オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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あるまげどん・その2

 

 

 

「──そうか、アルシェは親の借金の為に、ここへ来たのか」

「そうそう、アルシェは本当に良い子だし頑張っている子だからな。俺たちも、何時までもこんな仕事を続けられるわけでもないし……そろそろ身を固めるべきかなって思ってさ」

「なるほど、確かに重要な事だ。しかし、それにしては多大なリスクを背負ったようだが、良かったのか?」

「仕方ねえさ。次にこれだけのチャンスが降ってくる保証は無いし、俺たちとは違って、アルシェには時間が無いからな」

「と、言うと?」

「あまり良くない場所から金を借りているらしくてな。上に訴えようにも、せめて元金だけは返さないと門前払いってわけ」

「ふむ、借りた分は返せというわけか」

「そういうこと。それで、今回の報酬を貰ったら、付いて来てくれた使用人たちにも最後の給金を払って、妹たちと一緒に帝国を離れて暮らそう……っていう流れだな」

 

 

 ……とりあえず、お互いに敵ではない。

 

 

 そう互いが判断した、直後。

 

 そういえばこんな場所にどうしてと彼女が尋ねれば、「それが聞いてくれよ……これがまた、胸糞の悪い話でさあ」ヘッケランが語り出したのは、呆然としているアルシェの経緯であった。

 

 

 当人の許可なく勝手に参加理由を語るのは如何なものか……そう思ったのは、彼女だけではない。

 

 

 温和な印象通り、仲間とはいえプライバシーを勝手に語るのは如何なモノかと目じりを吊り上げるロバーデイク。

 

 そして、同性故に余計に女の身の内を勝手に語る愚者(ヘッケラン)の行いに、明らかに不機嫌になるイミーナ。

 

 

 当たり前と言えば当たり前な話だが、最初は2人も止めようとした。というか、イミーナに至っては、ヘッケランのケツを蹴飛ばした。

 

 

 しかし……まあ落ち着けと、怒られたヘッケランが語り出した内容に、2人の怒りも治まった。

 

 その内容とは、有り体に言えば彼女の……そう、『調停者ゾーイ』の協力を得る為に同情を引こう……というものであった。

 

 正直、当人を前にそれを口にしては意味ないだろう……と、その場の誰もが思った。

 

 

「いや、意味はある」

 

 

 だが、ヘッケランは自信満々に言い放った。

 

 けして、美形ではない。しかし、薄く浮かぶ朗らかな笑顔と共に断言されてしまえば、不思議と説得力を感じてしまう。

 

 飄々としつつも、自信に満ち溢れた態度。何だかんだ言いつつも、リーダーを務めているだけの胆力がそこにはある。

 

 なにより、肝心のアルシェが、『調停者ゾーイ』の名を聞いてから呆然としており心在らずな状態だ。

 

 無理やりにでも止めるべきか、リーダーの考えに合わせるべきか……ロバーデイクも、イミーナも、困ったように互いに顔を見合わせるしかなかった。

 

 そうして、ヘッケランが語り始めたのが、アルシェがこの仕事を受けるに至る理由と、アルシェが加入してからの日々……そして、冒頭へと至るわけであった。

 

 

「──それで、ゾーイさん。出来る事なら、アルシェの為にも協力して今回の仕事を達成したいのだけれども……いいかな?」

 

 

 長い前置きを経て、ようやく本題に入ったヘッケランの提案に……彼女は、軽く首を傾げた。

 

 

「どうして、私に? 私の記憶が正しければ、君たちとは初対面のはず……いったい、なにが君たちの信用を勝ち取ったのかを知りたい」

「そりゃあ、うちのアルシェがカチンコチンに緊張して固まっちゃったからかな」

「……うん?」

 

 

 首を傾げる彼女に、ヘッケランは朗らかな笑みを浮かべた。

 

 

「メンバーの中で最年少ではあるけど、一番頭が良くて用心深いのはアルシェだ。そのアルシェが、怖がるわけでもなく、まるで本でしか見たことがないような凄い人に会った……みたいな感じで固まっているだろ」

 

 ほら、そこで。

 

 

 その言葉と共に指差された先に居るアルシェは、確かにカチンコチンに固まっていた。

 

 とはいえ、さすがに注目されたことで我に返ったのか、ハッと目を瞬かせたアルシェは……己に集う視線に気付き、ボンと頬を赤らめると、イミーナの背後に隠れた。

 

 

「……あの、アルシェ? 私たちは『調停者ゾーイ』ってのがなんなのか知らないけど、あんたは知っているの?」

 

 

 その、普段とは大違いな反応に堪えきれなくなったイミーナが尋ねれば……アルシェは、しばし深呼吸をした後……ポツリポツリと語り出した。

 

 

 ──一言でいえば、『調停者ゾーイ』とは魔術学校の図書館などに貯蔵されている歴史本などに登場する『調停の神』である。

 

 

 詳細は、ほとんど不明。姿絵などは一切無く、男神か女神か、あるいは異形の神かも不明。

 

 六大神が残したとされる書物や、六大神と言葉を交わした者が残した手記などに記されているらしいが、法国以外では帝国や聖王国に僅かばかり複写本があるだけとなっている。

 

 

 法国で信仰されている人間を護った六大神を束ねる存在。

 

 あるいは、竜の時代を終わらせた八欲王をも従う他なかった存在。

 

 もしくは、宗教的分裂を防ぐために作り出した偶像という説もあり、知る人ぞ知る有名な神なのだという。

 

 

「……それで、どうしてアルシェはあの子を前に緊張しているのよ」

「それは……魔力が、凄すぎて……」

 

 

 ──詳細は省くが、アルシェは相手の魔法力を探知する特殊能力(タレント)を持つ。

 

 曰く、より強大な魔力を持つ者ほど、総身が光り輝き、オーラが立ち昇って見えるらしい。同じ魔力系詠唱者なら、更に詳しく判別出来る……とのこと。

 

 

「物凄く、温かい……眩しくはないのに、とてつもない魔力がゾーイさんの中に留まっている。今まで色んな人を見て来たけど、これは別格。一目で、人間じゃないのがすぐに分かった」

「それは辛くないの? 大丈夫?」

「うん、大丈夫。その、今まで神様ってのを信じた事なかったけど……生まれて初めて、神様って本当に居るんだなって思ったら、緊張しちゃって……」

 

 

 手を合わせたアルシェは、深々と頭を下げた。

 

 色々な事情から上流階級としての教養を身に付けているアルシェだからこそ、その所作は非常に様になっており……必然的に、元神官のロバーデイクも手を合わせて頭を下げた。

 

 

「……アレ見て、アンタをヤバい奴だって思うかい?」

 

 

 ヘッケランのその言葉に、彼女は……微笑みと共に、頷いた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………なんだろう、この世界でもそうだが、彼女はとても……心を優しく洗われたような気分になっていた。

 

 

 アルシェもそうだが、ヘッケランたちは確かに冒険者ではない。請負人という、仄暗い仕事も引き受ける、あまり世間の評判が良くない立ち位置にいる。

 

 けれども、どんな仕事であろうと、誰かが必要としているからこそ、その商売が成り立っているのだ。

 

 法的に違法であるのは間違いないにしても、そうしなければならなかった理由はある。

 

 擁護するつもりはないが、責めるつもりもない。突き詰めてしまえば、所詮は人が定めた善悪の一つに過ぎない。

 

 そう、結局のところ、冒険者という組織の力を削ぐ請負人たちを意図的に蔑んでいるに過ぎない。

 

 そして、眼前の者たちは、そんな立ち位置から這い上がろうとしている……そう、彼女は思った。

 

 

「……承知した。では、微力ながらお手伝いさせていただこう」

 

 

 だからこそ、彼女は……そういえば久しぶりに笑えていると、ふと思った。

 

 自らの意思でそこから脱却しようと足掻く『フォーサイト』が……彼女の目には、好ましく映って仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………一方、その頃(パート2)

 

 

 なんとかスタート地点に戻したが、再びギルドアタックを仕掛けられようとしている、『アインズ・ウール・ゴウン』の最奥の玉座にて、状況を確認していた悟は。

 

 

「やった……! ゾーイさんの目に光が……人への愛が、ゾーイさんに人の心を取り戻させた……!」

「Herzliche Gluckwunsche……! (おめでとうございます……!)」

「ありがとう……! ありがとう……!」

 

 

 第一関門であると同時に、コレが駄目なら敗北確定な最初のリセットポイントを通過出来た事に、悟は誇らしげに両手を掲げ、バンザイポーズを取っていた。

 

 ハニワ顔のポツンと開かれた二つの●より零れ落ちる、大量の涙。パチパチと高らかに奏でられる拍手の音が、玉座の間に響く。

 

 ざわ、ざわ、ざわ、ざわ……言葉にならないどよめきと共に。

 

 それは、いや、彼だけではない。そんな悟の姿に、感動を覚えない者は、ナザリックにはいないのだ。

 

 

「おめでとうございます……! アインズ様、あそこまでお喜びになって……!」

「うう、うう~、アインズ様ぁ、わらわは嬉しいでありんすぇ……」

 

 

 直前まで嫉妬に涙を流していた女2人(人間ではない)も、涙を感動の色へと変える。尊き御方へ届けと言わんばかりに、2人の拍手が玉座の間に広がる。

 

 

「ウ、ウォォ……アインズ様、万歳……!」

「何だか分からないけど、アインズ様が喜んでいて私も嬉しいよ……!」

「うん、お姉ちゃん……僕も、こんなに綺麗な光景は初めてだよ……!」

 

 

 もちろん、2人だけではない。

 

 何が何だか状況が分からないままに静観するしかない(なにせ、離れて良いと命令されていないので)守護者たちも、感涙と共に大きく拍手をしている。

 

 そして、それは……傍で控えているメイドたちとて例外ではない。

 

 

「良かった……本当に、アインズ様があんなに……!」

「涙……出ないけど、嬉しい……!」

 

 

 デュラハンであるユリ・アルファは、涙と一緒に首までポロリと落としては拾って、落としては拾っている。

 

 シズ・デルタは、涙こそ出ていないが……僅かばかり声は震え、如何に感動しているかを如実に物語っていた。

 

 

「え、ええっと、良かったです、アインズ様!」

 

 

 ただ一人、NPCではないツアレだけは困惑しつつも、場の空気に従って拍手をしていた。

 

 いや、ツアレにとっても、アインズ様が喜んでいるのを見るのは嬉しい。アンデッド特有の怖さはあるけど、自分を地獄から助けてくれた恩人でもあるからだ。

 

 

 だが、涙までは出ない。

 

 

 喜びにバンザイをしているアインズ様を見ていると、とても嬉しい気持ちになるし、こっちも楽しくなる。だが、それだけだ。

 

 

 だから、ツアレにはよくわからない。

 

 

 どうして、守護者たち……メイドたちもだが、涙まで流して拍手をするのだろうか。

 

 素直に一緒に笑って、一緒に楽しんで、良くやったねと声を掛ければいいのに。それだけで、良いと思うのに。

 

 

 ……そんな疑問が、脳裏を過る。

 

 

 命辛々助かったとか、そういう泣いて喜ぶような状況ならともかく、今のコレは侵入者……というより、知り合いが他所の人と仲良くなった場面だ。

 

 

 ……ツアレ自身の正直な気持ちを言わせてもらえば、複雑な相手ではある。

 

 

 事情があったにせよ、大恩人のセバスに怪我を負わせたのだから、嫌な気持ちになったのは事実だ。それを、態度で出してしまったのは、大反省しなければならないと思っている。

 

 

 けれども……アインズ様は、そうではない。

 

 

 少なくとも、ツアレが見た限りでは……むしろ、気を許している相手なのではないかと、思っている。

 

 まあ、実際のところ、アインズ様にとってゾーイという女性がどのような存在なのかは分からないが……なんにせよ、だ。

 

 

(アインズ様……本当に楽しそう。あんなに楽しそうにしている姿を見るの、初めて……)

 

 

 まるで、子供のようにはしゃいでいる、至高の御姿を見つめながら。

 

 

(もしかしたら、アインズ様って……アレが素顔なのかしら?)

 

 

 ──まるで、私たち人間みたい。

 

 

 セバスに聞かれてしまえば、叱責の一つや二つはされそうな不敬な事を考えながらも……ツアレはとりあえず、にっこりと笑って手を叩くのであった。

 

 

 

 

 ──ん? パンドラ、ところで、先頭を行く、この甲冑の男たち……このまま行くと、恐怖公へと通じる魔法陣に接触するような……? 

 

 ──あ、それはマズイですね。急いで転移魔法陣を停止すべきかと。殺さないように通達はしておりますが、精神的ダメージは相当なものに……。

 

 ──うむ、その方が良いか……しかし、こいつら……我がナザリックの設備を盗もうとするのは腹立たしいのだが……何か案はあるか? 

 

 ──それでしたら、置いてある物に触れると罠が発動したかのように、色々と仕掛けましょう。あとは、恐怖公の協力を得て。

 

 ──協力を得て? 

 

 ──今後半年ぐらい、靴を脱いだり服を脱いだりするときに、眷属がポロッと出て来るように致しましょう。

 

 ──な、なんだと……!? 

 

 ──程よい精神的ダメージかと。ついでに、女性からは滅茶苦茶評判が悪くなるでしょうから、そういった意味でのお仕置きにもなります。

 

 ──ぱ、パンドラ……お前は私が思う以上に、頼りになる息子のようだな……! 

 

 ──Ich bin geehrt(身に余る光栄なり)

 

 

 

 

(何を言っているのかよく分からないけど、アインズ様……まるで、子供みたいに笑っているように見える……)

 

 

 叶うならば、今後もそうやって楽しく笑っていてほしい、と。

 

 

 心より、そう願いながら……気付けばツアレも、アインズ様につられて、にっこりと笑い続けるのであった。

 

 

 

 




その気も無いし当てるつもりもなかったのに、正解を引き当てた奴隷がいるらしい
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