オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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すまんね、月末と月初めは忙しないのじゃ


(裏話)骸骨の初体験

 

 

 ナザリック地下大墳墓9階層にある、Bar。そこに初めて足を踏み入れた悟は、思わず眼孔の光を強くした。

 

 

(く、口惜しい……アンデッドでなければ、飲めたのに……!)

 

 

 何故かと言えば、Barのカウンターの奥。茸……名前は忘れたが、とりあえずは、バーテンダーと思われるNPCの後ろに広がる夢のような光景。

 

 それは、酒、酒、酒。それも、リアルなら一生掛かっても飲めなさそうな、高級感漂うモノばかり。

 

 横に伸びた棚には隙間なくキッチリと多種多様な酒瓶が置かれており、眺めるだけでも楽しくなってしまうような光景が、そこにはあった。

 

 悟は、それほど酒が嫌いではない。とはいえ、好きというわけでもない。

 

 酔うと日常の辛さを一時とはいえ忘れる事が出来たから、一時期は余裕が出来たら買っていたが……まあ、ユグドラシルに出会ってからは、ほとんど飲まなくなったけど。

 

 とはいえ、悟が知っている限り、市場に流通している『酒』というのは、だ。

 

 

(たっちさん曰く、酔うのが目的で味は二の次ってらしいけど……ほ、本物の酒って、どんな味なんだろうか?)

 

 

 実際、会社とかでも同僚と世間話をした際に何度か話題に出た時、酒の味が好きだと話している者は1人としていなかった。

 

 理由は、只一つ。純粋に、飲める酒は滅茶苦茶高いからだ。

 

 ペースト状、あるいはブロック状の合成食品が大多数の主食になったあの世界では、ちゃんと作られた酒なんて、買おうと思って買えるものではない。

 

 消毒液と市販されている酒は、ラベルを張り変えただけ。

 

 そんな笑えないジョークが流れ、誰も否定出来なかったぐらいに認めていたのだから……リアルにて手に入った酒の質も、想像が出来るだろう。

 

 

(アンデッドでさえなければ……せめて、バードマンとかなら、飲めた可能性があったのに……!)

 

 

 だからこそ……好き嫌いは別として、眼前にて並べられている多種多様なラベルを前に、心惹かれてしまうのは致し方ないことであった。

 

 

 ……まあ、何時までも嘆いていても仕方がない。

 

 

 一つため息を零した悟は、スルリと……後ろに付いて来たはずのパンドラが、先回りして椅子を引いてくれたので、そこへと腰を下ろし……改めて、室内を見回した。

 

 いちおう、ナザリック地下大墳墓の設備とかは、この世界に来てすぐに色々と見回った。

 

 その中には、このBarも例外ではない。思い返せば、サラッとだが……いちおう、店内も見回った記憶はあるが……どうにも、詳細がはっきりしない。

 

 おそらく、この身体がアンデッドだからだろう。

 

 今は飲食不可の現実に諦めがついて慣れてしまったが、当初は食べられない高級品を見るのが辛かった覚えがある。

 

 それゆえに、飲食を取り扱う場所はサラッと目を通すだけでその場を後にしたような……しかし、だ。

 

 

(こうして見ると、皆のこだわりが凄いなあ……置かれている酒瓶の銘柄、全部バラバラじゃん)

 

 

 こうして、改めて腰を下ろして店内を見回していると……みんなが如何にナザリックを大切に思って力を注いでいたのかが、よく分かる。

 

 実物をモデルにしたかは不明だが、置かれている酒瓶はどれ一つ同じ物(つまり、コピペ)が無く、おそらく種類も全部異なっているのだろう。

 

 店内を彩る様々なインテリアも、店内のイメージを一切損なわず、かつ、独特の空気を生み出すように細部まで考えられているのが素人目にも……っと、そうだった。

 

 

「パンドラ、せっかくのBarだ。私に遠慮せず、好きなモノを頼むといい」

 

 

 すぐ後ろに立ったままのパンドラの為に、椅子を引く。すると、ギョッと●が広がったのが見えた。

 

 

「いえ、アインズ様、それは……」

「うん? 酒は嫌いか? それとも、体質的に飲めないのか?」

 

 

 尋ねれば、そういうわけではないとパンドラは答えた。

 

 ならばどうしてと続けて尋ねれば、アインズ様は飲むことが出来ませんのでと返されて……思わず、悟は笑った。

 

 

「気にするな、その気持ちだけで私には十分だよ」

 

 

 それは、悟の本心であった。

 

 生鮮食品が超高級品として扱われていたリアルでは、『ちゃんとしたお酒』というのは、一生掛かっても飲めるかどうかの代物。

 

 己が飲めないのは残念だが、かといって、周りの者まで飲むなというのは違うと思っている。

 

 体質的、あるいは酒が嫌いならともかく、せっかくの機会なのだ。

 

 酒の出会いは一期一会……というのは言い過ぎかもしれないが、

 

 全く知らないままなのは勿体無いと思った。

 

 

「しかし、そうだとしても……これから面談を行うわけですし、私が同伴するのは……」

「面談とは言っても、そう畏まったことをするわけではない。少しばかり質疑応答みたいなことをするだけだし、酒でも飲んで口を開き易くしないとな」

「ですが、しかし……」

「……お前も、酒に興味は、少しはあるのだろう?」

「……少しだけ」

「ならば、これは父からの、息子への労わりとでも思って受け取ってくれ」

 

 

 それもまた、悟にとっては本心だった。

 

 息子……という言葉が出た事に、悟は内心にて少し驚いた。けれども、思いのほか、ストンと胸中に納得が収まった。

 

 子供どころか彼女すら出来たことがない悟だが、パンドラは……唯一、悟がその情熱を注いで作り上げたNPCだ。

 

 

 ──何と言えば良いのか、仮に息子が居たならば、こんな感覚なのだろうなあ……と、悟は思った。

 

 

 それに、そういうのを抜きにしても、パンドラは恩人だ。

 

 この地獄のような世界で、気付けばパンドラは己の心の支えでもあるとも、悟は思っていた。

 

 

「……息子?」

「なんだ、嫌か?」

「い、いえ、いえ! とんでもございません!」

 

 

 だからこそ、息子だと言われたパンドラが。

 

 

「そうですか……息子ですか。私を、息子と呼んで……!」

 

 

 ●三つの顔からは表情を伺い知る事は出来ないが、声色からとても喜んでいるのを感じ取った悟は

 

 ……何だか、図体の大きな子供が、嬉しくも恥ずかしがっているような……そんな印象を、覚えた。

 

 

「……分かりました。それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 

 そうしてようやく悟の思いを受け入れたのか、何処となくしどろもどろとしていたパンドラは、促されるがまま椅子に腰を……悟の隣の席に座った。

 

 

「酒は飲んだことはあるのか?」

「いえ、まったく……」

「ならば、コレを飲んでみたい……というのも無いわけか?」

「申し訳ありません、正直、どれがどのようなモノなのかすら、さっぱりでございます」

「ふむ、そうか」

 

 

 ──実は、私もだ。

 

 

 そう告げれば、パンドラは目に見えて……というのも変な話だが、悟の目には●が大きくなったように見えた。

 

 

「あ、アインズ様も、ですか?」

「うむ、私も……その、肉体を持っていた時は酒とは無縁な生活を送っていてな。また、私の周りにはそれほど酒が流通していなかったのでな」

 

 

 いちおう、嘘は言ってない。

 

 

 正確には、酒とは無縁ではなく、ちゃんとした酒が高級品過ぎて手が出ず、眺めるしか出来なかった……のだが

 

 なので、悟の方からはアドバイスは出来ない。しかし、悟からアドバイスする必要はない。

 

 何故なら、このBarにはバーテンダーが居るからだ。名前は……今も思い出せないが、とりあえずマスターとでも呼べばよいだろうとチラリと視線を──ん? 

 

 

「うっ、うっ……」

 

 

 おススメを用意してもらおうかと思ったら、何故か茸……マスターが、ハンカチで顔を覆って号泣していた。

 

 

「マスター、どうした?」

「うっ、うっ……やだ、尊い……しゅき……」

「……?」

 

 

 人間(アンデッドだけど)、驚き過ぎるというか、あまりに想定外過ぎると、困惑の方が強く出るのだろう。

 

 隣のパンドラも、困惑したかのように首を傾げている。

 

 普段なら放っておくところだが、今はカクテルとか色々と用意してほしいのだが。

 

 まあ、結局マスターの奇行は3分と続かなかった。

 

 涙なのか胞子なのかよく分からん液体をスッキリ拭き取ったマスターは、頭を下げて謝罪をした後で……おもむろにパンドラの前に用意したのは……『パライソ・オレンジ』。

 

 

「ライチの香りに、オレンジの酸味が合わさったカクテルでございます。初めてでしたら、まずは甘くて飲みやすく、度数も低いモノがよろしいかと」

 

 

 そして、悟の前にそっと差し出されたのは……ショットグラス。繊細な凹凸によって鮮やかさを見せているそこには、琥珀色の液体がきらめいていた。

 

 

「ウイスキーでございます。ウイスキーは香りを楽しむモノとも言われております。これならば、アインズ様も一緒に……」

 

 

 おお……思わず、悟は声を漏らした。

 

 

「……これはありがたい。そうか、味ではなく、香りか……それなら、私でも楽しむことが出来るな」

 

 

 本当に、嬉しかった。そして、機転を利かせてくれたマスターに感謝の言葉を述べつつ……小さなグラスを、パンドラへと向けた。

 

 

「リアルでは、な。こういう時、乾杯といって互いのグラスを軽く当てるのだ」

「えっと、こうでしょうか?」

「うむ、そうしてグラスの音が鳴ると同時に……だ」

 

 

 言葉で説明しつつ、悟とパンドラは互いのグラスをゆっくりと近付け……カツン、と甲高くも澄んだ音がBarに響いた。

 

 

 ──乾杯。

 

 

 そう、2人の声が合わさった。

 

 なにやらカウンターの奥でこちらに背を向けて「やだ、尊い、しんじゃう……」、ぶつぶつと呟いているマスターの姿があったが……もう諦めたアインズは、スーッと鼻先にて香りを吸った。

 

 

(ああ……凄いな。これが、本物の酒の香りなのか……)

 

 

 これまで嗅いだ事のない、己の言葉では言い表せない不思議な香りに、悟は……感動のあまり、しばし動きを止めた。

 

 甘い香りだ。しかし、砂糖菓子のような甘さではない。アルコール特有の香りと、何と言えば良いのか……こう、不思議な香り。

 

 リアルにて、己が生まれる100年以上前には、酒の為に身を滅ぼす者が大勢いたとは聞いた覚えがあったが……なるほど、と納得した。

 

 

(一度で良いからちゃんとした酒を飲んでみたいと言っていた人たちの気持ちがよく分かる……これを知ってしまえば、俺たちが飲んでいたアレは泥水みたいなものだな)

 

 

 リアルなら、この香りだけでも金を取られそうだな……と、昔のことを懐かしみながらも、ふと、隣を見やれば。

 

 

「……美味いか、パンドラ」

「はい、アインズ様! アインズ様も、どうですか?」

「うむ、私も楽しんでいるよ。このウイスキーの香りは癖になる」

「私もです。お酒を飲んだのはコレが初めてでございますが……お酒とは、これほどに美味しいものなのですね!」

「ふふふ、そうだろう。仲間たちも、酒を好んでいる者は多かったからな」

「おお、他の至高の御方までもが……」

 

 

 感動に打ち震えるパンドラ(あと、マスターも感動していた)の姿に、もう一度笑い声をあげた悟は……ふと、気配を感じて振り返る。

 

 

 ──あ、あの、アインズ様……。

 

 

 すると、そこには……見慣れぬうえに記憶にもないNPCが立っていた。

 

 本当に、見覚えが無い。いや、まあ、ナザリックにひと際強く思い入れのある悟であっても、全NPCを記憶なんてしていないから、当たり前だが。

 

 ていうか、そういえばとハッと我に返った悟は、店内に取り付けてある時計を見やり……時間ピッタリ5時間後なのを確認すると。

 

 

「……時間ピッタリだな」

 

 

 一つ、頷いた悟は……パンドラとは反対側の椅子を引いてやると。

 

 

「では、これより軽く質疑応答を行う。何か飲みたいモノがあれば、私やマスターに遠慮することなく注文するように」

 

 

 その言葉と共に、ナザリックの王による、最初で最後の……面談が始まった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………まあ、面談といっても、そう小難しい事を聞くわけでもなければ、NPCたちにとって返答しにくい事を聞くわけでもない。

 

 

 一つ、日常を送るうえで不満(たとえば、外に出たいとか)はあるか? 

 

 一つ、現在のナザリックの運営方針に対して、思うところはあるか? 

 

 一つ、外部の者(人間、亜人、問わず)に対して、思うところはあるか? 

 

 一つ、人食を好む者(これは、当人含めて)はいるが、それについてどう思うか? 

 

 

 他にも、細やかな事を幾つか尋ねるが、大まかにはこの四つが基本であり、必要でないと判断したら、この4つだけで終了である。

 

 わざわざ面談を開くというのにそっけない……と、思われそうだが、これも仕方がないのだ。

 

 なんといっても、ナザリックのNPCは数十人(たしか、三桁は居なかったような……)もいる。

 

 1人に20分も30分も時間を掛けていては、体力的には問題なくとも、悟の方が気疲れしてしまう。

 

 

 それに……悟の目的の相手は、2人だけだ。

 

 

 あくまでも不公平感を出さないために全NPCを対象にしただけなので、悟としては、他はおまけでしかなかった。

 

 ちなみに、パンドラはあくまでも隣の席に座ってもらっていた。これは畏まったモノではなく、本当に軽い質疑応答みたいなものだということを、雰囲気で感じ取ってもらいたいためである。

 

 

 ……それが上手くいったのかは、悟には分からない。

 

 

 けれども、1人、また1人と面談を終えて行く中で。

 

 

(……そうか、そうだったのか)

 

 

 意外というのも変な話なのかもしれないが、これまで感じていた疑問の一つが解消したことに、ちょっと驚いた。

 

 それは……NPCたちが、どうしてここまで人間(他種族)を見下し、蔑視する者が多いのか……である。

 

 話を聞く前は、単純にカルマ値がマイナスであり異形種(悪魔や人食)だからこそ、人間を蔑視するモノと思っていた。

 

 

(まさか、ナザリックに侵攻してきた1500人のアレを記憶していたとは……)

 

 

 だが、実態は少し違った。確認した全員が記憶しているわけではなかったが、覚えているNPCはそれなりにいた。

 

 

 ──1500名によるナザリック討伐隊。

 

 

 それは、ユグドラシルが盛況だった頃に一度だけ起こった、ギルドアタックである。

 

 詳細は省くが、あの時は凄まじかった。

 

 『ナザリック地下大墳墓』の切り札の一つである『第八階層のアレら』によって撃退出来たが、失敗に終わっていたらナザリックが終わっていたかもしれない大事件だった。

 

 

 しかし、それなら納得出来た。

 

 

 NPCたちからすれば、人間は『至高の御方』を殺しに来た外敵であり、自分たちを殺し、ナザリックを崩壊させようとした怨敵である。

 

 そこに、別の世界とかそういうのは関係ない。

 

 どんな場所であろうが、ナザリックのNPCたちにとって、余所者は余所者であり、潜在的に嫌悪して……なるほどと、悟は思うと同時に、やるせなくなった。

 

 

(NPCたちからすれば、この世界の人間や亜人とかは、親や仲間を殺しに来た者たちの親戚みたいにしか思えないわけか……)

 

 

 NPCたちには、NPCたちなりの理由があった。

 

 しかし、それでいったいどうしろというのか。

 

 だって、討伐に来たプレイヤーたちにとっては、所詮はお遊びだ。悟たちだって、お遊びでしかなかった。

 

 そりゃあ、愛着のあるNPCがロストしたら悲しい。

 

 けれども、復活コストこそ有ったが、何時でもコマンドで復活させることが可能だったら、悲壮感など皆無だった。

 

 あのペロロンチーノですら、シャルティアが倒された時は喚いた程度であり、それこそ涙を流すなんてことはしなかったのだ。

 

 

 ──これはもう、どうしようもない。

 

 

 そう、悟は思った。

 

 仮に、『星に願いを』などでNPCたちのカルマ値をプラスに出来たとしても……いや、それだけではない。

 

 この時の記憶を全NPCの頭から消すとなれば、『流れ星の指輪』一つ使い切る必要が出て来るかもしれない。

 

 加えて、カルマ値以前に設定的に残忍な性根を与えられている者も居て、変えるとなると設定まで弄る必要が出て来る。

 

 そもそもNPCの中には『脳食い』だとか『恐怖公』だとか……まあ、今の悟からすれば視界にすら入れたくない者もいる。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………哀れには思うが、結論は変わらないなと悟は……っと。

 

 

 

「──失礼いたします……わん」

 

 

 

 前の人が去ってから、きっかり2分後。

 

 Barに姿を見せたのは、犬の顔を持つ人型(?)のNPC。それは、悟がこの面談を開いた理由の片割れであり。

 

 

「良く来た、ペストーニャ。ここに座れ」

「はい、アインズ様……わん」

 

 

 その名を、『ペストーニャ・S・ワンコ』

 

 

 ナザリックの中では唯一、創造主より『優しい』と設定されている……かつて、ギルドメンバー全員が愛したとされるNPCであった。

 

 

 

 

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