オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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おひさしブリーフ


忘れたころに復活します


さすがに、いきなり全面戦争はないっすよ


最終局面: 既に、賽は投げられた後である

 

 

 

 

 ──転移により逃れた悟は、そのままナザリックに戻る事をしなかった。

 

 

 

 その前に、する事があったからだ。

 

 

 「『星に願いを』!! 少しでも長く、調停者ゾーイを止めてくれ!!!」

 

 

 そして、不幸中の幸いというべきか、苦し紛れの悟の足掻きは通じた。

 

 万が一を想定して持って来ていたアイテムを使い、一時的にだが……ゾーイの動きを抑える事に成功したのを感覚的に知った。

 

 それは、まだゾーイの状態が不安定な今だからこそ通じた……偶然的な奇跡であった。

 

 

「よし、次は……カルネ村だ」

 

 

 続いて、悟は転移し……カルネ村へと向かった。

 

 どうしてそこかって、それは王国再編計画……すなわち、『腐った部位を切り落としてしまおう』というラナー王女主導の計画において、ラナー達の避難場所にしているからだ。

 

 もちろん、ただ悟が懇意にしているから……だけが理由ではなく、位置的にもそこが選ばれた理由がある。

 

 

 まず、『王都リ・エスティーゼ王国』から距離があること。

 

 

 王都に近しい都市は既に、武装蜂起(つまりは、クーデター)した、第一王子のバルブロ率いる貴族派たちが網を張っている可能性が極めて高い。

 

 また、網に引っ掛からなくとも、王都に近ければ近いほど、王都より貴族派の騎士団の襲撃を受けやすく、ラナーたちの現在の戦力では危険である。

 

 王都からは離れていて、進軍するにしても時間を必要とする。

 

 街道からもズレており、補給線の確保に余計な手間が掛かる。

 

 あとは、開拓地であるとはいえ、知名度もそうあるわけではないので目立たない。

 

 それらの条件が合致した結果、一時的に身を潜めるには十分過ぎる理由もあって、カルネ村は正しく打って付けなのだ。

 

 

 加えて、カルネ村は……バハルス帝国にも近い。

 

 

 さすがに領地の境というほどではないが、帝国の監視がこっそり紛れている可能性は否定出来ない。

 

 そんな場所に進軍すれば、バハルス帝国に『王国で内乱が起こっている』と知らせるも同然。

 

 既にバレている可能性は高いが、それに確信を与えたうえで王都の守りが手薄になっていると教えるも同然で……よほどの考えなしの馬鹿ではない限りは、ひとまずは安心なのである。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 安心だと思っているのは、あくまでもそこを避難地としたラナー王女一行だけであり……カルネ村に住まう者たちからすれば、全て逆だろう。

 

 なにせ、カルネ村は王都から遠く離れた開拓の村……王都のいざこざなんぞ、遠い彼方の出来事だ。

 

 庶民の暮らしも知らず贅沢に横暴を振るって面白おかしく生きているやつらが、都合が悪くなった時だけ……そんな苛立ちがあるのは、どうしようもない事実である。

 

 簡潔に事情を知っているとはいえ、だ。

 

 普段は何もしてくれないくせに、身内の不始末までもこっちに押し付けてくるのか……そんな不満を抱いている村民が居るのもまた、事実であった。

 

 

「──っ!? あ、アンデッド!?」

 

 

 そして、そのように表には出さずも不穏な空気がそこかしこに見え隠れしている最中に、悟が姿を現せばどうなるか……結果は、考えるまでもなかった。

 

 

 ……そう、この時、悟は姿を隠してはいなかった。

 

 

 どうしてかと言えば、焦っていたからだ。

 

 カルネ村との関係を考えれば悲しい気持ちにはなるが、今は緊急事態……取り繕うことに時間を使う事よりも、成さなければならない事を優先した結果である。

 

 

「に、逃げろ! 早く、自警団を呼べ!」

「下手に戦うな! とにかく距離を取れ!」

 

 

 もちろん、そんな事を知る由もない村人たちは、取る物も取らず散り散りに離れて行く……覚悟していたが、その後ろ姿を見た悟は、少しばかりの寂しさを覚えた。

 

 

 ……この世界において、アンデッドというのは生きとし生ける者全ての天敵も同然の存在である。

 

 

 何故かといえば、アンデッドは何も生み出さず(死ねば消えるため)、生者を憎み、ただ殺すためだけに動き続ける存在だと思われているからだ。

 

 そんな存在が、突如として姿を見せればどうなるか……答えは、血相を変えて逃げ去る村人たちの姿であり、青ざめた女たちの甲高い悲鳴であった。

 

 

「──あ、アインズ様っ!?」

 

 

 しかし、そんな混乱も長く続かなかった。

 

 『村の中にアンデッドがいきなり現れた』という一報を受けたエンリが、ローブを手にしていち早く現場へと駆け付けたからだ。

 

 村長ではあるが戦闘職ではないエンリがそうした理由は、只一つ。

 

 村の中にいきなり姿を見せたアンデッド。

 

 その情報から脳裏を過ったのが、エンリを始め、この村の大恩人でもある『アインズ・ウール・ゴウン』だからだ。

 

 

「アインズ様、どうして御姿を隠さず……は、早く、これを!」

 

 

 エンリが悟の姿に驚き、ローブを頭から被せようとする……そうするのは、致し方ないことだ。

 

 なにせ、ナザリック以外に、『アインズ=アンデッド』である事を知っている者はあまりおらず、『カルネ村』に至ってはほとんどの人が知らないのだ。

 

 何故なら、以前の悟は、己がアンデッドである事が周囲に知られるのはよろしくないと考え、必要時以外は正体を隠していたからだ。

 

 うっすらと人外なのではと勘付いている者はいても、例外は姿を隠す前に正体を見ていたエンリ(あと、エンリの妹)ぐらいで、村人のほとんどは恩人がアンデッドである事を知らなかった。

 

 

 だからこそ、だ。

 

 

 何時もなら必ず一人や二人は付いているはずの護衛を伴っていないこともあって、何か事情があって姿を隠せないままここへ来てしまったのかと……エンリが心配するのも当然で。

 

 

「──いいのだ、エンリ」

「アインズ様?」

 

 

 そんな優しさを感じ取った悟は、変化の無い骸骨の顔でフフッと笑った。

 

 

「これからの事を考えれば、正体を隠すのは失礼に当たる。状況を信じてもらうためにも、な」

「……アインズ様」

「ありがとう、エンリ。君のその素朴な優しさを、私は忘れないよ」

「あっ……」

 

 

 呆気に取られているエンリを尻目に、アインズはエンリの傍を離れ……眼前にて己を待ち構えている、『蒼の薔薇』を見やった。

 

 彼女たちの視線は、まっすぐに……(アインズ)へと向けられている。

 

 それは、単純にアンデッドに向ける敵意だけではない。もっと深く、それでいて恨みがこもりながらも、複雑な色合いの……強い眼差しであった。

 

 

 ……『蒼の薔薇』がそんな目を向けるのも、致し方ない。

 

 

 というのも、『蒼の薔薇』は、カルネ村へと向かっている道中にて、ある程度ラナーより諸々の事情を聞いているからだ。

 

 その詳細を語るとなれば長くなるが、要点は三つ。

 

 

 一つ、冒険者モモンの正体が、『アインズ・ウール・ゴウン』というアンデッドであるということ。

 

 二つ、アインズはこのカルネ村の危機を救った恩人であり、王国最強の戦士であるガゼフ・ストロノーフの危機をも救ったということ。

 

 三つ、今回のラナー王女たちが考えた計画の協力者であり、彼失くしては計画の遂行が困難である重要人物であるということ。

 

 

 この、三つであった。

 

 

 話をラナーより聞いた時、『蒼の薔薇』は相当に驚いた。

 

 

 そりゃあ、そうだ。

 

 

 王都を滅茶苦茶にし、大勢の行方不明者や死人を出した張本人が、この計画の関係者だというのだ。

 

 加えて、『蒼の薔薇』の人員を殺した存在でもある。もう、その時点で『蒼の薔薇』から見たら怨敵……不倶戴天の怨敵でしかなかった。

 

 

 けれども、大悪人かと言えば、どうにもそのようには見えない。

 

 

 『カルネ村』を助けた恩人であるのは、村人たちの顔を見れば一目瞭然だ。立派な外壁もそうだし、村人たちが今を生きているのは、間違いなく彼のおかげである。

 

 また、大量の食糧を始めとして、様々な支援を王国へ行ったのも眼前のアンデッド……あまりにもチグハグした対応に、『蒼の薔薇』は困惑を隠せなかった。

 

 

 正直に語ろう……話を聞いた『蒼の薔薇』は当初、ある種のマッチポンプでは……そんな違和感が脳裏を過った。

 

 

 しかし、実際に正体を露わにした彼を見た彼女たちの感想は……ただ一つ。

 

 

 

 ──こいつが、本当にあの大虐殺を引き起こしたのかという、疑念であった。

 

 

 

 確かに、威圧感はある。だが、それは単純に見た目から来るものであり、それはアンデッドに限った話ではない。

 

 むしろ……しばし彼を見つめていた『蒼の薔薇』は、いよいよ理解出来ずに仲間内で視線を交わし始めた。

 

 

 そう、むしろ、実際は逆だ。

 

 

 見た目は厳ついのに、中身はおとなしい。気の弱さすら感じ取れるその気配は、冒険者モモンからもかけ離れている。

 

 ラナーからの説明がなかったら、仮に彼が自らをモモンだと名乗っても、『蒼の薔薇』は誰一人信じなかっただろう。

 

 それぐらいに、想像していた邪悪な存在とは違い過ぎるのだ。

 

 まるで、中身がすっぽり入れ替わったかのような……そんな違和感すら……っと。

 

 

「──っ! ラナー!」

「いいから、ここは私に任せて」

 

 

 困惑する『蒼の薔薇』を一声で黙らせたラナーは……スルリと彼女たちの前に出ると、静かに一礼した。

 

 

「申し訳ありません、彼女たちにも悪気はないのです。この非礼、後ほど改めて──」

「気にしなくていい。そんな事よりも、事は緊急を要する。私への怒りや恨みはごもっともだが、まずは話を聞いてくれ」

「──それは先ほど、ここへ案内していただいたセバス・チャンという御方が、慌ただしく村を飛び出していった理由ですか?」

「そうだ、緊急事態ゆえに、セバスはナザリックに戻させた。他の僕たちも、同様だ」

 

 

 その言葉に、ラナーは一つ頷いた。

 

 

「王はまだ到着なさっていませんが、構いませんか?」

「構わない、とにかく時間が惜しい」

 

 

 そう言い終えると同時に、彼は……悟は、歩き出す。

 

 その足が向かう先は、これまで何度か使用されてきた、話し合いの場として使われている小屋。

 

 それを見やったラナーは、後を追いかける。

 

 ほぼ同時に追従するクライムに、『蒼の薔薇』は後を追いかけるか、ラナーを止めるか……一瞬ばかり迷い、足を止めていたが。

 

 

「ラナーが言うんだ、今は黙って受け入れたらいい」

 

 

 苦笑を隠さず、呆れた眼差しを妹へと向けるザナックの言葉に……色々と呑み込んだ『蒼の薔薇』は、溜め息を吐いて……後に続くのであった。

 

 

 

 

 

 ──おそらく、この世界の人類史においても信じ難い光景なのだろう。

 

 

 一国の王女と王子、その背後に立つ戦士たち。

 

 対面するは生者の天敵であるアンデッド。

 

 場所は、王都からも遠く離れた開拓村。

 

 

 その村の中でも、立派とは言い難い小屋の中……言い方を変えれば、その時歴史が動いた……というやつだろうか。

 

 

 何とも言い表し難い緊張感に耐えきれず、「あ、あの、お茶を入れて来ます!」とだけ言い残して小屋を飛び出して行ったエンリを笑う者は、この場にはいない。

 

 叶うならば、誰だってこんな場所に長居などしたくはない。

 

 村長とはいえ、まだ小娘でしかないエンリが耐えられるわけもなく、緊張はしつつも委縮しないだけ、肝が座っている方であった。

 

 

「──なるほど、現状は分かりました」

 

 

 時間にして、それほど長くはない。だが、濃密な時間を終えたラナーは、困ったように溜息を零した。

 

 その表情は、珍しく少しばかり強張っていた。

 

 本当に珍しい光景であり、見る者が見たら驚きに目を見開いただろう。けれども現在、話を聞いた誰もがその事には気付けなかった。

 

 

 理由は、只一つ。

 

 

 ラナーたちが考えていた此度の計画が、『ゾーイの暴走』によって破綻しかけている事が、悟の口から語られたからだ。

 

 

 ……暴走。

 

 

 言葉に表せば、それだけ。

 

 どのように暴走を始めているのか、それはハッキリと断定出来ないが……ゾーイが今後、何をしようとしているのかを推測する事は出来る。

 

 

 その推測とは、『邪悪と定めた存在を片っ端から滅することで、この世界の均衡を保とうとしている』というものだ。

 

 そして、問題なのは、この『邪悪』の範囲が限りなく広い可能性が高いということだ。

 

 

 それこそ、取るに足らない些細な間違い……善にも悪にも揺らぐ子供ですら、邪悪判定されかねない。

 

 

 あくまでも推測でしかないが、限りなく可能性が高い話だと、悟は語った。

 

 他にも色々と悟の口から……どうしてそうなったのかを語られた際、『蒼の薔薇』などから詰められた……が、しかし。

 

 

「……そうなる可能性を危惧していましたが、まさかこのタイミングでそうなるとは」

「自分で言うのもなんだが、あっさり信じてくれるのだな」

「この状況で私たちを騙すメリットが思いつきませんし……このようなつまらない悪戯をするような御方でもありませんし……」

 

 

 ラナーがポツリと感想を零したことで、その追及もそれ以上を言える雰囲気ではなくなってしまった。

 

 

「……じゃあよう、調停者の暴走とやらの原因は、元を辿ればアンタらに行き着くってわけじゃねえか」

 

 

 ちなみに、事情を話した悟に対して、『蒼の薔薇』のガガーランが白けた眼差しと共にその言葉を吐き捨てた。

 

 

 そう、悟は隠さなかった。

 

 

 調停者ゾーイが暴走する原因となった、あの夜の事を。

 

 いや、それどころか、自分たちは元々この世界の存在ではなく、異なる世界からの来訪者であることも、語った。

 

 『ゲヘナ』という茶番も、ゾーイの暴走が始まる切っ掛けを作ったのだということも……しかし、ガガーランに続く二人目の言葉が、悟へと向けられることはなかった。

 

 

「止めなさい、ガガーラン。原因はそうだとしても、王国がどうしようもなかった事実は変わらないわ」

「でもよ、ラキュース……」

「腐った実しか付けなくなった枝葉を根元から切り落とすか、実だけを摘み取って誤魔化していたか……大した違いは始めからないのよ」

 

 

 『蒼の薔薇』のリーダーを務めているラキュースは、その言葉と共に軽く首を横に振った。

 

 

「どのみち、王国はあまりに腐り過ぎていた。彼が『ゲヘナ』とやらをしなかったとしても、遅かれ早かれ……もはや、自力ではどうにもならないほどに何もかもが腐っていた」

「…………」

「確かに、ガガーランの憤りは分かるわ。でも、分かっているでしょう? その憤りをぶつけようとしている相手を頼らなければならないほどに王国は崖っぷちなのよ」

「そりゃあ、そうだけど……ラキュースは納得しているのか?」

「そんなの、出来るわけないでしょ」

「なら──」

「でも、受け入れなければならないの。たとえ、どんなに納得出来ない事だとしても」

 

 

 間髪入れずに否定したラキュースだが、直後、その己の発言も否定した。

 

 

「もう、それほどの劇薬でないと治せない。ならば、私はそれを呑み込み、抱えて生きていくしかないの、貴族としてね」

 

 

 そして、その言葉に……誰もが、何も言えなかった。

 

 実際、王国は遅かれ早かれ崩壊し、国が倒れてしまうことはラナーのみならず、様々な人たちが予測していた。

 

 ナザリックの所業なんて、それを少しばかり加速させただけ。

 

 本当に元を辿るのであれば、ガガーランの言葉はラキュースを始めとした、王族貴族にこそ刺さるのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………こほん、と。

 

 

 些か気まずい空気の中で、ラナーが咳を一つ。

 

 

「一旦心を落ち着かせて、状況を整理しましょう。ちょうど、お茶も届きましたから」

 

 

 ちらり、ビクン、と。

 

 ラナーの視線の先、小さく開かれた扉から顔を覗かせていた……全員の視線を受けたエンリが、ビクッと肩を震わせた。

 

 

 どうやら、入ろうと思ったけど雰囲気が重苦しくて入れなかった……といった感じか。

 

 

 ノックはしたのだろうが、ラナー以外は誰も気付けないぐらいには、誰もが冷静になれていなかったのだろう。

 

 エンリの両手には、陶器製の大きなティーポッドと、何段にも重ねられたコップ。お茶の用意が出来たので、持って来たようだ。

 

 

「すまない、驚かせてしまったな」

「え、あ、いえ……」

「あとはこちらでやろう。重ね重ねになるが、ありがたくいただくよ」

「あ、はい……」

 

 

 それを笑顔で受け取ったザナック。

 

 その姿に目を瞬かせるエンリを尻目に、笑顔のまま扉を閉めたザナックは……そのまま、全員分のお茶を注いでゆく。

 

 

「お~、王子自ら?」

「明日は槍が降る?」

「城の外に出たザナックなんぞ、ただの小太りな男に過ぎんよ」

 

 

 失礼な双子忍者の言葉に、自嘲気味に応えるザナック。

 

 我が事とはいえ、あんまりな言い回しにフフッとラナーが笑い……自然と、場の空気が緩んだ。

 

 そうして、全員(悟は除く)がお茶を一口。自然と、誰もが申し合わせていたかのように、フウッとため息を零した。

 

 

「アインズ様」

「ん? なにかな?」

 

 

 そんな、僅かに生じた緩んだ空気の中で、ポツリとラナーが悟へ尋ねた。

 

 

「先ほど、時間が惜しいと仰いましたが」

「うむ、そうだな」

「それは、ゾーイ様の行動の一切を阻害できないから時間が無いのか、一時的に抑えられはしたけど余裕が無いのか……どちらなのでしょうか?」

「……それは、後者だ」

 

 

 ぬるり、と。

 

 突如出現した虚空の暗闇(要は、アイテムボックス)に手を突っ込んだ悟は……そこから、一組のガントレットを取り出した。

 

 

「詳細は省かせてもらうが、このアイテムと、『星に願いを』という魔法を使って、ゾーイの動きをなんとか抑えている。少なくとも、今日明日でどうこうなる事はないだろう」

「その言い方ですと、もうそのアイテムは使えない、と?」

「そんなところだ。言うなれば、燃料切れというやつでな……つまり、魔法の効果が切れてゾーイが動き出せばもう、止める手段がない」

「……猶予は、どれぐらいでしょうか?」

「感覚的な話になるが……おそらく、約3日間抑えられたら上出来だと思う」

 

 

 ──短い、あまりに短すぎる。

 

 

 誰もが、似たような事を思った。

 

 いくら事前に計画し準備を進めていたとはいえ、さすがに3日間では……作戦の前倒しどころの話ではない。

 

 どう急いでも、なんとか王都を囲うように陣を張るのが精いっぱい。いや、極めて高い確率で、陣すら張れないだろう。

 

 そのうえ、代償として兵士全員がヘトヘトでまともに戦う事が不可能な状態に陥るのは……素人のラナーから見ても、明白であった。

 

 

「……なあ、その3日間で、ゾーイをボコボコにしちまえばいいんじゃねえの?」

 

 

 ぽつり、と。

 

 思わずといった様子で呟いたガガーランの質問に、「いや、それはしない方がいい」悟は静かに首を横に振った。

 

 

「調停者ゾーイの硬さは、常人の想像の域を超えている。仮に貴方がそのハンマーを100年間叩きつけたとしても、ゾーイの体力を1割も減らすことは出来ないだろう」

「あっ? マジかよ……」

「そのうえ、ゾーイは一定以上のダメージを受けると、その身に受けている毒や麻痺といった状態異常を回復してしまう。何の準備もせずに挑むのは自殺も同じだ」

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………再び訪れた沈黙。

 

 

「──では、黙っている暇はありませんね。直ちに、計画を練り直しましょう」

 

 

 この空気はよろしくないと思ったのか、仕切り直しと言わんばかりにラナーが語ったのは……今回の計画についてであった。

 

 

 ……今さらだが、改めて説明しよう。

 

 

 その、ラナー達が考えていた計画。

 

 すなわち、以前ナザリックにサラッと話を通し、帝国にも話を通し、機会を待ったうえで決行された今回の計画の内容を、簡潔にまとめると。

 

 

 

 

 ① まず、ランポッサが粛清を行うと大々的に発表(実はもう、既に市民たちの間に噂を流してある)し、貴族たちのクーデターを煽る(その間、ラナーとザナックは国外に出ている状態にして、手出しできない)

 

 ↓

 

 ② 貴族たちは粛清を逃れるために第一王子バルブロを神輿にしてクーデターを起こす(実際は、起こさせるのだが)。ランポッサたちは身代わりを用意し、カルネ村に避難(後に、ラナー達も合流)する

 

 ↓

 

 ③ 貴族たちにあえてランポッサ(偽物)たちを殺させる。それにより、第一王子が国王の座に着いた……のを待ってから、帝国(ジル)の助力を借りたラナーたちが、『クーデターにより玉座の地位に付いた親殺しの第一王子と、それに連なる貴族たち』の粛清に出る

 

 ↓

 

 ④ つまりは、内乱を抑えるのに帝国の手を借りるという話。もちろん、普通に考えればそんなの帝国の傀儡みたいな扱いになるのがオチだが、ラナーの背後に居る『得体のしれない存在(ナザリックやゾーイ)』を考え、ほとんどタダ働きみたいなことになった。(あと、王国の統治を行うとなればとてもではないが人手が足りず、植民化しようにも、不穏分子を自国内に抱え込む結果になるのは目に見えていたので、この結果に)

 

 ↓

 

 ⑤ もちろん、そのまま帝国だけがやると帝国の被害も無視出来ないので、ナザリックが裏で粛清のお手伝いを行う。これは帝国への牽制(万が一、ジルが王国を掌握しようと動いた場合を想定して)も兼ねており、これにより、王国内の不穏分子(あるいは、腐った根)を完全に取り除く。

 

 

 

 

 ……というのが、ラナー達が考えていた大まかな計画であった。

 

 

 この計画の要はなんといってもナザリックの存在であり、その圧倒的な力である。

 

 ナザリック無しでもやれない事はないが、その分だけリスクは跳ね上がる。帝国の助力があるとはいえ、相応に消耗してしまうのは避けられない。

 

 王国と帝国の消耗を限りなく抑えながら、義はラナー達にあるのを国民に周知させつつ、王国内に蔓延っていた腐った根を根本から刈り取る。

 

 

 それが、此度の計画の目的である。

 

 

 それ故に、この戦いでは事前にラナー達が炙り出し選定した者たちだけを殺し、その財産を抑え、王国の土台となる有能な者たちは生かしておく必要がある……わけだが。

 

 

 ……調停者ゾーイの登場によって、それが出来なくなるのはマズイ。

 

 

 悟の推測通り(あるいは、ラナーの予測通り)、邪悪の基準が広く浅くなったゾーイが動き出せば、今度こそ王国は死に絶えてしまう。

 

 只でさえ王国再建のための有能な人員はおろか、人手が足りていないのだ。ちゃんと統治出来る者を残しておかないと、目の届かないところから再び腐ってしまう。

 

 加えて、その影響が王国内のみに留まらない保証は無い。

 

 最悪、ゾーイが帝国に移動し……全てを皆殺しにした後で移動を始め……聖王国はおろか、法国の邪悪を皆殺しにする可能性も……っと。

 

 

「……アインズ様は、どのようなお考えなのでしょうか?」

 

 

 誰しもが何も言えない中で、やはり沈黙を破ったのはラナーであった。

 

 

「命を賭してゾーイと相打ちになる。それが私の贖罪であり、私が成さねばならない事だからだ」

 

 

 キッパリと、力強く言い切ったその姿に、ラナーはスーッと緩やかに笑みを浮かべた。

 

 

「もしかして、今日お一人で来た理由は……」

「僕たちには、ナザリックにて迎撃の準備を進ませている。少しでも体勢を整えておかねばならんからな」

「なるほど……アインズ様は、ナザリックの全戦力を持ってゾーイ様を迎え撃つおつもりなのですね?」

「ああ……だから、そちらに使わせる僕は、事前に話していた者ではなくなる。もちろん、計画を遂行するには十分な実力を持つ僕だが……駄目か?」

 

 

 尋ねられて、ラナーは静かに首を横に振った。

 

 

「いえ、構いませんよ。アインズ様がそれでいけると判断したのであれば、それで十分だと思います」

 

 

 ……ただ、一つだけ……そう、ラナーは言葉を続けた。

 

 

「アインズ様……無礼を承知のうえでお伺い致しますが……勝機は、あるのですか?」

「…………」

 

 

 アインズは、答えなかった。

 

 それを見て、ラナーは軽く周囲を見回し……改めて、笑みを浮かべた。

 

 

「ここには、僕たちはおりません。私たちは誰一人、他所へ漏らすことは致しません。今だけは、本音を語っても……」

「……ふふ、ラナー王女には負けますね」

 

 

 しばし、沈黙で答えていた悟は、堪らずといった調子で笑い……次いで、大きくため息を零した。

 

 

「正直、勝ち目は限りなく0に等しいでしょう」

 

 

 その言葉に……動揺しなかった者は、この場にはいなかった。

 

 いくら作戦が上手くいったとしても、調停者によって滅ぼされてしまえば意味がない。

 

 

「……なにか、私たちに出来る事はあるか?」

 

 

 だからこそ、思わずといった様子で聞きに徹していたザナックが声を掛けてしまうのも、致し方ないことで。

 

 

「気持ちは嬉しいが、ゾーイの猛攻の前では肉の壁にすら……本当に嬉しいが、気持ちだけ受け取ろう」

 

 

 その気遣いは嬉しいが、現実的に居るだけ邪魔にしかならない彼ら彼女らに対して、そう答える他なく。

 

 

「──とりあえず、私はナザリックへ戻る。エンリには連絡用の道具を渡してあるから、連絡がある場合はエンリに言ってほしい」

 

 

「わかりました。こちらとしても、この土壇場での計画変更はリスクが高すぎるので、ひとまず作戦を前倒しします」

 

 

 再び、代表する形で返事をしたラナーに、フフッと悟は笑うと。

 

 

「とにかく、3日間だ。3日後にはゾーイの動きを封じている魔法も解ける……いいな、3日間だ」

 

 

 それだけを告げ……転移門(ゲート)にて、カルネ村を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………後に残されたのは。

 

 

「……どうしましょうか、お兄様」

「妹よ、こういう時だけ頼って来ようとするのは止めてもらえるか?」

「ですが、ザナック兄様?」

「言わんでいい、言いたい事は分かっているから」

「私兵ですらな話なのに、帝国との足並みを揃えなければならない今回のコレを3日間で済ませろというのは、さすがの私でも……」

「言わなくても分かると言っただろう」

「おまけに、偽物のお父様とガゼフ様を急いで殺して貰わなければ、こちらの大義名分が少しばかり弱く……今のままでは、少し派手な後継者争いのまま終わって……」

「……なんだろうな。偽物とはいえ、一刻も早く父上とガゼフを殺してほしいと、私は生まれて初めて兄を応援したくなったぞ」

「あら、奇遇ですね、ワタクシもですわ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……どうしようか?」

「とりあえず、不測の事態に備えて帝国兵士をいくらか王国内に潜伏させてはおりますが、それでも3日後ともなれば、予定の半分も……どうしましたか、ザナック兄様?」

「……何時の間に、そんな事をしていたのだ?」

「前に、帝国で非公式の話し合いを致しましたでしょう? あの時、こそっと皇帝に耳打ちしておきました」

「……ぶ、物資は?」

「食糧その他諸々は、『蒼の薔薇』の皆様方を含めて、様々な方々に御協力いただき、色々な場所にこそっと配備しておくよう指示を出しておりました」

「……え、マジ?」

「こんな嘘を吐いて、何の意味があるというのですか?」

 

 

 何だかんだ言いつつも、3日間で最低限の事は達成しそうな妹と、それを畏怖の眼差しで見つめるしかない兄と。

 

 どうしていいか分からず、互いの顔を見合すことしか出来ない『蒼の薔薇』と。

 

 

(ラナー様……どこまでも御伴致します!)

 

 

 1人、実直に構えている年若い戦士……それだけであった。

 

 

 

 




とにかく時間が足りなさすぎるので、WIを使ってなんとか時間を作ります。おかげで、『強欲と無欲』にストックされていた経験値は空
全てが前倒しの中、誰もが最終局面へと強制参加となります
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