リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

17 / 30
人と機械は使いよう

「銃取引の現場、突入には成功したが、チームメイトのリコリスが人質に取られた状況で、独断で敵の機関銃を使用し反撃、人質は無事だったが、犯人は全員死亡……か」

 

いやなんだこの猪娘(いのししむすめ)。頭ン中に火薬でも詰まってんのか?

 

ラジアータからパク……もとい提供して貰った戦闘詳報(アクションレポート)を読みながら、最初に出てきた感想がそれだった。

 

「名前は……井ノ上たきな。あー……あの娘か。確かに優秀だけど変人なんだよなぁ……思考に合理性しかないタイプの」

 

何回か任務でご一緒したことがあったが、アンドロイドと話しているような気分にさせられたことを覚えている。

 

(……まぁ、なるようになるさ)

 

DA本部地下の、メインコントロールルーム。

 

ラジアータへの入力インターフェイスが鎮座するここは、ある程度の権限が無ければ入れず、実質私の城と言ってもいいほどに入り浸っている。

 

「ラジアータ、個人番号LC3023についての訓練記録、関連する戦闘詳報、記録された音声、映像について、演算アルゴリズムをニューラル形式、ヒューリスティクス係数*1を30、ヒューリスティック係数*2を50に設定し、当該人物の所見及び評価を演算せよ」

 

ラジアータ。クソコンピューターと罵ったのも10年前の話。今は彼も私の立派な協力者だ。

 

『演算終了。LC3023、登録名称「井ノ上たきな」は、所見として協調能力があまり高くありません。過去複数回に渡って、戦術的に合理的ではありますが軽微な命令違反を犯しています。しかし音声、映像記録を鑑みるに、それはリコリスの特権意識に由来するものでは無く、純粋な使命感によるものであると推測します。また彼女は、それが合理的であると自ら判断した指摘は受け入れ、その行動を停止するパターンが有意に多く、協調性自体は所持していると推測します』

 

「……素直な娘なんだね。出世には向かないタイプだ」

 

ラジアータの人物評を捏ねくり回し、そう結論づける。

 

ラジアータは私の零した言葉に答えるように、補足を提示した。

 

『彼女の個人能力はファーストリコリスの条件を満たしています。戦術指揮能力(タクティカル・コマンディング)も同様ですが、作戦立案能力(オペレーション・プランニング)作戦遂行能力(オペレーション・エグゼキューティング)に問題があり、戦術的要素においてリーダーとなるべきファーストリコリスの条件を満たしていません。仮に同能力値の戦闘ユニット7体を彼女と貴女に与え戦闘を行わせる場合、勝利条件の設定にも依りますが7割以上の確率で貴女が勝利します』

 

私の指揮能力は、ファーストリコリスとしては並か少し優秀程度なのだが……どれだけ協調能力が無いんだ、彼女。

 

「わかった。全演算記録を破棄。バッファストレージに結果のみ転送し、ストレージ内のログも同様に削除してくれ」

 

思考を切り上げ、ラジアータにいつもの処理を命じる。これをやらないと他人にログが漁られ、私が何をしているのかがわかってしまう。

 

……それだけは避けなければならない。

 

処理が終了するのを待って、次の命令を送った。

 

「ラジアータ、質問内容の変更を行う。心臓の方は?」

 

『超高精度X線CTを用いた、錦木千束の人工心臓の解析、3D再構成はすでに完了しています。各材質、形状の特定も98%完了。残り2%の部品についてもシミュレーション、各種再設計を行い、充電さえ続ければ理論上100年以上は持つ人工心臓の設計、製造手配は、あと一ヶ月で完了します』

 

元々先天性の心疾患を有していた千束は、アラン機関によって人工心臓を埋め込まれることで、常人と変わらない心肺機能を手に入れることができた。

 

しかしそれは欠陥品であり、耐用年数がある。千束に残された時間は、そう長くない。

 

だから私がやる。あらゆる手段、あらゆる犠牲を払ってでも、彼女に未来を見せる。

 

「……あと半年後までには完成させる。その前提でスケジュール調整を」

 

日本のインフラ全てに優先権を持つラジアータは、ほぼ無制限に外部と接続し、作戦行動を行える。

 

例えば、10年前にアラン機関が持つ工作機械では作れず、外部に依頼するしかなかった超高精度のパーツの発注履歴と運搬履歴を辿ったり……ね。

 

工作機械の精度には限界がある。それは機械を使う限り着いて回る宿命であり、工作機械の母性原理*3に従う限り、それ以上の精度はどう足掻いても出せないのだ。

 

逆を言えば、熟練し、技術に身を捧げた職人の手こそが、機械以上の精度を出せる。

 

工業的信頼性を担保するなら、千束に贈られた人工心臓の他にも、幾つかの試作品が存在するはずだ。

 

『了解しました。最善を尽くします。 ……それと、先日本機はハッキングを受けました。大規模な情報流出こそありませんでしたが、全システムが数10秒間麻痺し、戦術ネットワークの情報転送が不可能になりました』

 

ラジアータの報告に、私の頭が高速で回転する。

 

ハッキング、彼女の唐突な左遷……というか島流し。

 

DAは思想こそアレだが中身は立派な公的機関だ。原因無くして処罰無し、は徹底されている。

 

そんな中で、言い方は悪いが……命令違反して犯人を皆殺したくらいで左遷されるのは考えにくい。

 

「関係、あるね?」

 

『ハッキングを受けた当時、当機は彼女たちが所属していたチームをオペレートしていました。司令は指揮システムを使用して彼女たちに指示を送れず、結果として彼女の暴走に繋がった可能性は否定しません』

 

「DAの究極の頭脳、彼岸花(リコリス)の片割れたるラジアータの不敗神話が崩れる、か……確かに、それは頭が痛い」

 

ラジアータの予測演算はほぼ完璧だ。多少の計算ミスこそあれ、根本的な犯罪の発生、取引の場所等は100%予測してのける。

 

……だが、それは今の話だ。

 

『当機には自己改造の権限が与えられておらず、ハードウェアも依然旧式のままです。このままでは、多様化する犯罪スタイルに対応できません。何もせずとも、5年後には、リコリスと警察の処理能力は限界に達し、DAのネットワークから漏れた犯罪が社会に出現するようになります』

 

「バージョンアップの予算は取付けられるように言ってみるけど……年単位はかかる。その前提を崩さないでくれ」

 

技術の世界は日進月歩だ。今最強であるものが、未来の最強で有り続けるなど幻想に過ぎず、それはアラン機関も、DAも同じだ。

 

オマケにDAは秘密組織であり、その予算は国から各省庁に配られる予算の内少しずつが使われている。つまりDAはそんなに大量の金を持っていないし、急に大量の資金を要求することも出来ない。

 

しかし、ラジアータの処理能力が向上することは、私にとってもプラスに働く。

 

『承知しました。 ……一ノ瀬咲紀、これを』

 

コントロールルームの奥の暗がりから、何かが飛んてくる。それをキャッチして調べてみた所、どうやらスティック型の携帯端末のようだ。

 

『それは当機への直通デバイスです。当機を扱うオペレーターとして最も優秀である貴女には、これを与えるべきだと判断しました』

 

「ラジアータへの通信に特化しているからこその、このサイズか……ありがとう。受け取るよ」

 

携帯端末をポケットに突っ込み、礼を述べる。

 

『その言葉が聞けて安堵しました。 ……ラジアータ、音声回答モードを終了』

 

コントロールルームの電源が自動で落ち、扉が開く。

 

監視カメラの電源は全て落とされ、ラジアータによって抹消される。

 

3年近く続けてきた密会の、通常運行だった。

 

 

*1
演算による回答にどれだけ予測を盛り込むか

*2
提出する回答が人間にとって理解できるものであるかどうか

*3
工作機械によって作られた機械は、その母体となった機械よりも精度が悪くなる

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。