誠心という、気を付けなければならない点はあるが……それでも、精神的な負担が軽い。

 

 それに、善性であるからこそ、下手にトラブルが生じてもいきなり相手(人間)を殺そうとはしないだろう。

 

 

(アルベドは、死にかけているうえに混乱していたエンリを不敬だからと躊躇なく殺そうとしたからな……人員は慎重に選んだ方が良い)

 

 

 今にして思えば、どうして冒険者モモンの時に、よりにもよってナーベラルを連れて行こうと判断したのか……止めよう、考えるだけで気が滅入ってくる。

 

 

(セバスとペストーニャの両名も連れて行きたいが、あの2人が居なくなると、残された人たちの扱いが悲惨なモノになるのは目に見えているからな……残念だが、連れてはいけない)

 

(NPCたちの事だ……手足の一本ぐらい回復魔法で復元してしまえば良いから、みたいな感じでもぎ取りそうだからな……うん、あの2人を動かすのは駄目だ)

 

 

 そこまで考えた辺りで……ふと、『鈴木悟』の脳裏に天啓が下りた。

 

 

(あ、そういえば、セバスの傍にはツアレが居た……ああ、そうだよ! 居たじゃん、人間のツアレが!)

 

 

 思わず、『鈴木悟』はポンと手を叩き掛けた。傍にユリが居るので、行動には移さなかった。

 

 

 ──『ツアレ』とは、王都にてセバスが助けた女性であり、現在はナザリックでセバスの下で保護されている人間の女性である。

 

 

 保護される経緯は、語り出すと非常に長くなるので詳細は省くが、要は酷い目に遭わされ死にかけていたツアレを、通りがかったセバスが助けた……というわけである。

 

 彼女であれば、ピッタリだと『鈴木悟』は思った。

 

 ユリもシズも善性であるとはいえ、やはり異形種だ。人間に似せた外見とはいえ、バレる時はあっさりバレる。

 

 そうなるのを防ぐ為に、交渉役としてツアレを入れるのは、アリなのかもしれない……そう、『鈴木悟』は思う。

 

 今後、交渉役として表に出る場合があれば、同じ人間であるかは非常に重要な要素となるだろう。

 

 

(そうか、そうだよ……いたんだよな、ここにも、ちゃんとした人間が……ナザリック以外の、ちゃんとした人間が……!)

 

 

 ……それに、『鈴木悟』としては……出来る限り、己にそこまで敵意を抱かない人間が傍に居てほしいという思いもあった。

 

 

 連れてきた王都の人達は、駄目だ。

 

 

 どのような説明をしたにせよ、あの者たちにとって、『モモンガ』やナザリックは、自分たちを攫って食い殺し使い潰した化け物たちでしかない。

 

 けれども、ツアレは違う。本能的な怖れこそあるものの、感謝の眼差しを向けてくれるのを『鈴木悟』は感じ取っていた。

 

 今の己も異形種(しかも、アンデッド)ではあるが、それでも、心だけは……そう思いたいからこそ、傍に人間が居てほしいと思った。

 

 

(よし、マーレに、ユリに、シズに、ツアレ……とりあえず、この4人は確定として……ん?)

 

 

 ──と、その時であった。

 

 

「アインズ様!」

 

 

 アルベドとシャルティアの二人が、『鈴木悟』とユリの前に、サッと姿を見せたのは。

 

 いったいどうして……理由は、考えるまでもなかった。

 

 

「カルネ村へ行くのであれば、私を護衛に!」

「いえ、わらわに!」

 

 

 アルベドとシャルティアの両名が手を上げて、立候補した。つまり、そういうことだった。

 

 ……というか、どうしてバレたのだろうか。カルネ村へ向かう事は、マーレにはまだ詳細を話してはおらず、傍のユリにしか……ん? 

 

 

「……いちおう、守護統括のアルベド様にご報告が必要かと……申し訳ありません」

 

 

 視線を向ければ、ユリが深々と頭を下げた。その顔は、失敗してしまったといった感じで、苦々しく歪んでいた。

 

 

 ……いや、ユリは悪くない。

 

 

 彼女の立場を思えば報告するのは当たり前であり、口止めを忘れていた『鈴木悟』が悪いのであった。

 

 なので、軽く手を振って問題はないことをユリに伝えた後で……改めて、2人に向き直れば、だ。

 

 

「どうか、御身の盾に、私を!」

 

 

 そんな言葉を、2人は吐いた。

 

 2人からすれば、『調停者ゾーイ』との戦いによってアインズ(モモンガ)が殺されかけたというのは、記憶に新しい。

 

 王都より離れているとはいえ、遭遇しない保証はどこにもない。だからこそ、数発は耐えられるだけの壁を護衛に付けるべき……というのが、2人の意見であった。

 

 

「ですので、ユリ・アルファではいざという時に御身の盾には──」

「いや、ユリを連れて行く。これは決定事項だ」

「──そう、ですか。御身の、望むがままに……!」

 

 

 ギロリ、と。

 

 

 直接ではなくとも、『鈴木悟』にもハッキリ分かるぐらいにアルベドより睨みつけられたユリは、素知らぬ顔をしている。

 

 守護者統括より睨まれるのは怖いが、それを差し引いても、『モモンガ』直々に指名されるという優越感には勝てない……といったところか。

 

 

(……前は美人だと思ってドキドキしていたけど、今は怖さしか感じないなあ)

 

 

 個人的に、アルベドに関しては少しばかり後ろめたい事がある。だから、あまり強くは拒絶出来ないのも、悪手なのだろう。

 

 

「……では、アインズ様。守護者統括として、提案したい事がございます」

 

 

 とはいえ、やはりアルベドはアルベドだ。

 

 一度拒否されたところでへこたれる様子はなく、強く、強く、それはもう押し倒さんばかりに強く、アインズへと提案した。

 

 

 ……それは、ナザリックの今後の運営に関してだ。その話は、ゾーイの脅威性と、対策に関する事から始まった。

 

 

 曰く、あの時は、囮に使える遺体が転がっていたから逃げ出せたが、次に使える囮は無い……まず、そこから触れた。

 

 カルネ村の者たちを囮にしたところで、あの者たちはゾーイとの関係性が薄い。おそらく、囮にしたところで構わずこちらを狙ってくるだろう。

 

 あらかじめゾーイに監視を付けようにも、下手に気付かれて向こうから攻め込まれてしまうのは、現状を考えると非常にマズイ。

 

 現在のナザリックの優位は、なによりも『ナザリック地下大墳墓』の位置を特定されていない……これに尽きる。

 

 いざとなれば、ここへ逃げ込んで回復する事が出来る。これは、戦略的に考えると、かなりの強みだ。

 

 そうでなくとも、ここには対侵入者用の……かつて、この地に攻め込んできた人間どもを返り討ちにしたトラップや設備が山のように設置されている。

 

 

 これは、拠点を持たないと思われるゾーイにはない、ナザリックの優位な点だ。

 

 しかし、その設備にも弱点がある。

 

 

 それは、設備を稼働させるためには、ここでは手に入らないユグドラシル金貨を消費しなければならないということ。

 

 いや、何もそれは、金貨だけではない。

 

 

 ユグドラシルでは豊富に手に入ったアイテムや素材も、ここでは確保出来ない。使えば最後、補給する事が出来ないのだ。

 

 

 ──上手くハマれば、相手が何者であれ仕留める事が出来る。

 

 

 そう、相手がゾーイだとしても、それが可能なだけの戦力と地の利が、ここにはある。

 

 しかし、取り逃がしてしまえば、そのままジリ貧に陥る可能性が高いのはこちら側。

 

 

 ゆえに、早急な立て直しが急務というのが、アルベドの意見であった。

 

 

 ……それは、パッと聞いた限りでは利に叶った、ナザリック全体を考えている統括者としての意見であった。

 

 『鈴木悟』も……いや、彼がまだ『モモンガ』のままだったら、その意見を聞いて、カルネ村行きを改めていただろう。

 

 

「──ですので、アインズ様。万が一を考えて、早急にデミウルゴスの蘇生を視野にいれるべきかと進言致します」

「……デミウルゴスを?」

 

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 何故なら、今の彼は『モモンガ』ではない。『モモンガ』の姿をしているだけの、『鈴木悟』だ。

 

 他のNPCたちに対して強い恐怖を覚えていると共に、かつての仲間たちが残した思い出によって、まだ完全に未練を捨てきれていないのだ。

 

 

 分かっては、いる。眼前のNPCたちが、正真正銘の怪物であるということを。

 

 

 けれども、同時に、眼前のNPCたちが、『鈴木悟』にとっては青春の……黄金のように輝く思い出でもある。

 

 なので、一部を除いて基本的に嫌悪の対象である……それが、現在のNPCたちに向ける、『鈴木悟』の正直な気持ちであった。

 

 

 ──その中で、デミウルゴスは違う。この世界に来た当初の頃ならともかく、今は違う。

 

 

 『牧場』での行いを思えば、もはや『鈴木悟』にとって、今のデミウルゴスは思い出を穢した、仲間たちの皮を被った化け物にしか見えていなかった。

 

 ……ちなみに、同様にシャルティアも嫌悪の対象になっていたりするが、今は関係ない。

 

 

「ふむ、理由を述べよ」

 

 

 だから、そう口では答えつつも、その内心は完全に冷え切っていた。どんな理由であろうと、蘇生させるつもりは欠片もなかった。

 

 出来る事なら、二度とその名を聞きたくない……それほどに、『鈴木悟』は、悪魔であり怪物であるデミウルゴスを嫌悪していた。

 

 

「アインズ様も御存じの通り、これまでナザリックの内側を私が、外側をデミウルゴスが統括し、必要に応じてアインズ様の指示を仰ぎながら、各々へ命令を出しておりました」

「……そうだな。それで?」

 

 

 ──言われてみれば、そうかもしれない。

 

 

 今更ながらに、『ナザリック』の指揮系統を思い浮かべた『鈴木悟』は、心の中で頷く。思い出すと、非常に憂鬱になってしまうが……で、だ。

 

 

「現在、デミウルゴスの代わりに外の統括を、パンドラズ・アクターが担っております。本来であれば、私がそちらをやりたいところですが──」

「──少し、待て。少々、考え事をする」

 

 

 反射的にアルベドへそのように命令を下せたのは、ファインプレーであった。「──はっ!」指示に従い、2人は沈黙する。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 何やら、非常に聞き捨てならない言葉が飛び出してきて、思わず『鈴木悟』は……飛び出しかける動揺の声を、幾度となく抑えた。

 

 

(ぱ、パンドラズ・アクター……し、しまった、忘れていた。そうだ、NPCたちの中で、ある意味一番気を付けなければならない相手なのは、こいつだった!)

 

 

 ……感情抑制は、本当にこういう場合には非常に役に立つ。

 

 

 仮にソレがなかったら、『モモンガ』としてはあるまじき動揺を露わにしていただろう。

 

 何故なら、パンドラズ・アクターは『鈴木悟』が手掛けたNPCであり、ある種の、若かりし頃の暴走というやつであり……同時に、ナザリックの宝物殿の守護者でもあるからだ。

 

 

 そう、『鈴木悟』を動揺させたのは、この宝物殿の部分。

 

 

 そこには、かつての仲間たちと共に集めた、ユグドラシルにおいても非常に希少なアイテムや素材が納められている。

 

 仲間たちが装備していた神器級の装備や、ワールドアイテムだけではない。

 

 そのワールドアイテムの中でも、使い切りであるが故に、更に凶悪な効果を持つ『二十』と呼ばれるアイテムがいくつか、そこに納められて──いや、違った。

 

 

(馬鹿が! 俺の馬鹿野郎! なんで忘れていたんだよ! 俺の大馬鹿あああ!!!!)

 

 

 心の中で、『鈴木悟』が己を罵倒するのも致し方ないことであった。

 

 何故なら、ナザリックが保有しているワールドアイテムの幾つかを、守護者たちに渡したままでいたことをすっかり忘れていたからだ。

 

 

 どうして渡したのかと言えば、それは守護者たちを護るためだ。

 

 

 ワールドアイテムの効果に対抗する為には、同じくワールドアイテムを所持しているか、極一部の条件を満たしたプレイヤーが、スキルをタイミングよく使用するしかない。

 

 NPCたちに、そんなスキルはない。というか、プレイヤーではない。

 

 必然的にワールドアイテムに対抗するには、同じくワールドアイテムを所持させるしかないわけだ。

 

 なので、世界に居るかもしれないプレイヤー……その者たちが保有するかもしれない、ワールドアイテムに対抗する為に、守護者たちに渡した……そう、渡してしまっていたのだ。

 

 

(糞がぁああ!!! くそっ! くそっ! ……くそ、恨むぞ、過去の俺……!)

 

 

 以前の『モモンガ』ならば、当然の処置であると考えていた。

 

 だが、今となっては……なんて事をしてしまったのだと、罵る言葉しか出てこない。

 

 というのも、ワールドアイテムのどれもが、ユグドラシルのゲームバランスを崩す程に凶悪な効果を発揮する。

 

 直接的にダメージを与える類ではないアイテムですら、上手く使えば一気に形勢を逆転させてしまうほどで……それを、よりにもよって守護者たちが所持しているのだ。

 

 これを罵らずに、なにを罵れば良いのか……こみ上げてくる怒りと不安を必死に抑え込みながら、『鈴木悟』は、改めてアルベドたちへと視線を向けた。

 

 

「すまない、それでは続きを話せ」

「──はい。それで、現在はパンドラズ・アクターが代理として外の統括を行っておりますが……」

「ますが?」

「前任であるデミウルゴスのやり方と、あまりに違い過ぎて……性急過ぎるあまり、少々問題が生じ始めております」

「──ほう?」

 

 

 やり方、つまりは方針だ。

 

 その話に、『鈴木悟』は思わず内心にて首を傾げた。

 

 さすがに、自ら手掛けて作り出したNPCだから、パンドラズ・アクターに関しては誰よりも知っている。

 

 記憶が確かなら、パンドラズ・アクターの属性は中立で、カルマ値を少し低く設定した覚えがある。

 

 実際に会った時の感触では、設定通りにアイテムに固執こそするが、守護者たちの定めた方針を蔑ろにしてまで我を通すような性格には見えなかった。

 

 そのパンドラズ・アクターが、わざわざ……気になった『鈴木悟』は詳細を尋ね……そして、更に困惑を深めた。

 

 

 一言でいえば……パンドラズ・アクターがやっているのは、デミウルゴスが行っていた悪行(『鈴木悟・主観』)の是正であった。

 

 

 有無を言わさず、例外なく、統括代理として、一切合財全て止めさせた。しかも、ただ止めさせただけではない。

 

 それまでデミウルゴスが溜めていた資金を、その悪行によって被害を受けた者たちに分配するばかりか、その事に苦情を入れたデミウルゴスの部下を処罰したというのだ。

 

 

「これによって、彼に対する不満が出始めております」

「不満だと?」

「直接的ではありませんが、ナザリックの利益を他所へ譲渡しているも同じ……反感を抱くな、というのが無理な話かと思います」

「ほう、そうか」

「ワタクシと致しましては、処罰なりを与えて謹慎させ、デミウルゴスを蘇生させて再び指揮を執らせるのが得策かと……」

 

 

 これによって一部の者たちから反感を買ってしまっている。

 

 それは、アルベドの主観ではなく、客観的な事実なのだろう。

 

 話を横で聞いているシャルティアが、明らかに苛立ちを隠しきれていないのが、その証拠だ。

 

 なので、早急にデミウルゴスを蘇生させ、パンドラズ・アクターを再び宝物殿へと戻すべきでは……というのが、事情を把握している者たちの総意だとアルベドは告げた。

 

 

「ふむ、そうか……」

 

 

 一通り、話を聞いた『鈴木悟』は、表面上こそ神妙な面持ちで考え込むような素振りを見せていたが。

 

 

(そうか、パンドラズ・アクターが……理由は分からないが、良くやったぞ!)

 

 

 その内心は、喜びに満ち溢れていた。

 

 正直、『モモンガ』ならともかく、『鈴木悟』としては……心から喜ばしい話であった。

 

 本当に、嬉しい。思わず、感情抑制が働いたぐらいに。

 

 もしかしたら、己が己を取り戻したあの時から、初めて聞く嬉しいニュースかもしれない。

 

 ふわりと、心が浮き上がりそうな高揚感。

 

 まるで、背負ったナニカが軽くなるようで、アンデッドでなかったら涙の一つも零していたぐらいに……そこまで思った辺りで、ふと、冷静になる。

 

 

(いったい、どういうことだ?)

 

 

 気になるのは、どうしてパンドラズ・アクターが、そんな事をしているか……である。

 

 

(NPCたちそれぞれに、製作者の面影を見る事はある。まあ、本当に面影だけだが……)

 

 

 内心、また首を傾げる。

 

 

(パンドラズ・アクターは、俺が作った。そのような行動を行うという設定を入れた覚えはないし、仮に俺の影響だとしても、そんな大それた行動を取るだろうか?)

 

 

 強いて挙げるとするなら、極度のアイテムフェチという要素ぐらいしか心当たりはないが……ふむ。

 

 

「……おそらく、ゾーイの目を逸らす為だろう」

 

 

 本当かどうかは分からないが、目的はなんであれ、人を助ける行動を取ってくれるパンドラズ・アクターを非難する気にはなれない。

 

 

「ゾーイにとって、デミウルゴスへの印象は最悪だ。だからこそ、ナザリックが一枚岩ではなく、人を助けようと思っている者がいる……そう、思わせたいのかもしれないな」

 

 

 とりあえず、それっぽい言い訳を作って誤魔化すことにした。

 

 

「しかし、その為にナザリックの利益を……」

「元々、他所から奪ってきた物だ。それが無くなったところで、振り出しに戻るだけだ。それほどのマイナスになるわけではない」

「……では、デミウルゴスの蘇生は、もうしばらく延期するわけですね?」

「うむ。私としても心苦しいが、これにも理由はある」

「まあ、それはいったい?」

「向こうはこちらの戦力が減ったと思って油断している。万が一、お前たちを蘇生させる事が出来ると知られたら、それこそ悠長に動いてはいないだろう」

 

 

 ──それに、だ。

 

 

「油断している相手ほど、楽な相手はいない。しかし、その為にはお前たちにも余計な苦労を掛ける事になるだろう」

 

 

 ──だから、もうしわけない。

 

 

 そう言って、『鈴木悟』は……深々と頭を下げた。

 

 瞬間、傍で控えていたユリは目を見開き、ヒュッと息を呑んだ。

 

 それは、進言していたアルベドも、その隣で感動していたシャルティアも、例外ではなかった。

 

 

「とにかく、デミウルゴスを蘇生させるまで、お前たちには負担が掛かるだろうが……もうしばらく、耐えてくれ」

「──はっ!」

 

 

 うるさく騒ぎ立てられる前に、顔を上げてハッキリ明言する。

 

 それだけで、これ以上はアインズの顔を潰すと判断した2人は、背筋を伸ばして一礼すると、そのまま足早にその場を離れ……己の職務へと戻って行った。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………その後ろ姿が、見えなくなったのを確認した『鈴木悟』は。

 

 

(パンドラズ・アクターのことは非常に気になるが……とりあえず、人助けをしているのだから……そう、悪いようにはならないだろう)

 

 

 ひとまず、新たに生じた懸念事項に対して、一時的に蓋をすると。

 

 

「では、私たちは、私たちのやる事を成すとしよう」

「──畏まりました、アインズ様」

 

 

 改めて、己の役目を果たす為に、マーレとシズを『伝言』にて呼び出し……外へと、カルネ村へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 




ステンバーイ……ステンバーイ……

ステンバーイ……ステンバーイ……

ステンバーイ……ステンバーイ……

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