リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話 作:Shohei Hayase
イカれた組織
平和とはなんだろうか?
事件が起きないこと。事故が起きないこと。沢山人が死なないこと。
それらは平和を構成する一要素だが、本質ではない。
真の平和とは、
それを実行する組織、DAのエージェント、リコリス。
かくいう私もその一人だ。
すこし、他の人と違うのは……
私には、前世の記憶があることぐらいだろうか。
◇◆◇◆◇◆
我が前世は、取り立ててなんの変哲もない学生……だったと思う。
性別も記憶も曖昧だが、けして優秀な人生を歩んできたわけでもない。
だが逆に、社会の最底辺で生き足掻いてきたかと問われると、そうでもない。
そういう意味では、平均値、という表現がしっくり来るだろう。
ちなみに前世、と呼称しているが、特に確証あってのものではない。
私が私として自我を確立する前に、その記憶が連続している。私の夢かもしれないし、あるいは妄想かもしれない。
現実にしてはぼやけ過ぎだし、夢や妄想と断じるには実感がありすぎる。
……とは言え、私は齢3つにして成人とさして変わらない自我を確立し、ある組織に拾われた。
拾われたというか、買われたというか……
犯罪を未然に抑止し、日本国内の治安を維持する秘密組織、Direct Attack、略称DA。
その構成員であり、実働部隊員であるリコリスは、全国の孤児を集めて養成することで充当される。
……さてここで問題です。
多大な能力が求められる秘密組織、知られたらその相手は基本的に殺される。リコリスはその任務上損耗率も高い。孤児を大量に育成しても、リコリスになれるのはほんの一握り。
では、リコリスになれなかったものは?
想像するだに恐ろしい結果しか待っていないことは容易に想像がつく。
正直講習でその説明を受けた時、私は死を覚悟した。
いやだって、前世(と言っていいのかはわからないが)もただの一般人で、特別な能力なんて何も持ってないし、ましてや他人を殺すなんて無理。
つーか超法規的措置発行しすぎでしょ。政府はどうなってんだ政府は。
シビュラのある街も真っ青なディストピア振りだな、と、今生で見たことも聞いたこともないサブカルチャー作品の名前が脳裏を過ぎった。
◇◆◇◆◇◆
「ふぅ……」
アイソセレススタンスで訓練標的を撃ち抜き、空のマガジンを抜いてチャンバーチェックをする。
射撃弾数15発を撃ち込み、頭に5発、心臓に5発、あとは適当に撃って命中精度精度8割少々。総合評価C+ランク。
可もなく不可もなく、少し悪いくらいの成績だ。
DA本部内の射撃訓練場はとても広く、私と同じ班に割り当てられたリコリス訓練生は揃って訓練をしていた。
DA本部はレベルがとんでもなく高く、訓練生でもC+が最低条件、B-でまぁまぁとかいう話だ。
みんな殺しに躊躇いがなさすぎて笑うしかない。
……というか、隣にヤバい奴がいる。
15発全弾ヘッショ、総合評価A+ランク。
……錦木千束。訓練生ながらも歴代最強のリコリスと目される期待のホープ。
何でもアラン機関とかいう組織から直接DAに送られたらしい。
アラン・アダムズ──なんかプラモがファイターする作品に似たような人物がいた気がするが──なる人間が設立し、あらゆる分野の『天才』を探し出し、支援を行う……ここに来たという事は、彼女は『殺しの天才』という事か。
彼女の容姿は周りの目を引く。しかしいずれ菖蒲か杜若だろうかという顔はピクリとも動かず、ただ単調に引き金を引き、訓練標的の頭だけを貫いていた。
(ここに来て3年、6歳か……紛争地帯の少年兵も真っ青だぜ。5歳で銃撃ってるんだぞ)
つくづくイカれた場所だ、と我ながら思う。
言語習得の臨界期をちょっと過ぎた3歳から専門教育を叩き込み、大体の体ができた5歳から銃を握らせて実弾で射撃訓練。
唯一車の運転はある程度成長しないと物理的にアクセルペダルを踏めない為に後から学ぶが、逆に言えばそれ以外はすべて叩き込まれる。
てかコレ無免許運転じゃん。DAマジで何なの。
「……ねぇ君」
「ん?」
悶々とした気持ちを抑えられずにいると、隣の少女に話掛けられる。
「なんでちゃんと撃たないの?」
少女の舌っ足らずな指摘に、なぜだか冷や汗が背筋を伝う。
「あーいや、ははは……なんでだろうねぇ、よく分かんないや」
それを掻き消すように大仰にはぐらかし、私は足早に訓練場をあとにした。
(いや怖っ、こーわっ!)
今日初めて彼女の隣に立って、数回標的を撃つのを見ただけでそこまで気付かれるのは、正直想定外だった。
彼女とこのまま一緒にいると、私の完璧な人生プランが崩れてしまう。
しかし私はリコリスとしてギリギリ落第の立場にいる。これ以上成績を落とすと不適格と判断されて抹消されかねない。
かといって上に上がるのも得策だとは思えない。アラン機関やDA上層部に私の能力を知られては困るからだ。
そして迎えた翌日。
『では、ツーマンセルの模擬戦を行う』
訓練官がそう言い放つ。薄々嫌な予感を感じつつ、表示された対戦表は……私と千束は別のチームで一回戦から対戦だった。
ははは、ざけんな。