リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

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How to teach her need to done ethical

「たきなは見学。私と千束で対処する」

 

「了解!」

 

「……了解です」

 

元気に返事をする千束と、消沈した様子のたきなをそれぞれ見て、戦況を頭に思い描く。

 

ライトバンに四人乗車、おそらく全員が銃を所持。小銃ではなく拳銃、人質は袋を被されて視界0、移動不能として判定。バンの左には壁、右には公園。流れ弾は危険。初活力的にコンクリートブロックは抜ける。

 

「作戦目標は敵の無力化及び人質の救出。敵と近接して一気に制圧する。行動は20秒以内に完了し、人質の安全に細心の注意を払うこと。敵の弾はなるべくアスファルトに。壁と公園には気を付けて」

 

「ラジャー」

 

93Rに非殺傷弾を装填してスライドを引き、いざ突入というところで千束が待ったをかけた。

 

「咲紀、合流する前に見えたけど、ドローンがいる。七時の方向」

 

「例のハッカーか、どこぞのバカか……しょうがないけどブッ壊れてもらおう」

 

93Rを仕舞って左のショルダーホルスターからスクエアを取り出し、スライドを引く。

 

「デザートイーグル・スクエア……」

 

「おや、ご存知?」

 

「それを抜かせられなかったのが私の心残りだ……と、フキさんが」

 

この銃は千束にもたきなにも見せたことは無いのだが……何で名前知ってるの?

 

スクエアは基本任務中に抜くことはない。使用している弾が強力過ぎて、一発当たるだけでも重症が確実だからだ。

 

訓練弾でもそれは同様で、9パラを使う93Rを専ら使用することが多い。

 

……というかスクエアに搭載している機構が複雑過ぎて複数回の連続使用に堪えないのが悪い。ラジアータに設計を手伝ってもらったとはいえ、整備性が悪すぎると装備局の人達が嘆いていた。

 

(超深部演算(テイレシアス)二重(デュアル)/拡張(エクステンション)+内観(リフレクション))

 

視覚を使わず、ローターの風切り音をエクステンションで捉え、精密動作を身体に強制させるリフレクションで強引に体を固定する。

 

「見つけた」

 

()()()()()をセミオートにし、スクエアを片手で支えて腕だけを後ろに向け、トリガーを引く。

 

爆音を立てて.44マグナム弾が飛翔し、少し遅れて何かに当たった音がした。

 

千束がバンに向けて飛び出し、私はリフレクションをイグニッションと換装して後に続く。

 

走りながらスクエアをホルスターに戻して93Rを抜き、セレクターをバーストに変更。

 

(ドア盾にしてるのが一人、バンの後ろに二人……)

 

私は千束を追い抜いて一気に跳躍し、ライトバンの天井に手を着いてハンドスプリングを掛けつつ飛び越す。

 

着地した直後に金髪の男に向けてトリガーを引き絞り、2発だけ当ててバースト中の93Rを強引に制御して最後の一発を灰髪の男に当てる。

 

セミオートに戻して灰髪にもう一発撃ち込んで無力化し、ポケットからワイヤー銃を取り出して拘束。

 

「ブラボー、グリーン」

 

敵手の無力化を伝達すると、助手席から赤髪の男が吹っ飛ばされ、それに遅れて「アルファ、グリーン」という千束の声が聞こえた。

 

一応赤髪の男を確認すると、頭に痣を作って気絶していた。

 

「ドア越しは威力出ないよ?」

 

「知ってる。ちょっと時間気にし過ぎた」

 

5発の弾痕が残る助手席のドアを見て千束に問いかけると、彼女は舌をちらりと見せて合掌した。

 

「非殺傷弾は胆力次第で普通に動けるからね*1。やっぱり一発は急所(バイタル)に撃ち込まないと駄目だよ」

 

「コレでそんな照準精度を出せるのは咲紀位だって」

 

後部座席で横倒しにされていた沙保里さんを、袋の縄を切って開放する。

 

「咲紀ちゃ〜ん!!」

 

「わっ……もう大丈夫ですよ、沙保里さん」

 

思いっきり飛びついてくる沙保里さんをしっかりと抱き返し、背中を擦る。

 

千束がクリーナーを呼び出しているのを見ていると、横からたきなの足音が聞こえた。

 

「……今のは、傲慢って言わないんですか」

 

()()()()()()()()()の差は大きい。如何なる状況でも、不利で、瀕死でも、それが可能であることを「できる」と言う。どんなに最悪な場面でもそれを実行できれば、私は問題にしないさ」

 

「できるだろう」はある種の心の余裕でもある。通常なら問題にもしないような小さな余裕は、戦場では自分や味方の死という形で降り掛かる。

 

自分の能力を客観的かつ悲観的に評価して、それでも「できる」と胸を張って言えるのならば、それでよし。

 

「人一人で出来ることは限られている。一度人質を捕獲された状態で、沙保里さんを傷付けずに、車内にいる敵手四人を無力化する。殺害を良しとしても、敵味方の跳弾もある。激発した敵手が沙保里さんを殺すことも考えられる……その状況で、沙保里さんに弾を当てないと、誰が保証できる?」

 

他に上げるのであれば、沙保里さんは横倒しにされていて上半身はフロントガラスから見えず、銃が向けられているかどうかの判断がつかない。

ついでに沙保里さんが真っ先に殺されないという保証すらない。

 

「たとえ自分が当てなくても、敵が沙保里さんを撃つ可能性だって考えられる。沙保里さんが殺されてしまったらダメなんだ」

 

たとえ殺されなくても、銃撃を沙保里さんに当ててしまったら、それは一生消えない傷となって彼女の心に刻み込まれる。殺されない、はあくまでも最低目標に過ぎない。

 

たきなは不満気な表情を浮かべたままだったが、言葉を荒らげようとはしなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

手早く後始末をクリーナーに任せて私達は撤収し、沙保里さんを家まで送り届けると、もうとっくに深夜になっていた。

 

端末が震え、千束とたきなから離れて通信を受ける。

 

『高層ビルの一室で爆発が発生しました。事前予測不能の新規状況アサインです』

 

「楠木司令に連絡、リコリスを派遣して、内部調査。電子技能を持っている人を優先。それと全インフラの優先権を用いて監視カメラ網を精査。 ……いや、無線でも距離が遠すぎる。時限なら追うのは不可能……それでも良いか。パケット無線の可能性も考慮して通信も洗ってくれ」

 

一般的なトランシーバーであれば500mがMAXだが、免許ありの業務用無線機であれば10キロ近く離れていても通信ができる。これでは適切な条件で絞り込めない。

 

多少の仕事量増加は必要経費と割り切り、ラジアータに総当りの調査を命じる。

 

「捜索半径は10……いや、8キロ圏内を指定、爆発と同時刻に動作を行った人間から、犯罪プロファイルを作って犯罪係数40未満の人間を落とせ。プロファイル無しの人間も追加捜査対象に含めてリスト形式で提出、音声回答で詰める」

 

(少なくとも明日(あす)明後日(あさって)までは持つと思っていたが……動きが早い。新規状況アサインってことは、何の予兆もなく唐突に発生した未知の事件だ。逆にウォールナット絡みの事件じゃない方が不自然ですらある)

 

……そこで、ある一つの想像が頭を過る。

 

「ラジアータ、爆発が発生した時刻は?」

 

『つい5分前です』

 

私達が戦闘して、クリーナーを呼んで、撤収して……あのドローンを撃ち落としてから、およそ30分。

 

「偶然か……?」

 

ウォールナットは、依頼人に会って、データを見せて、話して……爆破された。想像の産物が、奇妙に頭の中で絡みつくような感覚がして……私はそれを頭を振って振り払った。

 

「詳細は……明日の出勤前に、私のスマホに」

 

端末をポケットに仕舞って、私は二人の元に戻る。

 

たきなは一礼してくるりと背を向け、スタスタと去っていった。

 

流れ解散かと私も帰ろうとすると、後ろから千束に肩をがっしりと掴まれる。

 

「え、ちょ、千束??」

 

「咲紀、待って」

 

「……待っても何も、もはや拘束されてるんだけど」

 

肩に力らしい力が掛かっている訳でも無いのに、千束から放たれる言語化出来ない『圧』が、私を地面に縫い付ける。

 

「何処行くの」

 

「部屋だよ部屋。私の」

 

DA本部から提供された、こじんまりとしたマンションの一室が、今の私の城だ。

 

既に荷物の搬入も済んでいる為、私としては早く帰って荷解きをしたい気分だったのだが……

 

「おーい、千束? ねぇ? 聞いてる??」

 

ずりずり、ずりずりと、引っ張るようにして千束は私を何処かへ連れて行く。確実に私の家の方向とは違う、と気付いたのはすぐだったが、私が身じろぎをする度に視線を向ける千束の前では、蛇に睨まれた蛙の如く縮こまるしか無かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……ここどこ」

 

「私の家、上がって?」

 

「いやいやいや」

 

千束は玄関の鍵を差し込み、くるりと回す。

 

私が両手をブンブン振って拒否するのも構わず、手首をむんずと掴んで私をドアの内側に引っ張り込む。

 

「咲紀だってリコリス寮で二人部屋だったでしょ?」

 

「そりゃそうだけど……」

 

千束ももう(よわい)17のうら若き乙女だ。少なくとも私は自分にそのような形容詞をつけるつもりは毛頭ないが、互いのプライベートにあまり干渉しないことは、他人との折り合いをつける上で必須だ。

 

そもそも私はずっと任務に出ずっぱりで、週に一度寮のベッドで寝られればマシな方だったからな。大体はリコリスの移動用バスで車中泊だ。

 

一番酷いのは……うん。あまり思い出したくは無い。文明と隔絶された環境で完全野外生活は辛かったと言っておこう。目が覚めたら体の上を這い回るケケケケケケ……

 

「うぷ……」

 

「さ、咲紀……?」

 

当時の記憶がフラッシュバックして吐き気を催した私を心配そうに見つめる千束に、手を振って問題ないと示す。

 

「私と暮らすの、嫌なの?」

 

「嫌じゃないさ、当然……ただ、急ではある」

 

私の返答に、何故か千束は頬を膨らませた。

 

「約束」

 

「……そういえば、そんな事もあったね」

 

千束に言われてようやく思い出した私は、手を広げて待つ千束の方へ一歩踏み出す。

 

「ちょいちょいちょい?」

 

互いの顔しか見えないような距離まで近づくと、千束は赤面して視線を逸らした。

 

(……綺麗)

 

輝かんばかりの白皙(はくせき)は紅潮したことによって仄かに赤みを増し、近付いたことによって聴こえる千束の呼吸音とも相まって、私の僅かばかりの悪戯心が鎌首をもたげる。

 

僅かに傾いた頬に、そっと口付け、そのまま密着する。

 

私とは全く違う、服越しでもわかる柔らかな肌は、やはり彼女が年頃の女性なのだということを教えてくれる。

 

「……恥ずかしくて死にそう」

 

「約束は約束だし、10年前は千束からやったんだよ?」

 

口元に手を当てて斜め下を向く千束に、口端を吊り上げながら返答する。

 

本来なら、キスではなく、別のものでも良かったはずなのだ。それを何故か彼女はああしたのだが……

 

「ね、咲紀」

 

「ん?」

 

「髪、白くなったね」

 

そう言って、千束は私の髪を撫でる。

 

「……そうだね。いつの間にかこうなってた」

 

人体の限界を越えた運動を可能にする超深部演算(テイレシアス)点火(イグニッション)は、それを達成するために「火事場の馬鹿力」を意図的に引き出す必要がある。

 

これは「戦うか逃げるか反応」の副産物とも言える能力であり、それを引き起こすには強いストレスを精神に掛ける必要がある。

 

意図的に戦うか逃げるか反応を使い続け、常人の何十倍ものストレスに晒された結果、私の髪は極端に白くなってしまった。

 

一年くらい前までは黒い髪もまだ少し生えていて、その時に戦っていた敵対勢力が私に付けたコードネームが「銀灰(シルバーグレイ)」なのだ。

 

「やっぱり咲紀、私と暮らさない?」

 

ストレスによって細くなった髪を掬いながら、千束は真剣な面持ちで提案する。

 

人肌恋しいか、と問われれば是、と返すし、同居する必要があるか、と問われれば否、と返す。

 

……まぁ、今更他人に見られて困るものなど余りない。千束も、互いのプライベートには然程(さほど)干渉してこないだろう。

 

「わかったよ、千束」

 

私がそう伝えると、千束はにっこりと笑った。

 

夜だというのに、何故か二人でソファに座って、蛍光灯を眺める。

 

「たきなにも、それくらい穏やかにしてくれればいいのに」

 

玄関から移動してから数分経って、唐突に、千束は彼女の名前を出した。

 

「たきなが可哀想だよ、あれじゃあ」

 

顔の方向は変えぬまま、視線だけ私に向ける。

 

「……リコリスのチームは運命共同体だ。誰かが暴走すれば、それはチームの崩壊に繋がる。普段は問題ないとしても、咄嗟(とっさ)の、不測の事態に対応できない可能性は残る。彼女のミスで、彼女か、私か……千束が死ぬとしたら……私はそのリスクを許容できない」

 

私は天井に視線を向けたまま、淡々と答えた。

 

「咲紀の悪い癖だぞ、そゆところ」

 

「……癖、か」

 

「意識が浮いて、他人を見てない。もっと目の前の「()」を見てあげて。たきなは、物じゃないよ」

 

(そうは言われても……私のスタイルは、ずっとこれだったからな)

 

千束と別れて10年、私は自らの目的を達成するために、取りうる手段を可能な限りマニュアル化し、私情を排することに尽力した。

 

徹底した功利で判断し、目標を達成するために最も効率的な手段を迅速に実行する。

 

……それが大人だろうか。

 

前世から数えて、そろそろ40に近くなってきたが、これはただ、心を固めて閉ざしているのと、何が違うのだろうか。

 

千束のスタイルの──他人を人として扱い、信じて見守る──方が、余程大人らしくはなかろうか。

 

親子ほどの年の差は、離別して、再開する中でも変わっていないが……やはり人は、老いる物なのだろう。

 

「10年で……人は変わるんだなぁ」

 

口を衝いて出た言葉に、千束は胡乱げな目を向けた。

 

「ジジくさいよ、それ」

 

「……(まった)くだ」

 

*1
非殺傷弾は「死ぬほど痛い」が、無論本当に死ぬわけではない。痛みへの耐性とアドレナリンの分泌量次第では普通に動ける。これは現実の拳銃でも同様で、9mm弾を数発撃ち込まれても動き続けた人間も存在する。

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