──国家間における、本当に内密な対談というものは、けして表に出て来る事はないのかもしれない。
もちろん、記録というのは証拠でもある。だから、より重要度の高い対談になるほど、おおよそ証拠を残しておくものである。
なにせ、それだけ隠し通さなければならない秘事というのは、だいたいその国における弱みにも繋がる。
いや、場合によっては相手の……両国に渡って影響が及ぶ事もある。だから、互いを縛る為にも証拠を残しておく。
如何に念押ししたとしても破られる事がある戦国時代でも、やはり、大義名分を得る為には証拠を残すのだから、如何にソレが大事なのかは考えるまでもないだろう。
……が、それでもなお、記録には残されない秘事はいくらでもある。
たとえば、その日、その時、その瞬間。
周辺諸国にて『黄金』の二つ名で知れ渡っている美しい姫が非公式にて帝国に訪れたのは……正しく、歴史の書物には残されない秘事であった。
……時刻は、深夜。
ゴブリンやオークなどの人を襲う亜人が跋扈するこの世界において、深夜の外出というのは自殺行為にも等しい愚考である。
なにせ、危険なのは亜人だけではない。人さらいを始めとして、同じ人間を食い物にする悪党どもは数えきれないぐらいにいるからだ
リアルのように科学技術が発達しているわけではないこの世界では、目の届かない死角というのは掃いて捨てるほどに存在している。
ゆえに、深夜にて移動する者は、その暗闇に慣れている者か、護衛なり何なりで身を固めて動くのが一般的である。
例外は、目立つ事を避けたい者。あるいは、露見してしまうと非常に厄介な事態を引き起こしてしまう場合……つまり、危険を冒してでもやらなければならない場合に限られた。
「……本当に、やって来るとは思っていませんでした」
そして、その日……帝国の王城へと姿を見せた集団を前に、顔を仮面で隠したローブ姿の……声と大きさから男だと思われるその者は、思わずといった様子でポツリと零した。
傍から見れば、怪しい事この上ない集団である。
なにせ、王城へとやってきた集団もまた、全員が仮面とローブで姿を隠している。見たところ体格はバラバラで、人数は……全員で8名。
対して、出迎えたのは4名。
こちらも、ローブ越しに分かる体格もバラバラだ。辛うじて、武装しているのだけは分かるが、それだけ。
つまり、単純に人数だけを見れば、仮面とローブで素性を隠した12名の怪しい集団が、人の目の外れた深夜の王城の一角に集まっているわけだ。
そして、出迎えた4名の内の1人の第一声が、ソレである。
これで怪しくないと思える者は、頭に欠陥を抱えているから治療を受けた方が良いぐらいだろう。
実際、帝国へとやってきた8名も似たような事を思っていたのか、フフッと誰も彼もが小さく笑い声を上げた。
「……案内してもらえますか?」
「もちろん、そのように命令を頂いております。さあ、こちらへ」
代表する形で、8名の中でも比較的小柄な……声からして、10代半ばと思われる者が促せば、全員が動き出す。
場所が王城とはいえ、普段は使用されないうえに一部の者しか知られていない通路を通り、静まり返った暗闇の中……案内されたのは、極一部の者しか使用を許されていない客室であった。
「──やあ、待っていたよ」
中には、男が居た。だが、普通の男ではない。
この帝国……いや、遠く離れた王国にもその名が知れ渡っている、ジルクニフ皇帝が、カップの紅茶を片手に手を振って出迎えた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「いやいや、気にしないでくれ。帝国にもその名が知れ渡る黄金の姫が来るとなれば、こうして待っている時間も楽しいものだ」
「そう仰っていただけると、私たちとしても気が楽になります」
そう言うと、小柄なローブの……彼女が、スルリとフードを外す。
途端、金糸のように煌びやかな髪が露わになるに合わせて、仮面を外せば……露わになったのは、誰しもがハッと息を呑んでしまう美貌。
「ジルクニフ皇帝、突然の会談を了承していただき、ありがとうございます」
その名を、『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』。
『リ・エスティーゼ王国』の王位継承者第3位であり、『黄金』と称されるほどの美貌を持つ。
加えて、冒険者に対する報奨金の支払い、奴隷売買の禁止、小規模ではあるが王直轄部隊による街道警備などを制定したことで、国民より絶大なる人気を得ているラナー王女である。
……その、王女がどうして……いちおうは敵対国であるバハルス帝国に来たのだろうか?
商売という面では双方に開かれてはいるが、国家間として見れば、間違いなくこの二つは敵対し合っている国である。
国家の存亡を賭けるような全面戦争こそ行われてはいないが、これまで幾度となく小規模ながら戦端が開かれ、双方に少なくない犠牲者を出して来た。
仮にこの状況が悪い形で露見すれば双方が……特に、内部に多大な不穏分子を抱えている王国にて革命が起きかねないぐらいの大事である。
「礼は良い。それで、その後ろに居る者は?」
視線で促せば、ラナーの隣に立っていた者がスッとフードと仮面を外す。
露わになったのは、ラナーより少しばかり背丈はあるものの、全体的に小太りで、お世辞込みでも、その美貌の足元にも及べない三枚目の男であった。
「……ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。第二王子までも連れて来たのか?」
「はは、意外ですか?」
「正直、意外だな。少なくとも、私が把握している限り、王国で上に立てるのはラナー王女だけだと思っていたからな」
「これはまた、手厳しい」
思わず……といった様子で目を瞬かせたジルに対して、ザナックは、困ったように一礼した。
「……ふむ、どうやら後で諜報部に一喝入れておかねばならないな」
それを見て、ジルは苦笑した。
ジルがそう口走った理由は、帝国の諜報部よりもたらされた第二王子の情報に重大な誤りがあったからだ。
ジルが把握している限り、『リ・エスティーゼ王国』に対して警戒しておかなければならない相手は、2人だけ。
1人は、周辺諸国にもその名が知れ渡っている、王国最強の戦士である『ガゼフ・ストロノーフ』。
個人戦力という面では勝ち目が無く、帝国が誇る四騎士を戦争の際に仕留められてしまったという因縁がある相手である。
そして、もう1人は……眼前のラナー王女である。
ガゼフが武力であるならば、ラナー王女は智略。
庶民たちからは稀代の名君と謳われ、大多数の貴族たちからは鮮血帝と恐れられているジルですらも推し量れぬ、寒々としたナニカを感じさせる相手。
それが、ラナー王女である。
対して、他の王子たち……つまりは第一王子のバルブロと、第二王子のザナックに関しては、全くの……言ってしまえば、ノーマークであった。
特に酷いのが、第一王子のバルブロだ。
王としての器どころか、貴族としての最低限の器すら持ち合わせていない。たまたま王家に生まれただけの凡人であり、実力に見合わないプライドだけを持ち合わせた愚者だと思っていた。
そして、第二王子のザナックは……言ってしまえば、身の程を弁えた凡人だろうか。
伝わってくる評判こそ悪いが、頭はけして悪くはないとジルは判断していた。少なくとも、あっちこっちに尻尾を振って面倒事を引き起こさないだけの頭を持っていると思っていた。
「ちなみに、この計画を思いついたのはラナー王女か?」
「案を練ったのは妹のラナーでございます。とはいえ、ラナーは、私など足元にも及べない知恵者ではございますが、そのせいで、色々と無用な誤解を招きかねないと……無理を言って同行致しました」
「……なるほど。ラナー王女だけならば面倒なだけではあるが、ザナック王子まで揃うと我が帝国としては非常に厄介な相手になるようだ」
だが、先ほどの朗らかに笑って受け流す姿を見て、ジルはザナック王子の評価を一変させた。
(と、なると、真に無能なのは第一王子のバルブロか)
そう、結論を出したジルは、居住まいを正すと……2人の護衛を務める後ろの者たちに視線を向けた後で、改めて2人へと視線を戻した。
「それで? この大陸の未来に関わる事態だとわざわざ手紙を送ってまで、この場を用意させた目的はなんだ?」
尋ねれば、ザナック……ではなく、ラナー王女がニッコリと愛らしい笑みを浮かべた。
「単刀直入に言います。この次に起こす戦争ですが、我が国の不穏分子を一掃する為に御協力していただきたいのです」
その瞬間……場の空気が凍った。
いや、正確には、帝国陣営の空気だけが凍った。
思わずといった様子で互いを見合わせるジルの護衛たち……を尻目に、いち早く我に返ったジルは、思わず唸った。
「……すまない、今、何と言った?」
「我が国の不穏分子を放置すると、そちらの国まで影響が出てしまいますので、御協力していただきたいのです」
サラッと、先ほどよりも具体的な言い回しになった。
それを聞いて、動揺を隠せない帝国の護衛。まあ、普通に考えて、誰だって困惑するだろう。
そんな者たちを背に、「聞き間違いではなかったか……」頭痛を堪えるかのように顔をしかめるジル……を他所に、だ。
苦笑を隠せないザナック王子の隣で……ニコニコと朗らかに笑うラナーは内心にて、ニヤニヤと
ラナーがそう思うのも、無理はない。
何故なら、多少なり猶予を設けられたとしても、ジルクニフ皇帝は必ず首を縦に振るだろうと確信していたからだ。
どうしてかと言えば、それは帝国が抱えている……自国民に対して、余裕を持てるだけの食糧を生産出来ていないからだ。
帝国は、確かに王国よりも安定してはいるが、今に至るまで全てが順風満帆というわけではない。
盤石の地位を築くに辺り、仕方なしにと後回しにした政策がある。その一つが、食糧生産……すなわち、自国民の胃袋を満たす食糧の確保だ。
というのも、帝国領は元々土壌に恵まれているわけではなく、関係が悪化する前から王国より食糧を購入し、悪化した後も食料の購入を続けている状態だ。
対して、王国は肥沃な土地を数多く抱えている国である。
さすがに種を植えれば勝手に豊作になるほどではないが、帝国に比べたらはるかに食料を生産しやすく、毎年余った分を輸出できるだけの余裕があるぐらいには恵まれた土地であった。
ジルが……帝国が王国を狙う最大の理由が、そこである。
とはいえ、ジルはそれを良しとはしていない。食料自給の為に様々な事を行っているが……そんなのは、5年10年15年と時間を掛けてようやく実を結ぶ事である。
少なくとも、来年また来年程度で解決出来る事ではない。
そして、それはジルのみならず、ラナーもまた得られた細やかな情報から正確な推測を導き出していた。
「……私が、そんな頭のおかしい計画に賛同すると思うか?」
「別に、お嫌なら結構ですよ」
「はぁ?」
「その場合、王国は遠くない未来に滅びます。というより餓死者が一気に出た事で革命が起きる可能性が大でございます」
「はっ?」
「親切なとある人たちから、なんとか今年の冬をギリギリ越せるだけの食糧を融通してもらう手筈となりましたが……失った人員まではどうにも出来ず、来年以降は物凄く大変でしょうね」
──王女のお前が言うのかと、反射的に飛び出しかけた暴言をジルは気合で抑えた。
「……で?」
「すると、帝国に来ますよ?」
「……それ以上言うな」
「プライドだけが高く足を引っ張ることだけが上手な貴族連中と、裏切り略奪当たり前の名ばかりな私兵が数千人と、麻薬やら何やらによって堕落して暴虐が蔓延った王都」
「言うな、聞きたくない」
「そして、貴族を始めとして尊き血筋の者たちへの根強い反発心と恨みを抱えた数百万人の民。蠢いて、次の寄生先を見定める大小様々な犯罪組織に犯罪集団」
「貴様、分かったうえで話しているな?」
「そんなのが1割、2割……帝国へ向かえばどうなるか……聡明なジルクニフ皇帝ならば、私が危惧する未来……その一端を察していただけると幸いでございます」
「……以前から思っていたが、やはり私はお前が嫌いだ」
深々とため息を零したジルは、ヤケ酒が如くカップのお茶を飲み干すと……ガツン、と音を立てて置いた……カップが欠けたが、ジルは気にも留めなかった。
……ジルの態度が悪くなるのは、当たり前であった。
何故なら、ラナーの話は全て、ジルが以前より危惧していた事態であるからだ。
王国に未来は無い、いずれ崩壊する、それはジルも予測していた。
だから、形だけとはいえ瓦解さえしていなければ良しという程度に考え、王国から入ってくるよろしくないモノを抑え、余計な事をしない程度に力を削ぎ落す事だけを考えていた。
だが、いくらなんでも崩壊が早過ぎる。ラナーの口ぶりだと、もう猶予は長くないのだろう。
──おそらく、王都で起こった悪魔のアレが原因だろうとジルは推測した。
只でさえ長年に渡る横暴と圧政によって疲弊しきっていた王国だ。もはや、正攻法ではどう足掻いても立て直せないぐらいの状態に成ってしまったのだろう。
……まあ、アレだ。
(……とまあ、そう考えているでしょうね)
と、いった感じで頭を悩ませているジルの内心をほぼ全て読み取っているラナーも大概だが。
(この女……理解したうえで嘲笑ってやがる……!)
己の内心は既に読み取られているのだろうと判断出来ているジルも大概で……っと、話を戻そう。
いずれは攻め落として領土を得るつもりだったとはいえ、今はまだ、帝国側にも押し寄せてくる難民たちを対処出来るだけの余裕が無い。
せめて、後15年……いや、12年。
それだけの猶予が有ったならば、ジルはこの話を熟考した後で一部拒否していただろうが……いや、しかし、眼前の気味の悪い女の計略に乗るのは癪に障るというか……。
「あ、それとですけど、仮に王国が滅びれば『調停者ゾーイ』様が動き出すかもしれませんので、そこもご検討していただいたら……」
「はっ?」
しかし、そんなジルの葛藤も、ラナーの前では無意味であった。
「私、この前ゾーイ様に怒られまして。風の噂ですと、そちらも……ゾーイ様に怒られたとか……」
「…………」
「お互いに怒られちゃったのに、協力せず何時までもやりあっていたら……ゾーイ様がどう思うのか、私とても怖くて怖くて……」
困ったように……それでいて、心底楽しげな様子で微笑むラナーの姿を前に……ジルは、己と同じ目をしているザナックを見やった。
「……ザナック王子、おまえはよくもまあコイツの兄をやっていられるな?」
「こんなのでも、私よりは何倍も優秀ですから……元々、腰を据えて本気になったらこんなものですよ」
「……私は生まれて初めて女が怖いと思ったぞ。歴史を紐解いても、自国の滅亡を脅しに掛けてくるような女を見た覚えがない」
「奇遇ですね、私もです」
……。
……。
…………ガシッ、と。
敵国同士の男たちは、無言のままに握手を交わした。ジルの後ろに居る4人は、ちょっと身を引いていた。
『ら、ラナー……私の知らない間に、王族としての処世術を学んだのね……』
『感慨深そうにしている鬼ボスが理解出来ない超怖い、王族ってみんなこういうのなの?』
『大なり小なりまともな王族はこんなものだ。私としては、そこの坊やの恋心が冷めてしまう事が気掛かりだが……』
『俺は、ラナー様を守り続けるだけです』
『……へ、一本筋の通った男はこれだから……嫌いじゃないぜ』
『惜しい、あと3歳若かったら食指が動いていた』
なにやら、ラナーの後ろでごそごそと言い合う者たちが居たが、ちょっと身を引いている帝国側からは特に気にされなかった……と。
「……ラナー王女。一つお伺いしてよろしいでしょうか?」
唐突に……纏まりかけた空気に割って入って来たのは、ジルを護衛する内の1人であった。当然ながら、顔は分からない。
しかし、声からして、おそらく女。「そうか、その名前が出たのならば仕方がない……」無礼かつ不敬な行動ではあるが、ジルは苦笑するだけで女を止めようとはしなかった。
「なんでございましょうか?」
「ゾーイ様は、どこにおられるのでしょうか?」
「居場所については把握しておりますが、不必要に居場所をもらすわけには……どういったご用件でしょうか?」
ニコニコと愛らしい笑みのままにラナーが尋ねれば、その女からの返事が僅かばかり震えていた。
「長年に渡って私を苦しめてきた呪いを解いてくださった、大恩人でございます。お礼をする前に、ゾーイ様は何処かへ向かわれ……生涯を通じて、彼女の下で仕えたいのです」
「まあ、それはそれは……事情は分かりました」
深々と頷いたラナーは……しかし、困ったように表情を変えると、「ですが、お答えすることは出来ません」首を横に振った。
「今のゾーイ様はかなり不安定なご様子で……ですので、私共も基本的には接触を避け、ゾーイ様の御心が静まるのを待っているところでございます」
──最後にその御力を振るわれたのは、帝国だと思いますが……なにか、御存じでしょうか?
にっこり、と。
再び、花開くような柔らかい微笑みを向けられたジルは。
「……ラナー王女、時間は有限だ。早速、計画を詰めるとしよう」
苦々しく、心底腹立たしいと言わんばかりに、口元は笑みを浮かべているが目は全く笑っていないという器用な顔で、スルッと話を逸らすしかなかった。
……。
……。
…………それは正しく、歴史に記される重大な出来事ではあるけれども、歴史には決して記されない密談であった。
いったい、何処の国に、自分の国を襲わせるよう他国へ打診する王族がいるだろうか?
常識的に考えて、狂人の発想である。
実際、会談を終えたジルはその日、『今日は飲まなければやっていられん!』と鼻息荒く吠えると、浴びる様に酒を飲み干し……そのままベッドに飛び込み、眠ってしまった。
その際、ベッドを共にしたとある女は。
『普段の陛下からは想像が付かないぐらいに荒々しいうえに激しく、苛立っていた。嫌というわけではないけど、毎回アレだと身体がもたない』
と、苦笑交じりの愚痴を零していたとか。
まあ、ジルが荒れるのも無理はない。
状況的にそうするしかなかったにせよ、客観的に見ればラナー王女より言われるがまま首を縦に振ったも同じだ。
鮮血帝と揶揄されるほどに
しかし、無駄に嫌味を言ったところで相手には全く通じないことも、ジルは理解していた。
なので、大多数の庶民たちと同じく飲んで憂さを晴らし、気心知れた女とベッドを共にし、昂っていた怒りを静めたわけであった。
……だが、しかし。
そうして、ようやく言い様にやられてしまった怒りと不甲斐なさを呑み込み、今日ぐらいはと二日酔いで痛む頭を堪えつつ、ベッドの中でウンウンと考え事をしていた……のだが。
「──陛下! 王国の『影』からの緊急報告です!」
その日、その時、ジルを起こしたのは何時まで経っても起きて来ないジルを咎めに来た、側近からの起床の呼びかけ……ではなく。
「王都『リ・エスティーゼ』にてクーデター発生! 首謀者は第一王子と思われ、貴族派が追従する形で武力行使を行っているとのこと!」
王都に潜ませていた『影』からもたらされた、王国にて内乱が勃発したという……にわかには信じ難い報告であった。
……そして、その瞬間……ジルは、悟った。
いくら話を詰めたところで、最終的な判断はジルだ。
向こうはそれを理解していたからこそ、早急に事を動かさないと~という様子で発破を掛けた。
……この状況で放置は悪手にしかならないから、ジルもラナーの計画を拒絶するつもりはなかった。
けれども、頭が冷えた今。
ちょっとぐらい初動を遅れさせて、ヤキモキ&冷や冷やさせる仕返しぐらいは許されるだろう……と、ベッドの中でニヤニヤしていたところだったのだが。
──こうなってしまえば、猶予は全く無いし、ジルも休んでいる場合ではない。
仮にバルブロを頂点とした貴族派がクーデターを成功させてしまえば、今後の王国の相手はバルブロとなるわけだが……正直、ジルはバルブロにそういった交渉をやれるとは思っていなかった。
なにせ、把握している限りは、だ。
現状にてクーデターを発生させるなんて、まともな頭を持っていたら取れる選択肢ではない。それぐらいに、愚かな選択肢だからだ。
国王がよほどの悪政を敷いて民を蔑ろにしているならともかく、だ。
少なくとも、ジルが知る限りでは現国王のランポッサ3世は決定力こそ無いが、嫌われているわけではない。対して、バルブロの良い評判は全く耳にしていない。
そして、圧倒的に国民の支持を集めているのはラナー王女だ。
ラナー王女はおそらく王制派……すなわち、このクーデターは、傍から見れば国民の支持を受けているラナー王女を力ずくで排除しようとしている貴族の構図だ。
……考えれば考えるほどに、気が滅入ってくる状況である。
そんな形で国王の座に付いたとしても、民が付いて行かない。無理やり抑えようとすれば、今度こそ民が武装蜂起して革命運動が起こるだろう。
そうなれば……事はもう、王国内では収まらない。
なにせ、現状ですら帝国は食料の幾らかを王国に依存している。
それが滞るようになれば、帝国内にも不満が出始める。
必然的に、他所から食料を集めるわけだが……そうなると、困るのは食料を売り捌く商人……ではなく、その商人から食料を買っていた民たちだ。
定期的に行われる戦とはワケが違う。
王国と帝国、二つの間で完結していたモノが、連鎖的に他国へと広がり……下手すれば、ジルが思い描いていた未来が10年、20年は遅れて……ああ、そうだ。
(コレを誘発させるために、あえて第二王子と第三王女が国外に出て、合わせて、意図的に情報を流して分かり易い隙を作ったというわけ……か)
ようやく……そう、ようやくラナー王女が描いた筋書きの全貌が露わになったのを理解したジルは。
「あ、あ、あの、あのおんなぁぁぁあああああ!!!!!」
脳裏に浮かぶ、気味悪く朗らかに嗤うラナー王女。
せっかく静まっていた怒りを爆発させて、思いっきり枕をぶん投げるしか出来なかった。
はらり、と。
枕に抜け落ちていた金髪が、ふわりと舞い上がり……床へと落ちた。
ここから先、(裏話)は消えます
視点がけっこう変わるので、読みにくいかもしれません
物語で言ったら最終章、ゴールまでノンストップとなります