オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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ジ・オーダー・グランデ

 

 

「がっ──!?」

 

 

 おそらく、ヤルダ──名前を彼女は聞いていなかったので分かっていなかったが、想定外の事態だったのだろう。

 

 あるいは、甘く考えていた結果なのかはさておき、仮面越しでも分かるほどに、漏らした声には苦痛が滲んでいた。

 

 しかし、それでも人外の生命力がもたらすモノなのか。

 

 仮面の彼は、背中より翼を瞬時に伸ばす。バサッと広げた直後、その身体はハヤブサよりも速く夜空の彼方へと飛んだ。

 

 だが……それで、彼女から逃げ切れるかといえば、彼女が手を緩めるかといえば、そんなわけもない。

 

 

「──消えろ」

 

 

 蒼き剣を構えた──その直後、瞬時にぐにゃりと刀身が揺らいだかと思えば、銃へとその姿を変えた。

 

 

 これは、『ゾーイ』が持つ能力の一つである。

 

 

 その意思に応じて自在に形を変えるモノであり、槍にも弓にも斧にも……必要とあれば、ブーメランにも銃にもなるのだ。

 

 そう、『ゾーイ』は最も剣を得意(曰く、扱いやすいらしい)としているが、別に剣として固定されているわけではない。

 

 なので、必要となれば……如何様に形を変え、追撃を可能としている。

 

 放たれる弾丸は、その身より充填されるエネルギー。

 

 つまり、体力切れを起こさない限り、弾切れとは無縁の……レーザービームなのだ。

 

 それが、連射される。

 

 一発でも直撃すれば、致命的なダメージ、落下は確実なほどのエネルギーが込められた、レーザービームを。

 

 

「くっ!?」

 

 

 まっすぐ逃げれば、予測射撃によって直撃してしまう──そう認識すると同時に、広げられた翼の片方が抉られた。

 

 

 ──おそらく、万全の状態であったならば。

 

 

 弾切れとは無縁だが、打ち出したレーザーは一定より加速しないので、腕の角度と向きさえ先読み出来れば、避ける事は可能であった。

 

 

 けれども、ヤルダ──名をヤルダバオトは、それが出来ない。

 

 

 只でさえ、両足を落とされたことによる大出血に加え、伝わる激痛によって繊細さを欠いてしまっている。

 

 加えて、機動性を確保していた翼を片方やられてしまった。飛行魔法を代用して凌いでいるが、機動力までも落ちている。

 

 辛うじて……猛追する攻撃をギリギリのところで避けられているが……撃ち落とされるのも、時間の問題──故に。

 

 

「悪魔の諸相(しょそう):『触腕(しょくわん)の翼』」

 

 

 ヤルダバオトは、反撃した。倒せるとは、欠片も思っていない。

 

 ただ、僅かばかりでも隙を作り、逃げ惑い混乱する人々を盾にしながら逃げようと考えたのだ。

 

 

「隔絶せよ、極彩色の結界!」

 

 

 ──が、駄目。

 

 

 残された片方の翼を使って放った反撃も、彼女の防御技の一つである『プリズムヘイロー』を発動させたことで、無意味となった。

 

 七色に薄く輝く光が彼女の全身に広がった──直後。

 

 ヤルダバオトの翼より飛び出した、蠢く弾丸……翼を構成する、触手のような羽の全てが……彼女の身体をすり抜けてしまったのだ。

 

 

「な、なにぃ!?」

 

 

 これには、放ったヤルダバオトも思わず動きを止めた。

 

 避けるのでもなく、跳ね除けるのでもなく、結界を張って受け止めるのでもなく、攻撃そのものがすり抜けるという初めての現象に、一瞬ばかり思考がフリーズしたのだ。

 

 

「──滅する」

 

 

 そして、当然ながら……動きを止めた敵を前に、ぼんやり突っ立っている彼女ではない。

 

 一か八かの体勢で反撃したが故に、放たれたレーザーを避ける事など出来るわけもなく、「がぁ!?」残された翼も風穴を空けられて墜落し、鈍い悲鳴を上げて石畳の上を転がった。

 

 

 ……僅かな攻防を経て、勝敗が決した。

 

 

 ごふっ、と。

 

 

 仮面の隙間より、血反吐を零したヤルダバオトは、なおも逃げようと身体を起こし、這いずる。

 

 それを見て……彼女は無言のままに銃を……蒼き銃を構えると、その背中に向かって引き金を──っ!? 

 

 

 

 

 ──その時であった。

 

 

 

 

 ヤルダバオトと彼女との間に、一本の巨大な剣が突き刺さったのは。

 

 それは彼女の腕よりも太ももよりも厚くて重く、ズドンと石畳をめくり上げるほどの威力であり。

 

 

「──その戦い、一時待った!」

 

 

 少し遅れて、全身鎧にて身を護った──冒険者モモンが降り立った。剣以上に石畳を捲らせたおかげで、フワッと砂埃が舞い上がった。

 

 おそらく、飛行魔法(あるいは、マジックアイテム)を使用してやってきたのだろう。

 

 石畳に突き刺さった巨大な剣を抜き取り、合わせて、所持しているもう一本の剣を抜いて……両手の剣を、ヤルダバオトと彼女(ゾーイ)の両方へと向けた。

 

 

 

 ──お、お前は……もしや、漆黒の英雄モモンか!? 

 

 

 

 彼女の後方にて、呆然と成り行きを見守るしかなかった仮面の子供が、驚愕の声を上げる。

 

 

 ……改めて聞いたが……声色から考えて、中身は女の子だろうか? 

 

 

 少々、彼女は……仮面の少女について気になったが、けれども、それだけだ。

 

 この場において、仮面の子は部外者である。当事者ではあるのだが、実力が隔絶し過ぎているが故の、部外者であった。

 

 なので……ジロリと眼前の……ヤルダバオトを護るようにして立ち塞がるモモンを見やった彼女は、尋ねた。

 

 

「何のつもりだ、モモン。見れば分かるだろう、そこにいるやつは、敵だ。理解したならば、退くがいい」

「そうしてやりたいのは山々だが……そうも言っていられない状況なのだ」

「……なんだと?」

 

 

 どういう事かと尋ねれば、「うむ、これは先ほど分かった事なのだが……」モモンは大きくため息を吐いた後で……語り出した。

 

 

 曰く──ヤルダバオトは、事前に王都の女子供を合わせて最低500人近くを(確認が取れた限りでは)攫い、それを人質として捕らえている可能性があるというのだ。

 

 

 原因は、ヤルダバオトが事前に王都中に放ったとされる、数々の魔物たち。総数は不明で、現在も騎士たちが総出で対処に動いているとのこと。

 

 それ自体は、いずれ掃討されて終わるという話だが……問題なのは、攫われた者たちの行方だ。

 

 魔物たちはどれも人語を理解しておらず、その為に、ヤルダバオトが死んでしまうと、攫われた者たちの行方が分からないままに終わってしまう。

 

 食糧にするためか、弄んで楽しむ為に行ったのかは不明だが……その者たちを助けたいと、モモンは語った。

 

 

「それに、俺はこの悪魔とは因縁がある。故に、この悪魔に攫われた者たちが辿る末路を知っている」

「…………」

「ただ、殺されるだけならマシだ。そのほとんどは、長く苦しんだ後で惨い死に方をする」

「…………」

「だから、ヤルダバオトを殺すのは少し待ってくれ。全員は無理でも、少しでも無事な者を助け出してやりたい……この通りだ!」

 

 

 ──深々と。

 

 

 モモンは、彼女に向かって頭を下げた。

 

 

「──も、モモン殿! しかし、それは……!」

 

 

 それを見て、ようやく我に返って……慌てて駆け寄ってきた……途中で彼女に阻まれた仮面の子供……いや、少女が声を荒らげる。

 

 

 少女の言い分は、尤もである。

 

 

 ここで500人の女子供を助けるのは、確かに重要であり大切な事だ。少女も、本音では助けてやりたい。気持ちは同じだ。

 

 だが、ここで万が一取り逃がせば、被害は500人では済まない。その倍、3倍、4倍……いや、それ以上の犠牲者が出て来る可能性が極めて高いのだ。

 

 

「……分かっている! 分かっているのだ、俺も……しかし、だからといって攫われた女子供たちを見捨てるなど……俺には出来ないのだ!」

「モモン殿……気持ちは分かるが、しかし……」

「言われずとも、分かっている。しかし、貴女とて身近の大切な者たちが同じ立場になったら……同じことを言えるのか?」

「そ、それは……」

「間違っている事を言っている自覚はある。御咎めは後で幾らでも受ける。これまでの功績も名誉も、全て捨てる……頼む、俺に攫われた者たちを救うチャンスを……頼む!」

「し、しかし、だな……」

 

 

 ──チラリ、と。

 

 

 

 仮面の少女の視線が、彼女へと向けられる。合わせて、ヘルム越しにモモンの視線が彼女へと向けられる。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………沈黙が、続いた。

 

 

 その間、ヤルダバオトはその場を動こうとはしなかった。

 

 下手に動けば、彼女の心証を悪くするとでも思ったのか、それとも動く気力が無かったのか……それは、当人以外誰にも分からない。

 

 ただ、傷口より噴き出す出血が石畳を濡らしてゆく。フウフウ、と……荒く乱れた呼吸が、沈黙の中に広がる

 

 傷口こそ治ってはいないが、常に血液を製造し続けているのか、その量は明らかに人間ならば致死量にまで達している。

 

 それでも絶命せずにいられるのは、人外だからか、それとも別の理由か……さておき、彼女は沈黙を続けるだけで、何も言わなかった。

 

 

「……ゾーイ殿!」

 

 

 その中で、何時までも沈黙する彼女の態度に、焦れたモモンが声を荒らげた──瞬間。

 

 

「──なっ!?」

 

 

 無言のままに銃口をモモンへ向けた彼女は、そのまま引き金を引いた。

 

 想定外の事態だったのだろう。

 

 辛うじてモモンは剣でレーザーを受け止めたが、おかげで剣は根元から砕け散り、その勢いのままモモンはたたらを踏んだ。

 

 これには──誰もが驚き、言葉を失くした。

 

 息も絶え絶えなヤルダバオトもそうだが、攻撃を受けたモモンも絶句し、背後で見守るしかない少女もポカンと呆けて……そんな中で。

 

 

「その、見るに堪えない猿芝居で時間稼ぎのつもりか?」

 

 

 ゾッとする程に冷たく……彼女を知る者が聞けば、思わず背筋を伸ばしてしまう程に張り詰めた声色に……誰もが、ギクッと身体を固くした。

 

 

「じ、時間稼ぎだと?」

 

 

 とはいえ、やはりというか……誰よりも早く我に返ったモモンが、困惑した様子で身動ぎをした。

 

 

「モモン……世界の均衡を乱す可能性がある存在を、私は始めから分かっている……それが、おそらく『調停者』というやつなのだろう」

 

 

 けれども、そんな芝居は……いや、彼女にとっては芝居にしか見えないその姿を見て、ますます声を冷たくさせた。

 

 

「私には、分かるのだ。以前よりも、それがよく分かる。今のお前のその言葉に、真実は半分も無い。何故なら、お前は……そこの悪魔とは身内なのだろう?」

「──な、何を」

 

 

 心底驚いた様子を見せるモモン。

 

 その声色も、仕草も、明らかに嘘は感じられず、「……どういうことだ?」仮面の少女は困惑するしか出来なかった。

 

 

「──攫われた女子供が居るのは事実だ。だが、お前はその者たちを助けたいとは欠片も考えていないし、そもそも、死んだところで、勿体無いな……という程度にしか思っていないのだろう?」

「違う、俺はそんなことは……」

「あくまでも、ヤルダバオトを助けたい。ここに降りて来たのも、そいつが殺されそうになって我慢出来ず……それが、お前の本心だ」

「ま、待ってくれ、何か盛大な勘違いを……」

 

 

 反論しようとするモモンを、彼女は首を横に振って拒否した。

 

 

「モモン……残念だ。『エ・ランテル』でのあの時……あの時のお前は、確かに英雄だった。胸を張っていい、目的は何であれ、お前は胸を張れることをした」

「ゾーイ殿、俺の話を──」

「だが、今のお前は違う。今のお前は英雄でも何でもない。英雄の皮を被った怪物だ──故に、お前に尋ねよう」

 

 

 そこで、言葉を切った彼女は……改めて、モモンを……そのヘルムに隠された奥を、睨んだ。

 

 

「今のお前は、人の心を持った怪物か? それとも、人間だったという記憶を抱えた怪物か?」

「え?」

「お前は、人間として、人を護る為にそこに立っているのか?」

 

 

 その言葉と共に……彼女は、蒼き剣を握り締める。

 

 

「私は、人の側に立った。友が、私を人として引き留めてくれた。お前は、どうなんだ? お前の心は、人のままなのか?」

「…………」

「答えろ、モモン。お前は、人のフリをした怪物か? それとも、人であろうとする怪物か?」

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………モモンは、答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 その事実に……自然と、仮面の少女はモモンから距離を取って、ゾーイの背後に隠れるように身を低くした。

 

 考えるまでもなく、当然だ。

 

 部外者だとしても、怪物かと問われて返事に時間を掛ける時点で、普通は警戒心を抱く。

 

 

(まさか……この女性は、六大神が残したとされる書物に記されていた……『調停者ゾーイ』なのか!?)

 

 

 それに、仮面の少女は……声こそ漏らさなかったが、薄々と……『ゾーイ』とモモンが呼んだ女性に付いて、思い当たる節があった。

 

 詳細は省くが、仮面の少女にも秘密がいくつもある。

 

 たとえば、少女もまた、モモンと同じく人外であること。実年齢は百歳をゆうに超えていて、一般人よりも歴史に関して詳しいこと。

 

 そして、様々な要因から、その知識の中には、だ。

 

 かつて人類を護り導いたとされる『六大神』に関する事と……その『六大神』たちが住まう世界にて、絶対的な存在とされていた『調停者』について……少しばかりあった。

 

 

 

 ──『調停者ゾーイ』。

 

 

 

 その詳細を知る者は、もう居ない。

 

 現存する貴重な資料にも、『調停者ゾーイ』に関する記述はそれほど多くはないうえに、何度か書き直されたことで失われてしまった部分が幾つかあるとされているからだ。

 

『六大神』が存命だったとされる時代より生きる者たちですら、『調停者ゾーイ』に関する知識は資料のソレとあまり変わらないことから、如何に謎に包まれた存在かが窺い知れるだろう。

 

 

 ……そんな存在について、少女が知っていることは一つだけ。

 

 

 それは、とにかく強いということだ。

 

 その力は『六大神』を軽く凌駕するばかりか、かつて世界を支配していたドラゴンたちのほとんどを滅ぼし、ドラゴンの時代を終わらせた『八欲王』すらも正面からは挑まなかったとされている。

 

 

 それが──『調停者ゾーイ』なのだ。

 

 

 現在では、御伽噺特有の誇大表現と一般的に思われ(歴史家の間でも、大半からはそう思われている)ているが、事実は違う。

 

 少なくとも仮面の少女……周囲より、イビルアイと呼ばれている少女だけは……それは事実なのだと教えられていたし、今日この時、確かな事実だったのだと確信していた。

 

 

 ──なにせ、実際に目の前で、ヤルダバオトを一瞬のうちに瀕死の状態にまで追い込んだのだ。

 

 

 自分では手も足も出せないどころか、注意を逸らすことすら出来ないほどの力の差……化け物の中の化け物だと、心から怯えて足が竦んでしまった相手を、アッサリと。

 

 

(漆黒の英雄モモンが……化け物だと? ということは、ヤルダバオトの仲間が、人間のフリをして人間社会に潜入しているというのか!?)

 

 

 それは──信じ難く、同時に、背筋が凍りつくほどに恐ろしい推測であった。

 

 

 何故なら、英雄モモンは……現在、冒険者たちの間でもごく少数しかその称号を与えられていない、最高ランクの冒険者だ。

 

 既に、人間社会において名が知れ渡り、冒険者モモンと名乗るだけで歓迎してくれる上流階級がいるぐらいに、その人気は高い。

 

 

 ……そんな存在が、本当は人の命など数字でしか見ておらず、ヤルダバオトとグルなのだとしたら。

 

 ……目の前で泣き叫んで命乞いをする女子供を、そのまま怪物の口の中へ放り込んでも欠片も心が動かない者だとしたら。

 

 

 それは……想像するだけでも腰が抜けてしまいそうになる……最悪の想像でもあった。

 

 

 だが……そんな最悪の中に、一つだけ希望があった。

 

 

 それは、『調停者ゾーイ』が味方に付いていてくれているということ。

 

 この場において、無力な己ではどうにもならず、戦えば成す術もなくアッサリ殺されるのは理解していた。

 

 

 だが、しかし……それは同時に、だ。

 

 

 最後の希望とも言える調停者が、最悪の前に立ち塞がってくれるおかげで……イビルアイは、己が恐怖に震えずにいられることを自覚していた。

 

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 ──そうして、言葉にし難い奇妙な緊張感によって、誰もが次の言葉を発せない……そんな中で。

 

 

「……『沈黙』、それがお前の答えだな。ならば、私は受け入れよう……数多の死を背負う事を」

 

 

 彼女だけが……この場を支配する彼女だけが、ハッキリと結論を出した。

 

 

「待て、話を──」

「聞く必要はない──来たれ! 調停の翼よ!!」

 

 

 もはや、問答は無用──そう言わんばかりに、彼女は蒼き剣を頭上へ掲げた──瞬間。

 

 何も無い夜空の空間より──一体の竜が、まるで夜の闇より抜け出て来たかのように、出現した。

 

 それは、あまり大きくはない。サイズだけを見れば、ドラゴンではなく、ワイバーンといった感じだろうか。

 

 しかし……この場に居る誰もが、その竜を見た目通りには受け取らなかった。

 

 

「──っ! ま、マズイ!!!」

 

 

 特に、モモンだけは。

 

 もはや隠すのは無駄と判断したのか、ヤルダバオトに向けていた剣を彼女へ向け、一気に迫って巨大な剣を振り上げた──それが、モモンの出した結論であった。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 そして、その結論を──彼女は、一太刀で振り払い、逆にモモンをヤルダバオトへの射線上から彼方へ飛ばした。

 

 

 彼女にとって、モモンのその行動は……自らの刃を振るうには……人の側へ立つと決めた彼女にとっては、十分過ぎる理由であった。

 

 竜が、地響きと共に彼女の背後に降り立つ──合わせて、彼女の身体がふわりと浮きあがり──稲妻が如き光と共に竜の頭部へと彼女の下半身が融合し。

 

 

「──蒼天(そうてん)の映し鏡たる我が(つるぎ)にて、万象(ばんしょう)(うれ)いを断たん!」

 

 

 今、この時──星晶獣『ジ・オーダー・グランデ』の姿となった彼女は──自らの力を開放する。

 

 ──『レイストライク』! 

 

 

 それは、無属性100%のダメージを与える、必殺の一撃。彼女と同化した『調停の翼』より放たれる、膨大なエネルギーの放光。

 

 両足を切り落とされ、翼も穴だらけにされ、大量出血によって消耗したヤルダバオトに……逃げる術など、あるはずもなく。

 

 

 ──ま、待て!! 

 

 

 飛ばされ離されたモモンが、石畳を凹ませる勢いで接近してくるが──全ては、遅かった。

 

 

「     」

 

 

 迫り来る必殺の光を前に、仮面の向こうでどんな表情をしていたのか……誰にも分からないままに、その直撃を受けたヤルダバオトは。

 

 

「────っ!!!!!!!」

 

 

 瞬時に、光の中へその姿を消して……砕け散り爆発する広場、轟音と、モモンの叫びが混ざり合い……大きく生じたクレーターと、立ち昇る砂埃……その、後で。

 

 

「……さぁ、共に終末へ向かおう」

 

 ──『フェイトルーラー』! 

 

 

 呆然と項垂れるモモンの眼前に……彼女は、悠然と降り立ったのであった。

 

 

 

 

 

 




元々、石橋を叩いて渡る慎重派の下っ端会社員が、いきなり命運を左右する選択肢を出されて100%グッドコミュニケーションできるわけないんだよなあ・・・



ちなみに、この話にて登場した技のユグドラシルイメージ

プリズムヘイロー → 幻影効果、2ターン100%ダメージカット
ユグドラシルでは、一定時間全ダメージ100%無効化? な感じで

レイストライク → 無属性100%ダメージ、4人目のキャラに攻撃。体力0になった場合、復活不可
ユグドラシルでは、リアル時間で一定期間復活不可。別名、お休みストライク(ちゃんと寝ろよ!)

もう一度言おう、レイストライクは、復活不可である。はたして、この世界ではどのような感じに……なるのかな?

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