オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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悪循環のドツボにハマったまま、どんどんアインズ様からの対応が冷たくなってゆく

そりゃあ、目玉グルグルマークで自分が何をやっているのか、何が正しいのか分からなくなるよね(ナザリックのNPC限定)


さすがはアインズ様、自ら手を下すことなくNPCたちの判断を狂わせる手腕、お見事としか賞賛の言葉がありません

(なお、鈴木悟にそんなつもりは全くない)


(裏話)地獄からの片思い

 

 

 

 広大と称してもおかしくない、広い……とても広い玉座の間。

 

 

 そこは、かつてユグドラシルにおいてその名が広く知られていた、『ナザリック地下大墳墓』の最下層であり、未だ一度として外部の者が足を踏み入れたことが無い、『玉座の間』。

 

 然るべき時に、この世界で唯一座る事を許された主が不在の、その玉座の前で……その地を守護する者たちは、深刻な様子で互いを見合わせていた。

 

 

「──非常に由々しき事態よ」

 

 

 その中で、ポツリと呟いたいのは……ナザリックの全ての僕を統括する役目を与えられる、アルベドであった。

 

 

「既に、皆も薄々察していると思うけど……少し前から、明らかにアインズ様からの信頼が失われているわ」

 

 

 その言葉に、誰も反論しなかった。事実として、そうとしか思えない対応を取られ続けているからだ。

 

 いや、1人だけ……少しばかり、表情が和らいだ者がいる。

 

 

 それは、マーレである。

 

 

 マーレは、この場にて待機を命じられている守護者たちの中で、唯一アインズと行動を共にする回数が多い。

 

 というより、マーレを除けば、ある時期から同伴を指示された守護者はマーレだけである。

 

 それゆえに、本人は隠しているつもりでも、それが無意識の優越感となって頬を緩ませていた。

 

 

「……マーレ、あなた、一つ勘違いしているわよ」

「え、あ、か、勘違い?」

 

 

 赤らんだマーレの頬が、一気に元の色に戻る。

 

 

「そう、勘違い。そこで油断していると、取り返しがつかなくなるわ」

 

 

 詳細を聞かなくとも、そんなマーレの内心を見透かしていたのか、アルベドは憐れむようにマーレを見つめた。

 

 

「アインズ様は、目的の為に貴方が必要だから傍に置いているだけよ。けして、貴方自身が必要だから傍に置いているわけではないの」

「え……そ、それは、とても良いことでは?」

 

 

 首を傾げるマーレに、アルベドは……嫉妬と悔しさと、恐怖がない交ぜになった顔で溜息を零した。

 

 

「あのね、マーレ。それって、言い換えれば貴方以外に目的に沿う僕なり何なりが見つかれば、すぐに配置転換されるってことよ」

「えっ?」

 

 

 ──夢にも思っていなかった。

 

 

 そう言わんばかりに目を見開くマーレを見て色々察したのか、今度は憐れむようにアルベドはマーレから視線を外した。

 

 

「その証拠に、貴方1人だけを呼び出すなんてこと、一度として無いでしょ?」

「え、う、うん」

 

「貴方1人で出来る仕事でも、必ずプレアデスたちを同伴させていたでしょ?」

「うん」

 

「外に出ている時、どんな時でもプレアデスを傍に居させて、けして一人にさせないようにされていたでしょ?」

「……うん」

 

「そして、カルネ村で本当に貴方の手が無くても大丈夫な、収穫の段階に至った時点で戻るように命じられたでしょ? ユリとシズは、残って作業するよう命じられたのに」

「……うん」

 

「非効率でしょ? わざわざ外から新たに人間を呼び寄せて、足りない人員を埋めたのよ。貴方1人が居れば、数時間で終わる作業なのに……」

「…………」

 

 

「つまり、そういうこと。貴方……いえ、貴方だけじゃない。私たち全員を外には出したくない……アインズ様から、その程度ですら信頼されていないのよ」

 

 

 ──その瞬間、守護者たちの内心を改めて襲った衝撃は……とてもではないが、言葉で言い表せられるモノではなかった。

 

 

 何故なら、守護者たち……いや、『至高の御方』によって作られた全ての僕たちにとっては、だ。

 

 アルベドのその言葉は、身を引き裂かれるよりも辛い言葉であり……己の存在意義の全てを否定されたも同然の言葉であった。

 

 普段であれば、発言の主がアルベドであろうが激怒して食って掛かっただろう。

 

 

 それほどの、侮辱なのである。

 

 

 少なくとも、僕たちにとっては……が、しかし、今だけは……誰も、その事に反論しようとはしなかった。

 

 

 理由を、考えるまでもない。

 

 

 全ては、アルベドの言う通り……守護者たちとて、薄々察していたからこそ、誰も何も言えなかった。

 

 それは、守護者の中でも一番激昂しやすく、ポンコツなところがあるシャルティアですら自覚していたぐらいであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そんな中で、ポツリと。

 

 

「デハ、如何スル?」

 

 

 アルベドに打開策を尋ねたのは、コキュートスであった。

 

 コキュートスは、守護者たちの中でも頭が良いわけではない。

 

 良く言えば素直で実直、悪く言えば猪突猛進なところのあるコキュートスは、頭の良いアルベドへ、素直に尋ねたわけであった。

 

 

「……挽回のチャンスが、ないわけではないわ」

 

 

 それに対して、アルベドは特に隠さずに答えた。

 

 以前のアルベドなら、アインズ様からの株を上げる為に黙っていただろうが、事はもう、そんな段階ではない。

 

 何故なら、アインズ様の態度が以前とはまるで違うのだ。

 

 

 キッカケは……おそらく、『ゲヘナ』の時だ。

 

 

 あの時、護るのが遅れてダメージを負わせてしまった事が原因だろうか……それは、アルベドにも分からない。

 

 分かるのは、それまで向けられていた、アインズ様からの視線が……途絶えてしまったということ

 

 

 明らかに、避けられている。

 

 明らかに、距離を置かれている。

 

 明らかに、傍へ近寄らせないようにされている。

 

 

 己だけなら、まだ説明が付く。認めたくもないし不本意だが、ベタベタと気を引こうとするあまり、御不快になったから……そう、理解する事は出来る。

 

 

 けれども、守護者全員となれば話が変わる。

 

 

 盾として、御身を護り切れなかったアルベドたちに失望して、そうなるならまだ分かる。

 

 しかし、距離を置かれているのはアルベドたちだけではない。

 

 あの時、現場に居なかったけれども役割を十全に果たしたマーレ(アウラも同様に)が距離を置かれる理由が分からない。

 

 時間を稼いだシャルティアや、不敬とはいえ御身をナザリックへと連れ戻したセバスまでもが、距離を置かれる理由が分からない。

 

 対して、以前と違って傍に置くようになったのは……何故か、プレアデスの『ユリ・アルファ』と、『シズ・デルタ』の2人のみ。

 

 

 プレアデスの中でも、どうしてこの二人だけ? 

 

 

 ナザリック全体から見れば、2人の実力は中の下。最初は、人間に対して比較的甘い対応を取る者を傍に……とも思っていた。

 

 何故なら、さっさと僕たちに渡すなり素材として使うなりすれば良い人間たちを、わざわざ生かすだけでなく、病気にならないようにペストーニャを専属に付けるぐらいだ。

 

 

 理由は不明だが、人間たちに何かを期待して世話をしているのだろう……と、アルベドは考えていた。

 

 

 いや、アルベドだけではない。アルベド以外にも、同様の考えを持っていて、世話をされている人間たちを遠くから眺めている僕は多かった。

 

 なので、わざわざセバスを傍に置かなくても、つまみ食いをするような愚か者は、このナザリックには居ないのである。

 

 

(分からない……分からない! いったい何が、アインズ様の信頼を損ねているというの!?)

 

 

 ゆえに、アルベドは焦っていた。

 

 心から焦り、普段の冷静さなど、欠片も残ってはいなかった。

 

 なにせ、言い換えれば、そんな当たり前なことすら僕たちは守れないのだと、アインズ様に思われているも同然だから。

 

 そう、だからこそ、失われた信頼を取り戻したいと思った。

 

 

 何が、起こったのか? 

 

 何を、してしまったのか? 

 

 何を、求められているのか? 

 

 

 それを知りたくとも、アインズ様は拒絶する。言葉を交わそうとしても、それをする事すら出来ず、姿すら極力見せない。

 

 だからこそ……アルベドは、表面上こそ冷静さを保ちつつも、内心では焦りに焦りを重ねており、『アインズ様』の行動や言動から思考を想像し、次に行うべき行動を考え続けていた。

 

 

「……アインズ様が現在、王国のラナー王女と対談を成さっているのは、みんなも知っているわよね」

 

 

 その結果、アルベドの頭脳が導き出したのは……以前より計画し実行していた帝国への作戦の、更に一歩先。

 

 

「おそらく、いえ、これもアインズ様の手の内……アインズ様は帝国へと攻め入る前に、王国からの印象を良くしようと考えているに違いないわ」

「そうなの?」

「そうよ、アウラ。王国を襲ったのは八本指がナザリックの者を誘拐し傷付け殺そうとした報復……とりあえず、『ゲヘナ』の件はこれで押し通すでしょう」

 

 

 それは、帝国への侵略方法。

 

 

 当初は、ナザリックに侵入した請負人たちを裏から操っていた皇帝への反撃として、こちらに大義名分を得たうえで攻め込む。

 

 抵抗するなら滅ぼして資材その他諸々を回収し、属国として下るのであれば、生かさず殺さずのまま搾り取り続ける。

 

 場合によっては、帝国そのものを隠れ蓑にする……パンドラの協力を得て、そういう手筈で動いていた。

 

 

 ……だが、王国側(それも、王女が)がナザリックに来たのであれば、優先順位が少し変わる。

 

 

 というのも、王国は王国で、ナザリックにとっては中々に利用価値(餌と資源的な意味で)のある国だからだ。

 

 いずれアインズ様へ膝をつかせるのは確定しているが、征服した後で得られる利益は……王国の方が大きいとアルベドは考えていた。

 

 それに、上手くやれば王女を通じてあの女を油断させる事が出来るし、場合によっては……あの女の近しい者を人質に取れるかもしれない。

 

 

 ──いや、おそらく、アインズ様はそれを狙っていると、アルベドは考えていた。

 

 

 何故なら、アインズ様は……僕たちの命すら慈しんでくださり、『至高の御方』たちを束ねていた、真に尊き支配者であるからだ。

 

 そのアインズ様が、何の考えもなく王女と対談するわけがない。

 

 おそらく、王女がこのタイミングでナザリックを訪問したのもまた、張り巡らせた智略の一つなのだろう。

 

 

「疲弊した王国へと取り入りつつ、帝国を疲弊させる……そう、カルネ村にて食料生産を行っていたのは、王国への手土産にするつもりなのかもしれないわね」

「オオ、ソウナノカ?」

「あの女が帝国の請負人と一緒に行動していた辺り、王国側に付いたわけじゃない。今の王国にはあの女はいない、だから王国へ干渉しても大丈夫なわけ」

「……ツマリ、ドウイウ事ダ?」

 

 

 首を傾げるコキュートス(他の守護者たちも、同様に)を見やったアルベドは、「つまりは、ね」ニヤリと笑った。

 

 

「このまま、帝国に居ると思われるあの女に、自分たちは被害者だってアピールすれば良いのよ」

「……通ジルノカ?」

「通じるわよ。だって、カルネ村にあの女が現れた時、村人たちが前に立った事で即交戦には移らなかったでしょ」

 

 

 ──言われて、誰もがハッと目を見開いた。

 

 

「あの時点で、あの女は迷ったのよ。そして、その後のアインズ様直々の語らいによって、『ゲヘナ』のアレは不幸な行き違いから来る事故だと理解した」

 

 ピン、と、指を一つ立てる。

 

 

「そのうえ、先日のアインズ様が手傷を負ったあの日。あえて、アインズ様は自らを危険に晒し、耐えたことであの女に、ナザリックが敵ではないと信じ込ませた」

 

 ピン、と、指が二つ立つ。

 

 

「後は、簡単よ。ナザリックの私物を盗み出した請負人たちを、皇帝が裏から操っていたのが分かったからと攻め込めばいい」

 

 ピン、と、指が三つ立つ。

 

 

「あの女が無差別に人間を護るなら、真っ先にここへ攻めてくる。それをしないということは、人間であっても加害者であるならば、護ろうとはしないってことよ」

 

 ピン、と、指を四つ立てたアルベドは……ニヤリと、また笑みを浮かべた。

 

 

「だからこそ、アウラ、マーレ、貴方達の出番よ」

「え?」

 

 

 突然の名指しに困惑する二人に、アルベドはキッパリと言い切った。

 

 

「『ゲヘナ』にて、直接あの女と戦っていないのは貴方達2人だけ。つまり、貴方達二人に限り、印象はそこまで悪くないのよ」

「え……あっ!」

「そう、貴方達2人だけなら、あの女はこちらをいきなり悪とは断定しない。あくまでも非は向こうにあって、こちらは反撃しただけ……そう思わせれば、帝国では段違いに動きやすくなる」

「な、なるほど!」

「アインズ様も、私たち守護者をあの時待機させたのは、これが狙いのはずよ。私たちがあの女を帝国に引き付けている間、アインズ様はどんどん王国へと食い込み、王国民そのものを盾にすることが出来る」

「じゃあ、じゃあ、私たちは、アインズ様の為に帝国に行って皇帝を脅せばいいんだね!」

「ええ、そうよ。でも、最初からいきなりは駄目よ。まずは、慰謝料として相当な金額を提示して、断られたら脅しなさい」

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………この時、アルベドは……いや、アルベドに限らず、守護者の誰もが、あまりにも穴だらけのその計画に、異を唱えなかった。

 

 

 理由は色々あるだろうが、最大の理由はなんといっても……焦り、すなわち焦燥感だろう。

 

 

 そう、守護者たちは焦っていた。計画を立案したアルベドまではいかなくとも、その内心では嵐が吹き荒れていた。

 

 アルベドに言われずとも、アインズ様からの反応が以前に比べて悪くなっているのは誰もが自覚していた。

 

 

 以前に比べて、アインズ様との距離が遠くなっているのを。

 

 

 守護者たちにとって、なによりも恐れるのは己の死ではなく、尊き御方である『アインズ様』に見限られることだ。

 

 見限られるぐらいならば、己の首を自ら切り落とし、その血肉の一片まで使い潰してほしい。

 

 

 それが、守護者たちの本心であった。

 

 

(なんとかしなければ……アインズ様に見限られてしまえば……ああ、そんな、それだけは……!)

 

 

 だからこそ、守護者たちの誰もが目を曇らせてしまっていた。

 

 

 冷静に考えれば、そんな馬鹿な話があるかと一笑して終わらせるところを、アルベドは……守護者たちは、強行する決断をしてしまった。

 

 たった一言……そう、たった一言だ。

 

 

 『アインズ様は、何を成さろうとしているのですか?』、と。

 

 

 そう、それだけを聞けたならば、もしかしたら。

 

 ずっと前に、その一言を尋ねられたならば、未来は変わっていたのかもしれない。

 

 

 でも、そうはならなかった。

 

 失態を重ねたと思い込んでいる僕たちは、その勇気を出せなかったのである。

 

 

 

 

 

 




ステンバーイ……ステンバーイ……


ステンバーイ……ステンバーイ……


ステンバーイ……ステンバーイ……ステンバーイ……



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