オーバーロード 降臨、調停の翼HL(風味)   作:葛城

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運命の歯車がこの日、ズレた

 

 

 

 ──ユグドラシルにおける、星晶獣『ジ・オーダー・グランデ』(以後、ゾーイ)戦において重要なのは幾つかあるが、とにかく大事なのは数だ。

 

 

 力技で押し切るにしても、とにかく物量を用意しておかなければならない。

 

 何故なら、ゾーイのHPは非常に高く設定されており、高ランクプレイヤーですら、少数では削り切る前に体力切れで押し切られてしまうからだ。

 

 そして、単純に数だけを用意しても意味がない。

 

 その中に1人でもLv.100プレイヤーが居れば、その時点で『対ゾーイ戦HL』に移行してしまうからだ。

 

 それは、仮に途中でLv.100プレイヤーが死亡したとしても、変わらない。

 

 故に、モモンは……本来であれば入念な準備を終えた後で、ギルド単位で挑む必要がある相手と……正面から戦わなければならない事態になった。

 

 

「滅する!」

「──くっ!?」

 

 

 我に返ったモモンは──残った剣を盾に、ゾーイの斬撃を受け止める。

 

 しかし、体勢が悪いうえに武器の質が劣っていたが故に、モモンの身体は宙を舞い──剣は粉々に砕けた。

 

 

 その隙を……ゾーイは見逃さない。

 

 

 蒼き剣を頭上へと掲げれば、ひと際強く輝き──それは夜空を突きぬける光線となって、モモンへと天より降り注いだ。

 

 武器を失ったモモンに、それを防ぐ手立てはない。

 

 地面を転がり、駆け抜け、走り抜けるが……一発、二発、三発と、光線が直撃するたびに、その身を覆う漆黒の鎧に穴が空いた。

 

 本来、この光線は対多数を想定した連続攻撃だ。

 

 それを1人に集中して放たれれば、熟練の戦士であっても直撃を避けられない密度となり──体勢を崩したモモンは、そのままの勢いで石畳を削りながら転がった。

 

 

 ──状況は、圧倒的にモモン……いや、モモンガにとって不利であった。

 

 

 それは、単純にレベル差だけの問題ではない。

 

 モモンガはアンデッドである己の正体を隠す為に、剣士(素手でも戦えるので、戦士?)の姿をしているが……本来は、魔法使いだ。

 

 より正確に言えば、魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)。それも、死霊系に特化している尖ったステータスとなっている。

 

 

 ちなみに、今の姿は魔法を使って得ているモノだ。つまり、急ごしらえ。

 

 

 加えて、剣を使った近接戦闘は本来不得意であり、そもそも、そういう戦いを想定した技術も持っていない。

 

 これまでモモンガが戦ってきた相手は、それでも十二分に対応出来るほどの力の差があったからこそ何とかなっていたが……今は違う。

 

 とてもではないが、只でさえ圧倒的な力の差が生じているこの状態で剣士として戦うのは、自殺行為以外の何者でも無かった。

 

 

 ……だが、しかし。

 

 

 それを理解していても、モモンガには……本来の力を発揮できる、魔法詠唱者の姿を取らない(戻らない)理由があった。

 

 

「──アインズ様!」

 

 

 それは──っと、その時であった。

 

 体勢を崩したモモンガの前に出現する、半球体の闇の扉。

 

 その奥より飛び出してきた全身鎧を身に纏った(声からして、中身は女)女が、構えた漆黒の盾によってゾーイの光線を止めた。

 

 

「──アルベド!? 何故出てきた!」

「お叱りは後で! 今は早く転移門(ゲート)へ!」

 

 

 鎧女の名は、アルベド。

 

 ナザリック地下大墳墓の全NPCの頂点であり、ナザリックの守護者たちを統括している、防御に特化したステータスを保持している。

 

 

 その役目は、王を護ること。

 

 

 ナザリックにおいて最も高いHPと防御力を誇るアルベドにとって、ナザリックの王であるモモンガが危機に陥った状況を放置するわけがなかった。

 

 

「──断ち切る!」

 

 ──オポッジション! 

 

 

 けれども、相手が悪かった。

 

 ゾーイの振り上げた蒼き剣が光を帯びたかと思えば、振り抜かれ──それは、白銀の光輝く刃となって、アルベドのみならず、その背後に居たモモンガにも多少なりダメージが通った。

 

 とはいえ、それは行動不能になる程ではない。せいぜい、ゲートから離れたところへ吹き飛ばされただけである。

 

 

 モモンガが万全の状態であったならば、だ。

 

 

 構う事なくゲートへ向かい、逃げ去ったかもしれない。

 

 あるいは、ゲートより戦力をこちらへ補充したかもしれない。

 

 

(──はあ、はあ、はあ!)

 

 

 けれども……今のモモンガは、恐怖を覚えていた。おそらくそれは、この世界にやってきて初めて感じた、死への明確な恐怖であった。

 

 何故なら、アルベドはナザリックで最も強固なNPCだ。

 

 その防御力を、モモンガは良く知っている。だからこそ、その防御力を持ってしても己の身へと届く事実に……恐怖を覚えた。

 

 

 そう、そうなのだ。

 

 

 これまでモモンガは、この世界に来て『敵』の存在を警戒し、NPCに失望されて殺されるかもしれないという想像の恐怖に怯えることはあった。

 

 だが……ここまで強烈な敵意をぶつけられ、まっすぐに死を突きつけられたのは……それこそ、生まれて初めての事だった。

 

 アンデッド特有の精神抑制により、怯え高ぶった心はすぐさまフラットに戻される。直後、急上昇し、またフラットへ。

 

 ジェットコースターのように精神が上下に揺れる。それは、ある種の強烈な不快感となって、モモンガの足を止めてしまった。

 

 

(こ、殺されるのか、俺は!?)

 

 

 結果、この時、この瞬間。

 

 魔王ロールで支配者ぶり、オーバーロードでありナザリックの長として表に立っていたモモンガの心に、初めて『鈴木悟』の面が強く出た。

 

 『鈴木悟』の部分が消え去り、オーバーロードのモモンガだけになっていたら、こうはならなかった。

 

 

 今はもう戻れない昔を懐かしむからこそ。

 

 去って行った友人たちを想う心がまだ、残っているからこそ。

 

 その事に複雑な悲しみを抱き、過去へ流せない未練を抱え続けているからこそ。

 

 

 ただの人間で、命の奪い合いなどしたことがない。優柔不断で引っ込み思案なところがあるけれども、善良な一般市民の『鈴木悟』が……初めて、『モモンガ』を上回ったのであった。

 

 

「──がっ、ぐっ!?」

 

 

 果たして、どちらが先だったのか。

 

 その瞬間──モモンガ……いや、『鈴木悟』は、己の身を襲う正体不明の苦痛に堪らず呻いた。

 

 

(これは……まさか、先ほどの『フェイトルーラー』か!? まさか、アンデッドの耐性と装備の耐性を上回るのか……っ!?)

 

 ──『フェイトルーラー』。

 

 

 ユグドラシルにおけるその効果は、敵対した相手に『ワームホール』というデバフを付与し、付与されてから一定時間後にランダムで弱体化が掛かるというものだ。

 

 ランダムなので、どのような弱体化が掛かるかは分からない。アンデッドと装備がもたらす耐性を考慮すれば、どのような弱体化が掛かったかは予測出来るが……あくまで、予測の域だ。

 

 ユグドラシルにおいては、他のデバフと同じく一定時間が経過すれば自動的に解除されるが……少なくとも、この戦闘中は──あっ! 

 

 

「──アインズ様、早くナザリックへ!!」

 

(しゃ、シャルティア!?)

 

 

 視界の端で、赤いナニカが通り過ぎた──と思った時にはもう、ナザリックが誇る総合力最強のシャルティア・ブラッドフォールンが、ゾーイへと躍りかかっていた。

 

 シャルティアは、『鈴木悟』の友人が作り出したNPCの1人であり、『モモンガ』であっても正面から戦えば勝率は低い。

 

 

 ……しかし、それでも相手が悪過ぎる。

 

 

 神器級(ゴッズ)のスポイトランスを装備しているとはいえ、前衛が1人だけ。

 

 アルベドは『モモンガ』の盾となっているので、実質シャルティアのみ──いや、違った。

 

 

「ウォォォ、アインズ様ヲ、オ守リセヨ!」

 

 

 開けっ放しだったゲートより飛び出して来たのは、2メートル以上の巨大人型昆虫……コキュートスであった。

 

 コキュートスは、武器戦闘において最強。

 

 四本の腕が掴む武器を駆使した戦い方は、近接戦闘において絶大な有利性を保持したNPCである。

 

 

「アインズ様! 私たちが時間を稼ぎます!」

 

 

 他にも──ゲートからではなく、彼方より凄まじい速度で接近してきたのは、執事服を身に纏った白髪の老人。

 

 名を、セバス・チャン。人間に見えるが、その正体は竜人である。

 

 ナザリックのNPCの中では随一の、肉弾戦最強の称号を得ている彼は、迫りながらもその身を変形させ、真の姿を──。

 

 

森羅万象(しんらばんしょう)開闢(かいびゃく)暁光(ぎょうこう)! その身に受けて白灰(しらはい)となれ!」

 

 ──出そうとしたが、遅かった。

 

 

 ゾーイより繰り出された、技。

 

 天と地に生じる、蒼き力場。それは瞬時にゾーイを中心に広がり、互いの力場を稲妻が如き光が幾つも走り──直後、一点に凝縮した光が、爆散した。

 

 それは、対ゾーイ戦において最もプレイヤーたちを警戒させ、状況によっては一瞬で相手を壊滅状態にさせる……通称『誰か犠牲になれ』。

 

 

 名を、『コンジャクション』

 

 

 その効果は、受ければ最後、強制的にHPを1にするというモノである。ゲームではHPの数字がそうなるだけでも、現実に血を流し、疲労もするこの世界では。

 

 

「──っ!?」

 

 

 力場の中に居た、全員。

 

 『鈴木悟』とシャルティアを除いた、ナザリックの面々は──突如襲い掛かった致命的なレベルの疲労感と虚脱感に、動きを止めた。

 

 

 考えるまでもなく、そうなって当然だ。なにせ、HP1というのは瀕死の状態だ。

 

 

 負傷こそしていないが、何時死んでもおかしくないような状態になって、普段通りに動ける方がおかしい。

 

 動けるのは、疲労しない特性があるアンデッドの2人だけ。

 

 ゲーム中では、すぐさま後衛が回復を行うか、ゾーイからのターゲットを他所へ……という手段で、態勢の立て直しを図るのが鉄則になっている。

 

 

(──あ、ああ!)

 

 

 故に、『鈴木悟』は反射的に回復をしようとした……けれども、ギロリとゾーイより睨みつけられた瞬間、思わず動きを止めてしまった。

 

 

 

 ──死が、目前に。

 

 

 

 その瞬間、『鈴木悟』の脳裏を過ったのは……過去の思い出だった。

 

 

 楽しい事もあったし、辛い事もあった。軽い喧嘩だって、あった。

 

 ユグドラシルを始めて、初めて心から尊敬できる人に出会えて、仲間に入れて貰えて。

 

 手探りのまま始まったゲーム、仲間が1人、また1人と人数を増やし、各自が思い思いに拘りを注ぎ始め。

 

 そうして迎えた全盛期、最もアインズ・ウール・ゴウンが輝いていた時代。

 

 そして、月日を経る度に1人、また1人と人数を減らしていき、何時しか己だけがログインする日々が続いて。

 

 そして、そして、……終わりを迎えたはずのアインズ・ウール・ゴウンは、こうして別の世界にて命を経て。

 

 そして、そして、そして……蒼き剣を構えたゾーイが、その刃に光を灯らせ、今にも放とうと大きく振りかぶって。

 

 

 

(──えっ?)

 

 

 

 振り被った剣が、降ろされる事はなかった。

 

 何故なら、そうなるよりも前に、ナニカがゾーイへと投げつけられたからで。

 

 その、投げつけられたナニカを反射的に切り払おうとしたゾーイが、それを目にした瞬間。

 

 遠目にも分かるぐらいに、ギクリと身体を硬直させ、大きく見開いた目でナニカを捕らえ……次いで、ポロリと剣を落としたからだった。

 

 

「      」

 

 

 瞳と同じく、呆然と開かれた唇は震えるばかりで何も言えない。何が起きたのかを理解出来ない……いや、理解したくないと言わんばかりに、そのナニカが地面へ落ちないように抱き留めた。

 

 そんなゾーイを他所に、その胸元へと縋りついたナニカは……ボロボロに焼けて引き攣った口を大きく開けると、細い首筋へ食らいつく。

 

 しかし、相手はゾーイだ。

 

 Lv.200の表皮を、噛みきれるわけもない。動きも散漫で、まるで鋼鉄を噛み砕こうとするネズミのような滑稽さがあった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………やろうと思えば、瞬時にナニカを消し飛ばすのは簡単であった。

 

 

 でも、ゾーイは……いや、彼女は、そうしなかった。

 

 そうしたくないと、思ってしまった。

 

 

「……私は、悪夢を見ているのか?」

 

 

 何故なら……彼女の、己の胸元にて抱き留めたナニカの正体は。

 

 

「嘘だと言ってくれ……」

「おぁ、おぁぁぁ……」

「なあ、嘘なのだろう、嘘なんだろう……なあ、嘘だと言ってくれ……」

「おぁぁぁ、おぁぁぁ」

 

 

 焼け爛れたままの身体に、アンデッドを示す瞳の淡い光。意思など欠片も感じ取れない、呻き声を発するそのナニカは。

 

 

「クレマンティーヌ……なあ、嘘だと私に言ってくれ……!」

 

 

 彼女を、人として引き戻してくれた……愛しき友人の成れの果てであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──こんなの、酷すぎる。

 

 

 その光景を目にしてしまった『鈴木悟』は……率直に、そう思った。

 

 アンデッドのモモンガではない。

 

 

 人の心が表に出た『鈴木悟』は、心より目の前の光景を否定し、拒絶し、言い様も無い悲しみを覚えた。

 

 

 何故そうなったのか……その理由は、すぐに分かった。

 

 何故なら、それを成してしまった元凶が、『鈴木悟』の下へと駆け寄ってきたからだ。

 

 

「──アインズ様、今の内です! アレで気を引いているうちに、早くナザリックへ!」

 

 

 そう進言するシャルティアの顔に、悲壮感はない。

 

 あるのは、一刻も早く『モモンガ』を避難させなければならないという強い意思と、何時ゾーイが我に返ってこちらに攻撃を仕掛けてくるかという焦燥感であった。

 

 

(ああ……シャルティアが、やったのか)

 

 

 その顔を見て、『鈴木悟』は理解する。というより、思い出した。

 

 シャルティアが保有している魔法の一つにある、『不死者創造(クリエイト・アンデッド)』。

 

 それは、死霊系魔法の一つであり、死体を媒介にアンデッドを作り出す……という感じの魔法だ。

 

 

 ……なるほど、と『鈴木悟』は思った。

 

 

 シャルティアは『モモンガ』と同じくアンデッドだ。

 

 なので、『モモンガ』と同じくHPが1になっても疲労などは覚えず、全力で動き回る事が出来る。

 

 視線を向ければ……三人の死体が転がっていた場所に、仮面の少女が辛そうに蹲っているのが見えた。

 

 

 少女も、『コンジャクション』を受けて……いや、違う。

 

 

 『鈴木悟』が記憶しているゾーイの情報を思い返す限りでは、『コンジャクション』の有効圏にあの少女が含まれていないのは明白だ。

 

 

 つまり、シャルティアにやられたのだ。

 

 

 少女のレベルが如何ほどかは不明だが、HP1とはいえ、動きが鈍らない総合戦闘力最強のシャルティアを前に、どうにもならなかったのだろう。

 

 その証拠に、少女の周りには僅かばかり戦闘の痕跡(おそらく、シャルティアがやったのだろう)が見られ……隙を突いて死体を奪い、アンデッド化させて投げ──うん。

 

 

(……俺がアンデッドじゃなかったら、胃の中の物を全部吐き出していたな)

 

 

 皮肉なことに、『鈴木悟』は今、初めて己がアンデッドになっていて良かったと思った。吐く為の胃袋が無いのだから、吐きようがない。

 

 しかし……その代わり、吐けない分だけ嫌悪感が凄まじかった。

 

 

 根源的な嫌悪感……それを初めて、『鈴木悟』は……モモンガではなく、『鈴木悟』として、ナザリックの者へ向けた。

 

 

 ……感情抑制は、今もなお働いている。それでもなお、次から次に嫌悪感が噴き出して来るのを抑えられない。

 

 

 見やれば、シャルティアだけではない。

 

 

 ゾーイが動きを止めていることで戻ってきたアルベド、コキュートス、セバスより、急ぎナザリックへ戻るべきだと口々に説得される。

 

 確かに、今なら逃げられる。この機を逃せば、もう逃げる手段はない。NPCたちの言う事は尤もだと、『鈴木悟』は思った。

 

 

 ……だが、しかし。

 

 

(そうか、そうなのか……お前たちにとって、目の前のアレなど、俺に比べたら取るに足らない出来事でしかないのか……)

 

 

 いや、よく見れば、セバスは……セバスだけは、何処となく心苦しそうにしているようには見える。おそらく、カルマ値が高いからなのか。

 

 しかし、それだけだ。

 

 結局、『モモンガ』に比べたら、幾つも重要度が下がるのだ。

 

 わざわざアンデッド化させた悪趣味さに不快感を覚えているだけで、『モモンガ』の窮地を救った事に対しては、むしろ感心した眼差しをシャルティアに向けていた。

 

 

 ──それを見て……『鈴木悟』は、カクンと身体から力が抜ける感覚を覚えた。

 

 

『鈴木悟』として、最も聞きたかった……シャルティアが行った非道を、己が行った非道を、責める声が全く上がらないことが、とても……とてもとても、辛かった。

 

 

 チラリ、と。

 

 

 眼球の無い眼孔にてゾーイを見やれば、呆然自失といった様子で女のアンデッドを……クレマンティーヌを抱き締めたままで居る。

 

 

 その姿を見て……『鈴木悟』は、酷く罪悪感を覚えた。

 

 

 ギルドメンバーが作り出したNPCのデミウルゴスが殺された事に対する怒りはある。なにせ、思い出の一体なのは事実だ。

 

 しかし、今だからこそ冷静に認識出来るが、先に手を出したのはこちら側だ。自分が逆の立場だとしても、怒り狂っていただろう。

 

 

 それに……いや、それだけではない。

 

 

 クレマンティーヌに限らず、同じように殺された二人もそうだ。既に、大勢の人間がナザリックの……この作戦の犠牲になっている。

 

 生存しているかは不明だが、抵抗したやつをその場で1人2人は食い殺している。連れ去った者たちだって、既に何名か味見されている可能性が極めて高い。

 

 

 ……デミウルゴスなら。

 

 

 そう、己が召喚した悪魔にそれぐらい命令しているはずだ。

 

 ギルドメンバーが作ったデミウルゴスではなく、この世界にて自我を持ったデミウルゴスで、あるならば。

 

 

(俺は……なんて事をしてしまったんだ……)

 

 

 なにより、己がゾーイに対して怒りをぶつけること事態が間違っていると、『鈴木悟』は心より思った。

 

 

(せめて、彼女をアンデッドから……いや、無理だ)

 

 

 こみ上げてくる罪悪感のあまり、アイテムボックスに手を伸ばし掛けた『鈴木悟』は、直後に手を引いた。

 

 

(ユグドラシルでは、一度アンデッドになってしまえば戻すにはワールドアイテムを使うか、キャラを作り直すしかない)

 

 

 少なくとも、『鈴木悟』が記憶している限りでは、ユグドラシルの仕様ではそうなっている。

 

 

 ──そして、そんなアイテムなど、『鈴木悟』は所持していなかった。

 

 

 これがゲームであれば、課金ガチャで出るまで回すか、キャラを作り直せば良いだけだ。

 

 だが、この世界には課金ガチャなんてあるわけもなく、キャラを作り直すことだって──っ!? 

 

 

「──失礼します、アインズ様!」

「ぬお!?」

 

 

 長々と考え事をしている主を見て、焦れたのだろう。

 

 控えていたセバスより抱えられた(いわゆる、お姫様抱っこ)『鈴木悟』は、そのままゲートの向こうへと連れて行かれ──その向こうでは、ナザリックのNPCたちが待っていた。

 

 慌てて振り返れば──既にゲートは閉じられていて、代わりに、後に続いて戻って来たNPCたちが居た。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………その瞬間、『鈴木悟』は……心の中で謝った。

 

 

 誰に対して謝っているのか、分からない。何に対して謝っているのかも、よく分からない。

 

 

 ただ、誰に対しても……おそらくは脳裏を過るギルドメンバーたちに、ゾーイたちに、仮面の少女たちに……『鈴木悟』は、謝り続けた。

 

 

 

 

 

 




アンデッドに与える慈悲は一つだけ

速やかに偽りの命を奪い、その魂を天へと解き放つのみ

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