リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

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禁忌の代償

ミカはゆっくりと銃を構え、ゆっくりと引き金を引く。

 

何だったら、ブレて見える。それくらい遅い。

 

私は予備動作からそれを知覚し、余裕を持って避ける。

 

《予測演算問題なし、随時修正、分岐予測待機、弾道計算に修正値適用、肉体出力発揮値50%、演算率77%》

 

(見える見える……これなら行ける!)

 

左腿を狙った弾丸を足を半歩下げて避け、間髪入れずに体の中心目掛けて放たれた弾はそのまま半身になって一歩引くことで躱す。

 

腕の動き、視線の向き、銃口の僅かなブレ……ミカの癖は、バッチリ覚えている。

 

通常の人間の意識では気付けない、或いは気付けても把握しづらいことは、全部「私」にぶん投げる。私も「私」も同一の記憶を共有する存在である以上、前意識に存在する記憶を両者ともに引き出すことが可能だ。

 

ドーパミンとアドレナリンが頭からドバドバ放出されているのが何となく感じ取れる。

 

人間の神経にはランビエ絞輪という絶対的な枷がくっ付いてるからな。ある一定以上に速度は上がらない。

 

人間の伝達上限まで到達した私の体ではあるが、それよりも思考のほうが早い。

 

(けど至近距離だと流石に避けられない……20mまで行けるか?)

 

15発は避けただろうか。ミカはM4のセレクターを切り替え、トリガーを引き絞る。

 

(バーストか、フルオートか……あのM4のセレクターは上から時計回りにセミ、バースト、フル、セーフ。切り替え音は一回……バーストと見た!)

 

M4カービンでバースト、フルオート兼用の銃は存在しなかったはずだが……独自品だろうか。

 

そんなことを考えつつ、私の視覚はミカの指の動きと銃口の向きに合わせられている。

 

照準は……腹の中央。

 

(嫌らしい位にしっかり合わせてくれんじゃん!)

 

小銃弾を用いた戦闘では、大体一発でもどこかに当たれば敵の戦闘能力をほぼ喪失させ、胴体に2発当てればどんな人間でもほぼ確実に助からない。

 

体の重心近くを狙うのは、理にかなっている。

 

さすがにこれは体勢を崩さないと躱せない。

 

3発の銃弾は私の右脇を通り抜け、左に移動した私にミカの照準が追随する。

 

だが、それは予想済み。

 

(しっかり狙ってくれると思ってた!)

 

予め思考をしておくことで、肉体への伝達時間を大幅に減らす。彼の狙いが正確であることを担保にした一種の賭けだが……上手く行ったようだ。

 

左から右斜め前へと、鋭く一歩を踏み出す。

 

ただのステップで4m近くの距離を詰め、驚愕して狙いが荒ぶるミカの射線に捉えられないように、僅かにタイミングをずらしながら斜め前へのステップを繰り返す。

 

「……行けるっ!」

 

頭がスパークする。

 

20m圏内に到達し、反射だけでは間に合わなくなった私は演算予測をフル活用してミカの次弾の位置を予想、回避する。

 

何発かのペイント弾は私の肌や服を掠め、微かにペイントの線を引く。

 

それでも致命弾は無し。

 

(50mちょいでアタフタしてた時よりは、多少マシになったかな!)

 

セレクターをバーストに変えてからの射撃回数は4回。3点バーストで、15発セミで射撃していたから、残り一回のバースト分。

 

距離はあと10m、もう目と鼻の先だ。

 

人間の反射速度と、私がそれを視覚で捉える時間と処理する時間を差し引いて……

 

(私は、0.15秒先を()る)

 

ミカの腕に、全ての意識を集める。

 

ミカの手の甲側、中手骨の出っ張りから見える指伸筋腱が、段々と凹み始める。

 

それを知覚した「私」は私に伝達し、私は行動を開始する。

 

地面と平行になるまで体を倒し、2歩を一度に蹴り出し大きな推進力を得る。

 

私の蹴り足の10センチ後ろを、弾丸が穿った。

 

8mの距離を詰めるのに、1秒も要らない。

 

ザリザリと、靴底が嫌な音を立てるのを気にせずブレーキを掛け、拳銃代わりに指で銃の形を作って突きつける。

 

「……見事だ」

 

「ありがとう……ございま、す……」

 

驚きと、それを押し(つつ)めた称賛に答えようとするが、舌が引き攣って上手く喋れない。

 

全身から力が抜ける。慌てて私を抱き留めるミカと、走ってくる千束を見ながら、私はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……あ゛……っ、痛ったい……」

 

「……咲紀! 大丈夫? 咲紀!」

 

「千束……っつ!!」

 

目を開ける。必死の形相で私を呼ぶ千束に、手を持ち上げて答えようとするが、何故だか力が入らない。

 

むしろ激痛が走り、全身が動かず芋虫のように悶えるだけの私を、千束は優しくベッドに押し付けた。

 

「ここは……DAの医務室? 私が倒れてから、どれ位経った?」

 

「大体一日くらい。 ……咲紀!」

 

「ん?」

 

どこか怒りを感じる千束の声を聞きながら、一日意識を失っていたことの方に気を取られ、ついつい生返事をしてしまう。

 

しかし千束の言葉は、私の思考を一気に彼女の方へと呼び戻した。

 

「今から1ヶ月、絶対安静!」

 

「……はぁ!?」

 

叫び声を上げ、肺に走る痛みを堪えながら、頭のどこかで納得していた。

 

まぁおかしいよね。走り幅跳び8mってオリンピック級の記録だし。7歳の少女が出せるスペックじゃない。

 

「症状は、どんな……」

 

「数えるのが億劫なくらい、全身の筋肉が……! こんな無茶をして! バカ!」

 

無茶じゃない、と言い返そうとして、千束の目尻に光るものがあることに気付く。

 

「千束……」

 

「友達がこんなになったら、普通は心配するの! いい!? 本当に安静だからね!」

 

私に背を向けて、震えた声を隠して、千束はいつものように、言った。

 

「ありがとう」

 

せめてもの感謝を、口にする。

 

腕はまだ、動かなかった。

 

 

旧電波塔事件を

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