オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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お久しぶりです
久しぶりなので、骸骨様を曇らせます


(裏話)骸骨が背負うモノ

 

 

 

 

 ──とにかく、ツアレからも話を聞かなければならん。

 

 

 

 未だに土下座を続けようとするセバスを命令して立たせた(正直、気まずくて仕方がない)悟は、パンドラよりツアレを速やかに連れてくるように指示を出す。

 

 その最中、とりあえず凶行(?)を働いたセバスに理由を尋ねようと悟は思ったが……すぐに、止めた。

 

 

 理由は、只一つ。

 

 

 普段の冷静かつ紳士的な立ち振る舞いとは打って変わって、傍目にも分かるぐらいに大粒の冷や汗を幾つも流しているからだ。

 

 普段のセバスを知っているからこそ、それは余計に目立つ。というか、いっそ不気味だ。

 

 だって、顔色はそのままで、直立不動の姿勢で立っているその姿は、正しく紳士然とした格好よさが見て取れる。

 

 

 なのに、冷や汗が凄い。

 

 

 ダラダラと垂れ続ける汗は一向に止まる気配は無く、燕尾服……この場合、タキシードと呼ぶ方が正しいのかは分からないが、相当に汗を吸っているのは考えるまでもない。

 

 

 ……セバス・チャン。その実力は、ナザリックの全NPCの中でも上位に位置する。

 

 

 立場上こそ守護者ではないが、それだけ。少なくとも、悟が真正面から何の対策もせずに挑めば敗色濃厚な相手だ。

 

 そんなセバスが、ここまで動揺というか冷静さを失う事態。その事実に、悟はふむっと顎に手を当てて考える。

 

 

 要因が外敵によるモノであるならば、確実に己へと連絡が来ているはずだ。

 

 

 それが無いということは、内々の……それも、とても個人的な問題である可能性が極めて高い。

 

 というか、要因がツアレであるのは分かっている。だって、セバスの口からそう言われたし……内容もまた、裸でベッドに入ってくると教えてくれた。

 

 だから、人知れず困り果てていたセバスがこの機会にと悟(アインズ)に相談を持ちかけてきた……そのこと事態は、まあ不自然ではないと悟は思った。

 

 NPCどころか人間であるとはいえ、このナザリックに存在する全ては悟(アインズ)のモノ。それは、全てのNPCが心身に刻み込んでいる絶対である。

 

 ゆえに、如何な理由だとしても、滞在(あるいは、ナザリック入り)している者を悟の許可なくどうこうする事は許されない……はずだろうと、悟は思った。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 いや、思っていた。冷や汗を垂れ流し続けるセバスの顔を見る、この時までは。

 

 

(……え、待って、ベッドに入ってくるだけで、まさか手を出したわけじゃないよね?)

 

 

 瞬間、悟は嫌な予感を覚えた。

 

 

 いや、だって、セバスだぞ、と。

 

 

 悟が憧れる『たっち・みー』が作り出したNPCであり、その立ち振る舞いから憧れの影が見え隠れしていて、とても嬉しかったのは比較的記憶に新しい。

 

 

 そんなセバスが、ベッドに入って来たからといって手を出したりするだろうか。

 

 

 レベル100だとしても、セバスは老年だ。体格こそ筋骨隆々だが、その外見から推測する限り、年齢は50~60代ぐらいだと思われる。

 

 これでセバスが20代とかならともかく、ツアレとの年齢差は外見上は30歳以上。例えるなら、孫娘に手を出したかのような年齢差だろうか。

 

 それに、セバスは竜人。つまり、人間ではない。

 

 いや、設定的には半分は人間だから、ギリギリセーフなのかも……いや、いやいや、いやいやいや、まさか……ねえ? 

 

 

「……あ~、その、セバス」

 

 

 でもまあ、いちおう確認ぐらいは……沸々と湧いてくる嫌な予感を振り払う為に、悟は……あえて、軽~い感じで問い掛けた。

 

 

「まさかとは思うが、やる事やっちゃった……とかじゃあ、ないよな?」

「…………」

 

 

 返答は、無言であった。ぺかーっと、何時もの感情抑制が働いたのを悟は自覚した。

 

 

「……あの、セバスくん?」

 

 

 加えて、視線を露骨に逸らされた。顔中に吹き出ている冷や汗もまた、再び増え始め──って、おいぃ!? 

 

 

(お、おま、おまえ、ちゃっかりやる事やってんじゃねえかよぉぉぉ──ー!!?!?!?!)

 

 

 その絶叫が口から飛び出さなかったのは、驚き過ぎて声に出せなかっただけである。

 

 今は居ない、かつての仲間たちが一斉に席を立つ姿が脳裏に浮かんだ。おかげで、悟は席を立ち損ねた。

 

 その中でも、バードマンのエロゲー好きな御人が、『た、たっち・みーさん……』みたいな感じで一歩引いて……って、そうじゃない。

 

 

 ちらり、と。

 

 

 隣のパンドラを見やれば、色々と予想外だったのだろう。両手で顔を押さえたまま、なにかを堪えるかのようにカウンターに身体を預けていた。

 

 そして、空気に徹しているマスターも同様だ。これまで以上に空気に徹しており、というか、物理的に距離を取っているのが視界の端に映った。

 

 

 ……やはり、己が聞くしかないのだろうか? 

 

 

 正直、物凄く嫌である。そう、悟は思った。

 

 

 いや、そりゃあ、酔っ払っているならともかく、今の悟は素面だ。そして、そういうふざけた空気でもない。

 

 

 そんな状況で、部下が己に黙ってまで助けようとした娘(実年齢は不明だが、未成年の可能性がある)との夜の事情を問い質せと言うのだろうか? 

 

 

 何度も言うし、はっきり言うが、物凄く嫌である。

 

 

 ゲーム云々ならともかく、リアルの生々しい話なんて聞きたくない。しかし、聞かないわけにもいかない。

 

 何故なら、セバスたちのボスだから。望む望まないに関係なく、彼ら彼女らの主である以上は……っと。

 

 

(そういえば、セバスってちゃんと避妊したんだよな?)

 

 

 ──嫌な予感、Part.2。ぞわぞわと背筋を這い上がるナニカは、紙に滲むが如き勢いのために、感情抑制が働いてくれない。

 

 

 同時に、切実に外れていて欲しい予感part.2でもある。

 

 いや、茶化した言い回しであるけれども、本当にハズレてほしいと悟は心から願い……(頼むぞ、セバス!)と思いながら、恐る恐る尋ねた。

 

 

「いちおう確認なのだが……避妊は──」

 

 

 びくん、と。

 

 最後まで、言えなかった。その前に、ひと際激しくセバスの肩が跳ねたからだ。

 

 それはもう、分かり易過ぎてワザとやっているのかと思ってしまうぐらいに露骨な反応であった。

 

 

(……ここに女性メンバーが居たら、確実にセバスと……セバスを作った『たっち・みー』さんも処刑されていたな)

 

 

 もはや、溜め息すら出ない。ぺかぺかっと点滅が如き勢いで働いていた感情抑制も、止まってしまった。

 

 今だけは、彼女たちがこの場に居なくて良かったと本気で思った。

 

 

 なにせ、悟が知る限りでは、だ。

 

 

 数少ない女性メンバーの『やまいこ』、『ぶくぶく茶釜』、『餡ころもっちもち』の3名は、そういった社会的道徳の意識がかなり高い。

 

 あくまで、ゲームだからこそ。ゲームだからこそグロいアバターで遊ぶが、リアルでは違う。

 

 実際の、リアルにおけるそういった話題がニュース等で流れる度に憤慨して、『ぶくぶく茶釜』の弟である『ペロロンチーノ』が肩を竦めていたのを、悟は覚えていた。

 

 特に、『やまいこ』は小学校の教師だ。成人同士ならともかく、片方が未成年ともなれば……止めよう、想像するだけで色々と怖くなってきた。

 

 

(……落ち着け、俺。とりあえず、手を付けてしまった事実は別として、この世界の常識で考えるべきだろう)

 

 

 ひとまず、怖い云々は横に置いといて、思考を切り替える。

 

 

(この世界の人達は、リアルの俺たちとは別の理由で死が近い。そうなると、必然的に成人年齢も引き下がっているはずだ)

 

 

 悟も詳しくは知らないが、かなり昔……小学校に通えていた時、サラッと流し読む程度ではあるが、何百年も前の婚姻事情に関して習った覚えがある。

 

 この世界もそうなのだとしたら、おそらくツアレ自身は自分を無力だとは思いつつも、子供だとは思っていない。

 

 実際、カルネ村の村長を務める『エンリ・エモット』は……10代後半だ。

 

 この世界でも若い部類に入るのだろうが、それでも村長を指名されて異論が出ないぐらいだ。おそらくは彼女ぐらいで、いちおうは成人扱いなのだろう。

 

 

 ……となれば、だ。

 

 

 おそらくの話……この世界の常識で考えれば、ツアレも成人扱い。だから、成人女性が老年の男性に夜這いを掛けた……というだけの話。

 

 そうなると……規律云々や年齢差や経緯は別として、成人の男女が……まあ、SEXをしただけの話なのだから、悟としては、お前らの内々で勝手にやっとれという程度の話でもある。

 

 

(……でもなあ、やる事やっているってことは、出来ちゃう可能性があるわけだ)

 

 

 しかし、だ。

 

 

(……セバスも、NPCの1人なんだよなあ)

 

 

 ちらり、と。

 

 近づいて来る気配に、悟は視線を向ける。

 

 気付いたパンドラも、セバスも、悟の視線を追いかけてそちらに目をやり……少しの間を置いた後。

 

 

「──失礼します」

 

 

 店内に入って来たのは、メイド服を身に纏った渦中の人間である……ツアレ嬢。

 

 名を、『ツアレニーニャ・ベイロン』。

 

 ナザリックでは非常に珍しい、名目上は悟(アインズ)が許可を出し、セバスが監督を務めている……10代後半ぐらいと思われる、金髪碧眼の女であった。

 

 

 

 

 

 ……ツアレがナザリック入りした経緯を語り出すと長くなるので詳細を省いて簡潔に述べる。

 

 

 要は、とある違法組織に囚われ殺されそうになった時、たまたま通りがかったセバスが助け……紆余曲折の後、ナザリックの見習いメイドになった、というのが今までの流れだ。

 

 現時点で、ツアレについて分かっている事はそう多くはない。

 

 何故なら、ツアレ自身が語らないし、己の過去を上手く思い出せないから……らしい。

 

 まあ、それも致し方ない事だと、悟は思っている。

 

 何年も前に横暴な貴族にさらわれた後、違法組織に売り飛ばされ、そこで筆舌にし難い絶望の日々を送り、最後はゴミのように袋に詰められて殺されるところだったらしいのだ。

 

 そんなツアレにとって、過去の事は辛い事ばかり。

 

 己の過去を思い出せないのは納得出来るし、思い出せないのであれば、そのままでもいいんじゃないかな……とすら、悟は思っていた。

 

 

「ツアレ、まずは一口飲みなさい。無理やりにでも唇を湿らせれば、その分だけ言葉を発しやすくなる」

「は、はい、失礼します……あ、甘い」

「酒気は飛ばしてあるから、酔う心配はしなくていい。ミルクと混ぜて作ったやつらしいが、飲みやすいだろう?」

「はい、ありがとうございます、アインズ様」

「ははは、作ったのは私ではないが、後でマスターに伝えておこう」

 

 

 しかし、この状況に至った今、そうも言っていられないかと、俯くツアレの姿を見て思った。

 

 現在、Barには悟を除いて誰もいない。

 

 序列だけを見れば、ナザリック最下位のツアレと、ナザリック最上位の悟(アインズ)。その2人が並んで座るという、二度とお目に掛かれないような光景ではある。

 

 

 当事者であるセバスが傍に居れば話し辛い事があるだろうと悟が判断し、パンドラも空気を呼んで部屋の外へと出て行った。

 

 

 そして、マスターもお酒を飲んだ事が無いツアレを気遣って、ミルクとシロップを混ぜて作った温かいホットカクテルを用意し、そのままパンドラたちに続いた。

 

 なので、残されたのは悟とツアレの2人のみ。

 

 ガチガチに緊張していたツアレも、温かく甘い物を飲んで力が抜けたのか、強張っていた頬がホッと緩んだ。

 

 

「……セバスより、少しばかり話を聞いた。君は既にセバスと肉体関係があるとのことだが……」

「──っ!」

「ああ、勘違いしないでくれ、両方とも責めるつもりはない。ただ、どうしてそうなったのか、そのように思い至ったのか、それを知りたいだけなんだ」

 

 

 それを察した悟は、そのまま本題に入る事にした。

 

 下手に言葉を選んでいる間に再び緊張させてしまうよりも、一気に行った方が向こうも話し易いだろうと思ったからだ。

 

 

「……無礼であるとは存じております。ですが、どうか……セバス様を責めないでいただけますか?」

 

 

 そして、そんな悟の思惑は上手くいった。

 

 気が緩んだおかげなのか、あるいは初めからそのつもりだったのかは定かではないが、ツアレは特に隠すような素振りもなく……ポツリポツリと話し始めた。

 

 

 ……内容を簡潔にまとめると、だ。

 

 

 まず、先に手を出したのはツアレである。ツアレが自分から裸になってセバスのベッドに潜り、行為を迫った。

 

 その際、セバスは拒否した。はっきりと、拒絶されたとツアレは言った。

 

 同じくナザリックの僕である以上は、悟(アインズ)の許可なくそういった行為を行うこと事態が不敬であると告げられた。

 

 

 けれども、ツアレは一切引かなかった。

 

 

 抱いてくれなければ、このまま殺してくれと泣いて縋った。抱いてくれないのであれば、このまま自死するとまで口にした。

 

 その発言に最初はセバスも怒りを露わにした。

 

 だが、泣いて、泣いて、とにかく縋って縋って縋りついて……哀れに、それでいて根負けしてくれた結果、抱いてくれた……とのことだ。

 

 

 その後はもう、同じ事の繰り返しである。

 

 

 一度禁忌を破れば、二度目からは軽くなる。それは、人間だろうが人外であろうが、関係ないのかもしれない。

 

 セバスが非常に思い悩んでいるのは分かっていたが、それでも妊娠するまでは……というのが、この件の大まかな流れであった。

 

 

(……なんだろう、年齢=彼女無しの俺からしてみたら、無茶苦茶複雑な気分だ)

 

 

 そこまで愛されているセバスに嫉妬するべきか。

 

 そこまで迫られるセバスに同情するべきか。

 

 

 些か判断に迷うところだが、ひとまずウイスキーの香りを嗅いで気を落ち着かせた悟は、改めてツアレを見やった。

 

 

「ツアレ……一つ聞いてよいか?」

「はい、なんなりと」

「私の記憶が確かなら、お前は……そうだな、過去の出来事から、そういった行為を忌避するものだと考えていたが……どうなのだ?」

 

 

 その瞬間、ツアレは……答えず、沈黙した。

 

 それは、嫌な事を聞かれた……というわけではない。

 

 どう答えれば良いのか分からないといった感じで、上手い言葉が出てこないので、答えられない……といったように悟には見えた。

 

 

 ……無理やりにでも問い質すべきか……いや、止めておこう。

 

 

 いくら僕とはいえ、自由恋愛を禁止した覚えはない。ここで叱責をするのは理不尽だろう。それに、答えないのではなく、上手く答えられないだけだ。

 

 よほどの不利益をもたらしたならともかく、言うのは何だが、たかが男女の痴情のもつれにいちいち長く首を突っ込もうとは思っていなかった。

 

 

 ……というか、むしろ、だ。

 

 

 この状態のツアレを王都に戻すって、見方を変えればヤリ捨ての亜種みたいなモノでは……とすら、悟は思った。

 

 

「……アインズ様」

「ん?」

「質問に質問を返すのは大変に無礼な事だとは存じております。ですが、それでも……どうしても、私もアインズ様に聞きたい事があります」

「気にしなくていい。答えられる事であるならば、答えよう」

 

 

 けれども、そんな悟の少しばかりの義憤混じりの怒りも。

 

 

「……アインズ様は」

 

 

 恐る恐るといった様子で、その次に投げかけられた問い掛けによって。

 

 

「これからも、生きるおつもりなんですよね?」

 

 

 跡形もなく鎮火し、その名残すら……悟の胸中からは消え去った。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………しばしの間、悟は何も言えなかった。

 

 

 怒ったわけではない。驚いたわけでもない。

 

 ただ、純粋に虚を突かれた気分だった。と、同時に、どうしてそんな言葉を己に言い放ったのか……その事への興味が湧いた。

 

 

「どうして、そんな質問をするのだ?」

 

 

 だから、純粋に問い掛けた。ただ、どうしてそう思ったのか……その理由を聞きたかった。

 

 

「……今のアインズ様は、昔の私と同じ目をしています」

「昔の? ということはツアレ、お前は……」

 

 

 静かに、ツアレは首を横に振った。

 

 

「全部を思い出したわけではありません。ぼんやりとしか……でも、覚えている事が幾つかあります」

 

 

 その言葉と共に、ツアレは……己の、青い瞳を指差した。

 

 

「今のアインズ様は、昔の……早く楽になりたいと、殺されてでもいいからこの地獄が終わってほしいと願っていた時の私と、同じ目をしているように見えます」

「……そう見えるのか?」

 

 

 思わず、悟は己を眼孔の辺りを手で隠す。「はい、とっても……」対して、ツアレは思うままに首を縦に振ると……俯いた。

 

 

「だから、とても不安になりました。このまま死ぬのは怖くありません。ですが、セバス様が死ぬのだけは耐え難いと思っています」

「……子を欲したのは、形見の代わりか?」

 

 

 その問いに、ツアレは答えなかった。

 

 

「……セバス様はきっと、アインズ様にナニカがあれば、共に逝かれると思います」

 

 

 代わりに、出されたその言葉に……悟は、しばしの間何も言えなくなった。

 

 

「では、セバスの殉死を止める為に子を欲したと?」

 

 

 そうして、間を置いた後で……そう、悟が問い掛ければ、ツアレは静かに首を横に振った。

 

 

「いいえ、止める為ではありません。私もソレを望みましたが、セバス様より強く止められました」

「……なるほど、もしもの時に後を追わない代わりに子を強請ったわけか」

 

 

 その言葉に、ツアレは少しばかり頬を赤く染め……次いで、悟を見上げた。

 

 

「セバス様より言われました。貴女はアインズ様に殉じる必要は無い、と。それよりも、生きていてほしい、と」

「…………」

「私が、その責を負います。どうか、セバス様を罰するのだけはお許しください。全て、私の弱さが招いた事なのです。セバス様は、私を憐れんでくださっただけなのです」

 

 

 深々と頭を下げるツアレを前に……悟は、それ以上に重苦しい溜息を零した。

 

 

「……気にするな。私は、お前たちを罰する為に呼び寄せたわけではない」

 

 

 その言葉に、ツアレは顔を上げる。

 

 緊張と恐怖で強張る顔には涙が伝っており、唇は青白くなっていた。

 

 

「……断言する。私は、お前たちを罰するつもりはない。ただ、どのような経緯で今に至ったのか、それを知りたかっただけの事だ」

「アインズ様……」

 

 

 小さな顔に、小さな頬だ。罰しないという言葉に安堵したのか、僅かばかり頬に血色が差し始めているのを見やる。

 

 頭ですら、己の、骸骨の手ではすっぽり収まってしまう。

 

 そんな小さな頭に見合う小さな頬を伝う、か細い涙を骨の指先で拭ってやる。ビクッと震えるその身体も小さく、ああ、普通の女の子なのだなと……今更ながらにその事を思い出す。

 

 

「……セバス、こちらに来い」

 

 

 静まり返った店内に、悟の声が響く。

 

 少しばかりの間を置いた後、「──失礼致します」セバスが店内に入って来た。その後ろで、パンドラがチラッと顔を覗かせていた。

 

 

「……セバス、これから私が尋ねる質問に、全て偽り無く答えよ、いいな?」

「はっ!」

 

 

 力強く返事をするセバスに、悟は……チラリと視線を向けた。

 

 

「単刀直入に、お前とツアレとの間に子が生まれる可能性はあるか?」

 

 

 ……返答までに、少しばかりの沈黙が生じた。

 

 

「可能性はあります。私は竜人、半分は人です。なので、子が生まれる可能性は0ではありません」

「では、子を作る気持ちはあるか? というより、ツアレが子を成す事への責任は覚えているか?」

「もちろん、ございます」

「では、仮に私の命令でお前が死を選ぶしかない場合……妻を、子を、残して逝くことへの抵抗感は無いか?」

「…………」

 

 

 今度の沈黙は、長かった。表情こそ変わっていないが、葛藤しているのは傍目にも分かった。

 

 

「もちろん、未練はあります。しかし、それでも御身の命令とはいえ、御身を離れて生きていくつもりはありません」

「……その為に、ツアレを王都へ?」

「軽蔑されるのは覚悟の上でございます。私自身、如何に非道な行いをしているかも……それでも、私はアインズ様の忠実なる僕にございます」

 

 

 だが、それでも……セバスは、悟から目を逸らす事をしなかった。

 

 傍で、縋るようにツアレが一瞬ばかり視線を向けたが……すぐに俯いたツアレも、セバスも、お互いを見る事をしなかった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………だからこそ、悟は。

 

 

「……王女には話を通しておく」

 

 

 それ以外の言葉を掛ける事が、出来なかった。

 

 

 ──セバスは己の思惑に気付いて、道化を演じてくれているのか、とか。

 

 ──ツアレも分かったうえで、道化を演じるセバスの為に動いているのかとか。

 

 

 色々な言葉が脳裏を過ったが、何も言えなかった。

 

 

 どんな言葉を掛けたところで、それは2人の覚悟を穢すばかりか……ひいては、己の無思慮を露呈するに等しい行為であり。

 

 

(……俺は本当に、いつもいつも……手遅れになってから気付くんだな)

 

 

 己がこれからやろうとしている事への、罪を見せ付けられたような気がしたからでもあった。

 

 

 

 

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