今回は、オリ主と原作キャラの1人との出会いを描いてみました。時系列的には、原作開始以前のお話です。
著しいキャラ崩壊や読者様のイメージと違うなどあるかも知れませんが、何卒、お付き合いください。
内容に対するご指摘、アドバイス、酷評などなど、感想欄にてお待ちしております。
多少のアンチは覚悟しておりますが、他の読者様をご不快にさせる様な感想や原作キャラを貶すような発言はお控えください。
少女は今、激しく後悔していた。少し小腹が空いたからといって、夕暮れ時の薄暗い時間帯に、越してきたばかりで慣れない土地を携帯のナビだけを頼りに出掛けたのが不運の始まりだった。
「なぁ、いいだろ〜?ちょっとおにーさん達と遊ぶだけなんだからさぁ〜。」
およそ数分前の自分を軽く恨みたい気持ちに駆られたところに、耳障りな男の声が割り込んで思考を中断させられる。そう、少女は今、2人男によるしつこいナンパに頭を悩ませているところだ。あまりにも下心丸出しな下卑た誘い文句に顔を思いっきり顰めながら、何度目かわからない拒絶の言葉を投げつける。
「だーかーらー、あたしはあんたらなんかに用は無いって言ってるでしょ!!しつこいといい加減ケイサツ呼ぶわよ!!」
「いいぜぇ、呼んでみろよ。気の強い女はタイプだからな。ま、呼べたらの話だがよ。」
あまりにもしつこいナンパに痺れを切らし、彼女は携帯を見せつけるようにして脅しをかける。しかし、どうやら痺れを切らしたのは相手も同様のようで、男の1人が悪どい笑みを浮かべながら少女に向けて腕を伸ばす。どうやら、通報されてしまう前に少女を捕えてしまおうという腹積りらしい、だが、伸ばされた腕が少女を捕らえようとする直前で男の頬に破裂音と共に衝撃が走る。数瞬の困惑の後に、じんわりと熱の篭った痛みが男の頬へ滲む。
それは、少女が自分に迫る魔の手から己を守ろうとして咄嗟に出た平手打ちによるものだった。彼女の性格上、無意識的に出たものではあったが、その手は僅かに震え、彼女の内心の恐怖心を如実に物語っている。
「このクソアマぁ…、よくもやりやがったなぁ!!」
そして、少女からの予想外の反撃に呆然としていた男が我に返り、怒り狂いながら少女へと襲い掛かるのには、そう時間は掛からなかった。男は声を荒げながら乱暴に少女へと掴み掛かる。目を血走らせながら向かってくる男の姿に少女は怯え、その場から逃げ出すことは叶わない。やがて、男の手が少女の腕に触れようと迫ったまさにその瞬間──
「───乱暴はダメでしょう?」
突如として静かな声と共に男と少女の間に割って入るかのように立った小柄な人影が、今まさに少女へと掴みかかっていた太い腕を体格に似つかわしい華奢な手で掴みとり少女に触れる寸でのところでそれを阻止していた。
先程まで少女と2人の男しかいなかったその場にまるで何も無い所から現れたかの様に見えたその影は白のパーカーに青のショートパンツで、男の腕を掴む逆の手には、コンビニのレジ袋をぶら下げており、フードを目深に被り、小柄ゆえに見下ろす形になる3人には顔は見えないが、声音から女の子であろうことが伺える。
あまりにも突然のことに困惑する3人を置いてけぼりに、女の子は掴んでいた男の腕を押し返すように解放し、ビッと人差し指を男共に向けて突き立てては、静かに、穏やかに、諭すよう2人の男へと語りかける。
「華は愛でるものです。乱暴にしては可哀想でしょう?」
発言の内容は、少女含めた3人には理解し難いものではあったが、ガタイの良い男2人相手に女の子は全く物怖じすることはない。
「あぁ?何訳わかんねーこと言ってやがる?ガキに用はねーんだよ。とっととどきやが───?」
しかし、男2人は女の子の言葉へ耳を貸す事はない。お楽しみを邪魔された事に苛立ったもう1人の男が進み出て、幼げな女の子の襟首を無遠慮に掴みあげ締め上げようとしてふと違和感を感じる。
男は、女の子の襟首を掴み彼女を押し退けようとしたのだが、その小柄な身体はビクとも動かない。本来であれば、平均男性並の体格を持つ男が女子中学生程度の小柄な女の子を押し退けられない道理はない。しかし、男の脳裏をよぎったイメージは、まるで巨大な岩と押し相撲をしているかのような感覚。
だが、それを感じたのも束の間、確信ではなく違和感のまま男の足先は地面の存在を見失い、視界は反転して地面へといつのまにか足を投げ出す形で座り込んでいた。
───女の子襟首を掴んだまま彼女を背にして…
「───は?」
理解不能。あまりにも一瞬の事であり、未体験の現象。現に目の前で一部始終を見ていたであろう仲間の男は、目を見開いて口を半開きにし、信じられないものでも見たかのような驚愕の表情をありありと浮かべていた。男は立つことも忘れ、何が起こったのかを仲間に問い詰めようとしたが、それは頭を軽く抑えつけられるような感覚によって遮られる。
「少し、眠っていてくださいね。」
男の頭を抑えつけていたものの正体は、女の子の小さな手だ。たった、それだけで男はまるで地面に縫い付けられたかのように動けなくなる。
(なんて力───)
女の子の常識外な膂力に驚く間もなく、男の視界が高速でブレたかのように感じれば、男の意識はそのままブラックアウトした。
「お、おい…、何…しやがった…。」
突然白目を剥き、糸の切れた人形のように動かなくなった仲間を見て、男は怯えたように女の子へと問いかける。そう、男には始めから何も見えていなかった。何故突然仲間が地面へ座り込み、今地面へと倒れ込みピクリとも動かないのか。何より目の前の女の子が何をしたのかさえも男の目には捉えられなかった。
「大丈夫。死んではいませんから。ちょっと脳震盪で気絶してもらってるだけです。」
まるで、何でも無いかのように女の子は告げる。彼女がしたことは至ってシンプルだ。男の頭を片手で掴み、左右に揺らしただけ。高速で頭を揺さぶられた内部では、脳が頭蓋骨の中で攪拌され、あまりの負荷に耐えられなくなった脳は強制的に意識をシャットダウンし、意識を切り離す。理屈は通る。しかし、それが目の前の女の子に可能であるかと問われれば、答えはNOだろう。ゆえに男は眼前の現状に困惑し、恐怖する。
「今なら、そこの彼を連れて消えてくれれば何もしませんよ。」
「は、はいぃ!!」
初めから変わらず、女の子は鈴を転がすような声音で話す。しかし、どこか冷たい圧を孕んだその言葉は、背筋を突き刺すような悪寒となって男の鼓膜へ響き、男は情けない悲鳴を喉から搾り出しながら手早く仲間の男を担ぎ起こして肩を貸し、早足にその場を去っていった。
「やれやれ、近頃の男の人は困ったものですね。」
苦笑を浮かべながら、肩をすくめれば、途中から影の薄くなっていた少女の方へと振り返る。瞬きの間のあまりにも非常識な出来事に呆然としていた少女は、思わずビクリと身体を震わせて表情を強張らせる。そんな少女の様子に柔らかい笑みを浮かべ、安心させるように声を掛ける。
「怪我は?」
「え?あ、はい。なんとも、ない、です。」
とても男2人を相手どった後とは思えないほど落ち着いた声で少女を心配する女の子に明らかな年下に見えるにも関わらず、普段の女性語ではなく、敬語で答えてしまう少女。遠く忘れ去られた本能が素人ながら彼女に、目の前の相手が「生物」として格上であるということを教えた結果なのだが、それを少女が知る由もない。
「それはなにより。この辺りは
「は、はい。助けてくれてありがとうございます。」
「この道を真っ直ぐ進むと明るく大きな街道に出ます。そこからならナビを通しても安全な道を辿れると思いますよ。」
決して人の事を言えないであろう容姿の女の子に内心でツッコミを入れている少女のことなのど露知らず、女の子は少女の背後の道を指しながら、まるで少女が地元の人間ではないことを知っているかのように丁寧に説明する。
「あの…、なんであたしがこの街の人じゃないって…?」
気付けば少女は、そんな疑問を女の子に投げかけていた。その質問自体に意味があった訳ではない。ただ、何故だか解らないが、彼女の事を知らなければならないような、そんな気がしただけの問いだった。
「ずっと、ナビを開きっぱなしでしたし、それにあなたのような可愛い方はこの辺りでは見かけませんから。」
「え──ッ?!」
うさぎ型のスマホケースに収められたスマホを指さしながらまともな推測をしていたところから急転、初対面でかつ素面で「可愛い」などと言われ、相手が年下であろう女の子なのにも関わらず、何故がドキリと心臓が跳ね上がる。
「まぁ、冗談はさておき。この街が初めてなら、少し離れた『骸間町』という町には、あまり近付かない事をお勧めします。今日みたいな目に遭いたくないなら、ね?」
「え?え、えぇ…。」
あどけたような態度から一変、頬を赤らめて動揺する少女を放置して、表情こそ解らないものの真剣な雰囲気が少女の身体の火照りを一気に冷ますほど肌に突き刺さる、まるで鋭利な刃のような声音でそう忠告する女の子。突然のこととあまりの見た目とのギャップに少女は生返事を返す事しかできない。
そんな彼女をよそにふと女の子はジッと少女の姿見つめ──ている様な気がする──先程までの鋭利な気配は既に形を潜めたものの、真剣な様子少女の上から下までじっくりと見回す様に少女は無意識のうちに身体を緊張させ、姿勢を正す。
「………あの…、どうしたんですか?」
時間的には僅かな間であったが、少女にとっては何分にも何十分にも感じられ、耐えかねたように女の子へと問い掛ける。その声にはっとしたかの様に顔を上げた女の子のフードからはらりと白雪のような髪が流れるようにこぼれ落ちた。
「ん…?あぁ、いえ。つかぬことを聞きますけど、あなた………以前、何処かでお会いしました?」
「はい…?」
思わず間抜けな声が少女の口から溢れ出る。捉え方によっては先ほどの思い出したくもない男共のようなナンパと同じような誘い文句にも聞こえるが、女の子の真剣な様子と不思議と他意はないであろうと言う謎の信頼感からその説は思考から排除される。──彼女が同性愛者であるならば話は別だが──
しかし、少女にとっては目の前の女の子の特徴と合致する知り合いは記憶にない。そもそも、口元と銀髪しか見えていない現状で、特定の人物を記憶の中から導き出すのは至難だ。
銀髪という髪質は特徴的だが、現代の日本で髪を染め上げる者は珍しくもなく、少女は女の子の問い掛けに首を振るしかない。
「いいえ、悪いけどあなたのような知り合いは私にはいません。」
「そう…ですか。いえ、変な事を聞きました。忘れてください。」
女の子は特に食い下がることなく納得すれば、もう一度少女の容姿を観察する。少女は、前髪を切り揃え、後ろ髪を腰まで流した長髪で、サイド両方を羽を閉じた蝶々のような髪留めで結い上げたツーサイドアップにしており、黒と紫を基調とした私服を着こなし、ニーソックスという男心を刺激しそうな容姿だ。
(気にはなりますが…、彼女をこのまま引き留めておく訳にもいきませんし…。今は、忘れましょう。)
まるで小骨が喉につっかえたかの様な不快感を覚えながらも、彼女は思考を切り替え、少女へと向き直る。
「引き留めて申し訳ない。どうか気を付けて帰ってくださいね。」
それだけ告げると女の子は、踵を返し、自分が少女へと勧めた道と真反対の細道へと歩みを進める。
「待って!!」
しかし、数歩歩いたところで少女が女の子を呼び止める。気の強い性格が滲む様なよく通る声に女の子は足を止めて振り返る。
「あ、あなたの名前…聞いてない………んですけど…。」
「聞いてどうするんですか?」
名を問う少女に、女の子は訝しむな冷たい口調で問い返す。それはまるで、これ以上自分に関わるな、と突き放しているように少女には聞こえた。
「今日の、お礼…、いつかまた会った時にさせて欲しいの!!」
「とても素敵なお誘いですが、もう会うこともないでしょう。それでは………。」
あくまで冷たく、助けてくれた時とはうって変わって、穏やかではあるものの、どこか寒気のする様な声音でそう突き付ければ、今度こそ少女から視線を外し、歩を進める。
「あたしは二乃!!中野 二乃って言うの!!」
だが、何故か少女は引き下がらない。初対面で顔も知らない彼女に何故こんなにも固執するのか、自分でもよく分からない。ただ、予感がしたのだ。いつかまた近いうちに必ず再会すると言う、根拠もなにも無い予感がして、せめて自分の名前だけでもと、少女──二乃と名乗った彼女は、声を張り上げる。
その想いの乗った声が響いたのか、再び女の子は歩みを止め、今度は振り返らずに溜息にも似た声を零す。
「………『しらゆき』。身に余る渾名ですけど、周囲からはそう呼ばれてます。」
二乃の諦めの悪さに根負けしたのか、女の子はこの辺りでの通り名であるらしい渾名で名乗る。これが、最低限の妥協点であるとばかりに。
「しらゆき………、とても可愛らしい渾名なのね。あなたにぴったりかも。」
二乃は、くすりと微笑みを浮かべ、いつの間にかいつもの口調で噛み締めるように女の子の名を口にする。まるで恋する乙女かの様な表情を浮かべる彼女を尻目に、しらゆきと名乗った少女は、この渾名は二乃が思っているようなものではないのだがな、と複雑な苦笑を浮かべていた。
「それでは、私はこれで…。」
どこか満足げな顔でこちらを見つめる二乃に、居た堪れなくなったのか、短くそう告げ、今度こそ少女は確かな足取りで歩き出す。
「今度会った時は──っ!!本名聞かせて貰うからぁ──っ!!」
その言葉を背に、少女は空いた片手をひらひらと陽気に振りながら、薄暗い路地の奥へと消えていった──。
それから暫く、二乃は少女の去っていった方向を見つめて、呆けていれば、突然ペタリとその場へへたり込むように崩れ落ちた。
「なんだったのかしら…、あの子………。」
今までの出来事が全て夢であったかの様な感覚に浸りながら、二乃はつい数分前の出来事を思い出していた。
少女──、しらゆきが男に掴み掛かられた際。男2人は何も理解できていなかった様だったが、少し離れたしらゆきの背後で事の顛末を見守っていた二乃は、僅かではあるが、しらゆきの動きを捉えていた。男がしらゆきの襟首を掴んだ瞬間、しらゆきがゆらりと身体を左右に揺らしたかと思えば、男はまるでその場で柔術家に一本背負いされたかの様に宙を回転したのだ。
目では見えていても、二乃には何が起きたのかさっぱりと解らない。ただ、それを成したのが先ほどの自分よりも小柄な少女であったことだけは理解してしまって、得体の知れない恐怖として彼女の全身を這い回っていた。
その恐怖はやがで、しらゆきと言葉を交わすことによって軟化し、最後はいつもの口調で話せるようにまでなったが、いざその存在が目の前から居なくなったかと思えば、急に張り詰めていた緊張が解け、脚に力が入らなくなってしまった。
男2人に囲まれていたときたは比べ物にならない緊張、汗が吹き出し震えが止まらないながらも、二乃は少女の困ったかのような笑みを思い出して、頬が緩む。すると、全身の震えは嘘の様に止まり、脚にも力が入る様になってくる。
一つ、深い深呼吸をして立ち上がれば、手から溢れ落ちそうになるスマホを握り直し、少女に言われた通りの道を辿って帰路へとついた。恐ろしい目に遭ったというのに、二乃の足取りは軽い。いつかまた出会うであろうという曖昧な確信を胸にした彼女の足は自宅へ着くまでスキップのような駆け足だった───。
「中野 二乃……、やはりどこかで見覚えが………。はぁ…、カタギの少女を嗅ぎ回る様なマネは気が進みませんけど、少し調べてみましょうか…。」