オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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おう、誰か続き書いてくれや

AIノベリストに頼めば、サーフ系ボディビルダーが三分ブリッジしながら続きを書いてくれるってマネージャーが話していたから後を頼みたい


(裏話)骸骨の覚悟・人形の節穴

 

 

 

 ──時刻は夜。日が落ちてから、それなりの時間が経った。

 

 

 

 場所は、村はずれにポツンと設置されている、小屋だ。

 

 そこは、元々は倉庫として作られた。現在は、村の代表者が一同に集まって会議を行う場所として活用されている。

 

 とはいえ、会議といっても、だいたいはそこまで大事な内容ではないし、会議を行う際に必ずそこを使うわけではない。

 

 

 そういう事は、基本的に村長の家で行われる。

 

 つまり、そこを利用する時は、理由があって村長の家が利用出来ない場合だ。

 

 

 なので、必然的に使用する頻度の低いその小屋は……お世辞にも、小奇麗とは言い難い状態になっていた。

 

 いちおう、使えないほどに汚くはない。少々埃被っているところもあるが、最低限の掃除が当番制によって成されていたから。

 

 しかし、それはカルネ村在住(あるいは、この世界の生まれか、リアルの生まれ)の基準での話だ。

 

 この世界の王室ですら、白旗を上げるぐらいに綺麗な部屋を宛がうのが当たり前だと思っているナザリックの者たちからすれば、そんな部屋に主を連れて行くことすら、腹立たしい話であった。

 

 

『──良いのだ。私が、良いと判断した。それが不服か?』

 

 

 しかし、当の主よりそのように断言されてしまえば……守護者であろうがメイドであろうが、異を唱えるのは、あってはならない事であった。

 

 

『──私が戻るまで、誰一人として小屋に近付くな。一切の盗聴、偶発的な盗み聞きを禁止する。如何なる理由であっても、それを成したと私が判断した場合、その者をナザリックより追放し、二度と私の前に姿を見せることを禁止する!』

 

 

 まあ、どちらかと言えば、その後に言われた死刑宣告よりも辛い命令が下されたことの方が、彼女たちにとっては重大だったのだが……まあいい。

 

 

 とにかく、だ。

 

 

 ナザリック追放(つまり、見限られる)というギロチン宣告をされてもなお、好奇心を働かせて盗み聞きしようとする愚か者は、ナザリックには居ない。

 

 

 当然ながらカルネ村の人達も同様である。

 

 

 ナザリックのような狂気染みた忠誠心はないが、アインズは命の恩人である。命を助けた相手を見捨てられるほどに、村人たちはクズではなかった。

 

 結果、村人の大半(子供は寝てしまった)は自宅の中で不安を押し殺し、ナザリックの僕たちは顎を砕かんばかりに噛みしめながら……明かりが灯る、その小屋を遠くから見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………で、だ。

 

 

 その、小屋の中で何が行われているかと言えば……まず、お互いの自己紹介と、どのような経緯でこの世界に来たかという互いの現状の擦り合わせであった。

 

 

 その際、『鈴木悟』は……いや、悟は、全てを話した。

 

 

 己がこの世界に来るまでに、何をしていたか。

 

 さすがにその日のログイン内容全てを詳しく覚えてはいないが、おおよその事は記憶していた。

 

 

 それから、この世界に来てどのように行動していたか。

 

 その際、アンデッドとなった己の精神性がどのように変化をしていたか、どのように感じていたか、全てを話した。

 

 

 もちろん、その中には……クレマンティーヌを死に追いやった、王都襲撃事件『ゲヘナ』に関しても、しっかり含まれていた。

 

 

 何の為に、『ゲヘナ』を行ったのか。

 

 それを行うに当たって、何が起こっていたのか。

 

 その時の己が、どのように感じて、動いていたか。

 

 

 そして、アインズ(モモンガ)から『鈴木悟』へと戻ってからの日々。NPCたちを、化け物にしか思えなくなっていること。

 

 

 カルネ村に居る理由は、王都より奪ってしまった物資への補填。

 

 NPCたちの崇拝するアインズ像を崩さず、困窮するであろう王都の人達を助ける為に、まずは食料を生産して届ける……その為に、今は急ピッチで作業を進めている。

 

 他にも、細やかな事をしっかり、思い出せる限り、全てを話した。

 

 それは、アインズ……1人の人間である鈴木悟としての、心からの謝罪でもあった。

 

 

 ──このまま、殺されてもいい。それで、少しでも気が晴れるのであれば。

 

 

 この時、悟は本気でそう思っていた。

 

 どうしてそう思ったのか、それは悟自身にもコレといった説明を付けられなかった。

 

 ただ……誰かに、己の罪を、己の心情を、ありのままに吐き出せたからだろうか。

 

 

 不思議と、もういいのかもしれない……そう思った。

 

 

 恐怖はある。死にたくない、その想いも消えていない。

 

 しかし、このまま殺されても、それが定めであり報いだ……そんな考えが、沸々と湧いてくる。

 

 

 ここで殺されて当然なのだ。

 

 

 彼女にはその権利があって、今の己を殺せる数少ない相手……なればこそ、代表して殺すべきなのだと……そんな事すら、空っぽの脳裏を過った。

 

 でも、彼女は殺さなかった。

 

 無言のままに、簡素なテーブルに置かれた、骨壺。それは、彼女が抱えて持って来た……クレマンティーヌの遺骨。

 

 

 ……言われずとも、悟は察した。

 

 

 ゆえに、悟は……それに向かって土下座をした。

 

 

 正式な礼儀作法など、分からない。

 

 どれが正解なのかなんて、分からない。

 

 

 けれども、これが悟の知る最大の謝罪であり……額を地面にこすり付けたまま、悟は……かれこれ一時間近く、そのままでいた。

 

 

 ──言葉など、出なかった。どんな言葉を掛ければ良いのか、それすら分からなかった。

 

 

 何を言っても、空虚な言い訳に思えてならなかった。己が殺したも同然の相手に、何を言えば良いのだろうか。

 

 だから、悟は、頭を下げるしか出来なかった。

 

 いっそのこと、彼女に……実は運営であった事が発覚した彼女に殺されるのであれば、どれだけ楽だろうか。

 

 

 でも、彼女は殺さなかった。

 

 はっきりと、今のお前は殺さないと断言された。

 

 

 でも、本当は殺してほしかった。

 

 苦しくて、苦しくて、堪らない。

 

 

 死を恐れる気持ちはあるけれども、ソレ以上に、この苦しみが続いてゆくことが、悟にとっては辛かった。

 

 自殺は、出来ない。まず、1人になることをNPCたちが許さないし、すぐさま回復させられてしまうだろうから。

 

 そのうえ、NPCたちがその後にどのような行動を取るか分からないし、王都でやったことを、NPCたちがそれぞれ独自に行う可能性があるのを否定出来ないから。

 

 

 ──でも、苦しいのだ。だって、今もなお己の身体は血に塗れてしまっている。

 

 

 逃げ出すわけにはいかないし、逃げる事なんて許されない。それは、分かっている。誰よりも、理解している。

 

 

 ──でも、苦しいのだ。何もかもを投げ捨てて、楽になりたい……そう、考えてしまう。

 

 

 だから、殺して欲しいと悟は思ったし、そうしてくれと実際に彼女へ願った。

 

 自分一人だけのうのうと生き続けることに、耐えられない。もう、辛くて、辛くて、堪らないのだ。

 

 だから、殺して欲しいと……でも、彼女は……けして、首を縦には振らなかった。

 

 

「……鈴木悟。貴方が心より悔いているのは分かった。だが、そこにクレマンティーヌはいない。あるのは遺骨と、私の頭に残る思い出だけだ」

「ゾーイさん、でも、俺は……」

「そろそろ顔を上げなさい、鈴木悟。悔やんだところで、罪は消えない。だが、私は貴方に死を与える権利などない。そして、私に貴方を断罪出来る権利もない」

「え?」

「今の私はもう、どこまでが調停者かも分からない。しかし、均衡を乱す可能性がある者に、我が蒼天の剣は振り下ろされる。言い換えれば、必要でない限り、それ以外にこの刃は向けられない」

「……俺が、その均衡を崩す者ではないのですか?」

 

 

 そこまで言われて、初めて悟は顔を上げた。

 

 促されるがまま手を引かれ、席に座らされた悟は、テーブルを挟んで向かい合う形になった。

 

 

(俺が……どうして?)

 

 

 ……てっきり、そうだと悟は思っていた。

 

 

 何故なら、ユグドラシルにおける『調停者ゾーイ』は、ワールドエネミーみたいな感じで振る舞っていることが多いのだけれども、それだけではない。

 

 

 言うなれば、お仕置きというやつだ。

 

 

 意図的に改ざんしたデータを使用してチートで遊び、ゲームバランスを崩す者。

 

 規約スレスレのグレーな行為で、他のプレイヤーへ意図的に迷惑を掛ける者。

 

 明確な違反をしてはいないが、あまりに非常識なことをする者。あるいは、精神的苦痛を与える者。

 

 

 頻度は極々稀ではあるが、そういうプレイヤーに対して、ゾーイは調停という名のお仕置きを行う時がある。

 

 実際、悟も昔……ギルドメンバーの1人である『るし☆ふぁー』が、『悪ふざけし過ぎて怒られちゃった』と珍しく肩を落としていたのを目撃した事があり、それが色濃く記憶に残っていた。

 

 

「今の貴方は、違う。多大な罪を背負いはしたけれども……貴方は、償いたいと思っているのだろう?」

「それは……でも、どうやって償えばいいのか……」

「難しく考える必要などない。人は、いや、生き物は、常に誰かの命を奪う事で生き長らえる。そこに大小の違いはあっても、奪わずに生きている者などいない」

「……屁理屈では?」

「事実だ。人の理屈で、奪っても許される相手だと誤魔化しているだけだ。あるいは、誰かに奪う事を肩代わりさせて、己は汚れていないと思い込んでいる……ただ、それだけだ」

「それは……そうなのかも、しれませんけど……」

 

 

 そう、言われた悟は……でも、それでも、奪ってしまったのもまた、事実。

 

 人としての意識が、己を苛ませる。

 

 どうしても、それもまた己を誤魔化す言い訳だという内なる声を消せなかった。

 

 

「──ならば、月並みな意見ではあるが、奪った分だけ誰かを助けたら良いのではないか?」

「え?」

「王都の人達にやろうとしていることと同じだ。奪った命は回帰しない。ならば、これから生まれてくる命の為に、動けば良い」

「で、でも、そんなの許されるわけが……」

「許すも許さないも、それならば生き長らえる為に奪った者たちから復讐された時、素直に首を差し出すのが正しい行いなのか?」

「いや、いや、それは……」

「そこで首を差し出さない時点で、全ては身勝手な屁理屈だ。それは、どちらの世界でも変わらない。結局、強者の理屈と弱者の理屈のせめぎ合いでしかない」

「……だが、そうだとしても、俺は……!」

 

 

 だからこそ、そう言われても、はい分かりましたと納得出来るわけがなかった。

 

 何故なら、彼女のその言い分は、人の目線ではない。

 

 もっと上の……超越した存在、正しく、『調停者』としての目線で語っているからだ。

 

 

「それに、あまり悩んでいる時間はない」

「え? それは、どういうことですか?」

「言葉通りだ。鈴木悟、先に結論から述べよう。今の貴方が、そのままでいられる時間はそう長くない。いずれ、元のアンデッド……アインズでありモモンガでもある、オーバーロードへ戻るだろう」

「えっ!?」

 

 

 思わず、悟は席を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。というか、かたん、と椅子が尻餅をつくかのように転がった。

 

 けれども、それを気にする余裕が悟には無い。

 

 悟の空洞の頭を過るのは、アインズ(モモンガ)として行動していた時の……今の己ではまるで理解する事が出来ない、異質な精神であった。

 

 

(い、嫌だ! もう、アレに戻りたくは……!)

 

 

 人を殺しても全く気にせず、それどころか珍しい玩具を子供にあげるかのように、嬉々としてNPCたちに下げ渡していた感覚……人のフリをした化け物。

 

 

 ……恐ろしい! 

 

 

 心から、『鈴木悟』は思った。そう思える己が無くなってしまうことに、悟は心から嫌悪した。

 

 抑制が正常に働いているのに、それでも思わず身体が震えてしまうほどの恐怖を、悟は覚えずにはいられなかった。

 

 

「だから、鈴木悟。誰かを助ける為に生き長らえると決めるなら、己が己でいられるうちに、少しでも早く種族を変更する必要がある」

「しゅ、種族を、ですか?」

 

 

 訝しむ悟に対して、彼女は一つ頷いた。

 

 

「貴方が思っている以上に、魂を宿すアバターが精神に与える影響は大きい。今は、死のショックによって一時的に本来の鈴木悟を取り戻しているが……それが永遠に続くわけではない」

「そんな……いや、そうかもしれない」

 

 

 彼女の言葉に思うところがあったのか、悟は……肉どころか血液の一滴すら付着していない、剥き出しの両手を見つめる。

 

 

 確かに、言われてみたらそうだ。

 

 

 今は『鈴木悟』だという意識を強く持てているが、それが何時まで続いてくれるかは分からない。

 

 なにせ、今の身体には肉が無い。血だって一滴も流れないし、食事も睡眠も排泄もない。怪我だってするのかすら、分からない。

 

 性欲は……正直、よく分からないが、それっぽい感覚はあったような気もする。でも、どうせ抑制されて冷静になってしまうから考えるだけ無駄だ。

 

 感覚が、あまりに違い過ぎる。人として、いや、生物として持って当たり前の感覚が、この身体には無い。

 

 

(最初の頃は、食事や睡眠が取れない事が残念で憂うつに思っていたけど……いつの間にか、それが当たり前になって何も感じなくなっていた)

 

 

 つまり……いずれはこの罪悪感も、取るに足らない些事だと思うようになる? 

 

 

(……駄目だ。俺が言える事じゃないけど、それだけは駄目だ)

 

 

 背筋が震えあがるほどの恐怖。それを上回る、嫌悪感。

 

 ぬるりと、生暖かいナニカが全身から滴り落ちているような感覚を……感じながらも、同時に。

 

 

 ──それは、目の前の貴女も同じなのでは、と。

 

 

 その瞬間、悟は気付いてしまった。変化しているのは、己だけではないのだということを。

 

 

(……ああ、俺のせいだ。俺が、貴方を人から遠ざけてしまったんだ)

 

 

 堪らず、『調停者ゾーイ』の……テーブルに置かれたままの、クレマンティーヌの骨壺を見やり、悟は我知らず項垂れる。

 

 ナザリックに居て、NPCたちに怯えて支配者として振る舞い続ける日々の中で、辛うじてこびり付いていた『鈴木悟』がすり減っていったように。

 

 

 彼女もまた、『調停者ゾーイ』に引きずられているのだ。

 

 

 そして、そんな彼女を人の側へ繋いでいてくれていた友人がいた。でも、今はいない。間接的にとはいえ、悟が奪ってしまったからだ。

 

 それゆえに、楔を失った彼女は再び調停者へと近付きつつある。水に落とした本のように、記された自我と記憶が滲み続けているのだろう。

 

 それを、薄らとではあるが彼女は自覚している。己が人ではなく、調停者に成りつつあることに。

 

 それでも、彼女は己に……自分の事よりも、悟へ声を掛けた。

 

 心まで人外に成り果てる前に、生きて誰かを助ける事で償う道を選ぶのならば、急いで人に戻れ、と。

 

 

(でも……あれだけ人を殺しておいて、今更人間に戻って生き長らえるなんて……そんな虫の良い話を……)

 

 

 その事は、嬉しく思う。経緯や目的はなんであれ、生きろと言ってくれたのは、素直に嬉しい。

 

 しかし、ソレ以上に、悟の心を引き留める罪悪感。

 

 このまま死ぬことが正しいのではないか。そんな事が許されるわけが……そんな考えが、消えてくれない。

 

 

「……どうして、俺にそこまでしてくれるのですか?」

 

 

 ゆえに、悟は……今更ながらではあるが、率直に尋ねた。

 

 リアルにて付き合いがあるならばともかく、相手は運営だ。

 

 どのような人物かは知らないが、開発者の1人であるならば、かなり上の階級の人物であるのは間違いない。

 

 いくら悟が、ユグドラシルにおいて上位に入るギルドの長を務めていたとはいえ、所詮は数ある1人のプレイヤーでしかないはず──っと。

 

 

「……どうして?」

「え、あ、はい、どうしてですか?」

「そう、か。どうして、か。そうだな、どうしてだろうか……?」

 

 

 何故か、彼女は心底驚いた様子で目を瞬かせた。

 

 まるで、自分でも何をやっているのかをはっきりと理解していなかったかのような……そんな様子で、何度も瞬きを繰り返し……その視線が、テーブルの骨壺へと向けられた。

 

 

「……そうだな、色々と、私自身も上手く説明しきれない部分なのだけれども」

 

 

 そう呟きながら、その手が骨壺を掴み……優しく抱き留める。そのまま、問い掛けるかのように何度か摩った後。

 

 

「お前を助けたら、それが後々大勢の困っている人たちを助けることに繋がると……何となく、それが分かっているからだろう」

 

 

 そう、告げた彼女の顔には。

 

 

「難しく考える必要はないんだ。ただ、困っている人がいたら、助けるのが当たり前……誰かの為に動く理由なんて、本来はその程度で十分なんだ」

 

 

 薄くではあるが、『調停者ゾーイ』としてではなく……悟と同じく、1人の人間としての笑みが、浮かんでいた。

 

 

 

 

 ──誰かが困っていたら。

 

 

 

 

 その瞬間──悟は……鈴木悟は、思い出した。

 

 

 

 

 ──誰かが困っていたら、助けるのは当たり前! 

 

 

 

 

 己がユグドラシルに触れて、間もなく。

 

 初めて心から誰かに惚れ込み、この人のようになりたいと……強さと優しさを見せてくれた、憧れの人物を。

 

 

(……ああ、そうだった)

 

 

 悟は、思い出した。

 

 

(ナザリックは……アインズ・ウール・ゴウンの始まりは……)

 

 

 この日、この時、この瞬間──輝き始めた思い出の始まりの瞬間を。

 

 

(まだ、俺は死ぬわけにはいかない。ただの言い訳でしかなくとも、やらなければならない事がある。それに、ここで死ねば、俺はみんなの思い出を穢したまま終わってしまう)

 

 

 そして──悟はこの時、決断した。

 

 たとえ、人々に蔑まれ、怖れられようとも……かつて、己を助けてくれた、あの人のように。

 

 

(俺の未練が今を招いた……だったら、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長として……ナザリックを終わらせなければ……!)

 

 

 それは……閉ざされた夜空より開かれた、ひとすじの光明に見えた。少なくとも、悟は……そう感じていた。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………一方、その頃。

 

 

 『鈴木悟』が知る由も無いことであるが、ナザリック地下大墳墓では……守護者たちが集まり、何やら言い争っていた。

 

 

「──アルベド! どうしてアインズ様の護衛に向かうのを禁止するんでありんすか!? よりにもよって、あの痴れ者と会談しているんでありんしょう!?」

「そうだよ! あのゾーイとかいうやつが来ているんでしょ! マーレから『伝言』が来たからこっちは分かっているんだよ!」

「説明ヲ求メル、何カ理由ガ有ルノカ?」

 

 

 守護者と呼ばれているNPCたちが、そのNPCたちを統括する役目を与えられたNPCに迫る。

 

 その迫力たるや、常人がその光景を目にしただけでショック死してしまうほどの、凄まじい気迫を放っていた。

 

 

「理由も何も、これもアインズ様の策なのよ」

 

 

 そんな中……アルベドと呼ばれた、腰の辺りより黒い翼を生やしたNPCは、内心を表しているかのような複雑な面持ちで、守護者たちの意見を切って捨てた。

 

 

「策って、どういうことでありんすえ? そんなこと、アインズ様は一言もおっしゃってはおりんしたけど?」

 

 

 しかし、それで納得しろというのも無理な話であって……守護者の1人であるシャルティアより、苦情が入る。

 

 シャルティアは、良く言えば素直でまっすぐ、言葉を選べば考えるのが苦手、悪く言えば馬鹿で調子に乗りやすいNPCである。

 

 当然ながら、アインズ様の策と言われて詳細を察せられるほどに頭は良くない。

 

 まあ、シャルティアに限らず、それだけで理解しろというのが無理な話ではあるが……理解出来るとするなら、今はいないデミウルゴスぐらいだろう。

 

 

「……はあ、いいわ。それなら、簡単に説明しましょう」

 

 

 ここに、デミウルゴスが居たら代わりに説明してくれるのに……そう言いたげな様子を欠片も隠さずに、アルベドは……集まっている守護者たちに説明を始めた。

 

 

 ……で、アルベドの説明を簡潔にまとめると、だ。

 

 

 まず、アインズ様は、ゾーイとの直接対決を避けようと考えていた。理由は考えるまでもなく、真正面でやり合えば分が悪いと判断したからだ。

 

 

 しかし、ゾーイと応対すれば即戦闘に移行しかねない現状を、そのまま放置するわけにはいかない。

 

 

 何故なら、アインズ様は世界征服を考えている。

 

 そのうえで、ゾーイの存在は絶対に邪魔になる。

 

 どうにかして、ゾーイとの敵対関係を解消する必要があった。

 

 

「アインズ様は何らかの手段を用いて、ゾーイがカルネ村に来る事を予期していた可能性が……いえ、おそらくは、もっと前からゾーイの行動を裏からコントロールしていたかもしれないわね」

 

 

 そうでなければ、わざわざカルネ村などに直接足を運ぶ理由が思いつかない。知りたい事があれば、ルプスレギナが常駐しているので、彼女に聞けば分かるからだ。

 

 実際、それなら説明が付くと、アルベドは告げた。

 

 わざわざ食料を作って王都に提供しようとするという話を耳にした時、正直なにが目的なのかサッパリ掴めなかったが……この時の為だと思えば納得出来た。

 

 全ては、印象操作である。『ゲヘナ』を行ったのは、王都の人達を狙ったわけではない……そう、思わせたいのだ。

 

 自分たちの仲間を誘拐され、害されようとしたから反撃に打って出ただけである。実際、セバスが拾ってきたツアレがそうなったのだから、嘘は言っていない。

 

 その範囲が広がったのは、誘拐犯の仲間である『八本指』が思っていたよりも王都に食い込んでおり、誰が無関係なのかが掴めなかったため。

 

 

「つまり、デミウルゴスの一件は事故であり、敵対しようとは考えていなかった……おそらく、アインズ様はそのようにゾーイに話をしているはずよ」

「で、では、アインズ様は……!」

「あえてゾーイへ膝をつくことで、敵意が無い事を示した。勝利する為であれば人間のフリをする恥辱も呑み込む御方……ゾーイも、まさかアインズ様のそれが策の一つであるとは……ね」

 

 

 それに……ニヤリと、アルベドは笑みを浮かべた。

 

 

「カルネ村にはアインズ様に恩を覚えている人間が暮らす村。か弱い彼らが自ら武器を手に取って立ち向かってくれば、間違っているのは己かと思うのは、必然でしょう」

「す、すっごい……! アインズ様、そんな事まで考えて……!」

 

「そのうえ、お伴に付けたのはユリ・アルファ、シズ・デルタ、ツアレ、マーレの4名。ツアレは言うに及ばず、ユリとシズは人間に対しても優しい。マーレは、ドルイドの職業を持っていることから、仕事の為に来ているのは明白」

「なるほど……誰もが村人たちに好意的に接し、村人たちもアインズ様に好意的に接すれば、猿でもお互いに良好の関係を築いているのが分かるでありんすえ」

 

「ええ、本当に。何時からこの策を実行していたのかは私にも分からないけど……思えば、デミウルゴスを蘇生しないと決めた辺りから、考えていたかもしれないわね」

「ナ、ナント……アインズ様ハ、イッタイ、ドレ程未来ヲ読ンデ動イテイルノダ……!」

 

「尊きあの御方の知略を完全に読み解くなど、私たちには不可能よ。でもね、だからこそ私たちは、アインズ様の思惑を少しでも読み解き、裏で動く必要があるの」

 

 

 ──その瞬間、守護者たちの目が一斉に見開かれ、次いで、真剣な眼差しを向けた。

 

 

「では、何をすればいいんすえ?」

「簡単な事よ。今、アインズ様は自らを囮にして、ゾーイをカルネ村に引き付けている。つまり、その間に私たちは……被害者の立場になればいいのよ」

 

 

 ピン、と。

 

 アルベドは、白魚のように細くしなやかな人差し指を立てた。

 

 

「都合良く、少し前から遠くより墳墓を覗きに来ている人間どもがいるでしょう。あいつらを利用するのよ」

「あいつらって……あの、人間たち? あの人たちって、たしかバハルス帝国とかいう国の?」

「ええ、そうよ。実は、デミウルゴスが前に話していたのだけれども、どうやらあの国には、魔法の深淵とやらを覗く為なら国の全てを売り渡しても良いと考えている奇特な──」

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………とまあ、そんな感じでNPCたちが、『鈴木悟』の知らぬところで話し合っている……その、少し離れた物陰にて。

 

 

(なるほど、そう動きますか……)

 

 

 ドッペルゲンガーの能力を駆使して、至高の御方の中でも最も隠密性に長けた御姿を借りて盗み聞きしている者がいるとは。

 

 

(で、あれば……外部を統括する私が代表して動くのは道理であり、必然というわけですね)

 

 

 誰一人、気付いてはいなかった。

 

 

 




タグ通り、ナザリックに敵対するルートやで

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