オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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最終局面: Interlude・その3

 

 

 

 ──結局、その場では判断を下せなかった悟は、シャルティアの部屋を後にして……自室へと戻った。

 

 

 そうして、耳鳴りすら覚えるほどに静まり返った中で。

 

 悟は、蕩けてしまうぐらいに柔らかくも寝心地のよいベッドへ……ぼすん、と仰向けになった。

 

 

「はあ~……」

 

 

 そうして零れる、特大の……それはもう、部屋の外にまで聞こえるのではないかと思ってしまうぐらいの、大きなため息。

 

 

 まあ、出てしまうのも致し方ないだろう。

 

 

 自室は、他の場所とは違いNPCが用もなく入ってくることはないし、メイドも今や自室はおろか、この階層に来ることすら禁止している。

 

 例外はアルベドのように報告の必要があったり、手渡ししなければならない物があったり、つまりはそこへ早急に向かう必要がある場合に限られる。

 

 どうしてそうなったのかと言えば、それは悟がNPCを恐れているからだ。

 

 それは、NPCのレベルとか種族は関係ない。

 

 純粋に、『ナザリックのNPC』を悟は恐れ、嫌悪し……知られたら悲しむだろうが、それもまた、悟の本心であった。

 

 

 ……そう、今の悟にとって、NPCは必ずしも味方ではない。

 

 

 人間としての自我を取り戻す前とは違い、今の悟にとって、ほとんどのNPCは化け物でしかないし、一部を除いて、極力己の周りにいてほしくはない。

 

 かつての仲間たちとの思い出であり、そういう意味での懐かしさ、愛おしさは、確かに残ってはいる。

 

 

 けれども、それはあくまでも思い出の中にある存在だ。

 

 

 様々な悪行を成すことに一切の戸惑いをせず、ナザリックの利益(つまりは、アインズの利益)に繋がることならば。

 

 それこそ、万の赤子を引き裂いて両親の前に並べても、心底面白おかしく嗤って見下す……そういう邪悪な存在ではない。

 

 

 ゆえに、悟はNPCたちを拒絶した。

 

 

 表向きは以前と変わりなく振る舞ってはいるつもりだが、以前とは違って、傍には厳選した者以外は極力近寄らせない。

 

 

「……はあ、どうしたものか」

 

 

 だからこそ、である。

 

 絶対とは言えないが、限りなくプライベートが確保されている(気にし過ぎるとキリが無い)自室は、悟にとっては数少ない……気を緩めていられる場所であった。

 

 

「まさか、カルマ値がNPCたちの性質や行動にまで影響を与えているとは……あ~、こんな事になるなら、作成時にカルマ値を弄るのはやめておくべきだったな」

 

 

 自室の中だからだろうか……自然と、悟は少し前から独り言をするようになった。

 

 おそらくは……いや、間違いなく、寂しさが原因であるし、悟はソレを自覚していた。

 

 

 そう、悟は……寂しいのだ。

 

 

 なにせ、この世界には悟を知る者は誰一人いない。

 

 『リアル』を知っている者は誰一人おらず、『ユグドラシル』を知っている者もおらず、真の意味で相談できる相手もいない。

 

 パンドラのおかげで精神的ストレスは緩和出来ているが、それでも……根本的な部分は何一つ変わっていない。

 

 

 ──独りぼっち。そう、己は独りぼっちなのだ。

 

 

 こうして、気分転換を兼ねてベッドで横になると……活動している間は気にしないようにしていた孤独感が、沸々と湧いてくるのを自覚する。

 

 

 ……そう、そうなのだ。悟は、再び溜息を零した。

 

 

 カルマ値が精神に影響を与え、補正を掛け、抑制し、その者の認識を自覚無く変えているのはもはや、疑う余地はない。

 

 しかし、悟が問題視しているのは、そこだけではない。

 

 実際に、『オーバーロードのモモンガ』として動いていた時期があるからこそ、分かる事。

 

 それは、コントロールされてしまっている時の感情や感覚、その時の思いが隠れて見えなくなっているだけで、胸中から消え去っているわけではないということだ。

 

 

 ──正直に言おう。

 

 

 NPCたちのカルマ値を変更する事を考えた際、悟の脳裏を過ったのは……NPCたちの心、受ける衝撃への不安と心配であった。

 

 

 仮に……そう、仮に、だ。

 

 

 カルマ値の変更により、善だろうが悪だろうがどちらに対しても関心を抱かない、人形のような感覚になるのならば、それでいい。

 

 己はあくまでも僕であり、生死に対して意味など持たない……そのような感覚に落ち着くのであれば、悟としても罪悪感を覚えなくて済むからだ。

 

 

 だが、しかし、そうならなかった場合。

 

 

 さすがに、種族として邪悪であり非道を好む設定にされている『悪魔』……たとえば、デミウルゴスのような存在を始めとして。

 

 人食種……つまりは、種族として人間を食糧として設定され、そのように初めから認識しているNPCは別として。

 

 

 中には、居るかもしれない。

 

 

 カルマ値の影響で、残虐な性質を与えられていたNPCが。

 

 本来はペストーニャのように心優しいのに、それを自覚出来ないまま非道を繰り返している……そんなNPCが。

 

 ……そんなNPCたちが、果たしてカルマ値を変更され、本来の己に戻った時……それに耐えられるだろうか、と。

 

 

(俺だって、今でも……羽虫を潰す感覚で、自分の手で色々な人たちを殺してきた命の感触を思い出すんだ)

 

 

 そっと、己の手を……皮膚や筋肉など無いのに、生温い感覚を時折思い出す骨の手を……僅かばかり震えている白いソレを、悟はジッと見つめる。

 

 

 ……あの時、あの瞬間。

 

 

 今でも、思い出すだけで手が震えてしまうほどの強烈なトラウマとなって悟を苦しめ続けている……己が犯してしまった罪。

 

 『モモンガ』としてではなく、『鈴木悟』としての自我を取り戻した時の、あの筆舌にし難い感覚。

 

 

 アレは、実際に体験しないと分からない感覚だろう。

 

 

 そして、実際に体験したからこそ不安に思ってしまい……同時に、このまま何も知らないままの方が良いのでは……とも考えてしまう。

 

 

 知ってしまえばもう、逃れられない。

 

 何故なら、全てはもう過去のことだから。

 

 今さら悔いたところで、失った命は戻らない。

 

 だからこそ、やれる限りの事をやろうと思った。

 

 

 その為なら、塵芥(ちりあくた)のように無造作に命を落とすことになっても……後悔はない。

 

 たとえそれが、己の罪から目を逸らす逃避だと責められることだとしても……それでも、悟は己のこれからに対して、何一つ後悔などしていない。

 

 

(でもなあ……何も知らないままでいるよりも、やっぱり辛くても教えてもらいたいよな……俺だったら、さ)

 

 

 けれども……それはあくまで、自分一人だけの決断だ。

 

 

 ペロロンチーノの手記で、悟は知った。

 

 己が見ていた世界が如何に狭くて小さく、浅いモノだったのかを。

 

 辛くとも、悲しくとも、苦しくとも、教えてほしかった。

 

 ペロロンチーノたちの気遣いであったにせよ、それでも……ちゃんと事情を話して、ちゃんとお別れをしたかった。

 

 

 でも、それはもう出来ない。

 

 

 そして、NPCたちも……おそらく、このままだと何も知らないままその命を終えてしまうだろう。

 

 果たして……それで良いのだろうか。

 

 結局のところ、一方的な考えで押し付けるだけの傲慢な優しさでしかないのだろうか。

 

 

 そんな、相反する感情が頭の中でグルグルと回る。

 

 結論は、出ない。

 

 時間は3日しかないというのに、どうしても今だけは他の事をする気になれない。

 

 というか、ここで無理やり机に向き直っても、どうせコレが気になってまともに妙案など思いつくわけが……っと。

 

 

 ──ノックが、自室に響いた。

 

 

 ハッと我に返った悟は、勢いよくバッと身体を起こす。

 

 眠っていたわけではない(というか、よほど条件が重ならない限り眠れないけど)が、誰かの接近が分からないぐらいに深く考え込んでいたようだ。

 

 

「誰だ?」

『──パンドラズ・アクターでございます、アインズ様。所用を無事に完遂できましたので、報告の為に寄らせていただきました』

「パンドラ? なんだ、思ったよりも早かったな」

 

 ──入っていいぞ。

 

 

 入室を許可すれば、「失礼致します」パンドラはその言葉と共に布で包まれた棒状のナニカを片手に──一拍の間を置いてから、小首を傾げた。

 

 

「もしや、就寝中でございましたか?」

「いや、ゆっくりと考え事をしていただけだ」

「左様でございますか、それでしたら時間を改めますが、如何致しましょうか?」

「いや、構わんよ。気分転換も必要だ……それに、猶予は3日だ。あまりゆっくりはしていられんからな」

「え、3日?」

「……3日だろ?」

 

 

 再び首を傾げるパンドラを前に、悟も首を傾げた。お互いに不思議そうにするなかで……ぽん、とパンドラは手を叩いた。

 

 

「もしかして、アインズ様……相当に根を詰めておりましたね?」

「うん?」

「私がナザリックを出てから、もう40時間以上は経過しております。つまり、今は3日目の最終日でございます」

「──えっ!?」

 

 

 ぺかー、っと。

 

 体感的には久しぶりに感じる、感情抑制が掛かった感覚。スーッと冷静さを取り戻した悟は……震える声で、尋ねた。

 

 

「……今、3日目?」

「はい、そうです」

「……マジで?」

「アインズ様に誓って断言しますが、全てマジです」

「そ、そうか」

「ちなみに、他の皆様方も何名かお伺いに来たらしいのですが、ノックをしても返事がなかったので、相当に集中しておられるのだろう……と」

「……そ、そうか」

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうか、もう3日目か。

 

 

(……や)

 

 

 そこまで、思考を巡らせた辺りで……悟は、両手で顔を覆うと。

 

 

(やっちまった──!!!!!!)

 

 

 ぺかー、っと。

 

 何度も何度も感情抑制が働くのを感じながらも、悟は内心にて野太い悲鳴をあげるしかできなかった。

 

 これもまた、アンデッドの業というやつか。

 

 飲食はおろか睡眠すら不要な事に加え、疲労も覚えない。

 

 それゆえに時間の感覚が薄く、自分ではちょっと考え事をしていたつもりでも、外では相当に時間が……ううん、まさか、このタイミングでこんな凡ミスをしようとは。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………何度も言うが、泣こうが喚こうが時間の猶予は伸びたりしない。

 

 

「……すまない、驚かせてしまった。思っていたよりもずっと時間が経過していてな……その、私も凄く驚いた」

「それだけ集中していたということです、私に頭を下げる必要などありません」

「ふふ、そういって貰えると、気も和らぐよ」

 

 

 何とか、時間にして5分程で我に返り、それが言えるだけ精神を落ち着かせた悟は、とりあえず……聞きそびれていたナザリック外出の理由を尋ねた。

 

 こんな状況で、わざわざ外出しようとするのだ。おそらく、それに見合うだけの理由があるのだろうと悟は思っていた。

 

 

「はい、実はコレを探しておりまして」

 

 

 すると、パンドラも分かっていたのか、スッと手にしている棒状のナニカ……それを包んでいる布を外し、中身を露わにした。

 

 

「──まさか、それは!?」

 

 

 瞬間、悟は飛び起きるようにしてベッドから出ると、パンドラの下へ駆け寄り……震える手で、布で包まれていた『古ぼけた槍』を受け取った。

 

 

(……間違いない! まさか、この世界に実在していたのか!?)

 

 

 そして、そのまましばし『古ぼけた槍』をあらゆる角度で観察した悟は……確信した。

 

 

(『聖者殺しの槍(ロンギヌスの槍)』だ!)

 

 

 それは、『ユグドラシル』において驚異的な性能を誇るワールドアイテムの中でも、とびきり凶悪な効果だとされている『二十』の内の一つであった。

 

 

 ……『聖者殺しの槍』。

 

 

 それは、多種多様に存在するユグドラシルのアイテムの中でも、ひときわ異彩を放つ唯一無二のアイテムである。

 

 見た目は低ランクの武器か何かだが、実態は入手難度がおかしい超高レアアイテムなことに加えて、このアイテムが唯一無二である理由は……ただ一つ。

 

 それは、使用すると、『指定した相手を抹消』し、代償として『自分も抹消する』という、凶悪極まりない理由である。

 

 ……初見の者ならみな、同じことを考えると思う。

 

 

 

 『運営、頭おかしいんじゃないの?』と。

 

 

 

 何をどう血迷ったら、こんなアイテムを出そうと考えるのだろうか。

 

 しかも、これは単純にゲームキャラが死亡するとかではない。

 

 このアイテムで抹消されたキャラを復活させるには、別のワールドアイテムを使用して復活させる以外にないのだ。

 

 つまり、実質的に、相手と自分のキャラをBANさせてしまうという意味不明なアイテムなのだ。

 

 はっきり言って、頭オカシイなんて話じゃないアイテムであり、愉快犯の手に渡ればシャレにならない事態を引き起こしてしまう。

 

 実際、ユグドラシルにおいても、このアイテムによって引き起こされた事件は数知れない。

 

 有名なのは、ゲームの重要NPCに使用され、様々な不具合が生じてしまって批難轟々で凄い事になった……っと、話を戻そう。

 

 

「こ、これを何処で!?」

 

 

 悟が思わず声を荒げてしまうのも、仕方がない。

 

 なにせ、『聖者殺しの槍』はワールドアイテム。ユグドラシルにおいても、これを所持しているプレイヤーは少ない。

 

 ましてや、ここはユグドラシルではない。

 

 こんな凶悪極まりないアイテムが手に入るだなんて、これまで一度として耳にした覚えはなかったのだから、悟が動揺してしまうのも当たり前であった。

 

 

 ……けれども、だ。

 

 

 パンドラから、このアイテムを手に入れるに当たっての経緯を聞いた悟は……しばし沈黙した後で、ああ、と納得した。

 

 パンドラの説明を、簡潔にまとめると、だ。

 

 

「……つまり、あのどデカい樹木のモンスターをどうにかしようとしていたと思われる一団が居て、そいつらが切り札として所持していた物だと?」

「はい、可能性としてはそれが一番かと思います」

 

 

 要は、そういうことだ。

 

 アレが自然的に目を覚ましたモノなのか、それとも外部からの刺激によって目を覚ましてしまったモノなのか……それを知る為に、パンドラは大森林の方へと向かったとのこと。

 

 

 そして、結果は後者で。ゆえに、パンドラは……ある一つの可能性に賭けた。

 

 

 それは、偶発的な事故で目を覚ましたのではなく、その一団が何かしらの意図を持って行動し……最悪の事態に対する切り札を所持していた可能性に。

 

 なにせ、あのデカブツが姿を見せたのは、大森林の奥。

 

 街道の途中ならまだしも、偶発的に立ち寄るにしては不自然過ぎる場所だし、なにより、物見見物に行くような場所でもない。

 

 おそらく……知っていたのだ。

 

 あの場所に、あのデカブツが眠っているという事を。

 

 そして、その者たちは、どうしようもなくなった時の切り札を所持していたのではないかということを。

 

 

 そう考えたパンドラは、現地に赴いて探した。

 

 

 もちろん、動けなくなっているゾーイを刺激しないよう一定の距離を取ったうえで気配を消して。その際、広範囲を探し回れる恐怖公を伴う事も忘れずに。

 

 可能性の段階とはいえ、アレほどの巨体を仕留められると思われていたほどのアイテムだ。

 

 推測だとしても、調べておくだけの価値はある。

 

 そう思い、パンドラと恐怖公は2日間ほど不眠不休で探し続け……そうして、この槍を見つけたのだという。

 

 

「パンドラ、お前はこの槍の効果を知っているのか?」

 

 

 思わず、尋ねた悟に対して、パンドラは静かに首を横に振った。

 

 

「いえ、知りません。しかし、私は宝物殿を管理し守護する者……詳細は分からなくとも、この槍が凄まじい秘宝であることは見て分かります」

「そうか……これは、ゾーイと戦う為にか?」

「はい、以前より宝物殿の整理を行っておりましたので……ならば、与えられた決戦の時まで少しでも戦力の足しになる事は出来ないかと思い立ち……」

「そうか、そうか……ありがとう、パンドラ」

 

 

 パンドラに深々と頭を下げた悟は、その槍をアイテムボックスに仕舞った。その際、パンドラが慌てたように頭を上げてくれと訴えてきたが、構わず悟は頭を下げた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………実のところは、だ。

 

 

 『聖者殺しの槍』は確かに凶悪極まりないアイテムだが、防ぐ手段や通じない相手が存在し、必ずしもコレが通じるかと言えば、そういうわけでもない。

 

 そして、その相手に、ゾーイが含まれている可能性があり……仮にそうだった場合、使用した時点で悟側の敗北が確定する。

 

 

 どうしてかって、ゾーイの行動パターンが変化するからだ。

 

 ユグドラシル時代では、プレイヤーたちの間では『発狂モード』と呼ばれていたやつである。

 

 

 元はチートコード使用による不正を感知した際に発動するモノだったと悟は記憶しているが……正直、記憶に自信はない。

 

 ゾーイの情報はある程度出回ってはいたが、真偽不明の情報も数多くある。

 

 あくまでも隠しボス、裏ボス的な存在であり、戦っても戦わなくてもいい存在。NPCなのか、運営が操作しているキャラなのか、それすらも曖昧なままだった。

 

 

 ──とはいえ、だ。

 

 

 今のゾーイの傍で、有るかも分からないアイテムを探し回る。それも、2日間近く。

 

 言葉にすれば簡単に見えるが、その身を襲う重圧は、言葉では言い表せられない。

 

 それを成し遂げてくれたパンドラ(あと、ここにいない恐怖公に対しても)に、感謝して頭を下げるのは……『鈴木悟』としては、当然のことなのであった。

 

 

「ところで、アインズ様。ずいぶんと根を詰めていたようですが、ずっと対ゾーイ戦の戦略を組み立てていたのですか?」

 

 

 だからこそ、率直に尋ねられた悟は……つい、そのままを答えた。

 

 

「……アインズ様は、どうするおつもりなのですか?」

 

 

 すると、パンドラはしばし沈黙した後で、続けて問い掛けてきた。

 

 それに対して、悟は……しばしの間、何も言えなかった。

 

 答えたくないわけではない。純粋に、どうすれば良いのか未だに答えが出ておらず、返答できなかっただけである。

 

 

「…………」

「…………」

「……思い出してもらうさ、望む者にはな」

 

 

 けれども、これまでとは違い……今の悟は、決断を下せた。

 

 それは、悟の決断力が以前に比べて上がったから……ではない。

 

 

 たった今、パンドラが見せてくれたから。

 

 

 自分の為に、危険を承知でアイテムを見付けて来て、全ては貴方の為だと愛を示してくれたように。

 

 そして、そんなパンドラの姿を見て……己の為に隠し通そうとしてくれた、かつての仲間たちの事を改めて思い出したから。

 

 

 ──そんな仲間たちの事を忘れたまま、消えてしまうだなんて……俺と同じ寂しさを、NPCたちにまで感じてほしくはない。

 

 

 そう、強く思ったから。

 

 創造主を恨むのも、失望するのも、ひいては、己を憎むのも仕方がない。

 

 ただ、何も知らないまま終わるのだけは……あの時の己と同じにだけはなってほしくないと……思ったから。

 

 

「パンドラ」

「はい」

「みんなを集めてくれ、第十階層の『玉座』まで」

「──Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)」

 

 

 だから……悟は、ついに、その決断を下したのであった。

 

 

 




ついに、悟は決断しました

初めて、悟は自らの意思で誰かの心に触れる覚悟を固めたのです
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