……。
……。
…………さて、だ。
時間は、少しばかり前、『リ・エスティーゼ王国』の王城へと戻る。
場面は……そう、謁見の間だ。
何時もなら、集まった貴族たちを前に、貴族たちのどうでもいいマウントの取り合いと、欠片の益にもならない話し合いをするだけで終わるだけであったが。
その日、その時……前述の通り、ランポッサは何時もとは違う事を口にした。
以前のランポッサであれば、貴族たちも高を
──貴族の一部がヘラヘラと王を嗤った瞬間、持っていた杖をその貴族へと投げつけたのだ。
杖は当たりこそしなかったが、投げられた貴族は動揺した。
当然だろう、なにせ、今までランポッサがそこまで直情的な行動を取った事は……それこそ、即位してすぐの若かりし頃ぐらいしかない。
その時だって、杖を投げつけるのではなく、少しばかり怒気を込めて睨みつける程度であった。
だから、若かりし頃のランポッサを知っている者ですら、この対応には驚いて言葉を失くしてしまった。
「──王よ、これはどういうことか! いくら王とて無礼ではありませんか!」
ゆえに、杖を投げつけられた貴族たちの中でも……この場においては若い部類に入るその者は、顔を赤らめて怒鳴った。
どうしてかと言えば、その者は弱々しくどちらにも動けない王の姿しか知らないからだ。
だから、貴族としての常識……如何な相手が王とはいえ、無礼な態度を取られた自分は被害者であり、王に非が有ると本気で考えていた。
「──余は、汚染を取り除くと勅命を出した」
「それが、いったい何だと言うのですか!?」
「貴様は、何故笑った? 余は、勅命を出したのだぞ」
「それとこれとは別です!」
だが、しかし……頭に血が上ったその貴族は別として、だ。
顔色一つ変えず、冷え冷えとした眼差しを向けるランポッサの姿に、古参の貴族たちは、『何時もと様子が……?』と異変に気付いて、口を挟むことをしなかった。
「……そうか、余の勅命よりも自らの矜持が大事か」
それが……この貴族の明暗を分けた。
「ガゼフ」
ポツリ、と。
それは、ともすれば只の呟きであった。
しかし、その呟きと共に王の傍に控えていたガゼフは、無言のままに剣を抜くと──訝しんで二人を交互に見ていたその貴族へと振り下ろした。
「えっ──?」
ポカン、と。
己が何をされたのか、理解出来ない。
そんな様子で目を見開いたその貴族は、パッと周囲に血飛沫を広げると……そのまま、言葉一つ発せないままに崩れ落ち……絶命した。
誰も彼もが……何も言えなかった。
誰も彼もが……理解する事を拒んだ。
眼前にて起こった惨劇に舌が貼り付いてしまったのか、パクパクと唇ばかりが動くだけで……いっそ気味の悪さを覚えるぐらいに静まり返っていた。
そんな貴族たちを尻目に、ガゼフは無言のままに剣に付着した鮮血を手拭いで拭き取ると……今しがたのコレなど気にも留めていないかのように、再び王の傍にて直立不動となった。
……謁見の間は、異様な空気で満ちていた。
普段の王とは明らかに異なる対応。有無を言わさず貴族を切り殺したガゼフ。それに対して、王は何一つ注意を払うことなく、ジロリと貴族たちを見回した。
「おまえたち……今、何か起こったか?」
「え……?」
何か……そんなの、決まって……そう誰しもが言い掛けたが、それを口に出せる度胸のある者は、この場にはいなかった。
だって、ランポッサは……無表情のままに、傍に控えている兵士に視線を送り、その兵士が持っていたベルを鳴らせば、だ。
顔色を青ざめたメイドたちが謁見の間へと入り、遺体を引きずってゆく……メイド服を血まみれにしながら、泣きそうになりながらも、メイドたちは血の跡を床に残しながら……出て行った。
……そう、そうなのだ。上に立つ者としては優し過ぎると言われたランポッサが、そのように命令したのだ。
以前の王であれば、メイドに対して……女子供に対して、そのような命令は絶対に下さなかった……はずなのに。
「……ふむ、余も歳が歳だからな……ガゼフ、何かこの場で問題は起きたか?」
「何も、起きておりません」
──えっ!?
その瞬間……貴族たちは、我が耳を疑った。反射的に、ガゼフへと視線を向けた者たちは……1人の例外もなく背筋を震わせた。
何故なら、ガゼフの顔には何一つ感情が浮かんでいなかったからだ。
たった今、貴族を殺したというのに。そこらを飛んでいた羽虫を殺したのと同じであるかのように、無表情のままに……何も起こっていないと口にしたのだ。
そして、それは……ランポッサに対しても同様だ。
自らの指示で貴族を殺したというのに、それを無かった事にしている。いや、それどころか、文句があるならお前たちもこうなるぞと言わんばかりに、冷たい眼差しを貴族たちへと向けていた。
……違う。誰もが、同じことを思った。
何がどう違うのかは、上手く説明が出来ない。だが、誰もが……今、目の前に居る王は、自分たちが知っていた昨日までの王とは違うということを……察した。
「……さて、もう一度言おう。余は、勅命を出した」
そんな中、ランポッサは再び貴族たちへと命令する。
「既に、こちらである程度の調査を終えている。しかし、まだ完了していない部分はある……そこで、おまえたちにも協力を求めようと思う」
「……きょ、協力、でしょうか?」
そう、絞り出すように尋ねたのは、集まっている貴族の中でもかなり年上の男であった。
その顔色は、はっきりと青白い。
今しがたの凶行もそうだが、明らかに以前と異なる王の姿に、恐怖心を抑えきれていないのが明白であった。
「うむ、今回、既に『クロ』となった家は、如何に古くから王国を支えてきた貴族であろうと全ての財産を没収したうえで、一族郎党極刑に処すつもりでいるが……」
──一族郎党極刑!?
ギョッと、貴族たちは目を見開いて狼狽した。
老年のランポッサしか知らない、比較的若い貴族連中もそうだが、ランポッサとそう変わらない老年の貴族たちもまた、動揺を露わにした。
若い頃のランポッサですら、ここまでは言わなかった。
脅しだとしても、当人だけに留まらず、その家族すらも極刑にするという強烈な言葉を口にできるほど、ランポッサは非情に徹しきれなかった。
そう、思っていた。
だが、違う……本気だと、貴族たちの誰もが思った。
改めて、王は本気で王国の膿を切り落とすつもりだと……だが、理解した時にはもう遅く……ジロリと、ランポッサより睨まれた貴族たちはビクッと背筋を伸ばした。
「この件に、いちいち時間を掛けるつもりはない。そこで、こうしよう……非合法の犯罪に手を染めている者を知っていたら、余に伝えよ」
……え?
「もちろん、その者の罪は幾らか軽くしよう。さすがに、罪の重さによっては財産と領地の幾らかを没収する事にはなるが、疚しい者でなければ恐れる必要は何も無いと余は考えている」
…………ええ?
誰も彼もが、一瞬ばかり何を言われたのか理解出来なかった。いや、理解する事は出来たのだが、それを拒んでしまった。
だって、ランポッサの言わんとしていること……それすなわち、昨日まで甘い蜜を分け合っていた仲間を密告しろと言っているも同じだったからだ。
……同時に、貴族たちは理解した。
昨日まで盤石だった自分たちの立場が、もはや風前のともし火に近しい状態にあるということを。
と、いうのも、だ。
王国の貴族たちの間には義理や信条や友情といったモノは存在していない。
一見、互いを信頼しあって協力しているように見えても、それは互いに利が生じており、互いが損をしない、あるいは損をしても最後には見返りが得られるから繋がっているだけだ。
言うなれば、王国の貴族間の繋がりなどというものは、庶民たちが思うよりもずっと俗物的であり、ビジネス的なのだ。
……そんな中で、王は……暗に密告すれば助けてやると口にした。間違っても、この場では絶対に口にしてはならない事を言葉にしてしまった。
──い、急がなければ!
誰もが、思った。
この場で密告すれば、他の貴族たちとの関係が根絶するだけではない。確実に、密告は殺到する。他の者たちがする前に、急がなければならない。
自分たちが助かる為には、そうするしか……だが、この場に集まった貴族たちの誰もが、疚しい部分を抱えていない者はいなかった。
……だからこそ、この場に居る貴族たちの誰もが……考えてしまった。
──このままでは……い、いかん、王の口を塞がねば……と。
だが、ガゼフが傍に居るこの場では不可能だ。王城には私兵を連れて来てはいないし、息の掛かった兵士では、ガゼフに対して万に一つの勝ち目もない。
ゆえに……貴族たちは何一つ言葉を掛ける事が出来ないまま、『沙汰は追って伝える』という王の命令を背に、王城を後にすることしか出来なかった。
……。
……。
…………そうして、だ。
王と、その王より信頼を置かれている者たちを除いて、誰も居なくなった謁見の間に……ポツリと、王は……ランポッサは、傍に控えているガゼフを見やった。
「すまぬな、ガゼフ。おまえに、辛い事を押しつけてしまった」
「いえ、かまいません。王の心痛を思えば、この程度……いくらでも耐えてみせます」
キッパリと、ガゼフは言い切った。
その姿に、ランポッサはホッと安堵のため息を零すと……次いで、貴族たちが出て行った方向へと視線を向けた。
「……ガゼフよ、戦士長としての忌憚のない意見を聞きたい。貴族たちは、余の命を狙いに来ると思うか?」
「──間違いなく、来るでしょう。アレは、罪を覚悟して沙汰を受ける者の目ではありませんでした」
それを聞いて、ランポッサは……深々とため息を吐いた。
「……人間、誰しも心に悪魔を飼っておる。自らが肥える為に悪事を成そうとする欲望を持たない人間などおらぬ」
「…………」
「食うに困っているならまだしも、あの者たちはみな、肥えた者たちだ。慎ましく暮らせば、30年も40年も暮らしてゆけるだけの蓄えを持っているはずなのだ」
「……お言葉ですが、王よ。人は誰しも、王のように心優しくはなれないのです」
その言葉と共に、ガゼフも……貴族たちが出て行った方向へと目を向けた。
「あの者たちにとって、湯水のように大金を使い、気紛れで民を辱め、使い潰す日常が、その立場が、有って当然のモノなのです」
「貴族も、余も、全ては民あってのモノなのに、か?」
「民など、放って置けば勝手に増えるモノ。どのように扱おうが自分たちの自由であり、ソレを脅かすモノは例外なく許されない……それが、あの者たちの常識です」
「……その為に、仕える王を殺す事すら躊躇いはしない、か」
また、ランポッサはため息を零した。今度のため息は、最初よりもずっと……悲壮感が込められていた。
「全ては、ラナーとザナックの筋書き通りになるのだろう……余の口を塞ぎ、バルブロを王に据えて、これまで通りの日常を送るために、クーデターは起こされる……か」
「…………」
「余は、甘く考えていたのだろう。その結果が、コレだ。貴族たちは堕落に堕落を重ね、理不尽が蔓延り、バルブロも邪悪に頭まで浸かりきってしまった」
「…………」
「もはや、血を流さずには王国は変われぬところまで来てしまった。せめて、余の命だけで変わってくれるならばと思ったが……そう、上手く事は運ばないようだ」
「…………」
「どこまでも、余が愚かであった。余の眼は、節穴であった」
そう、零して俯いたランポッサの頬を……一筋の涙が、伝った。
(……お労しいばかりです、王よ)
それを見て、ガゼフは……いや、ガゼフだけでなく、この場に居る側近たちは誰もが……悲痛に顔を歪めた。
だが、何時までも感傷に浸っているわけにはいかない。なにせ、貴族たちが攻め込んでくるのはもう、確定と思っていい。
そうなると、後は時間との勝負だ。ラナーとザナックの予想通りに進むのであれば、このまま王城に立てこもるのは自殺行為に等しい。
「王よ、時間がありません。事前の計画通り、急ぎ城を離れてラナー王女たちと合流致しましょう」
なので、ガゼフは声を掛けた。
実際、この場に留まれば留まるほどに不利に働く状況なのだから、ガゼフの言う事は間違っていなかった。
「……そうだな。後悔も懺悔も、事が済んでからいくらでもやればよい」
ガゼフの言葉に気を取り直したランポッサは、懐より……小さな藁人形を二つ取り出すと、それを眼前へと放り投げた。
途端──藁人形は瞬く間に形を変え、人間大へと膨れ上がり……次の瞬間にはそれぞれ『ランポッサ』と『ガゼフ』へと姿を変えた。
その姿は、正しく生き写しであった。
しかも、『ランポッサ』は普段の恰好とは違い、特別な式典でしか着ない甲冑姿に王冠を被っている。誰が見ても、『ランポッサ』が偽物とは思わないだろう。
そして、『ガゼフ』にいたっては赤褐色の……王国では五宝物と言われている装備を身に纏い、『剃刀の刀(レイザーエッジ)』と呼ばれている水色の剣を所持していた。
もちろん、全て偽物である。
しかし、これも『ランポッサ』と同じく、誰が見ても偽物とは思えない精巧さであり……事前に話を聞いていたランポッサたちですら、目を瞬かせたぐらいであった。
「おお……実際に姿が変わったのは初めてみるが、ここまで精巧に変わるものなのか……」
「これは凄い……ラナー王女とザナック王子は、いったいこれを何処で手に入れたのか……」
「うむ、こんな状況でなければ、城に招いて顔を見ておきたかったな……」
思わずといった様子で呟いたランポッサ……が、すぐに我に返ると、出入り口を塞ぐように声を張り上げた。
「では、頼むぞ!」
「──はっ!」
一斉に、礼を取ったガゼフたちは……すぐさま、行動を開始したのであった。
──さて、皇帝ジルクニフが怒りを露わにしている頃。
帝都『アーウィンタール』を離れ、帰路に着いているラナー王女一行は夜間の間も馬を走らせ、『エ・ランテル』へと到着していた。
どうして馬を飛ばしたのか……それは幾つか理由があるけれども、まずは危険だからだろう。
行きとは違い、街道を通っているとはいえ夜間と野盗はある種のセットだ。加えて、亜人種(異形種)による襲撃も考えられる。
大半の亜人……いや、異形種にとっては人間が所有する通貨など何の意味もないが、その肉体……つまり、肉は貴重かつ食べ応えのある食糧と見ている種族も居る。
なので、優先的に人間を狙う異形種はハッキリと存在している。そして、それをラナーたちは知っているからこそ、馬を走らせて『エ・ランテル』へと向かったわけである。
後は……単純に、そこが目的地でもあるからだ。
何故なら、ラナー達は既に知っていた。王都で、第一王子のバルブロ率いる貴族派がクーデターを起こしたということを。
どうして、知っているのか?
それは、そうなるようにラナーが仕向けたからだ。まあ、仕向けたと言っても、たいした事をしたわけではないが……話を戻そう。
無事に『エ・ランテル』へと到着したラナー一行だが、彼女たちはまだ町の中へ入ったわけではなかった。
何故なら、ローブ等で姿を隠しているとはいえ、絶対にバレないわけではない。逆に、顔すら見せない集団というのは嫌でも目立ってしまう。
加えて、ラナー王女の美貌は王国全土に知れ渡っているぐらいには有名だ。
万が一素顔が露見してしまえば、あっという間に貴族派の息が掛かった者たちが押し寄せて来るだろう。
なので、下手に『エ・ランテル』の中へと入る事が出来ないまま、ラナー一行は正門より少しばかり離れた場所で身を隠していた。
「……お待ちしておりました、ラナー王女と、その御一行……で、間違いありませんね」
そんな時であった。
油断なく周囲を警戒していた護衛たちを掻い潜り、音も無くラナーたちの前に老年の男が姿を見せた。
「──貴様っ!」
その男を見やった護衛の内の1人が、反射的に魔法を放とうとした。それを止めたのは、同じ護衛の者たちであり……ラナー王女であった。
「止めて、イビルアイ様。この方は、迎えの者ですよ」
「──っ、しかし、ラナー王女。私はコイツを知っている。こいつは、王都を襲った悪魔たちの仲間で、冒険者モモンの関係者だぞ……!」
ギョッと、その言葉に護衛たちの動きが止まった──が、ラナー王女はそれでも首を横に振った。
「昨日は敵だとしても、今日も敵であるわけではありません」
「しかし!!」
「憤りもお叱りも、後ほど受けます。どうか、この場だけは堪えてください」
「~~~~っ!!! くそっ、これだから王族貴族というやつは!」
そう言うと、イビルアイは苛立ちを堪えきれずに地団太を踏んだが……ラナーの言う事はもっともであると悟ったのか、それ以上は何もしなかった。
……とはいえ、その目つきは御世辞にも柔らかいとは言い難い。
まあ、無理もない。
戦闘に参加していたガガーランとティアは『ヤルダバオト』と名乗った悪魔に殺され(その後、蘇生され)た後遺症からか、死亡前後の記憶が曖昧になっていたから、除外。
唯一、死亡せずに生き残ったことで、あの時の惨劇(というか、戦闘)をまともに覚えていられたのは、この場においてはイビルアイだけだ。
そして、そのイビルアイは……見ていたのだ。
一見、眼前の男は紳士然とした人間にしか見えない。
だが、その正体は怪物だ。完全ではないが、怪物に成る直前にゾーイによって止められたので、その姿までは知らないが……『ヤルダバオト』の仲間なのは事実であった。
「…………」
そんなイビルアイに対して、老年の男は……一切の反論をせず、黙って頭を下げた。
如何な理由であろうとも、結果的には王都を襲い、何千人という犠牲者を生み出し、イビルアイたちを害した者たちの仲間であるのも、事実であるからだ。
「貴方のお名前は?」
そんな中、チラリ……と、フードを被った者の中で兄を除けば唯一の男性を見つめていたラナーは……改めて、老年の男へ名を尋ねた。
「……セバス・チャンと申します。主の命令により、お迎えに上がりました」
「ありがとうございます、助かりました。予定では、カルネ村へ向かう手筈となっておりますが……既に、住民たちには?」
「説明済みでございます。ただ、出来うる限り協力はするが、命令等はしないでほしいと村長からは伝言を預かっております」
「もちろんでございます。私たちは余所者ですから、弁えて行動致します」
「そうしていただけると、幸いです。後ほど、ランポッサ王とガゼフ殿たちも合流する手筈となっております。特に妨害を受けている様子はなく、今のところは全てが順調だとのことです」
「……そう、ありがとう」
その言葉に、ラナーはニッコリと笑みを浮かべる。
その姿に、心底気持ち悪そうに顔をしかめるザナック(兄)の横腹にラナーは肘を入れると、改めてセバスへと案内を頼んだ。
「畏まりました。それでは、移動で疲れているとは存じますが、もうしばらく……っ!?」
言葉通り、ラナー達は疲れていたが、今は休憩をしている余裕はない。何時、どんな形で露見するか分からない状態だ。
──身体を休める為にも、まずは村に着いてから。
そうセバスが判断したのも当然であり、こちらですと踵をひるがえした……そんな時、唐突にセバスは足を止めた。
理由は、他でもない。
セバスの仲間であり、先にカルネ村にて待機している者たちからの『伝言』が飛んできたからで。
「……ゾーイ様が動かれた?」
ポツリ、と。
我知らず呟いたセバスのその言葉に、ラナーたちは足を止めて互いの顔を見合わせた。
というのも、ラナー達はセバスたちより事前に話を聞いていたのだ。カルネ村に居る、調停者ゾーイの状態を。
自分たちがゾーイにとって特別とは思っていないが……まさか、自分たちの来訪を察知した?
そんな予感を、ラナーたちのみならず、もしかすると……といった感じでセバスも同じことを考えた。
……。
……。
…………だが、違った。答えは、そんなほのぼのとしたモノではなかった。
「……え? なに……アレ?」
誰が、その言葉を呟いたのか……その場に居る……いや、『エ・ランテル』の者たち全員が、異変に気付いて彼方を見やり……そして、絶句した。
何故なら、そこには……先ほどまでは無かったはずなのだが、巨大な樹木が有った。
その樹木の幹が、バリバリと開かれる。
それはまるで口のように広がり、その樹木より伸びる枝葉はまるで触手のように四方八方へと広がると。
『ォォォォォォォ……』
重く、低く……生物が発したとは思えない、気味の悪さを覚えずにはいられない雄叫びを、辺りに轟かせたのであった。
クライム君、イビルアイと同じく驚いていたけど、ラナー王女の事を考えてあえて沈黙に徹していた
そんなクライム君の姿に色々とキュンキュンさせているラナーの内心を知れば……いや、クライム君なら、あるいは……