──対ゾーイ戦、第一の関門。
それは、ゾーイに対して一定以上のダメージを与える(要は、HPが75%以下になる)と登場する、『調停の翼』と呼ばれる竜の存在である。
この竜、一見するばかりでは竜として見れば身体も小さく、大して強そうには見えないが……騙されてはいけない。
なにせ、この竜は……『サンダー』と呼ばれる、魔法とスキルを一時的に封じる攻撃を放ってくるのだ。
しかも、それだけではない。
『サンダー』ほど驚異的ではないが、魔法やスキルを使用した後のクールタイムを延長させる、『ストラトスフィア―』という技も使ってくるのだ。
つまり、『調停の翼』はその見た目に反して、相手に魔法やスキルをとにかく使わせない、持久戦を強制させるタイプのモンスターなのである。
しかも、しかも、だ。
そういう嫌らしい攻撃を放ってくるくせに、プレイヤーに対してストレスを多大に溜めさせる(ユグドラシルでは、ゴミカス竜とも言われていた)この竜。
動きこそ単調でパターンさえ分かれば倒し易い相手だが、なんと、基礎ステータスそのものが高く、基本的に遠距離攻撃ばかりしてくるのだ。
つまり、魔法もスキルも封じてくるくせに、本領を発揮する近接戦闘プレイヤーからは離れ、魔法詠唱者が本領を発揮する遠距離より攻撃してくるのだ。
基本的に後衛よりアシストするなり何なりが魔法詠唱者の持ち味(例外はある)だが、魔法もスキルも封じられた後衛の魔法詠唱者など、案山子もよいところ。
なので、『調停の翼』が出現すると、前衛をタンクで固めて遠距離攻撃の撃ち合いになるか、デバフにて素早さを落として無理やり近接戦闘に持ち込むかであり。
何も考えずに突っ込むと、もれなく全員スキルも魔法も封じられた後で、根こそぎ『サンダー』でやられてしまうわけである。
そりゃあ、プレイヤーから『ゴミカス竜』なんて呼ばれるのも致し方ない話である。
しかも、しかも、しかも、だ。
厄介なのは、この竜だけではなく……ゾーイもまた、普通に参戦してくるという点だ。
つまり、敵キャラが2体。目の前の相手だけを注意していればよい状態ではなくなる。
竜を相手にする為に前面をタンク(要は、壁役)で固めてしまうと、そのタンクが、側面から来るゾーイの攻撃であっという間に壊滅してしまうわけだ。
なにせ、『サンダー』もそうだが、『ストラトスフィア―』という技を受けてしまうと、タンク役がスキルや魔法を使って自ら防御力やHPを上げられない隙間の時間が生まれてしまう。
そうなれば、タンクたちは素のステータスでゾーイの猛攻を防ぐしかないわけで……ここで、入念に準備をしていないタンクはやられてしまう。
なにせ、後衛は『調停の翼』と『ゾーイ』と、『タンク』たち全員のバフとデバフを掛け、そのうえで攻撃に転じる必要があるわけだ。
そこからさらに、ゾーイの攻撃の中には『スピンスラッシュ』と呼ばれる、攻撃を受けたキャラに確率で気絶……すなわち、『行動不能』状態を引き起こすモノがある。
そう、これまで威力が高すぎ&受けるダメージが大き過ぎて、気絶した瞬間に覚醒していたのだが……実は、本領を発揮するのはタンクを相手にした時なのだ。
これがまあ、分かり易くいえば……ゾーイの攻撃を無防備に受けざるを得ない者がちらほら現れ始めるわけで。
もう、この時点で『ゴミカス竜』なんて呼ばれて当然の所業であり、上手に事が運べていたチームが、そのまま流れ落ちるように壊滅して敗退するのもまあ……だいたいの流れであった。
(──よし、このタイミングだ! 一定以上ゾーイにデバフが掛かった、今しかない!)
だが、そんなゴミカス竜を前にしても……悟は、冷静に状況を見て、タイミングを見計らい……対調停の翼用の作戦を考えていた。
……そう、いくら凶悪なゾーイとはいえ、どれだけ強かろうが、大本となったのは、悟が愛したゲームのキャラクターなのだ。
過去、いくら『糞運営(怒)』とヘイトを稼ぎまくっているユグドラシルであっても……つまりは、『調停者ゾーイ』であっても、ゲームである以上は、付け入る隙はちゃんと作られていて。
実際、『調停の翼』が出てきた後でも、それを様々な手法にて突破した映像動画を……悟は、いくつか記憶していた。
「『I Wish──』」
それらを参考に、悟が考えた方法……それは、ぶっつけ本番の攻略法である。
「『調停者ゾーイの動きを封じろ!』」
──まず、『星に願いを』にて、再びゾーイの動きを停止する。
その際、『流れ星の指輪』を使用する場合とは違って発動まで時間が掛かるので、課金アイテムである『砂時計』を使用して発動までの時間を短縮する。
ウィンドウの向こうには、守護者たちに襲い掛かろうとしていたゾーイが突如それを止めて……だらん、と脱力して立ち尽くしたまま動きを止めていた。
異変に気付いた『調停の翼』が、雄叫びをあげる。
だが、ゾーイは一度目と同じく、だらんとその場に立ち尽くしたまま動く気配はない。ぼんやりとした様子で、俯いたままだ。
どうやら、無事に『星に願いを』が通じたようで……ひとまず、悟はほっと胸を撫で下ろした。
(……薄々予感はしていたけど、最大まで経験値を持って行かれたか)
だが、その結果、悟は己のレベルが100から95に下がったのを感覚的に察して……いや、止めよう、今は全て後回しだ。
そう、まずは、最初の一手。ゾーイの完全停止。
状態異常の『麻痺』ではない。ゾーイは麻痺や昏睡や睡眠に対する完全耐性を有しているので、それでは駄目だ。
ゾーイの動きを封じるには、『星に願いを』による、状態異常とは異なる超位魔法による行動停止……それ以外に、その動きを封じる方法がないのだ。
(だが、この手応え……やはり、ハメ技防止の為に二度目以降は耐性が跳ね上がっているのか……!)
しかし、想定していた通り……1回目に比べて、はっきり自覚出来るぐらいに手応えが弱いことに、悟は唸った。
考えてみれば、当たり前だ。
いくらデメリットの多い超位魔法とはいえ、それで永続的に有利な効果を出し続ければ、それこそレイドボスであろうと完封出来てしまう。
それは、ユグドラシルに限った話ではない。
そういった魔法やスキルはおおよそ、一度目は通じても、二度目以降は効きが悪くなるようになっているのが当たり前で……そして、ゾーイもまた例外ではないのだ。
『──パンドラ! 作戦を開始せよ! 守護者たちよ、竜をゾーイから離せ!』
けれども、それぐらいは悟とて百も承知……すぐさま、次のフェーズへと移るようパンドラに指示を送り、ジッとウィンドウを見つめる。
指示を受けた守護者たちが、『調停の翼』へと向かう。
対して、『調停の翼』は一瞬ばかりゾーイを見やったが、過去の攻略動画と同じく羽ばたいて空へ飛び、迫ってくる守護者たちより距離を取った。
ここがゲームの世界ではないとはいえ、そもそもが『ゴミカス竜』……接近戦を仕掛ける相手に距離を取って一方的に攻撃しようとするのは変わっていないようだ。
なので、ゾーイの周囲には誰もいなくなった。
それを見て素早く駆け寄って来たパンドラは……スルッと、ゾーイの手を取ると、指輪をはめた。
その指輪の名は『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』。
詳細は省くが、要は転移が制限されているナザリック内の部屋(例外有り)に、回数無制限で自在に転移する事が可能となる指輪である。
全部で100個しかないそれは、本来ならば所持しているだけで、NPCたちから憧れと嫉妬の眼差しを向けられる代物だが……いったい、どうしてそれを?
『──転移! ゾーイを宝物殿へ!』
答えは、すぐに出された。
パンドラが宣言すると同時に、パンドラとゾーイはその場から姿を消し──次の瞬間には、ナザリックの宝物殿へと転移していた。
宝物殿には既に、多数のアンデッド……『
──
モンスターとしてのレベルは低いが、それでも絶え間なく行われる数打ちゃ当たる戦法を前に、ゾーイのステータスは通じるリミットまで下がった状態を維持される。
すると……ゾーイに変化が現れた。
褐色の肌からは血の気が引き、薄らと顔色までもが悪くなる。少しずつ呼吸も荒くなり始め……ツーッと、目と鼻から鮮血を垂れ流し始めた。
『──よっしゃぁ!!! 状態異常『毒』になった! そのままデバフ状態を維持し、常に最大スリップダメージを維持するのだ!!』
それを、ウィンドウ越しに見ていた悟は──堪らず、玉座にてガッツポーズをしていた。
そう、これこそが、悟が考えていた第一の関門を突破する秘策……『ゾーイ毒浸し作戦』である。
その内容を簡潔にまとめると、だ。
まず、動きを止めたとはいえ、ゾーイを攻撃している余裕が守護者たちにはない。
いくら『ゴミカス竜』と滅茶苦茶嫌われているとはいえ、その強さは間違いなく、『サンダー』も『ストラトスフィア―』も、十二分に戦線を壊滅させる威力を持っている。
ならば、どうするか……答えは、『竜から邪魔をされることもなく、黙っていてもダメージを受けてしまう状況にゾーイを置く』、である。
さて、そんな場所がいったい……いや、ある。
ナザリックにおいて打って付けな場所が一つある……それが、宝物殿なのだ。
なにせ、宝物殿はナザリック内には有っても物理的に一切繋がっておらず、指輪による転移以外で出入りは不可能な場所にある。
つまり、邪魔が入らないわけだ。
しかも、宝物殿は『ブラッド・オブ・ヨルムンガンド』と呼ばれるアイテムによって、猛毒の効果をもたらす汚染された空気で満たされている。
このアイテムは、ユグドラシルにおいても最高級に位置付けされている。その効果は絶大で、毒無効を持たない者は瞬く間に毒の影響で死亡するほどだ。
そして……実は、ゾーイには毒耐性が無いので、毒によるスリップダメージが有効なのだ。
もちろん、スリップダメージの上限も低く定められているので、致命傷になどならないが……それでもなお、悟がこの作戦を選んだ理由が、もう一つある。
その理由とは……『調停の翼』と『ゾーイ』は同一の存在であり、HPが共有されている……というものであった。
そう、『調停の翼』が現れたことで1人と1体に増えるわけだが、HPが共有されているので、実際は『調停の翼』という名の攻撃手段が増えただけなのである。
なので、第二形態のこの時は両方を倒すのではなく、実はどちらか一方に一定以上のダメージを与えればOKなのである。
……まあ、それが簡単には出来ないからゾーイなのだけれども。
それに、この方法は安定性が無い。
いちおう、毒によるスリップダメージは直接的攻撃ではないので、ユグドラシルのシステム的には、行動停止が解除される事はないだろうが、そこではない。
安定性が無い理由は、ゾーイに掛けられた『星に願いを』……すなわち、行動停止状態が、この状況で切れてしまうと、だ。
マップクリエイトを使った意図的な行動妨害(その場から脱出できない閉鎖空間などに閉じ込める)、すなわち、システムを悪用した妨害行為と取られてしまうのだ。
で、そうなると、どうなるか。
いわゆる、通称『発狂モード』となる。
説明すると長くなるので省くが、要はギルドメンバー全員揃ってでも手が付けられない状態になってしまい……そうなれば、悟に勝ち目はない。
(頼むぞ、アルベド、セバス、コキュートス。スリップダメージで削りきれない分は、竜の方から削らなければならん……お前たちが頼りだ!)
兎にも角にも魔法が切れるまでの時間内に削りきらなければ…………その為に、悟はアルベドたちに新たな装備を与えた。
それは、今は居ないかつての仲間たちが残してくれた『神器級装備』。すなわち、悟が預かっていた仲間たちの装備である
これにより、アルベド達のステータスは飛躍的に向上している。
また、そのための人員も、守護者の中で最も攻撃力のあるコキュートス、攻撃力もあるし第二位の素早さを持つセバス、第四位の攻撃力を持つアルベドとなっている。
加えて、数に任せたデバフで、ステータスを下げたままを維持している。
これにより、守護者3名による息を合わせた連携も相まって、少しずつ……本当に少しずつだが、『調停の翼』の体力を削ることに成功し。
『──アインズ様! ゾーイの様子に変化あり! 間もなく魔法が切れる可能性大!』
『──直ちに戻せ!』
パンドラより報告が来たのと、それに対して指示を出し、受けたパンドラが素早くゾーイの手を取って転移したのは、ほぼ同時で。
突如──『地底湖』にて守護者たちと戦っていた『調停の翼』が鳴いたかと思えば。
元の場所に戻されたゾーイがハッと我に返るのと、素早く転身したパンドラがそこからさらに転移したのは、ほぼ同時で。
──行くぞ
己が何時の間にかダメージを受けている事に気付いたゾーイの下に、意志を汲み取った『調停の翼』が、雄叫びを上げながら急降下し──そして。
──蒼天の映し鏡たる我が剣にて、万象の憂いを断たん!!
カッ、と。
ひと際強い光がゾーイたちより放たれた直後にはもう、調停の翼と融合を果たした、調停者ゾーイが……いや、違う。
──断ち切る!!
ついに、世界の均衡を崩す存在を相手に本気を……『星晶獣ジ・オーダー・グランデ』へと成った彼女が、蒼天のように輝く剣を構え──それを見たコキュートスが、先に動いた。
『
コキュートスの背後に出現する、不動明王。ゴウっと放たれた力が、コキュートスの総身をギチギチと震わせる。
それを見た、ゾーイの刃が──コキュートスへと向いた。
『オポッジション』!!!!
白銀の如く光り輝き……振り払えば、それは目も眩むような光のエネルギーとなって──コキュートスの身体を一撃で両断した。
──それを見た瞬間、セバスはアルベドを蹴った。
本気ではないが、その威力は相当であり、アルベドの身体は瞬時に数十メートル後方に吹っ飛ばされ──そうして。
『アルベド、撤退しろ!』
『──っ!!!』
悟からの『伝言』を受けると同時に、アルベドは走りだし──その最中、見てしまった。
そして、凄まじい勢いで現れ始めた見知らぬアンデッドたちが、時間稼ぎをしているのを。
アルベドは……次から次へとこみ上げてくる涙を後ろに、只々足を動かして……悟の下へと走った。
よっしゃあ、HPを半分まで削ったぞ ← 素人きくうし
は? こっからようやく本番だろ ← 分かっているきくうし
え? 残り10%になってからでしょ? ← あたまおかしいきくうし