リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

14 / 30
私の意思、彼女の意志

……あの後千束が向かった、電波塔でのテロ……結果になぞらえて()電波塔と呼ぶべきだろうか……は、千束が独力で解決したことになった。

 

千束は爆発の衝撃で負傷し、回復に数日掛かったが、風の噂では退院したとのことだ。

 

しかし電波塔が()し折れるとかどんな爆薬使ったんだ?600m級の超大型施設だぞ?

 

「それに比べて……私はこのザマか」

 

リハビリ中の体を見下ろし、自嘲気味に溜息を吐く。

 

……歯痒い、と言うべきか。私の信じる目的を、この一件で貫けなかったことに、悔しさが湧き出てくる。

 

「……咲紀」

 

「千束?」

 

横を向くと、いつ現れたのか、千束は軽く手を振って挨拶した。

 

……あの目はしていないが、いつもよりも、何処となく元気がないように感じる。

 

「少し、話さない?」

 

(いな)は無かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……私、ね。これからは、人を殺さないようにしようと思う」

 

10分程歩き、DAの施設から出た千束は、唐突にそう言った。

 

「分かってるとは思うけど、DAはそんなことを許さない」

 

「……先生は、賛同してくれた。今司令と話してる。私が自由にやれるように、伝手を使って準備してくれてる」

 

あの人が、千束の考えを是としたのか。

 

リコリスの指導教官という立場でありながら、その大元(おおもと)に盾突くようなことを、あの人はするだろうか。

 

……あるいは、勝算があるのかもしれない。

 

千束の圧倒的な能力と、それを排除する為にDAが傾けるべき戦力と、支払うべきコスト()を鑑みると、確実にDAは千束を自分の影響下に置きたいと考えるだろう。……その過程で、ある程度の要求はコラテラル(担保)として認められる筈だ。

 

「……千束。それは、凄く辛い道だよ」

 

「変だなぁ……咲紀なら、絶対賛成してくれると思ってたのに」

 

千束は少し困ったように笑った。

 

私も釣られて、同じように笑う。

 

「私の道は私の道。他人に強制される物でもないし、強制する物でもない」

 

加えて、リコリスが万一私の思想に共鳴してサボタージュを掲げた所で、リコリスには行く宛がない。

 

リコリスには、戸籍がないからだ。

 

リコリスが生活を続けるにはDAの任務を続けなければならず、それは殺人を続けるしかないのと同じなのだ。

 

私は確かに殺人を忌避する。死ぬのも殺すのも嫌だ。

 

……しかしそれは、私があくまでも一般人であるからだ。

 

悪行に手を染めなければ生きていけない人が居ることも、その是非は兎も角として……承知している。

 

「DAにとっての普通は、咲紀にとっての異端。その逆もそう……咲紀は、本気でDAを変えようとしてるの?」

 

「分からないさ。それは神のみぞ知る、といった所だけど……それでも、力によって引き寄せることはできる。私はその為に、ここに居る」

 

それが、私の決意と覚悟。今の私を回す、意志の両輪。

 

千束は私を数歩追い越し、振り返って私と正対する。

 

「……ねえ咲紀、知ってる? 私と一緒に任務に出たリコリスは……みんな帰ってこなかった」

 

電波塔事件に出動したリコリスは、千束以外全員死んだ。しかし、DAは彼女たちを「居なかったこと」にした。

 

全員架空の任務を与えられて、それで全滅した扱いになった。

 

元々リコリスは人員の損耗が激しく、1回の事件で死んだとかならまだしも、1ヶ月程度に分けて徐々に徐々に隠蔽されると、どんなに頑張っても見分けがつかなくなる。

 

「そういう組織だからね。DAは」

 

「他人事みたいに言うね」

 

どこか不満そうに、千束は言った。

 

「……限界はあるよ。私は神じゃない。メアリー・スー(御伽噺の主人公)じゃない。デウス・エクス・マキナ(ご都合主義の化身)じゃない。全ては救えないんだ。たとえ傲慢と(そし)られようと……選ぶしかない」

 

「……その中に、私も入ってるの?」

 

「当然でしょ、友達なんだから」

 

強く頷く。今生で初めての、同世代の友人なのだ。優先度で言えばほぼトップだ。

 

しかし千束は、僅かに眉を顰めた。

 

「……ふざけないで」

 

「千束?」

 

「咲紀はいっつもそう! 自分は外側で、私達を子供扱いして! それで自分だけ傷ついてボロボロになって、それでも笑って……そんなので私が嬉しいわけ無いでしょ!」

 

「そんなんじゃない……私は……」

 

「ただ守られるのを待ってるほど、私は弱くない! 私にだって力はある! 賛同する頭もある! 他人に相談しろ! 友達って言うなら、私に打ち明けて話をしろ!」

 

……初めてだった。千束が声を荒らげるのを見たのは。

 

叩きつけられる感情の奔流に、思わず一歩下がる。

 

「私が、咲紀に守られなきゃいけない存在だって考えるなら──」

 

千束は2歩近づき、私の両肩に手を置く。

 

逃がさない、とでも言うように。

 

「そんな考え、ブッ壊してあげる!」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

DA本部内のキルハウスは、壁や遮蔽物が取り払われ、20m四方のスペースだけが、中央にポッカリと空いていた。

 

「こんな大掛かりなの、どうやって……」

 

「先生がやってくれた。人払いも」

 

「さては形はどうあれ私をここに連れて来るつもりだったな千束」

 

片方の口角を上げる千束に、肩を落としながら返答する。

 

「弾数は?」

 

「タクティカル込みで10発。切りがいいでしょ?」

 

千束の持つ銃はSIG SAUER P320C。同じ9mmパラベラム弾を使用し、装弾数も同じ。

 

銘々(めいめい)ペイント弾をマガジンに込めながら、取り留めのない話を続ける。

 

「戦う必要なくない?」

 

「私の本気度、見てもらわないと困る」

 

「言葉で十分だって」

 

「私に何も言わなかった癖に」

 

言葉に詰まる。千束はマガジンを銃に差し込み、スライドを引く。

 

私を見る目には、一切の迷いが無い。

 

「あと、マジでやるから」

 

千束は──彼女は、かつてなく本気だ。

 

私はそう、直感した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。