オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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地獄への道は善意で舗装されている

さあ、善意で舗装された道を進んで地獄へ行こうね


最終局面: Interlude・その4

 

 

 

 第十階層『玉座』。あるいは、『玉座の間』。

 

 

 

 それは、『ナザリック地下大墳墓』の心臓部でもあり、最も深い階層に設置された玉座が安置されている場所である。

 

 内装は豪華絢爛でありながら、長き歴史を感じられる荘厳な空気で満ちている。等間隔で設置された旗には、かつてのギルドメンバーを現したマークが記されている。

 

 そこに……この日、この時、ナザリックのNPCたちは集められていた。

 

 

 とはいえ、全員ではない。

 

 

 その設定上、そこから動くのが難しいNPCはそこで待機。あるいは、ゾーイ迎撃の準備(つまり、割り振られた仕事)が済んでいない者は除外という通達はしておいた。

 

 なのに、この日、この時……玉座の前には、大勢のNPCたちが規則正しく列を作り、悟(アインズ)の前にて膝を突き、悟の言葉を待っていた。

 

 

 そこに、立場やレベルや種族の違いは関係ない。

 

 

 ナザリックにおいては下っ端にあたるメイドも、至高の御方に次ぐ地位にある守護者たちも……ましてや、庇護下にあるとはいえ部外者であるツアレたちもいる。

 

 

 

 ……え、ツアレたちも? 

 

 

 

 悟としては、NPCだけを呼ぶように命令を下したはずだが……もしかしたら、言葉足らずだっただろうか? 

 

 ちらり、と。

 

 悟は、己の少し背後にいるパンドラを見やる。

 

 すると、パンドラは『いえ、私じゃないです!』と言わんばかりに手と顔を左右に振った。

 

 

 ……と、なれば、忠誠心(いつもの)だろう。

 

 

 内心にて、悟はため息を零した。

 

 これも何かしらの影響のせいなのかは分からないが、忠誠心が高すぎるのも困り者だ。

 

 なにせ、NPCたちからすれば全ては善意であり、当然の事であると本心から思っているからだ。

 

 

 おそらく……いや、確実に、こうなった原因は決まっている。

 

 

 『ナザリックの僕(つまりはNPC)』だけに集まるようちゃんと各所に指示を出したのに、それを聞いた側が『呼ばれなくとも来るのは当然!』と気を利かした……まあいいか。

 

 

(──こうして改めて一堂に集めてみると、けっこう居たんだな)

 

 

 とりあえず、来てくれたのに追い返すのは互いの顔を潰すことになるので、サラッと気持ちを切り替えた悟は……改めて、その事実に気付く。

 

 正直な話……悟は、オーバーロードとしてこの世界に来るまで、NPCの事などほとんど記憶して……いや、少し違う。

 

 

 作った当初は覚えていたと思う。ただ、その時からサービス終了に至るまでの月日は……あまりに長すぎた。

 

 

 そう、おそらくは『ユグドラシル』に、『ナザリック』に一番思い入れのある悟とて、全てを覚えていたわけではない。

 

 はっきり言えば、この世界に来るまでは記憶の片隅にも居なかったNPCも少なくはない。

 

 

 姿を見れば『ああ、こんなの居たな』と思い出せはするが、それだけ。

 

 細かい設定なんて覚えていないし、ステータスに至っては……だからこそ、こうして改めて確認した悟は、なんとも新鮮な気持ちですらいた。

 

 

「──皆の者、わざわざ集まってもらったのは他でもない。私から、お前たちにどうしても伝えておかなければならない事があるのだ」

 

 

 けれども、何時までも感慨にふけっているわけにもいかない。

 

 

「しかし、その前に……ツアレを除き、リザードマンを始めとした、わがナザリックの僕以外は外に出てもらう」

 

 

 一斉に向けられている視線に気後れしつつも、誓った覚悟に背中を押されながら……NPCではない、ナザリックの者たちへと視線を向ける。

 

 

「不服に思うかもしれないが、分かって欲しい。そして、この話が終わった後で、僕たちの態度が少しばかり変わっても……変わらず、接してほしい」

『──あ、アインズ様、頭を上げてください!』

 

 

 頭を軽く下げれば、彼らは慌てた様子で両手を振った後……悟へ向かって深々と一礼をすると、小走りに玉座の間を出て行った。

 

 

「ツアレ、君はセバスの隣に居なさい」

 

 

 それを見送った悟は、次いで、唯一この場に残されている部外者のツアレへと視線を向けた。

 

 

「わ、私がですか?」

 

 

 心底驚いた様子で目を瞬かせるツアレに、悟はハッキリと頷いた。

 

 

「そうだ、君はセバスの子を宿しているのだろう? それに、わざわざ好いた男が傍に居るというのに、離れる必要はあるまい」

「い、いいんですか?」

「妻が夫の傍にいようと願う、それの何が悪いというのか……さあ、傍へ」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 

 1人残されたツアレは、悟の指示に従って……セバスの傍に立つ。セバスも、そんなツアレの肩を抱いて……僅かばかり目尻を下げた。

 

 

 ……周りにいるのは、軽く腕を振るうだけで己をミンチにする化け物ばかり。

 

 

 それなのに、ツアレは一歩も引いてはいない。顔は青ざめ、肩は震えていても……それでも、まっすぐ頭を上げて、前を見つめている。

 

 周りから向けられる視線が明らかに冷たいが、悟からの指示である事に加え、セバスからも睨みを利かされているので、誰も文句は言わなかった。

 

 

「……さて、だ」

 

 

 そうして、ツアレを除いてNPCたちだけが残された玉座の間にて……悟は、そっと視線を上に向ける。

 

 そこに広がるのは、かつてのギルドメンバーたちの旗。今はいない、仲間たちと築き上げた……過去の栄光の証。

 

 

(そういえば……サービス終了日も、こんな感じで懐かしみながら見上げていたっけ)

 

 

 思い返せば、あの時からどれだけの月日が流れただろうか。

 

 気持ちの上では何十年とこの世界にいたような感覚だが……正確に確認したわけではないが、実際は2年と経ってはいないだろう。

 

 

 

 ……そう、2年前は、こんな事になるなんて夢にも思っていなかった。

 

 

 

 あの時の悟は、翌日も変わりなく待ち受けている仕事の事ばかり考えていた。

 

 特権階級の生まれではない悟は、生きていく為には働く必要がある。そして、『リアル』において命を削らない仕事はそう多くはない。

 

 世界が環境汚染によって崩壊し、教育制度も崩壊した。中学校はおろか小学校すら出ていない者は多く、小学校を卒業している悟は、なんとかそういう仕事に有り付くことが出来ていた。

 

 けれども、それで平穏な暮らしを得られているかといえば、そんな事もない。

 

 あの世界……いや、『リアル』はもはや、死の世界だ。

 

 草木は死に絶え、水は汚染され、空気には毒が入り混じる……正しく、終末という言葉がふさわしい世界になっていた。

 

 

 そんな世界で生きられる生命などいやしない。

 

 

 けれども、それでも生きようとする人間は……同じ人間を犠牲にすることで、なんとか生き長らえていた。

 

 様々な事情から学校に行けなかった者は、それこそ一部の者たちを生かす為の燃料として死ぬまで扱き使われ。

 

 悟を始めとして、まだ使える人材は、それより少しばかりマシだが、同様に燃料として扱き使われ。

 

 誰も彼が、ひっそりと死んでゆく。

 

 己もまた、そんな者たちの一人になるのだろう……そう、漠然と諦めていた。

 

 

(あの時はログアウトされていないって思って、最後の最後にまたかよクソ運営って溜め息吐きながら苛立っていたっけ……懐かしいなあ)

 

 

 それが今、こうして『オーバーロード』という怪物の身体を持ってこの世界……『リアル』とは異なる世界にいる。

 

 

 どうして? 

 

 どうやって? 

 

 何も分からない。

 

 

 この世界においては圧倒的強者に成ってはいるが、結局は何一つ分からないまま……二度目の終わりを迎えようとしている。

 

 

「……我がナザリックの忠実なる僕にして、仲間たちが作り出した僕たちよ……私は、これからお前たちにある魔法を掛けようと思っている」

 

 

 ──そう思えば、コレはあの時の続きなのかもしれない。

 

 

 そう、悟は思った……が、しかし。

 

 

 ──あの時とは違う……とも、悟はハッキリと思った。

 

 

 あの時は、何も知らなかったのだ。

 

 仲間たちがどうしてユグドラシルを離れ、ナザリックから離れたのかを……ただ、ゲームに飽きたのだとばかり思って……いや、違う。

 

 勝手に、そう思い込んでいただけだ。

 

 居なくなったという事実に目を向けたくなくて、只々理由を遠ざけていただけ。怖がって、己の殻に閉じこもって、いじけていただけであった。

 

 

「その事で、お前たちは……あくまでも可能性の話だが、お前たち自身が忘れている事……そう、今はもういない皆の事を思い出すかもしれない」

 

 

 だが、今は違う。

 

 何もかもが手遅れになってしまった後だが、知る事が出来た。

 

 全員がそうでなくとも、どんな形であれ、仲間たちは『ナザリック』を愛していた。

 

 様々な事情で離れる結果になろうとも、それでも……想ってくれていたのだ。

 

 

「だが、そうならない可能性もある。あるいは、何かしらの異常を来たす場合も0ではない」

 

 

 だから、もう悟は迷わない。

 

 たとえ、NPCたちから『なんて事をしてくれたのだ!』と恨まれる結果になったとしても……それでも、何も知らないまま終わるのだけは……悟自身、嫌だったから。

 

 

「なので、これから3分待つ。不安を覚え、魔法を受けたくない者は手を上げろ。望むのであれば、そのまま魔法を掛けられるまで待っていてほしい」

 

 

 だから……そう、だから。

 

 

「……色々と思うところはあるが、出来るならばデミウルゴスとマーレも復活させたうえで行いたかったが……あいにく、レベル100を二人も復活させるとユグドラシル金貨が心もとなくなるのでな……諦めてほしい」

 

 

 悟は……ゆっくりと、未使用の『流れ星の指輪』が装着された指を掲げると。

 

 

「『I Wish──』」

 

 

 悟は、願った。

 

 良い方だけではないし、悪い方だけでもない。

 

 どちらも全て、かけがえのない悟の仲間たちなのだ。

 

 一時的でもいい、NPCたちのカルマ値をニュートラルに戻し、そして……NPCたちが忘れている、仲間たちの事を思い出してほしい。

 

 ただ、それだけを願い──強く、悟は願った。

 

 

「──あっ」

 

 

 直後、出現した魔法陣と共に輝き出した悟の身体……その光が指先に集まり、パッとひと際強く弾けて──その、瞬間。

 

 ぱきん、と。

 

 指輪がひび割れ、砕けて床に落ちた。

 

 反射的に屈んで確認した悟は……指輪に刻まれた流れ星のマークが全て消えているのを見て、3回分の願いが消費されたことで役目を終えたのだと察した。

 

 

 幸いにも、悟自身のレベルは下がってはいないようだ。

 

 

 どうやら、願いの内容に応じて自動的に経験値を注ぎ込むようになっているようで、必要以上は消費されないようだ。

 

 以前、シャルティアの時に使用した時は1回分だが……アレは、通じないと魔法そのものが判断した結果、最低分の1回分だけ使用……っと、考えるのは後だ。

 

 

(どうだ……?)

 

 

 立ち上がった悟は、改めてNPCたちの様子を伺う。

 

 

 困惑気味に目を瞬かせる者。

 

 何かを堪えるかのように頭を抱える者。

 

 固く目を瞑って唸っている者。

 

 周囲を見回し、狼狽している者。

 

 

 反応は、多種多様。全く無反応な者もいれば、遠目にもわかるくらいに分かり易い反応をしている者もいる。

 

 

「──セバス様!?」

「う……大丈夫、大丈夫ですよ、ツアレ」

「本当ですか? 少し、横になられては……」

「大丈夫です、これは……大丈夫ですから」

 

 

 その中には、ツアレに支えられる形で少しばかりふらついているセバスの姿もあった。

 

 

 ──上手くいったのか。

 

 ──それとも、駄目だったのか。

 

 

 セバスの反応だけでは、成功なのか失敗なのかは分からない。

 

 パンドラに確認しようにも、そのパンドラも……夢うつつ、心此処に在らずといった様子でぼんやりしていて、声を掛けても今一つ反応が鈍い。

 

 

(……失敗か?)

 

 

 それなら、それでもいい。

 

 けれども、何かしらの状態異常でも引き起こしていたら問題だ。

 

 最悪、『使用済みの流れ星の指輪(残り2回分)』を使い、1レベルダウンを覚悟して元に戻さなければ。

 

 そんな思いで、アイテムボックスから『流れ星の指輪』を取り出そうと──した、その瞬間であった。

 

 

 

「──ぁ、ぁあ、あああああ!!!!!」

 

 

 

 突如、悲鳴を上げて列から飛び出したのは……アウラ。

 

 顔中から汗が吹きだし、涙を流し、遠目にも分かるくらいに異常を露わにしている彼女は……凄まじい勢いで『玉座の間』を飛び出して行った。

 

 

「アウラ──っ!?」

 

 

 止める暇はおろか、追いかける事も出来なかった。

 

 なにせ、アウラは守護者の中でもトップクラスの素早さを誇るレンジャーだ。

 

 (アインズ)の倍以上の素早さであり、不意を突いても追い付けない程に素早いのだ──っと、その時。

 

 

(──シャルティアも?)

 

 

 次いで、規則正しく並んだ列から飛び出して駆けだしたのは、シャルティア。まさかの二人目に、誰もが反応出来なかった。

 

 一瞬しか見えなかったので確証はないが、その顔はアンデッドなのに青ざめて見えて……至高の御方の前だというのに、脇目もふらず『玉座の間』を飛び出して行った。

 

 

 ……いったい、二人に何が? 

 

 

 色々な事態を想定していた悟も、これは予想外。頼りになるパンドラも動けなくなっている以上、どうしたものかと迷って──っと。

 

 

「────っ!!!!!」

 

 

 二度ある事は、三度ある。

 

 前触れもなく、いきなり……今にも息を引き取りそうなぐらいにか細い悲鳴を上げたアルベドは、シャルティアと同じく脇目もふらずに列を飛び出し、『玉座の間』を出て行った。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………って、呆けている場合じゃない! 

 

 

「『八肢刀の暗殺蟲(エイトヘッジ・アサシン)』! 急いで三人を追い掛けろ!」

 

 

 反射的に、悟は命令を下す。

 

 直後、今まで気付かなかった気配が存在感を示し、自分から遠ざかって行くのを確認した悟は、深々とため息を零し──。

 

 

『──アインズ様、三人を見付けました』

 

「え、はやっ」

 

 

 すぐに、引っ込めた。

 

 まあ、転移ではなく走っての移動だし、明らかに様子がおかしかった事に加えて、壁をぶち破って移動しているわけでもない。

 

 開けた場所だと逃げられるが、通路を通って移動しているのであれば、とりあえずは追い付けても不思議ではない。

 

 

「それで、三人は何処へ?」

『──アウラ様は、6階層の『大森林』に。アルベド様とシャルティア様は、第9階層の『ロイヤルスイート』にいらっしゃいます』

「6階層と9階層? どういうことだ?」

『アルベド様は自室に。シャルティア様はペロロンチーノ様のお部屋に。アウラ様は、『大森林』にあるご自宅へと入りました』

「……2人はなんとなく分かるが、シャルティアはどうしてペロロンチーノさんの部屋に?」

 

 

 シャルティアの意図が分からなかった悟は、思わず首を傾げた。

 

 アルベドとアウラの方は、分かる。反応はおかしかったが、混乱のあまり自室へと戻った……まあまあ、あり得る話だ。

 

 けれども、シャルティアの部屋は9階層には無い。

 

 普段の反応から考えれば、邪な気持ちで向かったと考えるところだが……それにしては、様子がおかしかった。

 

 

 ──ちょっと、様子を見に行こう。

 

 

 そう判断した悟は、『玉座の間』に居る全NPCに聞こえるよう、声を張り上げた。

 

 

「これから私は急用で席を外す! 緊急の用が無い限りは呼び出さないように!」

 

「それと、お前たちの混乱は理解出来る。だから、私の指示があるまでは各自の自由時間とする! 以上、解散!」

 

 

 とりあえず、最低限の指示を下し……走って、急いで9階層へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 





モモンガ様が地獄の中をさまよい歩いているのだ

忠実なる下部達もまた、地獄をさまようのが誉というものよ
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