オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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ちょっと長ったらしいけど、答え合わせ
もちろん、悟の目線なので100%正解の答えが分かっているわけじゃないけど


最終局面: Interlude・その2

 

 

 

 ──シャルティアの部屋は、ナザリック地下大墳墓の第二階層にあり、『死蝋玄室』と名付けられている。

 

 

 内装は、いわゆるアダルティな雰囲気で統一されている。

 

 行為を予感させる照明に、カーテンやベッドや家具の数々。昼夜時間を問わず濃密な甘い香り(意味深)が漂っており、何の対策もなく入れば、無事では済まない。

 

 なにせ、生者に対するバッドステータス効果があるらしいから。まあ、そういうのを差し引いても、ここだけ雰囲気が他とは違っている。

 

 ちなみに、シャルティアの趣味ではない。

 

 シャルティアも気に入ってはいるのだが、実際のところは、創造主であるペロロンチーノの趣味がたっぷり盛り込まれたせいである。

 

 

(うわぁ……これ、ペロロンチーノさんが言っていたラブホテルまんまな内装じゃないか?)

 

 

 事前に話を通していたので勝手知ったると言わんばかりに中に入った悟は、鼻腔(空洞だけど)をくすぐる濃密な香りに、思わず足を止めた。

 

 外からでもうっすら香ってはいたが、中は想像以上に濃厚。

 

 アンデッドでなければ思わず腰を抜かしていたかもしれないぐらいに強く、甘く、(ペロロンチーノさんが好きそうな内装だな)と悟は思った。

 

 

「──お、お待ちしておりました、アインズ様!」

 

 

 ふと、声を掛けられた悟は視線を向ける。

 

 そこには、緊張と興奮で頬を赤らめたシャルティアが立っていて……うっすらとだが、花の香りが入り混じる石鹸の匂いを漂わせていた。

 

 傍には、内装の雰囲気とは裏腹に、清楚を思わせる淡い色合いの小さな机に、刺繍が細かく入ったテーブルクロス。

 

 そして、シャルティアの身体のサイズに合った小さな椅子に……悟の身体に合わせた大きな椅子が置かれていた。

 

 

(……ここに来るまでの僅かな時間の間にこれも用意したのか)

 

 

 さすがに、アポも取らずに訪問はしない。

 

 すれ違いになるのも嫌なので、『伝言(メッセージ)』にて事前に訪問する旨を伝えていた。

 

 急な訪問だし、必要ではない限り長居するつもりもなかったので、出迎えの歓迎等はいらないと伝えていたつもりだが……いや、それは無理な相談か。

 

 NPCたちにとって、至高の御方は神にも等しい存在。自らの創造主でなくとも、敬い、かしずき、頭を垂れるのが当然の相手。

 

 

 ……これはまあ、アレだ。

 

 

 社長とかが『今日は無礼講だ!』と言っても、部下たちは一線を置いたうえで無礼講っぽく振る舞うとか……いや、違うか? 

 

 

(椅子は合わせても、他は合わせなかったのは……まあ、気付いていないのだろうな)

 

 

 ──なんともまあ、ペロロンチーノさん好みの性格というやつか。

 

 

 どことなく、シャルティアの陰に、今はもう会えないかつての仲間のことを思い返しながら……とりあえず、促されるがまま腰を下ろした。

 

 

 ……シャルティアは、けして馬鹿ではない。むしろ、失敗を繰り返さないよう反省し、改善しようとする努力家だ。

 

 

 だが、残念なところはある。

 

 それは、努力家な性質が霞んで見えなくなるほどに直情的な性格が、全てを台無しにしてしまっているところだろう。

 

 たとえば、この椅子もそうだが、シャルティアが入浴を済ませているのもそうだ。

 

 悟(アインズ)がとりあえず休めるよう、座り心地が良い椅子を用意したのは、純粋な優しさであり敬愛の表れだ。

 

 しかし、そこでシャルティアは考えてしまったのだろう……もしかしたら、エッチな展開が来るかも、と。

 

 

 その瞬間、シャルティアの頭の中はそれ一色になってしまった。

 

 

 内装やら出迎えの用意やらが色々考えていただろうに、万が一あるかもしれないソレを欲望のまま第一に考えて動いてしまった。

 

 しかも、シャルティアはそれを自覚出来ない。

 

 いや、正確には、直情的に動いている間は目の前の事ばかりに気が取られてしまい、他の事を考えていられない……というわけだ。

 

 

「シャルティア……これから私はお前に対して幾つか質問をする。それに対して、思った事をそのまま口に出すように」

「思った事を……で、ありんす?」

「内容がなんであれ、私はそれを不敬とは思わない。むしろ、下手に隠される方がよほど不敬だ……いいな?」

「はい! わかりんした!」

 

 

 だからこそ、悟は……眼前の、手を上げて意気揚々と頷くシャルティアを通じて、疑念を晴らそうと思った。

 

 他のNPCとは違い、シャルティアは戦闘面においては天才的な機転を発揮し柔軟に戦う猛者だが、それ以外の場面ではその頭脳の半分も働かない。

 

 良くも悪くも、頭で考えるよりも手が先に出てしまうタイプなのだ。

 

 ゆえに、下手に頭で考えるよりも思った事がそのまま口に出やすいシャルティアを……加えて、シャルティアはペロロンチーノが常に傍に侍らせていた時期があるからこその人選であった。

 

 

「では、シャルティア……私の記憶が確かならば、おまえは一時期、常にペロロンチーノさんの傍にいたな?」

「はい! 夢のような一時でありんした!」

 

 

 その時の事を思い返しているのだろう。

 

 シャルティアの表情は吸血鬼(アンデッド)とは思えないぐらいに色づき、恋する少女と言わんばかりに朗らかであった。

 

 

「ふむ、それでは、ペロロンチーノさんのことは、どれぐらい覚えているのだ?」

 

 

 けれども、そう尋ねた瞬間。

 

 

「……申し訳ないでありんす。正直、あまり覚えてありんせん」

 

 

 しゅん、と。

 

 その言葉と共に、寂しそうに俯いてしまった。けれども、それを予測していた悟は、気にせず話を続けた。

 

 

「それは、これまでの日々で忘れてしまったという事か?」

「いえ、違うんす。何と言うのか……こう、わちき、上手く身体が動かせなかった時期があったんでありんす」

「動かせなかった時期? それは、何時頃から動かせるようになったのだ?」

「この世界に転移した時からでありんすぇ。何も出来なかったから、身体を動かせるようになって嬉しかったんでありす」

「そうか……ふむ」

 

 

 シャルティアの話に、悟は顎に手を当てて考える。

 

 動かせなかった時期……それはおそらく、『ユグドラシル』のゲーム時代の話だろう。

 

 確かに、NPCが自発的に考えて動き出していたら大騒ぎもいいところだが……しかし、正直なところ……悟は少しばかり驚いていた。

 

 これまでの付き合いから、NPCがゲーム時代の事をある程度覚えていることは分かっていた。

 

 ただ、それはあくまでも夢を見ているかのような、そんな感覚だと思っていた。

 

 そこに、『身体が動かせない』という具体的な感覚を覚えているNPCが居たのだ。

 

 

 ……いや、そこに目を向けていなかったから気付かなかっただけで、覚えているNPCたちは他に居る可能性は高い。

 

 

 ただ、他のNPCたちは感情ではなく自制を優先する。

 

 こちらから問い掛けない限り、『あの時は身体を動かせなかった』とは言い訳せず、『力及ばず、申し訳ありません』と謝罪するところだろう。

 

 考えて動くよりも感情の動きにつられてしまうシャルティアだからこそ、この情報を己は得る事が出来たのだと……悟は思った。

 

 

「では、覚えているところはなんだ?」

「う~ん……色々ありますので、どこから話せば良いのか……」

「どんな些細な事でも構わない、パッと思いつくところから話してくれ」

「そうでありんすなあ……では、ずっと前に至高の御方である尊き皆様方が一堂に集まりお話していた時の事でありんすけど」

 

 

 自分たちの事……その話をしっかり聞こうと耳を澄ませた悟は……………………??? 

 

 

「……どうした、シャルティア?」

 

 

 それっきり黙ってしまったシャルティアに、悟は首を傾げ……そこで、ようやく異変に気付いた。

 

 シャルティアは、思い出すような仕草……軽く首を傾げるように俯いた姿勢のまま、静止していた。

 

 魔法を掛けられたわけでもなく、マヒ等の状態異常とは違う。

 

 まるで、一時停止ボタンで止まってる映像のように、ピタッとその場に止まっていて、僅かばかりも動いてはいなかった。

 

 

「シャルティア?」

 

 

 思わず、肩に手を置く。

 

 途端、シャルティアはビクッと肩を震わせて動き出し……何故か、不思議そうに首を傾げた。

 

 

「どうしたんでありんすか、アインズ様」

「どうしたって……その、覚えてはいないのか?」

「覚えて……申し訳ありません、アインズ様。いったい、何を仰っているのか、わちきにはさっぱり……」

 

 

 本当に、分かっていないのだろう。

 

 (アインズ)の質問に答えられない事を申しわけなく、それでいて、一生懸命思い出そうとしている姿を見て……悟はようやく、これまで幾度となく抱いていた違和感に気付いた。

 

 

 ──そうか、そうだったのだ。

 

 

 今まで、悟は幾度となく怒りとやるせなさを覚えた。

 

 

 どうして、NPCたちは学習しないのか。

 

 どうして、NPCたちは己の言うことを曲解するのか。

 

 

 悟は、今までそういうものだと思っていた。

 

 

 設定通りに命を持ったNPCたちは、多少なり変化はあっても、その通りにしか在れない存在なのだと思っていた。

 

 だが……今のシャルティアの挙動を見て、悟は初めて……いや、改めて、そうではないのだという可能性を垣間見た。

 

 おそらくは……コレが原因なのだ。

 

 今回は『ゲーム時代』の記憶を思い出そうとした結果だが、おそらくはこれまで幾度となく似たような状態に陥ったのだろう。

 

 そして、その度に……今のシャルティアのように思考が止まり、記憶が消去されている。

 

 

(加えて……これもおそらくの話だが、他のNPCたちはその異常に気付けない。誰も気付けないから……リセットされていることにすら、気付けない)

 

 

 もちろん、それだけではないだろう。

 

 NPCがこの世界に来たその瞬間に自我に目覚め、それゆえに聞き分け出来ない精神の未熟さ……それがあるのも、否定は出来ない。

 

 しかし、だ。

 

 何かしらの条件に触れるたび、今のシャルティアみたいに記憶がリセットされ、周りのNPCたちもソレに気付けないのであれば……だが、その条件とは何だ? 

 

 

(条件は、ゲーム時代の記憶を思い出そうとしたからか?)

 

 

 ……いや、違う。内心にて、悟は首を横に振る。

 

 

 それでは、ペストーニャを始めとして、若干名のNPCが記憶を残していることに説明が付かない。

 

 というか、それが条件だとすると。

 

 どうして、NPCの大半が『1500名によるナザリック討伐隊』を記憶出来ているのか……そこが分からなくなる。

 

 だって、それが理由であるならば、あの面談の時にソレを覚えていた者たちはみな、今みたいに停止してしまっているはずだ。

 

 だが、現実はそうなっていない。少なくとも、今みたいに不自然な動きを誰も見せなかった。

 

 それに、NPCとしては一番至高の御方(代表・ペロロンチーノ)に追従していたシャルティアが記憶出来ていない時点で、この仮説は間違っているだろう。

 

 

 では……レベルか? 

 

 

(それも、違うな。ペストーニャのレベルはカンストしていないし、低レベル過ぎるわけでもない……と、なれば、レベルが条件というのもハズレか)

 

 

 腕を組んで、う~む、と悟は考え込む。

 

 

「……?」

 

 

 そんな悟を前にして、シャルティアは居心地悪そうにしている。まあ、シャルティアの視点からすれば、そうなるだろう。

 

 けれども、悟は構わずジッとシャルティアを見つめる。

 

 他の者たちにはないナニカがあるのではないか……そう思って真剣に注視するが……正直、違いが全く分からない。

 

 

(レベルでもないし、思い出そうとする行為でもない。それ以外の条件……種族や、装備か?)

 

(いや、そこまで細かい条件が課されているとなると、どこかで動きを止めたNPCを見ているはずだし……)

 

(ていうか、仮に吸血鬼が条件だとすると、それはそれで他のNPCたちが何時まで経っても変化しない理由が分からない)

 

(だったら、装備か? いや、それも……神器級が条件? いやいや、それこそ、覚えていたりいなかったりするNPCの違いが分からん)

 

(そもそも、ゲーム時代の記憶の量にも差が生じている理由はなんだ?)

 

(ペストーニャのように、かなり詳細まで覚えている者もいれば、ただただ人間たちに襲われ害されたという部分しか覚えていない者もいる)

 

(この違いは、どこから来るんだ?)

 

(偶然か? それとも、条件か? あるいは、その二つとは全く別の、フレーバーテキスト……考えろ、おそらく、そこに答えがある)

 

 

 一つ一つ、頭の中で己に対して『Q&A』を繰り返す。

 

 

 何時もとは違い、今回ばかりは後に回すなど出来ない。

 

 なにせ、期限は3日……泣いても笑っても、その中で答えを見つけ出さないならないのだから。

 

 

(装備は違う、種族も違う。レベルも違うし、職業も違う。考えろ、それ以外の違い……どこかにあるはずだ)

 

(覚えている者たちと、覚えていない者たちの違い。悪い面だけ覚えていて、俺たちが楽しんでいた事を覚えていない、その違い)

 

 

 ちらり、と。

 

 シャルティアへと視線を向けた悟は……改めて、質問を重ねて行く。

 

 その内容は、本当に多岐に渡る。けれども、返答は一つもない。

 

 全て、答えようとする直前に動きを止め、直前の記憶がリセットされ……その繰り返しだ。

 

 とはいえ……無駄ではない。質問を繰り返すたびに、見えてくるモノがある。

 

 

 それは、『ナザリック1500名討伐隊』の記憶だ。

 

 

 他にもチラホラと覚えているようだが、どうしてか、この部分だけは他の事よりも鮮明に記憶しているように思える。

 

 それは、殺されたから? 

 

 だが、殺されたのは他のNPCも同じ。ここまで明確な違いが出る理由は、何処に? 

 

 悪かった事は鮮明に覚えていて。

 

 良かった事はほとんど覚えていない。

 

 同じギルドアタックの時の事でも。

 

 

 片や、自分たちが殺された事よりも、悟たちが笑って楽しんでいたという部分を強く覚えていて。

 

 片や、自分たちが殺された事ばかり注視して、悟たちが笑っていたり楽しんでいたことは全く記憶していない。

 

 

 同じ場所に居たというのに、視点がまるで違う。

 

 

 いったい、何処で違いが……何が原因で明確に別れてしまって……いや、待て。

 

 ──そこまで考えた瞬間……悟は、ピーンと脳裏に閃光のような閃きが走った感覚を覚えた。

 

 

(明暗……明るい、暗い……良いところ、悪いところ……善と、悪と……善と悪……善悪……っ!)

 

 

 そして、その閃きによって、一つの答えが悟の脳裏に浮かんでくるのは、早かった。

 

 

(そうか、そうだよ、これだ!)

 

 

 がたん、と。

 

 椅子を壊さんばかりの勢いで立ち上がった悟は……頷いた。

 

 

(──カルマ値だ!)

 

(フレーバーテキストだけじゃない! カルマ値が、NPCたちの記憶や精神に制限を掛けているんだ!)

 

(それならば、分かる! 一向にNPCたちが考えを改めない理由の説明が付く!)

 

 

 次から次に、確信を帯びた仮説が脳裏に浮かぶ。

 

 

(ゲームとは違い、NPCたちはカルマ値が変動しない。つまり、カルマ値を変動させるような思考の変化……心の変化が起こらないんだ)

 

(定められたカルマ値が変動するような行動が、思考が、出来ないようになっているんだ)

 

(記憶しかり、行動しかり、人間に対する異常な敵意も、単純に討伐隊に襲われただけじゃない。フレーバーテキストとは別に、カルマ値がマイナスになっていることで補正が掛かっているんだ)

 

 

 もう、この時点で、悟はコレを仮説とは思わなかった。

 

 というか、思ってしまうだけの状況証拠……これまでのNPCたちの言動を思い返せば、そうとしか思えなかった。

 

 

 実際、これまでの日々……NPCたちの行動を見ていて、納得出来る。

 

 

 良くも悪くも、絶対的な存在である『至高の御方』を第一にはするが、NPCたちはけして染まらなかった。

 

 

 カルマ値が善にあるものは、他のNPCに引きずられて邪悪に染まらず、邪悪とされる行為に対して個人差がありながらも不快感を示していた。

 

 反対に、カルマ値が悪にあるものは、そんな善のNPCの影響を受けて善とさせる行為に感銘など受けず、己の行いに何一つ疑問を感じてなどいないようだった。

 

 

 それもこれも、カルマ値が原因ならば……他にも条件があるにせよ、カルマ値がNPCたちの記憶や内面に影響を与え、制限を掛けているのだとしたら。

 

 

(ならば……『星に願いを』で、カルマ値を中立に戻せば……どちらの影響も受けていない、NPCたちの本心が……!)

 

 

 そう、思い至った瞬間、悟は──反射的に唱えようとした呪文を、片手で押さえたのであった。

 

 

 理由? 

 

 

 そんなの、言うまでもない。

 

 仮に、この仮説が全て正しかったとして……それが結果的に、NPCたちを苦しめる事になるかも……そう、思ったからだった。

 

 

 

 

 

 

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