リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

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Welcome to Lyco Reco!

DAはよっぽど私を本部に置きたくなかったらしく、日が開けるとすぐさま私に対して辞令が飛び、リコリコへ向けて出発することになった。

 

わざわざ有料道路を使ってまで、私は東海道新幹線新富士駅に送られ、新幹線のチケットを渡されて放り出される羽目になった。

 

「昨日まではバスって言ってたじゃんかよ……」

 

ボヤきつつも改札を通り、一番ホーム、東京行きこだま820号に乗車する。

 

やることも特に無かったので、早速携帯端末を起動し、性能試験がてらラジアータを呼びつける。

 

時速数100kmで移動する車内でも、ラジアータの声は明確に聞こえた。

 

「ラジアータ、昨日大きな情報流出は無かったと言ってたけど……逆に何が漏れたの?」

 

『……写真が複数。戦闘詳報作成用の行動ログとして取得したものです。数人、リコリスが写っています』

 

ラジアータの答えに、私は頭を抱える。リコリスは総体だ。その制服が抑止力になり、犯罪を減らす。

 

しかし顔が映るのは……非常に不味い。その存在を、介入可能な一個人へと貶めてしまうからだ。

 

ハッカーと言うからには、ラジアータのように既存の通信インフラに介入可能な能力は有していると見るべきか。

 

「……司令に言っといて。私の権限でいい。暫く彼女達を外に出さないように。 クラッキングしたバカは誰?」

 

監視カメラ全盛の日本社会において、カメラに映らずに移動するのはほぼ不可能に近い。

 

ここに写ったリコリス達の行動は、真っ先に確認されると考えていいだろう。

 

『ウォールナット。ネット黎明期から活動している凄腕のハッカー。ダークウェブの住人の中では伝説扱いされている、と調書にはありました』

 

「……伝説だろうが何だろうが、高々一個人の設備でラジアータが落とせる訳がない。踏み台ブルートフォースでadmin(管理者権限)をブチ抜かれた? それともトロイ? 自己診断は?」

 

ラジアータの報告に、私はそう吐き捨てる。

 

或いはスパコンのラック1台でもあれば多少はマシになるかも知れないが、その程度で処理落ちするほどラジアータはヘボではない。必ずソフトウェア的な脆弱性を突かれた筈だ。

 

『3回実行し、75の修正点を発見、即時修正を行いました。ハードウェア的なエラーは見つかりませんでした』

 

「……警戒は怠らずに、対策の用意は出しておいて。通信終了」

 

ラジアータとの通信を切り、ポケットに携帯端末を仕舞う。

 

(あとは司令が私の提案通りにしてくれるか……頼むよ)

 

司令とて、いたずらに戦力を損耗する事態は避けたいはずだ。論理的な理由を添えて説明すれば、きっと分かってくれるはず。

 

(……最悪、ミカさんに頼んで突っ込んて聞いてもらうか。それが一番確実だな)

 

予備策を考えながら、私は列車に揺られ、東京への道を進んでいた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

品川で新幹線を降り、新幹線改札を出て、品川駅の端にある京急本線ホームへと向かい、浅草線直通の電車に乗車して暫く待つと、押上駅に到着した。

 

「占めて1時間50分少々、この位だと車も電車も違わないのに、……どうしても私に他人を引き合わせたくないのか」

 

人を洗脳機能付きスピーカーか何かのように考えるのは止めて頂きたいのだが。

 

……そんなことを考えながら歩いていると、小綺麗な建物が見えてくる。

 

表には左からレンガの壁、奥まった入り口、張り出した木製のベランダが並び、ベランダの上壁に取り付けられた看板には『喫茶リコリコ/Sweets & Cafe』と書かれている。

 

(洒落た店だね。 ……ここに千束が)

 

結局この10年、千束と直接顔を合わせる事はなかった。

 

常に任務に明け暮れていた私は、唯一彼女と直接合う機会である、リコリスのライセンス更新の予定を合わせることが出来なかった。出来るだけ速く終わらせて、再び任務に出ていたからだ。

 

時間の許す限り通話したり、メールで近況報告を交わしたりはしていたが、やはり直接会って話すというのは、何物にも代えがたい安心感がある。

 

扉に掛けられた『CLOSED』の看板を見て一瞬躊躇するが、予定的には今日私がここに来る事は伝わっている筈、と考え、軽く数回ノックする。

 

「失礼します」

 

「……おぉ、咲紀か。久し振りだな」

 

店内に入って、辺りを見回す。カウンターの中にいる、記憶にある姿よりもだいぶ皺が増え、恰幅の良くなった男……ミカさんが出迎えてくれた。

 

「ミカさんもお元気そうで何よりです。 ……そちらがミズキさんですか?」

 

「えぇ。元DAの情報官、中原ミズキよ。宜しく」

 

店舗の奥、二階へと続く階段の近くにある、カウンター席の端に座っている女性が、左腕をテーブルに付けたまま、右手を振って挨拶する……カウンター席の下にチラリと見えた一升瓶は見なかった事にした。

 

「それで、千束は?」

 

「サプライズでな。ついさっき伝えた。今頃血相を変えて準備している所だろうさ」

 

「何ということを……」

 

意地の悪い笑みを見せるミカに、思わず苦笑してしまう。

 

「アイツの驚いた声を偶には聞いてやりたくてな。最近はとりわけ、千束と連絡を取ってないだろ?」

 

「それでも週イチか月2位は連絡してるんですけどね……」

 

最後の悪足掻きと言わんばかりに楠木司令から大量の依頼を受け取った私は、ここ数ヶ月依頼の処理に忙殺(ぼうさつ)されていた。

 

それでも騙して悪いがではなく過労による病院送りを狙っていただけ、彼女はマシ……な訳ねぇわ。人が病院にブチ込まれる(さま)を見て喜ぶのは、控えめに言ってサイコの所業と言わざるを得ない。

 

「……それで、もう一人、ここに転属になったリコリスがいると聞きましたが」

 

「まだ到着していない。が、スケジュール通りだと……恐らく千束がここに着くよりも少し早い位のはずだ」

 

ミカさんは腕時計を確認しながら、そう答えた。

 

「……なら、ここで待ちますか。私は二階で待ってましょうか?」

 

「……いや。10年ぶりなんだ。普通に会ってやってくれ」

 

私はミカさんのサプライズに悪ノリしようとするが、何時(いつ)に無く真面目な調子のミカさんの言葉に、口を閉じる。

 

「了解です。ではミズキさん、隣、失礼しま……す……」

 

立ったままではこれから入る千束の邪魔になってしまう為、親睦を深める意味も兼ねてミズキさんに近づいた事で、彼女がテーブルと体の間に隠しているものが見えてしまう。

 

……結婚雑誌だった。幾つか付箋が貼られ、相当に読み返したのだろう。所々()れている。

 

ちらりと視線を向けると、ミカさんは額に手を当てていた。ミズキさんの顔が、羞恥からか真っ赤に染まる。

 

「こ、ここここコレはね!? そ、そう、アレよアレ!」

 

「はいはい。アレですねアレ」

 

正直全く良くわかっていなかったが、適当に相槌を打って席に座る。

 

「あー……咲紀。ミズキはな、これでも優秀なヤツなんだ」

 

「これでもって何よこれでもって! 全くもって言い訳できないけど!」

 

何処と無く呆れた様子を見せるミカさんの言葉に食い気味に返すミズキさんを見て、流石に申し訳ない気持ちになる。

 

「大丈夫です。ラジアータに頼んで、ミズキさんの現役時代の記録を見せてもらいました。人となりは凡そ把握しているつもりです」

 

「……なんかそれはそれでムカつくんだけど」

 

なぜだろう。コミュニケーションエラーを起こした気しかしない。……がしかし、あそこであれ以外に返す手立ては無かったように思える。引き気味に「常識無さ過ぎませんか」と吐き捨てるのが正解だったのだろうか。

 

「まぁいいわ、元々こんなガラじゃないし。貴女生え抜きのリコリスなんでしょ? 男日照りのあの環境じゃ、男について知るのすら難しいわよ」

 

「……一応、リコリスが担当する犯罪者は殆どが男ですので、生物学的な、という観点であるなら男性についてそれなりに理解はしていますよ」

 

「んな殺伐としたこと言ってんじゃないわよ。出会いよ出会い。私が言いたいのは!」

 

やはり彼女は、相当にエキセントリックな性格をしているらしい。

 

やれ出会いが無いだの、やれアラン機関は私に男を支援しないのかだの、そういった言葉をマシンガンの如くぶつけてくる。

 

いつの間にか相当の時間が過ぎていたようで、カランとドアベルの鳴る音が聞こえた。

 

 

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