オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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ついに、終わりの時が来たようだな……


マルチバトル: Armageddon HL

 

 

 

 ──結論から述べよう。

 

 

 

『星晶獣ジ・オーダー・グランデ』に対する有効的な方法を、悟は見付ける事が出来なかった。

 

 

 いや、というより、現状のナザリックでは、対処する手段がないのが実情で……単純に戦力というか、リソースが足りないのだ。

 

 HP100%~75%までは、デバフ等でゴリ押しできる。ゾーイの攻撃力は危険度極大だが、わざわざゾーイに挑もうとするレベルのプレイヤーならば、全滅にはならないだろう。

 

 HP75%~50%までは、『ゴミカス竜』よりヘイトを溜められはするものの、プレイヤー同士の連携によって突破する事が可能である。

 

 

 では、HP50%以下はどうなるか? 

 

 答えは只一つ……圧倒的な蹂躙である。

 

 

 そう、これこそが『調停者ゾーイ』を倒すための第二の関門……攻撃性能の圧倒的強化である。

 

 

 まず、一撃ごとの攻撃範囲が広がる。

 

 

 それまで、あくまでの単体を対象にした攻撃に不可視の力が加わり、衝撃波となって攻撃範囲が複数体を対象にしたモノに変わる。

 

 これがまあ、恐ろしく厄介である。

 

 なにせ、それまではプレイヤーの腕前によって行えた、タンク役が順番にターゲットを引き継いでダメージを分散させるといった方法が出来なくなるのだ。

 

 これが出来なくなると、只でさえ忙しない後衛のアシストがほぼ確実に手が足りなくなる。その影響は、『ストラスファー』の比ではない。

 

 『ストラスファー』はクールタイムの延長だが、こっちは純粋に攻撃が全体化されているので……最悪、タンク役が一気に全滅してしまう状況を引き起こしかねないのだ。

 

 

 次に、ゾーイが使う技が変化する。

 

 

 光属性による圧倒的な全体攻撃『オポッジション』に、範囲に居る相手のHPを1(つまり、瀕死)にする『コンジャクション』。

 

 そして、直撃すれば如何な防御魔法やスキルでガードしようとも、100%の無属性ダメージを与える『レイストライク』。

 

 

 この三つの技によって、プレイヤーたちを次々に蹂躙していくわけだ。

 

 

 これがまあ、恐ろしいなんて言葉では収まらないぐらいに凶悪な攻撃なのだ。

 

 特に、プレイヤーたちを恐れさせたのは『レイストライク』……も大概だが、ヤバいのは『コンジャクション』と『オポッジション』のコンボである。

 

 なにせ、この『コンジャクション』。

 

 ゾーイの素のステータスが高いせいで、完全回避スキルや、それに準ずる回避スキルをタイミング良く発動しないと、ほぼ確実に食らってしまうのだ。

 

 そして、その直後に放たれる『オポッジション』。

 

 これのコンボにより、『コンジャクション』の有効範囲に居る相手は軒並み倒されてしまう。例外は、先述した回避スキル持ちだが……タイミングがシビアなので、失敗する事が多いのだ。

 

 もう、これだけでお腹いっぱいもいいところだろう。

 

 

 でも、これで終わりではない。

 

 

 ここから更に、『レイストライク』という名の通称『さよならストライク』によって、バトルから強制退場(復活出来ないので)をしてくる。

 

 普通に考えて、そんなのを相手にしようというのが間違い……なのだが、それでも、戦う以上はヤルしかない。

 

 

『デバフによる弱体化を継続し、デバフ部隊は全てアンデッドに統一せよ! いいか、アンデッド以外は足止めに徹しろ!!』

 

 

 そうして、悩みに悩み抜いて出した悟の結論は、だ。

 

 

 ナザリックの防衛機能による、アイテムに依存しない罠攻撃……つまりは、水滴で岩を開けるようなゴリ押ししかなかった。

 

 それしか無いのかと言われそうだが、既に攻撃用アイテムは底を尽いているので、それしか無いのだから、しょうがない。

 

 

 それに、この世界はゲームではない。

 

 

 ゲームであればHP1なんてHPゲージが赤色になるだけの話だが、この世界は……文字通り瀕死の状態、何時死んでもおかしくないという状態にさせられる。

 

 

 

 それがどういう事かって、具体的には動けなくなるのだ。

 

 

 

 冷静に考えてみれば、当たり前だ。

 

 HP1なんて、それこそ転んだだけでも息絶えてしまうような状態だ。当然ながら、瀕死に陥っている身体を、平時と変わらず動かせるわけがない。

 

 呼吸は乱れ、全身を襲う倦怠感はそのまま昏睡してしまいそうになるほどに重く、視界はかすみ、指一本動かすことはおろか、意識を保っていることすら……それが、瀕死だ。

 

 実際、過去に『コンジャクション』を食らった守護者たちは、一部の例外を除いて誰一人まともに身動きが出来る状態ではなくなったのだから、如何に恐ろしい技なのかが伺いしれるだろう。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 『コンジャクション』を受けてもなお、平時と変わらず動けるのは疲労無効のアンデッド種のみで。

 

 言い換えれば、アンデッド種だけが、『コンジャクション』に対して耐性を持っているわけだ。

 

 

『──報告! ゾーイの砲撃により、第4階層『地底湖』に眠る階層守護者のガルガンチュアが完全に崩壊──起動不可能となりました!』

 

『分かっている、そうなるのは想定の内だ!』

 

『──報告! ゾーイは第4階層を突破し、第5階層『氷河』へと突入! 配備されていた雪女郎(フロスト・ヴァージン)たちが一瞬で蹴散らされました!』

 

『『氷河』のフィールドエフェクトを最大限に引き上げろ! 微々たるダメージだが、進行も少しは遅らせられる!』

 

 

 それを、利用しない手は、悟には無い。

 

 悟の指示を受け、『氷河』の気温は限界まで瞬く間に下がってゆく。

 

 今、仮に耐性の無い者が入れば、10秒と経たずに凍り付くような吹雪が絶えず吹き荒れていた。

 

 

 ……けれども、ゾーイは止まらない。

 

 

 それを見た悟は、堪らず舌打ちを零し……続いて指示を送る。

 

 

『とにかく、ナザリックの建築物でも何でも使って、ゾーイを1秒でも長く『氷河』に引き留めろ! 『氷河』を瓦礫に変えてでもやるのだ!』

 

『──報告! ゾーイの砲撃によって、コキュートス様の住居である『大白球(スノーボールアース)』が粉砕されました!』

 

『かまわん! ニグレドは、既に下層へ避難しているな!?』

 

『──はい、既に9階層へ避難済み!』

 

『よし、継続してゾーイの情報を送り続けろ! 他の奴らは足止めし続けろ! 留めた時間が長ければ長い程、ゾーイの体力を削れる! 踏ん張るのだ!』

 

 

 悟は、アンデッド種の中でも、冷気に対して完全耐性を持つ『スケルトン系』を(残っているやつ)全て『氷河』に配置し、デバフと足止めに回した。

 

 何故なら、第5階層にいるやつらとは違い、第6階層に配備されたモンスターは機動力に優れた魔獣系と、機動力は弱いが範囲攻撃や魔法攻撃を主とする植物系(トレント)ばかり。

 

 物量に特化したデバフ部隊では、魔獣系の邪魔をするばかりか、植物系の範囲攻撃の巻き添えを食らってフレンドリーファイアとなるのがオチである。

 

 それに、第7階層『溶岩』では、フィールドエフェクトの影響によって、火に対して種族的弱点を抱えているアンデッドは活動出来ない。

 

 第8階層に至っては、様々な理由から、下手にデバフを掛けようと近づくことはおろか、戦闘に参加することすら難しいだろう。

 

 だから、『氷河』以降では非常に使い所が限られているので……悟の作戦では、ここでアンデッド部隊が壊滅するのも視野に入れられていた。

 

 

『──報告! ゾーイが進路変更! 進路予測……おそらく、『氷結牢獄』へと向かっている模様! どう致しましょうか!?』

 

 

 ──だが、しかし。

 

 

(氷結牢獄……っ!? わ、忘れていた、あそこにも人間がいたのを!)

 

 

 ここで、悟は……苦渋の決断を迫られた。

 

 

 『氷結牢獄』というのは、ナザリック地下大墳墓における牢屋のような場所である。

 

 

 おそらく、ゾーイが進路を変えたのは、近しい範囲に均衡を崩す存在……というより、邪悪だと判定される存在を捉えたからだ。

 

 まあ、牢屋とはいってもその外観はメルヘンチックな二階建ての洋館だが……内部は極寒の外部よりも寒く、ナザリックに敵対した者たちが収容されている。

 

 そして、ナザリックに敵対した存在というのは……だいたいが、極悪人に該当する者たちばかりだ。

 

 少なくとも、然るべきところに出せば極刑は免れない……というのを、静かに思い出していた悟は。

 

 

『……囮にせよ。それで、少しでも時間を稼げるならばな』

 

 

 そう、決断を下した。

 

 どんな理由があったにせよ、どんな経緯があったにせよ、あそこに収容されている者たちは全て、命を奪おうとした者たちだ。

 

 何様になったつもりはないが、私利私欲のために誰かの命を平気な顔で奪ってきたのだ。

 

 それが、今度は自分の番になっただけのこと。自分は奪うが、奪われるのは真っ平御免だなんて話は通らない。

 

 

(どうせ、俺も極悪人だ……共に地獄に落ちてやるさ)

 

 

 そう、骸骨の眼孔の奥で静かに己の罪を受け入れた悟を他所に、星晶獣となったゾーイの進路は、確実にそこへと向かっていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、『氷結牢獄』に居た全ての命を絶ち切ったゾーイは、再び進路を戻し……アンデッドたちを全て蹴散らし終えた直後、第6階層『大森林』へと突入した。

 

 

 

 ──瞬間、ゾーイは事前に張られた罠によって転移し……『大森林』の端っこへと移動させられた。

 

 

 

 いったい、どうして? 

 

 それはナザリックの構造上、第5→第6と、第6→第7への移動の為の転移門が、闘技場(コロッセウム)と呼ばれる同じ場所にあるからだ。

 

 なので、第6階層に入ると同時に移動させないと、そのまま第7階層へ下ってしまい……そうさせる意味が無い以上は取れる当然の手段であった。

 

 

(頑張ってくれ……少しでもいい、ゾーイの体力を削ってくれ……!!)

 

 

 ひとまず、ゾーイへの転移罠は上手くいったのをウィンドウ越しに確認した悟は……ただ、祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 ──ナザリック第6階層『大森林』には、残念ながらダメージを与えられるようなフィールドエフェクトは存在しない。

 

 

 

 ナザリック最大の敷地面積を誇り、広々とした緑が広がっている。そこは蠱毒の大穴や底なし沼を始めとして、多種多様の魔獣たちによって守られている。

 

 相手が普通の敵やプレイヤーであれば、広々とした空間と魔獣たちによって体力を削られてしまう危険地帯だが……ゾーイの前では、ほとんど無意味な妨害でしかなかった。

 

 

 しかし……悟も想定していない事が、一つ起こった。

 

 

 それは、『大森林』に配備してある魔獣たちは、今は亡きアウラが管理していた魔獣であり……その魔獣たちは、ゾーイの姿を目にするなり、とてつもない形相を浮かべて襲い掛かったのだ。

 

 もしかしたら、本能的に……あるいは、第6感的なナニカから、ゾーイが(アウラ)を殺した事を察したのか……それは、定かではない。

 

 

 なんにせよ、魔獣たちの猛攻は凄まじかった。

 

 

 『コンジャクション』によって瀕死状態にされても全く怯まず、仲間が殺されても欠片も闘争心が衰えず、通じないと分かっても攻撃し続けたのだ。

 

 おかげで、それが結果的にヘイト管理の役割を果たし、トレントたちによる範囲攻撃(遠距離攻撃)が、かなり命中する結果となった。

 

 

 ……もちろん、ゾーイも大人しく攻撃を受けていたわけではない。

 

 

 まるで『大森林』そのものが揺れるほどの魔獣たちの雄叫びも、時間が進むに連れて、はっきり分かるぐらいに小さく少なくなり。

 

 最後のトレントどころか、領域守護者と呼ばれる餓食狐蟲王(がしょくこちゅうおう)も瞬時に殺され、気付けば第6階層は火の海となり、跡形もなくなってしまっていた。

 

 

 ……そうして、第7階層『溶岩』へと突入を果たしたゾーイの進行速度は、まったく鈍らなかった。

 

 

 第7階層『溶岩』と呼ばれる場所は、空気そのものが赤い光を持ったかのような高熱の世界。

 

 紅蓮の輝きを灯す溶岩の川が流れており、『氷河』とは逆に、高熱から来る炎属性のスリップダメージをもたらすフィールドエフェクトがある。

 

 

 けれども、ゾーイはその程度では全く足を止めない。

 

 

 レベル80台の魔将たちを瞬く間に瞬殺し、この階層の守護者であったデミウルゴスの配下である『十二宮の悪魔』も、蠅を潰すかのようにあっさり殺された。

 

 自らの領域内であれば、守護者よりも強いとされる溶岩の川の領域守護者である超巨大奈落スライムの『紅蓮』も、『レイストライク』によって消し飛ばされた。

 

 ましてや、デバフ要員(当然、炎耐性を持っている)の悪魔たち、邪精、アンデッドたちでは足止めなど不可能であり、蟻の如く蹴散らされ……そうして。

 

 

 

(──来た。やはり、ここまで来た!)

 

 

 

 ついに、ナザリックの最終防衛ラインとされる第8階層『荒野』へ、ゾーイが突入してきた。

 

 

 ──第8階層『荒野』は、その名の通りの景色が広がっている。

 

 

 フィールドエフェクトはなく、特に罠も設置されていない。

 

 だが、それでも、この第8階層はナザリックの最終防衛ラインであり、ここを突破された時点でナザリック側の勝率がかなり低くなると言われている場所である。

 

 

 理由は、只一つ。

 

 

 この『荒野』には、かつて『ありえない! 違法改造だ!』とプレイヤーたちより抗議の声が上がるほどに強力な、ナザリック最強の存在が配備されているからだ。

 

 

 通称、『第8階層のあれら』。

 

 

 1500人からなる討伐隊を壊滅させた存在でもあり、ワールドアイテムを使用したアインズでも歯が立たない……切り札である。

 

 ……しかし、だ。

 

 

 

 いくら強力とはいえ、それだけでレベルカンストに達したプレイヤーたちが負けるだろうか? 

 

 

 

 これが全く情報の無いギルドならばともかく、『アインズ・ウール・ゴウン』はユグドラシルにおいてはよほどの初心者ではない限り知られている、超有名ギルドである。

 

 当然ながら、ギルドメンバーの情報は共有されていたし、その戦い方も広められていた。

 

 だから、突入したほとんどの者は、『あいつらの事だから、様々なトラップを設置しているに違いない』と、様々な対策を用意していた。

 

 実際、ナザリックの最終防衛ラインである第8階層まで攻め込まれたあたり、『アインズ・ウール・ゴウン』はかつてない程の危機に直面していたのは間違いなかった。

 

 

 ……だが、それでもなお、8階層を突破出来た者は数少なかった。

 

 

 それは、いったい何故か? 

 

 

 

 答えは、『第8階層のあれら』だけではない。この階層の守護者である、『ヴィクティム』と呼ばれるNPCの存在が理由であった。

 

 

 この、ヴィクティムという名のNPC。

 

 外見は、体長1m前後の胚子(人間の)。

 

 

 明るいピンク色の肌に尻尾が生えており、頭上に天使の輪、背中には羽の無い翼が生えていて、飛んで移動する。

 

 ナザリックのNPCらしくグロテスクな外見ではあるが、このヴィクティム……その真価を発揮するのは戦闘力でも無ければデバフでもない。

 

 

 ヴィクティムの真価は、死ぬことにある。

 

 

 死ぬことで発動する強力な足止めスキル……それこそが、ヴィクティムに備わった唯一かつ最大の攻撃なのだ。

 

 そして、その足止めスキルの効果を最大限に発揮出来る場所。

 

 それこそが、『第8階層のあれら』と呼ばれる存在がいる、ここであり……姿を見せたナザリックの切り札たちを前に、ゾーイが一旦足を止めた──その瞬間。

 

 

『         』

 

 

 ゾーイへと接近していたヴィクティムが、不可思議な呟きと共に、抱えていたアイテムによって自死した──直後。

 

 ビシッ、と。

 

 前触れもなく、いきなりゾーイが動きを止めた。

 

 

「──合わせろ、オーレオールオメガ!」

 

 

 瞬間、ウィンドウ越しにタイミングを見計らっていた悟は……己の腹部に装備しているワールドアイテム(通称:モモンガ玉)の珠玉(しゅぎょく)を発動する。

 

 様々な用途があるこのワールドアイテムは、『第8階層のあれら』と併用して使う事が出来るアイテムである。

 

 加えて、指揮官としての能力を持つオーレオールオメガによる、『第8階層のあれら』に対するバフ。

 

 指示通りに8階層まで撤退していたオーレオールオメガによって、持てる力を最大限……いや、120%以上の力を発揮した切り札たちが。

 

 

 その身に宿る全てのエネルギーを、開放した。

 

 

 それはもはや、噴火という言葉がふさわしいのかもしれない。まるでこの世の終わりが迫って来ているかのような、圧倒的な暴力の風。

 

 目も眩むような光と、腹の底まで響いてくる爆音。そして、ビリビリとナザリック全体を揺るがすほどの振動が、悟の下にも届くぐらいであった。

 

 

(ここで──倒れてくれ!)

 

 

 人間であったならば、直視すら困難な光をウィンドウ越しに見つめながら……悟は、祈る。

 

 

(押し切ってくれ! 削りきってくれ!)

 

 

 何故ならば──ここを突破されてしまえばもう、後がないからだ。

 

 

 第8階層がナザリックの最終防衛ラインというのは、謙遜ではない。

 

 いちおう、最後の最後……『玉座の間』へと通じる、半球状のドーム型の部屋『ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)』に、『レメゲトンの悪魔像』という防衛ゴーレムがある。

 

 他にも、罠が一つと、1体だけ……強力なNPCが残ってはいる。

 

 けれども、仮にここでゾーイを仕留め損なった時……そうなってしまった時のゾーイの前では、もはやどちらが揃っても、足止めにすらならない。

 

 

 つまりは、事実として、もうナザリックにはゾーイに対抗できる余力がほとんどないのだ。

 

 

 既に、宝物殿にあるアイテムは片っ端からユグドラシル金貨に替え、防衛システムへと回している。しかし、8階層より下には罠はほとんど設置されていない。

 

 攻撃系のアイテムは底を尽き、新たに用意する時間はない。というか、時間はあっても、この世界の道具で高威力のアイテムを作る技術はまだ、開発されていない。

 

 

 そして、まともに戦える戦力も、数えられる程度にしか残っていない。

 

 

 玉座に構えている悟はレベルダウンをしているし、NPCのアシストを行う為にこの場を離れているパンドラも、素のステータスは弱い。

 

 他には、第9階層『ロイヤルスイート』にて回復処置が成されているアルベドぐらいだが……それとて、万全の状態ではない。

 

 ましてや、第9階層に控えているペストーニャ率いるメイドたちでは、蟻の如く踏み潰されるように蹴散らされて終わるだろう。

 

 

(頼む──頼む、どうか──!!!)

 

 

 だからこそ、祈るしかないのだ。

 

 もはや人間ですらない悟は、心から祈った。このまま命尽きても良い……だから、己と一緒に、ここで朽ち果てろ……と。

 

 

 

 ──認めよう

 

 

 

 だが、しかし。

 

 

 

 ──お前たちは、世界の敵だ

 

 

 

 そんな悟の……たった一つの祈りも。

 

 

 

 ──これにて、混沌に終焉を告げん

 

 

 

 見た事もない神の耳には……届かなかった。

 

 

 

 ──天地万物終焉の落暉(らっき)!! 

 

 

 

 気付いた悟が、少しでも被害を抑えようと指示を送った。

 

 

 

 ──明けぬ極夜の贄となれ!! 

 

 

 

 だが、その程度でどうにかなるような威力ではなく。

 

 

 

 ──ガンマ・レイ!!! 

 

 

 

 空間が歪んで見えるほどの力を立ち昇らせたゾーイより放たれた、全体無属性攻撃。

 

 それは、天から降り注ぐ雨のように撃ち込まれていた攻撃を一瞬で呑み込み、それ以上の力となって。

 

 『第8階層のあれら』を、そして、遠く離れた位置より隠れ潜んでいたオーレオールオメガすらも、瞬時に炭化させるほどの……調停の一撃であった。

 

 その攻撃は、文字通りナザリックそのものを揺らした。思わず、玉座にて悟がふんばったぐらいに。

 

 おそらく、上の9階層ではメイドたちが悲鳴を上げているだろう。今の攻撃で、パンドラが無事かどうかすら、確認出来ない。

 

 

 

 ──さあ、共に終末へ向かおう

 

 

 

 けれども、今の悟にはそれらを気にする余裕などなかった。

 

 本当の意味で荒野となった、第8階層の……その中で。

 

 

 

 ──これが、終焉の鐘の音だ

 

 

 

 世界に終焉をもたらす調停者が……ついに、全ての力を開放した調停者が、進行を再開させたのだから。

 

 

 

 




もうすぐ完結です
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