──ざわめきが、平坦な心を波立たせる。
衝動に駆られるがまま歩いて、しばらく。日も落ちた夜闇の中で、彼女は……朽ち果てたと表現してしまうような、遺跡跡の前に立っていた。
それは、この世界において明らかに似つかわしくない外観をしている。
年月がどうとかではない。根本的に、辿っていた歴史が違うのだろう。そう思ってしまうぐらいにその遺跡は広大で、また、壮観であった。
『ナザリック地下大墳墓』
そんな言葉が、脳裏を過る。
合わせて、昼前にカルネ村を離れたアンデッド……鈴木悟の気配を深奥より感じ取った彼女は、どうしたものかと首を傾げる。
──滅せよ。
この身に宿るコスモスの力が、彼女の心に木霊する。
……それは、まだ早いのではないか?
そんな違和感が、脳裏を過る。
今はまだ、そうしてはならないのだと心の何処かで自制が入る。何故かは分からないが、それをしてしまえば、取り返しのつかない事になると彼女は確信を得ていた。
──均衡を乱す者を、断罪せよ。
けれども、内なるモノが急き立てる。己の存在理由、それを果たせ、その為に己はこの地に居るのだと、ざわめいている。
それは、今を護りたいという暖かな想いが生み出した、冷酷なる絶対的な意思。
その意思が、彼女の足を動かす。内より湧き出る力が、彼女の全身に熱をもたらしてゆく。視界が広がり、意識も世界へと広がってゆく。
正確な目的地など分かってもいないのに、始めから身体に浸みついていたかの如く、気付けば彼女は……地下へと続く入口の前に立っていた。
(……ざわめきが、する)
そのまま、彼女は階段を下りる。
数十人が横に並んで出入り可能な巨大な階段を下りて、地下通路へ──振り返って、出現させた蒼天の剣を横一線。
瞬間、背後に迫っていたアンデッドが塵と化した。
真っ二つにしたのではない。レベル200のゾーイの細腕より放たれる本気の斬撃は、低レベルのモンスターなど触れる前に消滅させてしまう。
伊達に『調停者ゾーイ』が、ユグドラシルプレイヤーたちに怖れられていたわけではない。
かつて戦った白銀の騎士ですら、『まともに正面からやりあうのは自殺行為』と愚痴を零したほどなのだ。この程度、足止めにもならない。
……そうして、だ。
等間隔に設置されたランプの明かりが、かなり奥の方まで続いている。その奥より迫る、おびただしい数の骸骨(スケルトン)たち。
「──去ね」
それを見た彼女は、すぐさま『剣』を『銃』に変えると……近づいて来る骸骨たちに銃口を向けると、引き金を引いた。
……。
……。
…………一方、その頃。
現在進行形でギルドアタックを仕掛けられている、『アインズ・ウール・ゴウン』の最奥の玉座にて、状況を確認していた悟は。
(しまったぁぁぁあああ!!!! あれこれ悩んでいたせいで、出迎えトラップのアンデッド罠の解除を忘れてたあぁあぁああぁぁああ!!!!!)
骸骨の眼孔をゆらりと光らせながら、内心にて大絶叫していた。
そして、そんな悟の心の内など知る由もない守護者たちが、表示されたモニターの異変に気付いて……1人の例外もなく、怒りを露わにしていた。
まあ、そりゃあそうだ。
悟と違って、守護者たち(というか、ナザリックの者たち)からすれば、『調停者ゾーイ』は不倶戴天の怨敵である。
一部例外は居るものの、特に、仲間であるデミウルゴスを殺された恨みは相当に深い。
手を出すなという悟の指示が事前に出されていなければ、何かしらの行動を起こしていた可能性は非常に高かった。
……しかし、当の悟は、己の仕出かしたミスを悔いるあまり、そんな守護者たちの殺気立つ姿に気付いていなかった。
いや、まあ、悟のやった事は、ありふれた凡ミスではあるが、これを責めるのは酷というものだ。
あらかじめ来るかもと予告されていても、まさかいきなり出入り口付近にまで来ていると誰が予想しようか。
しかも、来るのがユグドラシルにおいて超有名な『調停者ゾーイ』だ。
歩くラスボス、歩く理不尽とも揶揄された、ソロで戦ってはならない相手筆頭である。いくらなんでも、理不尽過ぎるだろう。
そのうえ、直前まで部下のミスの落としどころにアレコレ頭を使い、そういえばと思い出して対策を行おうと気持ちを入れ替えた……有り体に言えば、間が悪かった。
(やべえ……罠とはいえ攻撃を仕掛けた判定になったせいで、自動的に戦闘が開始された可能性が……!)
だが、間が悪かろうが何だろうが、凡ミスだとしても、ミスはミス。無かった事になど、もう出来ない。
数あるミスの中でも、現状において一番やってはいけないミスを犯してしまったのだという事に思い至った悟は、頭を抱えたくなった。
と、いうのも、だ。
ユグドラシルにおいて、『調停者ゾーイ』との戦闘を避けるうえで最も重要なのは、とにかく攻撃しないことだ。
向こうから攻撃してくる場合は、ゾーイの基準でアウト判定が出ているから、大人しくキルされるか、足掻いてキルされるかの二択しかない。
しかし、向こうからロックオンされておらず、ただフィールドを歩いているだけの時は……こちらからアクションを取りさえしなければ、無害な存在なのだ。
だから、悟は当初……転移罠などを使って、彼女を外に追い出そうと考えていた。
もしも、彼女が完全に『調停者ゾーイ』になっているとしたら、こんなちまちました行動は取らない。
上空からレイストライクを連発してくるだろうし、実際にユグドラシルでも似たような戦法を取っているのを見た覚えがある。
それをしてこない辺り、まだ彼女には人の意識が残っている。
だから、上手く気を逸らして発散してやれば、なんとかなるかも……と、考えていたのだが。
(くそっ! どうする……真正面から当たれば、敗北は必至。既にバトルが始まってしまった以上、決着が付くまでは永遠に追いかけてくるぞ)
まさか、自分の凡ミスで戦端が開かれるとは……至高の御方(白目)の智略を持ってしても、読み切れなかった。
(──そうだ、請負人だ!)
しかし、凡ミスを華麗に回収して利用するのが至高の御方クオリティ。
天啓が如きひらめきが、がらんどうの骸骨にビビビッと走る。
玉座を蹴るようにして立ち上がった悟は、何時の間にか傍まで戻って来ているアルベドへと尋ねた。
「アルベド、絵心がある
「絵心、ですか? 申し訳ありません、私は存じて……確認を取る必要があります」
「大至急掻き集めろ! 直ちに請負人たちを誘導するための看板を作成するのだ!」
「──はっ!」
どんな命令であれ、一切の疑いを挟まない。
暴走する事はあっても、それだけは徹底しているアルベドは、すぐさまNPCたちに指示を下す。
「パンドラ! 請負人たちの現在位置は!?」
「既に、ナザリックの敷地内です。アイテムを使い、ゾーイを入口前まで転移させてしまえば、おそらく鉢合わせになるかと」
「よろしい! 急ぐのだ!」
「──はっ!」
合わせて、パンドラにも命令を下す。
さすがは悟の作ったNPC。阿吽の呼吸とはこの事を言うのか、颯爽とこの場を離れ……って、そうだ。
「他の者たちも、良く聞け。そして、僕たちに通達せよ」
我に返った守護者たちに、悟は改めて命令を下した。
「これより、ナザリックに請負人が入って来るが……いいな、絶対に殺すな。そして、出来うる限り請負人の傍からゾーイを離れさせるな」
どうして、請負人たちの傍に居させようとするのか……それは単に、『調停者ゾーイ』の人間性を維持させるためである。
短い間とはいえ、ナザリックにて『モモンガ(アインズ)』を演じ続けていたからこそ、分かる。
いくら心を強く持とうとも、身体に引っ張られてしまう。それは、もはや人の精神で抗えるモノではない。
最初のうちは、違和感を認識出来るのだ。
しかし、あくまでも違和感に過ぎず、その違和感すらも、月日を経るに連れて徐々に……その怖さが、今なら理解出来る。
本当に、気付けないのだ。いや、気付いた時にはもう、人としての感性が他人事にしか思えなくなっている。
それを元に戻すには、己のように相当な精神的ショックを与える必要がある。あくまでも経験則だが、彼女とて、例外ではないだろう。
だが、悟たちの戦力では、どう足掻いても彼女の精神を元に戻すだけのショックを与える事は不可能。根本的に、レベル差が有り過ぎるからだ。
(たぶん、ゾーイさんの傍には人が必要なんだ。誰かが傍にいる間は、あの人の心が……人へ近づく)
──俺では駄目だ。半分がアンデッドだから、進行を遅らせる事しか出来ない。
歯痒さを覚えながらも、悟は……
……思い返せば、カルネ村ではゾーイは常に1人だった。
いくら誤解だったと説明したところで、御伴のNPCたちがあそこまでゾーイへの警戒心を露わにすれば、恩義を感じている村の者たちが倣うのも致し方ない。
唯一の人間であったツアレも、他のNPCたちの手前、仲良くなろうとはしていなかった。
いや、というより、こちらに落ち度があったにせよ、ツアレにとって恩人以上の相手であるセバスに怪我を負わせた相手となれば、良い感情を抱かないのは当たり前である。
(請負人たちがどんな者たちかは知らないが……おそらく、ゾーイさんは人を護ろうとする。上手く行けば、ゾーイさんも、請負人たちも、互いが互いを護る形になる)
これは、賭けだ。
非常に身勝手な賭けではあるが、下手に戦闘が始まれば最後、請負人たちとてほぼ確実に巻き添えで死ぬだろうから、受け入れてもらうしかない。
(どうか、事情が有って仕方なく請負人をやっている人であってくれよ……少しでも、心を人へ近付けさせる相手であれば……!)
本当に、歯痒い。
己を人に戻してくれた相手が、今や人の心を失くしつつある。
その事に、何とも言い難い悲しみを覚えながらも、悟は祈るような気持ちで……パンドラの作戦が上手くいくことを願った。
……。
……。
…………そんな、骸骨の王からハラハラドキドキしながら見られている事に気付きもしていない、請負人たちは……眼前に立てられた看板を前に、首を傾げていた。
『ここは危ないから覚悟するか、引き返すか、選んでね。死して屍拾う者無し byナザリック』
看板には、日本語に直せば、だいたいそんな感じの内容が描かれていた。
しかも、この看板は妙に真新しい。まるで、つい先程完成して設置したかのような真新しさだ。
その証拠に、くん、と漂う塗料の臭いに気付いた請負人たちは……どうしたものかと互いに顔を見合わせた。
出入り口は、見えている。というか、すぐ前だ。看板は、地下へと続く階段のど真ん中にポツンと設置されている。
周囲には、自分たち以外に人の気配は無い。人外の姿はおろか、知的生命体の痕跡すら見られない。
周囲に一切の痕跡を残さず、看板だけ突き立てて、誰にも気付かれることなく姿を消した……文字にすれば、まるで目的が読めない不気味な相手である。
「……我らは、行くのである」
その中で、少しばかり背は低いけどガッチリとした体格の……全身を甲冑で守った、グリンガムという名の男が、仲間たちと共に先に入って行く。
……今宵、ナザリック地下墳墓にて集結した請負人は、3つのチームに分けられる。
一つは、『ヘビーマッシャー』。
今回参加した人員は4名。リーダーのグリンガムは、その見た目通りのパワーを有しており、帝国にもその名が知られている。実力は、ミスリル級。
一つは、『竜狩り』。
リーダーは、パルパトラ・オグリオン。
80歳という高齢ながらもその実力は高く、槍を巧みに操る。知っている者からは御老公と呼ばれて一目置かれており、仲間からも信頼は厚い。
そして、最後に……『フォーサイト』と呼ばれている、帝国でもその名と実力が知られた4人組のワーカーである。
その3つのチームの中で、最初に地下へと踏み込んだのは……『ヘビーマッシャー』だ。
リーダーである全身甲冑のグリンガムは、人の頭なんぞ一撃でかち割りそうな巨大な手斧を片手に……警戒を怠らないまま、仲間たちと共に階段を下りて行った。
次に、行動を移したのは……御老公という通称がある、『竜狩り』だ。
「ふむ……このカンバンの意図が気になる。ワシらはまず、周辺の索敵を行うとしよう」
年齢故に前歯がほとんど抜け落ちている為に、濁音を欠いた指示を呟いたパルパトラは、仲間たちを引き連れて階段を離れ……周辺の索敵へと向かった。
……そして、どちらに向かうわけでもなく、ポツンと残された3つ目のチーム『フォーサイト』はと言えば。
「さて、どうしたものか……お前らはどうしたい?」
出遅れる形になった為か、リーダーである二刀戦士の、金髪碧眼の男性……ヘッケランは、頭を掻きながら仲間たちに相談していた。
──『フォーサイト』の構成は、人数が少ない分だけ、互いが互いの役割をフォローし、己の役目を担うことが前提となっている。
まず、副リーダーを務める、ハーフエルフのイミーナ。
レンジャーを担当しており、弓矢を巧みに操る。化粧っ気こそないが、非常に整った顔立ちをしており、俊敏なる射手という異名を持つ。
ちなみに、リーダーのヘッケランとは付き合っており、チーム内における公然の秘密である。
次に、チーム内最高齢の、元上級神官のロバーデイク。
信仰系魔法詠唱者である彼は、
ワーカーになったのも、神殿に勤めていては真に救うべき人を救えない現状に耐えきれず、ワーカーとなった善良な人だ。
そして、チーム内最年少の少女、魔力系魔法詠唱者のアルシェ。
10代中盤と思わしき体格、痩せてはいるが気品のある顔立ちをしている。魔法のみならず、チーム内において最も知識に長けた女性である。
「どうしたいって……どうもこうも何も、下りるしかないでしょ」
そんな中で、最初に返答したのは……ヘッケランの恋人であるイミーナであった。
「しかし、御老公の言う事にも一理あります。あの看板の意図もそうですが、そもそも……この仕事にはキナ臭さを感じます」
対して、ロバーデイクは反論する。
「……不可解な点はあるけど、それは承知の上。高額な報酬から考えて、多少のリスクは受け入れるしかない」
そして、最後にアルシェが己の意見を述べた。
つまり、イミーナは考える前に進め、ロバーデイクは立ち止まって考えろ、アルシェは慎重に進め、である。
積極的前進1、慎重に前進1、静観して情報収集1。
ものの見事に意見が分かれる結果となった。
とはいえ、いちおうは前進2である。
あとは、ヘッケランの決断次第……ではあるが。
「……正直、俺も御老公の意見に従い、少し静観するべきだと思う」
ヘッケランが出した決断は、ロバーデイクと同じであった。
「なによ、アルシェの言う通り、それぐらいのリスクは承知の上でしょ? ここまで来て怖気づいたの?」
「いやいや、そういうわけじゃねえよ」
そんな恋人の判断に、イミーナは少しばかり機嫌を悪くした。
けれども、当のヘッケランは気にした様子もなく、まあ落ち着けと苦笑して……ふと、真顔になった。
「アルシェの言う通り、リスクは承知していた。だから、何事も無ければ俺たちもグリンガムたちと一緒に進もうと思っていた」
「じゃあ──」
「だが、御老公やロバーデイクの言う通り、あの看板が不自然過ぎる。明らかに、これは罠だ」
イミーナの言葉を遮って、ヘッケランは断言した。その言葉に、イミーナのみならず、アルシェも……苦々しい顔で唇を閉じた。
……ヘッケランの言う通りである。
明らかに、これは罠だ。
結果的に罠に近しい状況にハマってしまうのと、意図的に張られた罠にハマってしまうのとでは、その後の生存率に天と地ほどの差がある。
報酬が高額なので、多少なりともリスクを覚悟していたが……さすがに、こうまで分かりやすい罠ともなれば足も止まるというものだ。
「……でも、本当に報酬は高額。この仕事を終えれば、私たち全員が請負人から足を洗えるし、そうでなくとも今回のような高リスクの仕事を受ける必要もなくなる」
しかし、アルシェの発言を前に……誰もが、う~むと唸った。
事実として、『フォーサイト』は金を欲している。
それぞれ目的こそ違うが、今回の成功報酬によって、請負人という危険な仕事から足を洗えるし、新たな道へ進めると判断し、依頼を受けた。
前金は貰っているが、未使用だ。なので、そのまま返せばこの依頼はお終いだが……それで終わらせるには、少々報酬が高すぎた。
「……そうなんだよなあ。本当に報酬がもう少し安かったら、迷うことなく撤退する判断が出来るんだけどなあ」
「命あっての物種というもの。目が眩んで命を落とせば、いくら金があったところで何の意味もないと思いますよ」
「でも──私にはお金が必要」
「私も……危険なのは分かっているけど、次に似たようなチャンスが来る保障、ないわよ」
「……あ~、こりゃあ判断が難しいぜ」
──いっそのこと、ダイスでも振って決断したいぐらいだ。
そんな、ヘッケランの呟きに反応したのか、あるいは偶発的なモノなのか。
「──魔法陣!? みんな、下がって!」
いち早く異変に気付いたアルシェの忠告に、全員が一斉に指示に従った。
異変とは、看板の隣に突如出現した魔法陣。
罠かどうかは不明だが、効果の分からない魔方陣に近付くような馬鹿は、この場にいない。
瞬時にヘッケランが先頭に立ち、その後ろにロバーデイク。遊撃の位置に付いたイミーナに、最後方にてアルシェが魔法を放つ準備を始める。
……そうして、だ。
何時でも反応出来る様に身構えている『フォーサイト』を他所に、魔法陣より放射された強烈な光は消え去り……後に、姿を見せたのは。
「…………?」
おそらく、不意を突かれて転移させられたのだろう。状況が分からずに首を傾げている、白髪に褐色肌の、鎧を着た女性。
それは、とある者たちからは『調停者ゾーイ』と呼ばれている女性であった。
……。
……。
…………えっ、と。
「あ~、その、お嬢さん? 何処から現れたのかは置いといて、まずはお名前を名乗って貰えるとありがたいのだけれども」
とりあえず、見た目だけを見れば美しい風貌の女性だ。
鎧を見に纏っていることから、冒険者あるいは騎士、またはそれに準ずる仕事に就いている者と思われるが……あいにく、この場の誰もが女性の顔や恰好に心当たりがなかった。
なので、代表してヘッケランが素性を尋ねた。
間違っても、見た目が美人だから声を掛けたわけでもないし、イミーナの視線に鋭さが混じり始めたのも、そんなヘッケランに対して苛立ったわけでも……っと。
「……私の名は、ゾーイだ」
ポツリと、ゾーイは答えた。
「ゾーイ? 短い名だけど、それだけ?」
無いわけではないが、珍しいので素直に尋ねれば……ゾーイは、小さく頷くと。
「『調停者ゾーイ』。私の事を、そのように呼ぶ者もいる」
そう、言葉を続けた。
調停者……フォーサイトの面々が、聞き慣れない単語に首を傾げた……そんな、最中。
「ちょ、調停者……ゾーイっ!?」
ただ一人、アルシェだけが……ギョッとした様子で、魔法発動準備の手を止めていた。
……。
……。
…………そんな、感動的かどうかは不明だが、出会いが行われている地上を見つめる、骸骨はといえば。
「……ちなみに、アインズ様。あの請負人の中でも一番幼い女性は、借金を抱えた親から逃げ出し、更に、幼い妹たちを連れて行くために資金が必要とのことで、今回の仕事を受けたらしいです」
「──ヨシッ! でかしたぞ、パンドラ! それならゾーイさんは護ろうとするはずだ! 私としても、そういう者なら余計に助かって欲しい!」
「Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)」
何やら、やり切った様子の誇らし気なハニワ顔の肩を叩いて褒めていて。
「きぃぃぃぃ!!!! 妬ましい……妬ましい……妬ましい……!!」
「ぱぱ、ぱん、パンドラぁぁぁ……!! 調子に乗るなでありんす……!!!」
少し離れたところで、女性(人間ではない)二人がハンカチ片手に嫉妬心を丸出しにしていたが……まあ、気にする必要の無い情報であった。
ちなみに、現在の主人公が万が一シャルティアと遭遇すると、一発でジ・オーダー・グランデ状態に突入します