リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話 作:Shohei Hayase
……あの後千束が向かった、電波塔でのテロ……結果になぞらえて
千束は爆発の衝撃で負傷し、回復に数日掛かったが、風の噂では退院したとのことだ。
しかし電波塔が
「それに比べて……私はこのザマか」
リハビリ中の体を見下ろし、自嘲気味に溜息を吐く。
……歯痒い、と言うべきか。私の信じる目的を、この一件で貫けなかったことに、悔しさが湧き出てくる。
「……咲紀」
「千束?」
横を向くと、いつ現れたのか、千束は軽く手を振って挨拶した。
……あの目はしていないが、いつもよりも、何処となく元気がないように感じる。
「少し、話さない?」
◇◆◇◆◇◆
「……私、ね。これからは、人を殺さないようにしようと思う」
10分程歩き、DAの施設から出た千束は、唐突にそう言った。
「分かってるとは思うけど、DAはそんなことを許さない」
「……先生は、賛同してくれた。今司令と話してる。私が自由にやれるように、伝手を使って準備してくれてる」
あの人が、千束の考えを是としたのか。
リコリスの指導教官という立場でありながら、その
……あるいは、勝算があるのかもしれない。
千束の圧倒的な能力と、それを排除する為にDAが傾けるべき戦力と、支払うべき
「……千束。それは、凄く辛い道だよ」
「変だなぁ……咲紀なら、絶対賛成してくれると思ってたのに」
千束は少し困ったように笑った。
私も釣られて、同じように笑う。
「私の道は私の道。他人に強制される物でもないし、強制する物でもない」
加えて、リコリスが万一私の思想に共鳴してサボタージュを掲げた所で、リコリスには行く宛がない。
リコリスには、戸籍がないからだ。
リコリスが生活を続けるにはDAの任務を続けなければならず、それは殺人を続けるしかないのと同じなのだ。
私は確かに殺人を忌避する。死ぬのも殺すのも嫌だ。
……しかしそれは、私があくまでも一般人であるからだ。
悪行に手を染めなければ生きていけない人が居ることも、その是非は兎も角として……承知している。
「DAにとっての普通は、咲紀にとっての異端。その逆もそう……咲紀は、本気でDAを変えようとしてるの?」
「分からないさ。それは神のみぞ知る、といった所だけど……それでも、力によって引き寄せることはできる。私はその為に、ここに居る」
それが、私の決意と覚悟。今の私を回す、意志の両輪。
千束は私を数歩追い越し、振り返って私と正対する。
「……ねえ咲紀、知ってる? 私と一緒に任務に出たリコリスは……みんな帰ってこなかった」
電波塔事件に出動したリコリスは、千束以外全員死んだ。しかし、DAは彼女たちを「居なかったこと」にした。
全員架空の任務を与えられて、それで全滅した扱いになった。
元々リコリスは人員の損耗が激しく、1回の事件で死んだとかならまだしも、1ヶ月程度に分けて徐々に徐々に隠蔽されると、どんなに頑張っても見分けがつかなくなる。
「そういう組織だからね。DAは」
「他人事みたいに言うね」
どこか不満そうに、千束は言った。
「……限界はあるよ。私は神じゃない。
「……その中に、私も入ってるの?」
「当然でしょ、友達なんだから」
強く頷く。今生で初めての、同世代の友人なのだ。優先度で言えばほぼトップだ。
しかし千束は、僅かに眉を顰めた。
「……ふざけないで」
「千束?」
「咲紀はいっつもそう! 自分は外側で、私達を子供扱いして! それで自分だけ傷ついてボロボロになって、それでも笑って……そんなので私が嬉しいわけ無いでしょ!」
「そんなんじゃない……私は……」
「ただ守られるのを待ってるほど、私は弱くない! 私にだって力はある! 賛同する頭もある! 他人に相談しろ! 友達って言うなら、私に打ち明けて話をしろ!」
……初めてだった。千束が声を荒らげるのを見たのは。
叩きつけられる感情の奔流に、思わず一歩下がる。
「私が、咲紀に守られなきゃいけない存在だって考えるなら──」
千束は2歩近づき、私の両肩に手を置く。
逃がさない、とでも言うように。
「そんな考え、ブッ壊してあげる!」
◇◆◇◆◇◆
DA本部内のキルハウスは、壁や遮蔽物が取り払われ、20m四方のスペースだけが、中央にポッカリと空いていた。
「こんな大掛かりなの、どうやって……」
「先生がやってくれた。人払いも」
「さては形はどうあれ私をここに連れて来るつもりだったな千束」
片方の口角を上げる千束に、肩を落としながら返答する。
「弾数は?」
「タクティカル込みで10発。切りがいいでしょ?」
千束の持つ銃はSIG SAUER P320C。同じ9mmパラベラム弾を使用し、装弾数も同じ。
「戦う必要なくない?」
「私の本気度、見てもらわないと困る」
「言葉で十分だって」
「私に何も言わなかった癖に」
言葉に詰まる。千束はマガジンを銃に差し込み、スライドを引く。
私を見る目には、一切の迷いが無い。
「あと、マジでやるから」
千束は──彼女は、かつてなく本気だ。
私はそう、直感した。